特許第6752207号(P6752207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特許6752207リアーゼおよび(S)−フェニルアセチルカルビノールの不斉合成方法
<>
  • 特許6752207-リアーゼおよび(S)−フェニルアセチルカルビノールの不斉合成方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752207
(24)【登録日】2020年8月20日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】リアーゼおよび(S)−フェニルアセチルカルビノールの不斉合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20200831BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20200831BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20200831BHJP
   C12P 7/26 20060101ALI20200831BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20200831BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20200831BHJP
【FI】
   C12N15/60ZNA
   C12N9/88
   C12P7/22
   C12P7/26
   !C12N1/21
   !C12N1/19
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-533687(P2017-533687)
(86)(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公表番号】特表2017-527312(P2017-527312A)
(43)【公表日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】DE2015000435
(87)【国際公開番号】WO2016041535
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2018年4月10日
(31)【優先権主張番号】102014013642.6
(32)【優先日】2014年9月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ローター・デルテ
(72)【発明者】
【氏名】ポール・マルティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ゼール・トルステン
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・リーザ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェストファル・ローベルト
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 ChemCatChem,2011年,Vol. 3,p. 1587-1596
【文献】 Adv. Synth. Catal.,2012年,Vol. 354,p. 2805-2820
【文献】 Angew. Chem. Int. Ed.,2014年 8月,Vol. 53,p. 9376-9379
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12N 9/00 − 9/99
C12P 7/00 − 7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトバクター・パストリアヌス(Acetobacter pasteurianus)由来の野生型と比べて改変されたタンパク質ApPDC−E469Gにおける468位のアミノ酸イソロイシンが、イソロイシンよりも嵩高さが低いアミノ酸によって置き換えられているリアーゼであって、
配列番号1、2または3のうちの一つのアミノ酸配列を有することを特徴とする、リアーゼ。
【請求項2】
543位のアミノ酸が、トリプトファンより小さい嵩高さを有するアミノ酸によってさらに置換されている請求項1に記載のリアーゼであって、配列番号23のアミノ酸配列を有することを特徴とする、リアーゼ。
【請求項3】
酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードし、専ら1402〜1404位のコドンが、イソロイシンよりも嵩高さが低いアミノ酸をコードするコドンによって置換されている、請求項1に記載のリアーゼをコードするデオキシリボ核酸であって、
配列番号4のヌクレオチド配列を有することを特徴とする、デオキシリボ核酸。
【請求項4】
酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードし、専ら1402〜1404位のコドンが、イソロイシンよりも嵩高さが低いアミノ酸をコードするコドンによって置換されており、さらに、1627〜1629位のコドンが、トリプトファンよりも嵩高さが低いアミノ酸をコードするコドンによって置換されている、請求項2に記載のリアーゼをコードするデオキシリボ核酸であって、
配列番号48のヌクレオチド配列を有することを特徴とする、デオキシリボ核酸。
【請求項5】
配列番号4または48のデオキシリボ核酸を含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項6】
プラスミドであることを特徴とする、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
請求項に記載の配列が、pET−20b(+)、pET−21a−d(+)、pET−22b(+)、pET−23a−d(+)、pET−24a−d(+)、pET−25b(+)、pET−26b(+)、pET−27b(+)、pET−28a(+)、pET−29a−c(+)、pET−30a−c(+)、pET−31b(+)、pET−34b(+)、pET−35b(+)、pET−36b(+)、pET−37b(+)、pET−38b(+)の群からの空のベクターに連結されていることを特徴とする、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
ベンズアルデヒドが、式(1)
【化1】
に従って、ピルビン酸またはアセトアルデヒドと共に変換される(S)−フェニルアセチルカルビノールの製造方法であって、
変換が、請求項1または2に記載のリアーゼを用いて行われることを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
pH値5〜9で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
緩衝液としてHEPES、MOPS、TEAまたはTRIS−HClが使用されることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
補因子としてチアミンリン酸および硫酸マグネシウムが使用されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
変換が、in vivoで行われることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
(S)−フェニルアセチルカルビノールの産生が、大腸菌、コリネバクテリウム、コリネバクテリウム・グルタミカム、または酵母、サッカロミセス・セレビシエの群からの産生生物において行われることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記産生生物が配列番号4もしくは48のうちの少なくとも一つのDNAで形質転換され、かつ/または配列番号4もしくは48のDNAがゲノムに組み込まれることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
形質転換のために、請求項5〜7のいずれか一つに記載のベクターが使用されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
変換が、in vitroで行われることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
配列番号1〜3または23のいずれか一つの単離された酵素が使用されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
産生生物からの粗製細胞抽出物が使用されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアーゼおよび(S)−フェニルアセチル−カルビノールの不斉合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(S)−フェニルアセチルカルビノールは、有機合成における貴重なキラル構成要素であり、ファインケミカルおよび医薬品を合成するために利用することができる。従来の技術水準によると、アキラルで安価な化合物から不斉合成により(S)−フェニルアセチルカルビノール、すなわち(S)−PACを光学純度>89%eeで生成することができる方法は全く知られていない。しかしながら、高い光学純度は、ファインケミカルまたは医薬品を製造する場合に断然重要である。
