(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の鋼板の製造方法であって、溶湯を保持する耐火物部材にMgを含まない耐火物を用い、1570℃〜1630℃の温度でMgを含有する合金を投入し、さらに、溶鋼へのMg投入開始から鋳造開始までの時間を10s〜300sとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においては、低燃費化や衝突安全性向上を目的に、車体や部品等に高強度薄鋼板を使用するニーズが高まっている。高強度鋼板を用いた車体の組立や部品の取付等の工程では、スポット溶接を代表とする抵抗溶接が主に使われているため、鋼板には優れた溶接性が求められる。ここで、自動車用の薄鋼板に求められる抵抗溶接性とは、溶接欠陥がなく、溶接後の継手において所定の引張強度が得られることを示す。
【0003】
抵抗溶接継手の引張強さには、JIS Z 3136、JIS Z 3137に示されるように、せん断方向に引張荷重を負荷して測定する引張せん断強さ(TSS)と、剥離方向に引張荷重を負荷して測定する十字引張強さ(CTS)がある。TSSは鋼板の強度増加に従って、増加することが知られている。一方で、CTSは、鋼板の引張強度が一定レベルまでは、鋼板の引張強度増加に従って増加するが、鋼板の引張強度が一定レベルを超えると、鋼板の引張強度増加に伴いほとんど変化しないか、逆に低下する傾向があることが知られている。CTSが鋼板の引張強度に伴い増加しない原因としては、引張試験時に低い応力においてナゲット内で剥離破断(ナゲット内での破断)するためであると考えられている。ここで、ナゲットとは
図1に示すように、抵抗溶接により一旦溶融状態となり、凝固した部分を指す。
【0004】
十字引張試験においてナゲット内での剥離破断のしやすさは、鋼板の成分から求められる炭素当量Ceqと関係があり、破断させないためには特定範囲以下にCeqを抑えることが非特許文献1に示されている。従って、一般的にはこの知見に基づいて、Ceqを極力増加させないように、含有する元素を調整する方法が用いられている。
【0005】
特許文献1、2には、Cを0.1%未満にすることにより、スポット溶接性を向上させる高降伏比高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
特許文献3には、Ceqを0.25以下とすることによりスポット溶接性を確保する成形加工性と溶接性に優れる高張力冷延鋼板が開示されている。
特許文献4には、Cを0.1%未満にすることにより、スポット溶接性を向上させる高強度冷延鋼板が開示されている。
特許文献5には、Cを0.1%未満にすることによりTSSとCTSの比である延性比0.5以上とした溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板が開示されている。
特許文献6には、Cを0.25%以下とすることで、伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板が開示されている。
特許文献7には、ナゲット内の炭化物およびデンドライト間隔を適正範囲内にしてナゲット内破壊を抑制することで継手強度を向上させる技術が開示されている。
特許文献8には、母材の炭素量および他の成分を適正化すると共に、素材鋼板表層の平均酸素濃度を適正範囲内にすることで、溶接部強度に優れるスポット溶接継手を提供する方法が提案されている。
特許文献9には、ナゲット内の金属組織と介在物分布と硬さを最適化することで、ナゲット内の脆性破壊を抑制し、高強度の抵抗溶接継手を得る技術が開示されている。しかしながら、高強度の抵抗溶接継手の製造に適した鋼材の特徴が明らかではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
CTS/TSSの向上には、CTS自体の向上が必要である。そこで、本発明者は、まず始めに、引張強度が590MPa以上の鋼板を用い、CTSが低い抵抗溶接継手のナゲットの破断面を詳細に観察し、その結果、ナゲット内で脆性破壊が起こる場合にCTSが低下することを知見した。次いで、ナゲット内の脆性破壊の原因について調査を行った。その結果、
図2の矢印で示したように、断面には介在物が存在しており、この介在物が、脆性破壊の起点となっていることを知見した。そして、この介在物は、Si、Mn、Al、Mg等を含有する酸化物系介在物であることを明らかにした。また、この介在物は大きいほど、またその量が多いほど脆性破壊が起こりやすい傾向が観られた。さらに、十字引張試験後のナゲットの破面が延性破面の場合でも、CTSが低くなる場合があることを知見した。この場合には、延性破面内に多数の酸化物系介在物が観察された。そのため、ナゲットの破壊が、脆性破壊でも、延性破壊でも、いずれにしても介在物が原因であることが予測された。
【0013】
そこで発明者は、ナゲット内に分散していた酸化物系介在物の起源の調査を行った。その結果、ナゲット内の酸化物は2種類の異なる起源があることを知見した。すなわち、一つ目は抵抗溶接により溶融した部分が板間の隙間を通じて外気と接触することにより酸化物が形成し、その酸化物がナゲット内に取り込まれた場合であり、二つ目は継ぎ手を構成する素材鋼板中に元々含まれていた介在物が、溶融状態下でも分解せずに残存し、そのままナゲット内に取り込まれた場合であった。
