特許第6752693号(P6752693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752693
(24)【登録日】2020年8月21日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】水処理方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20060101AFI20200831BHJP
   C02F 1/32 20060101ALI20200831BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20200831BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C02F1/72 101
   C02F1/32
   C02F1/44 H
   C02F1/44 A
   B01D61/02
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-224969(P2016-224969)
(22)【出願日】2016年11月18日
(65)【公開番号】特開2018-79448(P2018-79448A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一重
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−277572(JP,A)
【文献】 特開平05−305297(JP,A)
【文献】 特開2012−061443(JP,A)
【文献】 特開2003−236566(JP,A)
【文献】 特開2009−112941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/72
C02F 1/32
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含まれる有機物を分解処理する水処理方法であって、
前記被処理水に過酸化水素を添加する過酸化水素添加段階と、
過酸化水素を添加された前記被処理水に対し紫外線を照射する紫外線照射段階と、
前記紫外線照射段階からの出口水の溶存酸素濃度を測定する段階と、
を有し、前記測定された溶存酸素濃度に基づいて前記過酸化水素添加段階における過酸化水素の添加量を制御する水処理方法。
【請求項2】
前記紫外線照射段階からの出口水の溶存酸素濃度が0.1mg/L以下となるように前記過酸化水素の添加量を制御する、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記紫外線照射段階において、波長が185nm以下である成分を含む紫外線を照射する、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記過酸化水素添加段階の前に、前記被処理水に含まれる有機物を逆浸透処理によって低減する段階をさらに有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記逆浸透処理で用いる逆浸透膜は、有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、請求項4に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記水処理方法による処理が行われる前の前記被処理水は、全有機炭素濃度が0.1mg/L以上であり、溶存酸素濃度が1mg/Lを超える、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記被処理水が工程排水に由来する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記工程排水は超純水を使用する工程からの排出される水であり、前記水処理方法により処理された水が、前記工程で使用する超純水を生成するための原水として用いられる、請求項7に記載の水処理方法。
【請求項9】
被処理水に含まれる有機物を分解処理する水処理装置であって、
前記被処理水に過酸化水素を添加する過酸化水素添加装置と、
前記過酸化水素が添加された被処理水に対し紫外線を照射する紫外線照射装置と、
前記紫外線照射装置の出口水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素測定手段と、
前記溶存酸素測定手段で測定された溶存酸素濃度に基づいて前記過酸化水素添加装置における過酸化水素の添加量を制御する制御手段と、
