(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
N297結合糖鎖に対する活性が、pH7.4の反応液中での加水分解反応において、24時間後まで、50%以下の加水分解率を維持することを特徴とする、請求項1のEndoS変異酵素。
N297結合糖鎖に対する活性として、さらに、pH7.4の反応液中での、5等量の糖鎖ドナーを用いた糖転移反応において48時間後の糖転移率が約60%以上である活性を示すことを特徴とする、請求項1のEndoS変異酵素。
追加変異の箇所が、Q303、E350及びD405からなる群から選択される1アミノ酸における変異を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つのEndoS変異酵素。
追加変異として、Q303L、E350A、E350N、E350D、E350Q及びD405Aからなる群から選択される少なくとも一つの変異を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つのEndoS変異酵素。
追加変異が、Q303L、E350A、E350N、E350D、E350Q、D405A、H122A/Q303L、H122F/Q303L、D279Q/Q303L、D279S/Q303L、Y282R/Q303L、Q303L/Y348H、Q303L/E350A、Q303L/E350N、Q303L/E350D、Q303L/E350Q、Q303L/Y402F、Q303L/Y402W、Q303L/D405A、Q303L/R406Q、H122A/E350A、H122F/E350A、D279Q/E350A、D279S/E350A、Y282R/E350A、Y348H/E350A、E350A/Y402F、E350A/Y402W、E350A/D405A、E350A/R406Q、H122A/E350N、H122F/E350N、D279Q/E350N、D279S/E350N、Y282R/E350N、Y348H/E350N、E350N/Y402F、E350N/Y402W、E350N/D405A、E350N/R406Q、H122A/E350D、H122F/E350D、D279Q/E350D、D279S/E350D、Y282R/E350D、Y348H/E350D、E350D/Y402F、E350D/Y402W、E350D/D405A、E350D/R406Q、H122A/E350Q、H122F/E350Q、D279Q/E350Q、D279S/E350Q、Y282R/E350Q、E350Q/Y348H、E350Q/Y402F、E350Q/Y402W、E350Q/D405A、E350Q/R406Q、H122A/D405A、H122F/D405A、D279Q/D405A、D279S/D405A、Y282R/D405A、Y348H/D405A、又は、D405A/R406Q、であることを特徴とする、請求項6のEndoS変異酵素。
追加変異が、Q303L、E350A、E350N、E350D、E350Q、D405A、Q303L/E350A、Q303L/E350N、Q303L/E350D、Q303L/E350Q、Q303L/D405A、E350A/D405A、E350N/D405A、E350D/D405A、又は、E350Q/D405Aである、請求項4のEndoS変異酵素。
【背景技術】
【0002】
糖タンパク質は動植物の組織、真核微生物の細胞膜、壁などに広く存在している。近年、糖タンパク質の糖鎖が、細胞の分化、癌化、細胞間の認識などの機構に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあり、その機構解明のため糖鎖の構造と機能との相関について研究が進められている。培養細胞系において、糖タンパク質は、均一なアミノ酸配列からなるタンパク質として翻訳され、その後翻訳後修飾により糖鎖が付加されて、培養液中に生産される。この翻訳後修飾は、アミノ酸配列に対応して一義的に決定されるものではないため、同一の培養系に発現させた同一のタンパク質であっても付加される糖鎖の構造は多様である。
【0003】
抗体は、重鎖分子中のFc領域に位置する297番目のAsn側鎖に結合したN結合型糖鎖(N297結合糖鎖)を有する糖タンパク分子である。抗体は、基礎研究や医療分野において重要な分子であり、特に抗体医薬としての研究開発が盛んに進められており、糖鎖の様々な影響が明らかにされつつある(非特許文献1:J.N.Arnold et al., Annu.Rev.Immunol,2007,25,21050)。現在、主に使われている医療用抗体は、IgGクラスの分子であり、このような抗体は、一般的にCHO細胞やNS0細胞に代表される培養動物細胞を用いて産生され、これら動物細胞で産生される抗体のN297結合糖鎖はbiantennary複合型糖鎖であるが、コアフコースや末端のシアル基やガラクトシル基そしてbisecting GlcNAcにおいて不均一なものが取得される(非特許文献2: R.Jerfferis, Biotechnol.Prog.,2005,21-11-6)。抗体のN297結合糖鎖が、ADCC(Antibody-Dependent Cell-Mediated Cytotoxicity)やCDCを含むエフェクター活性に大きく影響することが明らかになっており(非特許文献3:Nimmerjahn, Nat. Rev. Immunol. 2008, 8, 34- 47、非特許文献4: Jefferis Nat. Rev. Drug Discovery 2009, 8, 226- 234)、血中半減期にも影響を及ぼす可能性が指摘されている(非特許文献5:D.Bumbaca, AAPSJ,2012,14,3)。また、N297結合糖鎖の非還元末端が2,6-sialyl化された抗体がIVIGにおける主要薬効成分であることが明らかになっている(非特許文献6: Wang, ACS Chem. Biol. 2012, 7, 110- 122)。また、IgGやFc断片を含む医療用分子において、N297結合糖鎖の不均一性が有効成分としての性質や品質に大きな影響を与えると考えられており、不均一な糖鎖修飾分子の微量の混入が最終生産物の特性を大きく変えてしまう可能性を否定できない。
【0004】
この様な現状から、医療用の抗体や抗体Fc領域を含む糖タンパク分子の製造において、糖鎖を均一化させる技術が開発されつつある。糖タンパク質に付加する糖鎖を均一にする方法としては、酵素を使った糖転移反応が知られている(非特許文献6:Wang, ACS Chem. Biol. 2012, 7, 110- 122、非特許文献7: Wang, Trends Glycosci. Glycotechnol. 2011, 23, 33- 52.)。これは、in vitro環境での糖鎖の切断(加水分解反応)と別の糖鎖の縮合(糖転移反応)からなる、多段階プロセスである。特にN型糖鎖の変換を目的とする場合、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと呼ばれる一群の酵素ファミリーが用いられる。この酵素の特性として、1)基質特異性として複合型糖鎖に対する加水分解反応を行う能力を持つこと、及び、2)特定の構造に対する糖転移反応を行う能力を持つことが要求される。エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは様々な種から分離されており、基質とする糖鎖の種類に応じて野生型や変異体が使い分けられる。EndoA (Arthrobacter protophormiae由来酵素)(非特許文献8:Takegawa, Biochem Int. 1991 Jul;24(5):849-55)、 EndoD(Streptococcus pneumoniae由来酵素)(非特許文献9:Fan, J Biol Chem. 2012 Mar 30;287(14):11272-81)、 EndoM(Mucor hiemalis由来酵素)(非特許文献10: Umekawa, Biochem Biophys Res Commun. 1994 Aug 30;203(1):244-52)、EndoH (非特許文献11:Robbins, J Biol Chem. 1984 Jun 25;259(12):7577-83)、EndoF2(Flavobacterium Meningosepticum由来酵素)(非特許文献12:; Huang, Chembiochem. 2011 April 11; 12(6): 932-941)、 EndoE(Enterococcus faecalis由来酵素)( 非特許文献13:Collin, JBC 2004, 279-21)およびEndoS(Streptococcus pygenes由来酵素)(非特許文献14:Collin, EMBO J. 2001 Jun 15;20(12):3046-55)などが糖鎖均一化の目的に使用されているが、中でもコアフコースを有する複合型のN297結合糖鎖を基質とし、加水分解活性と糖転移活性を併せ持つことが確認できている酵素はEndoSのみである(非特許文献15: Allhorn, BMC Microbiol. 2008, 8, 3.;、非特許文献16:Goodfellow, J. Am. Chem. Soc. 2012,134, 8030- 8033)。
