【実施例】
【0063】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。
【0064】
実施例1
この実施例は、マイクロファイバー性フィブロインフィラメントの生産と、これらフィラメントから得られる部品(ファイバー、織物)の製造を記載する。
【0065】
カイコの繭を紡糸に掛けて、生の絹編み糸を得た。合糸と撚糸の後、編み糸を30分間、120℃、圧力下で水を用いて精練して、セリシンを除去した。織物の生産のために、その生編み糸をまず、所望の編み方で編み、そして、そのようにして得た織物を、その後、界面活性剤の存在下で1時間、95〜98℃で精練して、セリシンを除去した。不織布を製造するためには、繭を切り刻んで、そして、ふやけさせて、セリシンを除去した。そのようにして得た短いファイバーシルク(「シャッペ」と呼ばれるもの)を、梳綿(カーディング)処理した。カード機のベールを、ニードリングして不織布へとまとめた。
【0066】
そのようにして得たフィラメントを用いて以下のものを製造した:
精練絹編み糸(3本の編み糸の横糸;カウント:17.1×3デン);
以下の特徴を有する精練絹織物:編み方:ちりめん(crepe);縦糸の編み糸数/cm:58(カウント:15.3×3デン);横糸の編み糸数/cm:39(カウント:15.3×3デン);単位面積当たりの質量:55g/m
2;厚さ0.12mm;
以下の特徴を有する精練絹織物:編み方:オーガンジー(organdie);縦糸の編み糸数/cm:53(カウント:20.7デン);横糸の編み糸数/cm:39(カウント:23.4デン);単位面積当たりの質量:30g/m
2;厚さ0.09mm;
以下の特徴を有する精練絹織物:編み方:あや織り(twill);縦糸の編み糸数/cm:55(カウント:15.3×3デン);横糸の編み糸数/cm:43(カウント:15.3×4デン);単位面積当たりの質量:60g/m
2;厚さ0.09mm;
以下の特徴を有する、精練絹の不織布(TNT):ファイバー長:20〜27mm;単位面積当たりの質量:33g/m
2。
【0067】
これらのサンプルを以下の実施例のテストのために使用する。
【0068】
実施例2
この実施例は、ナノファイバー性フィブロイン部品の生産を説明する。
【0069】
カイコの繭を、30分間、120℃のオートクレーブ中、蒸留水を用いて精練して、セリシンを除去した。
【0070】
徹底的に濯いで、そして、室温で乾燥させた後、1gのフィブロインマイクロファイバーを、60℃で3時間、10mLのLiBr飽和溶液(約9.3M)中に溶解した。等量の蒸留水で希釈した後、そのフィブロイン溶液を蒸留水に対して3日間透析して、塩を除去した。得られたフィブロイン溶液を、水で67mLへと希釈して、1.5%w/vのフィブロイン水溶液を得た。15mLずつのアリコートに分割されたその溶液を、直径5cmの型へと注ぎ、室温で蒸発させて、平均厚さが50μmのフィブロインフィルムを得る。
【0071】
電気紡糸プロセスの直前に、2gのフィルムを、室温の25mLのギ酸に溶解し、ポリマー濃度が8%w/vに等しい溶液を得る。
【0072】
ナノファイバー性フィブロイン部品の生産のために、ギ酸中のフィブロイン溶液を、PTFEキャピラリー管を有する、注射ポンプ付属ポリプロピレン注射器(Graseby Medical、MS2000)中に充填した。電気紡糸システムは、25kVまで発電できる二個の高電圧電源(F.u.G.Elektronik GmbH、HCN35−12500)からなる。正極は紡糸口金(内径0.5mmのスチール製キャピラリー管からなり、収集器を横断する方向に動くことができるもの)へ接続される。負極は収集器(20cm×8cm(l×d)の回転式シリンダーからなる)へと接続される。ナノファイバー性部品はこのようなやり方で、中空の円筒体の形態で得られ、その後、縦方向に切断され、そして、展開されて、全体として平面な部品を形成する。電気紡糸フィブロイン部品のいくつかのサンプルを、以下の実験パラメータを使用して製造する:フィブロインの濃度=8重量%;電圧=24kV;流速=3mL/h;紡糸口金/収集器距離=10cm;回収時間=6時間。電気紡糸の終わりに、フィブロイン部品を、収集器から外し、室温で30分間、水−アルコール溶液で処理し、そして、空気乾燥する。これらの部品の平均厚さは50μmである。
