特許第6752605号(P6752605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6752605生体由来液処理フィルター及びフィルターデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752605
(24)【登録日】2020年8月21日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】生体由来液処理フィルター及びフィルターデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/02 20060101AFI20200831BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20200831BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   A61M1/02 107
   A61M1/36 119
   C08F220/10
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-76310(P2016-76310)
(22)【出願日】2016年4月6日
(65)【公開番号】特開2017-185037(P2017-185037A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 覚
(72)【発明者】
【氏名】宮本 大輔
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/016163(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0190843(US,A1)
【文献】 特開2001−310917(JP,A)
【文献】 国際公開第03/011924(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0253204(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1545526(CN,A)
【文献】 特開2007−050013(JP,A)
【文献】 特開2005−034205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/02
A61M 1/36
C08F 220/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球を含む生体由来液を処理するフィルターであって、担体と、該担体に担持された共重合体とを有し、
前記共重合体が、非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位と、を含み、
前記非イオン性基を有するモノマー単位(l)と、前記塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位(m)と、前記ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位(n)と、のモル比が、前記共重合体を構成するモノマー単位のモル比の全体を100として、
l+m+n=100,
0<l,m,n<100
の関係を満たし、
前記非イオン性基を有するモノマー単位(l)と、前記塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位(m)と、前記ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位(n)と、のモル比が、l/m/n=40.0〜97.0/1.5〜32.5/1.5〜32.5であり、
前記ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位が、トリエチレングリコールメタクリル酸、及びビニルピロリドンからなる群より選ばれた少なくとも一種に由来する、
生体由来液処理フィルター。
【請求項2】
前記共重合体が、前記担体1gあたり1.0mg以上の量で担持されている、請求項1に記載の生体由来液処理フィルター。
【請求項3】
前記共重合体における前記非イオン性基を有するモノマー単位がアルコキシアルキル(メタ)アクリレートであり、前記塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位がN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートである、請求項1又は2に記載のフィルター。
【請求項4】
前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートであり、前記N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートであり、前記ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーがトリエチレングリコールメタクリル酸である、請求項3に記載のフィルター。
【請求項5】
前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートであり、前記N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートであり、前記ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーがビニルピロリドンである、請求項3に記載のフィルター。
【請求項6】
前記担体の材質が、ポリエチレンテレフタラート又はポリブチレンテレフタラートである、請求項1〜のいずれかに記載のフィルター。
【請求項7】
前記担体が不織布である、請求項1〜のいずれかに記載のフィルター。
【請求項8】
赤血球を含む生体由来液体を処理するフィルターデバイスであって、生体由来液体の入口及び出口を備えたハウジングと、前記ハウジング内に収容された請求項1〜のいずれかに記載のフィルターと、を具備するフィルターデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤血球を含む生体由来液処理フィルター及びフィルターデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