を有する水処理装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記紫外線照射段階からの出口水の溶存酸素濃度が0.1mg/L以下となるように前記過酸化水素の添加量を制御する、請求項9に記載の水処理装置。
【請求項11】
前記紫外線照射装置は、波長が185nm以下である成分を含む紫外線を照射する紫外線酸化装置である、請求項9または10に記載の水処理装置。
【請求項12】
逆浸透膜を有し前記被処理水に含まれる有機物を低減する逆浸透膜装置を前記過酸化水素添加装置の入口側に備える、請求項9乃至11のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項13】
前記逆浸透膜は、有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、請求項12に記載の水処理装置。
【請求項14】
前記水処理装置に供給される前記被処理水は、全有機炭素濃度が0.1mg/L以上であり、溶存酸素濃度が1mg/Lを超える請求項9乃至13のいずれか1項に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水中の有機物を分解処理する水処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体装置の製造工程や液晶表示装置の製造工程における洗浄水等の用途として、有機物、イオン成分、微粒子、細菌等が高度に除去された超純水等の純水が使用されている。特に、半導体装置を含む電子部品を製造する際には、その洗浄工程において多量の純水が使用されており、その水質に対する要求も年々高まっている。電子部品製造の洗浄工程等において使用される純水では、純水中に含まれる有機物がその後の熱処理工程において炭化して絶縁不良等を引き起こすことを防止するため、水質管理項目の一つである全有機炭素(TOC;Total Organic Carbon)濃度を極めて低いレベルとすることが求められている。
【0003】
このような純水水質への高度な要求が顕在化するに伴って、近年、純水中に含まれる微量の有機物(TOC成分)を分解し除去する様々な方法の検討がなされている。そのような方法の代表的なものとして、紫外線酸化処理による有機物の分解除去工程が用いられている。
【0004】
一般的には、紫外線酸化処理によって有機物の分解除去を行う場合には、例えばステンレス製の反応槽とその反応槽内に設置された管状の紫外線ランプとを備える紫外線酸化装置を用い、反応槽内に被処理水を導入して被処理水に紫外線を照射する。紫外線ランプとしては、例えば、254nmと185nmの各波長を有する紫外線を発生する低圧紫外線ランプが使用される。被処理水に185nmの波長を含む紫外線が照射されると、被処理水内にヒドロキシルラジカル(・OH)等の酸化種が生成し、この酸化種の酸化力により被処理水中の微量有機物が二酸化炭素や有機酸に分解する。被処理水に対してこのように紫外線酸化処理を施して得られた処理水は、次に、後段に配置されているイオン交換装置に送られ、二酸化炭素や有機酸が除去される。
【0005】
しかしながら、一般的な紫外線酸化装置によるTOCの酸化分解方法では、紫外線ランプを使用するが、紫外線ランプは、非常に高価であるにもかかわらず、使用期間の経過とともに紫外線強度が低下するために、例えば1年に1回程度の交換が必要である。したがって、紫外線酸化装置を用いるTOCの酸化分解は、紫外線ランプの交換費用の削減およびエネルギー消費量の削減といったランニングコストの抑制が課題となっている。
【0006】
TOCの分解効率を上げるため、例えば特許文献1では、低圧紫外線酸化装置(低圧紫外線ランプによる酸化装置)を用いて被処理水中のTOCを除去する水処理装置として、低圧紫外線酸化装置の前段に、被処理水中に酸素ガスを添加する溶存酸素濃度調整工程を設けたものが提案されている。また特許文献2では、低圧紫外線酸化装置の前段において被処理水に所定量の過酸化水素(H22)を添加することが提案されている。
【0007】
