特許第6752617号(P6752617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6752617-コイル試験装置 図000002
  • 特許6752617-コイル試験装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752617
(24)【登録日】2020年8月21日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】コイル試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20200831BHJP
   G01R 31/72 20200101ALI20200831BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   G01R31/12 Z
   G01R31/72
   G01R31/00
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-94726(P2016-94726)
(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-203662(P2017-203662A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】北澤 正美
(72)【発明者】
【氏名】山口 力
【審査官】 小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−8760(JP,A)
【文献】 米国特許第3990002(US,A)
【文献】 米国特許第5717338(US,A)
【文献】 特開昭61−162755(JP,A)
【文献】 中国実用新案第201237626(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12−31/20
G01R 31/50−31/74
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象のコイルに並列接続されるコンデンサ回路と、インパルス電圧信号を発生させて前記コイルおよび前記コンデンサ回路に供給するインパルス電圧発生部と、前記インパルス電圧信号の供給によって前記コイルの両端間に発生する減衰振動電圧の信号波形を測定する測定部と、前記信号波形をサンプリングして当該信号波形の瞬時値を示す波形データに変換するA/D変換部と、前記波形データに基づいて前記コイルを試験するコイル試験処理を実行する処理部とを備え、
前記コンデンサ回路は、容量可変型に構成され、
前記処理部は、インダクタンスが異なる複数種類のコイルのうちの前記試験対象として前記コンデンサ回路に接続されている前記コイルの種類を前記波形データに基づいて特定すると共に、当該特定したコイルの種類に対応させて前記コンデンサ回路の容量値を変更するコイル特定処理を実行し、当該コイルおよび容量値の変更後の当該コンデンサ回路に前記インパルス電圧信号を供給した際に発生する前記減衰振動電圧の前記信号波形についての前記波形データに基づいて前記コイル試験処理を実行するコイル試験装置。
【請求項2】
前記コンデンサ回路は、対応する種類の前記コイルとの接続状態において発生する前記減衰振動電圧の前記信号波形についての振動周波数のそれぞれ共通の周波数となるように前記容量値を変更可能に構成されている請求項記載のコイル試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象のコイルにコンデンサを並列に接続すると共に、この接続状態でのコイルにインパルス電圧を印加したときにコイルの両端間に発生する減衰振動波形に基づいてコイルを試験するコイル試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のコイル試験装置の一例として、下記の特許文献1に開示されたコイル試験装置(コイル耐圧試験機)が知られている。このコイル試験装置は、試験対象のコイルに並列に接続されるコンデンサと、インパルス電圧を生成して試験対象のコイルおよびコンデンサの並列回路に印加するインパルス発生回路と、インパルス電圧の印加に起因してコイルの両端間に発生する減衰振動波形を測定する測定回路とを備え、この測定された減衰振動波形に基づいて、試験対象のコイルに対する試験(良否(例えば絶縁耐力が不足しているか否か)をチェックするための試験)を実行可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2591966号公報 (第3−5頁、第1,5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記したコイル試験装置には、以下のような改善すべき課題が存在している。すなわち、このコイル試験装置において測定される減衰振動波形は、コイルのインダクタンス(インダクタ値)をL、並列に接続されるコンデンサのキャパシタンス(容量値)をCとしたときに、下記式で表される周波数fで振動する波形である。
f=1/2π√(LC)
【0005】
しかしながら、このインダクタンスLは試験対象のコイルの種類に応じて異なるため、並列接続するコンデンサが固定されている構成のときには、インダクタンスLの小さなコイルの場合には、減衰振動波形の周波数(振動周波数)が高くなり過ぎて、減衰振動波形をA/D変換器でサンプリングして得られる波形データに基づいてコイルを試験する構成を採用するコイル試験装置では、減衰振動波形を正確に表す波形データ(振動周波数に対して十分に高いサンプリング周波数のサンプリングクロックでサンプリングして得られる波形データ)を得るのが容易ではないという改善すべき点、すなわち、正確な試験を実施するのが容易ではないという改善すべき課題が生じることがある。一方、並列接続するコンデンサが固定されている構成において、インダクタンスLの大きなコイルの場合には、減衰振動波形の周波数(振動周波数)が低くなることから、減衰振動波形を正確に表す波形データを得るのが容易になるものの、減衰振動波形の周波数によっては、減衰振動波形の周期が長くなり過ぎて、試験に必要な波形データを取得するまでに要する時間(結果として、試験を完了させるまでに要する時間)が長くなるという改善すべき課題が生じることがある。
