特許第6753111号(P6753111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753111燃料電池用触媒ペースト組成物、及び燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753111
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒ペースト組成物、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20200831BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20200831BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20200831BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20200831BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20200831BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20200831BHJP
【FI】
   H01M4/88 K
   B01J23/745 M
   B01J23/75 M
   H01M4/86 B
   H01M4/86 H
   H01M4/90 X
   H01M8/10 101
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-71112(P2016-71112)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-183172(P2017-183172A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】出口 直幹
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−028932(JP,A)
【文献】 特開2014−216204(JP,A)
【文献】 特開2013−157317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/90
B01J 23/745 − 23/75
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非白金系炭素系触媒と、樹脂(A)と、溶剤とを含んでなる燃料電池用触媒ペースト組成物であって、
樹脂(A)が、一般式(A1)で示されるポリマー、または、一般式(A2)を構成単位として含むノニオン性ポリマーのうち少なくとも一方である燃料電池用触媒ペースト組成物。

一般式(A1)
【化1】
[Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、R2は、炭素数10以下の炭化水素基または水素である。mは、3〜30,000の整数である。]
一般式(A2)
【化2】
[Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、R3は、メチル基または水素であり、R4は、メチル基または水素である。nは、1〜100の整数である。]
【請求項2】
樹脂(A)の分子量が1,000以上であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用触媒ペースト組成物。
【請求項3】
樹脂(A)の含有量が、非白金系炭素系触媒3質量部に対して0.2〜3.0質量部であることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池用触媒ペースト組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の燃料電池用触媒ペースト組成物と、バインダーとを含んでなる燃料電池用触媒インキ組成物。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池用触媒インキ組成物から形成されてなる燃料電池用触媒層。
【請求項6】
請求項5記載の燃料電池用触媒層と導電性支持体とを具備してなる燃料電池用触媒電極。
【請求項7】
固体高分子電解質膜と、請求項6記載の燃料電池用触媒電極とを具備してなる燃料電池用電極膜接合体。
【請求項8】
請求項6記載の燃料電池用触媒電極または請求項7記載の燃料電池用電極膜接合体のうち少なくとも一方を具備してなる燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒ペースト組成物に係り、それらを用いた燃料電池用触媒インキ組成物、燃料電池用触媒層、それらを具備する燃料電池用触媒電極、燃料電池用電極膜接合体、および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学システムを用いて化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換できるシステムであり、高効率であるため次世代エネルギーとして期待されている。燃料電池には、ガス燃料としての水素や液体燃料としてのメタノール等を利用する固体高分子形燃料電池等が知られている。固体高分子形燃料電池は作動温度が低く、高効率である点から自動車用、定置用、小型モバイル用に活発に開発が進められている。
【0003】
従来より、これら燃料電池の電極触媒には、正極側活物質である酸素を水または水酸化物イオンへ変換するため、高い酸素還元活性を有する白金や白金合金等を用いる白金系触媒が用いられているが、コスト、資源量、供給安定性の面から、白金系触媒以外の触媒(非白金系触媒と呼ぶ)の開発が求められている。しかし、現状の非白金系触媒の性能は、白金系触媒に比べて十分ではないため、白金の使用量を大幅に低減した触媒や、白金を使用しない非白金系触媒の技術開発が進められている。(非特許文献1、特許文献1〜3など)
【0004】
そのような非白金系触媒として、例えば、特許文献2では、高分子金属錯体に炭素添加物を混合し熱処理した炭素化物に、窒素をドープした炭素材料が提案されている。このような窒素をドープした炭素材料は、酸素還元活性を有する非白金系触媒として利用することができる。また、特許文献3では、表面処理した炭素材料にイオン交換性官能基をグラフト化反応により導入した炭素材料が、非白金系触媒として使用できることが提案されている。
【0005】
非白金系触媒は、白金系触媒よりも、経済的でコスト優位性が高いため積極的な開発が進められているが、その性能はまだ十分ではなく、白金系触媒を使用した場合に近い電池性能を得るためには、触媒層の厚みを増加させ、触媒層中の触媒粒子を増加させる必要がある。また、厚みが増加することで水蒸気などのガスの透過性が悪化し、電流量の低下や起電力の低下を引き起こしてしまうという問題がある。このような技術課題があるが、これを解決する手段が見出せていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−6283号公報
【特許文献2】特開2008−282725号公報