【0005】
さらにEndoSにおいては、2つの触媒残基である233番目のAspと235番目のGluのうち、求核触媒残基である233番目のAspをGlnに置換する変異を導入したEndoS D233Qにおいて、加水分解活性がある程度抑制されることが知られている。この変異体は反応系中に糖鎖の還元末端をオキサゾリン化した中間体が大量に存在する条件下で、糖転移反応が選択的に進行することが知られている(非特許文献17:Huang, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 12308-12318、特許文献1:WO 2013/120066 Al、非特許文献18:B. Trastoy et al., PNAS(2014)vol111,No.18, pp6714-6719))。また、EndoSに分類される酵素の配列はpyogenes種の中でも異なるストレインから異なるセロタイプに由来する配列が多数報告されている。特にセロタイプM49由来のEndoS2(非特許文献19:Sjogren, Biochem J. 2013 Oct 1;455(1):107-18、EndoS49と呼ばれる場合もある)は同様の基質特性を有すると報告されている。
【0006】
しかし、これら既知のEndoSやEndoS D233Q等の変異酵素の活性は、医療用抗体の糖鎖リモデリングを工業スケールで行うのに十分なものではなく、更に効率的な糖鎖リモデリングを可能とする技術改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2013/120066 Alパンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.N.Arnold et al., Annu.Rev.Immunol,2007,25,21050
【非特許文献2】R.Jerfferis, Biotechnol.Prog.,2005,21-11-6
【非特許文献3】Nimmerjahn, Nat. Rev. Immunol. 2008, 8, 34- 47
【非特許文献4】Jefferis Nat. Rev. Drug Discovery 2009, 8, 226- 234
【非特許文献5】D.Bumbaca, AAPSJ,2012,14,3
【非特許文献6】Wang, ACS Chem. Biol. 2012, 7, 110- 122
【非特許文献7】Wang, Trends Glycosci. Glycotechnol. 2011, 23, 33- 52
【非特許文献8】Takegawa, Biochem Int. 1991 Jul;24(5):849-55
【非特許文献9】Fan, J Biol Chem. 2012 Mar 30;287(14):11272-81
【非特許文献10】Umekawa, Biochem Biophys Res Commun. 1994 Aug 30;203(1):244-52
【非特許文献11】Robbins, J Biol Chem. 1984 Jun 25;259(12):7577-83
【非特許文献12】Huang, Chembiochem. 2011 April 11; 12(6): 932-941
【非特許文献13】Collin, JBC 2004, 279-21
【非特許文献14】Collin, EMBO J. 2001 Jun 15;20(12):3046-55
【非特許文献15】Allhorn, BMC Microbiol. 2008, 8, 3.;
【非特許文献16】Goodfellow, J. Am. Chem. Soc. 2012,134, 8030- 8033
【非特許文献17】Huang, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 12308-12318
【非特許文献18】B. Trastoy et al., PNAS(2014)vol111,No.18, pp6714-6719)
【非特許文献19】Sjogren, Biochem J. 2013 Oct 1;455(1):107-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、IgGのFc領域の糖鎖に対する特異性を有したエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、EndoSの加水分解活性が抑制された変異体として知られているEndoS D233Qと比較して、その加水分解活性がより低減され、且つ、一定の糖転移活性を保持する新規な変異酵素を提供することを目的とする。
【0010】
公知のEndoS D233Qを用いた研究から、この変異体が一定の加水分解活性を保持するため、糖転移反応において、反応開始からの時間経過と共に、糖転移率が低下することを見出した。このため、EndoSや既存の変異体を用いた糖鎖リモデリングにより、均一な糖鎖を有する抗体を高純度で取得することは困難であり、特に大容量での反応では、精製工程に進むまでに要する時間が長くなるため、最終的に酵素と分離した段階では、糖鎖が切断された抗体が必然的に混入してしまう。
【0011】
さらに、糖鎖ドナーとして用いられる化学合成される糖鎖オキサゾリン体は高価であることが多く、大量に消費することは、生産コストの増大につながる。そのため、均一な糖鎖を有する抗体を高純度で製造するには、EndoS D233Qと比較して、加水分解活性がより抑えられ、かつ 一定以上の糖鎖転移活性を有する酵素が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、EndoS D233Qのアミノ酸配列情報と立体構造を参考に、多数の変異体を設計・作製し、D233Qに加えて特定のアミノ酸に追加変異を有する新規な変異酵素が目的とする活性を有することを見出し、さらに研究を進めることにより、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、以下の発明を提供する。
(1) 配列番号2のアミノ酸番号37〜995のアミノ酸配列において、122番目(H122)、184番目(P184)、279番目(D279)、282番目(Y282)、303番目(Q303)、348番目(Y348)、350番目(E350)、402番目(Y402)、405番目(D405)、及び、406番目(R406)からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む箇所に追加変異を有し、且つ、IgGの297番目のAsnに結合するN結合型糖鎖(N297結合糖鎖)に対する活性として、EndoS D233Qの活性と比較して低減された加水分解活性を示すことを特徴とする、EndoS変異酵素。
(2) 追加変異が、H122、P184、D279、Y282、Q303、Y348、E350、Y402、D405、及び、R406からなる群から選択される1〜4アミノ酸からなる部位であることを特徴とする、(1)のEndoS変異酵素。
(3) 追加変異の箇所が、Q303、E350及びD405からなる群から選択される1アミノ酸における変異を含むことを特徴とする、(1)のEndoS変異酵素。
(4) 追加変異が以下の群から選択される少なくとも一つである、(1)〜(3)のEndoS変異酵素、
H122の変異後のアミノ酸は、Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala、Glu、Asp、Leu、Ile、Pro、Met又はPhe;
P184の変異後のアミノ酸がGly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala、Gln又はAsn;
D279の変異後のアミノ酸は、Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala又はGln;
Y282の変異後のアミノ酸は、Arg、Lys又はHis;
Q303の変異後アミノ酸は、Met、Pro又はLeu;
Y348の変異後アミノ酸は、His又はTrp;
E350の変異後アミノ酸は、Lys、Arg、His、Tyr、Gln、Asn、Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro又はAla;
Y402の変異後のアミノ酸は、Phe又はTrp;
D405の変異後アミノ酸は、Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro又はAla;、及び、
R406の変異後アミノ酸は、Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro又はAla、Glu、Asp、Gln又はAsn。
(5) 追加変異が以下の群から選択される少なくとも一つである、(4)のEndoS変異酵素、
H122がAla(H122A)又はPhe(H122F);
P184がGln(P184Q);
D279がSer(D279S)又はGln(D279Q);
Y282がArg(Y282R);