【0006】
本発明は、かかる課題を改善するためになされたものであり、インダクタンスの異なるコイルを試験対象として、試験に要する時間の長時間化を回避しつつ正確な試験を実行し得るコイル試験装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項記載のコイル試験装置は、試験対象のコイルに並列接続されるコンデンサ回路と、インパルス電圧信号を発生させて前記コイルおよび前記コンデンサ回路に供給するインパルス電圧発生部と、前記インパルス電圧信号の供給によって前記コイルの両端間に発生する減衰振動電圧の信号波形を測定する測定部と、前記信号波形をサンプリングして当該信号波形の瞬時値を示す波形データに変換するA/D変換部と、前記波形データに基づいて前記コイルを試験するコイル試験処理を実行する処理部とを備え、前記コンデンサ回路は、容量可変型に構成され、前記処理部は、インダクタンスが異なる複数種類のコイルのうちの前記試験対象として前記コンデンサ回路に接続されている前記コイルの種類を前記波形データに基づいて特定すると共に、当該特定したコイルの種類に対応させて前記コンデンサ回路の容量値を変更するコイル特定処理を実行し、当該コイルおよび容量値の変更後の当該コンデンサ回路に前記インパルス電圧信号を供給した際に発生する前記減衰振動電圧の前記信号波形についての前記波形データに基づいて前記コイル試験処理を実行する。
【0009】
請求項記載のコイル試験装置は、請求項記載のコイル試験装置において、前記コンデンサ回路は、対応する種類の前記コイルとの接続状態において発生する前記減衰振動電圧の前記信号波形についての振動周波数のそれぞれ共通の周波数となるように前記容量値を変更可能に構成されている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載のコイル試験装置では、試験対象のコイルに並列接続されるコンデンサ回路は容量値を変更可能な容量可変型に構成されている。
【0011】
したがって、このコイル試験装置によれば、インダクタンスの異なる複数種類のコイルを試験対象としつつ、接続されるコイルの種類に対応させてコンデンサ回路の容量値を変更することで、コンデンサ回路と共に共振回路を構成するコイルの両端間に発生する減衰振動電圧の信号波形についての周波数を、A/D変換部でのサンプリング周波数で十分に正確にサンプリングし得る周波数であって、試験に要する時間の長時間化を回避し得る周波数に設定することができるため、試験対象のコイルについての良否を正確に、かつ短時間に試験することができる。
【0012】
また、このコイル試験装置によれば、処理部が、試験対象となっているコイルの種類を特定すると共に、この特定したコイルの種類に対応させてコンデンサ回路の容量値を変更するコイル特定処理を実行した後に、コイル試験処理を実行するため、試験対象として接続したコイルに対してこのコイルのインダクタンスに対応する容量値にコンデンサ回路の容量値を自動的に変更してコイル試験を実行することができる。つまり、コイルの試験に要する手間を省いて、短時間で試験を実行することができる。
【0013】
請求項記載のコイル試験装置では、コンデンサ回路が、対応する種類のコイルとの接続状態において発生する減衰振動電圧の信号波形についての周波数が同等の周波数(共通の周波数)となるように容量値を変更可能に構成されている。したがって、このコイル試験装置によれば、インダクタンスの異なる複数種類のコイルのいずれを試験対象とした場合においても、減衰振動電圧の信号波形を、A/D変換部において一定のサンプリング周波数で十分に正確にサンプリングして波形データに変換することができるため、各コイルに対して正確な試験を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】コイル試験装置1の構成図である。
図2図1におけるコンデンサ回路3の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、コイル試験装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
最初に、コイル試験装置としてのコイル試験装置1の構成について、図面を参照して説明する。
【0017】
コイル試験装置1は、図1に示すように、一対の接続端子2a,2b、コンデンサ回路3、スイッチ4、インパルス電圧発生部5、測定部6、A/D変換部7、処理部8、記憶部9、出力部10および操作部11を備え、一対の接続端子2a,2b間に接続(直接的に接続、または不図示のプローブなどを介して間接的に接続)された試験対象のコイル51を試験する(良否(例えば絶縁耐力が不足しているか否か)をチェックするための試験を行う)ことが可能に構成されている。また、本例のコイル試験装置1は、インダクタンスLの異なる複数種類のコイル51(一例として、インダクタンスLaのコイル51a、インダクタンスLbのコイル51b、インダクタンスLcのコイル51cの3種類のコイル。特に区別しないときには「コイル51」ともいう)を試験対象として試験可能に構成されている。なお、各インダクタンスLa,Lb,Lc(以下、特に区別しないときには、インダクタンスLともいう)間には、La<Lb<Lcの関係が成り立っているものとする。
【0018】
