特許第6753039号(P6753039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753039ポリエステル樹脂およびそれを含む缶被覆用樹脂組成物
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  • 特許6753039-ポリエステル樹脂およびそれを含む缶被覆用樹脂組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753039
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂およびそれを含む缶被覆用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/199 20060101AFI20200831BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20200831BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20200831BHJP
   C09D 167/02 20060101ALI20200831BHJP
   C09D 161/06 20060101ALI20200831BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C08G63/199
   C08L67/02
   C08L61/06
   C09D167/02
   C09D161/06
   C23C26/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-116434(P2015-116434)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-2159(P2017-2159A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔矢
(72)【発明者】
【氏名】三木 健生
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−348362(JP,A)
【文献】 特開2004−346131(JP,A)
【文献】 特開2006−124497(JP,A)
【文献】 特許第5958726(JP,B2)
【文献】 特開2015−193835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/181− 63/189
B32B 15/09
C09D 161/04 −161/16
C09D 167/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸(A)とポリオール(B)とを反応させてなるポリエステル樹脂であって、
前記ポリカルボン酸(A)の合計100モル%中、テレフタル酸類を15〜40モル%、イソフタル酸類を50〜85モル%含み、
前記ポリオール(B)の合計100モル%中、
脂環型ジオールを10〜45モル%を含み
炭素数4〜6であり、1級の水酸基を両末端にそれぞれ有し、側鎖を有しない直鎖状ジオール(a)を40〜80モル%を含み、
さらに、プロピレングリコールを5〜21モル%含むか、もしくはプロピレングリコール以外の炭素数3〜4であり、1個の1級水酸基および1個の2級水酸基を有するジオールとして、1,2−ブタンジオールおよび1,3−ブタンジオールからなる群より選ばれる1種以上を5〜35モル%含む、
ポリエステル樹脂。
【請求項2】
脂環型ジオールが、1,4−シクロヘキサンジメタノールである、請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリエステル樹脂とフェノール樹脂を含んでなる缶被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
缶内面用である請求項記載の缶被覆用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または4記載の缶被覆用樹脂組成物により缶蓋用部材の少なくとも一方の面が被覆されてなる缶蓋。
【請求項6】
請求項記載の缶蓋と缶胴部材とを具備してなる飲料缶。
【請求項7】
請求項3または4記載の缶被覆用樹脂組成物により缶胴部が被覆されてなる被覆缶。
【請求項8】
請求項記載の被覆缶を具備してなる飲料缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂およびそれを用いた缶被覆用樹脂組成物、缶蓋、被覆缶、飲料缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビスフェノールA(以下「BPA」とも表記する)とエピクロルヒドリンとを原料として合成されるBPA型エポキシ樹脂は、耐蒸気殺菌性(耐レトルト性)、加工性、密着性に優れた塗膜を形成できるため缶の内面および外面を被覆する塗料として広く使用されていた。
しかし、BPAは生物の内分泌を撹乱する作用があるとの研究結果が報告され、環境省が公表した「内分泌撹乱作用を有すると疑われる化学物質」のリスト67物質の中に挙げられた。これを受けて、缶内面を被覆する塗膜から内容物にBPAが溶出することが問題になった。そこでBPA由来の原料を全く用いない缶用塗料が求められていた。
【0003】