Q303がLeu(Q303L);
Y348がHis(Y348H);
E350がAla(E350A)、Asn(E350N)、Asp(E350D)又はGln(E350Q);
Y402がPhe(Y402F)またはTrp(Y402W);
D405がAla(D405A);、及び、
R406がGln(R406Q)。
(6) 追加変異として、Q303L、E350A、E350N、E350D、E350Q及びD405Aからなる群から選択される少なくとも一つの変異を含むことを特徴とする、(5)のEndoS変異酵素。
(7) 追加変異が、Q303L、E350A、E350N、E350D、E350Q、D405A、
H122A/Q303L、H122F/Q303L、P184Q/Q303L、D279Q/Q303L、D279S/Q303L、Y282R/Q303L、Q303L/Y348H、Q303L/E350A、Q303L/E350N、Q303L/E350D、Q303L/E350Q、Q303L/Y402F、Q303L/Y402W、Q303L/D405A、Q303L/R406Q、
H122A/E350A、H122F/E350A、P184Q/E350A、D279Q/E350A、D279S/E350A、Y282R/E350A、Y348H/E350A、E350A/Y402F、E350A/Y402W、E350A/D405A、E350A/R406Q、
H122A/E350N、H122F/E350N、P184Q/E350N、D279Q/E350N、D279S/E350N、Y282R/E350N、Y348H/E350N、E350N/Y402F、E350N/Y402W、E350N/D405A、E350N/R406Q、
H122A/E350D、H122F/E350D、P184Q/E350D、D279Q/E350D、D279S/E350D、Y282R/E350D、Y348H/E350D、E350D/Y402F、E350D/Y402W、E350D/D405A、E350D/R406Q、
H122A/E350Q、H122F/E350Q、P184Q/E350Q、D279Q/E350Q、D279S/E350Q、Y282R/E350Q、E350Q/Y348H、E350Q/Y402F、E350Q/Y402W、E350Q/D405A、E350Q/R406Q、
H122A/D405A、H122F/D405A、P184Q/D405A、D279Q/D405A、D279S/D405A、Y282R/D405A、Y348H/D405A、又は、D405A/R406Q、であることを特徴とする、(6)のEndoS変異酵素。
(8) 追加変異が、Q303L、E350A、E350N、E350D、E350Q、D405A、Q303L/E350A、Q303L/E350N、Q303L/E350D、Q303L/E350Q、Q303L/D405A、E350A/D405A、E350N/D405A、E350D/D405A、又は、E350Q/D405Aである、(7)のEndoS変異酵素。
(9) 追加変異が、H122A、H122F、P184Q、D279Q、D279S、Y282R、Y348H、Y402F、Y402W、又はR406Qである、(4)のEndoS変異酵素。
(10) N297結合糖鎖に対する活性が、pH7.4の反応液中での加水分解反応において、24時間後まで、50%以下の加水分解率を維持することを特徴とする、(1)のEndoS変異酵素。
(11) N297結合糖鎖に対する活性として、さらに、pH7.4の反応液中での、5等量の糖鎖ドナーを用いた糖転移反応において48時間後の糖転移率が約60%以上である活性を示すことを特徴とする、(1)のEndoS変異酵素。
(12) (1)〜(11)のいずれかのEndoS変異酵素をコードするポリヌクレオチド。
(13) (12)のポリヌクレオチドと相補的なヌクレオチドを含むベクター。
(14) (13)のベクターで形質転換された宿主細胞。
(15) (1)〜(11)のいずれかのEndoS変異酵素の存在下で、N297結合糖鎖として、フコース付加していても良いコアGlcNAcを有するIgGのFc領域を含む分子とオキサゾリン化されたGlcNAcを含む構造を有する糖鎖ドナーを反応させ、当該Fc領域含有分子のN297結合糖鎖の当該コアGlcNAcに、当該糖鎖ドナーの有する糖鎖が転移した構造を有するFc領域含有分子を産生させることを特徴とする、糖鎖リモデリングされたFc領域含有分子の製造方法。
(16) Fc領域含有分子が、IgGモノクローナル抗体である、(15)の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規なEndoS変異酵素は、加水分解活性が低減された変異体として知られるEndoS D233Qと比較して、加水分解活性がさらに低減され、且つ、一定以上の糖転移活性を保持するため、糖鎖リモデリングにより、均一な糖鎖を有する抗体を、より効率よく、より高純度で取得することが可能である。また、糖鎖リモデリングにおいて用いる糖鎖ドナーの量も低減できるため、糖鎖リモデリングされた抗体の製造コストの低減につながる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、分子中に含まれるアミノ酸の表記法は、本分野の慣例に従い、変異箇所を示す場合は野生型のアミノ酸(又は核酸)の一文字表記とその番号(例えば、233番目のAspであれば「D233」)により表す。また、変異については、野生型のアミノ酸(又は核酸)の一文字表記、その番号及び変異後のアミノ酸(又は核酸)の一文字表記(例えば、233番目のAspがGlnに置換された変異は「D233Q」)により表す。また、変異を有する特定の変異体は、分子名と変異(例えば、EndoSの233番目AspがGlnに置換された変異体は、「EndoS D233Q」)により表し、複数の変異を有する場合は、変異の間を「/」で区切る形(例えば、EndoS D233Qにおいて、303番目のGlnがLeuに置換された追加変異を有する変異体は、「EndoS D233Q/Q303L」)と表す。
【0018】
本発明において、「N297結合糖鎖」とは、IgG重鎖の297番目Asnの側鎖に結合する糖鎖を意味する。IgGを断片化した場合、当該Asnを含むペプチド断片において、対応するAsnに結合する糖鎖であっても、N297結合糖鎖に含まれる。通常、動物等で産生されたIgGにおけるN297結合糖鎖は、下記式の構造からなる基本構造を有しており、その非還元末端には、さらにGalやシアル酸が付加していてもよい。
【0021】
細胞が産生するIgGのN297結合糖鎖の多くは、この基本構造において、その還元末端のGlcNAc(コアGlcNAc)、非還元末端、分岐糖などにおいてさらに糖鎖が結合したものを含む、糖鎖構造の多様性を有している。コアGlcNAcの6位にはフコースがα1,6結合したコアフコースを有する構造((Fucα1,6)GlcNAc)に修飾されていてもよい。分岐糖であるManにおいては、その5位にさらにGlcNAcを含む糖鎖が結合した3分岐型の糖鎖を形成している場合もある。非還元末端のGlcNAcにおいては、Galやシアル酸を含む糖鎖がさらに結合している場合もある。
【0022】
本発明において、「糖鎖ドナー」とは、糖鎖の還元末端に、オキサゾリン化されたGlcNAcを有する糖鎖含有分子であり、多様な糖鎖構造の分子を用いることができる。
【0023】
創薬を目的とした糖鎖リモデリングに用いる場合、ヒトへ適用した際に問題の少ないヒト型糖鎖、又は、ヒト適合型糖鎖を有する糖鎖ドナーを採用することが好ましい。このような糖鎖は、ヒトの体内で抗原性を示さないことが知られている糖鎖であり、N結合型糖鎖では,高マンノース型、混成(ハイブリッド)型、複合(コンプレックス)型などが知られている。これら3つには共通の基本構造がある。高マンノース型は、還元末端に近い位置にあるマンノース(βマンノース)から枝分かれした2つの分岐鎖(1-3鎖、1-6鎖)に、複数のマンノースが連続したマンノースリッチ構造を有する糖鎖である。混成型とは、還元末端に近い位置にあるマンノース(βマンノース)から枝分かれした2つの分岐鎖(1-3鎖、1-6鎖)のうち、一方にGlcNAcを有する構造となったものである。複合型とは、還元末端に近い位置にあるマンノース(βマンノース)から枝分かれした2つの分岐鎖(1-3鎖、1-6鎖)にGlcNAcを有する構造となっており、ガラクトースの有無、シアルの有無、さらにこれらの結合異性や位置異性を含む多彩な構造を有するものである。(表1参照)。代表的な糖鎖ドナーは実施例2で製造されたSG-Oxa(
図1)である。
【0025】
本発明において、「アクセプター分子」とは、非還元末端にGlcNAcを有する糖構造を含む分子であり、EndoS又はその変異酵素存在下で、糖鎖ドナー分子と反応させることにより、当該非還元末端のGlcNAcの4位に糖鎖ドナー分子のオキサゾリン環が反応し、キトビオース構造を形成することができる。アクセプター分子として典型的なものは、モノクローナル抗体に由来する、コアFucが結合していてもよいコアGlcNAcのみからなるN297結合糖鎖を有するIgG又はそのFc断片である。コアGlcNAcには、その由来となる抗体又はその産生方法に応じて、コアFucが結合していてもよく、結合していなくても良い。アクセプター分子の由来としては様々なモノクローナル抗体又はFc領域含有分子(Fc、重鎖から可変領域を欠失させた定常領域のみからなるCHと軽鎖の定常領域のみからなるCLと組み合わせたCLCHなど)を利用することができるが、好ましくは(Fucα1,6)-GlcNAc-IgG、(Fucα1,6)-GlcNAc-Fc、(Fucα1,6)-GlcNAc-CLCHなどが挙げられ、代表例としては、実施例3で製造された(Fucα1,6)-GlcNAc-Trastuzumabを挙げることができる。