【0003】
従来技術によると、(S)−フェニルアセチルカルビノールを製造する目的で、多様な方法が公知である。
【0004】
一つには、化学合成が公知である。
不斉化学合成に基づく(S)−PACの製造方法は、68%または86%のeeを生じる。これらの方法は、刊行物Davis, Franklin A.;Sheppard, Aurelia C.;Lal, G. Sankar Tetrahedron Letters、1989年、30巻、7 779〜782頁(非特許文献1)およびAdam, Waldemar;Fell, Rainer T.;Stegmann, Veit R.;Saha−Moeller, Chantu R. Journal of the American Chemical Society、1998年、120巻、4 708〜714頁(非特許文献2)に記載されている。加えて、例えば以下の反応、例えば刊行物Toukoniitty, Esa;Maeki−Arvela, Paeivi;Kuzma, Marek;Villela, Alexandre;Kalantar Neyestanaki, Ahmad;Salmi, Tapio;Sjoeholm, Rainer;Leino, Reko;Laine, Ensio;Murzin, Dmitry Yu、Journal of Catalysis、2001年、204巻、2 281〜291頁(非特許文献3)に記載されている1−フェニルプロパン−1,2−ジオンの還元およびFleming, Steven A.;Carroll, Sean M.;Hirschi, Jennifer;Liu, Renmao;Pace, J. Lee;Redd, J. Ty Tetrahedron Letters、2004年、45巻、17 3341〜3343頁(非特許文献4)によって記載されているベンズアルデヒドに基づく合成およびBrussee, J.;Roos, E. C.;Gen, A. Van Der Tetrahedron Letters、1988年、29巻、35 4485〜4488頁(非特許文献5)によって記載されている2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトニトリルの反応におけるように、(S)−PACが副生成物としてだけ生成し、(R)−PACが鏡像体過剰で存在する方法がある。
【0005】
さらにまた、キラル構成要素1−フェニルプロパン−1,2−ジオールを(S)−PACに酸化することができる合成が記載されている。(S)−PACは、Zi−Qiang Rong、Hui−Jie Pan、Hai−Long Yan、およびYu Zhao Organic Letters、2014年16(1)、208〜211頁(非特許文献6)によって記載されたように鏡像体過剰率91%で、またはWaldemar Adam、Chantu R. Saha−Moeller、およびCong−Gui Zhao、Journal of Organic Chemistry、64(20)、7492〜7497頁;1999年(非特許文献7)によって記載されたように69%で生成するが、加えて、手間をかけて除去しなければならない位置異性体が混入する。
【0006】
さらに、2013年のAlvaro Gomez Baraibarによる標題「Development of a biocatalytic production process for (S)−alpha−hydroxy ketones」(非特許文献8)の論文に記載されている酵素的不斉合成が公知である。この論文に従って、細胞全体で合成させるために大腸菌(Escherichia coli)に異種発現させたこの酵素を使用すると、(S)−PACの光学純度は、約43%eeになる。
【0007】
(S)−PACのこの唯一の酵素的不斉合成は、ベンズアルデヒドおよびアセトアルデヒド、またはベンズアルデヒドおよびピルビン酸に基づく炭素連結反応において記載された。この反応は、469位のグルタミン酸がグリシンによって置換されている、アセトバクター・パストリアヌス(Acetobacter pasteurianus)由来酵素ピルビン酸デカルボキシラーゼ変異体であるApPDC−E469Gによって触媒される。その際、単離された酵素を用いて達成された最高の鏡像体過剰率は、Rother Nee Gocke, Doerte;Kolter, Geraldine;Gerhards, Tina;Berthold, Catrine L.;Gauchenova, Ekaterina;Knoll, Michael;Pleiss, Juergen;Mueller, Michael;Schneider, Gunter;Pohl, MartinaによってChemCatChem、2011年、3巻、10 1587〜1596頁(非特許文献9)での公表に記載されるように、89%である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Davis, Franklin A.;Sheppard, Aurelia C.;Lal, G. Sankar Tetrahedron Letters、1989年、30巻、7 779〜782頁
【非特許文献2】Adam, Waldemar;Fell, Rainer T.;Stegmann, Veit R.;Saha−Moeller, Chantu R. Journal of the American Chemical Society、1998年、120巻、4 708〜714頁
【非特許文献3】Toukoniitty, Esa;Maeki−Arvela, Paeivi;Kuzma, Marek;Villela, Alexandre;Kalantar Neyestanaki, Ahmad;Salmi, Tapio;Sjoeholm, Rainer;Leino, Reko;Laine, Ensio;Murzin, Dmitry Yu、Journal of Catalysis、2001年、204巻、2 281〜291頁
【非特許文献4】Fleming, Steven A.;Carroll, Sean M.;Hirschi, Jennifer;Liu, Renmao;Pace, J. Lee;Redd, J. Ty Tetrahedron Letters、2004年、45巻、17 3341〜3343頁
【非特許文献5】Brussee, J.;Roos, E. C.;Gen, A. Van Der Tetrahedron Letters、1988年、29巻、35 4485〜4488頁
【非特許文献6】Zi−Qiang Rong、Hui−Jie Pan、Hai−Long Yan、およびYu Zhao、Organic Letters、2014年16(1)、208〜211頁
【非特許文献7】Waldemar Adam、Chantu R. Saha−Moeller、およびCong−Gui Zhao Journal of Organic Chemistry、64(20)、7492〜7497頁;1999年
【非特許文献8】Alvaro Gomez Baraibar、「Development of a biocatalytic production process for (S)−alpha−hydroxy ketones」、2013年
【非特許文献9】Rother Nee Gocke, Doerte;Kolter, Geraldine;Gerhards, Tina;Berthold, Catrine L.;Gauchenova, Ekaterina;Knoll, Michael;Pleiss, Juergen;Mueller, Michael;Schneider, Gunter;Pohl, Martina、ChemCatChem、2011年、3巻、10 1587〜1596頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術から出発して、本発明の課題は、(S)−フェニルアセチルカルビノールを不斉合成するための代替的酵素方法であって、(S)−フェニルアセチル−カルビノールの高い鏡像体過剰率を可能にする代替的酵素方法を提供することである。細胞全体を用いて製造する場合、鏡像体過剰率は43%を超えるべきである。
さらに、副生成物も、位置異性体も形成すべきでない。その際、キラルではない安価な出発材料を使用できるべきである。(S)−フェニルアセチルカルビノールの不斉合成が可能になるべきである。キラル生成混合物の高価な分離は回避すべきである。
(S)−フェニルアセチルカルビノールをベンズアルデヒドおよびピルビン酸またはアセトアルデヒドから製造できる酵素ならびにその酵素をコードするDNAが提供されるべきである。
さらに、その酵素の製造方法が提供されるべきである。従来技術による目下の欠点および問題が、克服されるべきである。
粗製細胞抽出物または細胞全体を使用した場合にも高い鏡像体過剰率を可能にする、(S)−フェニルアセチルカルビノールの製造方法が提供されるべきである。