【特許文献3】特開2009−295441号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】SCIENCE(VOL.332、第443〜447頁、2011年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、触媒層のガス拡散性に課題がある非白金系炭素系触媒において、ガス拡散性の良い燃料電池用触媒層を作製することができ、保存安定性に優れた燃料電池用触媒ペースト組成物を提供することである。また前記燃料電池用触媒ペースト組成物と、バインダーとを含んでなる燃料電池用触媒インキ組成物から形成されてなる燃料電池用触媒層を具備する燃料電池用触媒電極ならびに燃料電池用電極膜接合体と、電池性能に優れた燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
第一の発明は、非白金系炭素系触媒と、樹脂(A)と、溶剤とを含んでなる燃料電池用触媒ペースト組成物であって、 樹脂(A)が、一般式(A1)で示されるポリマー、または、一般式(A2)を構成単位として含むノニオン性ポリマーのうち少なくとも一方である燃料電池用触媒ペースト組成物に関する。
【0010】
一般式(A1)
【化1】
[Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、R2は、炭素数10以下の炭化水素基または水素である。mは、3〜30,000の整数である。]

一般式(A2)
【化2】
[Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、R3は、メチル基または水素であり、R4は、メチル基または水素である。nは、1〜100の整数である。]
【0011】
第二の発明は、樹脂(A)の分子量が1,000以上であることを特徴とする前記燃料電池用触媒ペースト組成物に関する。
【0012】
第三の発明は、樹脂(A)の含有量が、非白金系炭素系触媒3質量部に対して0.2〜3.0質量部であることを特徴とする前記燃料電池用触媒ペースト組成物に関する。
【0013】
第四の発明は、前記燃料電池用触媒ペースト組成物と、バインダーとを含んでなる燃料電池用触媒インキ組成物に関する。

【0014】
第五の発明は、前記燃料電池用触媒インキ組成物から形成されてなる燃料電池用触媒層に関する。
【0015】
第六の発明は、前記燃料電池用触媒層と導電性支持体とを具備してなる燃料電池用触媒電極に関する。
【0016】
第七の発明は、固体高分子電解質膜と、前記燃料電池用触媒電極とを具備してなる燃料電池用電極膜接合体に関する。
【0017】
第八の発明は、前記燃料電池用触媒電極または前記燃料電池用電極膜接合体のうち少なくとも一方を具備してなる燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガス拡散性の良い燃料電池用触媒層を作製することができ、保存安定性に優れた燃料電池用触媒ペースト組成物を提供することが可能となる。また前記燃料電池用触媒ペースト組成物と、バインダーとを含んでなる燃料電池用触媒インキ組成物から形成されてなる燃料電池用触媒層を具備する燃料電池用触媒電極ならびに燃料電池用電極膜接合体を得ることで、ガス拡散性に優れ、電池性能が優れた燃料電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「燃料電池用触媒ペースト組成物」を「触媒ペースト組成物」、「燃料電池用触媒インキ組成物」を「触媒インキ組成物」ということがある。
【0020】
<非白金系炭素系触媒>
非白金系炭素系触媒とは、炭素(C)原子の集合体を主体とした多成分系からなり、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、異種元素、たとえば窒素(N)、ホウ素(B)、リン(P)などのヘテロ原子や卑金属元素が含まれる触媒で、1種または2種以上の、炭素材料と窒素元素および卑金属元素を有する化合物を混合、熱処理して、得ることができ、従来公知のものを使用することができる。
ヘテロ原子と卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有するうえで重要な意味をなす。一般的に非白金系炭素系触媒の場合、その触媒活性点として、炭素材料表面に卑金属元素を中心に、例えば、4個の窒素が平面上に並んだ構造(卑金属−N4構造と呼ぶ)部分における卑金属元素や、炭素材料表面のエッジ部に導入されたヘテロ原子近傍の炭素原子などが挙げられる。
このような非白金系炭素系触媒は、従来公知の白金を担持させた炭素材料と同様に、酸素還元触媒能を有し、燃料電池用電極触媒として好適に使用することができる。非白金系炭素系触媒は、正極、負極の両方に使用することができるが、正極として通常用いられることが多い。
【0021】
本発明に係る非白金系炭素系触媒においては、窒素やホウ素、リンなどのドープ量(非白金系炭素系触媒中の窒素やホウ素、リンなどの含有量)が、それぞれ0.1〜40モル%であるときに、酸素還元に関して良好な触媒活性を示す。また、窒素とホウ素とを同時にドープしたときには、両者の相互作用により、より一層高い電極活性を示す。また、窒素とホウ素の双方をドープする場合には、原子比(B/N)は、0.2〜0.4、好ましくは0.06〜1.5であり、またモル比((B+N)/C)は、好ましくは0.03〜0.4である。これらの範囲内において、活性の高い非白金系炭素系触媒を得ることができる。
【0022】
<非白金系炭素系触媒の製造方法>
非白金系炭素系触媒の製造方法は特に限定されず、炭素材料表面に大環状化合物を担持させ炭化させる方法、大環状化合物と有機材料との混合物を炭化させる方法、大環状化合物を含まない有機材料を炭化させる方法、無機炭素材料由来の炭素粒子を用いる方法など、従来公知の方法を使用できる。好ましい製造方法としては、無機炭素材料由来の炭素粒子と窒素元素および卑金属元素を含有する化合物とを混合後に不活性ガス雰囲気中で熱処理して非白金系炭素系触媒を得る方法である。前記熱処理は、複数の温度で多段階に行ってもよく、また、熱処理工程の後または途中に、酸で洗浄、及び乾燥する工程を含んでも良い。
【0023】
非白金系炭素系触媒を製造する際に、原料を混合する場合では、原料同士が均一に混合・複合されている方が好ましく、混合法としては、乾式混合及び湿式混合が挙げられる。混合装置としては、以下のような乾式混合装置や湿式混合装置を使用できる。
乾式混合装置としては、例えば、2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
乾式混合装置を使用する際には、母体となる原料粉体に他の原料を粉体のまま直接添加してもよいが、より均一な混合物を作製するために、前もって他の原料を少量の溶媒に溶解、又は分散させておき、母体となる原料粉体の凝集粒子を解しながら添加する方法が好ましい。更に、処理効率を上げるために、加温することが好ましい場合もある。
【0024】
原料の中には、常温では固体であるが、融点、軟化点、又はガラス転移温度が100℃未満と低い材料がある。それらの材料を用いる場合、常温で混合するより、加温下で溶融させて混合する方がより均一に混合できる場合もある。
【0025】
湿式混合装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、またはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、またはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、またはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;
その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい場合がある。