【0073】
実施例3
この実施例で記載されるテストの目的は、互いに異なるナノファイバー性またはマイクロファイバー性フィブロイン部品に保持可能なイオン性液体の量を決定することである。
【0074】
実施例1で述べた4種類のマイクロファイバー性フィブロイン織物(オーガンジー、ちりめん、あや織り、および不織布)の特性と実施例2のナノファイバー性フィブロイン部品の特性を評価する。
【0075】
このテストに使用されるイオン性液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートである。
【0076】
このテストを、二種類の含浸方法(該液体中にサンプルを浸漬し、その後、重力によって水切りすることによるもの、および、ブラシを使用して表面に堆積させるやり方によるもの)に従って実施する。両方のケースにおいて、含浸処理直後の絞り処理後に保持される液体の量を、サンプル重量に対する重量パーセンテージとして評価測定する。絞り処理は、浸漬処理して得られたサンプルを、60分間、0.5kg/cm
2の力で圧縮することによって実施し、そして、表面堆積処理により得られたサンプルを、2分間、0.1kg/cm
2の力で圧縮することによって実施する。得られる結果を、表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例4
本発明に係るナノファイバー性部品とマイクロファイバー性部品の連結
【0079】
3×5cmのサイズの、実施例1のオーガンジー織物のサンプルとちりめん織物のサンプル一つ、および、実施例2のナノファイバー性部品のサンプルを、イオン性液体を用いて、実施例3の表面コーティングと絞り処理で処理する。
【0080】
それら材料を、上記のように含浸し、連結した材料を
図1に図式化した装置中に導入して、オーガンジー/ナノファイバー性部品ハイブリッド構造物とちりめん/ナノファイバー性部品ハイブリッド構造物をその後製造する。
【0081】
ペアの材料をそれぞれ、マイクロファイバー層(オーガンジーまたはちりめん)を底部にして、加熱プレートと直接接触させて、前記装置中に導入する。軽く圧力(0.1kg/cm
2)を、上部プレートに加える。熱損失を防止するために、装置を恒温チャンバー中に置き、底部プレートの温度を、5分間、55℃へと上げる。この期間の終わりに、装置を恒温チャンバーから取り出して、室温に(約10分間で)冷まし、その後、水中のエチルアルコールが80%w/wの濃度の混合液を、注射器を使って二個のプレート間に注入する。
【0082】
それらのプレートをその後、開いて、そして、ハイブリッド構造物を、同じ水−アルコール混合液の浴槽に移して、残ったイオン性液体を全て除去する。このハイブリッド構造物を、24時間この浴槽に放置する。
【0083】
この期間の後、ハイブリッド構造物を、蒸留水中で濯いで、アルコール分を除去し、そして、数枚の層のペーパータオル(構造物が完全に乾燥するまで定期的に交換するもの)間に置く(約12時間かかる)。
【0084】
実施例5
本発明のナノおよびマイクロファイバー性ハイブリッド構造物の化学的特徴
【0085】
個別のフィブロインマイクロファイバー性部品とナノファイバー性部品および実施例4で得られたハイブリッド構造物のアミノ酸組成を評価した。
【0086】
この3種類のサンプルのそれぞれに関して、約25mgの材料を、真空下、24時間、105℃で、6NのHClを用いて加水分解した。そのようにして得た加水分解物溶液を、自動イオン交換アミノ酸分析装置を用いて解析した。解析の結果を、表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例6(比較例)
先行技術に係るナノファイバー性部品とマイクロファイバー性部品の連結
【0089】
比較目的で、連結されたフィブロインナノファイバーとマイクロファイバーからなる4種類のサンプルを、文献CN101879330Aの手順に従って作製する。
【0090】
実施例4と同じ出発材料を使用して、2つのハイブリッド構造物を、以下の手順に従って製造する:
ナノファイバー部品とマイクロファイバー織物(オーガンジーまたはちりめん)を接触させて、そして、4重量%のフィブロイン水溶液に含浸する;