輸血分野においては、血液製剤中に含まれる混入白血球を除去した後に輸血を行う白血球除去輸血が一般的になっている。これは輸血にともなう頭痛、吐気、悪寒等の副作用や、受血者により深刻な影響を及ぼすアロ抗原感作、輸血後移植片対宿主疾患(GVHD)、及びウイルス感染等の重篤な副作用が、主として輸血に用いられた血液製剤中に混入している白血球が原因となって引き起こされることが明らかになった為である。
【0003】
血小板についても、輸血を受けた者の体内で抗血小板抗体が生成されることが明らかになり、抗血小板抗体の生成を抑制するためにも、血小板が除去された血液製剤の需要が高まる一方である。
【0004】
血液浄化の分野においても、敗血症や全身性炎症反応症候群(SIRS)をはじめとする炎症状態の患者から白血球を体外循環フィルターデバイスで除去することにより、サイトカイン、及びアラーミンといった生理活性物質の産生を抑制する事で、炎症状態を治療する白血球除去療法が注目されている。
【0005】
これら血液や血液製剤といった赤血球を含む生体由来液を処理する為のフィルターには、目標とするものの除去能力と同時に、赤血球へ溶血等の悪影響を与えないことが要求される。
【0006】
赤血球を含む生体由来液より、白血球や血小板を除去するフィルターにおいて、特許文献1は、担体表面に4級アミンのアルキルスルホン酸を含んだポリマーをコーティングし、該表面をカチオン化及び親水化することにより、白血球及び血小板の双方との相互作用を上げて、双方を効率よく除去できるというフィルター及びフィルターデバイスを開示している。
【0007】
また、特許文献2は、メチル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノエチルアクリレート等の塩基性モノマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のプロトン性中性親水性モノマーと、を含むポリマーを担体表面にコーティングすることで、白血球及び血小板を除去し、血液のプライミング性に優れるというフィルター及びフィルターデバイスを開示している。
【0008】
特許文献3は、ポリマーがカチオン性であることによる赤血球へのダメージを抑えるために、カチオン性モノマーの影響を緩和し、溶血を防ぐための非イオン性モノマーをポリマー組成として加えた3元系ポリマーで担体表面をコーティングすることにより、白血球除去性能、及び溶血防止性を両立させるという技術を開示している。また、特許文献4は、同様の考え方によって、酸性官能基を側鎖に有するモノマーをポリマー組成として加えた3元系ポリマーで担体表面をコーティングする事で、白血球除去能、及び溶血防止性を両立させるという技術を開示している。
【0009】
非特許文献1は、ホモポリマーで破壊された水分子間の水素結合の数(モノマー単位当たり)を表すN値を開示している。非特許文献2は、一般的に、材料表面と血球との相互作用力は、赤血球<白血球<血小板の順に大きくなることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−197814号公報
【特許文献2】特許4252449号公報
【特許文献3】特開平8−281100号公報
【特許文献4】国際公開第2006/016163号公報
【特許文献5】国際公開第2006/016166号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】T. Terada, "Raman Spectroscopic Study on Water in Polymer Gels," J. Phys. Chem., 97, p3619-3622,1993
【非特許文献2】Y. Rabinowitz, "Separation of Lymphocytes, Polymorphonuclear Leukocytes and Monocytes on Glass Columns, Including Tissue Culture Observatins," Blood, Vol. 23, No.6, p811-828,1964
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、赤血球を含む生体由来液を、赤血球へ悪影響を与えずに処理することのできる、生体由来液処理フィルター及びフィルターデバイスを提供する事を目的とする。
【0013】
特許文献1に開示された発明は、4級アミンのアルキルスルホン酸塩を含むモノマーを、また特許文献2に開示された発明は、塩基性含窒素官能基を含むモノマーとプロトン性中性親水基を含むモノマーとを含有するポリマーを、担体表面にコーティングすることにより、親水性を向上させてフィルターへの濡れ性改善を試み、白血球除去性能、及び血小板除去性能の向上を目指している。しかしながら、本発明者らが特許文献1及び2に記載のフィルターで血液を処理したところ、フィルターへの赤血球付着や赤血球の溶血の問題があった。
【0014】
特許文献3は、塩基性官能基及び酸性官能基の両方を別々のモノマーにて導入した表面により白血球除去性能を向上させる技術を開示しているが、赤血球の溶血性については言及がない。また、特許文献3は、塩基性官能基及び酸性官能基を導入する方法として両性化学種であるモノマーを用いることが一手段として言及しているが、両性化学種を用いた場合に、塩基性官能基と酸性官能基を別々のモノマーによって導入した場合と同じく白血球除去性能を向上できることは開示していない。本発明者らが、塩基性官能基と酸性官能基の両方を有するメタクリル酸エチルベタインを導入した表面を評価したところ、白除能の向上は認められなかった。
【0015】
また、一般にポリマーのアニオン性が高まると、つまりポリマー中の塩基性含窒素官能基を有するモノマー含有率が高くなるほど、血球との相互作用が強くなるとされている。これに対し、特許文献4は、塩基性含窒素官能基のアニオン性を緩和する為にポリマーの第3の成分として、DEGMEMA(ジエチレングリコールメトキシエチルメタクリレート)等の非イオン性モノマーを加えた3元系ポリマーで担体表面をコーティングすることで、赤血球と表面との非特異相互作用を減らすことにより塩基性含窒素官能基のアニオン性を緩和し、白血球除去能と溶血防止性の両立を試みているが、溶血性の防止は不十分であった。これは、アニオン性を緩和する為の非イオン性モノマーと、赤血球と、の非特異相互作用を減らす緩和効果が、不十分である為であると考えられる。
【0016】
