特許第6753061号(P6753061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753061
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】PCタンクおよびその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 7/20 20060101AFI20200831BHJP
   E04H 7/18 20060101ALI20200831BHJP
   F17C 13/12 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   E04H7/20
   E04H7/18 301Z
   F17C13/12 302A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-3479(P2016-3479)
(22)【出願日】2016年1月12日
(65)【公開番号】特開2017-125305(P2017-125305A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】境 恭宏
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−291582(JP,A)
【文献】 実公平02−019432(JP,Y2)
【文献】 特許第5516963(JP,B2)
【文献】 特開昭58−094696(JP,A)
【文献】 特開2000−017880(JP,A)
【文献】 実開昭53−022108(JP,U)
【文献】 特開平09−303095(JP,A)
【文献】 米国特許第04271647(US,A)
【文献】 特開2013−091984(JP,A)
【文献】 特開2014−151926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/18,7/20
F17C 1/00 −13/12
B65D 90/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクを構築する構築方法であって、
前記基礎版の外周に沿って円筒状周壁を立設し、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に前記外周から隙間をおいて型枠を配置し、当該隙間に繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルを打設して補強部を予め前記円筒状周壁に設けられた定着部材を介して前記円筒状周壁と一体に設け、
前記円筒状周壁に挿通された周方向のPC鋼材を緊張することで当該円筒状周壁にプレストレスを導入して前記PC防液堤とする
ことを特徴とするPCタンクの構築方法。
【請求項2】
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクを構築する構築方法であって、
前記基礎版の外周に沿って円筒状周壁を立設する際、当該円筒状周壁の外周表面のうち、上端部のみ、下端部のみ、又は、上端部と下端部のみに、予め前記円筒状周壁に向けて定着部材を配置した状態でパネル状に形成された繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部を、型枠の一部として配置した状態でコンクリートを打設して前記円筒状周壁を立設し、
前記円筒状周壁に挿通された周方向のPC鋼材を緊張することで当該円筒状周壁にプレストレスを導入して前記PC防液堤とする
ことを特徴とするPCタンクの構築方法。
【請求項3】
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクを構築する構築方法であって、
前記基礎版の外周に沿って円筒状周壁を立設し、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に、予め前記円筒状周壁に設けられたアンカーボルトに対応する取付孔を貫設した状態でパネル状に形成された繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部を配置し、
前記補強部の取付孔に挿通された前記円筒状周壁の前記アンカーボルトを介した締結によって前記円筒状周壁と前記補強部とを一体化し、
前記円筒状周壁に挿通された周方向のPC鋼材を緊張することで当該円筒状周壁にプレストレスを導入して前記PC防液堤とする
ことを特徴とするPCタンクの構築方法。
【請求項4】
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクであって、
前記PC防液堤は、
前記基礎版の外周に沿って立設された円筒状周壁と、
繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなり、前記円筒状周壁の外周表面のうち、上端部のみ、下端部のみ、又は、上端部と下端部のみに、当該円筒状周壁と一体に設けられた補強部と、
前記円筒状周壁の周方向に挿通され、緊張されて前記円筒状周壁にプレストレスを導入するPC鋼材と、を備える
ことを特徴とするPCタンク。
【請求項5】
