【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
実施例1における制御装置は、副変速機付き無段変速機と呼ばれる変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1におけるエンジン車用バリエータの制御装置の構成を、「全体システム構成」、「変速マップによる変速制御構成」、「コースト走行時のプーリ圧制御処理構成」に分けて説明する。
【0012】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の制御装置が適用された副変速機付き無段変速機が搭載されたエンジン車の全体構成を示し、
図2は、変速機コントローラの内部構成を示す。以下、
図1及び
図2に基づき、全体システム構成を説明する。
なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最ロー変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最ハイ変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0013】
図1に示すエンジン車は、走行駆動源として、エンジン始動用のスタータモータ15を有するエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ9を有するトルクコンバータ2、リダクションギア対3、副変速機付き無段変速機4(以下、「自動変速機4」という。)、ファイナルギア対5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。ファイナルギア対5には、駐車時に自動変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。油圧源として、エンジン1の動力により駆動されるメカオイルポンプ10と、モータ51の動力により駆動される電動オイルポンプ50と、を備える。そして、メカオイルポンプ10又は電動オイルポンプ50からの吐出圧を調圧して自動変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12と、統合コントローラ13と、エンジンコントローラ14と、が設けられている。以下、各構成について説明する。
【0014】
前記自動変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機構30とを備える。ここで、「直列に設けられる」とは、動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギア列)を介して接続されていてもよい。
【0015】
前記バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21,22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21,22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され、固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させるプライマリ油圧シリンダ23aとセカンダリ油圧シリンダ23bを備える。プライマリ油圧シリンダ23aとセカンダリ油圧シリンダ23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21,22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0016】
前記副変速機構30は、前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)とを備える。
【0017】
前記副変速機構30の変速段は、各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると変更される。例えば、ローブレーキ32を締結し、ハイクラッチ33とリバースブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は前進1速段(以下、「低速モード」という。)となる。ハイクラッチ33を締結し、ローブレーキ32とリバースブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな前進2速段(以下、「高速モード」という。)となる。また、リバースブレーキ34を締結し、ローブレーキ32とハイクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進段となる。なお、副変速機構30のローブレーキ32とハイクラッチ33とリバースブレーキ34の全てを解放すれば、駆動輪7への駆動力伝達経路が遮断される。なお、ローブレーキ32とハイクラッチ33を、以下、「フォワードクラッチFwd/C」という。
【0018】
前記変速機コントローラ12は、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。この変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速比を制御すると共に、副変速機構30の複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)を架け替えることで所定の変速段を達成する。
【0019】
前記入力インターフェース123には、アクセルペダルの踏み込み開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、自動変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ回転速度、以下、「プライマリ回転数Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、自動変速機4のライン圧(以下、「ライン圧PL」という。)を検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ状態を検出するブレーキスイッチ46の出力信号、などが入力される。さらに、入力インターフェース123には、変速機作動油の温度を検出するCVT油温センサ48の出力信号などが入力される。
【0020】
前記記憶装置122には、自動変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(
図3)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を、出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0021】
前記油圧制御回路11は、複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り替える。
【0022】
前記統合コントローラ13は、変速機コントローラ12による変速機制御やエンジンコントローラ14によるエンジン制御などが適切に担保されるように、複数の車載コントローラの統合管理を行う。この統合コントローラ13は、変速機コントローラ12やエンジンコントローラ14などの車載コントローラとCAN通信線25を介して情報交換が可能に接続される。
【0023】