ところで近年、水資源の枯渇と悪化に対応するため、超純水を多用する半導体工場などにおいても節水が強く要望されている。節水を実現するためには一度使用した水を回収して再利用することが効果的であり、水回収率を上げるため、例えば、ユースポイントで使用した後のTOC濃度の高い排水を処理し、さらには回収して処理するための技術(排水処理技術、排水回収処理技術)の検討が進められている。TOC濃度の高い排水を超純水生成の原水として回収し再利用するためには、エネルギーコストをかけずに、かつ末端の超純水水質を悪化させないレベルまでTOC濃度を低減させることが必要である。TOC濃度が高い被処理水を処理する技術として、被処理水に対して過酸化水素やオゾン(O3)等の酸化剤を添加し、紫外線照射によってTOCを酸化分解する技術がある。この場合、被処理水におけるTOC濃度はmg/Lオーダーであることが想定されており、また、もともと各種の不純物を多く含んでいる被処理水を対象としていることから、例えば開放系の反応容器を使用して紫外線照射を行っている。そして、紫外線源としては、254nmの波長を発生する低圧紫外線ランプもしくは高圧紫外線ランプが一般に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−167633号公報
【特許文献2】特開2011−218248号公報
【特許文献3】特開平5−305297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
被処理水中のTOC成分を分解除去するために、一般に紫外線を照射してTOC成分を酸化させる処理が行われるが、被処理水中のTOCをどれだけ除去できたかという観点で検討すると、これまでの技術は必ずしも最適化されているとは言えない。特に、特許文献2に示されるように過酸化水素を添加した上で紫外線酸化処理を行う場合に、過酸化水素の添加量を最適化することについて、十分な検討がなされてきたとは言えない。そのため、被処理水でのTOC除去率を高めるようとするときに、過度に紫外線照射量を大きくすることとなって、必要電力量が大きくなり、エネルギーコストが上昇し、また装置規模も大きくなるという課題がある。
【0010】
本発明の目的は、装置の小型化が可能であって、エネルギーコストを含むランニングコストを抑えることができ、有機物の分解効率を向上させることができる水処理方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、過酸化水素を添加して紫外線照射を行うことによって被処理水中の有機物の分解処理を行う場合に、紫外線酸化処理後の溶存酸素濃度とTOC除去率、過酸化水素添加量との間に相関があることを見出し、過酸化水素添加量を最適に制御できる関係を見つけて、本発明を完成させた。すなわち、本発明の水処理方法は、被処理水に含まれる有機物を分解処理する水処理方法であって、被処理水に過酸化水素を添加する過酸化水素添加段階と、過酸化水素を添加された被処理水に対し紫外線を照射する紫外線照射段階と、紫外線照射段階からの出口水の溶存酸素濃度を測定する段階と、を有し、測定された溶存酸素濃度に基づいて過酸化水素添加段階における過酸化水素の添加量を制御する。
【0012】
本発明の水処理装置は、被処理水に含まれる有機物を分解処理する水処理装置であって、被処理水に過酸化水素を添加する過酸化水素添加装置と、過酸化水素が添加された被処理水に対し紫外線を照射する紫外線照射装置と、紫外線照射装置の出口水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素測定手段と、溶存酸素測定手段で測定された溶存酸素濃度に基づいて過酸化水素添加装置における過酸化水素の添加量を制御する制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被処理水中の有機物の分解効率が向上して高いTOC除去率を達成することができ、それにより装置の小型化とランニングコストの低減とを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に基づく水処理装置の基本的な構成を示す図である。
図2】水処理装置の別の構成例を示す図である。
図3】水処理装置の別の構成例を示す図である。
図4】水処理装置の別の構成例を示す図である。
図5】水処理装置の別の構成例を示す図である。
図6】水処理装置の別の構成例を示す図である。
図7】水処理装置の別の構成例を示す図である。
図8】本発明に基づく水処理装置の適用例を示す図である。