【0014】
次いで、発明者は、種々の組成を有する鋼板の抵抗溶接を行い、溶融部が外気と接触する際に形成される酸化物のサイズや量を調査した。その結果、理由は定かではないが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Sc、Yのうち1種または2種以上を含有した鋼板の場合に、溶融部と外気と接触した部分において酸化物が形成されにくくなることを知見した。
【0015】
さらに、発明者は、種々の種類と大きさの酸化物系介在物を含有する鋼板の抵抗溶接を行い、素材鋼板中の酸化物系介在物の種類やサイズと、溶接後にナゲット内に残存する酸化物系介在物の種類とサイズの関係について調査を行った。その結果、Mgを含有しない酸化物系介在物については、溶接中に固溶する傾向がある一方で、鋼板中に含有しているMgを含有する酸化物系介在物は、酸化物のサイズが小さくても溶接中に固溶せずに、溶接後のナゲット内にそのまま残存する傾向があることを知見した。すなわち、溶接後のナゲット内における粗大な酸化物の分布を少なくするためには、Mgを含有する酸化物系介在物の素材鋼板中での分布を適正化する必要があることを見出した。
【0016】
以上の知見を元に、発明者は、種々の鋼板成分、および種々の大きさのMgを含む酸化物系介在物を含有し、種々の金属組織と粒径を有する鋼板の溶接継手を作製して十字継手引張試験を行い、高い継手強度を得ることが可能な高強度薄鋼板、すなわち抵抗溶接性に優れた高強度薄鋼板を完成させた。
具体的に各特定事項の詳細について説明する。元素に関する%はすべて質量%である。
<鋼板
の組成>
【0017】
「C」:0.04〜0.30%
Cは素材鋼板の組織制御と鋼板の強化のために用いられる。鋼板の引張強度を一定レベル以上にするため、C含有量は0.04%以上とする。一方、鋼板内の他の成分や介在物分布の制御により良好な十字継手引張強度を確保するため、C含有量は0.30%以下とする。C含有量のより好ましい範囲は、0.04%以上0.26%以下である。
【0018】
「Si」:3.0%以下
Siは必須元素でなく、例えば溶鋼の脱酸のために用いられ、不純物として含有される場合がある。CTSや疲労強度を確保するため、Si含有量は3.0%以下にする。鋼板中に存在するSi系の酸化物は、抵抗溶接中に溶解し、また固溶状態のSiは抵抗溶接中にナゲット内において外気と酸化反応し、Siを含有する酸化物を形成する。他の元素を調整してもナゲット内の外周部での多量の酸化物形成を抑制できず、その結果、CTSや疲労強度が低下しやすくなるためである。下限は特に限定しないが、Si含有量を必要以上に減らすと製造コストが高くなるため、Si含有量の好ましい範囲は0.003%以上である。また、金属組織および結晶粒径を制御し、強度を向上させるため、Si含有量のより好ましい範囲は0.5%以上であり、Si含有量のさらに好ましい範囲は1.0%以上である。これらを整理すると好ましい範囲は、0.03%以上3.0%以下、0.5%以上3.0%以下、または、1.0%以上3.0%以下となる。
【0019】
「Al」:0.1%以下
Alは必須元素でなく、例えば溶鋼の脱酸のために用いられ、不純物として含有される場合がある。CTSを確保するため、Al含有量を0.1%以下にする。Alを含有する酸化物の増加によってCTSが低下する場合があるためである。下限は特に限定しないが、Al含有量を必要以上に減らすと製造コストが高くなるため、Al含有量の好ましい範囲は0.003%以上0.1%以下である。
【0020】
「Mn」:0.8〜7.0%
Mnは主に素材鋼板の金属組織および結晶粒径の制御に用いられる。鋼板の引張強度を590MPa以上にするため、Mn含有量は0.8%以上にする。また、より強度を向上させるため、Mn含有量の好ましい範囲は1.0%以上であり、さらに好ましい範囲は3.0%以上である。一方、CTSや疲労強度を確保するため、Mn含有量を7.0%以下にする。Mnが抵抗溶接中にナゲット内で外気と反応し、ナゲットの外周部に多量の酸化物が形成され、その結果、CTSや疲労強度が低下する場合があるためである。Mn含有量のより好ましい範囲は5.0%以下である。これらを整理すると好ましい範囲は、1.0%以上8.0%以下、3.0%以上8.0%以下、0.8%以上5.0%以下、1.0%以上5.0%以下、または、3.0%以上5.0%以下となる。
【0021】
「Ni」:0.01〜1.5%
Niは本発明において重要な元素であり、ナゲットの脆性破壊を抑制する効果を有する。この効果により、ナゲット内に数μm以下の微細介在物が存在した場合でも、CTS/TSSの向上が期待できる。その効果を発現させるため、Ni含有量は0.01%以上とする。CTS/TSSをより高水準にするため、Ni含有量の好ましい範囲は0.02%以上であり、さらに好ましい範囲は0.2%以上である。一方、CTSの低下を抑制するため、Ni含有量を1.5%以下とし、Ni含有量の好ましい範囲は1.0%以下である。これらを整理すると好ましい範囲は、0.02%以上1.5%以下、0.2%以上1.5%以下、0.01%以上1.0%以下、0.02%以上1.0%以下または、0.2%以上1.0%以下となる。