前記エンジンコントローラ14は、アクセル解放操作時におけるエンジン1のフューエルカット制御、スタータモータ15を用いてエンジン1を始動するエンジン始動制御、などを行う。このエンジンコントローラ14には、エンジン1の回転数(以下、「エンジン回転数Ne」という。)を検出するエンジン回転数センサ47の出力信号、などが入力される。
【0024】
[変速マップによる変速制御構成]
図3は、変速機コントローラの記憶装置に格納される変速マップの一例を示す。以下、
図3に基づき、変速マップによる変速制御構成を説明する。
【0025】
前記自動変速機4の動作点は、
図3に示す変速マップ上で車速VSPとプライマリ回転速度Npriとに基づき決定される。自動変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが自動変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに、副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。
この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、自動変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線F/L(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線P/L(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線C/L(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみが示されている。
【0026】
前記自動変速機4が低速モードのときには、自動変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最ロー線LL/Lと、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最ハイ線LH/Lと、の間で変速することができる。このとき、自動変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、自動変速機4が高速モードのときには、自動変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最ロー線HL/Lと、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最ハイ線HH/Lと、の間で変速することができる。このとき、自動変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0027】
前記副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最ハイ線LH/Lに対応する変速比(低速モード最ハイ変速比)が高速モード最ロー線HL/Lに対応する変速比(高速モード最ロー変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとり得る自動変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲LREと、高速モードでとり得る自動変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲HREと、が部分的に重複する。自動変速機4の動作点が高速モード最ロー線HL/Lと低速モード最ハイ線LH/Lで挟まれるB領域(重複領域)にあるときは、自動変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0028】
前記変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0029】
前記変速マップ上には、副変速機構30のアップ変速を行うモード切替アップ変速線MU/L(副変速機構30の1→2アップ変速線)が、低速モード最ハイ線LH/L上に略重なるように設定されている。モード切替アップ変速線MU/Lに対応するスルー変速比Ratioは、低速モード最ハイ線LH/L(低速モード最ハイ変速比)に略等しい。また、変速マップ上には、副変速機構30のダウン変速を行うモード切替ダウン変速線MD/L(副変速機構30の2→1ダウン変速線)が、高速モード最ロー線HL/L上に略重なるように設定されている。モード切替ダウン変速線MD/Lに対応するスルー変速比Ratioは、高速モード最ロー変速比(高速モード最ロー線HL/L)に略等しい。
【0030】
そして、自動変速機4の動作点がモード切替アップ変速線MU/L又はモード切替ダウン変速線MD/Lを横切った場合、すなわち、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替変速比mRatioを跨いで変化した場合やモード切替変速比mRatioと一致した場合には、変速機コントローラ12はモード切替変速制御を行う。このモード切替変速制御では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機構30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させるというように2つの変速を協調させる「協調制御」を行う。
【0031】
前記「協調制御」では、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替アップ変速線MU/LをB領域側からC領域側に向かって横切ったときや、B領域側からモード切替アップ変速線MU/Lと一致した場合に、変速機コントローラ12は、1→2アップ変速判定を出し、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最ハイ変速比からロー変速比に変化させる。逆に、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替ダウン変速線MD/LをB領域側からA領域側に向かって横切ったときや、B領域側からモード切替ダウン変速線MD/Lと一致した場合、変速機コントローラ12は、2→1ダウン変速判定を出し、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最ロー変速比からハイ変速比側に変化させる。
【0032】
前記モード切替アップ変速時又はモード切替ダウン変速時において、バリエータ20の変速比vRatioを変化させる「協調制御」を行う理由は、自動変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転数の変化に伴う運転者の違和感を抑えることができるとともに、副変速機構30の変速ショックを緩和することができるからである。
【0033】
さらに、
図3に示す変速マップは、アクセル開度APOがゼロ(APO=0/8)において設定されるコースト線C/Lによる第1目標プラマリ回転数Npri1(第1目標回転速度)が、アクセル開度APOが極低開度(APO=1/8)において設定されるドライブ線D/Lによる第2目標プラマリ回転数Npri2(第2目標回転速度)より高い。つまり、低負荷状態からのアクセル解放操作を行うと、目標プラマリ回転数Npri2から目標プラマリ回転数Npri1へと上昇し、目標変速比がダウンシフト方向に変更される。
【0034】
[コースト走行時のプーリ圧制御処理構成]