得られた連結システムを、30分間60℃で処理し、その後、15分間、80%w/wのメタノールの水−アルコール溶液中に浸漬する;
二種類の連結済みシステムをその後、温度と湿度条件の制御下(20℃、65%相対湿度)で、室温で乾燥させる。
【0091】
このようにして得られたハイブリッド構造物の二種類のサンプルを、以下、「SFフィルム」と呼ぶ。
【0092】
実施例7(比較例)
先行技術に係るナノファイバー性部品とマイクロファイバー性部品の連結
【0093】
実施例6の手順を繰り返す。違いは、フィブロイン部品を接触させて、そして、4重量%のフィブロイン水溶液にそれら部品を含浸後、システムを、−20℃で凍結し、その後凍結乾燥することによって固化結合することだけである。
【0094】
このようにして得られたハイブリッド構造物の二種類のサンプルを、以下、「SFゲル」と呼ぶ。
【0095】
実施例8
本発明と先行技術のナノおよびマイクロファイバー性ハイブリッド構造物の化学的特徴
【0096】
実施例4で製造されたオーガンジー/ナノファイバー性部品のハイブリッド構造物を、走査型電子顕微鏡(SEM、モデルMIRA3、Tescan社)で観察した。比較のため、オーガンジー織物のサンプルとナノファイバー性部品のサンプルも、連結前に観察した。オーガンジー織物を選んだ理由は、縦糸と横糸の編み糸が開いた配置になっていて、いくつかの空間が残っているからであり、その空間を通して、マイクロファイバー性部品に隣接する側(連結側)上のナノファイバー性部品の表面の特徴解析ができる。
【0097】
この目的のため、0.5×0.5mmのサンプルを、ハイブリッド構造物から取り出して、SEM用のアルミニウム製サンプルホルダーに、両面粘着テープを用いて配置し、そして、スパッタリングによって金−パラジウムでコーティングした。空気に暴露される両サイドを検査した。つまり、マイクロファイバーのものとナノファイバーのものである。
【0098】
サンプルの顕微鏡写真を、
図2に示す。
【0099】
図2Aと
図2Bは、それぞれ、連結前のマイクロファイバー性オーガンジー織物とナノファイバー性部品を示す。後者は、電気紡糸によって得られる基体の典型的特徴を有し、フィブロインのナノファイバーの平均直径は500〜600nmであり、(不織布として)不規則に展開されて、非常に細やかな多孔性を有する。連結後、マイクロファイバー性部品(
図2C)は、構成要素の編み糸がやや平坦化するように見えるが、これはおそらく、連結プロセスの各種工程で奏される圧力によるものだろう。しかしながら、編み糸の縦糸と横糸は、それでも、その元の構造を保持していて、それらが造られる個々のマイクロファイバーはそれでも十分に視認できる。
【0100】
織物の孔(
図2Dと2E)の中では、連結されたナノファイバー性部品の表面を見ることができ、その表面は低倍率で視認できる典型的な凸凹を保持している。いくつかの領域(
図2E)では、マイクロファイバーとナノファイバーを連結しそれらを近接して保持する形跡を有する部分的にゲル化した領域が観察される場合がある。
【0101】
図2Fは、連結後に空気に暴露されたナノファイバー性部品の表面を示す。ナノファイバーの融合領域があるけれども、未処理の元の部品に関して観察される典型的形態が保持されている。
【0102】
図3Aと3F(特に、
図3F)は、マイクロファイバーとナノファイバーの両方をコーティングするゲル薄層(ファイバー間結合を介して両ファイバーを結合するもの)の存在を示す。ゲル層は、非常に薄く且つ表面的であり、単独のマイクロファイバーの表面と、また、ナノファイバー表面を介して見えるもので、それらファイバーの形態は、それらの表面でやや変形するのみである一方、材料の残りの部分では実質的に保持されている。
【0103】
最後に、
図3Bは、SEM観察されたサンプルが撮影された切り口に沿って、ハイブリッド構造物の周辺領域を示す。この画像は、本発明の連結プロセスが効果的であり、そして、二個の連結部品が、変形と圧縮(ハサミまたはメスで切断する対象の領域で通常発生するもの)に供されても分離しないことを示す。
【0104】
比較のために、比較実施例6の手順に従って製造した先行技術のサンプル(オーガンジー「SFフィルム」サンプル)を、SEM下で検証する。このサンプルの画像を、
