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特許6752724球状多孔質ヒドロキシアパタイト吸着剤及びその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752724
(24)【登録日】2020年8月21日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】球状多孔質ヒドロキシアパタイト吸着剤及びその方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20200831BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20200831BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20200831BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20200831BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C01B25/32 Q
   B01J20/04 A
   B01J20/30
   B01D15/38
   B01J20/28 Z
   C01B25/32 P
   C01B25/32 W
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-573669(P2016-573669)
(86)(22)【出願日】2015年3月3日
(65)【公表番号】特表2017-514784(P2017-514784A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】US2015018449
(87)【国際公開番号】WO2015134469
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2018年3月2日
(31)【優先権主張番号】61/947,128
(32)【優先日】2014年3月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516265676
【氏名又は名称】バイオウェイ サイエンティフィック エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ジェームズ,ウェイ
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−068539(JP,A)
【文献】 特開平09−020508(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103560246(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0116118(US,A1)
【文献】 米国特許第05858318(US,A)
【文献】 特開昭55−023096(JP,A)
【文献】 特開昭56−045814(JP,A)
【文献】 特表2007−529399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/32
B01D 15/38
B01J 20/04
B01J 20/28
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ヒドロキシアパタイト組成物を製造する方法:
(a)撹拌しながら、水酸化カルシウムを含む水性懸濁液にリン酸及び第一リン酸アンモニウムを含む水溶液を添加することにより前記水酸化カルシウム粉末を含む水性懸濁液を、前記リン酸及び第一リン酸アンモニウムを含む水溶液と反応させて、pH7〜12の範囲でヒドロキシアパタイトの一次粒子を含むヒドロキシアパタイト懸濁物を得ること;
(b)前記ヒドロキシアパタイト懸濁物中のヒドロキシアパタイトの前記一次粒子をミル処理すること、
(c)前記ヒドロキシアパタイト懸濁物を噴霧乾燥して、ヒドロキシアパタイトの固結二次粒子を得ること;並びに
(d)前記固結二次粒子を焼結して、焼結ヒドロキシアパタイト粒子を得ること。
【請求項2】
(e)前記焼結ヒドロキシアパタイト粒子を分級して、所望の粒径範囲又は所望のメジアン粒径を有するヒドロキシアパタイト粒子を得ること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分級することが、超音波篩い分けを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記噴霧乾燥の前に、前記ヒドロキシアパタイト懸濁物中へ分散剤を添加して、均質化懸濁物を得ることをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記分散剤が、無機化合物、短鎖有機化合物、ポリマー、またはそれらの組み合わせである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記無機化合物がリン酸塩、ケイ酸塩及び炭酸塩から選択され;前記短鎖有機化合物が有機電解質及び界面活性剤から選択され;並びに前記ポリマーがポリマー電解質及びポリマー非電解質から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記得られたヒドロキシアパタイト懸濁物が、約8〜11の範囲内のpHを有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ミル処理することが、ボールミル処理することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ミル処理することで得られた前記ヒドロキシアパタイト粒子の平均粒子径が、約1.0〜5.0μmの範囲内である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記焼結することに使用される温度が、約450〜800℃の範囲内である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.119条(e)に基づき、2014年3月3日に出願された米国仮出願第61/947,128号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、ナノ構造合成ヒドロキシアパタイト組成物及び調製方法に関する。合成ヒドロキシアパタイト組成物は、高度に球状な粒子、並びに高圧下での優れた機械的強度及び耐久性を有する多孔質構造を有し、クロマトグラフィー吸着剤として有用である。
【0003】
発明の背景
