(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物または有機性廃水は水処理分野においてメタン発酵により処理され、メタンガスを主成分とするバイオガスが発生する。バイオガスはメタン発酵の方法によって濃度は異なるものの、主成分としてメタンを65〜85%、二酸化炭素を15〜35%、硫化水素を1000〜6000ppm程度含んでいる。発生したバイオガス中のメタンはボイラーの燃料として利用が可能であり、ボイラーから発生した蒸気は加温設備にて有効利用できる。また、バイオガスはガスエンジンの燃料となり、発電も可能である。
【0003】
バイオガス中に含まれる硫化水素は、燃焼の際に亜硫酸ガス(SO
2)に酸化され、発生する亜硫酸ガスは水分に溶解すると硫酸となり、大気中に放出されると酸性雨の原因となるだけでなく、燃焼ガスが施設内で冷却されると凝縮した水分によって硫酸となり、腐食などの問題を生じさせる。
そのため、バイオガスを利用するためには、硫化水素を除去することが重要な課題となっている。
【0004】
また、硫化水素は下水処理施設や酪農施設などの事業場から発生する臭気(悪臭)にも含まれる。硫黄系臭気のなかには、硫化水素のほかにメチルメルカプタンや硫化メチル、二硫化メチルといった含硫黄化合物がある。これらの物質はいずれも特定悪臭物質に指定されている。とくに、硫化水素は特定の濃度以上を含有する場合は毒性を呈する物質である。
工場その他の事業場における事業活動に伴って発生する臭気は、悪臭防止法に基づき適切に処理される必要がある。
【0005】
バイオガスや臭気などの硫化水素含有ガス中の硫化水素除去方法には、乾式脱硫方法があり、酸化鉄を主成分としたペレット状の脱硫剤を用いて硫化水素を除去する。乾式脱硫方法においては、硫化水素は、酸化鉄と化学的に反応するため、脱硫剤の硫化水素の除去量は、酸化鉄の存在量に概ね比例する。脱硫剤の硫化水素除去反応に関与する酸化鉄がなくなると除去性能は低下し、新しい脱硫剤に交換する必要がある。
【0006】
他の脱硫方法には、本発明のように微生物を利用した生物学的脱硫方法がある。生物学的脱硫方法では特に硫黄酸化細菌の活性維持と生物学的に硫化水素を酸化させるためには酸素が必要である。バイオガスには酸素が含まれていないため、バイオガスに酸素含有気体を供給してバイオガス中の硫化水素を生物学的に酸化する。臭気除去において硫化水素などは酸素含有率の高い大気中に存在しているため酸素含有気体の供給は不要である。次に微生物による硫化水素を除去メカニズムについて説明する。
【0007】
バイオガスに酸素含有気体を供給して、硫化水素を微生物により以下の(式1)(式2)に示す反応経路で硫黄(S)または硫酸(H
2SO
4)を生成させて除去する。(式1)(式2)に関与する微生物は、充填材表面に付着したり浮遊することが可能であり、硫黄酸化細菌である好気性菌が自然界に多く存在する。微生物が関与するために、温度や水分は微生物の生存環境として必須である。
【0008】
H
2S + 1/2O
2 → S + H
2O (式1)
S + 3/2O
2 + H
2O → H
2SO
4 (式2)
【0009】
(式1)は硫化水素が硫黄酸化細菌により、単体硫黄(S)を生成する反応である。酸素が硫化水素の1/2molを超える場合には、硫黄酸化細菌によってさらに(式2)の反応を行い、硫酸(H
2SO
4)が生成する。硫化水素がすべて硫酸(H
2SO
4)に転換するには、硫黄酸化細菌の存在下で、理論的には酸素が硫化水素の2mol以上必要となる。
【0010】
バイオガスを燃焼ガスとして利用するためには脱硫を含む精製が必要である。脱硫は、硫化水素含有ガス中の硫化水素を除去して有効活用するために用いられる技術である。
従来の生物学的脱硫方法は、生物脱硫方式で処理したのちに乾式脱硫方式にて硫化水素を完全に処理するのが一般的である。
【0011】
生物脱硫技術と乾式脱硫技術の併用した複合型脱硫技術の一例として特許文献1がある。特許文献1では、生物脱硫技術で処理できなかったバイオガス中の硫化水素を乾式脱硫技術で完全除去したのちバイオガスを有効利用することを目的としている。
【0012】
特許文献1のシステムでは、生物脱硫装置で硫化水素含有ガスから硫化水素を概ね除去し、残りの硫化水素は乾式脱硫装置で完全に除去するとしている。