図4Aと4Bに示し、そして、それら図はマイクロファイバーの表面上のフィルムの存在を示すが、そのフィルムは潰れていて、マイクロファイバーに接着しているだけで、ナノファイバー部品との効果的接着剤として機能することはできない。
【0105】
実施例9
本発明のハイブリッド構造物の化学的−物理的特徴
【0106】
連結プロセスがマイクロおよびナノファイバー性構成部品の物理的−化学的特性、構造特性および立体構造特性に変化を生じさせるかどうかを検証するために、実施例4で製造したオーガンジー/ナノファイバーハイブリッド構造物を、フーリエ変換型赤外線(FTIR)分光分析によって、さらに特徴解析する。
【0107】
SeZn水晶セル付属Smart Performerアクセサリ付きのNEXUS Thermo Nicolet分光光度計を、ATR(Attenuated Total Reflectance(減衰全反射))モードで使用した。FTIRスペクトルを、波長数範囲4000〜700cm
−1で記録し、4cm
−1の解像度で64回のスキャンを蓄積した。各スペクトルは、三回の測定の平均である(
図5)。
【0108】
スペクトル領域1900〜700cm
−1は、ポリマーの組成と構造の視点からすると、フィブロインのフィンガープリントを表す。最も有意な立体構造的に感度のあるバンドは、アミドI(1615〜1690cm
−1)、アミドII(1509cm
−1)、およびアミドIII(1230−1260cm
−1)(ペプチド結合の振動モードの倍数に由来するもの)として知られている。アミドIは、CN結合の寄与がある、CO結合の伸縮振動に主として帰属する。アミドIIは、CN結合の伸縮の寄与がある、(主として)NH結合の屈曲に帰属する。アミドIIIは、NH屈曲振動とCN伸縮振動に帰属する。
【0109】
図5Aは、重ねているが、処理前のマイクロファイバーのスペクトル(曲線(a))と本発明のハイブリッド構造物のスペクトル(曲線(b))を示す。同様に、
図5Bは、重ねているが、処理前のナノファイバーのスペクトル(曲線(a))と本発明のハイブリッド構造物のスペクトル(曲線(b))を示す。
【0110】
スペクトルにおけるアミドI、II、およびIIIのバンドの位置と強度に基づくと、連結処理前のマイクロファイバーとナノファイバーの両方とも、典型的なβ−シート分子立体構造(天然(マイクロファイバー)または再生(フィルム、ナノファイバー等)結晶性フィブロイン材料に特徴的なもの)を有すると推論可能である。
【0111】
連結後のスペクトルプロフィールは、各未処理サンプルのものと正確に重複し、材料の構造的特徴が保持されていることを示している。
【0112】
アミドIIIのバンドの二つの成分を使用して、連結プロセス前後の材料の結晶化度を計算した。結晶化度(C
I=I
1260/I
1230)を、1260cm
−1でのバンド強度と1230cm
−1でのバンド強度間の比率から得る。マイクロファイバーに関しては、この結晶化度は連結後も基本的に変化がない(0.52から0.51へと変化する)。一方、ナノファイバーに関しては、結晶化度は、0.60から0.55へと約8%減少する。この挙動は、ゲル化プロセス中のナノファイバー性部品の一部の形質転換と矛盾しない。そして、次に起こる凝固では、先在する構造より規則性の低い構造を採ることとなる。つまり、実施例8の顕微鏡写真で示されるように、接着剤としての特性を有する移行相へと変化する。
【0113】
実施例10
本発明のハイブリッド構造物の構造的特徴
【0114】
実施例4で作製したオーガンジー/ナノファイバー性部品のハイブリッド構造物を、示差走査熱量測定法(DSC)によって、さらに特徴解析する。
【0115】
熱量測定器200 Q TAを使用して、窒素流下、加熱速度が10℃/分で室温から500℃までの曲線を記録する。重量約5mgの各サンプルを、アルミニウム性るつぼに導入し、二回繰り返して解析する。テスト結果を
図6に示し、図は、マイクロファイバー単独のサーモグラム(曲線(a))、ナノファイバー単独のサーモグラム(曲線(b))、および本発明のハイブリッド構造物のサーモグラム(曲線(c))を示す。
【0116】
見て分かるように、全ての曲線は、材料内に閉じ込められた水分の蒸発に帰属可能な、100℃以下の温度での第一の吸熱を示す。
