(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補強リング部材の最外径部が前記固定部の前記短内径部よりも大きく設定されて配設される場合に、前記固定部の少なくとも前記短内径部分を縦に分割して組み立てることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の真空ポンプの組立方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成では、実用化にあたって以下(1)〜(3)に挙げるような問題が生じる。
図12は、従来技術を説明するための図である。
(1)軸方向に長い円筒構造をもつターボ分子ポンプ2000のロータ円筒外周部2001に、
図12に示したようにリング部材2002を嵌め込んだ場合、正確に取り付けられていないとバランス調整が難しくなることが考えられる。例えば、リング部材2002が少しでも斜めに取りつけられてしまうと、ロータのバランスが崩れ(バランスが悪くなり)、その結果、ターボ分子ポンプ2000は安定した運転ができなくなってしまう虞がある。
また、焼き嵌めによる取り付け方法が記載されているが、焼き嵌めによる取り付け方法は、真空ポンプが大型になればなるほど、その焼き嵌め作業は困難になってしまう虞がある。
(2)リング部材2002をロータの円筒外周部2001に配設する位置を決める位置決め構造等が無いので、リング部材2002を所定位置に正確に固定するためには専用治具などが必要になる。
(3)リング部材2002の外径が、ロータ円筒外周部2001の外径よりも大きい場合は、従来(即ち、リング部材2002が配設されていない場合)よりも、ねじ溝スペーサ2003とのクリアランスを大きくする必要が生じ、その結果、排気性能が低下する虞がある。特に、ロータ円筒外周部2001の下側にリング部材2002を設ける場合は、こうしたクリアランスの増加によるターボ分子ポンプ2000の性能低下の割合は大きくなる可能性が高い。
【0008】
そこで、本発明は、ロータ円筒部補強リングを有し、更に、当該補強リングの位置決めを容易にする構造を有するロータ、当該ロータを内包する真空ポンプ、及び、当該真空ポンプの組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明では、外装体の内側に設けら
れ、吸気口から排気口へ気体を移送する気体移送機構に用いられるロータであって、
前記気体移送機構は、ねじ溝スペーサと前記ロータの円筒部に形成されたねじ溝式ポンプ用ロータからなり、前記ねじ溝スペーサのみにねじ溝が形成されたねじ溝式ポンプ部を含み、前記円筒部に補強リング部材が配設され
、前記円筒部の前記補強リング部材が配設された部分より下方に、下方に行くに従って前記円筒部の前記補強リング部材が配設された部分よりも縮径するテーパ部が設けられており、前記補強リング部材は、前記円筒部において、前記ねじ溝式ポンプ部から上側へ延長された延長部に配設され、前記ロータは前記補強リング部材が配設される位置を設定する位置決め構造を備え、前記位置決め構造は、前記ロータの前記円筒部の側面に、前記補強リング部材と当接するように形成された突起部又は前記テーパ部のうち少なくともいずれか1を有することを特徴とするロータを提供する。
請求項2記載の発明では、前記補強リング部材は、前記ロータの前記円筒部
の前記側面と対向する側に、C面取り、R形状、又はテーパ形状のうち少なくとも1が施されていることを特徴とする請求項
1に記載のロータを提供する。
請求項3記載の発明では、前記補強リング部材は、前記ロータの前記円筒部
の前記側面と対向しない側に、前記排気口の側に行くに従い外径が小さくなるような形状が施されていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載のロータを提供する。
請求項4記載の発明では、前記補強リング部材は、繊維強化部材で製造されることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のロータを提供する。
請求項5記載の発明では、前記補強リング部材は、圧入、焼き嵌め、
又は冷やし嵌
めにより前記円筒部
と嵌合する嵌合部、又は接着により前記円筒部に接着される接着部を備えることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のロータを提供する。
請求項6記載の発明では、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のロータと、前記外装体と、前記外装体の内側に配設され、前記ロータと共に前記気体移送機構を形成する固定部と、を備えることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項7記載の発明では、前記固定部は、長内径部と前記長内径部よりも内径が小さく形成された短内径部とで形成される内径寸法変化部を更に有することを特徴とする請求項