そこで、特許文献1の脱硫システムについて本発明者らが実験を行ってみると、生物脱硫装置が正常に機能している場合には、硫化水素は生物脱硫装置で概ね除去されるため乾式脱硫装置への硫化水素負荷量は減少し、脱硫剤の交換頻度は軽減されることが確認できた。
【0013】
しかし、この脱硫システムでは立上げ時は硫化水素を処理する菌数が少なく、硫化水素負荷量を慎重に管理し徐々に菌数を増殖させる必要があり、生物脱硫装置での正常な機能に達すのに長期間を要する問題点があることがわかった。
更に、特許文献1の脱硫システムでは生物脱硫装置内で高濃度硫化水素を硫黄として処理される。このため、生物脱硫装置では処理が進むと硫黄が析出して閉塞に至ることもあった。
このため、脱硫剤の交換頻度を軽減させるためには生物脱硫装置で多くの硫化水素が除去できることに加え、生物脱硫装置での硫黄の析出を抑制し安定して処理することが重要であることがわかった。
【0014】
特許文献2では、生物脱硫装置で処理したガスの一部を生物脱硫装置の流入側に循環させることで希釈効果を利用し、装置への流入ガス中の硫化水素濃度を調整する技術が開示されている。
特許文献2の脱硫システムでは高負荷で硫化水素を処理できるほか、硫化水素を硫酸に転換することで装置内に硫黄を析出させず洗浄工程が削減できるとしている。
しかし特許文献2は、特許文献1と同様に、立上げ時には硫化水素負荷量を慎重に管理して徐々に菌数を増殖させる必要があり、生物脱硫装置での正常な機能に達すのに長期間を要する。
更に、立上げ期間のように処理ガス中に未処理の硫化水素が多く含まれる場合には、処理ガスの一部を生物脱硫装置に循環させると、循環ガスで供給される硫化水素の処理負荷が追加され、生物脱硫装置での処理が不安定となる問題もある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、上述した従来の脱硫システムの問題点を解決し、安定した脱硫処理を達成することを目的とする。
【0023】
ここで、後述するガスの名称について、次のように定義する。
・硫化水素含有ガス: ガス中に硫化水素を含有するガスのことである。
・バイオガス: メタン発酵によって発生したガスのことで、酸素は含有していない。
・酸素含有気体: 酸素を含む気体のことである。
・生物脱硫塔処理ガス: 生物脱硫塔を通過したガスのことである。
・乾式脱硫塔処理ガス: 乾式脱硫塔を通過したガスのことである。
・循環ガス: 生物脱硫塔処理ガスの一部または乾式脱硫塔処理ガスの一部が循環ガスラインを通って再び生物脱硫塔に流入するガスのことである。生物脱硫塔処理ガスを循環する場合には、当該ガスを「バイパスガス」ともいう。
・処理ガス: 乾式脱硫塔を通って系外へ排出されるガスのことである。
・混合ガス: 硫化水素含有ガスと酸素含有気体と循環ガスが混合したガスのことである。
【0024】
1日あたりの硫化水素負荷量の算出量を(式3)に示す。
硫化水素負荷量[kg/day]=
(混合ガス硫化水素濃度[ppm]×10
−6×(硫化水素含有ガス量[m
3/day]+循環ガス量[m
3/day]))×K (式3)
【0025】
(式3)のKは温度をパラメータとした補正係数であり、ここで塔内温度が30℃の時の補正係数Kの算出例を(式4)に示す。
補正係数K[kg/m
3]=(273[K]/(273+30)[K])/22.4[m
3/kmol]×34[kg/kmol] (式4)
【0026】
硫化水素除去率を以下の(式5)に示す。
硫化水素除去率[%]=
(硫化水素含有ガスの硫化水素濃度[ppm]−生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度[ppm])/硫化水素含有ガスの硫化水素濃度[ppm]×100 (式5)
【0027】
本発明者は、本発明の生物脱硫と乾式脱硫を併用した脱硫システムを用いて、長期間の硫化水素の高負荷による連続実験を行ない、安定して処理が行なえる方法について検討した。以下、本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0028】
図1は、微生物が付着する充填材を充填した生物脱硫塔と脱硫剤を充填した乾式脱硫塔からなり、乾式脱硫塔処理ガスの一部が生物脱硫塔へ循環される脱硫システムの一例である。
【0029】
図1に示すシステムを詳細に説明すると次のようになる。