図9】実施例で用いた装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明に基づく水処理装置の基本的な構成を示している。図1に示す水処理装置は、被処理水に過酸化水素(H22)を添加する過酸化水素添加装置20と、過酸化水素添加装置20の出口に接続され、過酸化水素が添加された被処理水に対し紫外線を照射する紫外線照射装置30と、紫外線照射装置30の出口水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素測定手段である溶存酸素計(DO計)41と、DO計41で測定された溶存酸素濃度に基づいて被処理水へのH22の添加量を制御する制御手段である制御装置40と、を備えている。過酸化水素添加装置20は、H22を貯える貯槽21と、貯槽21の出口に接続したパルス制御型のポンプ22と、を備えており、制御装置40からの信号によってポンプ22のパルスが制御され、H22が被処理水に混合されるようになっている。制御装置40は、DO計41から溶存酸素の測定結果を受け取っており、それに基づいて、過酸化水素添加装置20内のポンプ22のパルスを制御する信号を発信し、過酸化水素添加装置20に出力する。
【0017】
後述する実施例に示すように、本発明者らは、H22を添加した被処理水に対して紫外線酸化処理を行う場合に、被処理水における溶存酸素濃度がTOC除去率に影響を及ぼすこと、および、紫外線酸化処理後の溶存酸素濃度とTOC除去率、H22の添加量との間に相関があることを見出している。特に、H22を添加するがその添加量が少ないときはH22の添加量によらず紫外線酸化処理後の溶存酸素濃度も小さいままであること、および、H22の添加量を増やしたときに紫外線酸化処理後の溶存酸素濃度がある値を超えるような場合には、必ずしもTOC除去率が向上しないことを見出した。そこで、制御装置40は、紫外線照射装置30の出口水における溶存酸素濃度が例えば0.1mg/Lを超えない範囲でH22を被処理水に添加するように過酸化水素添加装置20を制御することが好ましい。
【0018】
紫外線照射装置30としては、波長が185nm以下である成分を含む紫外線を照射して紫外線酸化処理を行う紫外線酸化装置を用いることが好ましい。図1に示す水処理装置では、紫外線照射装置30からの出口水が、この水処理装置によって処理されて外部に供給される水ということになる。
【0019】
22を添加して紫外線照射処理を行う従来の水処理装置では、紫外線照射処理のための紫外線照射装置として、波長254nmの紫外線を発する殺菌ランプや高圧水銀ランプが一般的に使用されている。また上述した特許文献2に記載されたシステムは、循環精製処理により超純水を製造するシステムであって、波長185nmの成分を含む紫外線を発生する低圧紫外線酸化装置を使用し、被処理水にH22を加えて紫外線酸化処理を行うものである。波長185nmの紫外線は一般に低圧水銀ランプによって発生するが、低圧水銀ランプは、同時に波長254nmの紫外線も発生する。その割合は、強度比でおよそ1:9であり、波長254nmの成分の方が強度が大きい。波長185nmの紫外線は低強度ではあるものの有機物を直接分解することができるという利点を有する。一方、波長254nmの紫外線は、H22と反応してヒドロキシルラジカル(OH・)を生成することで有機物を分解する。本発明に基づく水処理装置において用いられる紫外線照射装置には、紫外線源として、例えば、波長185nmと波長254nmの両方の紫外線を発生する水銀ランプが用いられるが、それ以外の紫外線源、例えば、紫外線LED(発光ダイオード)を用いることも可能である。
【0020】
ところで、被処理水の溶存酸素濃度が高い場合、紫外線照射装置30の出口水における溶存酸素濃度を例えば0.1mg/L以下にしようとすると、有機物の分解に必要な十分な量のH22を添加できず、結果として、TOC除去率が向上しないことがある。そのようなときは、過酸化水素添加装置20の前段に、被処理水の溶存酸素濃度を低減する脱酸素装置を設けることが好ましい。図2に示した水処理装置は、図1に示した水処理装置において、紫外線酸化処理を行う紫外線照射装置30として、波長185nmの成分を含む紫外線を発生する紫外線酸化装置31を使用し、過酸化水素添加装置20の前段に脱酸素装置10を設けたものである。脱酸素装置10としては、水に溶存する酸素(O2)を除去できるものであれば任意のものを用いることができるが、例えば、真空脱気装置、膜脱気装置および窒素脱気装置のいずれかを用いることができる。真空脱気装置、膜脱気装置および窒素脱気装置は、水中の溶存酸素濃度を低減すると同時に揮発性有機物や炭酸などを気相中に除去し、これらの水中の濃度を低減することができる点で好ましい。その他の脱酸素装置として、水素(H2)を添加した上でパラジウム(Pd)触媒によって酸素を水素と反応させて水とすることにより酸素を除去するものを用いることもできる。
【0021】