6に記載の真空ポンプを提供する。
請求項8記載の発明では、前記固定部の
前記内径寸法変化部は、前記長内径部及び前記短内径部により、前記ロータの
前記円筒部に嵌合された前記補強リング部材と前記固定部とで形成されるクリアランスを一定に保つことを特徴とする請求項
7に記載の真空ポンプを提供する。
請求項9記載の発明では、前記ロータの外周面から放射状に配設された回転翼を更に有し、前記位置決め構造は、前記回転翼の最下段の回転翼であることを特徴とする請求項
6から請求項
8のいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項10記載の発明では、
前記ロータの外周面から放射状に配設された回転翼を更に有し、前記位置決め構造は、前記突起部と前記回転翼の最下段の回転翼とが一体に形成されていることを特徴とする請求項
6から請求項
8のいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項11記載の発明では、前記補強リング部材の最外径部が前記固定部の前記短内径部よりも大きく設定されて配設される場合に、前記固定部の少なくとも前記短内径部分を縦に分割して組み立てることを特徴とする請求項
7又は請求項8に記載の真空ポンプの組立方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロータ円筒部補強リングを有し、更に、当該補強リングの位置決めを容易にする構造を有するロータを提供することができる。
また、当該ロータを内包する真空ポンプ、及び、真空ポンプの組立方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態に係る真空ポンプでは、上述した課題を解決するために以下(1)〜(6)の技術的特徴を有する。
(1)ロータ円筒部補強リング(リング部材)の位置決めがなされ易いように、ロータ円筒部補強リングの位置決め構造を設ける。
(2)ロータとロータ円筒部補強リングとの嵌め合い作業が行われ易いように、ロータの円筒部にテーパを設けた位置決め構造を設ける。
(3)ロータの円筒部と対面する固定部とのクリアランスが広がらないように、ねじ溝スペーサの方にロータ円筒部補強リングの形状に合わせた構造(即ち、クリアランス一定構造)を設ける。
(4)ロータとロータ円筒部補強リングとの嵌め合い作業が行われ易いように、ロータ円筒部補強リングの内周側に以下(a)〜(d)の少なくとも1つの嵌め合い簡易化構造を設けた位置決め構造を設ける。
(a)C面取り
(b)R形状
(c)テーパ形状
(5)ポンプのコンダクタンスが低下しないように、ロータ円筒部補強リングの外周側を流線形状(下側を切断した形状)にする。
(6)上記(1)〜(5)の位置決め構造を備える真空ポンプを組み立てる際に、当該真空ポンプの固定部品の一部を縦割りの分割構造にする。
【0013】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、
図1〜
図10を参照して詳細に説明する。
なお、本実施形態では、真空ポンプの一例として、ターボ分子ポンプ部とねじ溝式ポンプ部を備えた、いわゆる複合型のターボ分子ポンプを用いて説明する。
また、本
実施形態は、ねじ溝式ポンプ部のみを有する真空ポンプ(
図10)や、ねじ溝が回転体側に設けられた真空ポンプに適用しても良い。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1の概略構成例を示した図である。
なお、
図1は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
ターボ分子ポンプ1のケーシング2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース3と共にターボ分子ポンプ1の外装体を構成している。そして、この外装体の内部には、ターボ分子ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
この気体移送機構は、大きく分けて、回転自在に軸支された回転部(ロータ部)と外装体に対して固定された固定部から構成されている。
また、図示しないが、ターボ分子ポンプ1の外装体の外部には、ターボ分子ポンプ1の動作を制御する制御装置が専用線を介して接続されている。
【0015】
ケーシング2の端部には、当該ターボ分子ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
また、ベース3には、当該ターボ分子ポンプ1から気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0016】