【0026】
本発明において、「EndoS」とは、Streptococcus pyogenesに由来するエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)の一種であり、配列番号1のアミノ酸番号37〜995(1〜36番目のアミノ酸はシグナル配列を示す)のアミノ酸配列において、233番目のアミノ酸がAspであるアミノ酸配列からなる酵素(EC 3.2.1.96、GH18)である。EndoSは、IgGに由来するFc部位のN297結合糖鎖を特異的に認識し、加水分解活性と糖転移活性を併せ持つ。EndoSの加水分解活性は上記の基本構造を有するN297結合糖鎖のコアキトビオースに含まれるβ1,4グリコシド結合を特異的に加水分解する活性(本明細書において、特に言及が無い限り、「加水分解活性」とは、この活性を意味する。反応模式図を
図2に示す。)である。EndoSの糖転移活性は、N297にコアGlcNAc(コアフコースが付加していても、付加していなくても良い)のみを有するFc部位を含むアクセプター分子に、還元末端にオキサゾリン化されたGlcNAcを有する糖鎖ドナーに由来する糖鎖の還元末端をグリコシド結合させる活性(以下、「糖転移活性」という。反応模式図を
図3に示す。)である。
【0027】
EndoSの構造は、endoglycosidase enzymatic domain(触媒ドメイン:配列番号1のアミノ酸番号98〜445)、Leucine-rich repeat domain(配列番号1のアミノ酸番号446〜631)、hybrid Ig domain(配列番号1のアミノ酸番号632〜764)、Carbohydrate-binding module(CBM:配列番号1のアミノ酸番号765〜923)、及び、three helix-bundle domain(配列番号1のアミノ酸番号924〜995)の5つのドメイン構造を有することが報告されており(B. Trastoy et al., PNAS(2014)vol111,No.18, pp6714-6719)、そのうち抗体との相互作用に重要な部位は、触媒ドメインとCBMの2つと考えられている。
【0028】
EndoSは、Group A Streptococcus(GAS)においてよく保存された酵素であるが、GASのセロタイプM49に属するNZ131から見出されたEndoS2(EndoS49と呼ばれることもある。Sjogren, Biochem J. 2013 Oct 1;455(1):107-18、US 2014/0302519 A1))は、配列同一性は37%であるものの、触媒ドメインを構成するアミノ酸のうち重要なものがよく保存されており、EndoSと類似の基質特異性を示す。本明細書において、このようなEndoSの活性領域のアミノ酸相同性/同一性を保持する酵素を、「EndoS類縁酵素」という。EndoSの重要な変異部位である、H122、D233、D279、Q303、E350、Y402、D405、及び、R406は、それぞれEndoS2においては、H75、D184、D226、Q250、E289、Y339、D342、及び、R343に対応している。EndoS2のような類縁酵素において、対応するアミノ酸が変異した変異酵素も本発明の変異酵素に含まれるものとする。
【0029】
本発明において、「EndoS D233Q」とは、野生型EndoSの233番目のAspがGlnに置換された配列(配列番号1のアミノ酸番号37〜995のアミノ酸配列)からなる酵素であり、EndoSの有する加水分解活性が一定程度抑制され、且つ、野生型と同程度の糖転移活性を保持する変異酵素である。
【0030】
<本発明の変異酵素>
本発明は、配列番号2のアミノ酸番号37〜995のアミノ酸配列において糖転移活性に必要な領域を含有するEndoS D233Qの変異酵素であって、D233Qに加えてさらに、特定の必須追加変異箇所群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む箇所に追加変異を有し、且つ、IgGのN297結合糖鎖に対する活性として、EndoS D233Qと比較して加水分解活性が低減されていることを特徴とする、EndoSの変異酵素を提供する。
【0031】
本発明において、「追加変異」とは、EndoS D233Qのアミノ酸配列において、D233以外のアミノ酸で生じる、追加のアミノ酸変異を意味する。本発明において、「必須追加変異箇所群」とは、本発明の変異酵素において、必ず追加変異される箇所の候補群であり、配列番号2のアミノ酸配列においてXaaとして示される箇所、すなわち、H122、P184、D279、Y282、Q303、Y348、E350、Y402、D405、及び、R406からなる群であるが、好ましくは、Q303、E350、及び、D405からなる群である。
【0032】
本発明の変異酵素は、EndoS D233Qよりも低減された加水分解活性、及び、一定の糖転移活性を併せ持つ(以下、両方の活性を併せ持つことを「本酵素活性」を有する、という)ことを特徴とする。変異酵素が、本酵素活性を有するか否かは、後述の実施例4の方法により、その加水分解活性及び糖転移活性を評価することができる。
【0033】
本発明の変異酵素が有する本酵素活性のうち、加水分解活性は、EndoS D233Qの加水分解活性と比較して抑制される、すなわち、実施例4に記載のpH7.4の条件における加水分解率が、反応開始から1〜48時間後までのいずれかの時間点において、EndoS D233Qの加水分解率よりも低い値を示すことであるが、好ましくは加水分解反応開始後24時間後の加水分解率が50%以下、又は、48時間後の加水分解率が60%以下であり、より好ましくは加水分解反応開始後24時間までの加水分解率が40%以下を維持するものであり、さらに好ましくは同時間まで30%以下を維持するものであり、さらにより好ましくは20%以下を維持するものであり、最も好ましくは、全ての時間点において加水分化率が0%を示し、加水分解活性を完全に消失したものである。
【0034】
本発明の変異酵素が有する本酵素活性のうち、糖転移活性は、EndoS D233Qの糖転移活性と同程度、すなわち、実施例4に記載のpH7.4、糖鎖ドナーがアクセプター分子の5等量の条件における糖転移率が、反応開始から1〜48時間後までのいずれかの時間点以降において、EndoS D233Qの糖転移率と同等かそれ以上(例えば、EndoS D233Qの値の70%以上)の糖転移率を示すことであるが、好ましくは反応開始後48時間までに糖転移率が50%を超えるものであり、より好ましくは反応開始後48時間までに糖転移率が60%を超えるものであり、さらに好ましくは反応開始後48時間までに糖転移率が80%を超えるものであり、さらにより好ましくは反応開始後48時間までに糖転移率が90%を超えるものである。
【0035】
本発明の変異酵素は、配列番号2のアミノ酸番号37〜995のアミノ酸配列において、EndoS D233Qの糖転移活性に重要な領域を保持していれば、その全長配列である必要はない。EndoSのドメイン解析から、触媒ドメイン(配列番号2のアミノ酸番号98〜445)、及び、CRM(配列番号2のアミノ酸番号765〜923)が重要であることが知られており、これらを含む限り、本発明の変異酵素として使用できる。また、EndoS2のような類縁酵素であっても、これらのドメイン領域に対応する領域を含み、対応する箇所のアミノ酸(EndoSのH122、D233、D279、Q303、E350、Y402、D405、及び、R406は、それぞれEndoS2においては、H75、D184、D226、Q250、E289、Y339、D342、及び、R343に対応している)に適宜変異を有し、且つ、本酵素活性を有する限り本発明に含まれるものとする。好ましくは、配列番号2のアミノ酸番号98〜923を含むポリペプチドであり、より好ましくは配列番号2のアミノ酸番号98〜995を含むポリペプチドであり、さらに好ましくは配列番号2のアミノ酸番号37〜995を含むポリペプチドである。
【0036】
本発明の変異酵素のアミノ酸配列において、本酵素活性に影響しない範囲で、後述の必須変異箇所以外の箇所で、1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加していてもよい。このようなアミノ酸改変の箇所としては、本酵素活性に影響しない限り、全部位を選択しても良いが、好ましくは、触媒ドメイン(配列番号2のアミノ酸番号98〜445)、及び、CRM(配列番号2のアミノ酸番号765〜923)以外の箇所であり、より好ましくは、配列番号2のアミノ酸番号37〜97又はアミノ酸番号924〜995の領域に含まれる部位である。本発明において、数個とは、20個以下であり、好ましくは10個以下であり、さらに好ましくは5個以下であり、最も好ましくは4個、3個、2個又は一個である。