【0026】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面がタングステンカーバイド溶射又は樹脂コーティング等で処理された分散機を用いることが好ましい。メディアは、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、またはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合は、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用してもよいし、複数種の装置を組み合わせて使用してもよい。また、原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、一般的な親水性官能基を有する分散剤を一緒に添加し、分散、及び混合することができる。
【0027】
湿式混合する際、各原料が均一に溶解しないケースにおいては、各原料の溶媒への濡れ性、及び分散性を向上させるために、市販の分散剤を一緒に添加し、分散して混合してもよい。
【0028】
湿式混合の場合、混合前駆体を乾燥させる工程が必要となる。この場合、乾燥装置としては、棚式乾燥機、回転乾燥機、気流乾燥機、噴霧乾燥機、撹拌乾燥機、凍結乾燥機などを好適に使用することが出来る。
【0029】
炭素材料と窒素元素および卑金属元素を有する化合物の混合物を熱処理する方法においては、原料となる炭素材料と窒素元素および卑金属元素有する化合物によって異なるが、活性点の構造が安定しやすい観点から加熱温度は500〜1100℃が好ましい。
【0030】
熱処理における雰囲気は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気や、不活性ガスに水素が混合された還元性ガス雰囲気が好ましい。原料をできるだけ不完全燃焼により炭化させ、窒素元素、卑金属元素等を非白金系炭素系触媒表面に残存させる必要性があるためである。また、熱処理における非白金系炭素系触媒中の窒素元素の低減を抑制するために、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下で熱処理を行うこともできる。
【0031】
また、熱処理は、一定の温度下、1段階で処理を行う方法に限定されない。例えば、分解温度の異なる炭素材料と窒素元素および卑金属元素を有する化合物を2種類以上混合する場合は、各成分の熱分解温度に合わせて、加熱温度の異なる数段階に分けて熱処理を行なうことも可能である。これにより、活性点をより効率的に多く残存させられることがある。
【0032】
非白金系炭素系触媒の製造方法としては、更に、前記熱処理により得られた非白金系炭素系触媒を酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。ここで用いる酸は、前記熱処理により得られた非白金系炭素系触媒の表面に存在する活性点として作用しない卑金属成分を溶出させることができるものであれば特に限定されない。非白金系炭素系触媒との反応性が低く、卑金属成分の溶解力が強い濃塩酸や希硫酸等が好ましい。具体的な洗浄方法としては、ガラス容器内に酸を加え、非白金系炭素系触媒を添加し、分散させながら数時間撹拌させた後、静置し、上澄みを除去する。そして、上澄みの着色が確認されなくなるまで上記方法を繰り返し行い、最後に、ろ過、水洗により酸を除去し、乾燥する方法が挙げられる。触媒活性点としてエッジ部の窒素元素近傍の炭素元素を有する非白金系炭素系触媒は、酸で洗浄することにより、表面の活性点として作用しない卑金属成分が除去され触媒活性が向上するため好ましい場合がある。
【0033】
<樹脂>
本発明において使用する樹脂(A)は、下記一般式(A1)で示されるポリマー、または、一般式(A2)を構成単位として含むノニオン性ポリマーのうち少なくとも一方である。また、本発明におけるプロピレン基には、3つの炭素原子が直鎖に並んだプロピレン基と、1つの炭素原子が分鎖しているイソプロピレン基を含む。
【0034】
一般式(A1)
【化1】
[Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、R2は、炭素数10以下の炭化水素基または水素である。mは、3〜30,000の整数である。]
【0035】
一般式(A1)におけるRは、エチレン基またはプロピレン基であり、より好ましくはエチレン基である。
【0036】
一般式(A1)におけるR2は、炭素数10以下の炭化水素基または水素であり、好ましくは水素である。R2の炭素数が10以下であると、樹脂(A)を含む触媒ペースト組成物を撹拌した際の泡立ちが抑制され、好ましいペースト特性となる。
【0037】
一般式(A1)のR2における、炭素数が10以下の炭化水素基としては、炭素数が10以下のアルキル基、フェニル基が挙げられる。
【0038】
炭素数が10以下のアルキル基としては、直鎖のアルキル基、分鎖のアルキル基、環状のアルキル基があげられ、好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0039】
直鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基およびデシル基が挙げられる。分鎖のアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基などが挙げられる。環状のアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0040】
一般式(A1)におけるmは、3〜30,000の整数であり、好ましくは30〜30,000であり、より好ましくは30〜3,000であり、特に好ましくは300〜3,000である。mが3以上の値であると、繰り返し単位の骨格の効果が現れ、燃料電池電極のガス拡散性や、触媒ペースト組成物及び触媒インキ組成物の保存安定性に優れる。mが30以上の値であるとより優れたガス拡散性や保存安定性となり、300以上の値であると特に優れたガス拡散性や保存安定性となる。mが30,000以下であると、触媒ペースト組成物が低粘度になるために取扱い性や塗工適性が優れるほか、mが3,000以下であると、さらに低粘度化するためにより好ましい取扱い性や塗工適性となる。
【0041】
一般式(A1)で示されるポリマーとしては、ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製、分子量8,000)、ポリエチレンオキサイド(和光純薬工業(株)社製、分子量1,000,000)、ポリプロピレングリコール1000(昭和化学株式会社製、分子量1,000)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル550(東京化成工業社製、分子量550)、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ブチセノール40(KHネオケム株式会社製、分子量250)、などが挙げられる。
【0042】
一般式(A2)
【化2】
[Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、R3は、メチル基または水素であり、R4は、メチル基または水素である。nは、1〜100の整数である。]
【0043】
一般式(A2)におけるRは、エチレン基またはプロピレン基であり、より好ましくはエチレン基である。
【0044】
一般式(A2)におけるR3は、メチル基または水素である。
【0045】
一般式(A2)におけるR4は、メチル基または水素である。
【0046】
一般式(A2)におけるnは、1〜100の整数であり、好ましくは2〜90の整数であり、より好ましくは4〜20である。nが2以上であると、繰り返し構造の効果が顕著となり、nが4以上であると特に効果が顕著となる。また、nが90以下であると、ポリマー合成時における溶解性が良好となり、nが20以下であると特に溶解性が優れるため好ましい。