ここで缶の内面を被覆する塗料には、内容物の風味を損なわない耐フレーバー性、耐腐食性、耐レトルト性などの他、缶部材成型時の加工を可能とする、加工性に優れる塗膜を形成できることが求められていた。
缶部材の中でも蓋部材は、凹凸が多い形状であり他の部材と比較して高度な成型加工が施されるため、蓋部材に形成する塗膜には、特に高度な加工性が要求される。
【0004】
さらに缶内容物の種類、および缶部材の成形工程の関係上、塗膜には耐酸性および耐アルカリ性が必要であり、上記要求物性に加え耐酸性および耐アルカリ性を満足する塗料が求められていた。
【0005】
さらに、飲料缶および食料缶は、その内容物の種類によって、缶に内容物を充填した後、内容物の殺菌を目的として、高温でのレトルト処理が施される場合がある。そのため内面塗膜のレトルト耐性が十分でない場合、このレトルト処理時に、塗膜中の成分が内容物中に溶出してしまうことがあり、衛生上好ましいとはいえない。また、塗膜のレトルト耐性の乏しい場合、レトルト処理を行なわず、常温で保管されている場合であっても、塗膜成分が内容物中に溶出することがある。このように缶の内面塗膜には、その成分が内容物中へ溶出しにくいという耐性が求められる。なお、本発明では、塗膜中の成分の、内容物中へ溶出しにくい特性のことを「耐内容物汚染性」という。
この、耐内容物汚染性は、通常、塗膜から溶出する有機物成分量の多少によって見積もられる。溶出する有機物成分量が少ない方が、耐内容物汚染性は良好である。
【0006】
特許文献1には、2種類のポリエステル樹脂を混合した混合ポリエステル樹脂と硬化剤、硬化触媒からなる塗料組成物が開示されている。
【0007】
特許文献2には、特定のポリアルコールを原料にしたポリエステル樹脂、および硬化剤を含む塗料組成物が開示されている。
【0008】
特許文献3には、特定のポリアルコールを原料にしたポリエステル樹脂、および硬化剤を含む缶内面用塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−249376号公報
【特許文献2】特開2004−292664号公報
【特許文献3】特開2001−172561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の塗料は、ガラス転移温度が高いポリエステル樹脂とガラス転移温度が低いポリエステル樹脂を併用することで、塗膜を形成した後の、経時後の加工性を改良しているが、反面、耐内容物汚染性および耐アルカリ性が低下する問題があった。
また特許文献2の塗料は、3価以上のポリアルコールを特徴とするポリエステル樹脂を使用することで塗膜の耐内容物性を改良したが、蓋部材に要求される高度な加工性、および耐内容物汚染性が不足する問題があった。
また、特許文献3の塗料は、耐レトルト性に優れ、経時後の加工性が低下し難い塗膜を提供しているが、硬化剤にアミノ樹脂を使用しているため耐内容物汚染性および耐酸性が不足する問題があった。
【0011】
本発明は、耐内容物汚染性および耐アルカリ性が優れ、経時後の加工性(以下、単に「加工性」という)が低下し難い塗膜を形成できる缶被覆用樹脂組成物に適したポリエステル樹脂、および缶被覆用樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、ポリカルボン酸(A)とポリオール(B)とを反応させてなるポリエステル樹脂であって、前記ポリカルボン酸(A)の合計100モル%中、テレフタル酸類を15〜40モル%、イソフタル酸類を50〜85モル%含み、前記ポリオール(B)の合計100モル%中、脂環型ジオールを10〜45モル%、炭素数4〜6であり、1級の水酸基を両末端にそれぞれ有し、側鎖を有しない直鎖状ジオール(a)を40〜80モル%、炭素数3〜4であり、1個の1級水酸基および1個の2級水酸基を有するジオール(b)を5〜35モル%含むポリエステル樹脂に関する。
【0013】
また、本発明は、脂環型ジオールが、1,4−シクロヘキサンジメタノールである前記ポリエステル樹脂に関する。
【0014】
また、本発明は、ジオール(b)が、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオールおよび1,3−ブタンジオールからなる群より選ばれる1種以上である、前記ポリエステル樹脂に関する。
【0015】
また、本発明は、前記ポリエステル樹脂とフェノール樹脂を含んでなる缶被覆用樹脂組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、缶内面用である、前記缶被覆用樹脂組成物に関する。
【0017】
また、本発明は、前記缶被覆用樹脂組成物により、缶蓋用部材の少なくとも一方の面が被覆されてなる缶蓋に関する。
【0018】
また、本発明は、前記缶被覆用樹脂組成物により缶胴部が被覆されてなる被覆缶に関する。
【0019】
また、本発明は、前記缶蓋と、缶胴部材とを具備してなる飲料缶に関する。
【0020】
また、本発明は、前記被覆缶を具備してなる飲料缶に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、耐内容物汚染性および耐アルカリ性が優れ、経時後の加工性が低下し難い塗膜を形成できるポリエステル樹脂、および缶被覆用樹脂組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、折り曲げ加工性試験の試験片の作成方法を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について説明する前に、用語を定義する。ポリカルボン酸(A)には、ポリカルボン酸中のカルボキシル基が、メタノールやエタノール等のモノアルコールによってエステル化された化合物、およびポリカルボン酸の酸無水物も包含される。