水中の溶存酸素濃度は、大気圧下で飽和したときに7〜8mg/L程度である。溶存酸素濃度が低い超純水であっても、大気に曝されると直ちに酸素が溶け込み、溶存酸素濃度が上昇する。したがって、一般に、各種の工程から排出される排水中の溶存酸素濃度は1mg/Lを超え、多くの場合、大気圧下での飽和量に近い値となる。本発明者らの知見によれば、溶存酸素濃度が1mg/Lを超えると、H22を添加して紫外線酸化処理を行っても、必ずしもTOC除去率の向上が見られなかった。そこで本発明に基づく水処理装置では、脱酸素装置10を設ける場合には、脱酸素装置10の出口水の溶存酸素濃度が1mg/L以下となるようにすることが好ましい。溶存酸素は紫外線を吸収するため、溶存酸素濃度が高い場合には、本来は有機物の分解反応に利用されるはずの紫外線量が減少し、有機物分解が進行しにくくなる。その一方で、溶存酸素をある程度除去することにより、紫外線が吸収されることの影響を少なくすることができる。その結果、紫外線が効率的に有機物と反応してTOC除去率が向上する。また紫外線とH22が効率的に反応し、ヒドロキシルラジカルが生成することで、ヒドロキシルラジカルが有機物と反応してTOC除去率が向上する。したがって、脱酸素装置10の出口水の溶存酸素濃度を1mg/L以下とすることによって、目安としては、大気圧下での飽和量の1/10以下とすることによって、本発明の効果がより顕著に発揮されることとなる。より好ましくは、脱酸素装置10の出口水の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下、さらに好ましくは0.1mg/L以下とする。極低濃度、例えばμg/Lまで溶存酸素を低減してもよいが、μg/Lのオーダーまで高度に脱酸素処理を行ったとしても、得られるTOC除去性能に大きな差異は生じない。脱酸素処理に要するコストとTOC除去率とからなる費用対効果を考慮すると、脱酸素装置10の出口水の溶存酸素濃度を0.05mg/L以上1mg/L以下とすることが好ましい。
【0022】
図3は、本発明に基づく水処理装置の別の構成例を示している。本発明に基づく水処理装置は、紫外線酸化処理によって被処理水中のTOC成分を分解しTOCを除去するものであるが、被処理水中のTOC濃度が高い場合には、紫外線酸化処理の負荷が大きくなりすぎるので、紫外線酸化処理を行う前に、具体的にはH22を添加する前に、被処理水のTOCを低減することが好ましい。図3に示した水処理装置は、図2に示す水処理装置において、脱酸素装置10の前段に逆浸透膜装置15を設けたものである。被処理水はまず逆浸透膜装置15に供給されてそこでTOCが低減され、その後、脱酸素装置10に供給される。その結果、図3に示される水処理装置では、紫外線酸化装置31におけるTOC除去の負荷が軽減される。逆浸透膜装置15として、逆浸透膜が多段に設置された多段処理装置を用いることが好ましい。多段に設けられた逆浸透膜を用いることにより、さらにTOCを排除して、紫外線酸化処理の負荷を低減することができる。
【0023】
逆浸透膜装置15に設けられる逆浸透膜としては、TOC除去能力が高い、例えば海水の淡水化などの用いられるような高阻止率の逆浸透膜を用いることが好ましい。具体的には、有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴するものである。本発明に基づく水処理装置において使用することができる逆浸透膜としては、例えば、SWCシリーズ(Hydranautics社製)、TM800シリーズ(東レ社製)、SW30シリーズ(DOW社製)、HR−ROシリーズ(栗田工業社製)などが挙げられる。より具体的には、SWC5MAX(有効圧力1MPaあたりの透過流束(以下同じ)0.32m3/m2/d)(Hydranautics社製)、SWC6MAX(0.43m3/m2/d社製)(Hydranautics社製)、SW30ULE(0.39m3/m2/d)(DOW社製)、SW30HRLE(0.25m3/m2/d)(DOW社製)、TM820V(0.32m3/m2/d)(東レ社製)、TM820K(0.20m3/m2/d)(東レ社製)、HR−RO(0.36m3/m2/d)(栗田工業社製)などを用いることができる。
【0024】
なお、透過流束は、透過水量を膜面積で割ったものである。「有効圧力」とは、JIS K3802:2015「膜用語」に記載の、平均操作圧から浸透圧差および二次側圧を差し引いた、膜に働く有効な圧である。なお、平均操作圧は、膜の一次側における膜供給水の圧力(運転圧力)と濃縮水の圧力(濃縮水出口圧力)の平均値で、以下の式により表される。
【0025】
平均操作圧=(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2