【0037】
本発明の変異酵素において、D233Q以外の追加変異箇所は、必須追加変異箇所群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む箇所である。この追加変異箇所の個数は、最終的な変異体が本変異酵素が本酵素活性を有する限り特に限定されないが、好ましくは10箇所以下であり、より好ましくは5箇所以下であり、さらに好ましくは、4箇所、3箇所、2箇所又は一箇所である。複数個所に追加変異を有する場合、必須追加変異箇所群の少なくとも一つにおいて変異があれば、その他の変異箇所は、最終的な変異酵素が本酵素活性を有する限り特に限定されないが、全ての追加変異が必須追加変異箇所群であることが好ましい。必須追加変異箇所以外に追加変異を有する場合、必須追加変異箇所以外の追加変異が含まれる領域としては、酵素活性に関連する触媒ドメイン(配列番号2のアミノ酸番号98〜445)以外アミノ酸であることが好ましく、より好ましくは配列番号2のアミノ酸番号37〜97、446〜764、及び924〜995の領域であり、さらに好ましくは、配列番号2のアミノ酸番号37〜97、及び924〜995の領域である。
【0038】
本発明において、追加変異による置換後のアミノ酸は、最終的に得られる変異酵素が本酵素活性を有する限り特に限定されるものではなく、天然に存在するアミノ酸、人工的に合成されたアミノ酸、それらの修飾アミノ酸等、様々なアミノ酸を採用することができるが、好ましくは天然に存在するアミノ酸であり、より好ましくは天然に存在するL−アミノ酸であり、さらに好ましくは必須アミノ酸である。以下に、必須追加変異箇所における、好ましい変異後アミノ酸を示す。
【0039】
H122の変異後のアミノ酸は、当該部位と周囲のアミノ酸との相互作用が解消されるような、小さな側鎖構造を有するアミノ酸(Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala)、側鎖に負電価を有するアミノ酸(GluまたはAsp)または、側鎖に反応性の高い官能基を持たないアミノ酸(Leu、Ile、Pro、Met、Phe)が好ましく、より好ましくは、Ala又はPheである。
【0040】
P184の変異後のアミノ酸は、小さな側鎖構造を有するアミノ酸(Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala)又は、側鎖にアミド基を有するアミノ酸(Gln,Asn)が好ましく、より好ましくはGlnである。
【0041】
D279の変異後のアミノ酸は、小さな側鎖構造を有するアミノ酸(Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala)又はGlnが好ましく、より好ましくはSer又はGlnである。
【0042】
Y282の変異後のアミノ酸は、側鎖が塩基性のアミノ酸(Arg、Lys、His)が好ましく、より好ましくはArgである。
【0043】
Q303の変異後アミノ酸は、疎水性のアミノ酸(Met、Pro、Leu)が好ましく、より好ましくはLeuである。
【0044】
Y348の変異後アミノ酸は、側鎖に環構造を有するアミノ酸(His,Trp)が好ましく、より好ましくはHisである。
【0045】
E350の変異後アミノ酸は、水素結合をし得る大きな側鎖を有するアミノ酸(Lys、Arg、His、Tyr、Gln、Asn)又は、当該部位と周囲のアミノ酸との相互作用が解消されるような、小さな側鎖構造を有するアミノ酸(Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala)が好ましく、より好ましくは、Ala、Asn、Asp又はGlnである。
【0046】
Y402の変異後のアミノ酸は、側鎖に芳香環を持つ大きなアミノ酸、Phe又はTrpが好ましい。
【0047】
D405の変異後アミノ酸は、当該部位と周囲のアミノ酸との相互作用が解消されるような、小さな側鎖構造を有するアミノ酸(Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala)が好ましく、より好ましくはAlaである。
【0048】
R406の変異後アミノ酸は、当該部位と周囲のアミノ酸との相互作用が解消されるような、小さな側鎖構造を有するアミノ酸(Gly、Cys、Thr、Ser、Val、Pro、Ala)又は側鎖に負電荷を有するアミノ酸(Glu、Asp)、又は、側鎖にアミド基を有するアミノ酸(Gln,Asn)が好ましく、より好ましくは、Ala又はGlnである。
【0049】
上記のような必須追加変異箇所における変異は、単独であっても、他の必須追加変異箇所の変異及び/又はその他箇所の変異と組み合わされてもよい。必須追加変異箇所における変異の組み合わせとしては、どのような組み合わせでも良いが、好ましくは、少なくともQ303、E350又はD405における変異を含む組み合わせであり、より好ましくは、少なくともQ303L、E350A,E350N、E350Q又はD405Aを含む組み合わせである。
【0050】
Q303Lを含む追加変異の組み合わせとしては、例えば、H122A/Q303L、H122F/Q303L、P184Q/Q303L、D279Q/Q303L、D279S/Q303L、Y282R/Q303L、Q303L/Y348H、Q303L/E350A、Q303L/E350N、Q303L/E350D、Q303L/E350Q、Q303L/Y402F、Q303L/Y402W、Q303L/D405A、Q303L/R406Q、等を挙げることができる。
【0051】
E350Aを含む追加変異の組み合わせとしては、例えば、H122A/E350A、H122F/E350A、P184Q/E350A、D279Q/E350A、D279S/E350A、Y282R/E350A、Y348H/E350A、E350A/Y402F、E350A/Y402W、E350A/D405A、E350A/R406Q、等を挙げることができる。
【0052】
E350Nを含む追加変異の組み合わせとしては、例えば、H122A/E350N、H122F/E350N、P184Q/E350N、D279Q/E350N、D279S/E350N、Y282R/E350N、Y348H/E350N、E350N/Y402F、E350N/Y402W、E350N/D405A、E350N/R406Q、等を挙げることができる。
【0053】
E350Dを含む追加変異の組み合わせとしては、例えば、H122A/E350D、H122F/E350D、P184Q/E350D、D279Q/E350D、D279S/E350D、Y282R/E350D、Y348H/E350D、E350D/Y402F、E350D/Y402W、E350D/D405A、E350D/R406Q、等を挙げることができる。
【0054】
E350Qを含む追加変異の組み合わせとしては、例えば、H122A/E350Q、H122F/E350Q、P184Q/E350Q、D279Q/E350Q、D279S/E350Q、Y282R/E350Q、Y348H/E350Q、E350Q/Y402F、E350Q/Y402W、E350Q/D405A、E350Q/R406Q、等を挙げることができる。
【0055】
D405Aを含む追加変異の組み合わせとしては、例えば、H122A/D405A、H122F/D405A、P184Q/D405A、D279Q/D405A、D279S/D405A、Y282R/D405A、Y348H/D405A、Y402F/D405A、Y402W/D405A、又は、D405A/R406Q、等を挙げることができる。
【0056】
本発明の変異酵素として好ましいものは、EndoS D233Q/Q303L、EndoS D233Q/E350A、EndoS D233Q/E350N、EndoS D233Q/E350D,EndoS D233Q/E350Q,EndoS D233Q/D405A,EndoS D233Q/Q303L/E350A、EndoS D233Q/Q303L/E350N、EndoS D233Q/Q303L/E350D、EndoS D233Q/Q303L/E350Q、EndoS D233Q/Q303L/D405A、EndoS D233Q/E350A/D405A、EndoS D233Q/E350N/D405A、EndoS D233Q/E350D/D405A、EndoS D233Q/E350Q/D405A、又は、EndoS D233Q/Y402Fであり、より好ましくはEndoS D233Q/Q303L、EndoS D233Q/Q303L/E350Q、EndoS D233Q/Q303L/D405A、EndoS D233Q/E350A、又は、EndoS D233Q/Y402Fである。
【0057】
<遺伝子、宿主細胞、酵素産生方法>
本発明は、さらに上記のEndoS D233Qに追加変異を有する変異酵素をコードする組み換え遺伝子、当該組み換え遺伝子を含むプラスミドや発現ベクター等の遺伝子構築物、当該遺伝子構築物により形質転換された宿主細胞、当該宿主細胞の培養物から本発明の変異酵素を回収する工程を含む、本発明の変異酵素の製造方法などを提供する。これらの組み換え遺伝子、遺伝子構築物、宿主細胞糖は、本発明の変異酵素のアミノ酸配列に基づき、公知の遺伝子工学的手法に従って作成することができる。