前記補強部は、前記円筒状周壁と一体化するための定着部材を当該円筒状周壁に向けて配置した状態で予めパネル状に形成されており、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に、型枠の一部として配置された状態で、前記円筒状周壁を形成する際に打設されたコンクリートと一体化されてなることを特徴とする請求項4に記載のPCタンク。
【請求項6】
前記補強部は、前記円筒状周壁に設けられた前記円筒状周壁と一体化するための定着部材に対応する取付孔を予め貫設した状態でパネル状に形成されており、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に、前記定着部材を前記取付孔に挿通させた状態で締結され、当該円筒状周壁と一体化されてなることを特徴とする請求項4に記載のPCタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCタンクおよびその構築方法に関し、特に液化天然ガスを貯留するためのPCLNGタンクに好適なPCタンクおよびその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液化天然ガス(以下、LNGと称す)を貯留するにあたり、敷地の有効利用や大容量化の観点から、外槽および内槽からなる金属二重殻式LNGタンクとその周囲に配置される防液堤とを一体化させると共に、当該防液堤をPC(プレストレストコンクリート)製とすることで液密性を確保した施設であるPCLNGタンク(以下、単にPCタンクと称す)が採用されている。
【0003】
かかるPC製の防液堤(以下、PC防液堤と称す)は、LNGタンクが載置される基礎版の外周縁部に立設されたコンクリート製の円筒状周壁に対し、周方向に沿って挿通されたPC鋼材と、鉛直方向に沿って配置され下端部が直線状やU字状に曲折された形状で配設されたPC鋼材とを配設した鉄筋コンクリートからなる。そして、これら周方向と鉛直方向のPC鋼材が緊張されて定着されることで、円筒状周壁に周方向および鉛直方向のプレストレスが導入されるため、PC防液堤のひび割れを防止し、貯留中のLNGが内槽から万一漏出した場合であっても、これを施設内にとどめることができるように液密性が確実に担保されている。
【0004】
ここで、PC防液堤では、地震時の抵抗力を向上させるべく、下端側の基礎版や上端(頂部)側の屋根と剛接合されるが、この状態で当該PC防液堤に周方向の緊張力を導入した場合に、これらPC防液堤の下端部近傍や上端部近傍で基礎版や屋根によって変形が拘束されることで、曲げモーメントが鉛直方向に沿って発生し、それに伴ってひび割れが生じるため、上述した周方向の緊張力のみならず、鉛直方向に沿った緊張力も併せて導入する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5516963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、従来、特許文献1に記載されるように、PC防液堤の下端部や上端部に鉛直方向のPC鋼材を集約して配置することで、これらPC防液堤の下端部や上端部におけるひび割れの発生を有効に防止するPCタンクが開発されている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1のPCタンクでは、PC防液堤の上端部および下端部以外の中間部における鉛直方向のPC鋼材の配設を廃止して無駄なプレストレスの導入を省略できるものの、それ以外のPC防液堤の上端部および下端部にはPC鋼材を集約して配設しているため、その分におけるPC鋼材の設置作業が煩雑となると共に、材料コストが嵩むという問題があった。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、PC鋼材に比べて安価な材料を用いることによって、低コスト且つ施工の容易化を図りつつ、PC防液堤における鉛直方向に沿った曲げモーメントによるひび割れの発生を効果的に防止可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るPCタンクの構築方法は、
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクを構築する構築方法であって、
前記基礎版の外周に沿って円筒状周壁を立設し、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に前記外周から隙間をおいて型枠を配置し、当該隙間に繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルを打設して補強部を予め前記円筒状周壁に設けられた定着部材を介して前記円筒状周壁と一体に設け、
前記円筒状周壁に挿通された周方向のPC鋼材を緊張することで当該円筒状周壁にプレストレスを導入して前記PC防液堤とすることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るPCタンクの構築方法は、
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクを構築する構築方法であって、