図4は、実施例1の変速機コントローラ12で実行されるコースト走行時のプーリ圧制御処理構成の流れを示す(制御手段)。以下、コースト走行時のプーリ圧制御処理構成をあらわす
図4の各ステップについて説明する。
【0035】
ステップS1では、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を締結しての走行中、アクセル解放操作が行われたか否かを判断する。YES(アクセルOFF)の場合はステップS2へ進み、NO(アクセルON)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
ここで、アクセル解放操作が行われたか否かの判断は、アクセル開度センサ41からのアクセル開度信号により行い、アクセル開度=0であるとき、アクセル解放操作によるコースト走行中であると判断する。また、アクセル開度APOがゼロである場合に設定されるベルト容量とは、アクセル開度APOがゼロにおけるバリエータ20への入力トルクに対して、Vベルト23の滑りが発生しないために必要なベルト容量の最小値である。
【0036】
ステップS2では、ステップS1でのアクセルOFFであるとの判断に続き、SEC指示圧とPRI指示圧に傾きをつけて指示圧を上昇し、ステップS3へ進む。
ここで、セカンダリプーリ22のベルト容量を増大するSEC指示圧の上昇タイミングと、プライマリプーリ21のベルト容量を増大するPRI指示圧の上昇タイミングとは、同じアクセルOFF判断タイミングにする。そして、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇勾配θsecは、実油圧がSEC指示圧の変化に対して追従可能な増大勾配の最大値に設定している。さらに、油圧応答性の違いがあってもバリエータ20での変速比変化を抑制するように、プライマリプーリ21におけるPRI指示圧の上昇勾配θpriは、セカンダリプーリ22におけるSEC指示圧の上昇勾配θsec(>θpri)より小さくしている。なお、上昇勾配θsecと上昇勾配θpriの差の所定値は、油圧応答性の最大バラツキを想定し、SEC実圧がPRI実圧より先に目標増大圧に到達するように決める。
【0037】
ステップS3では、ステップS2でのSEC指示圧とPRI指示圧の傾き上昇に続き、SEC指示圧が、SEC指示圧目標値に到達したか否かを判断する。YES(SEC指示圧目標値に到達)の場合はステップS4へ進み、NO(SEC指示圧目標値に未到達)の場合はステップS3の判断を繰り返す。
ここで、「SEC指示圧目標値」は、アクセル解放操作時にプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22におけるベルト容量を増大させる増大量を予め決めておき、増大開始時のSEC指示圧に、ベルト容量の増大量を得る指示圧を加えた値とする。
【0038】
ステップS4では、ステップS3でのSEC指示圧目標値に到達であるとの判断に続き、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇を停止し、ステップS5へ進む。
こここで、「SEC指示圧の上昇停止」は、次に新たな目標変速比に変わるまで停止したときのSEC指示圧を維持する。
【0039】
ステップS5では、ステップS4でのEC指示圧の上昇停止に続き、PRI指示圧が、PRI指示圧目標値に到達したか否かを判断する。YES(PRI指示圧目標値に到達)の場合はステップS6へ進み、NO(PRI指示圧目標値に未到達)の場合はステップS5の判断を繰り返す。
ここで、「PRI指示圧目標値」は、アクセル解放操作時にプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22におけるベルト容量を増大させる増大量を予め決めておき、増大開始時のPRI指示圧に、ベルト容量の増大量を得る指示圧を加えた値とする。
【0040】
ステップS6では、ステップS5でのPRI指示圧目標値に到達であるとの判断に続き、プライマリプーリ21へのPRI指示圧の上昇を停止し、エンドへ進む。
こここで、「PRI指示圧の上昇停止」は、次に新たな目標変速比に変わるまで停止したときのPRI指示圧を維持する。
【0041】
次に、作用を説明する。
実施例1のエンジン車用バリエータの制御装置における作用を、「コースト走行時のプーリ圧制御処理作用」、「コースト走行時のプーリ圧制御作用」、「コースト走行時のプーリ圧制御の特徴作用」に分けて説明する。
【0042】
[コースト走行時のプーリ圧制御処理作用]
実施例1のコースト走行時のプーリ圧制御処理作用を、
図4に示すフローチャートに基づき説明する。
【0043】
まず、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/Cを締結しての走行中、アクセル解放操作を行うと、
図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進む。ステップS2では、SEC指示圧とPRI指示圧に傾きをつけた指示圧上昇が、同じアクセルOFF判断タイミングにて開始され、SEC指示圧とPRI指示圧がそれぞれの目標値に到達するまで指示圧上昇が継続される。この指示圧上昇時、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇勾配θsecは、実油圧がSEC指示圧の変化に対して追従可能な増大勾配の最大値に設定される。一方、プライマリプーリ21におけるPRI指示圧の上昇勾配θpriは、セカンダリプーリ22におけるSEC指示圧の上昇勾配θsecより小さくされる。
【0044】
そして、SEC指示圧とPRI指示圧に傾きをつけて上昇を開始した後、先にSEC指示圧がSEC指示圧目標値に到達したと判断されると、ステップS3からステップS4→ステップS5へと進む。ステップS4では、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇が停止され、その後、上昇したSEC指示圧が維持される。
【0045】
SEC指示圧がSEC指示圧目標値に到達した後、遅れてPRI指示圧がPRI指示圧目標値に到達したと判断されると、ステップS5からステップS6へと進む。ステップS6では、プライマリプーリ21へのPRI指示圧の上昇が停止され、その後、上昇したPRI指示圧が維持される。
【0046】
このように、実施例1では、指示圧上昇の開始タイミングを同じにしたとき、バリエータ20での変速比の変化、特に、アップシフト側への変速比変化を抑制するため、PRI指示圧の上昇勾配θpriとSEC指示圧の上昇勾配θsecとを異ならせている。
【0047】
[コースト走行時のプーリ圧制御作用」
実施例1のコースト走行時のプーリ圧制御作用を、
図5(比較例)及び
図6(実施例1)に示すタイムチャートに基づき対比説明する。
【0048】
アクセル解放操作に伴いベルト容量を増大させるのは、アクセル解放操作後にブレーキペダルが踏み込まれた場合、駆動輪からベルトへの入力トルクに対して、ベルト容量不足によるベルト滑りを防止することを狙いとする。そこで、アクセル解放操作に基づき、プライマリプーリとセカンダリプーリのベルト容量を増大させるように、PRI指示圧とSEC指示圧を増大させる際、指示圧増大開始タイミングが同じで、かつ、いずれもステップ的に指示圧を上昇させるものを比較例とする。
【0049】
この比較例の場合、