また、後述のインパルス電圧信号Vpの印加状態において測定されるコイル51のインダクタンスLは、良品であっても製造誤差に起因してばらつくと共に、不良時には不良の程度(コイル51を構成する巻線間に配置された絶縁層に生じる欠陥(クラックやピンホール)の多少)に応じてばらつく。本例では、コイル51aのインダクタンスLaについては、良品の状態の時(以下、良品時ともいう)には、下限値Lanmin以上上限値Lanmax以下の範囲でばらつくと共に、不良時には、さらに下限値Lanminを下回る下限値Laminまで低下することがあり、また上限値Lanmaxを上回る上限値Lamaxまで増加することがあるものとする。また、コイル51bのインダクタンスLbについては、良品時には、下限値Lbnmin以上上限値Lbnmax以下の範囲でばらつくと共に、不良時には、さらに下限値Lbnminを下回る下限値Lbminまで低下することがあり、また上限値Lbnmaxを上回る上限値Lbmaxまで増加することがあるものとする。また、コイル51cのインダクタンスLcについては、良品時には、下限値Lcnmin以上上限値Lcnmax以下の範囲でばらつくと共に、不良時には、さらに下限値Lcnminを下回る下限値Lcminまで低下することがあり、また上限値Lcnmaxを上回る上限値Lcmaxまで増加することがあるものとする。また、本例では、上記の各値に関して以下の関係が成り立つコイル51を、試験対象のコイル51a,51b,51cとする。
Lamin<Lanmin<Lanmax<Lamax
<Lbmin<Lbnmin<Lbnmax<Lbmax
<Lcmin<Lcnmin<Lcnmax<Lcmax
【0019】
一対の接続端子2a,2bのうちの一方の接続端子2aは、スイッチ4を介してインパルス電圧発生部5の一対の出力端子5a,5bのうちの一方の出力端子5aに接続されている。また、他方の接続端子2bは、インパルス電圧発生部5の他方の出力端子5bに接続されている。
【0020】
コンデンサ回路3は、容量値を変更可能な可変型コンデンサとして構成されて、一対の接続端子2a,2b間に接続されている。本例では一例として、コンデンサ回路3は、図2に示すように、それぞれの容量値が異なる複数のコンデンサ(本例では一例として、第1コンデンサ21a(容量値Ca)、第2コンデンサ21b(容量値Cb)および第3コンデンサ21c(容量値Cc)の3つのコンデンサ)と、各コンデンサに直列接続されたコンデンサと同数の選択スイッチ(本例では一例として、第1コンデンサ21aに直列接続された第1選択スイッチ22a、第2コンデンサ21bに直列接続された第2選択スイッチ22b、および第3コンデンサ21cに直列接続された第3選択スイッチ22cの3つの選択スイッチ)とを備え、コンデンサとこのコンデンサに接続された選択スイッチからなる直列回路(第1コンデンサ21aと第1選択スイッチ22aの直列回路、第2コンデンサ21bと第2選択スイッチ22bの直列回路、および第3コンデンサ21cと第3選択スイッチ22cの直列回路)同士が互いに並列に接続されて構成されている。
【0021】
また、各容量値Ca,Cb,Cc(以下、特に区別しないときには、容量値Cともいう)は、一例として、容量値Caがコイル51a(具体的には、コイル51aのインダクタンスLa)に対応し、容量値Cbがコイル51b(具体的には、コイル51bのインダクタンスLb)に対応し、かつ容量値Ccがコイル51c(具体的には、コイル51cのインダクタンスLc)に対応すると共に、対応する容量値CとインダクタンスL(例えば、良品時のインダクタンスLについての定格値(例えば、上記した良品時におけるばらつきの中心値))同士の乗算値であるCa×La,Cb×LbおよびCc×Lcをほぼ同じ値とすべく、Ca>Cb>Ccの関係が成り立つように予め規定されている。
【0022】
これにより、本例では、コンデンサ回路3は、3つの選択スイッチ22a〜22cのうちの第1選択スイッチ22aのみがオン状態となったときにその容量値が最大(容量値Ca)となり、第2選択スイッチ22bのみがオン状態となったときにその容量値が中程度の値(容量値Cb)となり、第3選択スイッチ22cのみがオン状態となったときにその容量値が最小(容量値Cc)となる容量可変型コンデンサとして構成されている。また、最も小さな容量値Ccであっても、試験対象のコイル51a〜51cの各浮遊容量に対して十分に大きな値となるように予め規定されていることから、後述するようにコンデンサ回路3と共に共振回路(直列共振回路)を構成する試験対象のコイル51の両端間(一対の接続端子2a,2b間)に発生する減衰振動電圧V1の周波数fは、コイル51のインダクタンスL(La〜Lc)と、コンデンサ回路3の容量値C(Ca〜Cc)とに基づき、f=1/2π√(LC)のように規定される。また、各選択スイッチ22a,22b,22cは、例えば、リレーで構成されて、処理部8によってオン・オフ状態が制御可能となっている。
【0023】
スイッチ4は、一端が接続端子2aに接続され、他端がインパルス電圧発生部5の一方の出力端子5aに接続されている。また、スイッチ4は、例えば、リレーで構成されて、処理部8によってオン・オフ状態が制御可能となっている。
【0024】
インパルス電圧発生部5は、予め規定された高電圧値のインパルス電圧信号Vpを一対の出力端子5a,5b間から出力可能に構成されている。また、インパルス電圧発生部5は、一例として、処理部8からの出力開始指示を入力したタイミングでインパルス電圧信号Vpを出力する。
【0025】
測定部6は、一対の接続端子2a,2b間に発生する電圧(後述する減衰振動電圧)V1についての信号波形を測定すると共に、測定した信号波形を予め規定された増幅率で増幅することにより、振幅が後段のA/D変換部7の入力定格内となる検出信号S1として出力する。A/D変換部7は、入力した検出信号S1を予め規定された一定のサンプリング周期でサンプリングすることにより、検出信号S1の信号波形の瞬時値を示す波形データD1(測定部6での増幅率やA/D変換部7の分解能(1ビット当たりの電圧値)が既知であることから、減衰振動電圧V1の瞬時値を示す波形データD1とも言える)に変換して出力する。
【0026】
処理部8は、例えばCPUで構成されて、記憶部9に記憶されている動作プログラムに基づいて動作して、コンデンサ回路3に対する制御処理(具体的には、コンデンサ回路3を構成する各選択スイッチ22a,22b,22cに対する制御処理)、スイッチ4に対する制御処理、インパルス電圧発生部5に対する制御処理、コイル特定処理、およびコイル試験処理を実行する。
【0027】