硫化水素含有ガス流入ライン2が該生物脱硫塔1の上流側に接続され、該生物脱硫塔1内に微生物が付着する充填材からなる担体充填層1aを設け、生物脱硫塔処理ガスライン7の一方が該生物脱硫塔1の下流側に接続され、該生物脱硫塔処理ガスライン7のもう一方が該乾式脱硫塔8の上流側に接続され、該乾式脱硫塔8内に脱硫剤からなる脱硫剤充填層8aを設け、乾式脱硫塔処理ガスライン9の一方が該乾式脱硫塔8の下流側に接続され、該乾式脱硫塔処理ガスライン9が処理ガスライン10と循環ガスライン11に分岐され、該循環ガスライン11のもう一方が該生物脱硫塔1の上流側に接続される。
【0030】
循環ガスライン11のもう一方は、硫化水素含有ガス流入ライン2に接続されてもよい。
【0031】
生物脱硫塔1について説明する。
生物脱硫塔1には、担体充填層1aに微生物が付着する充填材が充填される。充填材は、pH1以下の強酸性下で使用できるような耐薬品性を有する素材のものであればよく、例えば材質がポリエチレンやポリプロピレン、塩化ビニル、ポリウレタンなどの有機性物質が好ましい。
充填材の形状は、筒状や、網状骨格パイプやボール状やウニ状が好ましい。比表面積は50〜1000m
2/m
3の範囲が好ましい。空隙率は、80〜96%の範囲が好ましい。
【0032】
硫化水素含有ガス流入ライン2には酸素含有気体流入ライン5が直結される。酸素含有気体0bとは酸素を含んでいる気体のことであり、空気または、純酸素または、酸素発生器により酸素濃度を調整したガスを用いてもよい。
酸素含有気体流入ライン5には酸素含有気体量供給手段6が設けてある。酸素含有気体量供給手段6は、ブロワを用いてもよく、ポンプなどを用いてもよい。
【0033】
硫化水素含有ガス流入ライン2にはガス流量計3が設けてある。ガス流量計3は、オリフィス流量計や、容積流量計や、渦流量計や、流速式流量計等を用いることができる。
【0034】
硫化水素含有ガス流入ライン2には硫化水素濃度計4が設けてある。硫化水素濃度計4は、定電位電解式による測定方法、硝酸銀電位差滴定法、イオン電極法、メチレンブルー吸光光度法、ガスクロマトグラフ法等を用いてもよい。また、検知管による硫化水素を測定してもよい。
【0035】
循環ガスライン11には循環ガス供給手段i12aが設けてある。
循環ガス供給手段i12aはブロワを用いてもよく、ポンプなどを用いてもよい。
【0036】
循環液貯留槽1bからの循環液0hは、循環液散水ライン13をとおって生物脱硫塔1の上部からノズル14より散水される。循環液0hの一部は循環液貯留液槽1bからブロー水0iとして間欠的に排出され、循環液中の硫酸濃度を調整するために補給水0jが補給される。補給水0jは活性汚泥を用いてもよく、工水、中水、上水、を用いてもよい。
【0037】
次に、乾式脱硫塔8について説明する。
乾式脱硫塔8の脱硫剤充填層8aには脱硫剤が充填される。
【0038】
脱硫剤は、非特許文献1にも開示されているように、一般的に用いられる脱硫剤のうち、焼成ドロマイトや石灰石、ドロマイト、酸化鉄、酸化銅、酸化銅−酸化鉄の混合物、酸化亜鉛が好ましい。特に、酸化鉄系は破砕鉄鉱石、赤鉄鉱、担体付酸化鉄、ラテライト鉄、が好ましい。
【0039】
次に、本願発明の第2の実施の形態について説明する。この形態の一例を
図2に示す。
生物脱硫塔と乾式脱硫塔の2つの反応塔からなる脱硫システム構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0040】
図2は、本システムの圧力損失の低減と処理の安定化を図るために、バイパスガスライン18の一方が生物脱硫塔処理ガスライン7に接続され、もう一方が循環ガスライン11に接続される脱硫システムの一例である。
【0041】
第2の実施の形態では循環ガス0fとして乾式脱硫塔処理ガス0dの一部と生物脱硫塔処理ガス0cの一部を用いている。これにより生物脱硫塔1で処理できなかった硫化水素が含まれる場合、乾式脱硫塔8の通過ガス量が減少するため脱硫剤の硫化水素負荷量は軽減されるほか、システム全体の圧力損失も軽減される。
【0042】
乾式脱硫塔処理ガスライン9は処理ガスライン10と循環ガスライン11に分岐される。循環ガスライン11には乾式脱硫塔処理ガス量供給調節機構17が設けられ、乾式脱硫塔処理ガス量供給調節機構17の下流側には循環ガス供給手段(B1)12aが設けてある。
【0043】