従来技術の欠点が、累積的に克服されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、請求項1および他の独立請求項の前提部に基づき、本発明により、これらの請求項の特徴部分に示した特徴によって解決される。本発明によると、この課題は、468位のイソロイシンが、イソロイシンと比べて減少した嵩高さ(Raumerfuellung)を有するアミノ酸によって置換されているリアーゼApPDC−E469Gの変異体によって解決される。さらに、この課題は、独立請求項に従い、ベンズアルデヒドをピルビン酸またはアセトアルデヒドと共に変換して(S)−フェニルアセチルカルビノールにするためにこのリアーゼが使用されることによって解決される。
【0011】
本発明によるリアーゼおよび(S)−フェニルアセチルカルビノールの製造方法を用いると、今や、細胞全体を使用した場合に93%ee、および粗製細胞抽出物を使用した場合に85%eeの(S)−フェニルアセチルカルビノールを製造することが可能である。副生成物、特に位置異性体は形成しない。合成をアキラル出発材料で済ませることによって、合成は格安になる。鏡像体の分割を省略することができる。(S)−フェニルアセチルカルビノールを製造する場合、粗製細胞抽出物または細胞全体を用いて高い鏡像体過剰率を達成することもできる。従来技術により記載されている全ての欠点が、累積的に取り除かれる。
【0012】
本発明の有利なさらなる発展形態は、従属請求項に記載される。
【0013】
本発明によると、アセトバクター・パストリアヌス由来の野生型と比べて改変されたタンパク質ApPDC−E469Gにおける468位のイソロイシンが、イソロイシンよりも嵩高さが低い(weniger raumerfuellend)アミノ酸によって置き換えられているリアーゼが提供される。
【0014】
このリアーゼは、(S)−フェニルアセチルカルビノールを製造する場合に立体選択性の増大にプラスの影響を及ぼす。
【0015】
好ましくは、この要件を満たす、以下のリアーゼを挙げることができる:
− 468位にグリシンを有する、配列番号1によるApPDC−E469G−I468G
− 468位にアラニンを有する、配列番号2によるApPDC−E469G−I468A
− 468位にバリンを有する、配列番号3によるApPDC−E469G−I468V
【0016】
(S)−フェニルアセチルカルビノールを製造する場合に、鏡像体過剰率を改善するために、酵素ApPDC−E469G−I468L、ApPDC−E469G−I468T、ApPDC−E469G−I468CまたはApPDC−E469G−I468Sも使用することができる。
【0017】
さらに、本発明によると、前記酵素をコードするデオキシリボ核酸が提供される。
【0018】
本発明によると、酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードするデオキシリボ核酸であって、1402〜1404位にイソロイシンと比べて嵩高さが低いアミノ酸をコードするデオキシリボ核酸が対象となる。
【0019】
この位置にアミノ酸グリシンをコードする、配列番号1による例について、1402〜1404位に例えば核酸GGTがあることができる。
【0020】
例として、配列番号1による468位にグリシンを有する酵素ApPDC−E469G−I468Gをコードする、配列番号4によるデオキシリボ核酸が記載されている。
【0021】
468位にアラニンを有する、配列番号2に従う本発明による酵素ApPDC−E469G−I468A、および位置468にバリンを有する、配列番号3に従うApPDC−E469G−I468Vのために、1402〜1404位において対応するヌクレオチドを置換することによって、それをコードするデオキシリボ核酸を提供することができる。
【0022】
本発明による酵素をコードするDNAは、当業者に公知の方法に従って定方向または非定方向変異誘発によって産生することができる。その際、定方向変異誘発が好ましい。これらの方法は、当業者に公知である。特定の明細書部分に、本発明の一実施形態についての一製造例を具体的に開示する。このアプローチは、基本的に全ての他の開示されたデオキシリボ核酸および酵素のためにも使用することができ、その結果、本発明による全ての酵素およびデオキシリボ核酸を類似の方法で製造することができる。
【0023】
デオキシリボ核酸は、ベクター、好ましくはプラスミドに連結されていることができる。
【0024】
空のベクターとして、例えばpET−20b(+)、pET−21a−d(+)、pET−22b(+)、pET−23a−d(+)、pET−24a−d(+)、pET−25b(+)、pET−26b(+)、pET−27b(+)、pET−28a(+)、pET−29a−c(+)、pET−30a−c(+)、pET−31b(+)、pET−34b(+)、pET−35b(+)、pET−36b(+)、pET−37b(+)、pET−38b(+)を使用することができ、対応する本発明によるDNAがそれらのベクターに連結される。
【0025】
あるいは、デオキシリボ核酸をゲノムに連結することもできる。
【0026】
連結したデオキシリボ核酸は、酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードするDNA配列であって、1402〜1404位にイソロイシンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をコードするDNA配列である。デオキシリボ核酸は、酵素ApPDC−E469G−I468L、ApPDC−E469G−I468T、ApPDC−E469G−I468CまたはApPDC−E469G−I468Sもコードすることができる。
【0027】
好ましくは、連結されたデオキシリボ核酸は、配列1、2および3によるタンパク質をコードする。
【0028】
本発明によると、酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードするデオキシリボ核酸であって、1402〜1404位にイソロイシンと比べて減少したまたは等しい嵩高さをもつアミノ酸をコードするデオキシリボ核酸を含むベクターを提供することができる。
【0029】
好ましくは、ベクターは、配列番号4によるデオキシリボ核酸を含む。
【0030】
好ましくは、ベクターはプラスミドである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明によるプラスミド(pET−21a(+)のベクターマップ)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
配列番号5に、例として、配列番号4によるDNAを含む本発明によるプラスミドについてのDNA配列を記載する。
【0033】
本発明によると、式(1)に従って、468位にイソロイシンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をもつ酵素ApPDC−E469Gの変異体、好ましくは配列番号1、2または3による群からの酵素を用いて、ベンズアルデヒドがピルビン酸またはアセトアルデヒドと共に変換されて、(S)−フェニルアセチルカルビノールにされる。
【0034】
【化1】
【0035】
変換は、好ましくは水溶液中で行われる。
【0036】
pH値は、5〜9、好ましくは6.5〜8、特に好ましくは6.5〜7の範囲である。
【0037】
そのために、緩衝液として例えばリン酸カリウム緩衝液、HEPES、MOPS、TEAまたはTRIS−HClを使用することができる。
【0038】
さらに、補因子としてチアミン二リン酸および硫酸マグネシウムを使用することができる。
【0039】
反応は、in vivoまたはin vitroで行うことができる。
【0040】
(S)−フェニルアセチルカルビノールのin vivo産生のために、産生生物として例えば大腸菌、コリネバクテリウム(Corynebakterium)、例えばコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebakterium glutamicum)、またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccheromycies cerevisiae)などの酵母を使用することができる。
【0041】
その際に、産生生物は、本発明によるDNAまたはそのDNAを含むベクターで形質転換される。
【0042】
DNAは、産生生物のゲノム内に導入することもできる。
【0043】
その際、組み込まれた遺伝子は、異種発現される。
【0044】
in vitro産生のために、単離された酵素または産生生物の細胞抽出物のいずれかを使用することができる。
【0045】
典型的な温度は、20℃〜40℃であり、好ましくは20℃〜30℃であり、特に好ましくは、温度20℃〜25℃である。
【0046】
反応時間は、2h〜48h、好ましくは6h〜24h、特に好ましくは12hとし得る。
【0047】
以下にいくつかの例を紹介するが、これらの例を限定的に解釈すべきではない。
【0048】
反応は、古典的な手法で反応フラスコ中で撹拌しながら行うことができる。