前記基礎版の外周に沿って円筒状周壁を立設する際、当該円筒状周壁の外周表面のうち、上端部のみ、下端部のみ、又は、上端部と下端部のみに、予め前記円筒状周壁に向けて定着部材を配置した状態でパネル状に形成された繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部を、型枠の一部として配置した状態でコンクリートを打設して前記円筒状周壁を立設し、
前記円筒状周壁に挿通された周方向のPC鋼材を緊張することで当該円筒状周壁にプレストレスを導入して前記PC防液堤とすることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係るPCタンクの構築方法は、
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクを構築する構築方法であって、
前記基礎版の外周に沿って円筒状周壁を立設し、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に、予め前記円筒状周壁に設けられたアンカーボルトに対応する取付孔を貫設した状態でパネル状に形成された繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部を配置し、
前記補強部の取付孔に挿通された前記円筒状周壁の前記アンカーボルトを介した締結によって前記円筒状周壁と前記補強部とを一体化し、
前記円筒状周壁に挿通された周方向のPC鋼材を緊張することで当該円筒状周壁にプレストレスを導入して前記PC防液堤とすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るPCタンクは、
タンク本体と、前記タンク本体が載置された基礎版と、前記基礎版の外周に沿って前記タンク本体を取り囲むように立設されたPC防液堤と、を備えたPCタンクであって、
前記PC防液堤は、
前記基礎版の外周に沿って立設された円筒状周壁と、
繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなり、前記円筒状周壁の外周表面のうち、上端部のみ、下端部のみ、又は、上端部と下端部のみに、当該円筒状周壁と一体に設けられた補強部と、
前記円筒状周壁の周方向に挿通され、緊張されて前記円筒状周壁にプレストレスを導入するPC鋼材と、を備えることを特徴とする。
【0013】
このとき、前記補強部は、前記円筒状周壁と一体化するための定着部材を当該円筒状周壁に向けて配置した状態で予めパネル状に形成されており、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に、型枠の一部として配置された状態で、前記円筒状周壁を形成する際に打設されたコンクリートと一体化されてなるようにしても良い。
【0014】
さらに、前記補強部は、前記円筒状周壁に設けられた前記円筒状周壁と一体化するための定着部材に対応する取付孔を予め貫設した状態でパネル状に形成されており、
前記円筒状周壁の外周のうち、上端部または下端部の少なくとも一方を含む部位に、前記定着部材を前記取付孔に挿通させた状態で締結され、当該円筒状周壁と一体化されてなるようにしても良い。
【0015】
本発明によれば、PC鋼材に比べて安価な繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部を、鉛直方向の外側引張り曲げモーメントの発生する部位である、少なくとも上端部または下端部の一方かその両方の部位にピンポイントで設けることによって、低コスト且つ施工の容易化を図りつつ、PC防液堤における鉛直方向に沿った曲げモーメントによるひび割れの発生を効果的に防止できる。
【0016】
このとき、補強部を、円筒状周壁の外周のうち、鉛直方向の曲げモーメントが発生する少なくとも上端部または下端部の一方かその両方の部位に型枠を置き、その間の隙間に繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルを打設して形成したり、予めジベル筋やアンカーボルト等の定着部材を配置した状態でプレキャスト工法によってパネル状に形成しておき、円筒状周壁を打設する際の型枠の一部として配置したり、円筒状周壁に設けられる定着部材に対応する取付孔を貫設した状態で予めプレキャスト工法によってパネル状に形成したりすることで、施工の容易化を確保しつつ、円筒状周壁に対して強固に接合した状態で一体化できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低コスト且つ施工の容易化を図りつつ、PC防液堤における鉛直方向に沿った曲げモーメントによるひび割れの発生を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るPCタンクを示し、(a)はその鉛直断面図であり、(b)はそのA−A線に沿う水平断面図である。
図2図1(a)のPCタンクにおける要部を拡大して示す鉛直断面図である。
図3図2のPCタンクにおける要部を示し、(a)はAで示す部分を拡大して示す平面図であり、(b)はBで示す部分を拡大して示す平面図である。
図4】本実施形態に係るPCタンクの構築方法の説明に供する鉛直断面図である。
図5】変形例に係るPCタンクの要部を拡大して示す鉛直断面図である。
図6】変形例に係るPCタンクの要部を拡大して示す鉛直断面図である。