記憶部9は、ROMおよびRAMなどの種々の半導体メモリや、ハードディスクおよびフラッシュメモリなどを用いたドライブ装置で構成されている。この記憶部9には、処理部8を構成するCPUのための動作プログラム、一対の接続端子2a,2b間に接続されたコイル51の種類を特定する(本例では、コイル51a,51b,51cのいずれかであるかを特定する)ための特定用データ、および一対の接続端子2a,2b間に接続されたコイル51が良品状態であるか不良状態であるか(本例では、コイル51の絶縁耐力が許容範囲内であるか、許容範囲を外れているか)を判別するためのコイル51の種類毎(本例ではコイル51a,51b,51c毎)の判別用データが予め記憶されている。
【0028】
このコイル試験装置1では、処理部8は、コイル特定処理において、後述するように、インパルス電圧信号Vpをコイル51に出力したときに測定される波形データD1から求められる減衰振動電圧V1についての周波数fを特定用データと比較することにより、コイル51の種類を特定する。また、処理部8は、コンデンサ回路3の容量値を初期値(容量値Ca〜Ccのいずれか。本例では一例として容量値Cb)に設定した状態において、このコイル特定処理を実行する。
【0029】
このため、接続されているコイル51がコイル51aであることを特定するための第1特定用データとして、インダクタンスLaminおよび容量値Cbから算出される周波数fabmax(=1/2π√(Lamin×Cb)を上限値とし、インダクタンスLamaxおよび容量値Cbから算出される周波数fabmin(=1/2π√(Lamax×Cb)を下限値とする特定範囲(第1周波数範囲)が規定されている。また、接続されているコイル51がコイル51bであることを特定するための第2特定用データとして、インダクタンスLbminおよび容量値Cbから算出される周波数fbbmax(=1/2π√(Lbmin×Cb)を上限値とし、インダクタンスLbmaxおよび容量値Cbから算出される周波数fbbmin(=1/2π√(Lbmax×Cb)を下限値とする特定範囲(第2周波数範囲)が規定されている。また、接続されているコイル51がコイル51cであることを特定するための第3特定用データとして、インダクタンスLcminおよび容量値Cbから算出される周波数fcbmax(=1/2π√(Lcmin×Cb)を上限値とし、インダクタンスLcmaxおよび容量値Cbから算出される周波数fcbmin(=1/2π√(Lcmax×Cb)を下限値とする特定範囲(第3周波数範囲)が規定されている。また、このようにして規定された各特定範囲(各周波数範囲)の上限値および下限値は、上記したように、Lamin<Lamax<Lbmin<Lbmax<Lcmin<Lcmaxの関係が成り立つことを考慮すると、以下のような関係となっている。
fabmax>fabmin>fbbmax>fbbmin>fcbmax>fcbmin
【0030】
また、このコイル試験装置1では、処理部8は、コイル特定処理においてコイル51の種類を特定した後に、コンデンサ回路3の容量値を特定されたコイル51に対応した容量値に規定した状態において、コイル試験処理を実行する。このコイル試験処理では、後述するように、インパルス電圧信号Vpをコイル51に出力したときに測定される波形データD1から求められる減衰振動電圧V1の信号波形そのものおよび信号波形に現れる特徴量(例えば、信号波形の振動周波数、極大値(正側のピーク値)、極小値(負側のピーク値)など)の少なくとも一方を、判別用データと比較することにより、コイル51が良品状態であるか不良状態であるかを判別する。本例では一例として、処理部8は、コイル試験処理において、波形データD1から求められる減衰振動電圧V1の信号波形の振動周波数fと、判定用データとを比較することにより、コイル51の良・不良を判別する。コイル51では、絶縁耐力が良品状態から不良状態に移行すると、インパルス電圧信号Vpの出力時に内部放電が生じることから、等価的にインダクタンスが低下したのと同等の状態になる。このため、絶縁耐力の不良時には減衰振動電圧V1についての信号波形の振動周波数が上昇して、良品時の振動周波数が含まれる周波数範囲(判別範囲)から外れる。したがって、波形データD1から求められる振動周波数fを用いて、コイル51の良・不良を判別することが可能となっている。
【0031】
一例を挙げて具体的に説明すると、コイル51aでは、インダクタンスLは、コイル51aが良品状態のときには、上記したように、定格値を中心とする上限値Lanmaxから下限値Lanminまでの範囲内でしかばらつかない。つまり、コイル51aが良品状態のときに上記の共振回路(容量値Caのコンデンサ回路3との直列共振回路)に発生する減衰振動電圧V1の周波数fは、周波数fanmax(=1/2π√(Lanmin×Ca)を上限値とし、周波数fanmin(=1/2π√(Lanmax×Ca)を下限値とする判定範囲(第1判定周波数範囲)に含まれる。一方、コイル51aでは、不良状態のときには、インダクタンスLは、上記したように、上限値Lamaxまで増加したり、逆に、下限値Laminまで低下したりする。つまり、コイル51aが不良状態のときに上記の共振回路(直列共振回路)に発生する減衰振動電圧V1の周波数fは、周波数fanmaxを超え、上限値famax(=1/2π√(Lamin×Ca))以下の範囲内の値となったり、周波数fanminを下回り、下限値famin(=1/2π√(Lamax×Ca))以上の範囲内の値となったりする。つまり、上記の判定範囲(第1判定周波数範囲)を外れる。したがって、本例では、この判定範囲(第1判定周波数範囲:周波数fanmin以上周波数fanmax以下の周波数範囲)を示すデータが、コイル51aについての判定用データとして記憶部9に記憶されている。
【0032】