【0049】
(S)−PACを高い鏡像体過剰率で製造できるために、酵素ApPDC−E469Gの変異体が変異誘発により産生された。変異体ApPDC−E469G−I468Gは、粗製細胞抽出物の酵素を使用して、85%eeの(S)−PACを産生する。大腸菌で異種発現され、安価な細胞全体の触媒として使用されるApPDC−E469G−I468Gを使用して、93%eeの(S)−PACを生成することができる。
【0050】
実施例1:
20mMベンズアルデヒド、400mMピルビン酸、2.5mM硫酸マグネシウム、100μMチアミン二リン酸、20mg/mL(湿重量)、ApPDC−E469G−I468G(ApPDC−E469G−I468Gが発現されて存在した大腸菌の細胞全体)、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、25℃、反応時間:48時間。
【0051】
(S)−PACの鏡像体純度:ee93%。
収率:67%。
【0052】
実施例2:
20mMベンズアルデヒド、400mMピルビン酸、2.5mM硫酸マグネシウム、100μMチアミン二リン酸、1mg/mL ApPDC−E469G−I468G(ApPCD−E469G−I468Gが発現されて存在した大腸菌細胞の粗製細胞抽出物)、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、25℃、反応時間:48時間。
【0053】
(S)−PACの鏡像体純度:ee85%。
【0054】
以下に、本発明による酵素およびそれをコードするデオキシリボ核酸の製造を例示的に説明する。記載した方法は、基本的に他の本発明によるリアーゼおよびそれをコードするデオキシリボ核酸の製造のためにも同様に使用することができる。
【0055】
酵素変異体ApPDC−E469G−I468GのDNAの製造
「部位飽和変異誘発」
遺伝子配列ApPDC−E469G(テンプレートDNA)に基づきI468位でアミノ酸置換を受けるために、Reetsら(Reetz、Kahakeawら、2008年)の変法によるいわゆる「部位飽和変異誘発」の方法を実施した。この方法の場合、20種の天然アミノ酸のうち12種をコードするNDTコドンを使用する。
【0056】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
最初の段階で、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりテンプレートDNAを増幅し、その際、同時にいわゆる縮重プライマーおよびNDTコドンの使用により突然変異を挿入する。使用するプライマーは、「Eurofins MWG Operon」社(http://www.eurofinsgenomics.eu)に注文したものであり、以下の配列を有した:
【0057】
ApPDC−E469G−I468NDTを製造するための部位飽和変異誘発用プライマー
順方向: 5’ CCGTGGCTATGTCNDTGGCATCGCCATTC 3’(配列番号6)
逆方向: 5’ GAATGGCGATGCCAHNGACATAGCCACGG 3’(配列番号7)
【0058】
まず、マスター溶液を製造し、続いて4つの開始液にそれぞれ50μlずつ分配した。反応を開始するために、「KODホットスタートポリメラーゼ」1μlを添加した。
【0059】
PCR反応開始液:
【0060】
【表1】
【0061】
反応を以下の条件で行った:
【0062】
【表2】
【0063】
テンプレートDNAを消化するために、酵素DpnI(Eppendorf)1μlを溶液に添加し、37℃で1時間インキュベートした。次に、さらに形質転換する前に混合物全体を「DNA Purification Kit」(Chemikalienliste)で精製した。
【0064】
大腸菌BL21−DE3および大腸菌DH5αの形質転換
大腸菌株BL21−DE3および大腸菌株DH5αを、「部位飽和変異誘発」によって製造したDNAで形質転換した。このために、コンピテント細胞50μlにDNA 100ngを添加し、氷上で30分間インキュベートした。続いて、42℃で90秒間、熱ショックを行った。3分後に、氷上でSOC培地500μlを添加し、溶液をEppendorf Thermomixer中のポートで350RPMおよび37℃で45分間インキュベートした。インキュベーションを行った後、細胞懸濁物をEppendorf組織遠心分離機に入れて13,000RPMで30秒間遠心分離し、続いてペレットを上清100μl中に再懸濁した。100μlに濃縮した細胞懸濁物をLB寒天プレート(100μg/mlアンピシリン入り)上に播種し、37℃で16時間、逆さにしてインキュベートした。
【0065】
酵素変異体の発現
形質転換した個別のコロニー46個を爪楊枝でプレートから釣り上げ、48 Nerbeプレート(Nerbe Plus GmbH)のそれぞれのウェルの中でLB培地1mlと共に850RPMおよび20℃で24時間インキュベートした(「マスタープレート」)。別のウェルに、予め同様にApPDC−E469GテンプレートDNAで形質転換した大腸菌BL21−DE3細胞を接種した。インキュベートした後、48ウェルFlowerPlate(登録商標)(m2p−labs、Germany)の中の自己誘導培地1.5mlにつき細胞懸濁物10μlを入れた。FlowerPlateを20℃および850RPMで48時間インキュベートした。「マスタープレート」の残りの体積(990μl)をグリセリン300μlと混合し、−80℃で保存した。
【0066】
細胞破壊および炭素連結
FlowerPlate(登録商標)中に発現された変異体を凍結(48h、4℃)によって可溶化した。再解凍後、96ウェルプレートの2つのウェルに細胞懸濁物を500μlずつ移した(二重の測定)。プレートを4,000RPMで3分間遠心分離し、1mg/mlリゾチームを有するKPi緩衝液420μl中にペレットを再懸濁した。プレートを20℃および400RPMで1時間インキュベートし、続いて再度4,000RPMで10分間遠心分離した。それぞれ上清250μlをそれぞれ2ml−Nerbeプレートのウェル一つにピペットで入れ、40mMベンズアルデヒド、400mMピルビン酸、4mM硫酸マグネシウムおよび400μMチアミン二リン酸からの反応溶液250μlを添加した。プレートを再度24時間インキュベートし、続いて反応溶液を分析した(HPLC分析を参照されたい)。
【0067】
HPLC分析
炭素連結反応溶液200μlをそれぞれヘプタン200μlと混合し、ボルテックス撹拌し、続いて上相150μlをそれぞれHPLCバイアル中に移した。Chiralpak IC−3カラム(Chiral Technologies Inc.)を用いて、以下の方法を使用して試料の分析を行った。
【0068】
HPLCのプログラム
【0069】
【表3】
【0070】
定量のための典型的な保持時間および使用波長
【0071】
【表4】
【0072】
DNAの単離およびDNA配列決定による最良の酵素変異体の同定
炭素連結反応において(S)−PACについて最高のee値をもたらした酵素のDNAを、マスタープレートに基づき突然変異を同定するために配列決定した。そのために、まず、グリセリンと混合したマスタープレートから細胞を白金耳でLB培地(+50μg/mlアンピシリン)50mL中に移植し、250mL三角フラスコ中に入れて37℃でインキュベートした。12時間インキュベーション後に、細胞懸濁物20mLを遠心分離した(4,000RPM、5分、4℃)。ペレット中の細胞のDNAを、製造業者(Qiagen N.V.)の指示と同様に、「QIAprep(登録商標)Spin Miniprep Kit」の方法に従い単離した。その際、DNAの濃度を100ng/μlに調整し、LGC Genomics GmbH社がそのDNAを配列決定した。
【0073】
LB(溶原性ブロス)培地
【0074】
【表5】
【0075】
QuikChange(登録商標)を用いて変異体ApPDC−E469G−I468Gを製造する代替的な定方向方法
酵素変異体ApPDC−E469G/I468Gを製造する別の方法は、例えばいわゆるQuikChange(登録商標)−PCR法(米国特許第5,789,166号、同第5,932,419号、同第6,391,548号)であろう。PCRのこの変法では、置換すべきDNAトリプレットコードの位置に、対応する配列変化を有するプライマー対が使用される。酵素変異体ApPDC−E469G/I468Gを製造するために、変異体ApPDC−E469Gをコードする遺伝子を使用することができる。このいわゆるDNAテンプレートは、ベクター(例えばpET22a)中にクローニングされて存在すべきであろう。位置I468にアミノ酸トリプトファンをコードするトリプレットコードの代わりに、この位置にグリシンをコードする突然変異(すなわち:GGA、GGT、GGCまたはGGG)を有するプライマーを使用しなければならない。このQuikChange(登録商標)−PCR法の全ての他のパラメータおよび必要なプライマーの選択は、製造業者(Agilent Technologies、Inc.)の指示と同様に、「QuikChange(登録商標)Site−Directed Mutagenesis Kit」の使用説明書を用いて実施することができる。
【0076】