【0022】
「P」:0.03%以下
Pは、必須元素ではなく、鋼中に不純物として含有される場合がある。CTS/TSSを確保するため、P含有量を0.03%以下にする。ナゲットの脆性破壊の傾向を強め、ナゲット内破壊を抑止できない場合があるためである。P含有量のより好ましい範囲は0.02%以下である。下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、P含有量の好ましい範囲は0.003%以上である。これらを整理すると好ましい範囲は、0.02%以下、0.003%以上0.03%以下、または、0.003%以上0.02%以下となる。
【0023】
「S」:0.005%以下
Sは、必須元素ではなく、鋼中に不純物として含有される場合がある。CTS/TSSを確保するため、S含有量を0.005%以下にする。Sがナゲット内で固溶状態あるいは硫化物として存在することにより、ナゲットの脆性破壊傾向を強め、ナゲット内破壊を抑制できない場合があるためである。S含有量の好ましい範囲は0.003%以下である。下限は特に限定しないが、含有量を必要以上に減らすと製造コストが高くなるので、S含有量の好ましい範囲は0.0001%以上である。これらを整理すると好ましい範囲は、0.003%以下、0.0001%以上0.005%以下、または、0.0001%以上0.003%以下となる。
【0024】
「Mg」:0.0001〜0.0015%
Mgは鋼板中の酸化物系介在物の微細化に寄与し、本発明において重要な元素である。酸化物系介在物を微細化させるためには、Mg含有量を0.0001%以上とする。一方、CTSや疲労強度を確保するため、Mg含有量の範囲を0.0015%以下にする。鋼板中において、Mgを含有する多量の粗大酸化物系介在物が形成し、その結果、溶接後のナゲット内に多量の酸化物が残存し、CTSが低下する場合があるためである。Mg含有量の好ましい範囲は0.0010%以下である。
【0025】
「O」:0.004%以下
Oは、必須元素でなく、不純物として含有される場合がある。CTSを確保するため、O含有量を0.004%以下にする。Oは主に酸化物系介在物として素材鋼板中に存在し、素材鋼板中の粗大な酸化物系介在物は溶接後にナゲット中に残留して、CTSの低下を引き起こす場合があるためである。また、O含有量が0.004%を超えると、疲労強度も低下する場合があるためである。O含有量の好ましい範囲は0.003%以下である。O含有量は少ないほど好ましいが、O含有量を必要以上に減らすと製造コストが高くなるので、O含有量の好ましい範囲は0.0003%以上である。これらを整理すると好ましい範囲は、0.003%以下、0.0003%以上0.004%以下、または、0.0003%以上0.003%以下となる。
【0026】
「Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Sc、Yの1種または2種以上」:合計で0.01〜0.2%
Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Sc、Yは素材鋼板の粒径制御、および溶接後のナゲット内の酸化物系介在物の制御のために用いられ、本発明において重要な元素である。CTS/TSSを確保するため、これらの元素の含有量を0.01%以上にする。これら元素を含有すると溶接後のナゲット内の結晶粒径も細粒化し、あるいは溶接中における酸化物系介在物の発生を抑制するため、ナゲット内での脆性破壊を抑制し、CTSが向上、ひいてはCTS/TSSを向上させる効果があるためである。一方、0.2%を超えると、溶接後のナゲット内の酸化物系介在物の密度が増加し、CTS/TSSが低下する場合があるため、これらの元素の含有量を0.2%以下にする。
【0027】
「Cr、Mo、W、Cuの1種または2種以上」:合計で0〜1.0%以下
Cr、Mo、W、Cuの1種または2種以上は、素材鋼板の強度調整等のため、含有させてもよい。ただし、CTSを確保するため、これらの元素の含有量の合計量を1.0%以下にする。ナゲット内の介在物量が増加し、CTSが低下する場合があるためである。Cr、Mo、W若しくはCuまたはこれらの任意の組合せの含有量は、例えば、0.003%以上である。また、Cr、MoおよびWは炭窒化物を形成する元素であり、溶接後のナゲット内やHAZの結晶粒微細化への効果があるため、Cr、Mo若しくはWまたはこれらの任意の組合せの含有量の合計量の好ましい範囲は0.1%以上である。
【0028】
「Ca、REMのうち、1種または2種以上」:合計で0〜0.005%以下
素材鋼板の脱酸のためとナゲット内の介在物制御のために、Ca若しくはREM(Rare Earth Metal)またはこれらの組合せを含有させてもよい。ただし、CTSを確保するため、これらの元素の含有量の合計量を0.005%以下にする。ナゲット内の粗大な介在物量が増加し、CTSが低下する場合があるためである。下限は特に限定しないが、素材鋼板にCa若しくはREMまたはこれらの組合せの含有によって、ナゲット内で形成される介在物が微細化され、CTSをより増加させるため、これらの元素の含有量の合計量の好ましい範囲は0.0002%以上である。