循環ガス供給手段(B1)12aにより生物脱硫塔処理ガス0cおよび乾式脱硫塔処理ガス0dのガスを吸引し、循環ガス0fとして生物脱硫塔に供給される。生物脱硫塔処理ガス0cは生物脱硫塔処理ガス量供給調節機構19で調節される。乾式脱硫塔処理ガス0dは乾式脱硫塔処理ガス量供給調節機構17で調節され、処理状況によって適宜調節する。具体的には、生物脱硫塔での処理が安定している場合には全循環ガス量のうち生物脱硫塔処理ガス量の割合を増やすように調節する。
【0044】
実験装置の立上げ時や硫化水素含有ガスの硫化水素濃度変動で生物脱硫塔での処理が不安定な場合には、全循環ガス量のうち乾式脱硫塔処理ガス量を増やすように調節する。生物脱硫塔に流入するガス中の硫化水素濃度が700ppm以下に調整した場合に生物脱硫塔内では硫黄は析出せず、微生物は安定して増殖し立上げが短縮化できることを、本発明者らは実験的に確認している。
【0045】
次に、本発明の第3の形態を
図3に示す。
脱硫システム構成は第2の実施の形態と同様であるが、第3の形態ではバイパスガスライン18に設けた生物脱硫塔処理ガス量供給調節機構19の下流側に循環ガス供給手段(B2)12bを設けている。
図4のように、バイパスガスライン18の下流側の接続先は生物脱硫塔1の上流側に接続されてもよい。
【0046】
本発明の第4の形態を
図4に示す。
図4では、第3のバイパスガスライン18の下流側の接続先が生物脱硫塔1の上流側に接続されている。
【実施例1】
【0047】
実施例1では、循環ガスの種類によって脱硫剤の寿命に及ぼす影響を調査した。なお、硫化水素含有ガスはバイオガスを用いた。
実験装置は生物脱硫塔の後段に乾式脱硫塔を接続した脱硫システムとした。
この本願発明では循環ガスとして乾式脱硫塔処理ガスを用いた。
【0048】
実験装置を
図5に示す。
生物脱硫塔寸法は塔内径23cm、担体の充填高さ2m、担体充填容量83Lである。
使用する担体形状は円筒状(φ1.5cm×h1.5cm)、担体材質はポリエチレン製である。
乾式脱硫塔寸法は塔内径23cm、脱硫剤の充填高さ1m、全充填容量41.5Lである。
使用する脱硫剤は酸化鉄が主成分で、形状はペレット状である。
【0049】
硫化水素含有ガスの処理フローについて、硫化水素含有ガスは硫化水素含有ガス流入ラインにて空気と混合し、生物脱硫塔の上流部より流入する。
生物脱硫塔処理ガスは、乾式脱硫塔の充填材の上流側より流入して処理される。
乾式脱硫塔処理ガスの一部は循環ガスラインに設置した循環ガス供給手段iにより生物脱硫塔の上流部に循環され、残りは処理ガスラインを経て系外へ排出される。
循環液貯留槽からの循環液は循環液散水ラインをとおって生物脱硫塔の上部からノズルより散水される。
【0050】
比較例の実験装置を
図6に示す。装置概要は本願発明と同じである。
本発明と異なる部分として、循環ガスラインの一方は生物脱硫塔処理ガスラインに接続され、循環ガスラインのもう一方は生物脱硫塔の上流部に接続されている。循環ガスとして生物脱硫塔処理ガスを用いた。
【0051】
以下の項目は、本願発明および比較例で共通とした。
次に、硫化水素含有ガスの処理条件について説明する。
処理方式は循環ガス方式とした。
ガス処理方向について、生物脱硫塔は下向流とし乾式脱硫塔は上向流とした。
ガス循環比は2とした。ここで、ガス循環比とは、硫化水素含有ガス流量に対する循環ガス流量の比率のことである。
具体的には、硫化水素含有ガス流量は4m
3/h、循環ガス流量は8m
3/hとした。
循環液の散水量は200L/h、処理温度は30℃とした。
硫化水素含有ガスの性状は、硫化水素;1500ppm、メタン;80%、二酸化炭素;20%であり、硫化水素含有ガスには酸素は含まれていない。
酸素含有気体には空気(酸素を21v/v%含有;25℃)を用いた。
空気供給量は、処理した硫化水素を硫酸に転換するために必要な酸素と、微生物の活性を維持するのに必要な酸素量を十分に供給するため、60L/hに調節した。
【0052】
処理の評価方法は、生物脱硫塔での硫化水素除去率および生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度とした。生物脱硫塔の硫化水素除去率は、硫化水素含有ガスの硫化水素濃度と生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度から(式5)基づき算出する。