図5に示すように、時刻t1にてPRI指示圧とSEC指示圧をステップ的に増大させると、油圧バラツキや動作遅れにより、セカンダリプーリへの油圧供給が遅れ、セカンダリプーリのベルト容量の増大が遅れる場合がある。つまり、時刻t3にてPRI実圧がPRI目標実圧に到達するのに対し、時刻t4にてSEC実圧がSEC目標実圧に到達する。これは、プライマリプーリのベルト容量の増大が早くなった場合にも生じる。この場合、
図5の時刻t3付近でSEC実圧とPRI実圧が一致することがあるというように、両プーリにおけるベルト容量の差分が低下したり無くなったりする。即ち、時刻t2にて目標変速比がダウンシフト方向に変更されているにもかかわらず、
図5の矢印Dで示す枠内の実変速比特性に示すように、時刻t2以降にて目標変速比と反対方向のアップシフトが生じる。
【0050】
近年、燃費向上のために低負荷(APO=極低開度)時のドライブ線D/Lを低く設定し、エンスト対策やコースト時の回生容量アップのためにコースト(APO=0)時のコースト線C/Lを高く設定することで、コースト線C/Lが低負荷時のドライブ線D/Lより高回転に設定される変速マップ(
図3)がある。このような変速マップを用いる場合、低負荷からアクセル解放操作される際に、目標変速比がダウンシフト方向に変更されるが、上記のように、アップシフトが生じる。
【0051】
このように、油圧応答性の違いによるバランス推力比の崩れにより、先にプライマリプーリのベルト容量が増大してプライマリプーリ側のベルト巻き付け径が大きくなるアップシフトが生じると、アップシフトによりCVT入力回転数が低下、つまり、エンジン回転数が低下する。このため、エンジンストールを防止すべくエンジンとバリエータとの間に配置されたロックアップクラッチが、例えば、
図5の時刻t5にて解放される。従って、ブレーキ操作が開始されるまでのコースト走行において、フューエルカットを行うことができず、燃費を向上させることができない。即ち、比較例の場合には、アクセル解放操作時刻t1からロックアップクラッチ解放時刻t5までがフューエルカット許可区間となり、ロックアップクラッチ解放時刻t5からブレーキ操作開始時刻t6までがフューエルカット禁止区間となる。
【0052】
これに対し、実施例1では、SEC指示圧とPRI指示圧に傾きをつけた指示圧上昇を、同じアクセルOFF判断タイミングにて開始し、SEC指示圧の上昇勾配θsecとPRI指示圧の上昇勾配θpriの関係を、θsec>θpriという関係にしている。
ここで、
図6において、時刻t1はアクセルOFF時刻、時刻t2は目標変速比変更時刻、時刻t3はSEC実圧の目標値到達時刻、時刻t4はPRI実圧の目標値到達時刻、時刻t5はブレーキ操作開始時刻である。
【0053】
実施例1の場合、
図6に示すように、時刻t1にてPRI指示圧とSEC指示圧に傾きをつけて上昇させると、時刻t3にてSEC実圧がSEC目標実圧に到達するのに対し、時刻t4にてPRI実圧がPRI目標実圧に到達する。つまり、セカンダリプーリ22への油圧供給によるSEC実圧がSEC目標実圧に到達する時刻t3が先行し、プライマリプーリ21への油圧供給によるPRI実圧がPRI目標実圧に到達する時刻t4が遅れる。この場合、
図6の時刻t1から時刻t4までの間でのSEC実圧とPRI実圧の関係をみると、SEC実圧>PRI実圧という関係が保たれており、両プーリ21,22におけるベルト容量の差分が確保されている。即ち、時刻t2にて目標変速比がダウンシフト方向に変更されると(
図3の点E→点F)、
図6の実変速比特性に示すように、時刻t2から時刻t4に向かって目標変速比に沿って徐々に変速が進行するダウンシフトが生じる。
【0054】
このように、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との間に油圧応答性の違いがあっても、
図6の実バランス推力比特性に示すように、時刻t2から時刻t4に向かってバランス推力比は緩やかな勾配で推移するというように安定している。そして、セカンダリプーリ側のベルト巻き付け径が大きくなる僅かなダウンシフトが生じることによりCVT入力回転数(Npri)が上昇、つまり、エンジン回転数が上昇する。このため、エンジン1とバリエータ20との間に配置されたロックアップクラッチ9の締結が維持される。従って、ブレーキ操作が開始されるまでのコースト走行において、エンジン1のフューエルカットを行うことが可能となり、燃費を向上させることができる。即ち、実施例1の場合には、アクセル解放操作時刻t1からブレーキ操作開始時刻t5までがフューエルカット許可区間となる。
【0055】
[コースト走行時のプーリ圧制御の特徴作用]
実施例1では、少なくともアクセル開度APOがゼロになると、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大に伴う変速比の変化を抑制するようプライマリプーリ21におけるベルト容量を増大する。そして、両プーリ21,22におけるベルト容量を増大する際、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大を、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大より遅くする。
ここで、実施例1のベルト容量の増大制御は、アクセル開度APOがゼロとなってから、ブレーキペダル踏み込みによる制動力が発生するまでの間に行われる。
即ち、ベルト容量の増大中にバリエータ20にバラツキや動作遅れが生じても、(セカンダリプーリ22におけるベルト容量)>(プライマリプーリ21におけるベルト容量)という関係を保つように両プーリ21,22のベルト容量差分が確保される。このようにベルト容量差分が確保されることで、ベルト容量を増大させる際にバリエータ20がアップシフト方向に変速することが防止される。このアップシフト防止により、エンジン回転数Neが低下することによるロックアップクラッチ9の解放が抑制され、エンジン1のフューエルカットが行える運転シーンが拡大される。
この結果、アクセル解放操作によるコースト走行中、フューエルカットが行える運転シーンを拡大することにより燃費が向上する。
【0056】
実施例1では、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大勾配を、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大勾配より小さくする。
従って、両プーリ21,22のベルト容量の増大勾配に差を持たせることで、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大が、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大より早くなることが防止される。
【0057】
実施例1では、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるベルト容量を増大する指示油圧開始タイミングを同じタイミングにする。プライマリプーリ21へのPRI指示圧の上昇勾配θpriを、セカンダリプーリ22への上昇勾配θsecより小さくする。
例えば、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大タイミングを、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大タイミングより遅らせることにより、PRI実圧の増大をSEC実圧の増大より遅らせることができる。しかし、この場合、遅らせる時間を計測するタイマー等が必要になる。これに対し、指示油圧開始タイミングを同じにし、両プーリ21,22のPRI指示圧の上昇勾配θpriとSEC指示圧の上昇勾配θsecに差を持たせるだけの構成になる。