また、コイル51bでは、インダクタンスLは、コイル51bが良品状態のときには、上記したように、定格値を中心とする上限値Lbnmaxから下限値Lbnminまでの範囲内でしかばらつかない。つまり、コイル51bが良品状態のときに上記の共振回路(容量値Cbのコンデンサ回路3との直列共振回路)に発生する減衰振動電圧V1の周波数fは、周波数fbnmax(=1/2π√(Lbnmin×Cb)を上限値とし、周波数fbnmin(=1/2π√(Lbnmax×Cb)を下限値とする判定範囲(第2判定周波数範囲)に含まれる。一方、コイル51bでは、不良状態のときには、インダクタンスLは、上記したように、上限値Lbmaxまで増加したり、逆に、下限値Lbminまで低下したりする。つまり、コイル51bが不良状態のときに上記の共振回路(直列共振回路)に発生する減衰振動電圧V1の周波数fは、周波数fbnmaxを超え、上限値fbmax(=1/2π√(Lbmin×Cb))以下の範囲内の値となったり、周波数fbnminを下回り、下限値fbmin(=1/2π√(Lbmax×Cb))以上の範囲内の値となったりする。つまり、上記の判定範囲(第2判定周波数範囲)を外れる。したがって、本例では、この判定範囲(第2判定周波数範囲:周波数fbnmin以上周波数fbnmax以下の周波数範囲)を示すデータが、コイル51bについての判定用データとして記憶部9に記憶されている。
【0033】
また、コイル51cでは、インダクタンスLは、コイル51cが良品状態のときには、上記したように、定格値を中心とする上限値Lcnmaxから下限値Lcnminまでの範囲内でしかばらつかない。つまり、コイル51cが良品状態のときに上記の共振回路(容量値Ccのコンデンサ回路3との直列共振回路)に発生する減衰振動電圧V1の周波数fは、周波数fcnmax(=1/2π√(Lcnmin×Cc)を上限値とし、周波数fcnmin(=1/2π√(Lcnmax×Cc)を下限値とする判定範囲(第3判定周波数範囲)に含まれる。一方、コイル51cでは、不良状態のときには、インダクタンスLは、上記したように、上限値Lcmaxまで増加したり、逆に、下限値Lcminまで低下したりする。つまり、コイル51cが不良状態のときに上記の共振回路(直列共振回路)に発生する減衰振動電圧V1の周波数fは、周波数fcnmaxを超え、上限値fcmax(=1/2π√(Lcmin×Cc))以下の範囲内の値となったり、周波数fcnminを下回り、下限値fcmin(=1/2π√(Lcmax×Cc))以上の範囲内の値となったりする。つまり、上記の判定範囲(第3判定周波数範囲)を外れる。したがって、本例では、この判定範囲(第3判定周波数範囲:周波数fcnmin以上周波数fcnmax以下の周波数範囲)を示すデータが、コイル51cについての判定用データとして記憶部9に記憶されている。
【0034】
なお、上記したように、各容量値Ca,Cb,Ccは、対応するインダクタンスLa,Lb,Lcとの乗算値であるCa×La,Cb×LbおよびCc×Lcがほぼ同じ値となるように予め規定されていることから、コイル51aについての上記のfamax>faminで規定される周波数範囲、コイル51bについての上記のfbmax>fbminで規定される周波数範囲、およびコイル51cについての上記のfcmax>fcminで規定される周波数範囲は、ほぼ同じ周波数範囲となっている。この周波数範囲内の周波数については、A/D変換部7でのサンプリング周波数に対して十分に低い周波数(つまり、このサンプリング周波数のサンプリングクロックで減衰振動電圧V1(具体的には、減衰振動電圧V1を示す検出信号S1)をサンプリングして得られる波形データD1が減衰振動波形を正確に表す波形データとなり得る程度の低い周波数)となると共に、試験に必要な波形データD1を取得するまでに要する時間(結果として、試験を完了させるまでに要する時間)が長くなり過ぎない周波数となるように予め規定されている。
【0035】
出力部10は、一例として、LCDなどのディスプレイ装置で構成されて、処理部8から出力されたコイル51についての試験結果を画面に表示する。なお、出力部10は、ディスプレイ装置に代えて、種々のインターフェース回路で構成してもよく、例えば、メディアインターフェース回路としてリムーバブルメディアに試験結果を記憶させたり、ネットワークインターフェース回路としてネットワーク経由で外部装置に試験結果を伝送させたりする構成を採用することもできる。操作部11は、例えば、押下されたときに試験開始指示を示す信号を処理部8に出力可能なスタートボタンを備えている。
【0036】
次に、コイル試験装置1の動作について説明する。なお、発明の理解を容易にするため、上記した各値を以下のような具体的な値に規定して説明する。
【0037】
つまり、試験対象とするコイル51a,51b,51cについては、一例として、コイル51aのインダクタンスLaの定格値が700μH、コイル51bのインダクタンスLbの定格値が10mH、コイル51cのインダクタンスLcの定格値が500mHであるものとする。また、発生させる減衰振動電圧V1の周波数fは、例えばA/D変換部7のサンプリング周波数を100kHzとして、この条件下で正確な波形データD1を取得し得るに十分に低い周波数であり、またコイル試験処理において試験に必要な量の波形データD1を取得するまでに要する時間が長くなり過ぎない周波数である10kHzとする。また、この周波数fを考慮して、インダクタンスLaが700μHのコイル51aに対応するコンデンサ回路3の容量値Caは362nF(=1/(2π×10×10/700×10−6)とし、インダクタンスLbが10mHのコイル51bに対応するコンデンサ回路3の容量値Cbは25.4nF(=1/(2π×10×10/10×10−3)とし、インダクタンスLcが500mHのコイル51cに対応するコンデンサ回路3の容量値Ccは507pF(=1/(2π×10×10/500×10−3)とする。
【0038】
また、コイル51aのインダクタンスLaについての上記した各Lamin,Lanmin,Lanmax,Lamaxについては、一例としてそれぞれ500μH,665μH,735μH,800μHとする。また、コイル51bのインダクタンスLbについての上記した各Lbmin,Lbnmin,Lbnmax,Lbmaxについては、一例としてそれぞれ6mH,9.5mH,10.5mH,11mHとする。また、コイル51cのインダクタンスLcについての上記した各Lcmin,Lcnmin,Lcnmax,Lcmaxについては、一例としてそれぞれ400mH,480mH,520mH,550mHとする。
【0039】