変異体ApPDC−E469G−I468Gを製造するためのQuikChange(登録商標)−PCR法のDNA−テンプレート(ApPDC−E469G)
ATGACCTATACTGTTGGCATGTATCTTGCAGAACGCCTTGTACAGATCGGGCTGAAGCATCACTTCGCCGTGGCGGGCGACTACAATCTCGTTCTTCTGGATCAGTTGCTCCTCAACAAGGACATGAAACAGATCTATTGCTGCAATGAGTTGAACTGTGGCTTCAGCGCGGAAGGCTACGCCCGTTCTAACGGGGCTGCGGCAGCGGTTGTCACCTTCAGCGTTGGCGCCATTTCCGCCATGAACGCCCTCGGCGGCGCCTATGCCGAAAACCTGCCGGTTATCCTGATTTCCGGCGCGCCCAACAGCAATGATCAGGGCACAGGTCATATCCTGCATCACACAATCGGCAAGACGGATTACAGCTACCAGCTTGAAATGGCCCGTCAGGTCACCTGTGCCGCCGAAAGCATTACCGACGCTCACTCCGCCCCGGCCAAGATTGACCACGTCATTCGCACGGCGCTGCGCGAGCGTAAGCCGGCCTATCTGGACATCGCGTGCAACATTGCCTCCGAGCCCTGCGTGCGGCCTGGCCCTGTCAGCAGCCTGCTGTCCGAGCCTGAAATCGACCACACGAGCCTGAAGGCCGCAGTGGACGCCACGGTTGCCTTGCTGGAAAAATCGGCCAGCCCCGTCATGCTGCTGGGCAGCAAGCTGCGGGCCGCCAACGCACTGGCCGCAACCGAAACGCTGGCAGACAAGCTGCAATGCGCGGTGACCATCATGGCGGCCGCGAAAGGCTTTTTCCCCGAAGACCACGCGGGTTTCCGCGGCCTGTACTGGGGCGAAGTCTCGAACCCCGGCGTGCAGGAACTGGTGGAGACCTCCGACGCACTGCTGTGCATCGCCCCCGTATTCAACGACTATTCAACAGTCGGCTGGTCGGCATGGCCCAAGGGCCCCAATGTGATTCTGGCTGAGCCCGACCGCGTAACGGTCGATGGCCGCGCCTATGACGGCTTTACCCTGCGCGCCTTCCTGCAGGCTCTGGCGGAAAAAGCCCCCGCGCGCCCGGCCTCCGCACAGAAAAGCAGCGTCCCGACGTGCTCGCTCACCGCGACATCCGATGAAGCCGGTCTGACGAATGACGAAATCGTCCGTCATATCAACGCCCTGCTGACATCAAACACGACGCTGGTGGCAGAAACCGGCGATTCATGGTTCAATGCCATGCGCATGACCCTGCCGCGCGGTGCGCGCGTGGAACTGGAAATGCAGTGGGGCCATATCGGCTGGTCCGTGCCCTCCGCCTTCGGCAATGCCATGGGCTCGCAGGACCGCCAGCATGTGGTGATGGTAGGCGATGGCTCCTTCCAGCTTACCGCGCAGGAAGTGGCTCAGATGGTGCGCTACGAACTGCCCGTCATTATCTTTCTGATCAACAACCGTGGCTATGTCATTGGCATCGCCATTCATGACGGCCCGTACAACTATATCAAGAACTGGGATTACGCCGGCCTGATGGAAGTCTTCAACGCCGGAGAAGGCCATGGACTTGGCCTGAAAGCCACCACCCCGAAGGAACTGACAGAAGCCATCGCCAGGGCAAAAGCCAATACCCGCGGCCCGACGCTGATCGAATGCCAGATCGACCGCACGGACTGCACGGATATGCTGGTTCAATGGGGCCGCAAGGTTGCCTCAACCAACGCGCGCAAGACCACTCTGGCCCTCGAG
【0077】
配列リストに配列番号8を有する配列を記載する。ここで配列番号8は、配列番号53による、改変されるべきタンパク質ApPDC−E469GをコードするDNAを例示的に開示するものである。しかし本発明によると、改変されるべき酵素を製造するために、改変されるべき出発タンパク質をコードする全ての他のデオキシリボ核酸を使用することができる。それをコードするヌクレオチドは、当業者に公知である。
【0078】
「細胞全体」の形態での変異体の製造
細胞全体での1L規模での酵素の発現のために、まず、グリセリンと混合したマスタープレートから細胞を白金耳でLB培地(+100μg/mlアンピシリン)50mL中に移植し、250mL三角フラスコ中で120RPMおよび37℃でインキュベートした。16時間インキュベーション後に、培養物10mLを自己誘導培地1Lに入れ、5L三角フラスコ中で90RPMおよび20℃で72時間インキュベートした。続いて細胞を遠心分離(4℃、6,000RPM、30分)によって回収し、その後の使用まで−20℃で保存した。
【0079】
自己誘導培地
【0080】
【表6】
【0081】
「細胞抽出物」の形態での変異体の製造
1L規模で培養した細胞10g(「「細胞全体」の形態での変異体の製造」参照)を、4℃に冷却した破壊緩衝液(50mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム)25mLと共に氷上で再懸濁した。続いて、再懸濁した細胞を超音波(SD14−Sonotrode(Hielscher Ultrasonics GmbH)、2分処理を4回、それぞれ氷から1分冷却する)を用いて破壊した。細胞の破片を分離するために溶液を遠心分離し(45分、18,000RPM、4℃)、上清(「細胞抽出物」)を新しい容器に移した。
【0082】
「単離された酵素」の形態での変異体の製造
固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを用いてApPDC変異体を精製するために、とりわけタンパク質のUV吸収(280nm)および電気伝導率を検出し、流速を調整する目的で、「Amersham Bioscience」社の「AEKTA(商標)精製装置」を使用した。精製するために、予めローディング緩衝液180mLで平衡化しておいた体積60mLのNi−NTA−Superflow(Qiagen N.V.)を有するカラムに、製造した細胞抽出物(「「細胞抽出物」の形態での変異体の製造」参照)25mLを流速3mL/minでロードした。続いて、カラム材料と結合していないまたは非常に弱く結合しているタンパク質を除去するために、流速5ml/minのローディング緩衝液でさらに洗浄した。UV吸収(280nm)が安定なベースラインに再び達した後、カラム材料と弱く結合しているタンパク質を溶出するために洗浄緩衝液(50mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム、50mMイミダゾール)を流速5mL/minで使用した。UV吸収(280nm)が再び安定化した後、目的タンパク質を溶出するために、溶出緩衝液(50mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム、250mMイミダゾール)を流速5mL/minで使用した。
【0083】
緩衝液交換のために、予め緩衝液交換用緩衝液(10mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム)2Lで洗浄したサイズ排除クロマトグラフィーカラム(カラム体積1L、Sephadex−G25、GE−Healthcare)にIMACの溶出液を流速10mL/minでロードした。高められたUV吸収(280nm)を有する画分を合わせ、結晶皿中で凍結させた(−20℃)。凍結乾燥するために、凍結したタンパク質溶液を0.22mBarの減圧下に3日間置いた。
【0084】
本発明の別の好都合な一形態では、本発明による酵素において、468位での本発明による置換に加えて、543位のアミノ酸トリプトファンが、トリプトファンよりも小さな嵩高さをもつアミノ酸によって置換されている。
【0085】
これらのリアーゼはその上さらに、(S)−フェニルアセチルカルビノールを製造する場合に立体選択性の増大にプラスの影響を有する。
【0086】
本発明のこの好ましい実施形態を用いて、98%eeの鏡像体過剰率を達成ことができる。
【0087】
好ましくは、この要件を満たす以下のリアーゼを挙げることができる:
− 543位にヒスチジンを有する、配列番号9に従うApPCD−E469G−I468G−W543H。
− 543位にフェニルアラニンを有する、配列番号10に従うApPCD−E469G−I468G−W543F。
− 543位にプロリンを有する、配列番号11に従うApPCD−E469G−I468G−W543P。
− 543位にイソロイシンを有する、配列番号12に従うApPCD−E469G−I468G−W543I。
− 543位にロイシンを有する、配列番号13に従うApPCD−E469G−I468G−W543L。
− 543位にメチオニンを有する、配列番号14に従うApPCD−E469G−I468G−W543M。
− 543位にバリンを有する、配列番号15に従うApPCD−E469G−I468G−W543V。