また、本明細書において「テレフタル酸類」とは、アルキル基で置換されていても良いテレフタル酸を意味し、「イソフタル酸類」とは、アルキル基で置換されていても良いイソフタル酸を意味する。
ポリカルボン酸(A)として、上記のエステル化された化合物を使用する場合、「ポリカルボン酸(A)のカルボキシル基の数」は、「−COOH」と「−COOR」(Rは、アルキルアルコールをエステル化に使用した場合であれば、当該エステル化に使用したアルキルアルコールのアルキル基である。)との合算となる。
また、酸無水物基は、2つのカルボキシル基から脱水によって生成するものであるため、本発明においては、酸無水物基1個はカルボキシル基2個に相当するものとする。例えば、無水トリメリット酸は、カルボキシル基3個を有する化合物とみなす。耐内容物性は、塗膜が缶の内容物によるダメージを受け難い性質をいい、内容物は、酸性食品、食塩、魚肉等である。酸性食品は、缶の素材である鉄を腐食し、食塩は鉄を酸化する。また魚肉は微量の硫黄化合物を含むところ、硫黄化合物が鉄と反応して缶が黒く変色する。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂は、ポリカルボン酸(A)およびポリオール(B)を反応させて合成する。
前記ポリカルボン酸(A)の合計100モル%中、テレフタル酸類が15〜40モル%、イソフタル酸類が50〜85モル%であり、かつ、前記ポリオール(B)の合計100モル%中、脂環型ジオール10〜45モル%、炭素数4〜6であり、1級の水酸基を両末端にそれぞれ有し、側鎖を有しない直鎖状ジオール(a)40〜80モル%、炭素数3〜4であり、1個の1級水酸基および1個の2級水酸基を有するジオール(b)5〜35モル%であることが重要である。ポリカルボン酸(A)およびポリオール(B)の割合が上記の範囲内にあれば、BPA 由来の構成成分を全く含有せず、缶被覆用樹脂組成物として使用したときに耐内容物汚染性および耐アルカリ性が優れ、加工性が低下し難いポリエステル樹脂を得ることができる。
【0025】
また、本発明のポリエステル樹脂のより好ましい態様は、ポリカルボン酸(A)の合計100モル%中、テレフタル酸類が15〜35モル%、イソフタル酸類が55〜85モル%であり、かつ、ポリオール(B)の合計100モル%中、脂環型ジオール10〜40モル%、炭素数4〜6であり、1級の水酸基を両末端にそれぞれ有し、側鎖を有しない直鎖状ジオール(a)40〜70モル%、炭素数3〜4であり、1個の1級水酸基および1個の2級水酸基を有するジオール(b)5〜30モル%である。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂は、缶被覆用樹脂組成物として好ましく利用できる。より具体的には、塗料の態様として使用することが好ましい。この塗料は、アルムミニウム、ブリキ、鉄等の金属缶、上記金属にPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等のプラスチックフィルムがラミネートされてなるフィルムラミネート金属缶、およびプラスチック缶の缶胴部の塗装用として使用することが好ましい。
また、本発明の缶被覆用樹脂組成物は、フィルムラミネート金属缶における、プラスチックフィルムと金属とを貼り合わせる接着剤の態様としても好ましく使用できる。フィルムラミネート金属缶のプラスチックフィルムの表面には、必要に応じてさらに被覆層を設けてもよい。
上記いずれの態様、すなわち塗料としての利用および接着剤としての利用によっても、本発明の缶被覆用樹脂組成物により缶胴部が被覆された被覆缶を製造することができる。
【0027】
ポリカルボン酸(A)は、テレフタル酸類、イソフタル酸類以外に以下の化合物が挙げられる。
芳香族二塩基酸としては、例えば、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、およびビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族二塩基酸としては、例えばセバシン酸、アジピン酸、コハク酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸等が挙げられる。
脂環式二塩基酸としては、例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、および1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
また、その他、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのα、β−不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。
なお、これらの化合物のアルキルエステル、および酸無水物も、ポリカルボン酸(A)として使用することができる。
【0028】
ポリエステル樹脂中に分岐構造を導入するために、二塩基酸に加えて、3官能以上の酸を使用してもよい。その例としては、例えば、(無水)トリメリット酸〔トリメリット酸と無水トリメリット酸とをあわせて「(無水)トリメリット酸」と表記する。以下同様。〕、(無水)ピロメリット酸、およびエチレングリコールビストリメリテート二無水物等が挙げられる。
さらに、必要に応じて、1官能の酸を使用してもよい。
【0029】