これにより、コンデンサ回路3の初期値を容量値Cbとしたときの第1特定用データとして、インダクタンスLaminおよび容量値Cbから算出される周波数fabmax(=1/2π√(Lamin×Cb)=44.7kHz)を上限値とし、インダクタンスLamaxおよび容量値Cbから算出される周波数fabmin(=1/2π√(Lamax×Cb)=35.3kHz)を下限値とする特定範囲(第1周波数範囲)が規定されている。また、第2特定用データとして、インダクタンスLbminおよび容量値Cbから算出される周波数fbbmax(=1/2π√(Lbmin×Cb)=12.9kHz)を上限値とし、インダクタンスLbmaxおよび容量値Cbから算出される周波数fbbmin(=1/2π√(Lbmax×Cb)=9.5kHz)を下限値とする特定範囲(第2周波数範囲)が規定されている。また、第3特定用データとして、インダクタンスLcminおよび容量値Cbから算出される周波数fcbmax(=1/2π√(Lcmin×Cb)=1.6kHz)を上限値とし、インダクタンスLcmaxおよび容量値Cbから算出される周波数fcbmin(=1/2π√(Lcmax×Cb)=1.3kHz)を下限値とする特定範囲(第3周波数範囲)が規定されている。
【0040】
また、コイル51aについての判定用データとして、インダクタンスLanminおよび容量値Caから算出される周波数fanmax(=1/2π√(Lanmin×Ca)=10.3kHz)を上限値とし、インダクタンスLanmaxおよび容量値Caから算出される周波数fanmin(=1/2π√(Lanmax×Ca)=9.8kHz)を下限値とする判定範囲(第1判定周波数範囲)が規定されている。また、コイル51bについての判定用データとして、インダクタンスLbnminおよび容量値Cbから算出される周波数fbnmax(=1/2π√(Lbnmin×Cb)=10.3kHz)を上限値とし、インダクタンスLbnmaxおよび容量値Cbから算出される周波数fbnmin(=1/2π√(Lbnmax×Cb)=9.8kHz)を下限値とする判定範囲(第2判定周波数範囲)が規定されている。また、コイル51cについての判定用データとして、インダクタンスLcnminおよび容量値Ccから算出される周波数fcnmax(=1/2π√(Lcnmin×Cc)=10.2kHz)を上限値とし、インダクタンスLcnmaxおよび容量値Ccから算出される周波数fcnmin(=1/2π√(Lcnmax×Cc)=9.8kHz)を下限値とする判定範囲(第3判定周波数範囲)が規定されている。
【0041】
最初に、試験対象のコイル51が一対の接続端子2a,2b間に接続された状態において、操作部11に対する操作が行われて(スタートボタンが操作されて)、試験開始指示を示す信号が処理部8に出力されると、処理部8は、この信号の入力を検出して、コイル特定処理を実行する。
【0042】
このコイル特定処理では、処理部8は、まず、コンデンサ回路3に対する制御(具体的には、各選択スイッチ22a〜22cのうちの第2選択スイッチ22bのみをオン状態にする制御)を実行することにより、その容量値を初期値(容量値Cb)に設定する。また、処理部8は、スイッチ4に対する制御を実行して、オン状態に移行させる。
【0043】
次いで、コイル特定処理において、処理部8は、インパルス電圧発生部5に対して出力開始指示を出力してインパルス電圧信号Vpを出力させると共に、インパルス電圧信号Vpの出力が完了した直後にスイッチ4に対する制御を実行してオフ状態に移行させる。これにより、コイル51の両端間(接続端子2a,2b間)には、インパルス電圧信号Vpの印加に起因して、コイル51とコンデンサ回路3とで形成される直列共振回路に基づく減衰振動電圧V1が発生する。
【0044】
この場合、試験対象として接続されているコイル51がコイル51aのときには、減衰振動電圧V1は、周波数fabmax(=44.7kHz)を上限値とし、周波数fabmin(=35.3kHz)を下限値とする特定範囲(第1周波数範囲)内の周波数fの信号として発生する。また、試験対象として接続されているコイル51がコイル51bのときには、減衰振動電圧V1は、周波数fbbmax(=12.9kHz)を上限値とし、周波数fbbmin(=9.5kHz)を下限値とする特定範囲(第2周波数範囲)内の周波数fの信号として発生する。また、試験対象として接続されているコイル51がコイル51cのときには、減衰振動電圧V1は、周波数fcbmax(=1.6kHz)を上限値とし、周波数fcbmin(=1.3kHz)を下限値とする特定範囲(第3周波数範囲)内の信号として発生する。
【0045】
測定部6は、この減衰振動電圧V1についての信号波形を測定すると共に、検出信号S1を生成してA/D変換部7に出力する。A/D変換部7は、この検出信号S1をサンプリングして波形データD1に変換し、処理部8に出力する。処理部8は、この波形データD1を取得して、記憶部9に記憶させる。
【0046】
このコイル特定処理では、減衰振動電圧V1の周波数fについては高い精度で検出する必要はない一方で、コイル51の種類の特定が完了するまでに要する時間をできる限り短くする必要がある。このため、処理部8は、波形データD1については、ゼロクロス点や極値を示す点を検出しつつ、減衰振動電圧V1の半周期分(例えば、ゼロクロスから次のゼロクロス間までの波形データD1)、または1/4周期分(例えば、ゼロクロスとこのゼロクロスに隣接する極大点または極小点間の波形データD1)だけ取得して記憶部9に記憶させる。
【0047】
続いて、処理部8は、記憶部9に記憶されている波形データD1に基づいて半周期に相当する時間や1/4周期分に相当する時間を算出し、さらにこの算出した時間に基づき、減衰振動電圧V1の周波数fを算出する。
【0048】
次いで、処理部8は、算出した周波数fを記憶部9に記憶されている各特定用データと比較して、算出した周波数fが、周波数fbbmaxを上限値とし、周波数fbbminを下限値とする特定範囲(第2周波数範囲)に含まれているときには、接続されているコイル51はコイル51bであると特定する。また、処理部8は、現在のコンデンサ回路3の容量値が、コイル51bのインダクタンスLbに対応する容量値Cbであることから、コンデンサ回路3の容量値を変更することなく、コイル特定処理を完了させる。