【0058】
本発明の変異酵素をコードする組み換え遺伝子は、配列番号3のヌクレオチド番号109〜2985(1〜108はシグナルペプチドをコードする領域)に記載のEndoS D233Qのヌクレオチド配列に基づき、目的とする追加変異を含むアミノ酸配列をコードするcDNAなどのポリヌクレオチドを作成することができる。例えば、EndoS D233Q/Q303Lをコードするヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド番号109〜2985のヌクレオチド配列において、907〜909番目のヌクレオチドをCAGからCTGに置換したヌクレオチド配列である。また、EndoS D233Q/E350A(N、Q)をコードするヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド番号109〜2985のヌクレオチド配列において、1048〜1050番目のヌクレオチドをGAAからGCAに置換したヌクレオチド配列である(E350NではAAT、E350QではCAG)。また、EndoS D233Q/D405Aをコードするヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド番号109〜2985のヌクレオチド配列において、1213〜1215番目のヌクレオチドをGATからGCAに置換したヌクレオチド配列である。
【0059】
本発明の変異酵素をコードする遺伝子の導入により形質転換された宿主細胞(動物細胞、植物細胞、大腸菌、酵母など、タンパク質産生に通常用いられる細胞等を適宜選択できる)は、細胞の種類に応じて適切な条件下で培養され、その培養物からから本発明の変異酵素を回収することができる。変異酵素の回収は、当該酵素の物性を利用して、通常の精製手法を適宜組み合わせ手行うが、簡便に回収するために、予めGST等のタグペプチドを変異酵素に連結させた形で発現させるように、遺伝子構築物を設計しておくことにより、当該タグペプチドの親和性を利用した回収を行うことができる。タグペプチドは、精製後に除去してもよいが、酵素活性に影響ない場合は、タグペプヂドを連結させたままの変異酵素を、糖鎖リモデリング等の反応に使用してもよい。本発明の変異酵素には、このようなタグペプチドが連結したアミノ酸配列を有する酵素を含む。
【0060】
<糖鎖リモデリング>
本発明は、本発明のEndoS変異酵素を使用した、IgG又はFc領域含有分子におけるN297結合糖鎖の糖鎖リモデリング方法、及び、当該糖鎖リモデリングにより製造された実質的に均一な構造からなるN297結合糖鎖を有するIgG又はFc領域含有分子、を提供する。
【0061】
「糖鎖リモデリング」とは、まず、特定のモノクローナル抗体のIgG又はIgGのFc断片や定常領域のみからなるCLCH等のFc領域含有分子のN297結合糖鎖をコアGlcNAc(コアフコースが付加していてもよい)を残して切除したアクセプター分子を作製し、次いで、当該アクセプター分子のコアGlcNAcに対して、本発明のEndoS変異酵素の糖転移活性を利用して、糖鎖ドナーに由来する糖鎖を転移させることにより、N297 結合糖鎖が糖鎖ドナーに由来する均一な糖鎖構造であるIgG又はFc領域含有分子を製造する方法を意味する。
【0062】
糖鎖リモデリングに用いられるIgG又はFc領域含有分子は、同一のアミノ酸配列からなるIgG重鎖に由来し、N297結合糖鎖を有する形で産生されたものであればよく、その産生方法は限定されるものではなく、通常知られたモノクローナル抗体の生産方法により産生されたIgG、IgGのCLCH、又は、それを酵素処理して得られたFc断片などを利用することができる。また、このようなIgG又はFc断片は、異なる生産方法や異なるロットで得られたサンプルの混合物を採用してもよい。
【0063】
糖鎖リモデリングに用いるアクセプター分子の調製方法としては、上述のIgG又はFc領域含有分子を、N297結合糖鎖のコアキトビオース構造におけるGlcNAc間の1.4-グリコシド結合を特異的に加水分解する活性を保持したENGaseで処理することにより調整することができる。この場合、ENGaseとしては、EndoA、EndoD、EndoE、EndoSをはじめ様々なものを採用することができるが、好ましくは、野生型EndoSである。
【0064】
糖鎖リモデリングに用いる糖鎖ドナーとしては、様々な糖鎖構造のものを採用することができるが、リモデリング後の抗体を抗体医薬とすることを目的とした場合、ヒトが保有する糖鎖構造と類似した、又は、同一の、ヒト型糖鎖、又は、ヒト適合型糖鎖構造を有する糖鎖ドナーを採用することが好ましい。このような糖鎖ドナーの代表的なものとして、上記のN結合型糖鎖の基本構造において、コアGlcNAcが除かれ、還元末端から2番目のGlcNAcがオキサゾリン化された分子を挙げることができ、好ましくは
図1に示される構造からなるSG-Oxaである。
【0065】
糖鎖リモデリングにおける加水分解反応の反応条件はEndoSに関して通常知られた方法を採用することができる。反応は緩衝液中で行うが、クエン酸緩衝液(pH3.5〜5.5)、酢酸緩衝液(pH4.5〜6.0)、リン酸緩衝液(pH6.0〜7.5)、MOPS-NaOH緩衝液(pH6.5〜8.0)、Tris-HCl緩衝液(pH7.0〜9.0)など通常の酵素反応で用いられる緩衝液から適宜選ぶことが可能である。好ましくは、Tris-HCl緩衝液(pH7.0〜9.0)である。反応液には、酵素を安定化させる目的で、酵素反応を阻害しない添加剤を加えてもよいが、加えなくてもよい。
【0066】
反応温度は、10℃から50℃の間で、適宜選択できるが、好ましくは、25℃〜38℃である。
【0067】
反応時間は、10分から96時間の間で、適宜選択できるが、反応液の少量を経時的に採取し、加水分解の進行度を確認しながら反応の終了を判断してもよい。一般に、糖鎖加水分解反応の進行度は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、全自動電気泳動システム、あるいは液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)などによりモニタリングすることができる。本特許では、市販抗体あるいは糖鎖リモデリング抗体を重鎖と軽鎖にフラグメント化した後、全自動電気泳動システムを用いて、N297結合糖鎖が付加している重鎖側のみ保持時間が変化することで確認した。
【0068】
糖鎖リモデリングにおける糖転移反応の反応条件は、他の酵素において知られている条件に準じて適宜選択することができる。
【0069】
反応は、緩衝液中で行うが、SG−Oxaの分解を促進しないものが望ましく、りん酸緩衝液(pH6.0〜7.5)、MOPS-NaOH緩衝液(pH6.5〜8.0)、Tris-HCl緩衝液(pH7.0〜9.0)などから適宜選ぶことが可能である。好ましくは、Tris-HCl緩衝液(pH7.0〜9.0)である。酵素を安定化させる目的で、反応液中に酵素反応を阻害しない添加剤を加えてもよいが、加えなくてもよい。
【0070】
反応温度は、10℃から50℃の間で、適宜選択できるが、好ましくは25℃〜38℃である。
【0071】
反応時間は、10分から96時間の間で、適宜選択できるが、反応液の少量を経時的に採取し、糖転移反応の進行度を確認しながら反応の終了を判断してもよい。一般に、糖鎖転移反応の進行度は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、全自動電気泳動システム、あるいは液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)などによりモニタリングすることができる。本特許では、市販抗体あるいは糖鎖リモデリング抗体を重鎖と軽鎖にフラグメント化した後、全自動電気泳動システムを用いて、N297結合糖鎖が付加している重鎖側のみ保持時間が変化することで確認した。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。実施例に示されたものは、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0073】
実施例1は、本発明に使用したEndoS変異酵素の調製例である。実施例2は、本発明に使用した糖鎖ドナーの製造例である。実施例3は、糖鎖転移活性を測定する際に使用したアクセプター分子の調製例である。実施例4は、本発明のEndoS変異酵素の加水分解率の測定例と本発明のEndoS変異酵素の糖鎖転移活率の測定例である。
【0074】
本明細書に記載されているタンパク濃度は、超微量分光光度計NanoDrop1000(Thermo Fisher Scientific製)あるいはNanoDrop2000(Thermo Fisher Scientific製)を用いて定量した。
【0075】