有効圧力1MPaあたりの透過流束は、膜メーカーのカタログに記載の情報、例えば、透過水量、膜面積、評価時の回収率、NaCl濃度等から計算することができる。また、1つまたは複数の圧力容器に同一の透過流束である膜が複数本装填されている場合、圧力容器の平均操作圧/2次側圧力、原水水質、透過水量、膜本数等の情報より、装填された膜の透過流束を計算することができる。
【0026】
逆浸透膜の膜形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、環状型、平膜型、スパイラル型、中空糸型等が挙げられ、スパイラル型については、4インチ型、8インチ型、16インチ型等のいずれでもあってもよい。
【0027】
図3に示した水処理装置では、脱酸素装置10の前段に逆浸透膜装置15を設けているが、紫外線酸化処理の負荷を低減するための逆浸透膜装置15の位置は、過酸化水素添加装置20の入口側であればいずれであってもよい。したがって、図4に示すように、脱酸素装置10と逆浸透膜装置15の位置を入れ替え、被処理水がまず脱酸素装置10に供給され、脱酸素装置10の出口水が逆浸透膜装置15を経て過酸化水素添加装置20に供給されるようにしてもよい。さらに、脱酸素装置10を設けない構成においても逆浸透膜装置15を設けることは有効である。図5は、脱酸素装置10を設けることなく過酸化水素添加装置20の入口に逆浸透膜装置15を接続し、逆浸透膜装置15によりTOCが低減された被処理水が過酸化水素添加装置20に供給されるようにした水処理装置を示している。
【0028】
本発明においては、紫外線照射装置の出口側に、紫外線酸化処理での分解生成物や被処理水に由来するイオン性不純物を除去するためのイオン交換装置を設けるようにしてもよい。図6に示す水処理装置では、図3に示す水処理装置に対し、さらに、紫外線酸化装置31の出口水が供給されるイオン交換装置35が設けられている。イオン交換装置35からの出口水が、この水処理装置で処理されて外部に供給される水ということになる。
【0029】
被処理水に含まれる有機物には、紫外線酸化処理を受ける前の段階からイオン性である物質も含まれるが、H22を添加して行う紫外線酸化処理によって、各種の有機酸や炭酸などのイオン性物質が生成する。イオン交換装置35は、これらのイオン性物質を除去する。イオン交換装置35は、例えば、イオン交換樹脂が充填されたイオン交換塔で構成される。紫外線酸化装置31の出口水におけるイオン性不純物の濃度が大きい場合には、再生型のイオン交換装置を用いることが好ましい。紫外線酸化処理による反応生成物である有機酸や炭酸は水中では陰イオンの形態をとるので、イオン交換装置35に用いられるイオン交換樹脂は、少なくとも陰イオン交換樹脂である。有機酸や炭酸は弱酸であるため、これらを確実に除去するために、陰イオン交換樹脂として強塩基性陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。さらに、イオン交換樹脂として、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂との混合樹脂を用いたり、イオン交換塔として、混合樹脂が充填された混床式イオン交換塔を用いることによって、高純度の処理水を得ることができる。
【0030】
ところで、紫外線酸化装置31の出口水に含まれる過剰なH22は、イオン交換装置35内のイオン交換樹脂を酸化劣化させるおそれがある。そのため、イオン交換装置35の前段でH22を除去することが好ましい。図7に示す水処理装置は、図6に示す水処理装置において、紫外線酸化装置31とイオン交換装置35との間に、水中のH22を分解する過酸化水素分解装置37を設けたものである。紫外線酸化装置31の出口水は、過酸化水素分解装置37を通って過酸化水素が除去され、その後、イオン交換装置35に供給される。過酸化水素分解装置35は、例えば、活性炭が充填された分解塔である。低コストで効果的にH22を分解できるものとして、活性炭を用いることが好ましい。あるいは、過酸化水素分解装置37において、パラジウム(Pd)触媒を用いてH22を分解するようにすることもできる。
【0031】
以上、本発明に基づく水処理装置に種々の構成例を説明したが、これらの水処理装置は、例えば、TOC濃度が0.1mg/L以上であり、溶存酸素濃度が1mg/Lを超える被処理水中の有機物を分解処理するために用いることできる。本発明によれば、後述する実施例から明らかになるように、mg/LのオーダーでTOCを含む被処理水を高いTOC除去率で処理することができる。
【0032】