【0117】
マイクロファイバーの場合には、β−シート立体構造を有する結晶性および規則性ファイバー形態のフィブロインの熱分解に帰属する、313℃でのピークを有する、第二の非常に強い吸熱が続く。
【0118】
処理前のナノファイバーのサーモグラム(曲線(b))は、類似したプロフィールを有するが、第二の吸熱はより低い温度(282℃)であり、このことは、マイクロファイバーの場合よりも、結晶相の配向度がずっと低く、よりずっと不規則な結晶サイズを示している。
【0119】
ハイブリッド構造物サンプルの熱図(曲線(c))は、二つの構成部品の特徴が移行したものを示す:ナノファイバーの分解ピークは、282℃のまま変わらない一方、マイクロファイバーの分解ピークは308℃に移行する。この移行は、おそらく、本発明の連結材料に存在する非常に密接な相互接触領域における分子間相互作用が原因である。
【0120】
実施例11
本発明および先行技術のハイブリッド構造物の力学的特徴
【0121】
実施例4のサンプルで、引っ張り試験を実施する。サンプルは、ナノファイバー性部品(厚さ50μm)とマイクロファイバー性構成部品としてのオーガンジー編み織物(厚さ90μm)の連結物からなっている。比較のために、また、個別のナノファイバー性部品の細片およびマイクロファイバー性織物の細片の特性も評価した。
【0122】
連結前後のサンプルの厚さを、基準であるUNI EN ISO5084:1998法に従って、測定した。得られた値を使用して、応力と弾性率の力学的パラメータを計算した。20×10mm(長さ×幅)のサイズのそのような部品の細片とハイブリッド構造物の細片に関して、10mmのゲージ長と10mm/分のクロスバー速度で、Instron動力計モデル4501を使用して、力学物性を測定した。測定は、20℃、65%相対湿度の標準的雰囲気中で実施した。応力、変形値、および弾性値を、負荷−伸長率曲線から計算した。そして、それら値は、各サンプルを10回測定した平均値で表す。
【0123】
得られた結果を、
図7のグラフに示し、そして、表3にまとめる。
【0124】
マイクロファイバー性部品の負荷−伸長率曲線(
図7A)は、繊維構造を構成する編み糸が伸長する初期段階を特徴とする。一旦伸長されると、編み糸の弾力性という固有の特徴に起因するさらなる伸長が起こる。その特徴は、負荷値を徐々に増加させることによって示されるように、伸長それ自体に対する抵抗が増加することに抗する。最後に、破断が、約50%伸長後に起こる。この部品の顕著な特徴は、高い強靱性、同等に高い伸長率、および比較的低い初期弾性率である。
【0125】
一方、ナノファイバー性部品(
図7B)は、正反対の力学的伸長応答(低い強靱性と伸長値、非常に高い初期弾性率)を有する。
【0126】
本発明のハイブリッド構造物(
図7C)は、このシステムの個々の構成部品の単純合計の結果ではない力学的挙動を呈する。つまり、むしろ、二個の構成部品間の非常に厳格で特異的な相互作用を説明する、加算したものからの逸脱を呈する。事実、ハイブリッド構造物は、加えた負荷に対する非常に高い初期抵抗性を特徴とする。この抵抗性は、二つの部品間のその界面での密接な相互作用に帰属する。負荷が増えるほど、負荷−伸長率曲線はギザギザになる。このことは、マイクロファイバー性部品とナノファイバー性部品間の接触点が経時的に破断するせいである。この相は、伸長値が20〜25%になるまで続き、6〜7%より多く伸長することのないそのようなナノファイバー性部品の伸長値よりも有意に高い。負荷をさらに増加させると、マイクロファイバー性部品の伸長値と非常に似た値である45%〜50%の間で、伸長のためにその後破断するそのようなマイクロファイバー性部品の寄与が生じる。
【0127】
テスト中に測定される力学的値(応力と弾性率も含む)を、
図7Dに示し、そして、表3にまとめる。
【0128】
【表3】
【0129】
実施例12(比較例)
比較のために、実施例11のテストを、先行技術のサンプル(実施例7に記載されるように製造される、オーガンジー織物を用いる「SFゲル」サンプル)に関してリピートする。
【0130】
同一の手順に引き続いて、水性溶液を型に注ぎ、その後、凍結と凍結乾燥してできる多孔性フィブロイン単独のシートもまた、作製した。
【0131】