ポリオール(B)は、ポリオール(B)の合計100モル%のうち少なくとも、脂環型ジオールを10〜45モル%使用することが重要であり、10〜40モル%使用することが好ましい。このポリオールにより加工性、耐レトルト性、耐アルカリ性が得られる。
前記脂環型ジオールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0030】
ポリオール(B)は、ポリオール(B)の合計100モル%のうち少なくとも、炭素数4〜6であり、1級の水酸基を両末端にそれぞれ有し、側鎖を有しない直鎖状ジオール(a)を40〜80モル%使用することが重要であり、40〜70モル%使用することが好ましい。このポリオールにより加工性、耐内容物汚染性、塗膜の密着性が得られる。
前記直鎖状ジオール(a)としては、直鎖アルキレン基に2つの水酸基が結合したアルカンジオールが好ましく、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0031】
ポリオール(B)は、ポリオール(B)の合計100モル%のうち少なくとも、炭素数3〜4であり、1個の1級水酸基および1個の2級水酸基を有するジオール(b)を5〜35モル%使用することが重要であり、5〜30モル%使用することが好ましい。このポリオールによりポリエステル樹脂の生産安定性、溶剤への溶解性をより向上することができ、かつ、耐内容物汚染性、耐アルカリ性が得られる。
前記ジオール(b)としては、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオールおよび1,3−ブタンジオールが好ましい。
【0032】
ポリオール(B)は、脂環型ジオール、直鎖状ジオール(a)、およびジオール(b)以外に以下の化合物を使用できる。
炭素数2〜10の脂肪族ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、および2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
また、エーテル結合を含有するジオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0033】
ポリエステル樹脂中に分岐構造を導入するために、ジオールに加えて、3官能以上のアルコールを使用してもよい。具体的には、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールエタン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、およびα−メチルグルコシド等が挙げられる。
さらに、必要に応じて、1官能のアルコールを使用してもよい。
【0034】
本発明におけるポリエステル樹脂は、ポリカルボン酸(A)、ポリオール(B)を、高温下、縮合反応等またはエステル交換反応させることにより得ることができる。酸無水物を用いる場合、一部、付加反応も生じる。反応の終点は、通常、酸価によって判定する。
【0035】
ポリカルボン酸(A)とポリオール(B)の配合比は、ポリカルボン酸(A)がエステル化物を含まない場合は、ポリオール(B)中の水酸基の数(NB)とポリカルボン酸(A)中のカルボキシル基の数(NA)との比がNB/NA=1.10〜1.40であることが好ましく、1.15〜1.35であることがより好ましい。
また、ポリカルボン酸(A)がエステル化物を含む場合は、NB/NA=1.10〜2.40であることが好ましく、1.20〜2.10であることがより好ましい。
BとNAとの比が上記範囲にあれば、缶被覆用樹脂組成物に使用したときに耐酸性、耐アルカリ性、耐レトルト性および加工性がより優れ、並びに経時で加工性がより低下し難いポリエステル樹脂を得ることができる。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、5,000〜30,000であることが好ましく、8,000〜25,000がより好ましい。数平均分子量がこの範囲にあれば、溶剤への溶解性をより向上することができ、かつ、加工性及び耐レトルト性がより優れた塗膜を形成することができる。
なお、本明細書における数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)による標準ポリスチレン換算の値である。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、20〜70℃であることが好ましく、25〜60℃がより好ましい。ガラス転移温度がこの範囲にあれば、缶被覆用樹脂組成物に使用したときに耐内容物汚染性、耐アルカリ性、耐レトルト性および加工性がより優れたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂は、金属およびプラスチックスに対する密着性や硬化剤との反応性を向上させるために、重合反応の終了後あるいは途中においてポリカルボン酸無水物を付加させる方法等により酸価を付与してもよい。酸価の付与に用いられるポリカルボン酸無水物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等が挙げられる。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂の酸価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/gがより好ましい。酸価がこの範囲にあれば、耐内容物汚染性、耐レトルト性、耐酸性および耐アルカリ性がより向上する。なお酸価の下限値は、0mgKOH/gである。