回転部は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数枚の回転翼9、排気口6側(ねじ溝式ポンプ部)に設けられたロータ円筒部10などから構成されている。なお、シャフト7及びロータ8によってロータ部が構成されている。
各回転翼9は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト7から放射状に伸びたブレードからなる。
また、ロータ円筒部10は、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材である。
また、本発明の実施形態に係るロータ円筒部10には、リング状のロータ円筒部補強リング90が配設されている。
なお、本実施形態では、このロータ円筒部補強リング90を配設する方法としては、圧入、焼き嵌め(ロータ円筒部補強リング90を温めて広げ、熱膨張の差を利用してロータ円筒部10へ入れる)、ロータ円筒部10を冷やしてロータ円筒部補強リング90へ入れる、接着剤を利用する、などが考え得る。
ここで、ロータ円筒部補強リング90の材料としては、ロータ円筒部10よりもヤング率が高く、且つ線膨張係数(のび)が低い材料がよく、具体的には、繊維強化複合材料(繊維強化プラスチック材、Fiber Reinforced Plastics)、ステンレス、チタンなどがある。
特に、ロータ円筒部補強リング90に繊維強化複合材料を利用する場合は、圧入を利用する場合が多い。即ち、繊維強化プラスチック材を用いて製造されたロータ円筒部補強リング90の方がロータ円筒部10よりも少し小さく製造されており、ロータ円筒部10へ圧入している。なお、繊維強化複合材料に用いられる繊維は、アラミド繊維(AFRP)、ボロン繊維(BFRP)、ガラス繊維(GFRP)や炭素繊維(CFRP)、ポリエチレン繊維(DFRP)などがある。
【0017】
シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部20が設けられ、ステータコラム80に内包されている。
更に、シャフト7のモータ部20に対して吸気口4側、および排気口6側には、シャフト7をラジアル方向(径方向)に非接触で軸支するための径方向磁気軸受装置30、31、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で支持するための軸方向磁気軸受装置40が設けられている。
【0018】
外装体の内周側には、固定部が形成されている。この固定部は、吸気口4側(ターボ分子ポンプ部)に設けられた複数枚の固定翼50と、ケーシング2の内周面に設けられたねじ溝スペーサ70などから構成されている。
各固定翼50は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して外装体の内周面からシャフト7に向かって伸びたブレードから構成されている。
各段の固定翼50は、円筒形状をした固定翼スペーサ60により互いに隔てられて固定されている。
ターボ分子ポンプ部では、固定翼50と、回転翼9とが互い違いに配置され、軸線方向に複数段形成されている。
【0019】
ねじ溝スペーサ70には、ロータ円筒部10との対向面にらせん溝が形成されている。
ねじ溝スペーサ70は、所定のクリアランスを隔ててロータ円筒部10の外周面に対面しており、ロータ円筒部10が高速回転すると、ターボ分子ポンプ1で圧縮されたガスがロータ円筒部10の回転に伴ってねじ溝(らせん溝)にガイドされながら排気口6側へ送出されるようになっている。即ち、ねじ溝は、ガスを輸送する流路となっている。ねじ溝スペーサ70とロータ円筒部10が所定のクリアランスを隔てて対向することにより、ねじ溝でガスを移送する気体移送機構を構成している。
なお、ガスが吸気口4側へ逆流する力を低減させるために、このクリアランスは小さければ小さいほど良い。
ねじ溝スペーサ70に形成されたらせん溝の方向は、らせん溝内をロータ8の回転方向にガスが輸送された場合、排気口6に向かう方向である。
また、らせん溝の深さは、排気口6に近づくにつれて浅くなるようになっており、らせん溝を輸送されるガスは排気口6に近づくにつれて圧縮されるようになっている。このように、吸気口4から吸引されたガスは、ターボ分子ポンプ部で圧縮された後、ねじ溝式ポンプ部で更に圧縮されて排気口6から排出される。
このように構成されたターボ分子ポンプ1により、ターボ分子ポンプ1に配設される真空室(図示しない)内の真空排気処理を行うようになっている。
【0020】
(ii−1)第1実施形態
(ロータ円筒部補強リングの位置決め構造)
図2は、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aを有するロータ円筒部10の拡大図である。