糖鎖リモデリング抗体((Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab及び、SG-Trastuzumab)の質量は、次の方法で確認した。糖鎖リモデリング抗体を重鎖と軽鎖にフラグメント化した後に、それぞれのピークを分析カラムで分離し、質量分析した。装置には、ACUITY UPLC(Waters製)、SYNAPT G2-S(Waters)およびBEH Phenyl カラム(1.7 μm、1.0x50 mm)を使用し、移動相には0.05%トリフルオロ酢酸添加アセトニトリルを、3分間で25%から35%に変化するグラジェントにて使用し、流速0.34 μL/min、80℃にて分析した。
【0076】
<実施例1> EndoS変異酵素の反応液調製
(1−1) EndoS変異酵素のデザイン
EndoS D233Qに変異を導入することで、EndoS D233Qの糖転移活性を維持しながら、加水分解活性を抑制することが達成されると考えられる変異型EndoSを設計した。EndoSの立体構造情報(PDB ID:4NUY)に基づいて、EndoSの触媒ドメインを、糖鎖の認識に関与することが予測される部位、活性中心付近、抗体の認識に関与することが予測される部位の3部位に区別し、それぞれ変異導入の対象とした。糖鎖の認識に関与することが予測される部位としては、H122、Y348、E350、Y402、D405、及びR406の6残基を設定し、糖鎖の結合と解離の回転を効率化するために、上記のアミノ酸残基が形成する相互作用を切断するべく、あるいは上記のアミノ酸のうち大きな側鎖を持つアミノ酸残基を小さい側鎖を持つアミノ酸残基に置換するべく酵素をデザインした。活性中心付近としては、P184、D279、及びQ303を設定し、野生型のアミノ酸残基と類似した性質を持つアミノ酸、あるいは異なる性質を持つアミノ酸へ幅広く置換する変異をデザインした。抗体の認識に関与することが予測される部位としてはY282を設定し、抗体糖鎖が結合するAsn297付近の負電荷との相互作用を強めるべく、塩基性のアミノ酸へ置換する変異をデザインした。上記の3部位内、あるいは3部位間での組合せ変異も考慮し、表2の各変異酵素をデザインした。
【0077】
(1−2) EndoS変異酵素の発現
コンピテンシーが10
7cfu /μLの氷冷された大腸菌BL21(DE3)株、50 μLに対して、上記(1−1)に基づいてデザインした各EndoS変異酵素のアミノ酸配列をコードした遺伝子を含むタンパク質発現用プラスミド(pGEX4T3、50 μg/μL)を3 μL添加し、37℃で40秒間加熱することで、大腸菌を形質転換した。これら大腸菌を100 μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地で一晩培養し、翌日得られたコロニーを採取して100 μg/mLのアンピシリンを含む1 LのTB培地でO.D.600が0.8となるまで37℃で振とう培養した。O.D.600が上昇した後、培養温度を16℃に下げ、1時間後に終濃度が0.1 mMとなるようにIsopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside(IPTG)を添加することで、EndoS変異酵素の発現を一晩誘導した。翌日、培養液を5,000×Gで10分間遠心分離することで菌体を回収し、40 U/mLのDNaseI、および0.5 mg/mL Lysozymeを含むPBS バッファーを50 mL加え、菌体を再懸濁した。得られた菌液に対して超音波処理することで菌体を破砕し、20,000×gで30分間遠心分離することで可溶性画分に目的とするEndoS変異酵素を得た。
【0078】
(1−3) EndoS変異酵素の精製
上記(1−2)で得られたEndoS変異酵素の可溶性画分について孔径が0.45 μmのPVDF膜を通し、通過後の溶液をグルタチオンアフィニティークロマトグラフィーとゲルろ過クロマトグラフィーの二段階工程で精製した。
【0079】
まず、PBSで平衡化したグルタチオンセファロース4BカラムにPVDF膜通過膜を通じたEndoS変異酵素の可溶性画分を全量供じ、カラム容量の3倍以上のPBSバッファーでカラムを洗浄した。続いて10 mMの還元型グルタチオンを含むPBS バッファーでGST融合EndoS変異酵素を溶出し、限外ろ過(Amicon Ultra−15 30K)により濃縮した。濃縮後、PBSで平衡化したHiLoad 26/60 Superdex200pgカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)を通し、溶出に用いたグルタチオンを除去するとともに最終精製サンプルを得た。このように調製した各種EndoS変異酵素の収量を表2に示す。
【0080】
得られたEndoS変異酵素溶液は、2 mg/mLとなるように調製して、これらを加水分解活性測定及び糖鎖転移活性測定に用いた。
【0081】
【表2】
【0082】
<実施例2> SG-Oxa (
図1の構造からなる化合物)の反応液調製
以降の実施例で糖鎖ドナーとして使用するSG-Oxaは、以下の方法で製造した。
【0083】
ジシアロオクタサッカリド(東京化成工業(株), 100 mg, 49.5 μmol)に対して、2-クロロ-1,3-ジメチル-1H-ベンズイミダゾール-3-イウム クロリド(CDMBI)((株)伏見製薬所製)(53.7 mg, 245 μmol)の水溶液(520 μl)を加えた。氷冷後の反応液にりん酸三カリウム(158 mg, 743 μmol)の水溶液(520 μl)を加え、氷冷下で2時間攪拌した。得られた反応液を、アミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて限外ろ過し、固形物を除去した。その通過液を、ゲルろ過クロマトグラフィーにて精製した。装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはHiPrep 26/10 Desalting(GEヘルスケア製)を使用し、移動相に0.03%- NH3水溶液を使用し、流速を10 ml/min、分画容量を10 mlとした。溶出中にUV検出(220 nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、0.1N水酸化ナトリウム水溶液(100 μl)を加えて凍結乾燥し、目的とするSG-Oxaを無色固体(87.0 mg, 43.4 μmol, 収率88%)として得た。
【0084】
得られた化合物のNMRチャートから、目的物(HELVETICA CHIMICA ACTA, 2012, 95, 1928-1936)であることを確認した。
【0085】
得られたSG-Oxa(1.19 mg)に50 mMトリス緩衝液(pH7.4)(23.8 μl)を加え、50 mg/ml SG-Oxa溶液(50 mMトリス緩衝液pH7.4)を調製した。これを糖鎖転移活性測定に用いた。
【0086】
<実施例3> (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumabの調製
糖転移反応に使用するアクセプター分子として使用する(Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumabを、以下の方法で作製した。
【0087】
11.3 mg/ml Trastuzumab(Genentech社製)溶液 (50 mMトリス緩衝液pH8.0)(2 ml)に1.18 mg/ml 野生型EndoS溶液(PBS)(10 μl)を加えて、30℃で5時間インキュベートした。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーションを用いて確認した。反応終了後、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトカラムによる精製を行った。
【0088】
(1)アフィニティーカラムによる精製
精製装置:AKTA avant25(GE ヘルスケア製)
カラム:HiTrap Protein A HPカラム(5ml)(GE ヘルスケア製)
流速:5ml/min(チャージ時は1ml/min)
カラムへの結合時は、上記で得た反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20 mMりん酸緩衝液(pH7.0))を1 ml/minで1CV流し、更に5 ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20 mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5 M 塩化ナトリウム溶液)を15CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Eution buffer,PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1 M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280 nm)されたフラクションについて、超微量分光光度計NanoDrop1000(Thermo Fisher Scientific製)、及びExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。