Ca10(PO・(OH)の式を有するヒドロキシアパタイトは、骨や歯の無機成分である。非毒性及び生体適合性材料として、例えば、タンパク質、酵素、ワクチン、及び核酸のような生体分子のクロマトグラフィー分離用のカラムに充填される充填材として、一般的に用いられている。これらの生体分子を吸着するその能力は、クロマトグラフィー吸着剤粒子の構造及び露出表面上の活性部位の濃度の両方に依存する。
【0004】
カラムクロマトグラフィー用に使用可能なヒドロキシアパタイトの調製方法は、ティセリウスら(Tiselius et al.)によって最初に開発された[Arch.Biochem.Biophys., 65:132−155(1956)]。クロマトグラフィー用途のためにカラムに充填されたヒドロキシアパタイトは、種々の方法により調製されてきた。従来、結晶性ヒドロキシアパタイトは、水溶性カルシウム塩とリン酸塩とが水溶液中で反応させられる湿式合成法によって合成される。次いで、形成されたヒドロキシアパタイトは、マイクロ粒子を得るために造粒される。従来のプロセスによって製造されたヒドロキシアパタイトは、以下の欠点を有する:1)粒子の形状とサイズの不揃い、2)低い機械的強度、及び3)熱処理後の結晶表面上の活性部位の低レベル。粒子の形状とサイズが不揃いであるため、ヒドロキシアパタイト粒子は、クロマトグラフィー分離用のカラムに均一または密に充填され得ない。その低い機械的強度により、カラムベッドへ充填されたヒドロキシアパタイトは、精製のための使用中に破壊される傾向があり、最終的にはベッド崩壊に至る。したがって、クロマトグラフィー分離用のヒドロキシアパタイトの使用が、劇的に制限される。
【0005】
クロマトグラフィー用途に理想的な吸着剤を製造するために、過去20年間に多くの努力が大きな成果も無しに行われてきた。ヒドロキシアパタイト、セラミック材料は、硬質であるが、機械的に崩れやすい。その機械的強度を向上させるために、ヒドロキシアパタイトは、通常、高温で処理される。妥協の結果として、生体分子を結合するヒドロキシアパタイト吸着剤の能力に比例する表面活性部位が、大幅に減少させられる。その化学的及び構造的特性に起因して、全ての基本的な要件を満たすヒドロキシアパタイト吸着剤を調製することは困難である。
【0006】
球状ヒドロキシアパタイト吸着剤の調製のための従来のプロセスが様々な問題をかかえているだけでなく、クロマトグラフィー精製用充填剤として調製された吸着剤の使用もまた問題がある。
【0007】
したがって、望ましい分離性能を提供し、その上、クロマトグラフィー分離のための使用中にその形状、結合能力、並びに化学的及び機械的特性を保持する多孔質ヒドロキシアパタイト吸着剤を製造するための、新たなプロセスが必要とされる。また、ヒドロキシアパタイト吸着剤は、大きな生体分子を高速で物質移動させるのに十分な細孔径を持つべきである。最後に、ヒドロキシアパタイト吸着剤のクロマトグラフィー性能と物理的特性とを確実にするために、バッチ毎の製造プロセスは再現性を有するべきである。上記のような優れた機械的強度及びクロマトグラフィー特性を有するヒドロキシアパタイト材料は、報告されていない。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は、クロマトグラフィー吸着剤として特に有用なヒドロキシアパタイト組成物の新しい種類、及び新たなヒドロキシアパタイト組成物を調製する方法を提供する。
【0009】
一側面において、本発明は、ヒドロキシアパタイト粒子を含み、ヒドロキシアパタイト粒子の嵩密度が約0.5〜0.9g/cmであり、球状且つ多孔質構造を有する固結(consolidated)二次粒子をヒドロキシアパタイト粒子がさらに含む、ヒドロキシアパタイト組成物を提供する
一実施形態では、本発明のヒドロキシアパタイト組成物において、固結二次粒子の平均細孔径が約50〜100nmであり、固結二次粒子の平均細孔容積が約0.1〜0.5cm/gである。
【0010】
別の実施形態では、本発明のヒドロキシアパタイト組成物において、ヒドロキシアパタイト粒子が、20±4μm、40±4μm、60±4μm、または80±4μmのメジアン粒径を有する。
【0011】
別の実施形態では、本発明のヒドロキシアパタイト組成物において、それぞれのヒドロキシアパタイト粒子の球形度が少なくとも0.95であり、好ましくは少なくとも0.97であり、より好ましくは少なくとも0.99である。
【0012】
別の側面において、本発明は、以下の工程を含む、ヒドロキシアパタイト組成物を製造する方法を提供する:
(a)水酸化カルシウム粉末を含む水性懸濁液を、リン酸及びリン酸塩を含む水溶液と反応させて、ヒドロキシアパタイトの一次粒子を含むヒドロキシアパタイト懸濁物を得ること;
(b)懸濁物中のヒドロキシアパタイトの一次粒子をミル処理(milling)すること、
(c)懸濁物を噴霧乾燥して、ヒドロキシアパタイトの固結二次粒子を得ること;並びに
(d)固結二次粒子を焼結して、焼結ヒドロキシアパタイト粒子を得ること。
【0013】
一実施形態では、本発明の方法は、(e)焼結ヒドロキシアパタイト粒子を分級して、所望の粒径範囲及び/又は所望のメジアン粒径を有するヒドロキシアパタイト粒子を得る工程をさらに含む。
【0014】
ある実施形態では、本方法は、噴霧乾燥工程の前に、懸濁物中へ分散剤を添加して、均質化懸濁物を得ることをさらに含む。
【0015】
本発明のある実施形態では、反応工程(a)におけるリン酸塩が、リン酸カルシウム系化合物を含む。
【0016】
他の実施形態では、本発明の方法において形成されたヒドロキシアパタイト懸濁物は、約7〜12、好ましくは8〜11の範囲内のpHを有する。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、分散剤が、無機化合物、短鎖有機化合物、ポリマー、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、分散剤として、無機化合物がリン酸塩、ケイ酸塩及び炭酸塩からなる群から選択され;短鎖有機化合物が有機電解質及び界面活性剤からなる群から選択され;並びにポリマーがポリマー電解質及びポリマー非電解質からなる群から選択される。
【0019】
本発明の方法では、工程(b)における前記ミル処理することは、当業者に知られた任意の好適なミル処理技術であってよく、制限されないが、ボールミルが挙げられる。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、ミル処理工程(b)で得られたヒドロキシアパタイト粒子の平均粒子径が、約1.0〜5.0μmの範囲内である。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、前記焼結することに使用される温度が、約450〜800℃、好ましくは約550〜750℃の範囲内、及びより好ましくは約650℃である。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、得られたヒドロキシアパタイト粒子の分級は当業者に知られた任意の好適な篩い分け技術によって行われることができ、制限されないが、超音波篩い分けが挙げられる。