図2の各図に示したように、本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、ロータ円筒部10にロータ円筒部補強リング90の位置を決める(即ち、ロータ円筒部10にロータ円筒部補強リング90を固定する)位置決め構造Aを有する。
図2(a)は、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aが、ロータ円筒部10の上部に配設される場合を示した図である。この場合、ロータ円筒部補強リング90はロータ円筒部10の上部(吸気口4側)に配設される。
より具体的には、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aには、ロータ円筒部10の回転翼9に対面する側の一部がロータ円筒部10の下部(排気口6側)へのびる側面に対して突出した突起部100が形成されている。
上述した構成により、本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、ロータ円筒部補強リング90を有し、更に、ロータ円筒部補強リング90を固定する位置決め構造Aとして突起部100を有しているので、ターボ分子ポンプ1のロータ8やロータ円筒部10に生じた亀裂の進行を低減させ、ロータ8(ロータ円筒部10)が分割するのを抑えることができる。更に、嵌め合い作業時の位置決めが容易になり組立性を向上させることができる。
【0021】
図2(b)は、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aが、ロータ円筒部10の下部に配設される場合を示した図である。この場合、ロータ円筒部補強リング90はロータ円筒部10の下部(排気口6側)に配設される。
より具体的には、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aには、ロータ円筒部10の下部(排気口6側)に、長外径部111と短外径部112とにより形成された段差部110が形成されている(外径寸法変化部)。なお、長外径部111及び短外径部112の外径とは、共にロータ円筒部10の外径を意味している。
また、ターボ分子ポンプ1では、バランス修正のための質量を付加するために接着剤などを利用する場合がある。
図2(b)に示したような、ロータ円筒部補強リング90をロータ円筒部10の下部に配設する構成であれば、当該ロータ円筒部補強リング90をおもりとして、削るなどしてバランス調整(修正)に利用してもよい。
上述した構成により、本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、ロータ円筒部補強リング90を有し、更に、ロータ円筒部補強リング90を固定する位置決め構造Aとして段差部110を有しているので、ターボ分子ポンプ1のロータ8やロータ円筒部10に生じた亀裂の進行を低減させ、ロータ8(ロータ円筒部10)が分割するのを抑えることができる。更に、嵌め合い作業時の位置決めが容易になり組立性を向上させることができる。また、バランスの修正を行うことができる。
【0022】
図2(c)は、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aが、ロータ円筒部10における上部(
図2:a)と下部(
図2:b)の間に配設される場合を示した図である。
このように、ロータ円筒部補強リング90は、ロータ円筒部10の上部又は下部に限ることなく、ロータ円筒部10の中段(即ち、上部(
図2:a)と下部(
図2:b)の間)に配設される構成にしてもよい。
【0023】
また、上述した第1実施形態に係る位置決め構造Aの各々に対して、更に、
図3に示したように、応力集中の発生を低減させるために以下のような構造にすることができる。
(第1実施形態の変形例1)
図3(a)及び(b)は、本発明の第1実施形態の変形例1に係る位置決め構造Bを有するロータ円筒部10の拡大図である。
本発明の第1実施形態の変形例1では、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aが突起部100である場合に、
図3(a)に示すように、当該突起部100とロータ円筒部10の排気口6側へのびる側面とで形成されるスミ部Sを滑らかな位置決め構造Bの構成にする。つまり、急な段差が生じないように、突起部100の最端部分(即ち、ロータ円筒部10の外径が最も大きいところ)からロータ円筒部10にかけて曲線で構成する(R形状にする)。
一方、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造Aが段差部110である場合には、
図3(b)に示すように、長外径部111の排気口側6の面と短外径部112とで形成されるスミ部Sを滑らかな位置決め構造Bの構成にする。つまり、急な段差が生じないように、長外径部111から短外径部112にかけての角を曲線で構成する(R形状にする)。