具体的には、生物脱硫塔の硫化水素処理性能は、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度が150ppm以下、すなわち硫化水素含有ガスの硫化水素濃度に対して硫化水素除去率90%以上で処理良好と判断した。評価期間は30日間とした。
【0053】
生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度と乾式脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度の経日変化を
図7に示す。
図中の▲印は本発明の処理結果を示し、◆印は比較例の処理結果を示す。
本発明において、実験開始直後の生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は430ppmであった。実験の経過に伴い生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は減少し、実験開始7日目には生物脱硫塔で硫化水素を完全に処理した。
比較例では、実験開始直後から生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は1500ppmだった。2日目以降は生物脱硫塔にて徐々に処理されたものの、30日目経過時点では生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は430ppm含まれた。
【0054】
次に、本発明における生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度と乾式脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度の経日変化を
図8に示し、比較例を
図9に示す。
1日あたりの処理のうち、生物脱硫塔による処理ガスの硫化水素濃度を灰色の棒グラフで示し、乾式脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度を白色棒グラフで示した。
本発明では実験開始時に乾式脱硫塔で硫化水素が処理されたものの、硫化水素は期間全体を通して主に生物脱硫塔で処理された。
比較例では硫化水素は実験開始時より主に乾式脱硫塔にて処理された。日毎に生物脱硫塔で硫化水素は処理された。
【0055】
1日あたりの硫化水素負荷量と生物脱硫塔での硫化水素負荷量と乾式脱硫塔での硫化水素負荷量について計算する。
本実験における1日あたりの硫化水素負荷量は197gであった。実験期間(30日間)の全硫化水素負荷量は5910gであった。
本発明における生物脱硫塔での硫化水素負荷量は期間全体で5630gであり、乾式脱硫塔での硫化水素負荷量は280gであった。乾式脱硫塔は主に実験開始直後にのみ使用する程度であった。
比較例における生物脱硫塔での硫化水素負荷量は期間全体で2060gであり、乾式脱硫塔での硫化水素負荷量は3850gであった。
【0056】
以上の結果より、本発明では乾式脱硫剤による硫化水素負荷量は比較例に対して7.3%であった。乾式脱硫剤に寄与する負荷を大幅に削減できるため交換頻度が極めて少なく済む。
【実施例2】
【0057】
実施例1では乾式脱硫塔の塔体径は生物脱硫塔と同じ塔体径であった。
そこで、硫化水素含有ガスに対して乾式脱硫塔を小型化させて生物脱硫塔と乾式脱硫塔の組合せにおいて最適な循環ガスシステムを検討した。
具体的には、乾式脱硫塔を高LV状態下で通ガスすると、ここでの圧力損失が上昇するため、生物脱硫塔、乾式脱硫塔での圧力バランスが維持されにくくなる。そのため、乾式脱硫塔の圧力損失は1.5kPa以下で運転されることが重要となる。なお、硫化水素含有ガスはバイオガスを用いた。
【0058】
実験装置を
図10に示す。
生物脱硫塔寸法は塔内径23cm、担体の充填高さ2m、担体充填容量83Lである。
使用する担体形状は円筒状(φ1.5cm×h1.5cm)、担体材質はポリエチレン製である。
乾式脱硫塔寸法は塔内系10cm、脱硫剤の充填高さ1m、全充填容量8Lである。
使用する脱硫剤は酸化鉄が主成分で、形状はペレット状である。
【0059】
硫化水素含有ガスの処理フローは実施例1と同じである。
次に、硫化水素含有ガスの処理条件について説明する。