本発明において被処理水は、例えば、工程排水に由来するものである。本発明の水処理方法は、工程排水、特に半導体製造工程など超純水を使用する工程から排出される排水を回収して処理するために用いられる。本発明の水処理方法によって処理された水は、超純水を生成するための原水として用いることができる。したがって、本発明の水処理方法は、超純水を使用する工程からの排水を回収して処理し、循環再利用のために超純水を生成するために使用することができる。
【0033】
図8は、本発明に基づく水処理装置の応用例を示している。本発明に基づく水処理装置81は、超純水を使用する工程である超純水使用プロセス83から回収した回収水を被処理水とし、これを処理して有機物を低減した回収水を生成する。超純水使用プロセス83で使用する超純水は、一次純水が供給される超純水製造装置82によって製造されるが、水処理装置81からの有機物を低減した回収水は、一次純水と混合されて超純水製造装置82に供給される。図8に示すシステムでは、水処理装置81を介して超純水の回収再利用が実現しており、超純水使用プロセス83で消費されて回収できなかった超純水の分だけ一次純水を超純水製造装置82に供給すればよいので、大幅な節水を実現することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を完成させるために本発明者らが行った実験結果を説明することにより、本発明をさらに詳しく説明する。
【0035】
[実験例1]
図7に示す構成の装置を組み立てた。この装置は、純水に対して膜脱気による脱酸素処理を行ったのちに、イソプロピルアルコール(CH3CH(OH)CH3;IPA)を添加し、さらにH22を添加し、IPAとH22が添加された水に対して紫外線酸化処理を行うようにしたものである。ここで用いる純水の水質は、抵抗率が1MΩ・cm以上、TOCが3μg/L以下、溶存酸素濃度が7.8mg/L、H22濃度が1μg/L以下であった。この装置は、IPAを有機物(TOC成分)として含む純水を被処理水として、この被処理水に含まれる有機物を分解処理する装置であり、IPAを添加する前の膜脱気による脱酸素処理は被処理水の溶存酸素濃度を低減するための処理であると言える。膜脱気によっては水中のIPAは一般に除去されないことを考えれば、図9に示す装置により、IPAを含む被処理水を脱酸素処理に供給して脱酸素処理を行い、その後H22を添加して紫外線酸化処理を行う場合と同じ結果が得られることになる。
【0036】
図7に示す装置において、純水は脱酸素装置である膜脱気モジュール11に供給される。膜脱気モジュール11としてはセルガード製「リキセルG284」を用い、膜脱気モジュール11の気相側をポンプ12で減圧にして、溶存酸素濃度が所定濃度となるように脱気処理を施した。膜脱気モジュール11を通過して溶存酸素濃度を低減した水に対し、貯槽51およびポンプ52を介して所定量のIPAをTOC成分として添加した。これにより、溶存酸素濃度が低減された被処理水が生成したことになる。さらにこの被処理水に対し、貯槽21およびポンプ22を介し、所定量のH22を添加した。H22を添加された被処理水の一部を分岐して、その溶存酸素濃度およびTOC濃度をそれぞれ溶存酸素計(DO計)56およびTOC計57でオンライン測定した。DO計56としてはTOAエレクトロニクス社製DO−30Aを用い、TOC計57としてはシーバース社製のSIEVERS900型TOC計を用いた。DO計56での溶存酸素濃度は、膜脱気モジュール11の出口水における溶存酸素濃度、すなわち紫外線酸化装置31の入口での溶存酸素濃度となる。TOC計57でのTOC測定値TOC0は、被処理水のTOC濃度となる。
【0037】
22が添加された被処理水のうち分岐しなかった方の水を紫外線酸化装置31に供給した。紫外線酸化装置31としては日本フォトサイエンス社製JPW−2を使用し、紫外線酸化装置31内には、紫外線ランプとして、波長254nmの光と波長185nmの光の両方を発生する低圧紫外線ランプ(日本フォトサイエンス社製の165Wの紫外線ランプAZ−9000W)を4本配置した。紫外線酸化装置31の出口水の溶存酸素濃度をDO計41で測定するとともに、紫外線酸化装置31の出口水の一部を分岐し、イオン交換装置35に通水し、イオン交換装置35からの出口水すなわちこの水処理装置における処理水のTOC濃度TOC1をTOC計58によって測定した。DO計41としては、TOAエレクトロニクス社製DO−30Aを用い、TOC計58としては、シーバース社製のSIEVERS900型TOC計を用いた。
【0038】
イオン交換装置35としては、混床式イオン交換装置を用いた。混床式イオン交換装置は、アクリル樹脂製の円筒容器(内径25mm、高さ1000mm)を有し、この容器内に混床のイオン交換樹脂(EG−5A:オルガノ社製)を300mL(層高約600mm)で充填したものである。