上述した構成により、本発明の第1実施形態の変形例1に係る位置決め構造Bを有するターボ分子ポンプ1では、突起部100又は段差部110のスミ部SにはR形状が設けてあるので、応力集中の発生を低減させることができる。
【0024】
(第1実施形態の変形例2)
図3(c)は、本発明の第1実施形態の変形例2に係る位置決め構造Cを有する回転翼9及びロータ円筒部10の拡大図である。
本発明の第1実施形態の変形例2では、
図3(c)に示すように、本発明の第1実施形態に係る位置決め構造A、又は、第1実施形態の変形例1に係る位置決め構造Bと、ターボ分子ポンプ1の回転翼9の最下段のブレード(回転翼)が一体となった構造になっている。つまり、ロータ円筒部補強リング90を、回転翼9の最下段の底面に接触させて配設しており、回転翼9のブレード自体が突起部100を兼ねた構成である。
上述した構成により、本発明の第1実施形態の変形例2に係る位置決め構造Cを有するターボ分子ポンプ1では、回転翼9の最下段ブレードが突起部100と一体になってロータ円筒部補強リング90の位置決めを行うので、嵌め合い作業の位置決めが可能になる。
また、上述したスミ部SにR形状を設ける構成にする場合(即ち、位置決め構造Bにこの構成を適用させる場合)は、更に、応力集中の発生を低減させることができる。
【0025】
なお、上述した第1実施形態及び各変形例では、ロータ円筒部補強リング90及び位置決め構造(A、B、又はC)の配設位置はロータ円筒部10の上部(吸気口4側)又は下部(排気口6側)としたが、これに限ることはない。ロータ円筒部10の側面であればどこでも配設可能であり、例えば、ロータ円筒部10における中央部や全面であってもよい。或いは、回転翼9の外周に配設してもよい。
また、真空ポンプがロータ円筒部10側にねじ溝を設けるタイプであれば、ロータ円筒部補強リング90にねじ溝を形成させる構成にすることもできる。
【0026】
(ii−2)第2実施形態
(ロータ円筒部にテーパを設ける)
図4は、本発明の第2実施形態に係るロータ円筒部10の拡大図である。
本発明の第2実施形態では、
図4に示したように、第1実施形態に係る位置決め構造A〜Cの少なくともいずれか1を備えるターボ分子ポンプ1のロータ円筒部10の排気口6側には、テーパ形状(テーパθ)を設ける。
なお、本発明の第2実施形態に係るテーパθは、寸法管理及び作業の再現性を良好にするために、位置決め構造A〜Cにおける嵌め合い部αは平ら形状にする構成にした。しかしながら、これに限ることはなく、ロータ円筒部10の側面全面にわたってテーパθを形成させる構成にすることも可能である。その場合は、ロータ円筒部補強リング90にも、当該ロータ円筒部補強リング90がロータ円筒部10と接触する部分(即ち、ロータ円筒部補強リング90の内径側の側面)にテーパ形状を設けることが望ましい。
上述した構成により、本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、円筒ロータ部10の排気口6側からロータ円筒部補強リング90を挿入して嵌合させる場合に、ロータ円筒部10の排気口6側にテーパ形状(テーパθ)が形成されているので、当該嵌め合い作業が容易になる。また、更に、位置決め構造A〜Cにおける嵌め合い部αを平ら形状に構成することで、寸法管理や作業の再現性を向上させることができ、ロータ円筒部補強リング90をロータ円筒部10に、より確実に固定させることができる。
【0027】
(ii−3)第3実施形態
(ねじ溝スペーサにロータ円筒部補強リングの形状に合わせたクリアランス一定構造)
図5は、本発明の第3実施形態に係る、ロータ円筒部補強リング90に所定の強度を確保しつつ、クリアランス一定構造を兼ね備えた構造D、構造E、及び構造Fを説明するための図である。
本発明の第3実施形態に係るターボ分子ポンプ1は、ロータ円筒部補強リング90に所定の強度を確保しつつ、ロータ円筒部10(即ち、ロータ円筒部補強リング90が嵌め合わされた部分)とねじ溝スペーサ70とのクリアランスが広がるのを抑止させるために、当該クリアランスを一定に保つクリアランス一定構造を備える。
図5(a)は、本発明の第3実施形態に係る構造Dを説明する図である。
具体的には、本発明の第3実施形態に係る構造Dは、ロータ円筒部10の吸気口4側に形成された、ロータ円筒部10に強度を確保するために所定の断面積をもつロータ円筒部補強リング90と、前記ロータ円筒部補強リング90の外径変化に合わせて、ねじ溝スペーサ70に形成されたねじ溝スペーサ段差部700とで構成される。
本発明の第3実施形態の構造Dに係るロータ円筒部補強リング90及びねじ溝スペーサ段差部700は、突起部100により位置決めされたロータ円筒部補強リング90とねじ溝スペーサ70との間のクリアランスを一定に保つよう形成される。より詳しくは、ねじ溝スペーサ段差部700は、ねじ溝スペーサ70における内径が大きく形成された長内径部701と、当該ねじ溝スペーサ70における内径が長内径部701よりも小さく形成された短内径部702とで形成される。