【0023】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載された任意の実施形態に係る方法により調製されたヒドロキシアパタイト組成物を包含する。
【0024】
別の側面において、本発明は、例えば実施例に本質的に示され及び記載される、並びに図面によって特徴づけられるような、ヒドロキシアパタイト組成物を包含する。
【0025】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載された任意の実施形態に係るヒドロキシアパタイト組成物の、クロマトグラフィー吸着剤としての使用を提供する。
【0026】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載された任意の実施形態に係るヒドロキシアパタイト組成物を含むクロマトグラフィー吸着剤を提供する。
【0027】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載された任意の実施形態に係るヒドロキシアパタイト組成物を含む製造品を提供する。
【0028】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載された任意の実施形態に係るクロマトグラフィー吸着剤を含むデバイス又は機器を提供する。
【0029】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載された任意の実施形態に係るクロマトグラフィー吸着剤を含むクロマトグラフィーデバイス又は機器を用いた、有機及び/又は生物学的試料の分析または分離方法を提供する。
【0030】
他の目的、利点、及び新規な特徴は、以下の図面及び発明の詳細な説明から、当業者には容易に理解されるであろう。
【0031】
図面の簡単な説明
図中の構成要素は必ずしも寸法があっておらず、本発明の例示的な実施形態の原理を説明することが代わりに重視され、このとき、参照符号は異なる図を通して対応する部分を指定する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、実施例1で得られた結果として生じた懸濁物中のヒドロキシアパタイト一次粒子の粒子径分布曲線を示す。
図2図2は、実施例2で得られたボールミル処理された懸濁物中のヒドロキシアパタイト粒子の粒子径分布曲線を示す。
図3図3は、実施例4で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤(40μmサイズ)の、走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
図4図4は、650℃の焼結温度の比較例1で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤(40μmサイズ)の、走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
図5図5は、実施例4で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤(40μmサイズ)の、X線回折パターン(XRD)を示す。
図6図6は、実施例4で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤(40μmサイズ)の、FT−IRスペクトルを示す。
図7図7は、実施例4で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤(40μmサイズ)の、クロマトグラフィー安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、機械的安定性を有し、カラム内に充填される吸着剤として使用された場合にはクロマトグラフィー分離において優れた性能を示すことができる吸着剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、工業的応用の要求を満たすために、大規模で吸着剤を製造できる信頼性の高い方法を提供することをも目的とする。
【0034】
本発明の一側面では、ヒドロキシアパタイトの化学的組成物を有するクロマトグラフィー吸着剤が提供され、これは、結晶の分離機能を、担体としてのそれ自身の骨格の強度と組み合わせる。
【0035】
本発明のクロマトグラフィー媒体(medium)は、カラムに充填されるか詰められた吸着剤として使用された場合、物質分離において優れた特性を示す。特に、モノマーと凝集体のような、互いの構造において小さな差異を有する又は化学的に同一の物質について、良好な選択性と高精度分離とが、吸着剤として本発明の媒体を用いたクロマトグラフィーによって達成され得る。また、本発明の媒体は、それ以外の既存の吸着剤の使用では達成することが困難な、これらの高純度分離のために選択され得る。本発明の媒体によって分離され得る物質は、免疫グロブリンまたは酵素を含むタンパク質、RNAやDNAなどの核酸、及びワクチンなどのような生体分子が挙げられる。いくつかの用途では、下流のバイオプロセスにおける最終の洗練工程で使用される本発明の媒体は、高純度の有用な薬物物質を得るために不可欠である。
【0036】
一実施形態では、本発明のクロマトグラフィー媒体は、ナノ構造ネットワーク、高い平均細孔直径、良好な球形度及びビーズサイズの狭い分布、良好な結合能力、並びに耐久性のある機械的安定性に特徴付けられる、マイクロサイズのヒドロキシアパタイトビーズから構成されている。また、従来の吸着剤と比べて、本発明のヒドロキシアパタイト吸着剤は高い嵩密度及びずっと小さなビーズを有し、これは、再現性のあるカラム分離性能を有する固定化ベッドカラムの充填を容易にする。また、その高い機械的強度により、大きなベッド容量(例えば、>50L)のカラムに充填された場合にクロマトグラフィー分離についての実行サイクルがそれに応じて増加され、従って、工業生産のためには作業コストが大幅に低減される。
【0037】
一側面において、本発明は、クロマトグラフィー吸着剤を製造するための前駆体として使用されるナノ構造ヒドロキシアパタイト結晶の合成のための方法を提供する。ナノロッドで構成されるそのネットワーク構造に起因して、合成されたヒドロキシアパタイトは高い表面積を有し、結晶の表面に吸着したときに生体分子に対する良好な結合能力を確保する。原材料は主に、安価で市販されている無機物である。反応条件は穏やかで、特定の型の設備を使用する必要なしに容易に制御できる。なお、生成される副生成物は、無毒で環境に優しい。
【0038】