【0029】
REMは、ランタノイドの合計15種の元素を指し、REMの含有量はこれら15種類の元素の合計の含有量を意味する。ランタノイドは、工業的には、例えばミッシュメタルとして添加される。
【0030】
「B」:0〜0.005%以下
素材鋼板の組織制御のため、Bを含有させてもよい。CTSを確保するため、Bの含有量を0.005%以下にする。Bを含有する粗大介在物が形成され、CTSが低下する場合があるためである。B含有量の好ましい範囲は0.002%以下である。B含有量は、例えば、0.001%以上である。これらを整理すると好ましい範囲は、0.002%以下、0.001%以上0.005%以下、または、0.001%以上0.002%以下となる。
【0031】
なお、本実施形態における鋼成分においては、上記した元素以外の残部はFeおよび不純物である。不純物として含まれるその他の元素の種類については特に限定はない
。本発明の作用効果を害さない範囲で、通常の製造工程で混入する程度の量、各種元素を適宜含有しても良い。不純物元素としては、例えば、N,Sb、Sn、Co、As、Pb及びBiを挙げることができる。N、Sb、Sn、Co、As、Pb、Biはそれぞれ0.003%以下の混入が許容され、好ましくはそれぞれ0.001%未満の混入が許容さ
れる。
【0032】
また、用いる素材鋼板は表面にめっきが施されていても構わない。めっきの種類やめっきの厚さは特に限定することなく、本発明に示す効果を得ることができる。
【0033】
「Mgを含有する粒子径3μm以上の酸化物系介在物の平均分布密度」:10個/mm
2以下
素材鋼板中に含まれるMgを含有する酸化物系介在物は、抵抗溶接後に残留し、CTSに影響を及ぼす。3μm未満のMgを含有する介在物は抵抗溶接後にナゲット内に残留しても、破壊の起点になる確率が低い。3μm以上の酸化物系介在物が10個/mm
2を超えると、CTSが低下する場合があることから、その量を10個/mm
2以下に制限した。より望ましい上限は、5個/mm
2以下であることが望ましい。下限は特に限定せず低いほど望ましい。Mgを含有する酸化物系介在物の平均分布密度は、鋼板表面に垂直な軸と圧延方向軸を面内に含む面(TD面)を鏡面研磨し、この断面の表面または裏面から1/8〜3/8の範囲内について、エネルギー分散型X線検出器(EDS)を有するFE−SEMを用いて合計で2mm
2以上の面積を観察し、その観察視野内の個数を観察面積で除算した値とする。加速電圧を10〜20kVで測定するものとし、観察倍率は、1μm以上の介在物を測定できる倍率であればよく、500倍以上であることが好ましい。ここで、酸化物の粒径は、円相当径を採用するものとする。なお、Mgを含有する酸化物系介在物とは、各粒子のうち、質量%でMgを2%以上含み、かつ、Oを20%以上含む介在物であり、Sを含有する酸硫化物も含む。また、Mgを含有する酸化物系介在物には、Mg酸化物の他に、酸化物中にMg以外のTi、Al、CaやREMを含む酸化物および酸硫化物であっても構わない。また、Mgを含有する酸化物系介在物と他の酸化物や窒化物や硫化物と複合で存在する介在物については、Mgを含有する酸化物系介在物の大きさを測定するものとする。
【0034】
「CTS(kN)/TSS(kN)(せん断引張強度(TSS)に対する十字引張強度(CTS)の比率)」:鋼板の引張強度をTS(MPa)とした時に、4×10
−7×[TS]
2−1.3×10
−3×TS]+1.23以上
CTS/TSSは延性比とも呼ばれ、十字継手引張時におけるナゲット内での剥離破壊傾向を評価する一つの指標である。CTS/TSSが4×10
−7×[TS]
2−1.3×10
−3×[TS]+1.23未満であると、剥離破壊傾向が強く実用の継ぎ手としての使用は困難になるので、4×10
−7×[TS]
2−1.3×10
−3×[TS]+1.23以上が望ましい。なお、CTSとTSSの評価は、同一鋼種で同一板厚の鋼板を用いて、断面ナゲット径が4.8√t〜5.2√tとなる条件でスポット溶接された試験材料に対して、JIS Z 3136、JIS Z 3137に従って評価する、ものとする。スポット溶接を行う際の電極径や形状、加圧力、電流条件は、断面径4.8√t〜5.2√tの大きさのナゲットが得られ、かつ継手強度に影響を及ぼす溶接欠陥が少ないナゲットが得られるように適宜選択すればよいが、電流条件に関しては、
図3に示す通電履歴で行うことが望ましい。
すなわち、溶接電流Wcにより溶融したナゲットを形成させ、次いで、tC:15〜60msの間、無通電状態にし、次いで、Wcの0.7〜0.9倍の電流量でtP:50〜300ms間の後通電を行い、最後に、加圧力を保持したままで、tH:15〜40ms保持する。
【0035】
「炭素当量Ceq」:0.22%以上
鋼板のCeqが0.22%未満であると、十字継手引張試験においてナゲット内では無く、母材で破断する虞があるため、本発明技術によるCTSの増加効果が減少する。このため、本発明ではCeqが0.22%以上が好ましい。ここで、炭素当量Ceqは、非特許文献1に記載のCeq=C+Si/30+Mn/20+2P+4Sを用いる。より好ましい下限は、0.30%以上、さらに好ましい下限は、0.35%以上である。