処理方式は循環ガス方式とした。
ガス処理方向について、生物脱硫塔は下向流とし乾式脱硫塔は上向流とした。
硫化水素含有ガス流量は生物脱硫塔へ1m
3/hにて流入した。
循環ガス流量は、生物脱硫塔処理ガスと乾式脱硫塔処理ガスの合計ガス流量が10m
3/hにて生物脱硫塔上流部へ循環した。ガス循環比は10である。
生物脱硫塔処理ガスと乾式脱硫塔処理ガスの循環ガス比率について、生物脱硫塔処理ガスは0%〜95%の範囲とし、乾式脱硫塔処理ガスは5%〜100%の範囲とし、Run2−1〜Run2−10に区分けした。
循環液の散水量は200L/h、処理温度は30℃とした。
硫化水素含有ガスはバイオガスであり、性状は硫化水素;5000ppm、メタン;80%、二酸化炭素;20%であり、硫化水素含有ガスには酸素は含まれていない。
酸素含有気体として空気(酸素を21v/v%含有;25℃)を用いた。
空気供給量は、処理した硫化水素を硫酸に転換するために必要な酸素と、微生物の活性を維持するのに必要な酸素量を十分に供給するため、60L/hに調節した。
【0060】
処理の評価項目は、(1)生物脱硫塔での硫化水素除去率および生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度、(2)圧力損失の2項目とした。
具体的には、生物脱硫塔の硫化水素処理性能は、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度が100ppm以下、すなわち硫化水素含有ガスの硫化水素濃度に対して硫化水素除去率98%以上で処理良好と判断した。
圧力損失について、ガスの導入をスムーズに行うため、生物脱硫塔の圧力損失は0.3kPa以下であることとし、系全体の圧力損失は1.5kPa以下であることとした。Runごとの評価期間は2週間とした。
処理結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
Run2−1〜Run2−3では、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は50ppmだった。生物脱硫塔の圧力損失は0.05kPaで一定だった。乾式脱硫塔の圧力損失は、Run2−1では1.54kPa、Run2−2では1.50kPa、Run2−3では1.47kPaであった。系全体の圧力損失は、Run2−1;1.59kPa、Run2−2;1.55kPa、Run2−3;1.52kPaであり系全体のガスバランスは不安定となった。
なお、系全体の圧力損失が1.50kPaとなるのは、循環ガス比率として生物脱硫塔処理ガス:乾式脱硫塔処理ガス=29%:71%のときだった。
【0063】
Run2−4〜Run2−8では、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は50ppm〜95ppmの範囲だった。生物脱硫塔の圧力損失は0.05kPaで一定だった。乾式脱硫塔の圧力損失は1.42kPa〜1.10kPaだった。系全体の圧力損失は1.47kPa〜1.15kPaだった。
【0064】
Run2−8での処理評価後、循環ガス比率を生物脱硫塔処理ガス:乾式脱硫塔処理ガス=19%:81%としたとき、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は105ppmとなった。
【0065】
Run2−9およびRun2−10では、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度はそれぞれ150ppmおよび200ppmであり評価基準値よりも値は大きかった。
生物脱硫塔の圧力損失は0.05kPa、乾式脱硫塔の圧力損失はRun2−9では1.02kPa、Run2−10では0.95kPaだった。系全体の圧力損失はRun2−9では1.07kPa、Run2−10では1.00kPaだった。
Run2−1〜Run2−10のずべてのRunにおいて、乾式脱硫塔では硫化水素は100%除去された。
【0066】
以上の結果より、生物脱硫塔の硫化水素処理性能が良好であり且つ乾式脱硫塔の圧力損失が1.5kPa以下で処理されるのはRun2−4〜Run2−9の範囲であった。
具体的には、生物脱硫塔に流入するガスのうち生物脱硫塔処理ガスの混合比率が30%〜80%の範囲で処理することが重要である。
【実施例3】