図7】変形例に係るPCタンクの構築方法の説明に供する鉛直断面図である。
図8】変形例に係るPCタンクの構築方法の説明に供する鉛直断面図である。
図9】変形例に係るPCタンクの下端部を拡大して示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るPCタンクおよびその構築方法の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うPCタンクおよびその構築方法もまた本発明の技術思想に含まれる。
【0020】
図1および図2に示すように、本実施形態に係るPCタンク1は、外槽2および内槽3からなるLNG貯留のためのタンク本体4と、タンク本体4が載置され、基礎杭Kによって支持されると共に、複数の基礎杭Kに剛結合される基礎版5と、基礎版5の外周に沿ってタンク本体4を取り囲むように立設された周方向にプレストレスが導入されたPC防液堤6と、を有している。
【0021】
タンク本体4の側部において、外槽2および内槽3の間には、粒状パーライト等からなる側部保冷材Qが介在されており、内槽3の側部保冷材Q側表面にはグラスウール31が設けられている。また、外槽2の側部保冷材Q側表面には、冷熱抵抗緩和部(PUF)21が設けられている。
【0022】
ここで、本実施形態の場合、PC防液堤6は、従来のPC防液堤とは異なり、例えば図2に示す上端部Aにおける鉛直方向に沿ったプレストレスを導入するためのPC鋼材を挿通せずに構成してある。
【0023】
具体的にPC防液堤6は、図2および図3に示すように、基礎版5に立設するコンクリート製の円筒状周壁7の外周のうち、上端部Aにおいて、従来のような鉛直方向のPC鋼材に替えて繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部8(図3(a)参照)が当該円筒状周壁7と一体に設けられている。また、PC防液堤6は、円筒状周壁7に挿通された周方向のPC鋼材9と、円筒状周壁7の外周のうち、下端部Bに鉛直方向に配置された下部がU字状のPC鋼材10(図3(b)参照)と、を備えており、全体として鉄筋コンクリートで構成されている。そして、周方向のPC鋼材9と鉛直方向のPC鋼材10を緊張することで、円筒状周壁7に周方向と鉛直方向にプレストレスを導入すると共に、円筒状周壁7の上端部Aにおける外周表面を補強部8によって補強することにより、液密性を担保したPC防液堤6が構築されている。
【0024】
なお、補強部8を形成する高強度繊維補強材12は、圧縮強度の特性値が150N/mm2以上、ひび割れ発生強度の特性値が4N/mm2以上、引張強度の特性値が5N/mm2以上の性能を有した繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルである。
【0025】
PCタンク1を構築するにはまず、基礎版5を基礎杭K上に構築すると共に、円筒状周壁7を基礎版5の外周に沿って立設する。円筒状周壁7を立設するには、基礎版5を構成する基部70から円筒状周壁7の壁本体を上方に延設するようにすればよい。
【0026】
このとき、コンクリート打設に先立ち、PC鋼材9を挿通するための周方向のシース管(不図示)やPC鋼材10を挿通するための鉛直方向のシース管(不図示)および鉄筋(不図示)を予め配置しておく。コンクリート打設後は、基礎版5と一体に円筒状周壁7の下面を構成する。
【0027】
次に、図4に示すように、基部70から上方に延設された円筒状周壁7の上端部Aにおいて、補強部8の配設予定位置に予めジベル筋71等の定着部材を補強部8側に向けて配置しておく。そして、この補強部8の配設予定位置である円筒状周壁7の外周に型枠11を配置し、その間の隙間に高強度繊維補強材12である繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルを打設(3cm程度の薄肉断面の打設が可能)することで補強部8を形成する。
【0028】
次に、円筒状周壁7にPC鋼材9,10を挿通し、次いで、これらPC鋼材9,10に緊張力を導入する。このようにすると、円筒状周壁7には、PC鋼材9,10の緊張力に応じたプレストレス、例えば深さ方向に増加する液圧に抵抗できるような三角形状の分布でプレストレスが導入され、そのプレストレスの導入によって円筒状周壁7はPC防液堤6として機能する。
【0029】
以上説明したように、本実施形態に係るPCタンク1およびその構築方法によれば、基礎版5の外周に沿って円筒状周壁7を立設し、この円筒状周壁7の外周のうち、少なくとも上端部または下端部の一方かその両方の部位(この場合、上端部A)に高強度繊維補強材12としての繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルを打設して補強部8を構築した。これにより、本実施形態に係るPCタンク1では、円筒状周壁7において従来必要であった鉛直方向のPC鋼材10に替えて、このPC鋼材10に比べて安価な繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部8を、円筒状周壁7における鉛直方向の曲げモーメントの発生する部位である上端部Aに設けることによって、低コスト且つ施工の容易化を図りつつ、PC防液堤6における鉛直方向に沿った曲げモーメントによるひび割れの発生を効果的に防止できる。