従って、簡単な構成により、プライマリプーリ21におけるPRI実圧の増大が、セカンダリプーリ22におけるSEC実圧の増大より早くなることが防止される。
【0058】
実施例1では、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇勾配θsecを、SEC実圧がSEC指示圧の変化に対して追従可能な上昇勾配の最大値に設定する。
即ち、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の増大勾配を大きくしすぎると、SEC実圧の動作遅れから、SEC指示圧とSEC実圧とに差分が生じる。これは増大勾配が大きいほど大きくなる。このときのセカンダリプーリ22のSEC実圧は把握できていないため、SEC指示圧通りにSEC実圧が発生しているとして、プライマリプーリ21を制御する。これでは、意図した変速ができない。
従って、SEC実圧がSEC指示圧に追従可能な増大勾配とすることで、意図した変速を行うことができる。また、追従可能な増大勾配の最大値とすることで、極力早く変速を行うことができる。
【0059】
次に、効果を説明する。
実施例1のエンジン車用バリエータの制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0060】
(1) エンジン1と駆動輪7との間に配置され、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とベルト23を備える無段変速機構(バリエータ20)と、
エンジン1と無段変速機構(バリエータ20)との間に配置され、締結/解放が制御されるロックアップクラッチ9を備えるトルクコンバータ2と、
少なくともアクセル開度APOがゼロとなることに基づき、セカンダリプーリ22におけるベルト容量を、アクセル開度APOがゼロである場合に設定されるベルト容量より増大させる制御手段(変速機コントローラ12)と、
を備える車両用無段変速機構(エンジン車用バリエータ)の制御装置であって、
制御手段(変速機コントローラ12)は、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大に伴う変速比の変化を抑制するようプライマリプーリ21におけるベルト容量を増大させ、
プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるベルト容量を増大する際、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大を、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大より遅くする。
このため、コースト走行中、フューエルカットが行える運転シーンを拡大することにより燃費を向上させることができる。
【0061】
(2) 制御手段(変速機コントローラ12)は、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大勾配を、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大勾配より小さくする。
このため、(1)の効果に加え、両プーリ21,22のベルト容量の増大勾配に差を持たせることで、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大が、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大より早くなることを防止することができる。
【0062】
(3) 制御手段(変速機コントローラ12)は、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるベルト容量を増大する指示油圧開始タイミング(時刻t1)を同じタイミングにし、
セカンダリプーリ22への指示油圧(SEC指示圧)の上昇勾配θsecを、実油圧(SEC実圧)が指示油圧(SEC指示圧)の変化に対して追従可能な上昇勾配の最大値に設定し、プライマリプーリ21への指示油圧(PRI指示圧)の上昇勾配θpriを、セカンダリプーリ22への上昇勾配θsecより小さくする。
このため、(2)の効果に加え、簡単な構成により、プライマリプーリ21におけるPRI実圧の増大が、セカンダリプーリ22におけるSEC実圧の増大より早くなることを防止することができる。
【0063】
(4) 制御手段(変速機コントローラ12)は、セカンダリプーリ22への指示油圧(SEC指示圧)の上昇勾配θsecを、実油圧(SEC実圧)が指示油圧(SEC指示圧)の変化に対して追従可能な上昇勾配の最大値に設定する。
このため、(3)の効果に加え、実油圧(SEC実圧)が指示油圧(SEC指示圧)の変化に対して追従可能な増大勾配の最大値とすることで、意図した変速を行うことができると共に、応答良く変速を行うことができる。
【実施例2】
【0064】
実施例2は、両プーリ21,22におけるベルト容量を増大する指示油圧開始タイミングを異ならせ、両プーリ21,22への指示油圧の上昇勾配を同じにした例である。
【0065】
まず、構成を説明する。
実施例2におけるエンジン車用バリエータの制御装置の構成のうち、「全体システム構成」、「変速マップによる変速制御構成」については、実施例1の
図1〜
図3と同様であるので図示並びに説明を省略する。以下、実施例2の「コースト走行時のプーリ圧制御処理構成」について説明する。
【0066】
[コースト走行時のプーリ圧制御処理構成]
図7は、実施例2の変速機コントローラ12で実行されるコースト走行時のプーリ圧制御処理構成の流れを示す(制御手段)。以下、コースト走行時のプーリ圧制御処理構成をあらわす
図7の各ステップについて説明する。
【0067】
ステップS21では、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を締結しての走行中、アクセル解放操作が行われたか否かを判断する。YES(アクセルOFF)の場合はステップS22へ進み、NO(アクセルON)の場合はステップS21の判断を繰り返す。
【0068】
ステップS22では、ステップS21でのアクセルOFFであるとの判断に続き、SEC指示圧に傾きをつけて指示圧を上昇し、ステップS23へ進む。
ここで、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇勾配θsecは、実油圧がSEC指示圧の変化に対して追従可能な増大勾配の最大値に設定している。
【0069】
ステップS23では、ステップS22でのSEC指示圧上昇、或いは、ステップ24でのディレイタイマ≦所定値であるとの判断に続き、PRI指示圧上昇までのディレイタイマをカウントし、ステップS24へ進む。
【0070】
ステップS24では、ステップS23でのディレイタイマカウントに続き、ディレイタイマが所定値を超えたか否かを判断する。YES(ディレイタイマ>所定値)の場合はステップS25へ進み、NO(ディレイタイマ≦所定値)の場合はステップS23へ戻る。
ここで、ディレイタイマの所定値であるディレイ時間は、油圧バラツキや動作遅れがあっても、セカンダリプーリ22への油圧供給によるSEC実圧がSEC目標実圧に到達する時刻が、PRI実圧がPRI目標実圧に到達する時刻より先行する時間に設定される。
【0071】