【0047】
一般式(A2)におけるRは、エチレン基とプロピレン基の双方を含んでいてもよい。その際は、エチレン基とプロピレン基を含むそれぞれの繰り返し単位の数nの総和が1〜100の整数である。
【0048】
ノニオン性ポリマーは、カルボン酸などの負電荷を有するアニオン性基、またはアミノ基などの正電荷を有するカチオン性基を含まないポリマーである。
【0049】
一般式(A2)を構成単位として含むノニオン性ポリマーは、全ての繰り返し単位が一般式(A2)であるポリマー、または、一般式(A2)及びエチレン性不飽和単量体による繰り返し単位を含むポリマーであり、これらの繰り返し単位が平均で10以上存在するものである。
【0050】
全ての繰り返し単位が一般式(A2)であるポリマーは、一般式(A2)で示される骨格を有するモノマーを単独または2種類以上を併用して重合したものである。
【0051】
一般式(A2)で示される骨格を有するモノマーとしては、ブレンマーAE−200(日油(株)製)、ブレンマーPE−90(日油(株)製)、ブレンマーPME−4000(日油(株)製)、ブレンマーPP−800(日油(株)製)、ブレンマー55PET−880(日油(株)製)などが挙げられる。
【0052】
一般式(A2)を構成単位として含むノニオン性ポリマーを構成する繰り返し単位に含まれてもよい、エチレン性不飽和単量体としては、芳香環、及び脂肪族骨格の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体、水酸基含有の不飽和単量体が挙げられる。これらは単独または2種類以上を併用して使用することができる。
【0053】
芳香環、または脂肪族骨格の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体としては、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体、脂肪族骨格を有するエチレン性不飽和単量体、及び、芳香族と脂肪族骨格の両方を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらは単独または2種類以上を併用して使用することができる。
【0054】
芳香環を有するエチレン性不飽和単量体としては、芳香環を有しているものであれば特に限定されない。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、またはベンジル(メタ)アクリレート等を例示することが出来る。
【0055】
脂肪族骨格を有するエチレン性不飽和単量体としては、飽和の炭化水素基を有しているものである。
【0056】
飽和炭化水素基としては、鎖式飽和炭化水素基と環式飽和炭化水素基が挙げられる。
鎖式飽和炭化水素基を有する不飽和単量体としては、具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがあり、炭素数2〜12であると合成時の相溶性が優れることから好ましく、炭素数3〜8であるとより合成時の相溶性が優れることからより好ましい。これらのアルキル基は分岐していてもよく、具体例としては、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ブチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、α−オレフィン化合物としては、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等が挙げられる。
【0057】
環状飽和炭化水素基を有する不飽和単量体としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
水酸基含有の不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、アリルアルコール等が挙げられる。
【0059】
<製造方法>
一般式(A2)を構成単位として含むノニオン性ポリマーは、種々の製造方法で得ることができる。例えば、一般式(A2)で示される骨格を有するモノマーまたは上記不飽和単量体を、溶剤中で重合し、溶剤を揮発させることで樹脂(A)を得ることができる。重合時の有機溶剤としては、コポリマーに対し溶解性の高いものが良く、好ましくはメチルエチルケトン、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールである。
【0060】
また、樹脂(A)の水溶液ないし水性分散液を得る場合は、上記不飽和単量体を水と共沸し得る有機溶剤中で重合し、その後、水に代表される水性液状媒体を添加しながら共沸可能な溶剤を留去し、樹脂(A)の水溶液ないし水性分散液を得ることもできる。
重合時の有機溶剤としては、水と共沸するものであれば良いが、コポリマーに対し溶解性の高いものが良く、好ましくはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールがあり、さらに好ましくは1−ブタノールがある。
【0061】
<樹脂の分子量>
樹脂(A)の分子量は、特に限定されないが、好ましくは1,000以上である。
【0062】
なお、ここでの分子量はTSKgel GMPWXLカラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定した値を意味する。より具体的には、Shodex GPC 101(昭和電工(株)製)にTSKgel GMPWXL(東ソー(株)製)を2本連結したものを用い、示差屈折計 RI−71S(昭和電工(株)製)を装着し、480IIデータステーション GPCプログラム(システムインスツルメンツ(株))を用いてデータを解析して得られる数平均分子量Mnを分子量とする。
【0063】
樹脂(A)の含有量は、樹脂(A)を含む組成物の粘度が好ましい塗工適性の範囲となること、また樹脂(A)の効果が顕著に出る含有量として、非白金系炭素系触媒3質量部に対して0.2〜3.0質量部であることが好ましく、0.5〜2.0質量部であることがより好ましい。
【0064】
本発明における樹脂(A)は、適度な親水性及び分子鎖長をもつことで、分散性に優れた触媒ペースト組成物及び触媒インキ組成物を提供することが出来るほか、上記触媒インキ組成物から形成されてなる燃料電池用触媒層のガス拡散性の向上により、優れた性能の燃料電池を提供することができる。
【0065】
<溶剤>
溶剤としては沸点が250℃以下のものが用いられ、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ターピネオールなどのアルコール系溶剤;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶剤;ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、N−メチルピロリドン、水等を用いることができるがこれに限らない。また、二種類以上の溶剤を混合して用いても良い。
【0066】
バインダーとしてプロトン伝導性ポリマーを使用する場合、主溶剤としては、水または水と親和性が高い溶剤が好ましく、特にアルコールが好適に使用できる。このようなアルコールとしては、例えば、沸点80〜200℃程度の1価のアルコールないし多価アルコールが利用でき、好ましくは炭素数が4以下のアルコール系溶剤が挙げられる。具体的には、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどが挙げられる。アルコールは、1種単独で又は2種以上混合して使用される。これらの1価のアルコールの中でも、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール及びt−ブタノールが好ましい。多価アルコールとしては具体的には、プロトン伝導性を有する樹脂との相溶性、及び触媒ペースト組成物とした場合の乾燥効率の問題から、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコールなどが好ましく、中でもプロピレングリコールが特に好ましい。