【0040】
本発明の缶被覆用樹脂組成物は、本発明のポリエステル樹脂とフェノール樹脂を含む。前記フェノール樹脂は、塗膜を焼付硬化する時にポリエステル樹脂を架橋させるための硬化剤である。なおフェノール樹脂は、フェノールモノマーと、ホルムアルデヒド等のアルデヒドとの付加縮合反応により合成した樹脂である。
【0041】
フェノールモノマーは、例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−ノニルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールH、ビスフェノールS、カテコール、およびハイドロキノン等が挙げられる。これらの中でも硬化性および反応性が優れるフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が好ましく、m−クレゾールがより好ましい。
フェノールモノマーは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
なお、フェノールモノマーは、フェノール性の水酸基に対して、オルト位とパラ位とが反応部位となる。従って、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−ノニルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール等は、1分子中に反応部位が2箇所あるため、当量数が2のフェノールモノマーであり、官能基が2となる。又、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、レゾルシノール等は1分子中に反応部位が3箇所あるため、当量数が3のフェノールモノマーであり官能基が3となる。又、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールH、ビスフェノールS等のビスフェノールや、カテコール、ハイドロキノン等は1分子中に反応部位が4箇所あるため、当量数が4のフェノールモノマーであり、官能基が4となる。当量数が4未満のフェノールモノマーを用いると、分子量が適切なフェノール樹脂を得やすい。そのため、このようなフェノール樹脂を使用した場合、溶剤に対する溶解性が向上し、塗膜表面にフェノール樹脂由来のブツが生じ難い。
【0043】
本発明においてフェノール樹脂は、m−クレゾールとアルデヒドを反応させた樹脂が好ましい。このフェノール樹脂は、ポリエステル樹脂との反応性が高く、硬化性が優れているため耐レトルト性および耐アルカリ性が優れ、加工性が低下し難い塗膜が得られる。
また、好ましく使用できる市販品としては、例えば、住友ベークライト社製スミライトレジンPR−55317(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50%)、昭和電工社製ショウノールCKS−3898(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50%)等が挙げられる。なお、メタクレゾール系とは、フェノール樹脂の原料にm−クレゾールを使用していることを示す。
【0044】
ポリエステル樹脂とフェノール樹脂との重量比は、ポリエステル樹脂/フェノール樹脂=95/5〜75/25であることが好ましく、90/10〜85/15がより好ましい。両者の重量比がこの範囲内にあれば、加工性、耐レトルト性等がより向上する。
【0045】
本発明の缶被覆用樹脂組成物は、必要に応じて、製缶工程における塗膜の傷付きを防止する目的で、ワックス等の滑剤、硬化触媒およびレベリング剤等の添加剤、ならびに有機溶剤を配合できる。
ワックスは、カルナバワックス、ラノリンワックス、パーム油、キャンデリラワックス、ライスワックス等の動植物系ワックス;
パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;
ポリオレフィンワックス、テフロン(登録商標)ワックス等の合成ワックス等が挙げられる。
硬化触媒は、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、およびリン酸化合物ならびにこれらの中和物等が挙げられる。
【0046】
本発明の缶被覆用樹脂組成物は、缶の内面および外面を問わずに使用できるところ、その高度な加工性を活かして缶の内面塗料として使用することが好ましく、特に缶蓋用部材の内面塗料に使用することが好ましい。なお、本発明の缶被覆用樹脂組成物は、缶蓋用部材の外面塗料にも使用できることはいうまでもない。缶蓋用部材の少なくとも一方の面に缶被覆用樹脂組成物からなる被覆層を設けることにより、本発明の缶蓋が得られる。
さらには、本発明の缶被覆用樹脂組成物は上記特性に加えて、プラスチックフィルムに対する接着性も良好であることから、フィルムラミネート金属缶における、プラスチックフィルムと金属とを貼り合わせるための接着剤としても好ましく使用できる。
【0047】
本発明の被覆缶は、缶体、およびその缶胴部に前記缶被覆用樹脂組成物で形成してなる被覆層を備えている。
被覆缶は、金属またはプラスチックの缶体、さらにはフィルムラミネート金属缶の内面ないし外面に、本発明の缶被覆用樹脂組成物からなる塗料を塗装し、硬化させることで被覆層を形成する。
なお、フィルムラミネート金属缶における、プラスチックフィルムと金属とを貼り合わせる接着剤として使用した場合に形成される接着剤層も、本発明においては、被覆層の範疇に含まれる。