【0036】
「鋼板の平均結晶粒径」:10μm以下
鋼板の結晶粒径は、溶接後のナゲットの結晶粒径に影響を与える場合があり、これにより引張試験時のナゲット内での破壊挙動が変化することで、CTSに影響を及ぼす。鋼板の結晶粒径が10μmを超えると、ナゲット内の酸化物系介在物の変化によるCTS増加効果が小さくなるため、その好ましい範囲を10μm以下とした。7μm以下がより好ましい範囲である。
鋼板の結晶粒径は、次のようにして測定する。鋼板表面に垂直な軸と圧延方向軸を面内に含む面(TD面)を鏡面研磨し、さらに電解研磨またはコロイダルシリカ研磨にて研磨する。この断面の表面あるいは裏面から1/8〜3/8厚さの範囲内の領域を、SEM/EBSD法により結晶方位解析を行う。分析のステップサイズは結晶粒径より十分小さければ良いが、0.8μm以下で行うことが望ましい。また、測定は1mm
2以上の面積を測定する。EBSDの結晶方位解析により、隣接測定点間で15°以上の結晶方位差がある境界を粒界と定義し、粒界で囲まれた領域を一つの結晶粒とし、その結晶粒の円相当径を粒径とする。そして、測定領域にある結晶粒の粒径の平均値を平均粒径とする。なお、ここで結晶粒とは隣接する領域と15°以上の結晶方位差(misorientation)を有する粒界で囲まれた領域である。
スポット溶接性は溶接部の金属の特性によって変わるものであり、溶接工程を経て生じる溶接部の金属によってスポット溶接性の特性が変わる。スポット溶接性については溶接部の金属の特性が支配因子となるため、鋼板の組織の影響は実質的になく、他の要求される特性を満足する範囲において鋼板の金属組織は特に限定することなく、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイト、パーライトのいずれかあるいは2種以上の混合組織であっても構わない。例えば、引張強度を590MPa以上とするため、析出強化を主な強化機構としたフェライト100%の組織でも良く、組織強化を主な強化機構としたベイナイトやマルテンサイトがそれぞれ100%の組織でも良く、フェライトとマルテンサイトが混合するDP組織でも良い。
【0037】
「鋼板の引張強度」:590MPa以上がより好ましい
鋼板の引張強度TSが590MPa未満であると、十字継手引張試験においてナゲット内では無く、母材で破断する場合があるため、本発明技術によるCTSの増加効果は590MPa以上の鋼板に比べて少ない。このため、本発明では引張強度TSが590MPa以上の鋼板に適用することがより好ましい。
<鋼板の製造方法>
【0038】
本実施形態に係る鋼板は、製造方法によらず、上記の化学組成、組織を有することでその効果が得られる。しかしながら、以下に示す製造方法によれば、本実施形態に係る鋼板を安定的に得られるため好ましい。
具体的には、本実施形態に係る鋼板の製造方法は、以下の工程を含むことが好ましい。
<溶鋼へのMgを含有させ、出湯する工程>
【0039】
Mgを含有する酸化物系介在物は溶鋼中で形成されるため、そのサイズや分布は、凝固が開始するまでの工程で制御する。Mgを含有する合金を投入する場合は、溶鋼の温度が1570℃〜1630℃でMgを含有する合金を投入し、さらに、溶鋼へのMg投入開始から鋳造開始までの時間を10s〜300sにすることが望ましい。これは、溶鋼の温度が1570℃未満であると鋳片内での3μm以上のMgを含有する酸化物の数が増大し、また1630℃を超えるとMgを含む酸化物の粗大化が急速に進行するためである。また、鋳造開始までの時間が10s未満であると、鋳片内での3μm以上のMgを含有する酸化物の数が増大し、また300sを超えるとMgを含有する酸化物が凝集合体をして粗大化するために、溶接性が劣化する傾向がある。なお、連続鋳造設備の場合には、タンディッシュ内に溶鋼を注湯した際に、タンディッシュ内でMgを含有する合金を投入することが望ましい。この際、タンディッシュ内において、タンディッシュへの注湯と鋳型への出湯は連続的に行われるので、保持時間は溶鋼へのMg投入開始から鋳型への出湯開始までの時間で管理する方法が簡易である。
【0040】
また、耐火物を使用して微量なMgを混入させることもできる。この場合は、タンディッシュにMgを含有する耐火物を使用し、1570〜1630℃の温度の溶鋼をタンディッシュに注湯し、注湯開始から鋳型への出湯開始まで10s以上の保持を行うことが望ましい。これは注湯温度が1570℃未満であり、さらにタンディッシュ内での保持時間が10s未満であると溶鋼へのMgの混入が十分に進まず、鋳片内での3μm以上のMgを含有する酸化物の数が増大し、また、300sを超えると凝集粗大化したMgを含む酸化物が増加する傾向があるためである。凝集粗大化したMgを含む酸化物は、タンディッシュ内で浮上して除去されるか、あるいはスラブ内に取り込まれることにより、溶接性が改善しないか劣化する傾向にある。
<熱間圧延工程>
【0041】
鋼板の結晶粒径の制御方法等の熱間圧延工程の製造方法は特に限定することなく、常法に従い、スラブ加熱条件や熱間圧延条件及び冷却条件を適宜選択すればよい。