【0030】
このように、従来においては必要不可欠であったPC防液堤6への鉛直方向に沿ったプレストレス導入を不要とすることで、プレストレス導入に必要なシース管の鉛直配置やシース管へのPC鋼材10の挿入、その緊張作業等を省略し、PC防液堤6を短工期で構築することができる。
【0031】
なお、前述した実施形態では、補強部8が、円筒状周壁7の外周のうち、図2に示す上端部Aに鉛直方向のPC鋼材10に替えて当該円筒状周壁7と一体に設けられる場合について述べたが、一例であってこれに限らず、補強部8は、少なくとも図2に示す上端部Aまたは下端部Bの一方かその両方の部位に設けられれば良い。
【0032】
例えば、図2との対応部分に同一符号を付した図5または図6に示すように、補強部8を、円筒状周壁7の外周のうち、上端部Aまたは下端部Bの両方の部位に設けるようにしても良い。このとき、補強部8は円筒状周壁7の外周表面と面一で配設されても良いし(図5)、円筒状周壁7の外周表面から突出して配設されても良い(図6)。いずれにせよ、円筒状周壁7の上端部Aにおいて鉛直方向のPC鋼材10に替えて補強部8を設けることで、ここに配置されていたPC鋼材10を排除でき、更には、円筒状周壁7の下端部において補強部8を設ける分、ここに配置されている鉛直方向のPC鋼材10の量を削減できるので、材料コストを大幅に削減することができる。さらに、図示省略するが、円筒状周壁7の下端部Bにおいて鉛直方向の曲げモーメントに対応する強度の補強部8を設けることで、ここに配置されているPC鋼材10を完全に排除することができ、更なる材料コストの削減を図ることもできる。加えて、図示省略するが、円筒状周壁7の外周全体に、鉛直方向の曲げモーメントに対応する強度の補強部8を設け、上端部および下端部における鉛直方向のPC鋼材10を完全に排除するようにしても良い。この場合、従来、手間であった鉛直方向のPC鋼材10の配設作業をなくし、単純に補強部8を設ける簡単な施工のみとなる上、PC鋼材10に比べて安価な繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルからなる補強部8に置き換えることができるため、低コスト且つ施工の容易化を確保しつつ、PC防液堤6における鉛直方向に沿った曲げモーメントによるひび割れの発生防止を確保できる。
【0033】
また、前述した実施形態では、補強部8を円筒状周壁7における外周のうちの上端部Aに、補強部8の配置予定位置側に向けたジベル筋71を予め配置すると共に型枠11を置き、その間の隙間に高強度繊維補強材12である繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタルを流し込んで打設形成される場合について述べたが、本発明はこれに限らない。
【0034】
例えば、図7に示すように、補強部8を予めジベル筋81等の定着部材を円筒状周壁7に向けて配置した状態でプレキャスト工法によってパネル状に形成しておき、当該パネル状の補強部8を、円筒状周壁7を形成する型枠(不図示)における補強部8の配設予定位置に、当該型枠の一部として配置する。そして、この状態でコンクリートを打設し、円筒状周壁7を形成する際に、当該円筒状周壁7と補強部8とをジベル筋81を介して定着させて一体に設けるようにしても良い。
【0035】
さらに、図4との対応部分に同一符号を付した図8に示すように、円筒状周壁7における補強部8の配設予定位置に、補強部8に向けたアンカーボルト72等の定着部材を予め配設しておき、このアンカーボルト72に対応する取付孔8aを貫設した状態でプレキャスト工法によってパネル状に形成された補強部8を、円筒状周壁7における補強部8の配設予定位置に配置し、取付孔8aを挿通したアンカーボルト72にナット82を締結することで円筒状周壁7に対し補強部8を一体化させて設けるようにしても良い。
【0036】
このように、補強部8を、予めジベル筋81を円筒状周壁7に向けて配置した状態でプレキャスト工法によってパネル化し、またはアンカーボルト72に対応する取付孔8aを設けた状態でプレキャスト工法によってパネル化し、円筒状周壁7を打設する際の型枠の一部として配置し、または円筒状周壁7に設けられるアンカーボルト72とナット82によって締結させることで、施工の容易化を確保しつつ、円筒状周壁7に対して強固に接合した状態で一体化できる。
【0037】
また、前述した実施形態において、PC防液堤6は、円筒状周壁7における下端部Bの外周面が垂直に形成されている場合について図示したが、本発明はこれに限らず、例えば、図9に示すように、下端部の補強部8が基部70に向かうに従い外方に向けて傾斜した形状で形成されていても良い。
【符号の説明】
【0038】
1…PCタンク, 2…外槽, 3…内槽, 4…タンク本体, 5…基礎版, 6…PC防液堤, 7…円筒状周壁, 70…基部, 71…ジベル筋(定着部材), 72…アンカーボルト(定着部材), 8…補強部, 8a…取付孔, 81…ジベル筋(定着部材), 82…ナット(定着部材), 9…周方向のPC鋼材, 10…鉛直方向のPC鋼材, 11…型枠, 12…高強度繊維補強材(繊維補強コンクリートまたは繊維補強モルタル), K…杭
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9