一実施形態では、ヒドロキシアパタイトナノ結晶を製造するために、本発明の方法は、2つの原料、すなわち第一リン酸アンモニウム及びリン酸、を含有する溶液を、固体原料水酸化カルシウムを含む懸濁液に激しく撹拌しながら添加することを含む。ヒドロキシアパタイトナノ結晶の内容物を有する結果として生じた懸濁物が、その後得られる。一実施形態では、得られた懸濁物の最適pH値は、約8〜約11の範囲内である。
【0039】
嵩密度を増加させ、最終的な固結生成物の適切な細孔径を得るために、一実施形態では、上記得られた懸濁物中のヒドロキシアパタイト一次粒子は、より小さい粒子へとミル処理される。一実施形態では、ボールミル法が、ジルコニアビーズで充填された閉塞シリンダ内へとヒドロキシアパタイト粒子含有懸濁物を連続的に送り込むことによって適用される。一実施形態では、ミル処理された粒子のメジアン径は、約1μm(D50)以上であり、好ましくは約1〜5μmの範囲内であり、より好ましくは約1〜3μmの範囲内である。ミル処理された粒子のメジアン径をこれらの範囲内に制御することによって、本発明の方法は、約0.5〜0.9g/cm、特に0.55〜0.82g/cmの範囲内の嵩密度を有する固結二次粒子を含む最終的なヒドロキシアパタイト吸着剤を、確実に製造することができる。
【0040】
別の実施形態において、本発明は、固結二次粒子からなる高度に球状な多孔質ヒドロキシアパタイトミクロスフィアを作製する方法を提供する。具体的には、一実施形態では、懸濁物の粘度を下げて液体の流動性を大幅に向上させるために、噴霧乾燥する前に、適切な量の分散剤が上記ミル処理された懸濁物へと添加される。そして、固結ヒドロキシアパタイト二次粒子が、加熱された垂直チャンバ内でヒドロキシアパタイト一次粒子を含む液滴を噴霧乾燥することによって得られる。その結果、そうして得られた固結ヒドロキシアパタイト二次粒子の球形度が、分散剤を全く使用せずに得られた生成物と比較して大幅に改善される。
【0041】
懸濁物の流動性を向上させるために使用される分散剤は、制限されないが、無機化合物、短鎖有機化合物、及びポリマーが挙げられる。
【0042】
別の実施形態において、本発明は、噴霧乾燥によって得られたヒドロキシアパタイト粉末を高温で処理し、異なる平均粒子径を有する種々の最終的な吸着剤生成物を得るために、粉末をさらに分級する方法を提供する。一実施形態では、処理温度は、機械的安定性、良好な結合能力、及び最終的な吸着剤への生体分子の物質移動の潜在的な障害を克服するのに充分に大きい細孔開口を確保するように調節される。好ましくは、超音波篩い分け法が、粒子径の広い分布の粒子の分級に適用される。その結果、得られた最終的な吸着剤生成物は、狭い粒子径分布を有する。
【0043】
本発明の吸着剤は、ボールミル処理された合成ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))一次粒子を噴霧乾燥し、続く高温処理及び粒子分級により製造される。限定することであると意図されないが、本発明により得られた吸着剤は、粒子径の狭い分布と、約0.5〜0.9g/cm、典型的には約0.55〜0.82g/cmの範囲内の嵩密度、並びに約0.1〜0.5cm/gの細孔容積を有する。吸着剤は化学的及び機械的に安定であり、充填ベッド、流動ベッド若しくは撹拌バッチ吸着、又は生体分子のクロマトグラフィー分離及び精製に特に有用である。
【0044】
本発明の方法を用いて得ることができる高度に球状な吸着剤は、ヒドロキシアパタイトだけでなく、他の種類の合成材料もまた含む。合成材料は有機材料及び無機材料が挙げられ、無機材料は好ましくは、リン酸カルシウム系セラミックス、鉱物酸化物などのセラミック材料である。これらの中でも、ヒドロキシアパタイトは、無毒かつ生体適合性である。従って、ヒドロキシアパタイトは、人工骨や歯、薬物送達システムのマトリックスなどの生物医学的用途のための理想的な生体材料である。また、結晶表面上に官能基を有するセラミック材料として、ヒドロキシアパタイトは、様々な生体分子に対して優れた吸着能力を有するだけでなく、クロマトグラフィー媒体として支持材としても機能することができる。
【0045】
以下に、吸着剤、及び本発明に係る吸着剤の製造方法が、特定の好ましい実施形態に言及しつつ、より詳細に説明されるであろう。
【0046】
1.ナノ構造ヒドロキシアパタイト前駆体の合成
まず、球状粒子を製造するための前駆体として使用されるナノ構造ヒドロキシアパタイトが、溶液を懸濁物と混合する反応により合成される。溶液は二つの原料の混合物を含み、懸濁物は一つの原料を含む。反応の間、懸濁物は激しく撹拌され、容器内の反応温度を維持するための温度に循環槽が設定される。反応の終了時、ナノロッド構造を有する一次ヒドロキシアパタイト粒子が得られる。
【0047】
一実施形態では、ヒドロキシアパタイト前駆体を製造するために、水に溶解した二つの原料、すなわち、第一リン酸アンモニウム及びリン酸、を含有する溶液が、固体原料の水酸化カルシウムを水中に含む懸濁液へと、激しく撹拌しながら少しずつ添加される。一実施形態では、使用される原料についてのCa/Pの化学量論比は、1.67である。
【0048】
上記の方法により、ナノロッドネットワーク構造及び高い表面積を有するヒドロキシアパタイト粒子を得ることが可能であり、これはクロマトグラフィー媒体としての使用に非常に望ましい。
【0049】
工業的応用の必要性に基づいて、ヒドロキシアパタイトを製造するバッチサイズは、ヒドロキシアパタイトの物理化学的性質に全く影響を与えることなく、スケールアップ可能である。好ましくは、反応容器のサイズは、10L〜10,000L、より好ましくは50L〜5,000Lである。
【0050】
一実施形態では、反応容器中の懸濁物の初期温度は20〜50℃の間に設定されてもよく、好ましくは、循環槽温度が、反応の経過中は初期温度に維持される。別の好ましい実施形態では、実施例1に示されるように、初期温度が35℃に設定される。槽循環温度が35℃に維持された場合、主として原料間の発熱中和により引き起こされる反応の過程での反応温度の変化が、最小化され得る。いくつかの実施形態では、温度逸脱を回避するために、第一リン酸アンモニウム及びリン酸を含有する溶液を反応器中の水酸化カルシウム懸濁液と混合する際中に、溶液の添加速度が制御されるべきである。いくつかの好ましい実施形態では、逸脱温度が初期反応温度の約5℃以内に制御され、これは、この合成工程でのヒドロキシアパタイトナノ結晶の一貫した特性を得られるように、バッチ毎に再現可能な製造を確実にするためには、重要である。いくつかの実施形態では、第一リン酸アンモニウム及びリン酸を含む溶液の添加時間は、約10〜約24時間であり、好ましくは約16時間である。溶液添加の終了後、初期温度と同じ温度を維持しながら、追加的に約1〜5時間、好ましくは約2時間、混合物は連続的に撹拌され、反応が完了に進むことを確実にする。
【0051】