特許文献5においても同様の考え方により、カチオン性官能基を有するモノマーを第3成分として加えた3元系ポリマーで担体表面をコーティングする事で、白血球除去性能と溶血防止性の両立を試みているが、特許文献5に開示された発明も、溶血性の防止は不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位と、を含む共重合体を担持する担体を有するフィルターを用いることで、赤血球へ悪影響を及ぼすことなく、赤血球を含む生体由来液を処理できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の態様は、赤血球を含む生体由来液を処理するフィルターであって、担体と、該担体に担持された共重合体とを有し、共重合体が、非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位と、を含み、非イオン性基を有するモノマー単位(l)と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位(m)と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位(n)と、のモル比が、共重合体を構成するモノマー単位のモル比の全体を100として、
l+m+n=100,
0<l,m,n<100
の関係を満たし、非イオン性基を有するモノマー単位(l)と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位(m)と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位(n)と、のモル比が、l/m/n=40.0〜97.0/1.5〜32.5/1.5〜32.5である、生体由来液処理フィルターである。
【0019】
上記の生体由来液処理フィルターにおいて、共重合体が、担体1gあたり1.0mg以上の量で担持されていてもよい。
【0020】
上記の生体由来液処理フィルターにおいて、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位が、トリエチレングリコールメタクリル酸、及びビニルピロリドンからなる群より選ばれた少なくとも一種に由来してもよい。
【0021】
上記の生体由来液処理フィルターにおいて、共重合体における非イオン性基を有するモノマー単位がアルコキシアルキル(メタ)アクリレートであり、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位がN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートであってもよい。
【0022】
上記の生体由来液処理フィルターにおいて、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートであり、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートであり、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーがトリエチレングリコールメタクリル酸であってもよい。
【0023】
上記の生体由来液処理フィルターにおいて、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートであり、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートであり、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーがビニルピロリドンであってもよい。
【0024】
上記の生体由来液処理フィルターにおいて、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートであり、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートであり、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーがジメチルアクリルアミドであってもよい。
【0025】
上記の生体由来液処理フィルターにおいて、担体の材質が、ポリエチレンテレフタラート又はポリブチレンテレフタラートであってもよい。担体が不織布であってもよい。
【0026】
また、本発明の態様は、赤血球を含む生体由来液体を処理するフィルターデバイスであって、生体由来液体の入口及び出口を備えたハウジングと、ハウジング内に収容された上記のフィルターと、を具備するフィルターデバイスである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、赤血球へ悪影響を与えずに赤血球を含む生体由来液を処理することのできる、生体由来液処理フィルター及びフィルターデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一実施形態に係る生体由来液処理フィルターデバイスを示す分解斜視図である。
図2】一実施形態に係る血液製剤濾過システムを示す模式図である。
図3】実施例におけるモノマー組成、コーティング量、担体材料、及び評価結果を示す表である。
図4】比較例及び参考例におけるモノマー組成、コーティング量、担体材料、及び評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施の形態(以下において、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお以下の示す本実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部材の組み合わせ等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0030】
本実施形態に係る赤血球を含む生体由来液を処理するフィルターは、担体と、担体に担持された共重合体(コポリマー)と、を備え、共重合体が、非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位を含む。共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0031】
ここで、ホモポリマーとは、単一のモノマー単位により構成されたポリマーを示す。また、ホモポリマーのN値とは、非特許文献1に記載された方法で測定されたN値のことであり、ホモポリマーで破壊された水分子間の水素結合の数(モノマー単位当たり)を表す。N値は、水とモノマーとの相互作用を表す指標として用いることができ、N値が小さい程、生体適合性が良いと考えられる。そのため、N値が小さい程、ポリマーが血液等と接触した際のポリマーと血球の相互作用が小さく、非特異相互作用を抑制できると考えられる。