【0067】
<バインダー>
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、スチレン−ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良く、水溶性の樹脂であっても、水分散型の樹脂であっても良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。また溶剤の種類によって分散効果があるものを使用しても良い。
燃料電池用触媒層のバインダーとしては、膜中にプロトンを伝導する観点からプロトン伝導性を有するポリマーがより好ましい。プロトン伝導性ポリマーとしては、親水性官能基を有するバインダーを指し、プロトン伝導度として100%RH、25℃で10-3Scm-1以上を示すものが好ましい。
ここで、親水性官能基としては、スルホ基、カルボキシ基、りん酸基等の酸性官能基、水酸基、アミノ基等の塩基性官能基が挙げられるが、プロトン解離性の観点から、スルホ基、カルボキシ基、りん酸基、及び水酸基がより好ましい。
プロトン伝導性を示すポリマーとしては、スルホ基を導入した、オレフィン系樹脂(ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等)、ポリイミド系樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリベンズイミダゾール系樹脂、及びポリスチレン系樹脂、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体のスルホン酸ドープ品、パーフルオロスルホン酸系樹脂等のスルホン酸を有する樹脂;
ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸を有する樹脂;
ポリビニルアルコール等の水酸基を有する樹脂;
ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩、イミダゾール部分で酸と塩形成したポリベンズイミダゾール系樹脂等のアミノ基を有する樹脂;
ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール等の、その他の親水性官能基を有する樹脂が挙げられる。特に、パーフルオロスルホン酸系樹脂は、電気陰性度の高いフッ素原子を導入する事で化学的に非常に安定し、スルホ基の解離度が高く、高いプロトン導電性が実現できる。このようなプロトン伝導性ポリマーの具体例としては、デュポン社製の「Nafion」等が挙げられる。通常、プロトン伝導性ポリマーは、ポリマーを5〜30質量%程度含むアルコール水溶液として使用される。アルコールとしては、例えば、メタノール、プロパノール、エタノールジエチルエーテル等が使用される。
【0068】
<燃料電池用触媒ペースト組成物>
本発明の燃料電池用触媒ペースト組成物は、少なくとも非白金系炭素系触媒、樹脂(A)、及び、溶剤を含有するものであり、触媒ペースト組成物の流動性から、溶剤は燃料電池用触媒ペーストのうち50質量%を超える割合で含まれるのが好ましい。
【0069】
<燃料電池用触媒インキ組成物>
本発明の燃料電池用触媒インキ組成物は、少なくとも非白金系炭素系触媒、樹脂(A)、バインダー、及び、溶剤を含有するものであり、触媒インキ組成物の流動性から、溶剤は燃料電池用触媒インキの少なくとも50質量%を超える割合で含まれるのが好ましい
【0070】
<燃料電池用触媒層>
燃料電池用触媒層は、前述の燃料電池用触媒インキ組成物を導電性支持体(カーボンペーパなど)に直接塗布及び乾燥することにより形成されてもよく、また燃料電池用触媒インキ組成物をテフロン(登録商標)シート等の剥離可能な転写基材に塗布乾燥したものである。
【0071】
燃料電池用触媒インキ組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0072】
塗布した後、乾燥することにより、塗膜(燃料電池用触媒層)が形成される。乾燥温度は、通常40〜120℃程度、好ましくは75〜95℃程度である。また、乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは30分〜1時間程度である。塗布乾燥後の燃料電池用触媒層の厚みは、10μm以上あると発電性能が良い。
【0073】
上記の燃料電池用触媒層を固体高分子電解質膜に転写する場合の加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5〜30MPa程度、好ましくは1〜20MPa程度がよい。また、この加圧操作の際に、加圧面を加熱することがより好ましい。加熱温度は、固体高分子電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは120〜150℃程度がよい。
【0074】
<燃料電池用触媒>
本発明における、正極側の燃料電池用触媒層の触媒は、前述のとおり、非白金系炭素系触媒を使用する。一方で、負極側の燃料電池用触媒層に用いられる触媒としては、公知または市販のものを使用することができる。
【0075】
固体高分子形燃料電池用の触媒としては、触媒粒子が、触媒担持体上に担持してなるものが挙げられる。
触媒粒子としては、水素の酸化を促進するものであれば特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム又はこれらの合金が挙げられる。
触媒担持体としては、例えば、炭素粒子、酸化物粒子、窒化物粒子が挙げられる。
炭素粒子としては、上述の非白金炭素系触媒の主構成成分に使用される炭素材料の説明で例示したものと同様のものが挙げられる。
酸化物粒子としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ等が挙
げられる。
窒化物粒子としては、例えば、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化クロム、窒化バナジウム等が挙げられる。
【0076】
触媒粒子の触媒担持体上への担持率は特に限定されない。触媒粒子として白金、触媒担持体として炭素粒子を用いた場合は、触媒粒子100質量%に対して、通常1〜70質量%程度までの担持が可能である。
【0077】
市販の燃料電池用触媒としては、例えば、
TEC10E50E、TEC10E70TPM、TEC10V30E、TEC10V50E等の白金担持炭素粒子;
TEC66E50、TEC62E58等の白金−ルテニウム合金担持炭素粒子;
をいずれも田中貴金属工業社より購入することができるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
<燃料電池用電極膜接合体>
本発明における燃料電池用電極膜接合体とは、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の片面または両面に、燃料電池用触媒層が密着して形成され、さらに、その片面または両面に、カーボンペーパ等の導電性支持体が密着して具備したものを意味する。
【0079】
燃料電池用電極膜接合体の製造方法としては、固体高分子電解質膜の片面または両面に、転写基材上に予め形成された燃料電池用触媒層を転写後、導電性支持体を熱圧着することで燃料電池用電極膜接合体を作製する方法が挙げられる。また、固体高分子電解質膜の片面または両面に、導電性支持体上に予め形成された燃料電池用触媒層を、熱圧着することで燃料電池用電極膜接合体を作製してもよい。