ステップS25では、ステップS24でのディレイタイマ>所定値であるとの判断に続き、PRI指示圧に傾きをつけて指示圧を上昇し、ステップS26へ進む。
ここで、プライマリプーリ21へのPRI指示圧の上昇勾配θpriは、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇勾配θsecと同じに設定している。
【0072】
ステップS26では、ステップS25でのPRI指示圧上昇に続き、SEC指示圧が、SEC指示圧目標値に到達したか否かを判断する。YES(SEC指示圧目標値に到達)の場合はステップS27へ進み、NO(SEC指示圧目標値に未到達)の場合はステップS26の判断を繰り返す。
【0073】
ステップS27では、ステップS26でのSEC指示圧目標値に到達であるとの判断に続き、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇を停止し、ステップS28へ進む。
【0074】
ステップS28では、ステップS27でのEC指示圧の上昇停止に続き、PRI指示圧が、PRI指示圧目標値に到達したか否かを判断する。YES(PRI指示圧目標値に到達)の場合はステップS29へ進み、NO(PRI指示圧目標値に未到達)の場合はステップS28の判断を繰り返す。
【0075】
ステップS29では、ステップS28でのPRI指示圧目標値に到達であるとの判断に続き、プライマリプーリ21へのPRI指示圧の上昇を停止し、エンドへ進む。
【0076】
次に、作用を説明する。
実施例2のエンジン車用バリエータの制御装置における作用を、「コースト走行時のプーリ圧制御処理作用」、「コースト走行時のプーリ圧制御作用」、「コースト走行時のプーリ圧制御の特徴作用」に分けて説明する。
【0077】
[コースト走行時のプーリ圧制御処理作用]
実施例2のコースト走行時のプーリ圧制御処理作用を、
図7に示すフローチャートに基づき説明する。
【0078】
まず、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/Cを締結しての走行中、アクセル解放操作を行うと、
図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24へと進む。ステップS22では、SEC指示圧に傾きをつけた指示圧上昇が、アクセルOFF判断タイミングにて開始され、SEC指示圧が目標値に到達するまで指示圧上昇が継続される。このSEC指示圧が上昇している間、ステップS23では、ディレイタイマがカウントされ、ステップ24では、ディレイタイマ>所定値であるか否かが判断される。
【0079】
ステップ24において、ディレイタイマ>所定値であると判断されると、ステップS24からステップS25へ進み、ステップS25では、PRI指示圧に傾きをつけた指示圧上昇が、SEC指示圧の上昇開始からディレイ時間だけ遅れて開始される。その後、PRI指示圧の上昇は、目標値に到達するまで継続される。
【0080】
そして、SEC指示圧とPRI指示圧に同じ勾配の傾きをつけ、異なる上昇開始タイミングにて上昇させた後、先にSEC指示圧がSEC指示圧目標値に到達したと判断されると、ステップS25からステップS26→ステップS27へと進む。ステップS27では、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇が停止され、その後、上昇したSEC指示圧が維持される。
【0081】
SEC指示圧がSEC指示圧目標値に到達した後、遅れてPRI指示圧がPRI指示圧目標値に到達したと判断されると、ステップS28からステップS29へと進む。ステップS29では、プライマリプーリ21へのPRI指示圧の上昇が停止され、その後、上昇したPRI指示圧が維持される。
【0082】
このように、実施例2では、PRI指示圧の上昇勾配θpriとSEC指示圧の上昇勾配θsecとを同じにしたとき、バリエータ20での変速比の変化、特に、アップシフト側への変速比変化を抑制するため、SEC指示圧の上昇開始タイミングとPRI指示圧の上昇開始タイミングを異ならせている。
【0083】
[コースト走行時のプーリ圧制御作用」
実施例2のコースト走行時のプーリ圧制御作用を、
図8に示すタイムチャートに基づき説明する。
【0084】
実施例2では、SEC指示圧の上昇勾配θsecとPRI指示圧の上昇勾配θpriの関係を、θsec=θpriという関係にし、SEC指示圧とPRI指示圧に傾きをつけた指示圧上昇を異なるタイミングにて開始している。
ここで、
図8において、時刻t1はアクセルOFF&SEC指示圧上昇開始時刻、時刻t2は目標変速比変更時刻、時刻t3はPRI指示圧上昇開始時刻、時刻t4はSEC実圧の目標値到達時刻、時刻t5はPRI実圧の目標値到達時刻、時刻t6はブレーキ操作開始時刻である。
【0085】
実施例2の場合、
図8に示すように、時刻t1にてSEC指示圧に傾きをつけて上昇を開始させ、時刻t3にてPRI指示圧に傾きをつけて上昇を開始させる。つまり、時刻t1〜時刻t3が指示圧上昇開始のディレイ時間になる。時刻t4にてSEC実圧がSEC目標実圧に到達するのに対し、時刻t5にてPRI実圧がPRI目標実圧に到達する。つまり、セカンダリプーリ22への油圧供給によるSEC実圧がSEC目標実圧に到達する時刻t4が先行し、プライマリプーリ21への油圧供給によるPRI実圧がPRI目標実圧に到達する時刻t5が遅れる。この場合、
図8の時刻t1から時刻t5までの間でのSEC実圧とPRI実圧の関係をみると、SEC実圧>PRI実圧という関係が保たれており、両プーリ21,22におけるベルト容量の差分が確保されている。即ち、時刻t2にて目標変速比がダウンシフト方向に変更されると(
図3の点E→点F)、
図8の実変速比特性に示すように、時刻t2から時刻t5に向かって目標変速比に沿って徐々に変速が進行するダウンシフトが生じる。
【0086】
このように、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との間に油圧応答性の違いがあっても、
図8の実バランス推力比特性に示すように、時刻t2から時刻t3に向かってバランス推力比は緩やかな勾配で推移するというように安定している。そして、セカンダリプーリ側のベルト巻き付け径が大きくなる僅かなダウンシフトが生じることによりCVT入力回転数(Npri)が上昇、つまり、エンジン回転数が上昇する。このため、エンジン1とバリエータ20との間に配置されたロックアップクラッチ9の締結が維持される。従って、ブレーキ操作が開始されるまでのコースト走行において、エンジン1のフューエルカットを行うことが可能となり、燃費を向上させることができる。即ち、実施例2の場合には、アクセル解放操作時刻t1からブレーキ操作開始時刻t6までがフューエルカット許可区間となる。
【0087】
[コースト走行時のプーリ圧制御の特徴作用]
実施例2では、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大開始タイミングを、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大開始タイミングより遅くする。
従って、両プーリ21,22のベルト容量の増大開始タイミングに時間差を持たせることで、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大が、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大より早くなることが防止される。
【0088】