20×10mmの細片のこれらサンプルを、同一条件で、前実施例と同じテストに掛けた。
【0132】
多孔性シート(A)とマイクロ/ナノハイブリッド構造物(B)のそれぞれに関して、結果を
図8に示す。
【0133】
多孔性シート(
図8A)の力学的特性は非常に不良である。負荷強度の平均値は1.1±0.2Nであり、ナノファイバー性部品のもの(11.2±1.8N;
図7B参照)より約10倍低い。曲線の形に変化があるのは、上記方法を用いて得られる絹フィブロインの多孔性材料の織地が不均質であることが原因である。
【0134】
多孔性フィブロインを使用して連結されたマイクロ/ナノハイブリッド構造物(B)の負荷−伸長率曲線(
図8B)は、二つのピーク(一つは低い変形値でのもので、他のものは高い変形値でのもの)の存在を特徴とする。低変形でのピークは、ナノファイバー構成部品の破断に対応していて、このことは、破断値での負荷と伸長率(それぞれ、15±2Nと5.5±0.2%)によって示される。
【0135】
高変形でのピークは、マイクロファイバー性基体の破断(負荷:40±3N;破断点伸び:29±3%)に対応する。
【0136】
実施例13
本発明および先行技術のハイブリッド構造物の接着強度の測定
【0137】
オーガンジー織物とちりめん織物から調製した実施例4の本発明の二つのサンプルと、それぞれ、実施例6および7に記載したように作製された先行技術の「SFフィルム」および「SFゲル」材料の各々に関する二つのサンプル(オーガンジーおよびちりめん)を、ハイブリッド構造物の二つのマイクロおよびナノファイバー性構成部品間の接着強度を測定するように設計された力学テストに掛けた。テストを、基準であるUNI EN ISO13937−2:2000法に従って、Instron動力計モデル4501を使用して、実施した。
【0138】
特に、10×40mmの直方体細片を、各サンプルから採取する。サンプルの一方の端では、二つのフラップ(一つはナノファイバー性部品に対応し、もう一つはマイクロファイバー性部品に対応する)が、約10mm離れて、精巧に引き離されていた。これらのフラップを、
図9に示されるように、動力計のグリップ内に固定した。上部の(可動)グリップをその後作動させ、それを、2mm/分のクロスバー速度で、下部の(固定)グリップから引き離すように動かした。そして、ナノファイバー性(上部)部品からマイクロファイバー性(下部)部品の分離を生じさせるのに必要な力(cN単位で測定されるもの)は、少なくとも20〜30mm離れるまでの間連続的に記録した。各サンプルに関して少なくとも5回、テストを実施し、そして、個別の結果の平均を取った。典型的な「剥離負荷/行程」曲線を、
図10Aに示す。実験データを処理して得た結果を、表4と
図10Bの棒グラフに示す。
【0139】
【表4】
【0140】
実施例14
インビトロ細胞傷害性と遺伝毒性試験
【0141】
ヒトと動物の身体への移植用の基材の生産のための応用の視点から、本発明の複合材料のインビトロでの生物学的特性を評価した。
【0142】
テストを、二種類のヒト細胞モデル(ヒト線維芽細胞(MGM18004E)とヒト内皮細胞(HUVEC))を用いて実施した。
【0143】
20%熱非働化ウシ胎児血清(Gibco社)、200mMのL−グルタミン(Euroclone社)、ペニシリンスとトレプトマイシン(Euroclone社)含有高グルコース含量DMEM培養培地(Gibco社)中で、ヒト線維芽細胞を培養した。
【0144】
ヒト内皮細胞を、ペニシリンとストレプトマイシン(Euroclone社)含有EBM−2培養培地(内皮細胞用基本培地2、Lonza社)中で培養した。
【0145】
バイオ材料の潜在的細胞傷害性と遺伝毒性のマーカーとして、細胞増殖とDNA損傷の度合いを評価するように、解析テストを設計した。
【0146】
Alamar Blue(登録商標)テストは、細胞の代謝活性(細胞増殖と直接リンクするもの)を測定する。細胞を、初期密度6000細胞/cm
2で、96穴プレートに播種した。培養培地単独と細胞単独を、ブランクとして使用した。テストを、二つの同じ生物材料で、技術的には三回繰り返して実施した。細胞を、5%CO