【0080】
上述の燃料電池用電極膜接合体において、導電性支持体と燃料電池用触媒層及び固体高分子電解質膜間を熱圧着する場合の、加圧レベルは、通常0.1〜50MPa程度、好ましくは1〜30MPa程度がよい。また、加熱温度としては、固体高分子電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは120〜150℃程度がよい。
【0081】
<固体高分子電解質膜>
固体高分子電解質膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入する事で化学的に非常に安定し、スルホ基の解離度が高く、高いイオン導電性が実現できる。具体例としてはデュポン社製の「Nafion」、旭硝子社製の「Flemion」、旭化成社製の「Aciplex」、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」等が挙げられる。電解質膜の膜厚は、通常20〜250μm程度、好ましくは10〜80μm程度である。
【0082】
<導電性支持体>
導電性支持体は、負極又は正極を構成する各種の導電性支持体を使用できるが、固体高分子形燃料電池に代表される多くの燃料電池では、正極側では空気中の酸素を取り入れ、負極側では水素を取り込めるように気体が通過および拡散できるような多孔質または繊維状の支持体であることが好ましい。更に電子の出し入れが必要なため導電性を有する材料を用いらなければならない。好ましくは炭素素材からなるカーボンペーパや、カーボンフェルト、カーボンクロスなどがよい。具体例としては東レ社製の「TGP−H−090」等が挙げられる。これら導電性支持体は、燃料電池ではガス拡散層あるいはGDLとも呼ばれる。
【0083】
<燃料電池用触媒電極>
本発明における燃料電池用触媒電極は、前述の燃料電池用触媒層が導電性支持体上に形成されたものを意味し、前述の触媒インキ組成物を導電性支持体に直接塗布及び乾燥することにより形成されてもよく、固体高分子電解質膜上で燃料電池用触媒層と導電性支持体が密着され、燃料電池用電極膜接合体の一部として形成されてもよい。
【0084】
<転写基材>
転写基材は触媒インキ組成物を塗布することで燃料電池用触媒層を形成し、転写基材上にある燃料電池用触媒層をナフィオンなどの固体高分子電解質膜に転写するためのフィルム基材である。転写基材としては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。具体例としてはテフロン(登録商標)シート等が挙げられる。転写基材の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常6〜100μm程度、好ましくは10〜50μm程度、より好ましくは15〜30μm程度とするのがよい。
【0085】
<燃料電池>
燃料電池は使用する電解質により、いくつかのタイプに分類することができるが、本発明の燃料電池には、固体高分子形燃料電池が好ましい。
【0086】
<固体高分子形燃料電池>
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質4を挟むように、対向配置されたセパレータ1、ガス拡散層2、負極触媒層(燃料極)3、正極触媒層(空気極)5、ガス拡散層6、及びセパレータ7とから構成される。
上記セパレータ1、7は、燃料ガス(水素)や酸化剤ガス(酸素)等の反応ガスの供給、排出を行う。そして、負極及び正極触媒層3、5に、ガス拡散層2、6を通じてそれぞれ均一に反応ガスが供給されると、両電極に備えられた触媒と固体高分子電解質4との境界において、気相(反応ガス)、液相(固体高分子電解質膜)、固相(両電極が持つ触媒)の三相界面が形成される。そして、電気化学反応を生じさせることで直流電流が発生する。
【0087】
上記電気化学反応において、
正極側:O2+4H++4e-→2H2
負極側:H2→2H++2e-
の反応が起こり、負極側で生成されたH+イオン(プロトン)は固体高分子電解質4中を正極側に向かって移動し、e-(電子)は外部の負荷を通って正極側に移動する。
【0088】
一方、正極側では酸化剤ガス中に含まれる酸素と、負極側から移動してきたH+イオン及びe−とが反応して水が生成される。この結果、上述の燃料電池は、水素と酸素とから直流電力を発生し、水を生成することになる。
【0089】
負極の燃料源として、水素ガスを使用せず、メタノールやエタノール等の液体燃料を使用する場合がある。この際、メタノールやエタノール等の液体燃料が負極触媒層により酸化され、e-(電子)およびH+イオン(プロトン)が発生し、正極側では上述の水素ガスを使用した燃料電池と同様の反応が生起することで発電することができる。
【0090】
<燃料電池のセル電圧低下>
理論起電力からのセル電圧低下を分極といい、その大きさを過電圧という。過電圧は3種類あり、活性化過電圧、抵抗過電圧、濃度過電圧がある。活性化過電圧は反応を進行させるために消費される活性化エネルギーの損失分の電圧降下である 。抵抗過電圧は構成部材の接触抵抗と電池内部のセパレータ、電極、電解質などを電子やイオンが移動する際に発生する電圧降下である。濃度過電圧は電気化学反応に伴い生じる生成水による触媒層細孔の閉塞(フラッディング)や、反応ガスの濃度低下により、反応部位である触媒表面に反応ガスが到達しにくくなるために生じる電圧降下である。
【0091】
<過電圧の分離>
抵抗過電圧は電流遮断法、交流インピーダンス法などにより計測できる。これを補正した出力電力をIR−freeとして報告することが多い。負極側の反応は正極側に比べて非常に速く、IR−freeでのI−V特性は正極側の特性と見なす事が出来る。IR−freeのセル電圧を縦軸、電流密度を対数で表示したものを横軸にしたものがターフェルプロットである。IR−freeのセル電圧は低電流密度領域ではほぼ直線的に低下し、高電流密度領域では徐々にこの直線からずれていく。この直線の傾きをターフェル勾配という。活性化過電圧はIR−freeのセル電圧900mVを基準とし、試験時の対数で表示した電流密度と直線的に低下するセル電圧特性との交点Aにおけるセル電圧差である((1)式)。
【0092】
【数1】
(1)
式中、ηa:活性化過電圧、b:ターフェル勾配、i:試験時の電流密度、i0.9:IR−freeのセル電圧900mV時の電流密度である。
濃度過電圧は(2)式によって算出され、この濃度過電圧が低いときガス拡散性が優れているといえる。
【0093】
【数2】
(2)
式中、ηd:濃度過電圧、V:IR−freeのセル電圧である。
【0094】
以下に、燃料電池の性能を評価する方法の一例を示す。燃料電池用電極膜接合体を5cm角の試料とし、その両側からガス漏えい防止のため、ガスケットを2枚、次いでセパレータとしてグラファイトプレート2枚ではさみ、更に両側から集電板を2枚装着して単セルとして作製する。正極(空気極)側から加湿した酸素ガスを供給し、負極(燃料極)側から加湿した水素ガスを供給して電池特性を測定する。
【0095】
なお、本発明における触媒ペースト組成物、触媒インキ組成物、触媒層、触媒電極の用途は、上述の燃料電池に限定するものではなく、排ガス浄化、水処理浄化等にも用いることが可能である。
【実施例】
【0096】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、特に断りの無い限り、「部」とは「質量部」、「%」とは「質量%」を意味する。
【0097】