− 543位にアラニンを有する、配列番号16に従うApPCD−E469G−I468G−W543A。
− 543位にチロシンを有する、配列番号17に従うApPCD−E469G−I468G−W543Y。
− 543位にトレオニンを有する、配列番号18に従うApPCD−E469G−I468G−W543T。
− 543位にグリシンを有する、配列番号19に従うApPCD−E469G−I468G−W543G。
− 543位にセリンを有する、配列番号20に従うApPCD−E469G−I468G−W543S。
− 543位にシステインを有する、配列番号21に従うApPCD−E469G−I468G−W543C。
ならびに
− 543位にヒスチジンを有する、配列番号22に従うApPCD−E469G−I468A−W543H。
− 543位にフェニルアラニンを有する、配列番号23に従うApPCD−E469G−I468A−W543F。
− 543位にプロリンを有する、配列番号24に従うApPCD−E469G−I468A−W543P。
− 543位にイソロイシンを有する、配列番号25に従うApPCD−E469G−I468A−W543I。
− 543位にロイシンを有する、配列番号26に従うApPCD−E469G−I468A−W543L。
− 543位にメチオニンを有する、配列番号27に従うApPCD−E469G−I468A−W543M。
− 位置543にバリンを有する、配列番号28に従うApPCD−E469G−I468A−W543V。
− 543位にアラニンを有する、配列番号29に従うApPCD−E469G−I468A−W543A。
− 543位にチロシンを有する、配列番号30に従うApPCD−E469G−I468A−W543Y。
− 543位にトレオニンを有する、配列番号31に従うApPCD−E469G−I468A−W543T。
− 543位にグリシンを有する、配列番号32に従うApPCD−E469G−I468A−W543G。
− 543位にセリンを有する、配列番号33に従うApPCD−E469G−I468A−W543S。
− 543位にシステインを有する配列番号34に従うApPCD−E469G−I468A−W543C。
および
− 543位にヒスチジンを有する、配列番号35に従うApPCD−E469G−I468V−W543H。
− 543位にフェニルアラニンを有する、配列番号36に従うApPCD−E469G−I468V−W543F。
− 543位にプロリンを有する、配列番号37に従うApPCD−E469G−I468V−W543P。
− 543位にイソロイシンを有する、配列番号38に従うApPCD−E469G−I468V−W543I。
− 543位にロイシンを有する、配列番号39に従うApPCD−E469G−I468V−W543L。
− 543位にメチオニンを有する、配列番号40に従うApPCD−E469G−I468V−W543M。
− 543位にバリンを有する、配列番号41に従うApPCD−E469G−I468V−W543V。
− 543位にアラニンを有する、配列番号42に従うApPCD−E469G−I468V−W543A。
− 543位にチロシンを有する、配列番号43に従うApPCD−E469G−I468V−W543Y。
− 543位にトレオニンを有する、配列番号44に従うApPCD−E469G−I468V−W543T。
− 543位にグリシンを有する、配列番号45に従うApPCD−E469G−I468V−W543G。
− 543位にセリンを有する、配列番号46に従うApPCD−E469G−I468V−W543S。
− 543位にシステインを有する、配列番号47に従うApPCD−E469G−I468V−W543C。
【0088】
本発明によると、記載された酵素をコードする、デオキシリボ核酸がさらに提供される。
【0089】
本発明によると、酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードするデオキシリボ核酸であって、1402〜1404位にイソロイシンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をコードし、さらに、1627〜1629位にトリプトファンよりも小さな嵩高さをもつアミノ酸をコードするデオキシリボ核酸が対象となる。
【0090】
配列番号23によるタンパク質の例として、対応するデオキシリボ核酸の1402〜1404位に例えば核酸GCCが存在し、1627〜1629位に核酸TTTが存在することができる。対応するヌクレオチド配列は、配列リストの番号48に載っている。
【0091】
配列9〜47による本発明による酵素をコードするDNAは、当業者に公知の方法により、定方向または非定方向変異誘発によって産生することができる。その際、定方向変異誘発が好ましい。これらの方法は、当業者に公知である。詳細な説明の部に、本発明の一実施形態のための一製造例が具体的に開示されている。このアプローチは、基本的に全ての他の開示されたデオキシリボ核酸および酵素のためにも使用でき、そのため、全ての本発明による酵素およびデオキシリボ核酸を類似の方法で製造することができる。
【0092】
デオキシリボ核酸は、ベクター、好ましくはプラスミド中に連結することができる。
【0093】
空のベクターとして、例えばpET−20b(+)、pET−21a−d(+)、pET−22b(+)、pET−23a−d(+)、pET−24a−d(+)、pET−25b(+)、pET−26b(+)、pET−27b(+)、pET−28a(+)、pET−29a−c(+)、pET−30a−c(+)、pET−31b(+)、pET−34b(+)、pET−35b(+)、pET−36b(+)、pET−37b(+)、pET−38b(+)を使用することができ、これらのベクターに、対応する本発明のDNAが連結される。
【0094】
代替的に、デオキシリボ核酸をゲノムに連結することもできる。
【0095】
連結されたデオキシリボ核酸は、酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードするDNAであって、1402〜1404位にイソロイシンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をコードし、1627〜1629位にトリプトファンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をコードするDNAである。
【0096】
好ましくは、連結されたデオキシリボ核酸は、配列9〜47によるタンパク質をコードする。
【0097】
本発明によると、酵素変異体ApPDC−E469Gをコードし、1402〜1404位にイソロイシンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をコードし、1627〜1629位にトリプトファンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をコードするデオキシリボ核酸を含むベクターを提供することができる。
【0098】
好ましくは、ベクターは、配列番号48によるデオキシリボ核酸を含む。
【0099】
好ましくは、ベクターはプラスミドである。
【0100】
例として、配列番号49に、配列番号48によるDNAを含む、本発明によるプラスミドについての配列が記載されている。
【0101】
本発明によると、本発明の好都合な形態では、また、468位にイソロイシンと比べて減少した嵩高さをもつアミノ酸をもち、543位にトリプトファンと比べて減少した嵩高さを有するアミノ酸をもつ、酵素ApPDC−E469Gの変異体、好ましくは配列番号9〜47の群からの酵素を用いて、式(1)に従ってベンズアルデヒドがピルビン酸またはアセトアルデヒドと共に変換されて、(S)−フェニルアセチルカルビノールにされる。
【0102】
【化2】
【0103】
変換は、好ましくは水溶液中で行われる。
【0104】
pH値は、5〜9、好ましくは6.5〜8、特に好ましくは6.5〜7の範囲である。
【0105】
その際、緩衝液として、例えばリン酸カリウム緩衝液、HEPES、MOPS、TEAまたはTRIS−HClを使用することができる。
【0106】
さらに、補因子として、チアミン二リン酸および硫酸マグネシウムを使用することができる。
【0107】
反応は、in vivoまたはin vitroで実施することができる。
【0108】
(S)−フェニルアセチルカルビノールのin vivo産生のために、産生生物として例えば大腸菌、コリネバクテリウム、例えばコリネバクテリウム・グルタミカム、またはサッカロミセス・セレビシエのような酵母を使用することができる。
【0109】
その際、産生生物は、本発明によるDNAまたはそのDNAを含むベクターで形質転換される。
【0110】
DNAは、産生生物のゲノムに導入することもできる。
【0111】
その際、組み込まれた遺伝子は、異種発現される。
【0112】
in vitro産生のために、単離された酵素または産生生物の細胞抽出物のいずれかを使用することができる。
【0113】
典型的な温度は、20℃〜40℃であり、好ましくは20℃〜30℃であり、特に好ましくは、温度20℃〜25℃である。
【0114】
反応時間は、2h〜48h、好ましくは6h〜24h、特に好ましくは12hとし得る。