【0039】
この水処理装置におけるTOC除去率を以下の計算式により定義する:
TOC除去率(%)=((TOC0−TOC1)/TOC0)×100
上述のように、TOC0は、被処理水のTOC濃度、すなわちTOC計57で測定されたTOC濃度であり、TOC1は、イオン交換装置35からの処理水のTOC濃度、すなわちTOC計58によって測定されたTOC濃度である。
【0040】
膜脱気モジュール11によって紫外線酸化装置31の入口の溶存酸素濃度を50μg/Lとなるように調整し、IPAの添加量を調整して被処理水のTOC濃度(紫外線酸化装置31の入口でのTOC濃度)が500μg/Lであるようにした、この状態で、H22の添加量を0mg/L、2.5mg/L、5.0mg/L、10.0mg/Lに調整して、それぞれの場合について、TOC除去率と紫外線酸化装置31の出口での溶存酸素濃度(DO計41での測られる溶存酸素濃度)とを測定した。結果を表1に示す。なお紫外線酸化装置31への供給水量は800L/時間であった。この結果から、H22を添加することでTOC除去率が向上すること、および、被処理液のTOC濃度および紫外線酸化装置31の入口での溶存酸素濃度が一定であれば、H22を添加しすぎるとかえってTOC除去率が低下し紫外線酸化装置31の出口での溶存酸素濃度が上昇することが分かった。このことから、紫外線酸化装置31の出口での溶存酸素濃度を測定することによりH22の添加量を最適に制御できることが分かる。
【0041】
またこれとは別に、膜脱気モジュール11をバイパスすることにより溶存酸素濃度が7.8mg/Lとなるように調整し、H22の添加量を0mg/Lとして、TOC除去率と紫外線酸化装置31の出口での溶存酸素濃度とを測定した。その結果も表1に示す。この場合のTOC除去率が82%であったことから、被処理水中の溶存酸素濃度を低減し、かつH22が添加された被処理水に紫外線を照射することで、TOC除去率が向上することが分かった。
【0042】
【表1】
【0043】
[実験例2]
被処理水のTOC濃度(紫外線酸化装置31の入口でのTOC濃度)を1000μg/Lとし、さらにH22添加量として20.0mg/Lの場合を追加したこと以外は実験例1と同条件で実験を行った。結果を表2に示す。これらからも、被処理水中の溶存酸素濃度を低減し、H22を添加することでTOC除去率が向上する結果が得られた。
【0044】
またこれとは別に、膜脱気モジュール11をバイパスすることにより溶存酸素濃度が7.8mg/Lとなるように調整し、H22の添加量を0mg/L、2.5mg/Lとして、TOC除去率を測定した。これらの結果も表2に示す。膜脱気モジュール11をバイパスすることは、溶存酸素濃度を低減させずにほぼ大気圧下での飽和量のままとすることであるが、このように被処理液の溶存酸素濃度が高い場合には、H22を添加しても紫外線酸化処理におけるTOC除去率が向上しないことが分かった。
【0045】
【表2】
【0046】
[実験例3]
紫外線酸化装置31の入口での溶存酸素濃度を500μg/L、H22添加量を0mg/L、1.5mg/L、2.5mg/L、5.0mg/Lとした以外は、実験例1と同様の条件で実験を行った。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
[実験例4]
紫外線酸化装置31の入口での溶存酸素濃度を1000μg/L、H22添加量を0mg/L、1.5mg/L、2.0mg/L、2.5mg/Lとした以外は、実験例1と同様の条件で実験を行った。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
[実験例5]
膜脱気モジュール11によって紫外線酸化装置31の入口の溶存酸素濃度を50μg/Lとなるように調整し、IPAの添加量を調整して被処理水のTOC濃度(紫外線酸化装置31の入口でのTOC濃度)が100μg/Lとなるようにした。この状態で、H22の添加量を0mg/L、0.2mg/L、0.4mg/Lに調整して、それぞれの場合についてTOC除去率を測定した。紫外線酸化装置31への供給水量は2000L/時間であった。なおそれ以外については実験例1と同様の条件で実験を行った。結果を表5に示す。
【0051】
【表5】
【符号の説明】
【0052】
10 脱酸素装置
15 逆浸透膜装置
20 過酸化水素添加装置
30 紫外線照射装置
31 紫外線酸化装置
40 制御装置
41,56 溶存酸素(DO)計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9