【0032】
具体的にホモポリマーのN値の測定には、ホモポリマーを適切な水を含む溶媒に溶解した溶液、もしくはその溶液をスピンコーターなどでガラス板等へコートしたフィルムを用いる事ができる。これら溶液やフィルムに対して赤外スペクトルもしくはラマンスペクトルを取ると、水素結合の強さの指標であるOH伸縮振動を表すスペクトルは3250cm-1と3400cm-1に大きな吸収が現れる。これらの吸収のうち3250cm-1の吸収は、通常の水素結合を表し、3400cm-1は、ポリマー近傍の一部水素結合が欠損した弱い水素結合をあらわしている。これらのスペクトルの成分比より、N値を算出する。
【0033】
赤血球を含む生体由来液とは、生体に由来する液体であって赤血球が分散されたものを全て包含し、具体的には血液や、血液から調製された血液製剤が含まれる。共重合体は、例えば担体にコーティングされることによって担持される。以下、担体に担持された共重合体を、「コーティングポリマー」ともいう。ただし、担体に共重合体を担持させる方法は、これに限定されない。
【0034】
(コーティングポリマー)
ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーとしては、下記一般式(1),(2)で表されるモノマーが挙げられる。
【化1】
上記構造式中のR1,R3は、H、又は炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基、及びこれらの誘導体のいずれかである。R2は、CH2−CH2、CH2−CHRa、CHRa−CH2、CHRa−CHRb、CHRa−CRbRc、CRaRb−CHRc、CRaRb−CRcRdのいずれかであり、Ra,Rb,Rc,Rdは、炭素数1〜3のアルキル基である。rは3以上の整数である。
【0035】
【化2】
上記構造式中のR1は、H、又は炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基、及びこれらの誘導体のいずれかである。
【0036】
一般式(1),(2)で表されるホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーうち、経済性の面から好ましいのは、下記(3)で表されるトリエチレングリコール(メタ)アクリレートである。
【化3】
【0037】
コーティングポリマーは、−NH2,−NHR1又は−NR23(R1,R2,R3は炭素数1〜3のアルキル基)である塩基性含窒素官能基を含有する。塩基性含窒素官能基は、ブレンステッド・ローリーの酸塩基の定義より水素イオンを受容する能力を有する窒素原子を含む官能基として定義されることができる。すなわち、水素イオンを受容するための非共有電子対を有する−NH2,−NHR1,−NR23(R1,R2,R3は炭素数1〜3のアルキル基)で表されるアミノ基である。
【0038】
一般に白血球等の生体の細胞は負の電荷を有する為、フィルターにおける上記の塩基性含窒素官能基の非共有電子対が水素イオンを受容した後にカチオン性を有することで、白血球と相互作用し、結果としてフィルターが白血球を除去できると考えられる。しかしながら、第四級アミンの様に溶液のpH等の環境に依らずカチオンを示す官能基が存在すると、カチオン性が強くなりすぎ、赤血球を溶血させてしまう可能性が高まる。そのためカチオン性を付与する官能基として、−NH2,−NHR1,−NR23で表される塩基性含窒素官能基が用いられる。
【0039】
塩基性含窒素官能基を有する化合物の典型的な例としてはN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、中でも入手の容易性や経済性を勘案するとN,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0040】
以下の理論に拘束されるものではないが、コーティングポリマー中に、ホモポリマーを形成した場合にN値が小さくなるモノマーが含まれることにより、赤血球とコーティングポリマーとの相互作用が緩和され、溶血性を低減できているものと考えられる。また、共重合体が、ホモポリマーを形成した場合にN値が小さくなるモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、を含むことにより、塩基性含窒素官能基で導入される正電荷により白血球除去性能の向上を図りつつ、ホモポリマーを形成した場合にN値が小さくなるモノマー単位によって赤血球とコーティングポリマーとの相互作用を緩和し、溶血防止性能も発揮することができているものと考えられる。
【0041】
より高い溶血防止性を発揮させる観点で、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位の割合は、コーティングポリマーが有するモノマー単位全体に対してモル比で1.5%以上が好ましい。全モノマー単位に対する、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位の割合は、共重合体を可溶な溶媒に抽出し、核磁気共鳴(NMR)測定と、アミノ基量測定と、を組み合わせて算出する。
【0042】
コーティングポリマーは、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーと、塩基性含窒素官能基を有するモノマーと、非イオン性基を有するモノマーと、の共重合体である。共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0043】
非イオン性基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、カルボニル基、アルデヒド基、及びフェニル基が挙げられる。非イオン性基を有する化合物の典型的な例としてアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、中でも入手の容易性や経済性を勘案すると2−メトキシエチル(メタ)アクリレートである事が好ましい。
【0044】
以下の理論に拘束されるものではないが、非イオン性基を有するモノマー単位周辺の水においては、水素結合の破壊が起こらず、バルクの水に近い構造を取ると考えられる。そのため、非イオン性基を有するモノマー単位を含む共重合体は、血球やタンパク質を含んだ生体処理液にとって異物と認識されにくく、生体物質と相互作用も小さいものと考えられる。
【0045】