結晶粒径の微細化のためには、粗圧延終了後から仕上圧延(圧延機が直列に複数配置され、連続的に圧延する)の開始までの時間を60秒以下とすることが好ましく、仕上圧延を完了する温度をA
r3〜930℃とすることが好ましい。仕上圧延終了から冷却までの時間は3秒以下とすることが好ましく、700℃以下になるまで最低冷却速度8℃/秒以上で冷却することが好ましい。ただし、前記冷却において冷却速度が8℃/秒未満である時間が合計で3秒以内であれば結晶粒の微細化に影響を与えないため、一時的に冷却速度が8℃/秒未満となることを妨げない。最終製品が熱延板の場合は、金属組織の細粒化のために巻き取り温度は650℃以下であることが望ましい。一方で、熱延工程の後に冷延・焼鈍工程がある場合は、巻き取り温度が低いと熱延板が硬質化して冷延性が悪化する場合があるため、巻き取り温度は300℃以上であることが好ましい。
<冷延工程およびめっき工程>
【0042】
最終製品が冷延鋼板またはめっき鋼板の場合は、上記条件で熱間圧延を施した後に、酸洗及び冷間圧延を行ってよい。連続焼鈍ラインにて熱処理を行う場合は、例えば、750〜900℃の範囲内の滞留時間が200s以内の焼鈍を行い、その後500℃までの温度範囲において冷却速度を少なくても3℃/s以上で冷却をすることでもよい。結晶粒の細粒化のためには、冷延率は40%以上であることが好ましく、焼鈍温度は850℃以下であることが好ましく、また焼鈍後の500℃まで温度範囲において冷却速度は少なくても5℃/s以上とすることが好ましい。
【0043】
なお、前述しためっきは、連続焼鈍・めっきラインで行っても、焼鈍ラインとは別のめっき専用の設備で行ってもよい。めっきの組成は、特に限定することはなく、また、溶融めっき、合金化溶融めっき、電気めっきのいずれでも構わない。
【0044】
なお、上記実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものにすぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な態様で実施することができる。
【0045】
以上説明したような本発明に係る鋼板によれば、上記構成により、高強度の抵抗溶接継手が安定的に得られる。具体的には、せん断引張強度(TSS)に対する十字引張強度(CTS)の比率が、鋼板の引張強度をTS(MPa)とした時に下式を満たす溶接継手が安定的に得られる。
CTS/TSS > 4×10
−7×[TS]
2−1.3×10
−3×[TS]+1.23
これにより、炭素当量が高い高強度鋼板を用いた溶接継手が実現可能になり、自動車部材の軽量化に貢献する。さらに、継手強度のばらつきが小さくなることで、自動車車体の安全性向上に寄与すると共に、溶接部後熱処理簡略化や抵抗溶接打点数低減を通じて、部材の製造コストや生産性向上への寄与が期待できる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明に係る鋼板の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
<実施例1>
【0047】
下記表1に示す成分組成を有する鋼を溶製して鋼片を製造するに当たり、1600℃でMgを含む合金を溶鋼中に投入し、60s後に溶鋼を鋳造させた。この鋼片を室温まで冷却した後、1200〜1250℃に加熱して、粗圧延を施し、引き続き、仕上圧延を行った。仕上圧延は、仕上圧延の終了温度がA
r3〜930℃で行い、仕上圧延終了後から3秒以内に650℃までの温度範囲を最低冷却速度10℃/s以上となるように冷却を行った後、500〜650℃で巻き取り処理を行った。
冷延鋼板については、上記熱延鋼板を酸洗し、40〜70%の圧延率で冷延を行い、引き続き、750〜900℃間の滞留時間が100sの焼鈍処理を行い、500℃までの温度範囲を最低冷却速度3℃/s以上の冷却速度で冷却を行い、さらに300〜500℃間の滞留時間が20〜400sの熱処理を行った。
【0048】
【表1】
CR:冷延鋼板、HR:熱延鋼板
Ti−Yの合計:Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Sc,Yの合計
【0049】
熱延鋼板および冷延鋼板はいずれも最後に伸び率0.3%の条件で調質圧延を行った。
得られた鋼板について、以下の評価を行った。はじめに、圧延直角方向を試験片の長手方向として、JIS Z 2201に準拠した引張試験片を採取し、JIS Z2241に準拠して引張試験を行い、機械的特性を評価した。
【0050】
鋼板の結晶粒径は、断面試料の1/4厚さの部分を観察し、EBSD法を用いて15°以上の傾角の粒界で囲まれる領域を一つの結晶粒と評価し、各々50個以上の結晶粒の平均公称粒径として測定した。
【0051】
鋼板中のMgを含有する粒子径3μm以上の酸化物系介在物の分布密度は以下のようにして評価した。はじめに、断面試料を鏡面研磨し、1/4厚さの部分について、特性X線の検出器を有するSEMを用いて2mm
2以上の面積の像観察と元素分析を行い、そのサイズと組成を調査した。そして、Mgを含有しかつ円相当径で3μm以上の大きさの酸化物を数え、観察した面積で除することにより平均密度を算出した。