2の存在下、37℃のインキュベーター中で、24、72、および120時間培養した。培養培地を、3日目に変えた。インキュベーション期間の最後に、固定量のAlamar Blue(登録商標)(総容量の10%)を、各ウエルに加えた。さらに18時間のインキュベーション期間の後、培地を別のプレートに移し、そして、570nmと600nmでの吸光度を、マルチディスクリーダー(Biotech社)で記録した。本発明のバイオ材料と接触させるサンプルと細胞単独のサンプルとの間のパーセンテージの差として、結果を表した。
【0147】
DNA損傷テストは、H2AXヒストン中のリン酸化Ser
139の存在を検出することによって、バイオ材料が遺伝毒性を持つ可能性を評価する。リン酸化は、DNA二本鎖の破断の存在によって誘導され、免疫蛍光染色により検証する。細胞播種の初期密度は、24時間のものに関しては6000細胞/cm
2、120時間のものに関しては3000細胞/cm
2、および120時間のものに関しては1500細胞/cm
2であった。培養培地を、3日目に変えた。200mmのH
2O
2で16時間処理した細胞を、ポジティブコントロールとして使用した。実験の終わりに、細胞を、4%パラホルムアルデヒド(Sigma−Aldrich社)で固定し、次に、0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)と0.25%TritonX−100含有リン酸緩衝溶液(PBS)を用いて透過処理した。非特異的反応部位を、ブロッキング緩衝液(PBS中の0.1%BSA)でインキュベーションすることによってブロックした。次に、抗γH2AX抗体を1時間インキュベートし、そして、ヤギ二次抗体であるAlexa Fluor(登録商標)555抗マウスIgGを介して可視化した。細胞核を、ヘキスト33342を用いてマークした。プレートを、Leica製DMI4000B蛍光顕微鏡(Leica Microsystems社)を、20倍で用いて調べた。DNA損傷陽性細胞の平均数を、複数の同じバイオ材料の各々に関してと、各実験条件に関して、3〜5回独立した視野を観察することによって決定した。
【0148】
図11は、コントロールの増殖に対するパーセンテージとして表した細胞増殖曲線を示す。24時間では、ヒト繊維芽細胞は、コントロールウエル(ポリスチレン基体)中に播種された細胞の増殖度と類似した増殖度を示す。72時間では、3種類のSFパッチ(マイクロファイバー、ナノファイバー、および、マイクロ/ナノハイブリッド)に接触している細胞の増殖曲線に、軽度の減少が観察された。しかし、この減少は、120時間で速やかに回復された。ヒト線維芽細胞増殖速度は、3種類の異なるSFパッチの存在によって乱されることは無いと結論可能である。
【0149】
3種類のSFバイオ材料に接触するヒト内皮細胞は、コントロールと比較して、増殖度の減少を示した。ヒト線維芽細胞でのテストに対しても、この3種類のSFバイオ材料は、72時間までの細胞増殖に関しては、ほぼ同じ傾向を示すことは言及に値する。しかしながら、ナノファイバー性パッチを用いる120時間でのヒト内皮細胞の場合、それらは、さらに増殖曲線での減少を示す一方で、ハイブリッドマイクロ/ナノファイバー性パッチは、細胞の代謝活性の測定値(細胞増殖と直接リンクするもの)が増加した。
【0150】
ヒト線維芽細胞に関する遺伝毒性テスト結果(
図12)は、72時間のインキュベーション後にH2AXのリン酸化度の増加を示した。この結果は、Alamar Blue(登録商標)増殖テストの傾向と一致している。つまり、同じインキュベーション時間で細胞の代謝活性に軽度の減少を示した。これはおそらく、SFバイオ材料上で培養された細胞の順応フェーズが原因である。24と120時間では、3種類のSFバイオ材料上で培養されたヒト線維芽細胞は、ポリスチレン上で培養されたコントロール細胞と比較すると、リン酸化レベルが有意に低下した。このことは、これら3種類のSFパッチが、コントロール基体よりも、これらの細胞に対する遺伝毒性が低いことを示唆する。Alamar Blue(登録商標)テストで既に観察されたように、ヒト内皮細胞はヒト線維芽細胞と挙動が異なる。マイクロファイバー性基体だけが、24と120時間でH2AXのリン酸化型の増加を誘導する。このことは、コントロール基体と比べて、このSFパッチの遺伝毒性効果がやや高いことを示す。他方、ナノファイバー性パッチおよび、最も重要なことに、マイクロ/ナノファイバー性ハイブリッドパッチのDNA損傷の程度はより低い。このことは、この型のヒト細胞に対する遺伝毒性に関しては生体適合性がより良好なことを示す。