この構成により、
図5(a)に示したように、ロータ円筒部補強リング90は、断面積又は体積を大きくすることができるので、例えばチタンなどの高価な材料を用いずとも、所定の強度を持つことが出来る。また、ねじ溝スペーサ段差部700は、突起部100により位置決めされたロータ円筒部補強リング90とねじ溝スペーサ70との間のクリアランスを一定に保つ役割を果たし、真空ポンプの排気性能を低下させないことが可能になる。
なお、長内径部701とロータ円筒部補強リング90で形成されるクリアランスと、短内径部702とロータ円筒部10とで形成されるクリアランスは、等しくなるように形成されていることが好ましい。
続いて、
図5(b)は、本発明の第3実施形態に係る構造Eを説明する図である。
具体的には、本発明の第3実施形態に係る構造Eは、ロータ円筒部10の吸気口4側に形成された、ロータ円筒部10に排気口側に行くに従い外径が段々と変化するロータ円筒部補強リング90と、前記ロータ円筒部補強リング90の外径変化に合わせた、ねじ溝スペーサ70に形成されたねじ溝スペーサ段差部700とで構成される。
本発明の第3実施形態の構造Eに係るロータ円筒部補強リング90及びねじ溝スペーサ段差部700は、突起部100により位置決めされたロータ円筒部補強リング90とねじ溝スペーサ70との間のクリアランスを一定に保つよう形成される。より詳しくは、ロータ円筒部補強リング90の外径を吸気口4側から排気口6側に向かって次第に小さくなるように変化させる。その変化に合わせ、ねじ溝スペーサ70に形成された内径部を721、722、723と次第に変化する構成する。
この構成により、
図5(b)に示したように、ロータ円筒部補強リング90の強度を確保しつつ、ねじ溝スペーサ段差部700は、突起部100により位置決めされたロータ円筒部補強リング90とねじ溝スペーサ70との間のクリアランスを一定に保つことが出来る。
なお、長内径部701とロータ円筒部補強リング90で形成されるクリアランスと、短内径部702とロータ円筒部10とで形成されるクリアランスは、等しくなるように形成されていることが好ましい。
また、ロータ円筒部補強リング90及びねじ溝スペーサ段差部700の構造は、構造Eでは、ロータ円筒部補強リング92及び段状内径部720が有する段差は3段階としたが、これに限られることはない。
また、
図5(c)で示す構造Fのように、段差部分をテーパ構造にしても良い。
なお、本発明の第3実施形態に係る構造D、構造E、構造Fのクリアランスは、諸条件を鑑みて、通常、0.1mm〜0.5mm程度の範囲で設定している。
【0028】
本発明の第3実施形態の構造Dでは、形成される領域を吸気口4側としたが、これに限られることはない。
図6は、第3実施形態の構造Dが、ロータ円筒部10における軸方向下側(排気口6側)にある場合を説明するための図である。
例えば、
図6に示したように、ロータ円筒部10における軸方向下側にロータ円筒部補強リング90を配設する場合は、上述した軸方向上側(吸気口4側)に配設する場合と比べると、ねじ溝スペーサ段差部700における長内径部701と短内径部702の位置が入れ替わる構成にすればよい。
【0029】
上述した構成により、本発明の第3実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、ロータ円筒部補強リング(90、91、92)に所定の断面積をもたせ、強度を確保しつつ、ロータ円筒部10とねじ溝スペーサ70とのクリアランスが増加することなく当該クリアランスを一定に保つことができるので、排気性能の低下を防ぐことができる。
なお、ガスが吸気口4側へ逆流する力を低減させるために、このクリアランスは小さければ小さいほど良い。
【0030】
(ii−4)第4実施形態
(ロータ円筒部補強リングの変形例:内周側に嵌め合い簡易化構造を設ける)
図7(a)〜(c)は、本発明の第4実施形態に係るロータ円筒部補強リング90a、90b、90cを説明するための図である。
本発明の第4実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、ロータ円筒部10に位置決めされるロータ円筒部補強リング90は、ロータ円筒部10とロータ円筒部補強リング90とを嵌め合わせる嵌め合い作業をし易くするための嵌め合い簡易構造を備える。
なお、以下の説明では、上述したロータ円筒部補強リング90(
図2)の図を基にロータ円筒部補強リング90a〜90cを説明するが、上述したロータ円筒部補強リング91及び92に適用することも可能である。
図7(a)には、嵌め合い簡易構造として、吸気口4側に配設される方の内周側にC面取りLが施されたロータ円筒部補強リング90aが図示されている。
図7(b)には、嵌め合い簡易構造として、吸気口4側に配設される方の内周側にR形状Mが施されたロータ円筒部補強リング90bが図示されている。