(合成例1)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、n−ブタノール100.0部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ブレンマーAE−200(日油社製)80.0部、4−ヒドロキシブチルアクリレート20.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)2.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.1部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けた。得られた溶液を60℃真空で24h乾燥させ、樹脂(a2−01)を得た。
【0098】
(合成例2〜7)
表1に示すモノマー組成に変更した以外は、合成例1と同様の方法で合成を行い、合成例2〜7の樹脂を得た。
【0099】
【表1】
【0100】
4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
St:スチレン
AA:アクリル酸
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
36:イソプロピレン基
【0101】
<非白金系炭素系触媒の合成>
【0102】
[製造例1:非白金系炭素系触媒(X1)]
グラフェンナノプレートレット(XGscience社製、xGnP−C−750)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、非白金炭素系触媒(X1)を得た。
【0103】
[製造例2:非白金系炭素系触媒(X2)]
グラフェンナノプレートレット(XGscience社製、xGnP−C−750)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、600℃で2時間熱処理を行い、非白金系炭素系触媒(X2)を得た。
【0104】
[製造例3:非白金系炭素系触媒(X3)]
鉄フタロシアニン(山陽色素社製)とケッチェンブラック(ライオン社製、EC−600JD)を、質量比1/1で秤量し、乳鉢にて乾式混合を行い前駆体とした。上記前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し非白金系炭素系触媒(X3)を得た。
【0105】
[製造例4:非白金系炭素系触媒(X4)]
フェノール樹脂(群栄化学社製、PSM−4326)と鉄フタロシアニン(山陽色素社製)を質量比3.3/1で秤量し、アセトン中で湿式混合した。上記混合物を減圧留去した後、乳鉢で粉砕し、前駆体とした。上記前駆体粉末をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、600℃で2時間熱処理を行い、炭素焼結体(1)を得た。上記炭素焼結体(1)を濃塩酸中でリスラリーし、静置させ、炭素燒結体沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄みの着色がなくなるまで、繰り返し行い、ろ過、水洗、乾燥した後、乳鉢で粉砕し、アルミナ製るつぼに充填、電気炉にてアンモニア雰囲気下、800℃で1時間熱処理し、炭素焼結体(2)を得た。上記炭素焼結体(2)を濃塩酸中でリスラリーし、静置させ、炭素焼結体沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄みの着色がなくなるまで、繰り返し行った後、ろ過、水洗、乾燥し、乳鉢で粉砕し、非白金系炭素系触媒(X4)を得た。
【0106】
[製造例5:非白金系炭素系触媒(X5)]
ポリビニルピリジン(PVP、アルドリッチ社製)をジメチルホルムアミドに溶解させ、PVPに対して質量比2/1の塩化鉄六水和物を加え、室温で24時間攪拌し、ポリビニルピリジン鉄錯体を得た。上記ポリビニルピリジンとケッチェンブラック(ライオン社製、EC−600JD)を、質量比1/1で秤量し、乳鉢にて乾式混合を行い前駆体とした。上記前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し非白金系炭素系触媒(X5)を得た。
【0107】
<触媒ペースト組成物の調製>
[実施例1]
非白金系炭素系触媒(X1)を4.8部、溶剤として水13.3部、1−プロパノールを12.3部、樹脂(A)としてポリエチレンオキサイド(R=C24、R2=H、m=2272)を1.6部(非白金系炭素系触媒を3.0部に対して樹脂固形分で1.0部)を配合し、ディスパー(プライミクス社製、T.Kホモディスパー)にて攪拌混合し、本発明の触媒ペースト組成物(A1−01)を調製した。
【0108】
[実施例2〜10、比較例1、2]
非白金系炭素系触媒の種類、樹脂(A)の種類と添加量、を、表2の様に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒ペースト組成物(A1−02〜A1−10、R1−01、R1−02)を調製した。
【0109】
[比較例3]
非白金系炭素系触媒(X1)を4.8部、溶剤として水13.3部、1−プロパノールを12.3部を配合し、ディスパー(プライミクス社製、T.Kホモディスパー)にて攪拌混合し、触媒ペースト組成物(R3−01)を調製した。
【0110】
[比較例4〜7]
非白金系炭素系触媒の種類を、表2の様に変更した以外は、比較例3と同様にして触媒ペースト組成物(R3−02〜R3−05)を調製した。
【0111】
【表2】
【0112】
36:イソプロピレン基
49:ブチル基
1225:ラウリル基
【0113】
[実施例11]
非白金系炭素系触媒(X1)を4.8部、溶剤として水13.3部、1−プロパノールを12.3部、樹脂(A)として樹脂(a2−01)を0.8部(非白金系炭素系触媒3.0部に対して樹脂固形分で0.5部)を配合し、ディスパー(プライミクス社製、T.Kホモディスパー)にて攪拌混合し、本発明の触媒ペースト組成物(A2−01)を調製した。
【0114】
[実施例12〜15、比較例8、9]
樹脂(A)の種類と添加量を、表3の様に変更した以外は、実施例11と同様にして触媒ペースト組成物(A2−02〜A2−05、R2−01、R2−02)を調製した。
【0115】
【表3】
【0116】
<触媒ペースト組成物の評価>
触媒ペースト組成物は、非白金系炭素系触媒の沈降速度によって保存安定性を評価した。
沈降速度の評価は、触媒ペースト組成物100gを25℃で静置し、静置後のペースト組成物下部に沈降物があるかを確認した。
表4に触媒ペースト組成物の保存安定性評価の結果を示す。
【0117】
【表4】
【0118】
保存安定性の評価基準を以下に示す。
◎:20日で沈降物なし。特に優れている。
○:20日で沈降物が発生。優れている。
△:10日で沈降物が発生。使用可能なレベル。
×:5日で沈降物が発生。実用上問題があり、使用不可能。
【0119】
<触媒インキ組成物の調製>
[実施例16]
触媒ペースト組成物(A1−01)20.0部(うち、非白金系炭素系触媒が3.0部、樹脂(A)が1.0部)に、バインダーを含む分散液として20%ナフィオン(Nafion(登録商標))分散液(デュポン社製、CStypeDE2020)5.0部(うち、バインダーが1.0部)を添加し、ディスパー(プライミクス社製、T.Kホモディスパー)にて攪拌混合することで触媒インキ組成物(A1−21)(固形分濃度20%、触媒インキ組成物100%としたときの非白金系炭素系触媒と樹脂(A)とバインダーを合計した割合)を調製した。
【0120】
[実施例17〜30]
実施例16と同様にして、表5に示す組成で触媒インキ組成物(A1−22)〜(A1−30)、(A2−21)〜(A2−25)、(R1−21)、(R1−22)、(R2−21)、(R2−22)、(R3−21)〜(R3−25)を調製した。