【0052】
溶接継手は、JIS Z3136、JIS Z3137に準拠し、せん断引張用と十字引張用の2種類を作製した。冷延鋼板については板厚t=1.2mm、熱延鋼板については板厚t=2.0mmの鋼板を用い、それぞれ同鋼種、同板厚の組合せで重ね合わせで、サーボガンタイプのスポット溶接機により溶接を行った。スポット溶接は、加圧力5000Nで本通電時間240ms(冷延鋼板の場合)あるいは400ms(熱延鋼板の場合)での本溶接を行った後に、40ms間の無通電を経て、さらに本通電の80%の電流値で200ms間の通電を行い、最後に20msのホールドを行った。なお、本通電の溶接電流値は、断面ナゲット径が5√tになるように調整した。すなわち、t=1.2mmの冷延鋼板の場合には断面ナゲット径が5.5mm±0.2mmの大きさに、t=2.0mmの熱延鋼板の場合は、断面ナゲット径が7.1mm±0.2mmになるように本通電の溶接電流値を設定した。最後に、前記JISに基づいて、引張試験機を用いて、せん断継ぎ手引張強さ(TSS)および十字継手引張強さ(CTS)の測定を行った。
素材のTS、結晶粒径、3μm以上の酸化物系介在物の密度、およびTSSとCTSの評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
TS: 鋼板の引張強度(MPa)
d: 平均結晶粒径 (μm)
ρ: Mgを含有する粒子径3μm以上の酸化物系介在物の平均分布密度 (個/mm
2)
TSS: せん断継ぎ手引張強度(kN)
CTS: 十字継ぎ手引張強度(kN)
TSS式: 4×10
−7×[TS]
2−1.3×10
−3×[TS]+1.23
【0054】
比較例であるA、P、Rは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Sc、Yの1種または2種以上の合計含有量が、規定量を下回ったため、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
比較例である、AE、AFは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Sc、Yの1種または2種以上の合計含有量が、規定量を超えたため、3μm以上のMgを含む酸化物系介在物の数が多く、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
比較例であるSは、Cの含有量が、比較例であるWは、Mnの含有量がそれぞれ、規定量を下回ったため、TSが低く強度が劣った。
比較例であるTは、Cの含有量が、比較例であるXは、Mnの含有量がそれぞれ、規定量を超えたため、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
比較例であるUは、Siの含有量が上限を超えたため、3μm以上のMgを含む酸化物系介在物の数が多く、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。比較例であるVは、Alの含有量が上限を超えたために3μm以上のMgを含む酸化物系介在物の数が多く、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
比較例であるY、Zは、Niの含有量がそれぞれ規定から上下に外れたため、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
比較例であるAA、AB、ADは、それぞれP、S、Oが規定量を超えたため、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。比較例であるACは、Mgが規定量を超えたため3μm以上のMgを含む酸化物系介在物の数が多く、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
一方、本発明例であるB〜O、Qは、本発明の規定の範囲の合金組成であり、3μm以上のMgを含む酸化物系介在物の分布も適正であったため、良好なスポット溶接性が得られた。
<実施例2>
【0055】
上記表1に示すB鋼を用いて、種々のMg添加法および添加条件で鋼片の製造を行った。溶鋼へのMgの添加は、タンディッシュ内においてMgを含有する合金を溶鋼に投入する方法により行い、合金投入時の溶鋼温度および添加から鋳造開始までの時間を変化させた。また、溶鋼と接触するタンディッシュ壁に、Mgを3%以上含有する耐火物を使用する場合とMgを含有しない耐火物を使用する場合の2通りでの試験を行った。表3にその条件を示す。
【0056】
この鋼片を1200〜1250℃に加熱した後、熱間圧延を行った。仕上げ圧延は仕上圧延の終了温度A
r3〜930℃で行い、最終仕上圧延終了後から3秒以内に650℃までの温度範囲を最低冷却速度10℃/s以上で冷却を行い、600〜650℃で巻き取り処理を行った。次いで、上記熱延鋼板を酸洗し、50%の圧延率で冷延を行い、引き続き、750〜900℃間の滞留時間が100sの焼鈍処理を行い、500℃までの温度範囲を3℃/s以上の冷却速度で冷却を行い、さらに300〜500℃間の滞留時間が20〜400sの熱処理を行った。最後に伸び率0.3%の条件で調質圧延を行った。