図7(c)には、嵌め合い簡易構造として、内周側において吸気口4側から排気口6側に向かってテーパ形状Nが形成されたロータ円筒部補強リング90cが図示されている。
【0031】
また、本第4実施形態は、上述した第1実施形態、第2実施形態、又は第3実施形態と組み合わせることが可能である。
なお、本第4実施形態と第1実施形態における位置決め構造Bとを組み合わせる場合(即ち、ロータ円筒部補強リング90bと位置決め構造Bのスミ部Sとの両方にR形状(曲線)を設ける場合)は、ロータ円筒部補強リング90bに形成されるR形状は、対面する位置決め構造Bのスミ部Sに形成されるR形状よりも大きくすることが好ましい。
【0032】
(ii−5)第5実施形態
(ロータ円筒部補強リングの変形例:外周に流線形状を設ける)
図8は、本発明の第5実施形態に係るロータ円筒部補強リング90dを説明するための図である。
図8には、排気性能の低下を防止する構造として、外周側における軸線下側(排気口6側)の外径が小さくなった流線形状Oが形成されたロータ円筒部補強リング90dが図示されている。より詳しくは、吸気口4から移送されてくる気体の流れに沿った形状になるように切断(除去)されている。この構成では、嵌め込まれた際に流路面積を狭め、コンダクタンス(ガスの流れやすさ)が低下することを抑制する事ができる。
なお、上述した第4実施形態のロータ円筒部補強リング90a〜90c及び、第5実施形態のロータ円筒部補強リング90d、及び91、92を含むロータ円筒部補強リングの構成は、各々組み合わせてもよい。
このように、第5実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、コンダクタンスの低下を防止する構造を備えているので、ロータ円筒部補強リングの強度を確保しつつ、ポンプの排気性能が低下することを防ぐことができる。
また、他の効果として、このように軸線下側(排気口6側)の外径が小さくなった構造にする事で、ロータ8が外乱等で変動した際に、ねじ溝スペーサ70等の固定部と接触することを低減させることができる。
【0033】
以上説明した第1実施形態〜第5実施形態は、各々組み合わせることで様々なタイプの位置決め構造を構成することができる。
【0034】
(ii−6)第6実施形態
(ねじ溝スペーサを縦割りの分割構造にする)
図9及び
図10は、本発明の第6実施形態に係る分割構造を説明するための図である。
本発明の第6実施形態は、一例として、上述した本発明の実施形態のうち、第3実施形態の位置決め構造D(
図6)を用いて説明する。
図9は、ロータ円筒部補強リング90と位置決め構造Dとが配設されターボ分子ポンプ1を示した図である。
ここで、
図9に示したように、ロータ円筒部補強リング90の外径がねじ溝スペーサ70の内径よりも大きく構成されている。そのため、この構成では、ロータ8を軸線上方(吸気口4側)から組み立てようとすると、ロータ円筒部補強リング90と、位置決め構造Dを構成するねじ溝スペーサ段差部700の短内径部702とが干渉し合う干渉部分Iが形成される。このため、ねじ溝スペーサ70の組み立て方法は制限される。
したがって、ロータ8を組み付けた後にロータ円筒部補強リング90を配設しなければならなくなる。すると、圧入や焼き嵌めといった作業が非常に困難になる。なお、ロータ円筒部補強リング90をロータ円筒部10に配設した後に組み立てた方が作業効率はよい。
そこで、本発明の第6実施形態では、
図10に示したように、ねじ溝スペーサ70を縦に分割した分割ねじ溝スペーサ71の構成にする。
本発明の第6実施形態に係る分割ねじ溝スペーサ71であれば、上述した干渉部分Iがあっても、外周側から組み立てることが可能になるので干渉が起こらない。なお、分割については、ねじ溝式ポンプ部において、少なくとも一部分が縦割りになっていればよい(例えば、半円分割、複数等分分割、など)。
この際、分割したねじ溝スペーサ71の隙間から、ガスが漏れ、ポンプの排気性能が低下するといったことが考えられるが、ねじ溝スペーサ71の外周部にOリングなどのシール部材を設けたりする事で、ポンプ性能の低下は防止する事が可能となる。
また、本第6実施形態では、一例として第1実施形態と第3実施形態の組合せを用いたが、これに限ることはなく、位置決め構造がロータ円筒部10の排気口6側に設けられている構成であれば、他の様々な組み合わせの構成に対応可能である。
上述した構造により、ロータ円筒部補強リング90と分割ねじ溝スペーサ71との接触を防止することができるので、ロータ円筒部補強リング90の配設位置にかかわらず組み立てを容易に行うことが可能になる。
【0035】
図11は、本発明の実施形態に係るねじ溝式ポンプの概略構成例(断面図)を示した図である。
上述した各実施形態(1〜6)では、真空ポンプの一例としてターボ分子ポンプ1を用いて説明したが、第1実施形態の変形例2を除き、
図11に示すねじ溝式ポンプ1000に適用することも可能である。