【0115】
以下にいくつかの例を紹介するが、それらの例を限定的に解釈すべきではない。
【0116】
反応は、古典的な手法で反応フラスコ中で撹拌しながら行うことができる。
【0117】
(S)−PACを高い鏡像体過剰率で製造できるように、酵素ApPDC−E469Gの変異体が変異誘発により産生された。変異体ApPDC−E469G−I468A−W543Fは、単離した酵素を使用して、98%eeの(S)−PACを産生する。大腸菌に異種発現され、安価な細胞全体の触媒として使用されるApPDC−E469G−I468A−W543Fを使用して、96%eeの(S)−PACを生成することができる。
【0118】
実施例3:
20mMベンズアルデヒド、400mMピルビン酸、2.5mM硫酸マグネシウム、100μMチアミン二リン酸、20mg/mL(湿重量)ApPDC−E469G−I468A−W543F(ApPDC−E469G−I468A−W543Fが発現されて存在する大腸菌の細胞全体)、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、25℃、反応時間:48時間。
【0119】
(S)−PACの鏡像体純度:ee96%
収率:73%。
【0120】
実施例4:
20mMベンズアルデヒド、400mMピルビン酸、2.5mM硫酸マグネシウム、100μMチアミン二リン酸、1mg/mL ApPDC−E469G−I468A−W543F、20mMベンズアルデヒド、400mMピルビン酸、2.5mM硫酸マグネシウム、100μMチアミン二リン酸、1mg/mL ApPDC−E469G−I468G(単離した酵素)、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、25℃、反応時間:48時間、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、25℃、反応時間:48時間。
【0121】
(S)−PACの鏡像体純度:ee98%。
収率:45%。
【0122】
ApPDC−E469G−I468A−W543からのQuikChange(登録商標)を用いた変異体ApPDC−E469G−I468A−W543Fの定方向製造方法
酵素変異体ApPDC−E469G−I468A−W543Fを製造するために、いわゆるQuikChange(登録商標)−PCR法(米国特許第5,789,166、同第5,932,419号、同第6,391,548号)を使用した。PCRのこの変法では、置換すべきDNAトリプレットコードの位置に、対応する配列変化を有するプライマー対が利用される。酵素変異体ApPDC−E469G−I468A−W543Fを製造するために、変異体ApPDC−E469G−I468A−W543をコードする遺伝子を使用した。このいわゆるDNAテンプレートは、ベクター(例えばpET22a)中にクローニングされて存在した。位置W543にアミノ酸トリプトファンをコードするトリプレットコードの代わりに、この位置にフェニルアラニンをコードする突然変異を有するプライマーを使用しなければならない(すなわち例えばTTCまたはTTT)。
【0123】
ApPDC−E469G−I468A−W543から酵素変異体ApPDC−E469G−I468A−W543Fを製造するためのQuikChange(登録商標)−PCR法のプライマー
順方向: 5’ ACCTTGCGGCCGAATTGAACCAGCATATCCGTGC 3’ (配列番号50)
逆方向: 5’ GCACGGATATGCTGGTTCAATTCGGCCGCAAGGT 3’ (配列番号51)
まず、マスター溶液を製造し、続いて4つの開始液にそれぞれ50μlずつ分配した。反応を開始するために、「PfuTurbo(登録商標)DNAポリメラーゼ」1μlを添加した。
【0124】
PCR反応開始液:
【0125】
【表7】
【0126】
反応を以下の条件で実施した:
【0127】
【表8】
【0128】
テンプレートDNAを消化するために、酵素DpnI(Eppendorf)1μlを溶液に添加し、37℃で1時間インキュベートした。次に、さらに形質転換する前に、混合物全体を「DNA Purification Kit」(Chemikalienliste)で精製した。
【0129】
このQuikChange(登録商標)−PCR法の全ての他のパラメータおよびその他の酵素変異体に必要なプライマーの選択は、製造業者(Agilent Technologies、Inc.)の指示と同様に、「QuikChange(登録商標)Site−Directed Mutagenesis Kit」の使用説明書を用いて使用することができる。
【0130】
変異体ApPDC−E469G−I468A−W543Fを製造するためのQuikChange(登録商標)−PCR法のDNAテンプレート(ApPDC−E469G−I468A)
ATGACCTATACTGTTGGCATGTATCTTGCAGAACGCCTTGTACAGATCGGGCTGAAGCATCACTTCGCCGTGGCGGGCGACTACAATCTCGTTCTTCTGGATCAGTTGCTCCTCAACAAGGACATGAAACAGATCTATTGCTGCAATGAGTTGAACTGTGGCTTCAGCGCGGAAGGCTACGCCCGTTCTAACGGGGCTGCGGCAGCGGTTGTCACCTTCAGCGTTGGCGCCATTTCCGCCATGAACGCCCTCGGCGGCGCCTATGCCGAAAACCTGCCGGTTATCCTGATTTCCGGCGCGCCCAACAGCAATGATCAGGGCACAGGTCATATCCTGCATCACACAATCGGCAAGACGGATTACAGCTACCAGCTTGAAATGGCCCGTCAGGTCACCTGTGCCGCCGAAAGCATTACCGACGCTCACTCCGCCCCGGCCAAGATTGACCACGTCATTCGCACGGCGCTGCGCGAGCGTAAGCCGGCCTATCTGGACATCGCGTGCAACATTGCCTCCGAGCCCTGCGTGCGGCCTGGCCCTGTCAGCAGCCTGCTGTCCGAGCCTGAAATCGACCACACGAGCCTGAAGGCCGCAGTGGACGCCACGGTTGCCTTGCTGGAAAAATCGGCCAGCCCCGTCATGCTGCTGGGCAGCAAGCTGCGGGCCGCCAACGCACTGGCCGCAACCGAAACGCTGGCAGACAAGCTGCAATGCGCGGTGACCATCATGGCGGCCGCGAAAGGCTTTTTCCCCGAAGACCACGCGGGTTTCCGCGGCCTGTACTGGGGCGAAGTCTCGAACCCCGGCGTGCAGGAACTGGTGGAGACCTCCGACGCACTGCTGTGCATCGCCCCCGTATTCAACGACTATTCAACAGTCGGCTGGTCGGCATGGCCCAAGGGCCCCAATGTGATTCTGGCTGAGCCCGACCGCGTAACGGTCGATGGCCGCGCCTATGACGGCTTTACCCTGCGCGCCTTCCTGCAGGCTCTGGCGGAAAAAGCCCCCGCGCGCCCGGCCTCCGCACAGAAAAGCAGCGTCCCGACGTGCTCGCTCACCGCGACATCCGATGAAGCCGGTCTGACGAATGACGAAATCGTCCGTCATATCAACGCCCTGCTGACATCAAACACGACGCTGGTGGCAGAAACCGGCGATTCATGGTTCAATGCCATGCGCATGACCCTGCCGCGCGGTGCGCGCGTGGAACTGGAAATGCAGTGGGGCCATATCGGCTGGTCCGTGCCCTCCGCCTTCGGCAATGCCATGGGCTCGCAGGACCGCCAGCATGTGGTGATGGTAGGCGATGGCTCCTTCCAGCTTACCGCGCAGGAAGTGGCTCAGATGGTGCGCTACGAACTGCCCGTCATTATCTTTCTGATCAACAACCGTGGCTATGTCGCCGGCATCGCCATTCATGACGGCCCGTACAACTATATCAAGAACTGGGATTACGCCGGCCTGATGGAAGTCTTCAACGCCGGAGAAGGCCATGGACTTGGCCTGAAAGCCACCACCCCGAAGGAACTGACAGAAGCCATCGCCAGGGCAAAAGCCAATACCCGCGGCCCGACGCTGATCGAATGCCAGATCGACCGCACGGACTGCACGGATATGCTGGTTCAATGGGGCCGCAAGGTTGCCTCAACCAACGCGCGCAAGACCACTCTGGCCCTCGAG
【0131】
ここで配列番号52は、配列番号2の改変されるべきタンパク質ApPDC−E469G−I468AをコードするDNAの例として開示されている。しかし本発明によると、改変されるべき酵素を製造するために、改変されるべき出発タンパク質をコードする全ての他のデオキシリボ核酸を使用することができる。それをコードするヌクレオチドは、当業者に公知である。
【0132】
大腸菌BL21−DE3および大腸菌DH5αの形質転換