【0121】
<触媒インキ組成物の評価>
触媒インキ組成物は、下記に示す保存安定性評価によって評価した。
【0122】
(保存安定性評価)
触媒インキ組成物の保存安定性は、非白金系炭素系触媒の沈降速度によって保存安定性を評価した。
沈降速度の評価は、触媒インキ組成物100gを40℃で静置し、静置後のインキ組成物下部に沈降物があるかを確認した。表5に触媒インキ組成物の保存安定性評価の結果を示す。
【0123】
【表5】
【0124】
保存安定性の評価基準を以下に示す。
◎:20日で沈降物なし。特に優れている。
○:20日で沈降物が発生。優れている。
△○:15日で沈降物が発生。好ましく使用可能なレベル。
△:10日で沈降物が発生。安定性に問題があり、使用不可。
×:5日で沈降物が発生。実用が困難であり、使用不可。
【0125】
<正極用燃料電池用触媒層の作製>
[実施例31]
燃料電池用触媒インキ組成物(A1−21)を、ドクターブレードにより、乾燥後の非白金系炭素系触媒の目付け量が2mg/cm2になるようにテフロン(登録商標)フィルム上に塗布し、大気雰囲気下、95℃で60分間乾燥することにより、本発明の正極用燃料電池用触媒層(A1−41)を作製した。
【0126】
[実施例32〜実施例45、比較例19〜比較例27]
燃料電池用触媒インキ組成物(A1−21)の代わりに、燃料電池用触媒インキ組成物(A1−22)〜(A1−30)、(A2−21)〜(A2−25)、(R1−21)、(R1−22)、(R2−21)、(R2−22)、(R3−21)〜(R3−25)
に変更した以外は、実施例31と同様にして、それぞれ、表6に示す正極用燃料電池用触媒層(A1−42)〜(A1−50)、(A2−41)〜(A2−45)、(R1−41)、(R1−42)、(R2−41)、(R2−42)、(R3−41)〜(R3−45)を作製した。
【0127】
<負極用燃料電池用触媒層の作製>
ここでは、燃料電池用電極膜接合体の作製に使用する負極用燃料電池用触媒層の作製方法について以下に述べる。
白金触媒担持カーボン4質量%(田中貴金属社製、白金量46%)、溶剤として1―プロパノール56質量%、および水20質量%をディスパー(プライミクス、TKホモディスパー)にて撹拌混合することで触媒ペースト組成物(固形分濃度4%)を調製した。次いで、20質量%ナフィオン(Nafion(登録商標))分散液(デュポン社製、CStypeDE2020)20質量%を添加し、ディスパー(プライミクス製、T.Kホモディスパー)にて撹拌混合することで触媒インキ(固形分濃度8%)を作製した。得られた触媒インキを白金触媒担持カーボンの目付け量が0.46mg/cm2になるようにテフロン(登録商標)フィルム上に塗布し、大気雰囲気中70℃の条件で15分間乾燥することにより、負極用燃料電池用触媒層を作製した。
【0128】
<燃料電池用電極膜接合体の作製>
[実施例31]
実施例31で作製した正極用燃料電池用触媒層(A1−41)と、上記で作製した負極用燃料電池用触媒層とを、それぞれ固体高分子電解質膜(Nafion212、デュポン社製、膜厚50μm)の両面に密着して、150℃、5MPaの条件で狭持した後、テフロン(登録商標)フィルムを剥離した。次いで、更に両側から燃料電池用電極(東レ社製カーボンペーパ基材TGP−H−090)を密着させ、本発明の燃料電池用電極膜接合体(電極/触媒層/固体高分子電解質膜/触媒層/電極)(A1−61)を作製した。
【0129】
得られた燃料電池用電極膜接合体(A1−61)を2.5cm角の試料とし、その両側からガスケット2枚、次いでグラファイトプレートであるセパレータ2枚ではさみ、更に両側から集電板を2枚装着して燃料電池(単セル)として作製した。
【0130】
[実施例32〜実施例45、比較例19〜比較例27]
燃料電池用電極膜接合体(A1−61)と同様に、正極用燃料電池用触媒層(A1−41)の代わりに、正極用燃料電池用触媒層(A1−42)〜(A1−50)、(A2−41)〜(A2−45)、(R1−41)、(R1−42)、(R2−41)、(R2−42)、(R3−41)〜(R3−45)に変更した以外は、実施例31と同様にして、それぞれ、本発明の燃料電池用電極膜接合体(A1−62)〜(A1−70)、(A2−61)〜(A2−65)、(R1−61)、(R1−62)、(R2−61)、(R2−62)、(R3−61)〜(R3−65)、燃料電池(単セル)を作製した。
【0131】
<燃料電池用触媒層の評価>
正極用燃料電池用触媒層(A1−41)〜(A1−50)、(A2−41)〜(A2−45)、(R1−41)、(R1−42)、(R2−41)、(R2−42)、(R3−41)〜(R3−45)から得られた燃料電池用電極膜接合体(A1−61)〜(A1−70)、(A2−61)〜(A2−65)、(R1−61)、(R1−62)、(R2−61)、(R2−62)、(R3−61)〜(R3−65)を用いて作製した燃料電池の発電試験を行うことにより、正極用燃料電池用触媒層を評価した。
測定はAutoPEMシリーズ「PEFC評価システム」東陽テクニカ社製で実施した。燃料電池運転条件として、温度80℃、相対湿度100%の条件下で、負極側に水素を300ml/minで流し、正極側に酸素を300ml/minで流して発電試験を実施した。結果を表6に示す。
【0132】
【表6】
【0133】
<燃料電池用触媒電極の作製>
以下では、導電性支持体に本発明の燃料電池触媒ペースト組成物を直接塗工して燃料電池用触媒電極を作製する方法について例示する。
【0134】
[実施例46]
燃料電池用触媒ペースト組成物(A1−01)を、ドクターブレードにより、乾燥後の非白金系炭素系触媒の目付け量が2mg/cm2になるように導電性支持体として炭素繊維からなるカーボンペーパ基材(TGP−H−090、東レ社製)上に塗布し、大気雰囲気中95℃、60分間乾燥して、正極用燃料電池用触媒電極(A1−81)を作製した。
【0135】
<燃料電池(単セル)の作製>
正極用燃料電池用触媒電極(A1−81)(カーボンペーパ上に燃料電池用触媒ペースト組成物が固着)と負極用燃料電池用触媒層とを、それぞれ固体高分子電解質膜(Nafion212、デュポン社製、膜厚50μm)の両面に密着して、150℃、5MPaの条件で狭持した後、テフロン(登録商標)フィルムを剥離した。次いで、更に負極側から燃料電池用電極(東レ社製カーボンペーパ基材TGP−H−090)を密着させ、本発明の燃料電池用電極膜接合体(電極/触媒層/固体高分子電解質膜/触媒層/電極)(A1−91)を作製した。
【0136】
[比較例28]
燃料電池用触媒ペースト組成物として燃料電池用触媒ペースト組成物(R1−01)を用いた以外は実施例46と同様にして、正極用燃料電池用触媒電極(R1−81)、燃料電池用電極膜接合体(R1−91)を作製した。
【0137】
<燃料電池(単セル)発電試験>
実施例31と同様の方法にて発電特性を測定したところ、実施例46では、最大出力密度0.40W/cm2、開放電圧0.81V、1A/cm2での濃度過電圧0.06Vであったのに対し、比較例28では最大出力密度0.25W/cm2、開放電圧0.76V、1A/cm2での濃度過電圧0.25Vであった。
【0138】
本発明の燃料電池用触媒ペースト組成物を用いて作製される燃料電池用触媒層及び触媒電極は、適度な親水性・分子鎖長をもつ樹脂(A)の存在によりガス拡散性が向上し、最大出力密度が向上しているものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0139】
図1図1は、燃料電池の構造の模式図である。
【符号の説明】
【0140】
1 セパレータ
2 ガス拡散層
3 負極触媒層(燃料極)
4 固体高分子電解質
5 正極触媒層(空気極)
6 ガス拡散層
7 セパレータ
図1