【実施例】
【0040】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
1.多孔質支持体の作製
アルミナ原料を含む坏土を用いて、押出成形法により複数の貫通孔をもつモノリス形状の成形体を形成し、焼成した。
【0042】
次に、焼成した成形体の、貫通孔の表面にアルミナを主とした多孔質層を形成し、再度焼成することによって、多孔質支持体を形成した。多孔質支持体の膜を形成する部分の表面における平均細孔径は、65〜110nmの範囲であった。
【0043】
2.種結晶の作製
アルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシド、リン源である85%リン酸、及び構造規定剤であるN,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサン(TMHD)を純水に溶解させることによって、組成が1Al
2O
3:1.3P
2O
5:1.4SDA:130H
2Oの原料混合液を調製した。
【0044】
次に、原料溶液を圧力容器に投入して水熱合成(195℃、30時間)した。
【0045】
次に、水熱合成によって得られた結晶を回収して純水で十分に洗浄した後、65℃で完全に乾燥させた。
【0046】
その後、X線回折測定によって結晶相を確認したところ、水熱合成によって得られた種結晶はERI結晶であった。
【0047】
次に、合成したERI結晶を10〜20mass%となるように純水に投入し、ボールミルで7日間粉砕することによって、ERI種結晶を作製した。SEM(電子顕微鏡)によってERI種結晶の外形を確認したところ、得られたERI種結晶は不定形状であり、粒径は0.01〜0.3μm、平均粒径はおよそ0.2μmであった。
【0048】
3.ERI膜の形成
ERI種結晶をエタノールに分散させた種結晶分散溶液を調製した。
【0049】
次に、多孔質支持体のセル内で種結晶分散溶液をろ過することによって、ERI種結晶を多孔質支持体のセル内表面に付着させた。
【0050】
次に、アルミニウム源であるアルミニウムイソプロポキシド、リン源である85%リン酸、及び構造規定剤であるTMHDを純水に溶解させることによって、組成が1Al
2O
3:2.1P
2O
5:2.8SDA:1340H
2Oの原料混合液を調製した。実施例1の原料混合液において、H
2O/T原子のモル比(H
2O/T原子比)は220であり、SDA中のN原子/T原子のモル比(SDA中のN原子/T原子比)は0.9である。
【0051】
次に、ERI種結晶が付着した多孔質支持体を原料混合液に浸漬して水熱合成(160℃、30時間)することによって、ERI膜を合成した。
【0052】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、0.08nmol/m
2・s・Paであった。これにより、実施例1に係るERI膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。
【0053】
次に、ERI膜を450℃で50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0054】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.3MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は293であった。これにより、実施例1に係るERI膜は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0055】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面(c面)のピーク強度は、(100)面(a面)のピーク強度の0.90倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、六角柱状のERI結晶がc面配向していることが確認された(
図1及び
図2参照)。
【0056】
(実施例2)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0057】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0058】
3.ERI膜の形成
水熱合成条件を160℃×
40hに変更した以外は、実施例1と同様の工程にてERI膜を合成した。
【0059】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、0.005nmol/m
2・s・Paであった。これにより、実施例2に係るERI膜も十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0060】
次に、ERI膜を450℃で50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0061】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.3MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は504であった。これにより、実施例2に係るERI膜も十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0062】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の1.19倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、六角柱状のERI結晶がc面配向していることも確認された。
【0063】
(実施例3)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0064】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0065】
3.ERI膜の形成
原料混合液の組成を1Al
2O
3:2.1P
2O
5:2.8SDA:775H
2Oに変更し、かつ、水熱合成条件を160℃×20hに変更した以外は、実施例1と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、実施例3の原料混合液において、H
2O/T原子比は126であり、SDA中のN原子/T原子比は0.9である。
【0066】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、0.04nmol/m
2・s・Pa以下であった。これにより、実施例3に係るERI膜も十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0067】
次に、ERI膜を450℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0068】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.3MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は69であった。これにより、実施例3に係るERI膜も十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0069】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の0.54倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、六角柱状のERI結晶がc面配向していることも確認された。
【0070】
(実施例4)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0071】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0072】
3.ERI膜の形成
原料混合液の組成を1Al
2O
3:2.0P
2O
5:3.0SDA:210H
2Oに変更し、かつ、水熱合成条件を170℃×50hに変更した以外は、実施例1と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、実施例4の原料混合液において、H
2O/T原子比は35であり、SDA中のN原子/T原子比は1.0である。
【0073】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、0.7nmol/m
2・s・Pa以下であった。これにより、実施例3に係るERI膜も十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0074】
次に、ERI膜を450℃で50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0075】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.2MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は59であった。これにより、実施例4に係るERI膜も十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0076】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の0.51倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、六角柱状のERI結晶がc面配向していることも確認された。
【0077】
(実施例5)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0078】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0079】
3.ERI膜の形成
原料混合液の組成を1Al
2O
3:2.1P
2O
5:2.8SDA:490H
2Oに変更した以外は、実施例4と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、実施例5の原料混合液において、H
2O/T原子比は80であり、SDA中のN原子/T原子比は0.9である。
【0080】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、0.2nmol/m