実施例2では、アクセル解放操作の判断時をセカンダリプーリ22への指示油圧開始タイミングとし、セカンダリプーリ22への指示油圧開始時刻からディレイ時間を持たせたタイミングをプライマリプーリ21への指示油圧開始タイミングとする。そして、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるそれぞれのPRI指示圧とSEC指示圧の上昇勾配を同じ勾配とする。
例えば、両プーリ21,22のPRI指示圧の上昇勾配θpriとSEC指示圧の上昇勾配θsecに差を持たせる場合、意図しない油圧応答の遅れなどがあると、これに対応できない可能性がある。これに対し、ディレイ時間を十分に持たせると、意図しない油圧応答の遅れなどへの対応性が高くなる。
従って、プライマリプーリ21におけるPRI実圧の増大が、セカンダリプーリ22におけるSEC実圧の増大より早くなることが確実に防止される。
【0089】
次に、効果を説明する。
実施例2のエンジン車用バリエータの制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0090】
(5) 制御手段(変速機コントローラ12)は、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大開始タイミングを、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大開始タイミングより遅くする。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、両プーリ21,22のベルト容量の増大開始タイミングに時間差を持たせることで、プライマリプーリ21におけるベルト容量の増大が、セカンダリプーリ22におけるベルト容量の増大より早くなることを防止することができる。
【0091】
(6) 制御手段(変速機コントローラ12)は、アクセル解放操作の判断時をセカンダリプーリ22への指示油圧開始タイミングとし、セカンダリプーリ22への指示油圧開始時刻からディレイ時間を持たせたタイミングをプライマリプーリ21への指示油圧開始タイミングとし、
プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるそれぞれの指示油圧(PRI指示圧、SEC指示圧)の上昇勾配を同じ勾配とする。
このため、(5)の効果に加え、プライマリプーリ21におけるベルト容量(PRI実圧)の増大が、セカンダリプーリ22におけるベルト容量(SEC実圧)の増大より早くなることを確実に防止することができる。
【実施例3】
【0092】
実施例3は、両プーリ21,22におけるベルト容量を増大する指示油圧開始タイミングを異ならせ、両プーリ21,22への指示油圧の上昇勾配をステップ特性により与える例である。
【0093】
まず、構成を説明する。
実施例3におけるエンジン車用バリエータの制御装置の構成のうち、「全体システム構成」、「変速マップによる変速制御構成」については、実施例1の
図1〜
図3と同様であるので図示並びに説明を省略する。以下、実施例3の「コースト走行時のプーリ圧制御処理構成」について説明する。
【0094】
[コースト走行時のプーリ圧制御処理構成]
図9は、実施例3の変速機コントローラ12で実行されるコースト走行時のプーリ圧制御処理構成の流れを示す(制御手段)。以下、コースト走行時のプーリ圧制御処理構成をあらわす
図9の各ステップについて説明する。
【0095】
ステップS31では、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を締結しての走行中、アクセル解放操作が行われたか否かを判断する。YES(アクセルOFF)の場合はステップS32へ進み、NO(アクセルON)の場合はステップS31の判断を繰り返す。
【0096】
ステップS32では、ステップS31でのアクセルOFFであるとの判断に続き、SEC指示圧をステップ的特性により上昇し、ステップS33へ進む。
ここで、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧上昇特性は、アクセルOFF判断時のSEC指示圧からSEC指示圧目標値まで一気に立ち上げる特性である。
【0097】
ステップS33では、ステップS32でのSEC指示圧のステップ上昇、或いは、ステップ34でのディレイタイマ≦所定値であるとの判断に続き、PRI指示圧のステップ上昇までのディレイタイマをカウントし、ステップS34へ進む。
【0098】
ステップS34では、ステップS33でのディレイタイマカウントに続き、ディレイタイマが所定値を超えたか否かを判断する。YES(ディレイタイマ>所定値)の場合はステップS35へ進み、NO(ディレイタイマ≦所定値)の場合はステップS33へ戻る。
ここで、ディレイタイマの所定値であるディレイ時間は、油圧バラツキや動作遅れがあっても、セカンダリプーリ22への油圧供給によるSEC実圧がSEC目標実圧に到達する時刻が、PRI実圧がPRI目標実圧に到達する時刻より先行する時間に設定される。
【0099】
ステップS35では、ステップS34でのディレイタイマ>所定値であるとの判断に続き、PRI指示圧をステップ的特性により上昇し、エンドへ進む。
ここで、セカンダリプーリ22へのPRI指示圧上昇特性は、ステップS34のディレイ時間経過条件が成立したときのPRI指示圧からPRI指示圧目標値まで一気に立ち上げる特性である。
【0100】
次に、作用を説明する。
実施例3のエンジン車用バリエータの制御装置における作用を、「コースト走行時のプーリ圧制御処理作用」、「コースト走行時のプーリ圧制御作用」、「コースト走行時のプーリ圧制御の特徴作用」に分けて説明する。
【0101】
[コースト走行時のプーリ圧制御処理作用]
実施例3のコースト走行時のプーリ圧制御処理作用を、
図9に示すフローチャートに基づき説明する。
【0102】
まず、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/Cを締結しての走行中、アクセル解放操作を行うと、
図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS33→ステップS34へと進む。ステップS32では、SEC指示圧のステップ的な上昇が、アクセルOFF判断タイミングにて行われ、SEC指示圧を一気に目標値に到達させる。その後、SEC指示圧に基づきSEC実圧が上昇を開始するまでの間、ステップS33では、ディレイタイマがカウントされ、ステップ34では、ディレイタイマ>所定値であるか否かが判断される。
【0103】
ステップ34において、ディレイタイマ>所定値であると判断されると、ステップS34からステップS35へ進み、ステップS35では、PRI指示圧のステップ的な上昇が、SEC指示圧のステップ的な上昇からディレイ時間だけ遅れて行われ、指示圧を一気に目標値に到達させる。
【0104】
このように、実施例3では、PRI指示圧の上昇勾配θpriとSEC指示圧の上昇勾配θsecとを同じ90度にしたとき、バリエータ20での変速比の変化、特に、アップシフト側への変速比変化を抑制するため、SEC指示圧のステップ的上昇タイミングとPRI指示圧のステップ的上昇タイミングを異ならせている。
【0105】
[コースト走行時のプーリ圧制御作用」
実施例3のコースト走行時のプーリ圧制御作用を、
図10に示すタイムチャートに基づき説明する。
【0106】