反応の終了時に得られた懸濁物のpHは、重要である。いくつかの実施形態では、得られた懸濁物のpHは、約7〜12、好ましくは8〜11の範囲内となるべきである。pHが7以下であると、ヒドロキシアパタイトは、リン酸二カルシウム(DCP)、リン酸三カルシウム(TCP)などへとさらに変化する傾向がある。水酸化カルシウムと反応させるためにリン酸のみが使用される場合、反応系における緩衝能力の不足により、反応の終了に近づいたときにpHが劇的に変化し、DCP及びTCPのようないくつかの副生成物を潜在的に生成する。DCP及びTCPの形成は、高純度のヒドロキシアパタイトナノ結晶を製造するのに望ましくない。特に、使用されるリン酸の量が計算による化学当量を少し超える場合、pHは7よりかなり低くなることがあり、DCP及びTCPを含む多量の副生成物が生成されるであろう。
【0052】
上記欠点を克服するために、いくつかの実施形態において、本発明はまた、リン酸と一緒にリン酸源を提供するために、原料の一つとして第一リン酸アンモニウムを使用する。第一リン酸アンモニウムを使用する一つの利点は、反応が終了に近づいているときに、反応が緩衝能を有する系内で起こるため、pHの潜在的な劇的な変化が避けられる。別の利点は、原料としての第一リン酸アンモニウムは、より緩やか且つ制御可能な手法で反応が起こることを可能とし、反応系の低い温度逸脱をもたらす。より劇的である水酸化カルシウムとリン酸との間の発熱性中和反応とは異なり、第一リン酸アンモニウムの水酸化カルシウムとの反応は、より小さい熱を発生し、従って、よりぬるい。これらの条件は、一定の材料特性を有するヒドロキシアパタイトを製造するために役に立つ。
【0053】
水に懸濁された固体水酸化カルシウムの量、並びに水に溶解されたリン酸及び第一リン酸アンモニウムの量は、反応の過程で実質的に妨害することなく反応器内の懸濁物が容易に攪拌され得る限り、変化してもよい。具体的には、本実施形態では、水酸化カルシウム:水の比率は、1:10(重量/重量)である。別の実施形態では、リン酸(85% w/w):第一リン酸アンモニウム:水の比率は、17:1:50(重量/重量/重量)である。本発明によれば、リン酸と第一リン酸アンモニウムとの相対量は、Ca/Pの化学量論比が約1.67である限り、変化してもよい。
【0054】
2.ボールミル法による微小ヒドロキシアパタイト粒子の調製
上記合成された一次粒子が直接噴霧乾燥され、続いて固結二次粒子を焼結する場合、得られた吸着剤は非常に緩く、低い嵩密度を有する。その結果、機械的強度が低い。カラムベッドに充填されたときに、吸着剤は圧力下で崩壊する傾向がある。吸着剤の嵩密度及び機械的安定性を高めるためには、上記得られた懸濁物中に含まれるヒドロキシアパタイト一次粒子をより小さい粒子にミル処理して、緊密な固結二次粒子を得る必要がある。
【0055】
一実施形態において、本発明は、ボールミル法により微小ヒドロキシアパタイト粒子を調製する方法を提供する。ジェットミル法のような他の方法と比較して、ボールミル法は、コスト効率が良く、操作及び保守が容易であり、並びに懸濁試料の大規模生産に適している。なお、得られた粒子径は次の工程における処理の要件を満たしている。簡潔には、ボールミル法は、球状ジルコニアビーズが充填されて機械的にビーズを回転させる閉塞シリンダチャンバへと、ヒドロキシアパタイト懸濁物を連続的に供給することによって適用される。
【0056】
一実施形態では、ボールミル法の手順が次のように詳述される。ヒドロキシアパタイト懸濁物が、例えば約0.8mmの平均ビーズサイズを有するジルコニアビーズで充填された閉塞シリンダチャンバ内へと、例えば機械的手段によって送り込まれる。ジルコニアビーズと懸濁物との両方が高圧下で機械的に急速に回転させられたときに、一次粒子はチャンバ内でより小さな粒子へとミル処理される。ミル処理された懸濁物はシリンダの端部の開口から連続的に溶出され、容器内に回収される。多くの熱はチャンバ内での運転の経過中に発生するため、シリンダチャンバを取り囲む冷水循環が、熱を除去して装置の潜在的な損傷を回避するために適用される。粉砕粒子の目的サイズを得るために、操作の実行サイクルは、それに応じて調整されてもよい。
【0057】
この点に関して、前記方法は一次粒子を確実に粉砕し、それゆえ最終生成物(ヒドロキシアパタイト吸着剤)が前記更なる製造プロセスにより確実に得られるであろう。
【0058】
いくつかの実施形態では、得られた粉砕粒子のメジアン粒径は、1μm以上、好ましくは1〜5μm、より好ましくは1〜3μmである。最終生成物の細孔径は粉砕粒子のサイズに直接関係し、これは噴霧乾燥プロセスの工程から得られた固結二次粒子の粒子間の空隙を決定する。粉砕粒子のメジアン粒径がこの範囲内にある場合、適切な嵩密度、充分な機械的安定性、及び生体分子の結合のために充分な細孔径を有するクロマトグラフィー吸着剤の粉末を、確実に製造することができる。
【0059】
3.固結ヒドロキシアパタイト二次粒子の製造
良好な機械的強度を有する高度に球状の吸着剤を形成することが望ましい。低い球形度に起因して、既存の吸着剤は、良好な機械的安定性と、高分子量の生体分子の効率的な結合のための大きな表面細孔開口との両方を有していない。良好な球形度の固結二次粒子を得るこの目的に到達するために、製造プロセスを改良する必要がある。したがって、一側面では、本発明は、改変された噴霧乾燥法により球状粒子を作製する方法を提供する。
【0060】
一実施形態において、本発明は、噴霧乾燥法が適用される前に、ミル処理されたヒドロキシアパタイト懸濁物中への分散剤の添加による手順を提供する。一実施形態では、追加された分散剤の適切な量が、粉末粒子の球状を向上させるために必要である。結果として、固結ヒドロキシアパタイト二次粒子の球形度は、分散剤を使用せずに得られた生成物よりも高い。いくつかの実施形態では、ミル処理された懸濁物に添加された過剰な又は少なすぎる分散剤が、得られた固結粒子の形状を悪化させる可能性があるため、使用される分散剤(複数可)の量は厳密に制御されるべきである。
【0061】
具体的には、一実施形態において、分散剤の計算量が、容器内の上記ミル処理懸濁物へと、大気条件下で激しく撹拌しながら少しずつ添加される。結果として、懸濁物は濃さが低くなり(less dense)、その粘度が低下させられる。したがって、懸濁物の流動性も大幅に改善され、これは、噴霧乾燥の工程における回転ディスクの上での平滑な膜の形成を助ける。さらに、分散剤の使用はまた、高速で回転させられたときの回転ディスク上の膜の破壊によって形成された液滴の表面張力を低下させる。全ての上記有利な要因は、噴霧乾燥プロセスにより得られた高球形度を有する固結二次粒子の信頼できる作製方法を提供する。
【0062】