白血球除去及び/又は血小板除去用途のフィルターの場合、コーティングポリマーは、非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位と、からなり、これら以外のモノマー単位は含まないことが好ましい。換言すれば、コーティングポリマーを構成するモノマー単位のモル比の全体を100として、コーティングポリマーに含まれる非イオン性基を有するモノマー単位(l)と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位(m)と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位(n)と、のモル比が、l+m+n=100,0<l,m,n<100であるのが好ましい。モル比が上記範囲内にあることにより、赤血球に溶血等のダメージを抑えつつ、優れた白血球除去性能及び血小板除去性能を実現できる。
【0046】
ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位のモル比が32.5%を上回り、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位のモル比が1.5%を下回ると、赤血球の溶血には問題はないものの、白血球除去性能及び血小板除去性能が低下する傾向にある。溶血防止効果を確保しつつ、白血球除去及び/又は血小板除去の効果をより一層発揮するという観点から、コーティングポリマーに含まれる非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位と、のモル比は、例えば40.0〜97.0/1.5〜32.5/1.5〜32.5であり、好ましくは40.0〜95.0/2.5〜30.0/2.5〜30.0であり、より好ましくは50.0〜95.0/2.5〜30.0/2.5〜30.0であり、さらに好ましくは60.0〜95.0/2.5〜30.0/2.5〜30.0である。
【0047】
コーティングポリマーに含まれる非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位と、のモル比の測定及び算出手順を、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートと、トリエチレングリコール(メタ)アクリレートと、を例に説明する。まず、コーティングポリマーをジメチルスルホキシド等の適切な溶媒へ溶解後、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定を行う。得られた1H−NMRから、すべてのモノマー単位に含まれるHに帰属するピークからモノマー単位の全体量を求める。次に、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートに含まれるHに帰属される2.6ppm付近のピークと、トリエチレングリコールメタクリレートに含まれるHに帰属する3.6ppm付近のピークから、各々の量を求める。さらに、モノマー単位の全体量から、先に求めた2つのモノマー単位の量を差し引いた残りを、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートの量として算出し、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートと、トリエチレングリコール(メタ)アクリレートと、の存在比を算出する。
【0048】
(共重合体の原料)
上述の一般式(1)、(2)で表されるホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーを、共重合体を合成する為に、そのまま用いる事ができる。一般式(1)で表される典型的な例として、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、一般式(2)で表される典型的な例として、ビニルピロリドンがある。また、ジメチルアクリルアミドも、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマーとして挙げられる。
【0049】
共重合体に非イオン性基を導入するためには、例えば、下記一般式(4)で表されるモノマーを原料の一部とするのが好ましい。
【化4】
一般式(4)−1,(4)−2中、R4は、H、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基及び誘導体のいずれかであり、R5は、H、炭素数1〜6アルキル基、フェニル基、及び−Y−O−Xで表されるアルコキシアルキル基(Yは炭素数0〜6のアルキル基、XはH又は炭素数1〜3のアルキル基)のいずれかであり、R6は、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシアルキル基、フェニル基、及びこれらの誘導体のいずれかである。
【0050】
一般式(4)で表されるモノマーの典型的な例としてアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、中でも入手の容易性や経済性を勘案すると2−メトキシエチル(メタ)アクリレートである事が好ましい。
【0051】
塩基性含窒素官能基を共重合体に導入するためのモノマーとしては、例えば、下記一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
一般式(5)中、R19,R21,R22は、H、又は炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基、及びこれらの誘導体のいずれかであり、R20は、CH2−CH2、CH2−CHRa、CHRa−CH2、CHRa−CHRb、CHRa−CRbc、CRab−CHRc、CRab−CRcd、及び(CH2)e(e=2〜6の整数を表す)のいずれかであり、Ra,Rb,Rc,Rdは、炭素数1〜3のアルキル基である。
【0052】
一般式(5)で表されるモノマーの典型例としてはN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、中でも入手の容易性や経済性を勘案するとN,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0053】
(担体)
担体の材質は、赤血球を含む生体由来液を処理するフィルターとして使用されるものであれば特に制限されるものではないが、熱可塑性ポリマーであることが好ましい。担体の材質が熱可塑性ポリマーであると、溶融させて紡糸を行うことが可能であるため、例えば、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法又は抄造法等により、不織布、紙、織布又はメッシュの形態にすることができる。このような形態の自由度の観点から、担体の材質は、ポリエチレンテレフタラート又はポリブチレンテレフタラートであることがより好ましい。