実施例3では、SEC指示圧の上昇勾配θsecとPRI指示圧の上昇勾配θpriの関係を、θsec=θpri=90度という関係にし、ステップ的特性によるSEC指示圧とPRI指示圧の出力タイミングを異ならせている。
ここで、
図10において、時刻t1はアクセルOFF&SEC指示圧出力時刻、時刻t2は目標変速比変更時刻、時刻t3はPRI指示圧出力時刻、時刻t4はSEC実圧の目標値到達時刻、時刻t5はPRI実圧の目標値到達時刻、時刻t6はブレーキ操作開始時刻である。
【0107】
実施例3の場合、
図10に示すように、時刻t1にてステップ的な特性によるSEC指示圧を出力し、時刻t3にてステップ的な特性によるPRI指示圧を出力する。つまり、時刻t1〜時刻t3が指示圧出力のディレイ時間になる。時刻t4にてSEC実圧がピーク圧に到達し、その後、SEC目標実圧に収束するのに対し、時刻t5にてPRI実圧がピーク圧に到達し、その後、PRI目標実圧に収束する。つまり、セカンダリプーリ22への油圧供給によるSEC実圧がピーク圧に到達する時刻t4が先行し、プライマリプーリ21への油圧供給によるPRI実圧がピーク圧に到達する時刻t5が遅れる。この場合、
図10の時刻t1から時刻t5までの間でのSEC実圧とPRI実圧の関係をみると、SEC実圧>PRI実圧という関係が保たれており、両プーリ21,22におけるベルト容量の差分が、実施例1,2より広く確保されている。即ち、時刻t2にて目標変速比がダウンシフト方向に変更されると(
図3の点E→点F)、
図10の実変速比特性に示すように、時刻t2から時刻t5に向かって目標変速比に向かって応答良く変速が進行するダウンシフトが生じる。この点は、
図10の実バランス推力比特性に示すように、時刻t2から時刻t4に向かってバランス推力比は少し急な勾配で推移することからも明らかである。
【0108】
そして、セカンダリプーリ側のベルト巻き付け径が大きくなるダウンシフトが速やかに生じることによりCVT入力回転数(Npri)が上昇、つまり、エンジン回転数が上昇する。このため、エンジン1とバリエータ20との間に配置されたロックアップクラッチ9の締結が維持される。従って、ブレーキ操作が開始されるまでのコースト走行において、エンジン1のフューエルカットを行うことが可能となり、燃費を向上させることができる。即ち、実施例2の場合には、アクセル解放操作時刻t1からブレーキ操作開始時刻t6までがフューエルカット許可区間となる。
【0109】
[コースト走行時のプーリ圧制御の特徴作用]
実施例3では、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるそれぞれのPRI指示圧とSEC指示圧をステップ状特性で与える。
即ち、PRI指示圧とSEC指示圧をステップ状特性で与えることで、プライマリプーリ21のベルト容量とセカンダリプーリ22のベルト容量を急速に立ち上げることができる。
従って、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22のベルト容量を増大するとき、アップシフトを確実に防止しつつ、ダウンシフトが促される。
【0110】
実施例3では、バリエータ20は、アクセル開度APOがゼロにおいて設定される第1目標プライマリ回転数Npri1が、アクセル開度APOが極低開度において設定される第2目標プライマリ回転数Npri2より高い変速マップ(
図3)にて制御する。
即ち、アクセル解放操作に伴い、SEC実圧及びPRI実圧を増大させるに際して、
図3に示すような変速マップにおいては、第2目標プライマリ回転数Npri2から第1目標プライマリ回転数Npri1へのダウンシフト要求が発生する。この際、セカンダリプーリ22のベルト容量とプライマリプーリ21のベルト容量との差分を増大させることで、ダウンシフト要求に応えるダウンシフトが行われる。
【0111】
次に、効果を説明する。
実施例3のエンジン車用バリエータの制御装置にあっては、下記の効果が得られる。
【0112】
(7) 制御手段(変速機コントローラ12)は、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるそれぞれの指示油圧(PRI指示圧、SEC指示圧)をステップ状特性で与える。
このため、(6)の効果に加え、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22のベルト容量を増大するとき、アップシフトを確実に防止しつつ、ダウンシフトを促すことができる。
【0113】
(8) 無段変速機構(バリエータ20)は、アクセル開度APOがゼロにおいて設定される第1目標回転速度(Npri1)が、アクセル開度APOが極低開度において設定される第2目標回転速度(Npri2)より高い変速マップ(
図3)にて制御する。
このため、(1)〜(7)の効果に加え、セカンダリプーリ22のベルト容量とプライマリプーリ21のベルト容量との差分を増大させることで、アクセル解放操作に伴って発生するダウンシフト要求に応えることができる。
ここで、両プーリ21,22のベルト容量の差分を増大させることは、実施例1〜実施例3の何れの制御でも可能である。このうち、実施例3にように、セカンダリプーリ22のベルト容量を増大するとき、SEC指示圧をステップ状特性で与えると、SEC実圧のオーバーシュートによる高まりで、よりダウンシフトを進行させることができる。
【0114】
以上、本発明の車両用無段変速機構の制御装置を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0115】
実施例1では、制御手段として、両プーリ21,22におけるベルト容量を増大する指示油圧開始タイミングを同じにし、両プーリ21,22への指示油圧の上昇勾配を異ならせる例を示した。実施例2では、制御手段として、両プーリ21,22におけるベルト容量を増大する指示油圧開始タイミングを異ならせ、両プーリ21,22への指示油圧の上昇勾配を同じにする例を示した。しかし、制御手段としては、実施例1と実施例2とを組み合わせ、両プーリにおけるベルト容量を増大する指示油圧開始タイミングを異ならせ、両プーリへの指示油圧の上昇勾配を異ならせる例としても良い。
【0116】
実施例1では、プライマリプーリ21へのPRI指示圧の上昇勾配θpriと、セカンダリプーリ22へのSEC指示圧の上昇勾配θsecとを予め決めた所定値で与える例を示した。しかし、上昇勾配θpriと上昇勾配θsecとしては、初期値で与えた後、学習補正により補正する例としても良い。この学習補正では、具体的には、意図したダウンシフトに対して、ダウンシフトが遅い場合は、上昇勾配θpriを大きくする、又は/及び、上昇勾配θsecを小さくする補正を行う。また、ダウンシフトが早い場合は、上昇勾配θpriを小さくする、又は/及び、上昇勾配θsecを大きくする補正を行う。
【0117】
実施例2,3では、ディレイ時間を予め決めた所定時間により与える例を示した。しかし、ディレイ時間としては、初期値で与えた後、学習補正により補正する例としても良い。この学習補正では、具体的には、意図したダウンシフトに対して、ダウンシフトが遅い場合は、ディレイ時間を長くする補正を行い、プライマリプーリにおける増大タイミングを遅くする。また、ダウンシフトが早い場合は、ディレイ時間を短くする補正を行い、プライマリプーリにおける増大タイミングを早くする。
【0118】
実施例1では、本発明の車両用無段変速機構の制御装置を、副変速機付き無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、副変速機を有さない無段変速機を搭載した車両等に適用しても良い。