【0067】
実施例3では硫化水素含有ガスとして臭気ガスを用いて生物脱硫塔と乾式脱硫塔の組合せにおいて最適な循環ガスシステムを検討した。
実験装置は実施例2と同様である。
【0068】
次に、硫化水素含有ガスの処理条件について説明する。
処理方式は循環ガス方式とした。
ガス処理方向について、生物脱硫塔は下向流とし乾式脱硫塔は上向流とした。
硫化水素含有ガスは生物脱硫塔へ10m
3/hにて流入した。
循環ガス流量は、生物脱硫塔処理ガスと乾式脱硫塔処理ガスの合計ガス流量が10m
3/hにて生物脱硫塔上流部へ循環した。ガス循環比は1である。
生物脱硫塔処理ガスと乾式脱硫塔処理ガスの循環ガス比率について、生物脱硫塔処理ガスは0%〜95%の範囲とし、乾式脱硫塔処理ガスは5%〜100%の範囲とし、Run3−1〜Run3−10に区分けした。
循環液の散水量は200L/h、処理温度は30℃とした。
硫化水素含有ガスの性状は、空気(窒素;79%、酸素20.7%)が主成分であり、硫化水素は1000ppm含有していた。
【0069】
評価項目は実施例2と同様とし、(1)生物脱硫塔の硫化水素除去率および生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度、(2)圧力損失の2項目とした。
具体的には、生物脱硫塔の硫化水素処理性能は生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度が100ppm以下、すなわち硫化水素含有ガスの硫化水素濃度に対して硫化水素除去率90%以上で処理良好と判断した。
圧力損失について、ガスの導入をスムーズに行うため、生物脱硫塔の圧力損失は0.3kPa以下であることとし、系全体の圧力損失は1.5kPa以下であることとした。Runごとの評価期間は2週間とした。
処理結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
Run3−1〜Run3−3では、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は50ppmだった。生物脱硫塔の圧力損失は0.07kPaで一定だった。乾式脱硫塔の圧力損失は、Run3−1では1.54kPa、Run3−2では1.50kPa、Run3−3では1.47kPaであった。系全体の圧力損失は、Run3−1;1.61kPa、Run3−2;1.57kPa、Run3−3;1.54kPaであり系全体のガスバランスは不安定となった。
なお、乾式脱硫塔圧力損失が1.50kPaとなるのは、循環ガス比率として生物脱硫塔処理ガス:乾式脱硫塔処理ガス=29%:71%のときだった。
【0072】
Run3−4〜Run3−8では、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は50ppm〜95ppmの範囲だった。生物脱硫塔の圧力損失は0.07kPaで一定だった。乾式脱硫塔の圧力損失は1.42kPa〜1.10kPaだった。
【0073】
Run3−8での処理評価後、循環ガス比率を生物脱硫塔処理ガス:乾式脱硫塔処理ガス=19%:81%としたとき、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度は105ppmとなった。
【0074】
Run3−9およびRun3−10では、生物脱硫塔処理ガスの硫化水素濃度はそれぞれ150ppmおよび200ppmであり評価基準値よりも値は大きかった。
生物脱硫塔の圧力損失は0.07kPa、乾式脱硫塔の圧力損失はRun3−9では1.02kPa、Run2−10では0.95kPaだった。
Run3−1〜Run3−10のずべてのRunにおいて、乾式脱硫塔では硫化水素は100%除去された。
【0075】
以上の結果より、生物脱硫塔の硫化水素処理性能が良好であり且つ乾式脱硫塔の圧力損失が1.5kPa以下で処理されるのはRun3−4〜Run3−9の範囲であった。
具体的には、生物脱硫塔に流入するガスのうち生物脱硫塔処理ガスの混合比率が30%〜80%の範囲で処理することが重要である。
実施例3の結果は実施例2の結果と同じ傾向を示していた。すなわち、硫化水素含有ガスの種類に関わらず、循環ガスとして生物脱硫塔処理ガスの一部を用いることで乾式脱硫塔の圧力損失は軽減されることに加え、生物脱硫塔での硫化水素の処理は良好だった。