前記金属は、アルミニウム、錫メッキ鋼板、クロム処理鋼板、ニッケル処理鋼板等の金属板等が好ましい。
前記プラスチックの缶体は、ポリオレフィン、ポリエステル等が好ましい。
フィルムラミネート金属缶に用いられるプラスチックフィルムとしては、ポリエステル、特にPETが好ましい。
塗料および接着剤として使用するにあたり、塗装方法は、エアースプレー、エアレススプレー、および静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、ならびに電着塗装等の公知の方法を使用できる。
金属に塗装する場合、200〜300℃の温度で、10秒〜2分間焼き付けることが好ましく、20〜40秒間がより好ましい。
【0048】
本発明の被覆缶は、内容物として飲料水、清涼飲料水、コーヒー、お茶、ビール、チュウハイ、日本酒、ウイスキー、および水割り等の飲料、ならびに魚肉、畜肉、野菜、果実、油、およびソース等の食品等を収納する用途が好ましいが、エンジンオイル等の食品用途以外のものを収納することもできる。
【0049】
本発明の飲料缶の1つの態様は、本発明の缶蓋と、缶胴部材とを備える。また、本発明の飲料缶の別の態様は、本発明の缶被覆用樹脂組成物によって缶胴部材が被覆されている。
【実施例】
【0050】
以下に実施例によって、本発明をより具体的に説明する。なお例中、特に断りのない限り「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を表す。また、「Mn」は数平均分子量を、「Mw」は重量平均分子量をそれぞれ表す。また、「ポリカルボン酸(A)」および「ポリオール(B)」は、それぞれ「(A)」および「(B)」と略記することがある。
【0051】
(数平均分子量および重量平均分子量の測定条件)
東ソー社製 高速GPC装置 8020シリーズ(テトラヒドロフラン溶媒、カラム温度40℃、ポリスチレン標準)を用いて測定した。具体的には、カラムとして東ソー製G1000HXL、G2000HXL、G3000HXL、G4000HXLの4本を直列に連結し、流量1.0ml/minにて測定して得られた測定値である。
【0052】
(ガラス転移温度(Tg)の測定条件)
示差走査熱量計(DSC)(「DSC6220」 SII社製)を用いて10℃/分の昇温速度で測定した。
【0053】
(酸価の測定条件)
ポリエステル樹脂0.2gを20mlのTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し、0.1N のKOHエタノール溶液で滴定し、ポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)を求めた。
【0054】
まず、本発明のポリエステル樹脂の実施例を製造例として以下を示す。
[製造例A(エステル交換法)]
反応容器に、ジメチルテレフタル酸134.1部((A)中19.8モル%)、プロピレングリコール52.5部((B)中16.5モル%)、1,4−ブタンジオール248.8部((B)中66.1モル%)、1,4−シクロヘキサンジメタノール99.5部((B)中16.5モル%)、トリメチロールプロパン4.6部((B)中0.9モル%)、酢酸亜鉛0.1部、チタンブトキサイド0.01部を仕込み、220℃まで徐々に昇温しエステル交換反応を行った。理論量のメタノールを留去させた後、イソフタル酸413.0部((A)中71.3モル%)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸47.5部((A)中7.9モル%)を添加し3時間かけて250℃まで徐々に昇温しエステル化反応を行った。次に、窒素気流下で230℃まで冷却した後、30分かけて圧力を5mmHg以下まで下げ、その状態で3時間重合反応を行った。この後、樹脂を窒素気流下で200℃まで冷却し、これに無水トリメリット酸6.6部((A)中1.0モル%)を添加し、2時間反応した。以上より、本発明のポリエステル樹脂を得た。得られた樹脂は、Flexisolv DBE esters(インビスタ社製)/キシレン=1/1(重量比)の混合溶剤で不揮発分濃度が40%になるように調整して樹脂ワニスを得た。
上記の重合に使用した各単量体の比率を、表1にモル比として表記する。尚、表1中の無水トリメリット酸(酸付加)とは、重合反応の後期に無水トリメリット酸を添加し付加することでポリエステル樹脂に酸価を付与したものであることを表す。
【0055】
[製造例B(直接重合法)]
反応容器に、テレフタル酸115.6部((A)中19.8モル%)、イソフタル酸416.2部((A)中71.3モル%)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸47.9部((A)中7.9モル%)、プロピレングリコール58.2部((B)中17.6モル%)、1,4−ブタンジオール257.0部((B)中65.6モル%)、1,4−シクロヘキサンジメタノール100.3部((B)中16.0モル%)、トリメチロールプロパン4.7部((B)中0.8モル%)、チタンブトキサイド0.01部を重合反応器に仕込み、窒素雰囲気下で250℃まで徐々に昇温し、6時間かけてエステル化反応を行った。次に、窒素気流下で230℃まで冷却した後、30分かけて圧力を5mmHg以下まで下げ、その状態で2時間重合反応を行った。この後、樹脂を窒素気流下で200℃まで冷却し、これに無水トリメリット酸6.6部((A)中1.0モル%)を添加し、2時間反応した。以上より、本発明のポリエステル樹脂を得た。得られた樹脂は、Flexisolv DBE esters(インビスタ社製)/キシレン=1/1(重量比)の混合溶剤で不揮発分濃度が40%になるように調整して樹脂ワニスを得た。