【0054】
担体の形態としては、例えば、不織布、紙、織布、メッシュ、粒子、及び中空糸が挙げられ、中でも不織布が好ましい。なお、不織布とは、編織に依らず繊維又は糸の集合体が、化学的、熱的又は機械的に結合された布状のものをいう。
【0055】
担体が、不織布又は織布の場合、その平均繊維直径は0.3μm〜10μmとすることができ、0.3μm〜3μmであることが好ましく、0.5μm〜1.8μmであることが更に好ましい。平均繊維直径が0.3μm以上である場合、血液をろ過する際の圧力損失が適度である。また、10μm以下である場合、白血球除去性能及び血小板除去性能がより顕著に発揮される傾向にあるので、これらの用途に好適である。
【0056】
ここで平均繊維直径とは、フィルターを構成する不織布又は織布から一部をサンプリングし、電子顕微鏡で観察した写真により測定した平均直径である。
【0057】
(フィルター)
フィルターにおいて、コーティングポリマーは、担体に担持されており、その担持量(「コーティング量」ともいう。)は、担体1gあたり1.0mg以上40.0mg以下、好ましくは2.0mg以上40.0mg以下、より好ましくは2.5mg以上35.0mg以下である。コーティング量が担体1gあたり1.0mg以上であると、フィルターの赤血球を含む生体由来液への濡れ性が高く、フィルターの流れ性が良いため、フィルターの一部が使われないエアーブロックを起し難い。また、共重合体の赤血球を含む生体由来液への溶出を防止する観点で、コーティング量は担体1gあたり40.0mg以下が好ましい。ここで、担持とは、コーティングポリマーが、例えば、化学的、物理的又は電気的に担体と結合又は吸着していることを意味する。
【0058】
コーティング量は、以下の手順により算出される。コーティングポリマーを担持させる前の担体を60℃に設定した乾燥機中で1時間乾燥させた後、デシケーター内に1時間以上放置した後に重量(Ag)を測定する。コーティングポリマーを担持させた担体(フィルター)を同様に60℃の乾燥機中で1時間乾燥させた後、デシケーター内に1時間以上放置した後に重量(Bg)を測定する。コーティング量は以下の算出式により算出される。
コーティング量(mg/g担体)=(B−A)×1000/A
【0059】
本実施形態に係るフィルターは、赤血球を含む生体由来液を、赤血球へ悪影響を与えずに処理することができるため、赤血球を含む血液製剤用の白血球及び/又は血小板除去フィルターデバイス用のフィルターや、患者血液から活性化した白血球を除去する為の体外循環治療フィルターデバイス用フィルターとして好適に用いられる。赤血球を含む血液製剤としては、例えば、全血製剤、及び赤血球製剤が挙げられる。上記効果を鑑みれば、赤血球を含む血液製剤は、輸血用製剤であることが好ましい。
【0060】
体外循環治療用フィルターデバイスの治療対象疾患としては、敗血症、全身炎症性症候群(SIRS)、リウマチ、及び潰瘍性大腸炎等、白血球による過剰な生理活性物質の放出が原因の一つである疾患であれば適用可能である。
【0061】
本発明の一実施形態において、赤血球を含む血液製剤用白血球及び血小板除去フィルター及びフィルターデバイスが提供される。
【0062】
(フィルターの製造方法)
フィルターは、上述した担体に、上述したコーティングポリマーを担持させることにより得ることができる。担持方法、具体的にはコーティング方法は、特に限定はされないが、例えば、塗布法、スプレー法、ディップ法を用いることができる。
【0063】
ディップ法は、アルコール、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン、又はジメチルホルムアミド等の適当な有機溶媒に上述したコーティングポリマーを溶解したコーティング液中に、担体を浸漬させた後、余分な溶液を取り除き、ついで風乾等の適切な手段により乾燥させることにより実施できる。乾燥方法としては、乾燥気体中での風乾する方法、減圧雰囲気中で常温又は加熱しながら乾燥を行う方法などがある。
【0064】
塗布法及びスプレー法は、上記コーティング液を担体に塗布又はスプレーした後、上述のように乾燥させることにより実施できる。
【0065】
(生体由来液処理フィルターデバイス)
図1は、一実施形態に係る生体由来液処理フィルターデバイスを示す分解斜視図である。図1に示す生体由来液処理フィルターデバイス100は、赤血球を含む血液製剤の入口1を有する樹脂製治具10と、血液製剤の出口2を有する樹脂製治具11とを備え、樹脂製治具10及び樹脂製治具11で形成されたハウジング内に本実施形態に係るフィルター20を9枚重ねたフィルターユニット21を含んでなる。フィルターユニット21におけるフィルター20の枚数は、特に制限はなく、適宜設定してよい。また、樹脂製治具10及び樹脂製治具11は、融着、接着剤による接着等により、結合していてもよい。
【0066】
図2は、一実施形態に係る生体由来液処理システムを示す模式図である。図2に示す生体由来液処理システム200は、処理前生体由来液210を収容したシリンジポンプ110と、生体由来液処理フィルターデバイス100と、処理後生体由来液220を収容する容器130とを備える。シリンジポンプ110と生体由来液処理フィルターデバイス100は、チューブ140により連結されている。また、生体由来液処理フィルターデバイス100と容器130は、チューブ150により連結されている。
【0067】
シリンジポンプ110からチューブ140を介して移送された処理前生体由来液210は、生体由来液処理フィルターデバイス100で処理され、白血球及び血小板が除去される。生体由来液処理フィルターデバイス100で処理前生体由来液210が濾過される際の圧力は、圧力計120で計測される。生体由来液処理フィルターデバイス100は、上述した本実施形態に係るフィルターを含んでいるため、処理後生体由来液220は赤血球の溶血等が生じていない。処理後生体由来液220は容器130に収容される。例えば生体由来液が血液製剤であれば、輸血用血液製剤として使用される。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
(コーティングポリマーの合成及びモル比測定)