【0057】
得られた鋼板について、実施例1と同じ方法で、素材のTS、結晶粒径、3μm以上の酸化物系介在物の密度、および抵抗溶接継手のTSSとCTSを評価した。その結果を表3に示す。これら実施例が示すように、Mgを含有する合金を溶鋼中に投入する温度、あるいは合金投入開始からタンディッシュから出湯開始までの時間が変化することで、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の分布が変化し、さらにCTS/TSSが変化している。
【0058】
【表3】
T
1:タンディッシュへの溶鋼注湯温度(℃)
T
2:Mg合金の投入開始温度(℃)
t
1:タンディッシュへの溶鋼注湯から鋳造開始までの時間(s)
t
2:Mg合金の投入開始から鋳造開始までの時間(s)
TS: 鋼板の引張強度(MPa)
d: 平均結晶粒径 (μm)
ρ: Mgを含有する粒子径3μm以上の酸化物系介在物の平均分布密度 (個/mm
2)
TSS: せん断継ぎ手引張強度(kN)
CTS: 十字継ぎ手引張強度(kN)
TSS式: 4×10
−7×[TS]
2−1.3×10
−3×[TS]+1.23
【0059】
B−1〜B−6はタンディッシュの表面にMgを含有する耐火物を使用せず、Mg合金を投入した例である。これらの例から、Mg合金の投入開始温度や、注湯から出湯までの時間を最適化することにより、鋼板中でのMgを含有する酸化物系介在物を制御できることを示している。
比較例であるB−1は、Mg合金の投入開始温度が低すぎるため、比較例であるB−3は、Mg合金の投入開始温度が高すぎるため、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の数が規定を上回り、その結果、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
比較例であるB−4は、Mg合金の投入開始から鋳造時間までの時間が短すぎるため、比較例であるB−6は、Mg合金の投入開始から鋳造時間までの時間が長すぎるため、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の数が規定を上回り、その結果、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
一方、本発明例であるB−2、B−5は、タンディッシュへの溶鋼注湯温度、Mg合金の投入開始温度、タンディッシュへの溶鋼注湯から鋳造開始までの時間、Mg合金の投入開始から鋳造開始までの時間がいずれも適切なため、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の数が十分に少なく、その結果、CTS/TSSが高く、良好なスポット溶接性が得られた。
【0060】
B−7〜B−9はタンディッシュの表面にMgを含有する耐火物を使用し、Mgを含有する合金を投入しない例である。Mgを含有する耐火物を使用すると、Mgを含有する合金を投入しない場合でも、タンディッシュへの溶鋼注湯温度や、注湯から出湯までの時間を最適化することにより、鋼板中でのMgを含有する酸化物系介在物を制御できることを示している。
比較例であるB−7は、タンディッシュへの溶鋼注湯温度が低すぎるため、比較例であるB−9は、Mg合金の投入開始から鋳造時間までの時間が短すぎるため、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の数が規定を上回り、その結果、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
一方、本発明例であるB−8は、タンディッシュへの溶鋼注湯温度、タンディッシュへの溶鋼注湯から鋳造開始までの時間がいずれも適切なため、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の数が十分に少なく、その結果、CTS/TSSが高く、良好なスポット溶接性が得られた。
【0061】
B−10〜B−12は、タンディッシュの表面にMgを含有する耐火物を使用し、さらにMgを含有する合金を投入した例である。この場合も、タンディッシュへの溶鋼の注湯温度や合金投入開始温度や出湯までの時間を制御することにより、鋼板中でのMgを含有する酸化物系介在物を制御できることを示している。
比較例であるB−10は、タンディッシュへの溶鋼注湯温度およびMg合金の投入開始温度が低すぎるため、比較例であるB−12は、Mg合金の投入開始温度が高すぎるため、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の数が規定を上回り、その結果、CTS/TSSが低く、スポット溶接性が悪かった。
一方、本発明例であるB−11は、タンディッシュへの溶鋼注湯温度、Mg合金の投入開始温度、タンディッシュへの溶鋼注湯から鋳造開始までの時間、Mg合金の投入開始から鋳造開始までの時間がいずれも適切なため、粒子径3μm以上のMgを含有する酸化物系介在物の数が十分に少なく、その結果、CTS/TSSが高く、良好なスポット溶接性が得られた。