【0056】
[製造例I(直接重合法)]
反応容器に、テレフタル酸146.1部((A)中25.0モル%)、イソフタル酸368.3部((A)中63.0モル%)、セバシン酸14.2部((A)中2.0モル%)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸60.6部((B)中10.0モル%)、プロピレングリコール53.5部((B)中16.6モル%)、1,4−ブタンジオール253.5部((B)中66.4モル%)、1,4−シクロヘキサンジメタノール101.4部((B)中16.6モル%)、トリメチロールプロパン2.4部((B)中0.4モル%)、チタンブトキサイド0.01部を重合反応器に仕込み、窒素雰囲気下で250℃まで徐々に昇温し、6時間かけてエステル化反応を行った。次に、窒素気流下で230℃まで冷却した後、30分かけて圧力を5mmHg以下まで下げ、その状態で2時間重合反応を行い、本発明のポリエステル樹脂を得た。得られた樹脂は、Flexisolv DBE esters(インビスタ社製)/キシレン=1/1(重量比)の混合溶剤で不揮発分濃度が40%になるように調整して樹脂ワニスを得た。
【0057】
[製造例C〜H]
製造例Bの原料を、それぞれ表1に示す原料に変更した以外は、製造例Bと同様に行うことでポリエステル樹脂を合成し、それぞれ製造例C〜Hの樹脂ワニスを得た。
【0058】
[比較製造例J、K、M、O、P、Q]
製造例Bの原料を、それぞれ表1に示す原料に変更した以外は、製造例Bと同様に行うことでポリエステル樹脂を合成し、それぞれ比較製造例J、K、M、O、P、Qの樹脂ワニスを得た。
【0059】
[比較製造例L、N、R]
製造例Iの原料を、それぞれ表1に示す原料に変更した以外は、製造例Iと同様に行うことでポリエステル樹脂を合成し、それぞれ比較製造例L、N、Rの樹脂ワニスを得た。
【0060】
[実施例1]
製造例Aで得られたポリエステル樹脂ワニス483.4部、フェノール樹脂としてスミライトレジンPR−55317(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50%のn−ブタノール溶液、住友ベークライト社製)43.1 部、溶剤として、Flexisolv DBE esters(インビスタ社製)153.2部、キシレン191.0部、ブチルセロソルブ23.6部、n−ブタノール28.4部、シクロヘキサノン76.8部を混合し、硬化触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸0.5部を添加し、不揮発分濃度21.5%の塗料(缶被覆用樹脂組成物)を得た。表2に、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、硬化触媒の配合量(部)を示す。
【0061】
[実施例2〜9]
製造例Aで得られたポリエステル樹脂ワニスを、それぞれ製造例製造例B、C、D、E、F、G、H、Iで得られたポリエステル樹脂ワニスに変更した以外は、実施例1と同様に行ない、それぞれ塗料を得た。
【0062】
[実施例10]
製造例Aで得られたポリエステル樹脂ワニス483.4部の替わりに製造例Bで得られたポリエステル樹脂ワニス429.8部、スミライトレジンPR−55317(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50%のn−ブタノール溶液、住友ベークライト社製)43.1部の替わりに86.0 部、キシレン191.0部の替わりに201.7部を用いた以外は、実施例1と同様に行ない塗料を得た。
【0063】
[実施例11]
製造例Aで得られたポリエステル樹脂ワニス483.4部の替わりに製造例Bで得られたポリエステル樹脂ワニス499.7部、スミライトレジンPR−55317(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50%のn−ブタノール溶液、住友ベークライト社製)43.1部の替わりに30.1部、 キシレン191.0部の替わりに187.7部を用いた以外は、実施例1と同様に行ない塗料を得た。
【0064】
[比較例12〜20]
製造例Aで得られたポリエステル樹脂ワニスの替わりに、それぞれ比較製造例J、K、L、M、N、O、P、Q、Rで得られたポリエステル樹脂ワニスに変更した以外は、実施例1と同様に行ない、それぞれ塗料を得た。
【0065】
[比較例21]
製造例Aで得られたポリエステル樹脂ワニス483.4部の替わりに製造例Jで得られたポリエステル樹脂ワニス376.1部、スミライトレジンPR−55317(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50%のn−ブタノール溶液、住友ベークライト社製)43.1部の替わりに128.9 部、キシレン191.0部の替わりに212.5部を用いた以外は、実施例1と同様に行ない塗料を得た。
【0066】
[比較例22]
製造例Aで得られたポリエステル樹脂ワニス483.4部の替わりに製造例Jで得られたポリエステル樹脂ワニス521.2部、スミライトレジンPR−55317(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50%のn−ブタノール溶液、住友ベークライト社製)43.1部の替わりに12.9 部、キシレン191.0部の替わりに183.4部を用いた以外は、実施例1と同様に行ない塗料を得た。