【0049】
一方、処理部8は、算出した周波数fを記憶部9に記憶されている各特定用データと比較して、算出した周波数fが、周波数fabmaxを上限値とし、かつ周波数fabminを下限値とする上記の特定範囲(第1周波数範囲)に含まれているときには、接続されているコイル51はコイル51aであると特定する。また、処理部8は、現在のコンデンサ回路3の容量値が、コイル51aのインダクタンスLaに対応しない容量値Cbであることから、コンデンサ回路3の容量値をインダクタンスLaに対応する容量値Caに変更する制御(第1選択スイッチ22aのみをオン状態とする制御)をコンデンサ回路3に対して実行して、コイル特定処理を完了させる。同様にして、処理部8は、算出した周波数fを各特定用データと比較して、算出した周波数fが、周波数fcbmaxを上限値とし、かつ周波数fcbminを下限値とする上記の特定範囲(第3周波数範囲)に含まれているときには、接続されているコイル51はコイル51cであると特定する。また、処理部8は、現在のコンデンサ回路3の容量値が、コイル51cのインダクタンスLcに対応しない容量値Cbであることから、コンデンサ回路3の容量値をインダクタンスLcに対応する容量値Ccに変更する制御(第3選択スイッチ22cのみをオン状態とする制御)をコンデンサ回路3に対して実行して、コイル特定処理を完了させる。
【0050】
続いて、処理部8は、コイル試験処理を実行する。
【0051】
このコイル試験処理では、処理部8は、まず、スイッチ4に対する制御を実行して、オン状態に移行させる。次いで、処理部8は、インパルス電圧発生部5に対して出力開始指示を出力してインパルス電圧信号Vpを出力させると共に、インパルス電圧信号Vpの出力が完了した直後にスイッチ4に対する制御を実行してオフ状態に移行させる。これにより、コイル51の両端間(接続端子2a,2b間)には、インパルス電圧信号Vpの印加に起因して、コイル51とコンデンサ回路3とで形成される直列共振回路に基づく減衰振動電圧V1が発生する。
【0052】
この場合、上記したように、コンデンサ回路3の容量値Cは、接続されているコイル51のインダクタンスLに対応したものとなっている(インダクタンスLaのコイル51aのときには容量値Ca、インダクタンスLbのコイル51bのときには容量値Cb、インダクタンスLcのコイル51cのときには容量値Ccとなっている)ことから、減衰振動電圧V1は、A/D変換部7でのサンプリング周波数に対して十分に低い周波数(つまり、このサンプリング周波数のサンプリングクロックで減衰振動電圧V1を示す検出信号S1をサンプリングして得られる波形データD1が減衰振動波形を正確に表す波形データとなり得る程度の低い周波数)であって、かつ試験に必要な波形データD1を取得するまでに要する時間が長くなり過ぎない周波数(本例では上記したように、10kHz近傍の周波数)で振動する。
【0053】
具体的には、試験対象がコイル51aのときには、インダクタンスLaminおよび容量値Caから算出される周波数faamax(=1/2π√(Lamin×Ca=11.8kHz)を上限値とし、インダクタンスLamaxおよび容量値Caから算出される周波数faamin(=1/2π√(Lamax×Ca=9.4kHz)を下限値とする周波数範囲内の周波数fで、減衰振動電圧V1が発生する。また、試験対象がコイル51bのときには、インダクタンスLbminおよび容量値Cbから算出される上記の周波数fbbmax(=12.9kHz)を上限値とし、インダクタンスLbmaxおよび容量値Cbから算出される周波数fbbmin(=9.5kHz)を下限値とする周波数範囲(上記した第2周波数範囲と同じ範囲)内の周波数fで、減衰振動電圧V1が発生する。また、試験対象がコイル51cのときには、インダクタンスLcminおよび容量値Ccから算出される周波数fccmax(=1/2π√(Lcmin×Cc=11.2kHz)を上限値とし、インダクタンスLcmaxおよび容量値Ccから算出される周波数fccmin(=1/2π√(Lcmax×Cc=9.5kHz)を下限値とする周波数範囲内の周波数fで、減衰振動電圧V1が発生する。つまり、試験対象がコイル51a〜コイル51cのいずれの場合においても、減衰振動電圧V1は、10kHz近傍の周波数(同等の周波数)で振動する。
【0054】
測定部6は、この減衰振動電圧V1についての信号波形を測定すると共に、検出信号S1を生成してA/D変換部7に出力する。A/D変換部7は、この検出信号S1をサンプリングして波形データD1に変換し、処理部8に出力する。処理部8は、コイル試験のために必要なデータ量の波形データD1を取得して、記憶部9に記憶させる。このコイル試験では、コイル51の良否を判別するための特徴量として減衰振動電圧V1についての信号波形の周波数(振動周波数)fを正確に検出する必要がある。このため、処理部8は、例えば、減衰振動電圧V1の少なくとも1周期分以上(例えば、2周期分)の波形データD1を取得して記憶部9に記憶させる。
【0055】
続いて、処理部8は、記憶部9に記憶されている波形データD1に基づいて減衰振動電圧V1の周波数fを算出する。次いで、処理部8は、コイル特定処理で特定したコイル51(試験対象としてコイル試験装置1に接続されているコイル51)についての判別用データ(判定範囲を示す周波数データ)と、算出した周波数fとを比較することにより、このコイル51が良品状態であるか、不良状態であるかを判別する。
【0056】
具体例を挙げて説明すると、処理部8は、コイル51aを試験対象のコイル51として特定したときには、記憶部9に記憶されているコイル51aについての判定用データである周波数fanmax(=10.3kHz)を上限値とし、かつ周波数fanmin(=9.8kHz)を下限値とする判定範囲(第1判定周波数範囲)と、算出した周波数fとを比較して、算出した周波数fがこの判定範囲に含まれているときには試験対象のコイル51aは良品状態であると判別し、この判定範囲に含まれていないときには試験対象のコイル51aは不良状態であると判別する。
【0057】