【0089】
目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮し、緩衝液(5 mM りん酸緩衝液、50 mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液、pH6.8)交換を行った。
【0090】
(2)ハイドロキシアパタイトカラムによる精製
精製装置:AKTA avant25(GE ヘルスケア製)
カラム:Bio-Scale Mini CHT Type Iカートリッジ(5ml)(BIO-RAD製)
流速:5ml/min(チャージ時は1ml/min)
上記(1)で得られた溶液をカラムの上部へ添加し、A液(5 mM りん酸緩衝液、50 mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、pH6.8)を4CV流した。その後、A液とB液(5 mM りん酸緩衝液、50 mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、pH6.8、2 M塩化ナトリウム溶液)を用いて、溶出した。溶出条件は、A液:B液 = 100:0 〜 0:100 (15CV)である。
【0091】
溶出中にUV検出(280 nm)されたフラクションについて、超微量分光光度計NanoDrop1000(Thermo Fisher Scientific製)、及びExperion
TM電気泳動ステーション(BIO-RAD)を用いて確認した。
【0092】
目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮し、50 mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行い、9.83 mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液(りん酸緩衝液、pH6.0)(1.8 ml)が得られた。
LC-MS:
calculated for the heavy chain of (Fucα1, 6)GlcNAc-Trastuzumab, M = 49497.86 found(m/z), 49497 (deconvolution data).
calculated for the light chain of (Fucα1, 6)GlcNAc-Trastuzumab, M = 23439.1, found(m/z), 23439.1 (deconvolution data).
<実施例4> EndoS変異酵素の加水分解活性及び糖鎖転移活性の測定(pH7.4)
(4−1) 加水分解活性の測定
各種EndoS変異酵素の、市販のTrastuzumabのN297結合糖鎖に対する加水分解活性を、以下のように測定した。当該加水分解反応の模式図を
図2に示す。
【0093】
加水分解反応の基質溶液として用いる20 mg/ml Trastuzumab溶液を、次のように調製した。100 mMトリス緩衝液(pH7.4,CALBIOCHEM製)(10 ml)に、大塚蒸留水(10 ml)を加えて、50 mMトリス緩衝液(pH7.4)(40 ml)を調製した。市販のTrastuzumab(440 mg/vial、Genentech製)に付属の溶解液(20 ml)を加え、Trastuzumab(ca.21 mg/ml)溶液とした。Trastuzumab(ca.21 mg/ml)溶液(2 ml)に対して、アミコンウルトラ(ウルトラセル30K、Merck Millipore製)を用いた限外ろ過を行い、上記で調整した50 mMトリス緩衝液pH7.4で溶媒置換し、20 mg/ml Trastuzumab溶液 (50 mMトリス緩衝液pH7.4)を得た。
【0094】
上記で調製した基質溶液 (25 μl)に対して、実施例1で調製した2.0 mg/ml EndoS D233Q溶液(5 μl)を加え、30℃で48時間インキュベーションした。反応開始の1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後、及び、48時間後に、この反応液の一部を採取し、反応の進行度をExperion
TM電気泳動ステーション(BIO-RAD)を用いて測定した。測定に当っては、機器に付随している手順書に従って、測定サンプルを調製した。この過程で、採取した反応液をジチオトレイトールを含む溶液にさらして、95℃で5分間加熱する操作がある為、加水分解反応は即座に停止される。
【0095】
得られた測定サンプルをExperion
TM Pro260 Chipsに移して、Experion
TM電気泳動ステーション(BIO-RAD)に付随している手順書に従って測定した。得られたクロマトグラムより、未反応物と加水分解体が分離したピークとして確認される。未反応物と加水分解体のピーク面積比から加水分解率を、以下の算出式により算出した。
【0096】
加水分解率(% = [(Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab由来のH鎖のピーク面積] /{[市販のTrastuzumab由来のH鎖ピーク面積 + [(Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab由来のH鎖のピーク面積]}×100
同様にして、実施例1で調製した他のEndoS変異酵素の、各反応時間における加水分解率を算出した(表3)。
【0097】
(4−2) 糖鎖転移活性の測定
実施例1で作製した各種EndoS変異酵素の糖転移活性を以下の方法で測定した。糖鎖ドナーとしては、実施例2で調整したSG-Oxaを、アクセプター分子としては実施例3で調製した、(Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumabを、それぞれ用いた。糖転移反応の模式図を
図3に示す。
【0098】
実施例3で調製した9.83 mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液(りん酸緩衝液、pH6.0)から、(4−1)の基質溶液調整と同様の手法に従って、20 mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液 (50 mMトリス緩衝液pH7.4)を調製した。20 mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液 (50 mMトリス緩衝液pH7.4)(40 μl)に対して、実施例2で調製した50 mg/ml SG-Oxa溶液(50 mMトリス緩衝液pH7.4)(1.07 μl)、及び、実施例1で調製した2.0 mg/ml EndoS D233Q溶液(8 μl)を加え、30℃で48時間インキュベーションした。反応開始から、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後及び48時間後の各時点で、この反応液の一部を採取し、反応の進行度をExperion
TM電気泳動ステーションを用いて測定した。測定に当っては、機器に付随している手順書に従って、測定サンプルを調製した。この過程で、採取した反応液をジチオトレイトールを含む溶液にさらして、95℃で5分間加熱する操作がある為、糖鎖転移反応は即座に停止される。
【0099】
得られた測定サンプルをExperion
TM Pro260 Chipsに移して、Experion
TM電気泳動ステーション(BIO-RAD)に付随している手順書に従って測定した。得られたクロマトグラムより、未反応物と糖鎖転移体が分離したピークとして確認される。未反応物と糖鎖転移体のピーク面積比から糖鎖転移率を下記算出式により算出した。
【0100】
糖鎖転移率(%) = [SG-Trastuzumab由来のH鎖のピーク面積] /{[(Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab由来のH鎖ピーク面積 + [SG-Trastuzumab由来のH鎖のピーク面積]}×100
同様にして、実施例1で調製した他のEndoS変異酵素の、各反応時間における糖鎖転移率を算出した(表3)。
【0101】
糖鎖転移生成物であるSG-Trastuzumabは、実施例3における(Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumabの精製と同様の方法で精製した。得られたSG-TrastuzumabのLC-MS分析データを以下に示す。
【0102】
calculated for the heavy chain of SG-Trastuzumab, M = 51500.6 Da; found (m/z), 51501 (deconvolution data).
calculated for the light chain of SG-Trastuzumab, M = 23439.1 Da, found(m/z), 23439 (deconvolution data).
【0103】
【表3】