【0067】
[テストパネルの作製]
実施例1〜11、及び比較例12〜22で得られた塗料を、それぞれ、厚さ0.26mmのアルミ板上に乾燥重量が80mg/dm2となるようにバーコーターで塗装し、次いで第1ゾーンの温度が286℃ 、第2ゾーンの温度が326℃である2連型のコンベアーオーブンを24秒で通過させて乾燥・硬化することで塗膜を備えたテストパネルを作製した。得られたテストパネルを下記の通り評価した。
【0068】
<折り曲げ加工性試験>
テストパネルを幅30mm縦50mmの大きさに準備した。次いで図1の(a)に示す通りテストパネル1の塗膜を外側にして、縦長さ30mmの位置に直径3mmの丸棒2を添えた。次に、図1の(b)に示す通り丸棒2に沿ってテストパネル2を2つ折りにして試験片3を作製した。この2つ折りにした試験片3の間に厚さ0.26mmのアルミ板(省略)を2枚挟み、図1の(c)に示す通り幅15cm×高さ5cm×奥行き5cmの直方体状の1kgのおもり4を高さ40cmから試験片3の折り曲げ部に落下させて完全に折り曲げた。
次いで、アルミ板を取り除いた上で、試験片3の折り曲げ部を濃度1%の食塩水中に浸漬させた。次いで、試験片3の、食塩水中に浸漬されていない平面部の金属部分と、食塩水との間を6.0V×6秒間通電させて、その電流値を測定した。
塗膜の加工性が乏しい場合、折り曲げ加工部の塗膜がひび割れて、下地の金属板が露出して導電性が高まるため、電流値が高くなる。下記評価基準にて評価した。
◎:5mA未満(良好)
○:5mA以上10mA未満(使用可)
△:10mA以上20mA未満(使用不可)
×:20mA以上(不良)
【0069】
<開口性試験>
テストパネルを縦50mm×横50mmの大きさに準備した。プレス機を使用してテストパネルの塗装面に飲料缶で一般的なステイオンタブ開口部の形状に型を成形し試料とした。次いで、同試料の無塗装面の側から、開口部の形状に沿ってアルミニウム板を引き剥がし、その開口部を顕微鏡で拡大し目視判定した。開口性が不良であると、塗膜が開口部の周辺部に残存しやすくなり、開口部内にはみ出す幅が大きくなる。開口性が良好であるとは、塗膜が開口部内にまったくはみ出さないか、あるいは、はみ出したとしても、そのはみ出し幅がごくわずかである状態をいう。具体的な判定方法としては、はみ出ている塗膜の幅を測定し、下記評価基準にて評価した。
◎ : はみ出ている塗膜の最大幅が100μm未満(良好)
○ : はみ出ている塗膜の最大幅が100μm以上、200μm未満(使用可)
△ : はみ出ている塗膜の最大幅が200μm以上、400μm未満(使用不可)
× : はみ出ている塗膜の最大幅が400 μm 以上(不良)
【0070】
<耐レトルト性試験>
テストパネルを水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃−30分間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で下記評価基準にて評価した。
◎:未処理の塗膜と変化なし(良好)
○:ごく薄く白化(使用可)
△:やや白化(使用不可)
×:著しく白化(不良)
【0071】
耐腐食性を耐酸性試験および耐アルカリ性試験で評価した。
<耐酸性試験>
テストパネルをクエン酸を2重量%含むpH2程度の水溶液に浸漬したまま、レトルト釜で125℃−30分間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で下記評価基準にて評価した。
◎:未処理の塗膜と変化なし(良好)
○:ごく薄く白化(使用可)
△:やや白化(使用不可)
×:著しく白化(不良)
【0072】
<耐アルカリ性試験>
テストパネルを水酸化ナトリウムを使用してpH12に調整した水溶液に浸漬したまま、レトルト釜で125℃−30分間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で下記評価基準にて評価した。
◎:未処理の塗膜と変化なし(良好)
○:ごく薄く白化(使用可)
△:やや白化(使用不可)
×:著しく白化(不良)
【0073】
<耐内容物汚染性試験>
レトルト釜にテストパネルを投入し水中に浸漬させた。次いで、125℃−30分間レトルト処理を行った。テストパネルの面積(すわなち塗膜の面積)と水との比率は、テストパネル100cm2に対して、水が100mLとなるようにした。
レトルト処理後の水を「TOC−L CPH」(島津製作所社製)を使用して分析し、
全有機炭素(TOC)量を測定した。なお、TOC量とは、水中に存在する有機物の総量を有機物中の炭素量で示したものである。下記評価基準にて評価した。
◎:1ppm未満(良好)
○:1ppm以上1.5ppm未満(使用可)
△:1.5ppm以上2ppm未満(使用不可)
×:2ppm以上(不良)
【0074】
<経時加工性試験>
テストパネルを37℃の恒温槽中に60日間静置後、上記折り曲げ加工性の試験と同様にしてパネルを加工し、電流値を測定した。次いで、上記折り曲げ加工性の試験で得られた電流値と、パネル経時後の電流値の差(パネル経時後の電流値−パネル経時前の電流値)を求めて経時加工性を評価した。下記評価基準にて評価した。
◎:1mA未満(良好)
○:1mA以上5mA未満(使用可)
△:5mA以上10mA未満(使用不可)
×:10mA以上(不良)
【0075】
表2に、各塗料組成物の物性評価結果を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【符号の説明】
【0078】
1 テストパネル
2 丸棒
3 試験片
4 おもり
図1