使用される分散剤の量は計算され、分散剤(重量):懸濁物(重量)の比率の百分率(%w/w)で表される。分散剤の種類及びミル処理された懸濁物中のヒドロキシアパタイトの固体含有量に応じて、使用される分散剤の量は、限定されるものではないが、約0.005%〜1%(w/w)の範囲内、好ましくは0.01%〜0.2%(w/w)の範囲内であり得る。いくつかの実施形態において、分散剤の適切な量の使用は、良好な製品品質と性能とを有する固結二次粒子を得るために重要である。この点において、分散剤の不十分な量の添加は、懸濁物の粘度を十分に低下させ無いこともある。なお、過剰な分散剤の添加は、分散粒子の再凝集に至る可能性がある。その結果、不均一な懸濁物が形成されて沈殿する傾向があり、これは望ましくない。
【0063】
本発明に有用な分散剤は、制限されないが、無機化合物、短鎖有機化合物、ポリマーなどが挙げられる。
【0064】
無機化合物分散剤の例としては、制限されないが、リン酸塩(ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、ケイ酸塩、及び炭酸塩が挙げられる。短鎖有機化合物の例としては、制限されないが、有機電解質(クエン酸など)、及び界面活性剤(トゥイーン20、トゥイーン80、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、及びCTABなど)が挙げられる。ポリマー分散剤の例としては、制限されないが、ポリマー電解質(ポリアクリレートなど)、及びポリマー非電解質(ポリアクリル酸及びPVAなど)が挙げられる。
【0065】
一例では、7gのポリアクリル酸ナトリウムが少しずつ、例えば滴下して、35Lのミル処理ヒドロキシアパタイト(約10% w/w)懸濁物に、撹拌しながら添加された。懸濁物は、より低い粘性で、より均質になった。攪拌しなくとも、得られた懸濁物は、ヒドロキシアパタイト粒子が全く沈殿せずに数時間安定であった。
【0066】
次の工程は、上記の充分に分散された懸濁物を噴霧乾燥することにより、球状二次粒子を作ることである。具体的には、上記懸濁物は、高温ガス流、例えば空気または窒素と一緒に、回転ディスク、噴霧ノズルのような霧化デバイスを介して垂直乾燥チャンバに噴射される。高温ガス流は、回転ディスクによって形成されるミクロ液滴からの水の急速な蒸発を引き起こし、噴霧ノズルから放出する。ガスは、典型的には140〜220℃で噴射され、100℃をわずかに超える温度で乾燥機から出る。ミクロ液滴から形成されたヒドロキシアパタイトの微粒子は、高度に球状な形の個別の凝集体へと固結される。得られたヒドロキシアパタイトミクロスフィア粉末は、噴霧乾燥機の底部で回収され、大部分の量の粒子が40μmの粒子径である、約10〜90μmの粒子径の範囲内の粒子から構成される。
【0067】
4.高温処理及び分級
ヒドロキシアパタイトは、崩れやすいセラミック材料であることが知られている。その機械的強度を向上させるために、ヒドロキシアパタイトは、一定の期間、高温で加熱される必要がある。上記の工程で得られた乾燥ヒドロキシアパタイト粉末が高温で処理されると、棒−球状の一次粒子が収縮し、共に混ぜ合わさってより緊密なネットワーク構造を形成する傾向がある。その結果、得られたヒドロキシアパタイト吸着剤の表面の細孔開口サイズが大きくなり、ミクロスフィア粉末の機械的強度はそれに応じて向上させられる。細孔開口サイズの増加は、焼結温度の上昇に対応する。また、600℃以上の焼結温度では、細孔径が最大値に達するまで、焼結時間と共に増加し得る。明らかに、焼結粉末の表面積は、焼結温度の上昇と共に減少する。表面活性部位に直接関連しているヒドロキシアパタイト吸着剤の表面積は、生体分子のその結合能力を決定する。クロマトグラフィー分離のためのヒドロキシアパタイト吸着剤の用途に応じて、当業者は、所望の性能のために、焼結温度及び時間のようなプロセスパラメータを最適化することができるであろう。一実施形態では、有機分散剤が使用される場合、有機分散剤が燃焼するように、空気流の存在下で焼結が行われる。
【0068】
一実施形態では、空気流にさらされたオーブン内に粉末が配置される。粉末は徐々に650℃まで加熱され、650℃で4時間維持される。粉末はその後冷却され、オーブンから取り出される。加熱と冷却は結晶粒子の体積変化をもたらしたが、吸着剤ビーズは、これらのプロセスの後にいかなる亀裂も示さない。上記の作業は、拡大された細孔径を有する安定なビーズの形成をもたらす。
【0069】
高温処理によって得られた上記の粉末は、広範囲の粒子径分布を有する。クロマトグラフィー分離媒体としては、特に工業的精製プロセスに使用される場合、より均一な粒子径の吸着剤が好ましいことがある。したがって、いくつかの実施形態では、狭い粒子径分布を有する吸着剤を得るために、上記で得られた粉末を分級する必要がある。
【0070】
スクリーン篩い分け及びサイクロン分級を含む様々な分級方法が、本発明において使用され得る。サイクロン分級法は、全ての不要なより小さな及びより大きな粒子を完全に排除することができない。しかし、超音波篩い分け法については、粒子径カットオフが、容易に商業的にカスタム設計されたスクリーンの開口サイズによって決定される。したがって、超音波篩い分け法は、特定の所望の狭い粒子径分布を有する粒子を得るためには、より信頼性が高い。
【0071】
一実施形態において、本発明は、超音波振動篩を用いてヒドロキシアパタイト粒子を分級する方法を提供する。この方法は、良好な製造再現性があり信頼性が高く、かつ安定した性能の最終吸着剤生成物を提供する。焼結粉末は機械的に強いので、分級がこの段階で行われる場合、固結二次粒子の完全性が良好に維持される。噴霧乾燥により得られた二次粒子について、その機械的安定性は、焼結粉末よりも弱い。分級プロセス、特に、サイクロン分級法を用いたプロセスが、焼結プロセス前の乾燥粉末に適用される場合、いくつかの粒子が破壊する傾向があり、これは、分級された粒子上での欠陥の形成を潜在的にもたらし、粒子完全性に影響する。従って、本発明はまた、焼結しない粉末にこのようなプロセスを適用する代わりに、焼結粉末を分級するための超音波篩い分け方法を提供する。
【0072】
具体的には、40μmの粒子径を有するヒドロキシアパタイト吸着剤を得るためには、超音波振動篩には、35μm及び45μmの開口サイズをそれぞれ有する2つのスクリーンが取り付けられる。分離効率を最大化し、粒子径摩耗(particle size attrition)を回避するために、スクリーンには超音波システムが装備され、これは特に、例えば本発明におけるヒドロキシアパタイト粉末のような1g/cm未満の密度を有する粉末には有用である。簡潔には、いくらかの焼結粉末が、45μmスクリーンの上に置かれる。篩い分け操作の時間の後、2つのスクリーンの間、すなわち、45μmスクリーンの下で且つ35μmスクリーン上、にある粉末が、最終的なヒドロキシアパタイト吸着剤生成物を得るために回収される。生成物は、40±2μmの平均粒子径を有する。異なるスクリーンが使用される場合、得られた最終的な吸着剤生成物は、平均粒子径が、例えば、20、40、60、及び80μmとして、特異的に指定される。