大腸菌株BL21−DE3および大腸菌株DH5αを、「部位飽和変異誘発」によって製造されたDNAで形質転換した。このために、コンピテント細胞50μlにDNA 100ngを添加し、氷上で30分間インキュベートした。続いて、42℃で90秒間熱ショックを行った。3分後に、氷上でSOC培地500μlを添加し、溶液をEppendorf Thermomixer中のポートで350RPMおよび37℃で45分間インキュベートした。インキュベーションを行った後、細胞懸濁物をEppendorf組織遠心分離機に入れて13,000RPMで30秒間遠心分離し、続いてペレットを上清100μl中に再懸濁した。100μlに濃縮した細胞懸濁物をLB寒天プレート(100μg/mlアンピシリン入り)上に播種し、37℃で16時間、逆さにしてインキュベートした。
【0133】
DNAの単離およびDNA配列決定による最良の酵素変異体の同定
突然変異の同定のために、炭素連結反応において(S)−PACについて最高のee値をもたらした酵素のDNAをマスタープレートに基づき配列決定した。そのために、まず、グリセリンと混合したマスタープレートから細胞を白金耳でLB培地(+50μg/mlアンピシリン)50mL中に移植し、250mL三角フラスコ中に入れて37℃でインキュベートした。12時間インキュベーション後に、細胞懸濁物20mLを遠心分離した(4,000RPM、5分、4℃)。ペレット中の細胞のDNAを、製造業者(Qiagen N.V.)の指示と同様に、「QIAprep(登録商標)Spin Miniprep Kit」の方法に従い単離した。その際、DNAの濃度を100ng/μlに調整し、LGC Genomics GmbH社がそのDNAを配列決定した。
【0134】
LB(溶原性ブロス)培地
【0135】
【表9】
【0136】
「細胞全体」の形態での変異体の製造
細胞全体に1L規模で酵素を発現させるために、まず、グリセリンと混合したマスタープレートから細胞を白金耳でLB培地(+100μg/mlアンピシリン)50mL中に移植し、250mL三角フラスコ中で120RPMおよび37℃でインキュベートした。16時間インキュベーション後に、培養物10mLを自己誘導培地1Lに入れ、5L三角フラスコ中で90RPMおよび20℃で72時間インキュベートした。続いて細胞を遠心分離(4℃、6,000RPM、30分)によって回収し、その後の使用まで−20℃で保存した。
【0137】
自己誘導培地
【0138】
【表10】
【0139】
単離した酵素の形態での変異体の製造
1L規模で培養した細胞10gを、4℃に冷却した破壊緩衝液(50mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム)25mLと共に氷上で再懸濁した。続いて、再懸濁した細胞を超音波SD14−Sonotrode(Hielscher Ultrasonics GmbH)、2分処理を4回、それぞれ氷から1分冷却する)を用いて破壊した。細胞の破片を分離するために溶液を遠心分離し(45分、18,000RPM、4℃)、上清(「細胞抽出物」)を新しい容器に移した。
【0140】
固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを用いてApPDC変異体を精製するために、とりわけタンパク質のUV吸収(280nm)および電気伝導率を検出し、流速を調整する目的で「Amersham Bioscience」社の「AEKTA(商標)精製装置」を使用した。精製するために、予めローディング緩衝液180mLで平衡化しておいた体積60mLのNi−NTA−Superflow(Qiagen N.V.)を有するカラムに、製造した細胞抽出物(約25mL)を流速3mL/minでロードした。続いて、カラム材料と結合していないまたは非常に弱く結合しているタンパク質を除去するために、流速5ml/minのローディング緩衝液でさらに洗浄した。UV吸収(280nm)が安定なベースラインに再び達した後、カラム材料と弱く結合しているタンパク質を溶出するために洗浄緩衝液(50mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム、50mMイミダゾール)を流速5mL/minで使用した。UV吸収(280nm)が再び安定化した後、目的タンパク質を溶出するために、溶出緩衝液(50mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム、250mMイミダゾール)を流速5mL/minで使用した。
緩衝液交換のために、予め緩衝液交換用緩衝液(10mMリン酸カリウム(pH6.5)、100μMチアミン二リン酸、2mM硫酸マグネシウム)2Lで洗浄したサイズ排除クロマトグラフィーカラム(カラム体積1L、Sephadex−G25、GE−Health−care)にIMACの溶出液を流速10mL/minでロードした。高められたUV吸収(280nm)を有する画分を合わせ、結晶皿中で凍結させた(−20℃)。凍結乾燥するために、凍結したタンパク質溶液を0.22mBarの減圧下に3日間置いた。生成した粉末のタンパク質含量は20%であった。純度(外来タンパク質に関する目的タンパク質の割合)は、>90%であった。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.アセトバクター・パストリアヌス(Acetobacter pasteurianus)由来の野生型と比べて改変されたタンパク質ApPDC−E469Gにおける468位のアミノ酸イソロイシンが、イソロイシンよりも嵩高さが低いアミノ酸によって置き換えられていることを特徴とする、リアーゼ。
2.配列1、2または3のうちの一つのアミノ酸配列を有することを特徴とする、上記1に記載のリアーゼ。
3.543位のアミノ酸が、トリプトファンより小さい嵩高さを有するアミノ酸によってさらに置換されていることを特徴とする、上記1または2に記載のリアーゼ。
4.配列9〜47のうちの一つのアミノ酸配列を有することを特徴とする、上記3に記載のリアーゼ。
5.酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードし、1402〜1404位のコドンが、イソロイシンよりも嵩高さが低いアミノ酸をコードするコドンによって置換されていることを特徴とする、上記1または2に記載のリアーゼをコードするデオキシリボ核酸。
6.酵素ApPDC−E469Gの変異体をコードし、1402〜1404位のコドンが、イソロイシンよりも嵩高さが低いアミノ酸をコードするコドンによって置換されており、さらに、1627〜1629位のコドンが、トリプトファンよりも嵩高さが低いアミノ酸をコードするコドンによって置換されていることを特徴とする、上記3または4に記載のリアーゼをコードするデオキシリボ核酸。
7.配列4または48のヌクレオチド配列を有することを特徴とする、上記5または6に記載のデオキシリボ核酸。
8.配列4または48のデオキシリボ核酸を含むことを特徴とする、ベクター。
9.プラスミドであることを特徴とする、上記8に記載のベクター。
10.上記8に記載の配列が、pET−20b(+)、pET−21a−d(+)、pET−22b(+)、pET−23a−d(+)、pET−24a−d(+)、pET−25b(+)、pET−26b(+)、pET−27b(+)、pET−28a(+)、pET−29a−c(+)、pET−30a−c(+)、pET−31b(+)、pET−34b(+)、pET−35b(+)、pET−36b(+)、pET−37b(+)、pET−38b(+)の群からの空のベクターに連結されていることを特徴とする、上記9に記載のベクター。
11.ベンズアルデヒドが、式(1)
【化3】
に従って、ピルビン酸またはアセトアルデヒドと共に変換される(S)−フェニルアセチルカルビノールの製造方法であって、変換が、上記1〜4のいずれか一つに記載のリアーゼを用いて行われることを特徴とする、製造方法。
12.pH値5〜9で行われることを特徴とする、上記11に記載の方法。
13.緩衝液としてHEPES、MOPS、TEAまたはTRIS−HClが使用されることを特徴とする、上記11または12に記載の方法。
14.補因子としてチアミンリン酸および硫酸マグネシウムが使用されることを特徴とする、上記11〜13のいずれか一つに記載の方法。
15.変換が、in vivoで行われることを特徴とする、上記11〜14のいずれか一つに記載の方法。
16.(S)−フェニルアセチルカルビノールの産生が、大腸菌、コリネバクテリウム、コリネバクテリウム・グルタミカム、または酵母、サッカロミセス・セレビシエの群からの産生生物において行われることを特徴とする、上記15に記載の方法。
17.前記生物が配列4もしくは48のうちの少なくとも一つのDNAで形質転換され、かつ/または配列4もしくは48のDNAがゲノムに組み込まれることを特徴とする、上記15または16に記載の方法。
18.形質転換のために、上記8〜10のいずれか一つに記載のベクターが使用されることを特徴とする、上記17に記載の方法。
19.変換が、in vitroで行われることを特徴とする、上記11〜14のいずれか一つに記載の方法。
20.配列1〜3または9〜47のいずれか一つの単離された酵素が使用されることを特徴とする、上記19に記載の方法。
21.産生生物からの粗製細胞抽出物が使用されることを特徴とする、上記19に記載の方法。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]