また、処理部8は、コイル51bを試験対象のコイル51として特定したときには、記憶部9に記憶されているコイル51bについての判定用データである周波数fbnmax(=10.3kHz)を上限値とし、周波数fbnmin(=9.8kHz)を下限値とする判定範囲(第2判定周波数範囲)と、算出した周波数fとを比較して、算出した周波数fがこの判定範囲に含まれているときには試験対象のコイル51bは良品状態であると判別し、この判定範囲に含まれていないときには試験対象のコイル51bは不良状態であると判別する。
【0058】
また、処理部8は、コイル51cを試験対象のコイル51として特定したときには、記憶部9に記憶されているコイル51cについての判定用データである周波数fcnmax(=10.2kHz)を上限値とし、周波数fcnmin(=9.8kHz)を下限値とする判定範囲(第3判定周波数範囲)と、算出した周波数fとを比較して、算出した周波数fがこの判定範囲に含まれているときには試験対象のコイル51cは良品状態であると判別し、この判定範囲に含まれていないときには試験対象のコイル51cは不良状態であると判別する。
【0059】
最後に、処理部8は、上記したようにして判別した結果を記憶部9に記憶させると共に、出力部10に出力して画面に表示させる。これにより、コイル試験処理が完了する。
【0060】
このように、このコイル試験装置1では、試験対象のコイル51に並列接続されるコンデンサ回路3は、容量値Cを変更可能な容量可変型に構成されている。
【0061】
したがって、このコイル試験装置1によれば、インダクタンスLの異なる複数種類のコイル51(上記の例では、3種類のコイル51a,51b,51c)を試験対象としつつ、接続されるコイル51の種類(つまり、インダクタンスL)に対応させてコンデンサ回路3の容量値Cを変更することで、コンデンサ回路3と共に共振回路(直列共振回路)を構成するコイル51の両端間(一対の接続端子2a,2b間)に発生する減衰振動電圧V1の信号波形についての周波数fを、A/D変換部7でのサンプリング周波数(本例では一例として100kHz)で十分に正確にサンプリングし得る周波数であって、試験に要する時間の長時間化を回避し得る周波数(本例では一例として10kHz)に設定することができるため、試験対象のコイル51についての良否を正確に、かつ短時間に試験することができる。
【0062】
また、このコイル試験装置1では、処理部8が、A/D変換部7から取得した波形データD1に基づいて(具体的には、波形データD1に基づいて算出される減衰振動電圧V1の信号波形についての周波数(振動周波数)fに基づいて)試験対象のコイル51の種類を特定すると共に、特定したコイル51の種類(具体的にはコイル51のインダクタンスL)に対応させてコンデンサ回路3の容量値Cを変更するコイル特定処理を実行し、コイル51および容量値Cの変更後のコンデンサ回路3にインパルス電圧信号Vpを供給した際に発生する減衰振動電圧V1の信号波形についての波形データD1に基づいて(具体的には、波形データD1に基づいて算出される減衰振動電圧V1の信号波形についての周波数fに基づいて)コイル試験処理を実行する。
【0063】
したがって、このコイル試験装置1によれば、試験対象として接続したコイル51に対してこのコイル51のインダクタンスLに対応する容量値Cにコンデンサ回路3の容量値を自動的に変更してコイル試験を実行することができる。つまり、コイル51の試験に要する手間を省いて、短時間で試験を実行することができる。
【0064】
また、このコイル試験装置1では、コンデンサ回路3は、対応する種類のコイル51との接続状態において発生する減衰振動電圧V1の信号波形についての周波数fが同等の周波数(本例では10kHz近傍の周波数)となるように容量値Cを変更可能に構成されている。したがって、このコイル試験装置1によれば、インダクタンスLの異なる複数種類のコイル51(上記の例では3種類のコイル51a〜51c)のいずれを試験対象とした場合においても、検出信号S1(減衰振動電圧V1の信号波形を示す信号)を、A/D変換部7において一定のサンプリング周波数(本例では一例として100kHz)で十分に正確にサンプリングして波形データD1に変換することができるため、各コイル51に対して正確な試験を実行することができる。
【0065】
なお、上記のコイル試験装置1では、処理部8が、試験対象として接続されたコイル51の種類を自動的に特定する構成を採用しているため、
Lamin<Lanmin<Lanmax<Lamax
<Lbmin<Lbnmin<Lbnmax<Lbmax
<Lcmin<Lcnmin<Lcnmax<Lcmax
との関係が成り立つコイル51a,51b,51cを試験対象とするとの制限が加わっているが、操作部11を操作して、試験対象として接続されたコイル51の種類を処理部8に手動で入力する構成を採用したときには、この制限を外すことができる。つまり、互いのインダクタンスLの範囲が部分的に重なるコイル51についても試験対象とすることができる。
【0066】
また、上記のコイル試験装置1では、コンデンサ回路3を構成する3つの選択スイッチ22a〜22cを、そのうちのいずれか1つのみをオン状態とし、残りをオフ状態とするように制御することで、コンデンサ回路3の容量値Cを3種類(容量値Ca,Cb,Cc)に変更する構成を採用していたが、例えば、各選択スイッチ22a,22b,22cのオン・オフ状態の組み合わせにより、コンデンサ回路3の容量値Cを、より多くの種類に変更する構成を採用することもでき、これにより、インダクタンスLの異なるより多くのコイル51を試験対象とすることができる。また、コンデンサ回路3は、各選択スイッチ22a,22b,22cのオン・オフ状態の組み合わせによって段階的に容量値Cを変更する構成に限定されず、例えば、選択スイッチ22を使用せずに、バリコンやバリキャップなどの容量可変型コンデンサで構成することもできる。
【符号の説明】
【0067】
1 コイル試験装置
3 コンデンサ回路
5 インパルス電圧発生部
6 測定部
7 A/D変換部
8 処理部
51 コイル
C 容量値
D1 波形データ
f 振動周波数
L インダクタンス
V1 減衰振動電圧
Vp インパルス電圧信号
図1
図2