【0073】
本発明から得られた最終生成物は、少なくとも0.95、典型的には少なくとも0.97の球形度を有し、高度に球状である。ヒドロキシアパタイト吸着剤の嵩密度は、約0.5〜0.9g/cm、典型的には約0.55〜0.82g/cm、好ましくは約0.62〜0.75g/cmの範囲内である。
【0074】
別の側面において、本発明は、本明細書に開示される任意の実施形態に係るクロマトグラフィー吸着剤を含むクロマトグラフィーデバイス又は機器を使用した、有機及び/または生物学的試料の分析または分離方法を提供する。デバイス又は機器は、例えば、クロマトグラフィーカラム自体、またはそのようなクロマトグラフィーカラムを不可欠な要素として含む自動機械が挙げられる。
【0075】
分析または分離された有機試料は、合成または天然の有機化合物を含有する、任意の組成物または混合物であってもよい。分析または分離された生物学的試料は、タンパク質、酵素、核酸などを含有する、任意の組成物または混合物を含んでもよい。これらの試料を分析または分離するクロマトグラフィーカラムの使用は、当業者によく知られているが、本発明に係るクロマトグラフィー吸着剤の優れた特性は、より効率的な分析及び/または分離を可能にする。
【0076】
本出願では、用語「約」が値の前に現れた場合は、その値は、少なくとも±10%、しかし、好ましくは±5%、より好ましくは±2%分変動し得ることが理解されるであろう。用語「約」が範囲の前に現れた場合は、上限値と下限値の両方が、少なくとも±10%、しかし、好ましくは±5%、より好ましくは±2%分変動し得ることが理解されるであろう。このような範囲が表現される場合、別の側面では、ある特定の値から及び/又は他の特定値までを含む。同様に、先行詞「約」を用いて近似値のように値が表現される場合、その特定の値は他の側面を形成することが理解されるであろう。
【0077】
実施例
本発明は、実際の実施例に言及して以下に説明される。
【0078】
実施例1. ナノ構造ヒドロキシアパタイトの合成
ナノ構造ヒドロキシアパタイトを調製する目的で、懸濁液が均一に反応容器中に分散していることを確実にするために機械的に撹拌しながら、3kgの水酸化カルシウム粉末が、水酸化カルシウム懸濁液を形成するために30Lの水へと少しずつ添加された。懸濁液の温度は、攪拌しながら35℃に維持された。次いで、2.7kgのリン酸(85% w/w)及び0.1kgの第一リン酸アンモニウムを含む水溶液(5L)が16時間にわたって上記懸濁液に添加され、その間、反応温度は35℃に維持された。上記溶液の添加終了後、ナノ構造ヒドロキシアパタイトを得るために、懸濁物は、さらに4時間連続して攪拌された。得られた懸濁物のpHは8.5であると測定された。
【0079】
高純度ヒドロキシアパタイト生成物を得るために、最終懸濁物のpHが約7〜12、好ましくは8〜11の範囲内に制御された。リン酸及び第一リン酸アンモニウムを含む水溶液の様々な量が、最終懸濁物のpHが上記の範囲内に入るように調節するために添加された。反応温度は、製造再現性を確保するために一定に保たれた。
【0080】
実施例2. ミル処理されたヒドロキシアパタイトの調製
まず、実施例1で得られたヒドロキシアパタイト一次粒子が、より小さな粒子へとさらにミル処理された。ボールミル法が適用され、0.88mm粒子径のジルコニアビーズが装置内に用いられた。
【0081】
具体的には、実施例1で得られたヒドロキシアパタイト懸濁物は、ジルコニウムビーズが充填されたミル処理チャンバへと連続的に送り込まれた。ミル処理チャンバは高圧下で維持された。ミル処理の過程で発生される熱を除去するために、循環冷水が適用された。ミル処理されたヒドロキシアパタイト懸濁物は、別の容器に集められた。上記ミル処理プロセスは、ミル処理された懸濁物試料を得るために、約20回繰り返された。
【0082】
粒子径分布は、レーザー散乱回折法により測定された。図1は、実施例1で得られた未ミル処理ヒドロキシアパタイト懸濁物の粒子径分布曲線を示す。図2は、実施例2で得られたミル処理されたヒドロキシアパタイト懸濁物の粒子径分布曲線を示す。結果は表1に示されている。ボールミル処理のプロセスの後、一次粒子のメジアン粒径は5.6μm(D50)から1.8μm(D50)に減少させられた。
【0083】
ミル処理サイクルを調節したり、様々な粒子径を有するジルコニアビーズを適用したりすることにより、ミル処理ヒドロキシアパタイト懸濁物のメジアン粒径が1〜5μmの範囲内になるように調整された。1〜3μmのミル処理された粒子径は、生体分子の分離のためのクロマトグラフィー媒体として充分な細孔径を有するミクロスフェアの形成を可能にする。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例3. 噴霧乾燥ヒドロキシアパタイト粉末の調製
高度に球状なヒドロキシアパタイト粒子は、噴霧乾燥法を用いて得られた。粒子の機械的強度を大幅に強化するであろう高度に球状な粒子を形成することが、望ましい。この目的を達成するため、噴霧乾燥する前に、適切な量の分散剤が懸濁物へと添加される必要があることが見出された。
【0086】
具体的には、ある実験では、7gのポリアクリル酸ナトリウムが、35Lのヒドロキシアパタイト懸濁物へと激しく撹拌しながら少しずつ添加された。懸濁物は、徐々に濃さが低くなり、より均一になった。その粘度は低下させられ、その流動性は大幅に改善された。
【0087】
上記懸濁物は、次いで、回転ディスクと噴霧ノズルとを備えた霧化デバイスを介して垂直乾燥チャンバへと、熱空気ガス流と一緒に送り込まれた。空気ガス流の入口温度は165℃に設定され、出口空気ガス流は110℃の温度を有していた。ヒドロキシアパタイトの微粒子は、垂直乾燥チャンバ内で、高度に球形状な個別の凝集体へと固結された。乾燥ヒドロキシアパタイト粉末は、乾燥チャンバの底部で回収された。
【0088】
実施例4. 40μmヒドロキシアパタイト吸着剤の製造
上記乾燥粉末を高温で処理するため、回収された粉末は、空気流にさらされたオーブン内に置かれた。オーブンは、室温から650℃へと徐々に加熱され、650℃で4時間維持された。粉末は、次いで、ゆっくりと冷却され、オーブンから取り出された。
【0089】
焼結粉末は、超音波振動篩い分け法により分級された。具体的には、35μm及び45μmの開口サイズをそれぞれ有する2つのスクリーンが、超音波振動篩に取り付けられた。両方のスクリーンには、超音波システムが装備されていた。45μmのスクリーンは、35μmスクリーンの直上に積み重ねられた。上記で得られた焼結粉末は、45μmスクリーンの上に置かれた。10分間の篩い分け作業の後、2つのスクリーンの間にある粉末が、最終的な40μmヒドロキシアパタイト粉末生成物を得るために回収された。
【0090】
比較例1