2・s・Pa以下であった。これにより、実施例5に係るERI膜も十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0081】
次に、ERI膜を450℃で50時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0082】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.2MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は162であった。これにより、実施例5に係るERI膜も十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0083】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の0.99倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、六角柱状のERI結晶がc面配向していることも確認された。
【0084】
(実施例6)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0085】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0086】
3.ERI膜の形成
原料混合液の組成を1Al
2O
3:2.1P
2O
5:2.8SDA:890H
2Oに変更し、かつ、水熱合成条件を170℃×30hに変更した以外は、実施例4と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、実施例6の原料混合液において、H
2O/T原子比は144であり、SDA中のN原子/T原子比は0.9である。
【0087】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、0.06nmol/m
2・s・Pa以下であった。これにより、実施例6に係るERI膜も十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0088】
次に、ERI膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0089】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.3MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は186であった。これにより、実施例6に係るERI膜も十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0090】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の1.14倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、六角柱状のERI結晶がc面配向していることも確認された。
【0091】
(実施例7)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0092】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0093】
3.ERI膜の形成
原料混合液の組成を1Al
2O
3:2.1P
2O
5:2.8SDA:1320H
2Oに変更し、かつ、水熱合成条件を170℃×45hに変更した以外は、実施例4と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、実施例7の原料混合液において、H
2O/T原子比は220であり、SDA中のN原子/T原子比は0.9である。
【0094】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、0.005nmol/m
2・s・Pa以下であった。これにより、実施例7に係るERI膜も十分に実用可能な緻密性を有していることが確認された。
【0095】
次に、ERI膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0096】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.3MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は205であった。これにより、実施例7に係るERI膜も十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0097】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の1.04倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、六角柱状のERI結晶がc面配向していることも確認された。
【0098】
(比較例1)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0099】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0100】
3.ERI膜の形成
原料混合液の組成を1Al
2O
3:2.1P
2O
5:2.8SDA:105H
2Oに変更した以外は、実施例4と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、比較例1の原料混合液において、H
2O/T原子比は18であり、SDA中のN原子/T原子比は0.9である。
【0101】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、5.8nmol/m
2・s・Paであり、比較例1に係るERI膜の緻密性が低かった。
【0102】
次に、ERI膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0103】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.2MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は4であった。これにより、比較例1に係るERI膜は分離性能が低いことが確認された。
【0104】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の0.19倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、ERI結晶がc面配向していないことも確認された。
【0105】
(比較例2)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0106】
2.種結晶の作製
実施例1と同じ工程でERI種結晶を作製した。
【0107】
3.ERI膜の形成
原料混合液の組成を1Al
2O
3:4.2P
2O
5:2.8SDA:210H
2Oに変更した以外は、実施例1と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、比較例2の原料混合液において、H
2O/T原子比は20であり、SDA中のN原子/T原子比は0.53である。
【0108】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、1014nmol/m
2・s・Paであり、比較例1に係るERI膜の緻密性が大幅に低かった。緻密性が不十分だったため、以降の評価は行わなかった。
【0109】
(比較例3)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0110】
2.種結晶の作製
上記のJournal ofMembrane Science,520,(2016),507−514「Aluminophosphate−17 and silicoaluminophosphate−17 membranes for CO2 separations」に倣ってERI構造のSAPO型種結晶を作製した。
【0111】
3.ERI膜の形成
SDAをシクロヘキシルアミンに変更し、かつ、原料混合液の組成を1Al
2O
3:1P
2O
5:1SDA:220H
2Oに変更し、かつ、水熱合成条件を200℃×90hに変更した以外は、実施例1と同様の工程にてERI膜を合成した。なお、比較例3の原料混合液において、H
2O/T原子比は55であり、SDA中のN原子/T原子比は0.25である。
【0112】
次に、合成したERI膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。乾燥後、ERI膜のN
2透過量を測定したところ、1.5nmol/m
2・s・Paであり、比較例3に係るERI膜の緻密性がやや低かった。
【0113】
次に、ERI膜を450℃で10時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ERI膜内の細孔を貫通させた。
【0114】
次に、多孔質支持体の両端部をシール材で封止した状態で、0.3MPaGでCO
2/CH
4(50:50)の混合ガスの分離試験を実施したところ、CO
2/CH
4のPerm.比は24であった。これにより、比較例3に係るERI膜は分離性能が低いことが確認された。
【0115】
そして、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度は、(100)面のピーク強度の0.39倍であった。また、ERI膜の外表面とERI膜を膜厚方向に切断した切断面とをSEMで観察したところ、ERI結晶がc面配向していないことも確認された。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示すように、ERI膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(002)面のピーク強度が(100)面のピーク強度の0.51倍以上である実施例1〜7では、実用可能な程度の分離性能を得ることができた。これは、c面配向性の高いERI結晶同士をa面で接合させることによって、ERI膜の緻密性を向上させることができたためである。
【0118】
また、実施例1,2,5〜7と実施例3,4とを比較すると分かるように、(002)面のピーク強度が(100)面のピーク強度の0.90倍以上にすることによって分離性能をより向上させられることを確認できた。