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート(MEMA)と、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート(DEAEMA)と、トリエチレングリコールメタクリル酸(TEGMEMA)(ホモポリマーを形成した場合のN値=0.7)と、の共重合体を通常の溶液重合によって合成した。重合条件は、各モノマー濃度が1モル/Lのエタノール溶液に、開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.0025モル/L存在下、60℃で8時間重合反応を行った。得られた共重合体重合液を水中に滴下し、析出した共重合体を回収した。回収した共重合体は粉砕した後、減圧条件下で24時間乾燥してコーティングポリマーを得た。
【0070】
コーティングポリマー中の2−メトキシエチル(メタ)アクリレートモノマー単位と、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートモノマー単位と、トリエチレングリコール(メタ)アクリレートモノマー単位とのモル比は、以下のように測定した。得られたコーティングポリマーをジメチルスルホキシドへ溶解した後、1H−NMR測定を行うことにより、コーティングポリマーの1H−NMRチャートを算出した。算出したチャートにおける3.6ppm(トリエチレングリコールメタクリル酸に固有のH原子由来)のピーク及び2.6ppm(N,N−ジエチルアミノのH原子由来)のピークと、全体のH原子量と、から、コーティングポリマーにおける2−メトキシエチル(メタ)アクリレートモノマー単位と、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートモノマー単位と、トリエチレングリコールメタクリル酸(TEGMEMA)モノマー単位と、のモル比は、70.0/10.0/20.0と算出された。
【0071】
(コーティング液の調製)
上記コーティングポリマーを90W/W%のエチルアルコールへ添加した後、12時間撹拌し、コーティングポリマー濃度が0.56重量%のコーティング液を調整した。
【0072】
(コーティング方法)
平均繊維直径1.2μmのポリエチレンテレフタラート繊維よりなる不織布(40g/m2目付、旭化成せんい社製「マイクロウェッブ」)を210mm×150mmの大きさに切り出し、上記コーティング液を入れた金属製バットへ20秒間浸漬させた。余剰コーティング液を落とした後、室温にて風乾させた。
【0073】
(コーティング量の測定)
上記コーティングの際に、210mm×150mmに切り出した不織布を60℃設定の熱風乾燥機で1時間乾燥の後に測定した不織布重量(Ag)と、上記方法によりコーティングを行った不織布を同様に60℃設定の熱風乾燥機で1時間以上乾燥の後に測定したコーティング後不織布重量(Bg)を用いて、下記算出式よりコーティング量を求めた。
コーティング量=(重量B−重量A)×1000/重量A
その結果、担体1gあたりのコーティング量は20.0mgであった。
【0074】
(白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血試験方法)
上記コーティング後不織布を20φmmの打ち抜き刃で打ち抜き、9枚重ねて図1に示すような血液製剤の入口1と出口2を備えた樹脂製治具10及び11に挟んで除去フィルターデバイスを作製した。この除去フィルターデバイスについて、図2に示すような濾過システムを用いて血液評価試験(白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血試験)を実施した。血液評価試験に用いた血液製剤は、CPD添加保存ヒト全血である。ドナーより採血し、室温にて24時間保存後の血液を用いた。試験の際の血液製剤の流量は40mL/時に設定した。
【0075】
(白血球除去性能)
以下の計算式に従い、白血球除去性能を算出した結果、白血球除去性能は3.8であった。
白血球除去能=−log[(濾過後血液製剤中の白血球濃度)/(濾過前血液製剤中の白血球濃度)]
なお、濾過前後の血液製剤中の白血球濃度の測定は、ベクトンデッキンソン社(BD社)製白血球数測定用キット「LeucoCOUNT」及びBD社製フローサイトメーター FACS CantoIIを使用して行った。
【0076】
(血小板除去性能)
以下の計算式に従い、血小板除去性能を算出した結果、血小板除去性能は99%であった。
血小板除去性能(%)=[(濾過前血液製剤中の血小板濃度−濾過後血液製剤中の血小板濃度)/濾過前血液製剤中の血小板濃度]×100
なお、濾過前後の血液製剤中の血小板濃度は、多項目自動血球計数装置(日本Sysmex社製 K−4500)を用いて測定した。
【0077】
(溶血試験方法)
濾過前後の血液製剤を3000回転/分(1700×g)15分間遠心分離した後、白い紙等を背景にして、上清部分の着色を濾過前後で観察比較し、以下の基準で評価した。その結果、(−)溶血無であった。
濾過前の血液製剤の上清と比べて濾過後の血液製剤の上清の赤色が明らかに濃いものを(+)溶血あり
濾過前の血液製剤の上清と比べて濾過後の血液製剤の上清に赤色着色が見られるものを(±)溶血あり
濾過前の血液製剤の上清と比べて濾過後の血液製剤の上清に赤色着色を認められないものを(−)溶血無
【0078】
[実施例2]
コーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり2.5mgであること以外は実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能、及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.8、99%、及び(−)溶血無であった。
【0079】
[実施例3]
コーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり30.0mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.8、99%、及び(−)溶血無であった。
【0080】
[実施例4]
担体である不織布の材質をポリブチレンテレフタラートとした以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.8、99%、及び(−)溶血無であった。
【0081】
[実施例5]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA/TEGMEMA=95.0/2.5/2.5(モル比)であること、及びコーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり1.0mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.7、99%、及び(−)溶血無であった。