実施例1で得られた懸濁物がボールミル処理を経ずに直接に噴霧乾燥され、焼結温度がそれぞれ475℃及び650℃であったことを除き、実施例4に記載されるのと同様の方法により40μmヒドロキシアパタイト吸着剤が得られた。
【0091】
比較例2
焼結温度が475℃であったことを除き、実施例4に記載されるのと同様の方法により40μmヒドロキシアパタイト吸着剤が得られた。
【0092】
表2は、様々なプロセス条件下で製造されたヒドロキシアパタイト吸着剤の嵩密度を示している。表2に示されるように、実施例4で得られた吸着剤の嵩密度は、比較例1で得られた吸着剤のそれよりも約30%大きい。嵩密度の増加は、クロマトグラフィー分離用の充填媒体としてのその使用のための基本的要件を満たすように、吸着剤の機械的強度を向上させ得る。
【0093】
【表2】
【0094】
図3は、実施例4で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤(40μm粒子径)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、650℃の焼結温度での比較例1で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤(40μm粒子径)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。平均粒子径は、40±2μmの特定の範囲内で40μmであることがレーザー散乱回折法によって測定された。SEM画像は、実施例4で得られたヒドロキシアパタイト吸着剤ビーズが、高度に球状な形でサイズが均一であり、ビーズの表面もまた非常に滑らかであることを示している。吸着剤ビーズの球形度は、0.99を超えることが測定された。しかしながら、比較例1で得られた吸着剤ビーズは、かろうじて球状ではあるが、その表面に粗さや欠陥があった。実施例4で得られた吸着剤は、また、液体窒素吸脱着等温線測定により特徴付けられた。固結二次粒子の平均細孔径及び細孔容積は、それぞれ、約80nm及び0.2cm/gであると測定された。
【0095】
図5は、実施例4で得られた40μmヒドロキシアパタイト吸着剤のX線回折パターン(XRD)を示す。図6は、実施例4で得られた40μmヒドロキシアパタイト吸着剤のFT−IRスペクトルを示す。XRD及びFT−IRスペクトルの両方の結果は、40μmヒドロキシアパタイト吸着剤が、ヒドロキシアパタイト結晶の構造と一致することを示している。
【0096】
調節可能な空カラムに吸着剤が充填された場合の、ヒドロキシアパタイト吸着剤ビーズの機械的安定性も評価された。カラムに充填された吸着剤の寸法は、11mm(i.d.)×200mm(長さ)であった。充填されたカラムは、GE AKTAタンパク質精製システムに取り付けられた。移動相は5mMリン酸ナトリウム pH=6.5の緩衝液、流速は300cm/時間という運転条件であった。図7は、実施例4で得られた試料についての、時間に対するカラム圧力の曲線を示す。ヒドロキシアパタイトは、わずかに酸性な条件下において(pH<7)、少しずつ溶解させられた。結果として、吸着剤が機械的に強くないと、吸着剤が少しずつ溶解する傾向があり、カラムベッドの崩壊に至り、劇的にカラム圧力を増加させる。図7は、72時間後に、カラム圧力が初期圧力とほぼ同じであったことを示す。粒子も顕微鏡下で調査され、72時間後の粒子形状及びサイズが充填する前の吸着剤のものと同一であり、壊れた球状粒子の小片が観察されなかったことを示す。しかし、比較例1で得られた吸着剤については、カラムベッドの崩壊に起因し、圧力が2時間後に劇的に増加したことが観察され、評価試験は中止されなければならなかった。結果は、実施例4からの吸着剤(40μm)が比較例1で得られた試料よりも機械的に安定していることを示し、それゆえクロマトグラフィー分離での使用のための吸着剤の要件を満たしている。
【0097】
実施例5. 20μmヒドロキシアパタイト吸着剤の製造
35μm及び45μmの開口サイズを有する2つのスクリーンに替えて15μm及び25μmの開口サイズを有する2つのスクリーンをそれぞれ使用したことを除き、実施例4に記載されるのと同様の方法により20μmヒドロキシアパタイト吸着剤が得られた。
【0098】
実施例6. 60μmヒドロキシアパタイト吸着剤の製造
35μm及び45μmの開口サイズを有する2つのスクリーンに替えて50μm及び70μmの開口サイズを有する2つのスクリーンをそれぞれ使用したことを除き、実施例4に記載されるのと同様の方法により60μmヒドロキシアパタイト吸着剤が得られた。
【0099】
実施例7. 80μmヒドロキシアパタイト吸着剤の製造
35μm及び45μmの開口サイズを有する2つのスクリーンに替えて70μm及び90μmの開口サイズを有する2つのスクリーンをそれぞれ使用したことを除き、実施例4に記載されるのと同様の方法により80μmヒドロキシアパタイト吸着剤が得られた。
【0100】
実施例8. ヘキサメタリン酸ナトリウム分散剤を用いた40μmヒドロキシアパタイト吸着剤の製造
実施例3に示されるように、ポリアクリル酸ナトリウムがヘキサメタリン酸ナトリウムに置き換えられたことを除き、実施例4に記載されるのと同様の方法により40μmヒドロキシアパタイト吸着剤が得られた。
【0101】
具体的には、50mLの水に溶解させられた20gのヘキサメタリン酸ナトリウムが、激しく撹拌しながら35Lのヒドロキシアパタイト懸濁物へと少しずつ添加された。
【0102】
実施例9. SDS分散剤を用いた40μmヒドロキシアパタイト吸着剤の製造
実施例3に示されるように、ポリアクリル酸ナトリウムがSDSに置き換えられたことを除き、実施例4に記載されるのと同様の方法により40μmヒドロキシアパタイト吸着剤が得られた。
【0103】
具体的には、100mLの水に溶解させられた5gのSDSが、激しく撹拌しながら35Lのヒドロキシアパタイト懸濁物へと少しずつ添加された。
【0104】
実施例5〜9で得られたすべての吸着剤は、高い球形度及び実施例4で得られた吸着剤と同様の嵩密度を有していた。メジアン粒径は、それぞれ20±4μm、60±4μm、80±4μm、40±4μm、及び40±4μmの範囲内であった。それらの機械的安定性もまた、実施例4で得られた吸着剤と同様に良好であると評価された。
【0105】
上述の実施形態及び具体的な実施例は、例示目的のみのために提供されており、限定することが意図されない。上述のいずれか1つの実施形態の1つ以上の任意の特徴は、本明細書に記載の任意の他の実施形態の1つ以上の特徴と、任意の適切な方法で組み合わせられてもよい。さらに、本発明の多くの変形例及び均等物は、本明細書における開示を検討することで、及び本分野で公知の一般的な知識と組み合わせて、当業者に明らかになるであろう。これらの変形例及び均等物はすべて本発明の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7