【0151】
結果に対するコメント
上記テストで確認されるように、本発明の複合材料は、個別のナノファイバーとマイクロファイバーの特性を部分的に模写する特性だけでなく、この二つの型のファイバーの連結によって生じる新しい特徴も有する(引っ張り特性テスト、FTIR、およびDSC)。
【0152】
化学的分析結果は、ハイブリッド構造物が、出発マイクロファイバー性部品およびナノファイバー性部品と基本的に同じアミノ酸組成を有することを示す。その特徴は、ほぼ4種類のアミノ酸が大量に存在する(グリシン+アラニン+セリン+チロシン=89モル%)一方で、全ての他のアミノ酸は少量で存在する(全体で約11モル%)。連結プロセスはフィブロインの化学構造を改変せず、そして、ポリマーの生物学的化学向性は、従って、連結後でさえ変化が無いままであることが結論可能である。
【0153】
さらにまた、先行技術の材料と比較すると、本発明の材料は、接着性が良く、そして、力学テストにおける挙動がより一貫している。
【0154】
特に、本発明のハイブリッド構造物のSEM画像(
図2と3)によると、部品間の接着が良好で、二つの同部品のファイバー間に連続するポリマーフィルムが存在する。一方で、最も近い先行技術(中国特許出願公開番号CN101879330A明細書、
図4)の構造物の同様の画像によると、部品間の接着を保証するべきはずのポリマーフィルムは、断片化されて、これら部品の一つにのみ接着しているだけである。
【0155】
引っ張り試験は、本発明の複合材料のユニークな特徴は、伸長率の範囲が約10〜25%の間であることであることを示した。これは、具体的には、二つの型のファイバー間の相互作用に起因する。逆に、先行技術の連結材料は、ナノおよびマイクロファイバー性構成部品の挙動の純粋な合計となる挙動を示す(
図8B)。このことは、多孔性材料によって一緒に連結されたマイクロおよびナノ構成部品は、別々の相として挙動し、各相はその固有の特性を保持していて、連結手法によって引き起こされる変化/改善を全く示さないことを確認する。むしろ、最も近い先行技術に従ってハイブリッド構造物を作製することによって、マイクロファイバー性構成部品の引っ張り特性の悪化が得られる。つまり、負荷と破断点伸びの値が約63Nと48%であるのが、それぞれ、40Nと30%の値へと変化する。
【0156】
同様に、ハイブッド構造物の二つの層の引っ張り剥離テストは、先行技術の場合よりも、本発明の場合に、ナノおよびマイクロファイバー性部品間の接着強度がずっと高いことを確認した(
図10)。
【0157】
先行技術の方法は、従って、本発明の方法で得られる最終ハイブリッド構造の二つの部品間での同じ連続性特徴を保証しない。先行技術に従って製造されたデバイスの場合、このことは、互いに異なる層間の形態学的且つ力学的不連続性ができてしまうことに繋がる場合がある。その結果、性能と幾何学的特徴の喪失が起こり、力学的視点からは、より脆弱な(例、ナノファイバー性)層ができたり及び/又は壊れたりするまでになる。力学的および生物学的視点からの負荷がかかる使用条件(例、生体内移植の進行において発生する場合があるもの)では、先行技術のハイブリッド構造物を構成する二以上のポリマー相の挙動が異なるので、特に、材料が生理液の流れに曝される場合に、進行中の再生プロセスと干渉するような大きさの局所負荷を創出する可能性がある。
【0158】
本発明のハイブリッド構造物は、マイクロファイバー性フィブロインとナノファイバー性フィブロインの個々の部品よりもインビトロでの生物学的挙動が良好であった。このことは、生物学的挙動の視点からは、マイクロおよびナノファイバー性部品を個別に考慮した場合の既に良好な性能レベルを、さらに向上させた。マイクロフィブロイン単独の基材性能は、例えば、論文「De novo engineering of reticular connective tissue in vivo by silk fibroin nonwoven materials」、Dal Praら、Biomaterials(2005)26、1987に記載されている。