【0082】
[実施例6]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA/TEGMEMA=67.5/30.0/2.5(モル比)であること、及びコーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり35.0mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.9、99%、及び(−)溶血無であった。
【0083】
[実施例7]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA/TEGMEMA=67.5/2.5/30.0(モル比)であること、及びコーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり1.0mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.7、99%、及び(−)溶血無であった。
【0084】
[実施例8]
コーティングポリマーの組成がメチルメタクリレート(MMA)/N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート(DEAEA)/TEGMEMA=67.5/30.0/2.5(モル比)であること、及びコーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり20.0mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.8、99%、及び(−)溶血無であった。
【0085】
[実施例9]
コーティングポリマーの組成がMMA/DEAEA/ビニルピロリドン(VP:ホモポリマーを形成した場合のN値=1.0)=67.5/30.0/2.5(モル比)であること、及びコーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり20.0mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.7、99%、及び(−)溶血無であった。
【0086】
[比較例1]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA=70.0/30.0(モル比)であること、及びコーティングポリマーのコーティング量が担体1gあたり2.5mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.7、99%、及び(+)溶血ありであった。
【0087】
[比較例2]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA=90.0/10.0(モル比)であること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.7、95%、及び(±)溶血ありであった。
【0088】
[比較例3]
コーティングポリマーの組成が、MEMA/TEGMEMA=85.0/15.0(モル比)であること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、2.5、60%、及び(−)溶血無であった。
【0089】
[比較例4]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA/TEGMEMA=30.0/35.0/35.0(モル比)及びコーティング量が担体1gあたり2.5mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.6、99%、及び(±)溶血ありであった。
【0090】
[比較例5]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA/VP=30.0/35.0/35.0(モル比)及びコーティング量が担体1gあたり2.5mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.6、99%、及び(±)溶血ありであった。
[比較例6]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA/ジメチルアクリルアミド(DMAA)=30.0/35.0/35.0(モル比)及びコーティング量が担体1gあたり2.5mgであること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.6、99%、及び(±)溶血ありであった。
[比較例7]
コーティングポリマーの組成がMEMA/DEAEMA/DEGMEMA(ジエチレングリコールメトキシエチルメタクリル酸;ホモポリマーを形成した場合のN値=2.2)=60.0/30.0/10.0(モル比)であること以外は、実施例1と同様であるフィルターを使用した。実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.7、99%、及び(+)溶血ありであった。
【0091】
[参考例1]
現行、白血球除去フィルターデバイス(旭化成メディカル社製 Sepacel)よりフィルターを取り出し、実施例1と同様の方法で白血球除去性能、血小板除去性能及び溶血評価を実施した結果、それぞれ、3.0、95%、及び(−)溶血無であった。
【0092】
実施例、比較例及び参考例におけるモノマー組成、コーティング量、担体材料、及び評価結果を図3及び図4に示す。
【0093】
コーティングポリマー中のモノマー単位として、非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位と、を含み、その組成比を制御することにより赤血球を含む生体由来液を、赤血球へ悪影響を与える事無く処理出来きた。また、白血球及び血小板の除去用途のフィルターの場合、高効率で白血球及び血小板を除去できた。
【符号の説明】
【0094】
1…入口、2…出口、10,11…樹脂製治具、20…フィルター、21…フィルターユニット、100…生体由来液処理フィルターデバイス、110…シリンジポンプ、130…容器、140,150…チューブ,200…生体由来液処理システム、210…処理前生体由来液、220…処理後生体由来液。
図1
図2
図3
図4