(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも薄葉紙とポリオレフィン系樹脂と、を積層してなる転写紙において、前記薄葉紙におけるポリオレフィン系樹脂を設ける面側の平滑度が、JIS P8119:1998により、80秒以上1000秒以下であることを特徴とする転写紙。
【背景技術】
【0002】
従来から、壁紙や床材などに使用されているものとして、発泡樹脂層を発泡抑制インキにより所望のパターン状に発泡させるケミカルエンボス法によって、表面に凹凸をつけた化粧材が、広く知られている。
【0003】
このような表面の樹脂層を発泡させる化粧材に通常用いられている発泡樹脂としては、熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂が知られている。
【0004】
この熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂の発泡を促進させるために、亜鉛やバリウムといった発泡安定剤が添加されている。
【0005】
この発泡安定剤の働きにより、通常は高温で発泡するポリ塩化ビニル樹脂が、低温で発泡できるようになる。
【0006】
そして、前記の熱発泡性ポリ塩化ビニル樹脂上に、発泡抑制インキからなるパターン層を設けることにより、前記発泡抑制インキを設けた部分の発泡を抑制して凹部とし、発泡抑制インキの設けていない部分は、発泡して凸部とすることで、表面に凹凸のある化粧材を得られる(例えば、特許文献1)。
【0007】
発泡抑制インキとしては、例えば、特許文献2や特許文献3などに例示されるようなトリアジン系化合物やトリアゾール系化合物からなる発泡抑制インキなどが知られている。
【0008】
このような、ケミカルエンボス加工による化粧材の製造方法として、熱発泡性樹脂上に発泡抑制インキ層を形成する手段として、特許文献4に見られるように、転写シートを用いて、あらかじめ転写シート上に印刷形成された発泡抑制インキを、熱発泡性樹脂上に転写して形成する方法が提案されている。
【0009】
一般に、化粧材に絵柄や発泡抑制剤を転写するための転写シートは、1回の使用で廃棄されるため、用いる転写紙は、できるだけ安価な原紙を用いることが多い。
【0010】
しかし、安価な原紙は平滑度が小さく、表面が粗いため、絵柄を転写しようとするとインキ抜けが発生する事が多いという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係わる転写紙を用いた転写シートの構成例を示す断面図である。
【0022】
図1に示す通り、薄葉紙11とポリオレフィン系樹脂層12とからなる転写紙10の上には、パターン状に形成された発泡抑制インキ層13が設けられており、さらに絵柄印刷層14、ならびに隠蔽層15が適宜設けられている。
【0023】
本発明における転写紙10は、薄葉紙11の片面にポリオレフィン系樹脂層12が設けられている。薄葉紙11は、坪量が30g/m
2以上60g/m
2以下程度であることが望ましい。
【0024】
薄葉紙の坪量は、転写紙への印刷加工時ならびに転写加工時の操作性やコスト面などを考慮し、上述の範囲が好適であると言える。
【0025】
また、薄葉紙11としては、従来公知の長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機、及びこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機など、いずれの抄紙機によって抄造されたものであっても良いが、ヤンキーマシン(円網抄紙機)によって抄造された薄葉紙であることがより好ましい。
【0026】
ヤンキーマシンとは、抄紙機の一種であり、ヤンキードライヤーと呼ばれる表面が鏡面仕上げされた1本のドライヤーで乾燥する方式を有する抄紙機である。
【0027】
このため、ヤンキーマシンによって抄造された薄葉紙は、ドライヤーと接していた側の片面が光沢性に著しく優れ、裏面が粗い面性を有する特徴がある。
【0028】
本発明における転写紙10は、薄葉紙11の光沢性を有する面側に、ポリオレフィン系樹脂層12を設けることが好ましく、前記光沢性を有する面側の平滑度が、JIS P8119:1998に記載のベック試験機法において、80秒以上1000秒以下であることが好ましい。
【0029】
薄葉紙11の平滑度が80秒よりも小さい値である場合には、平滑性が劣るために、作製された転写シート1を用いて転写する際の転写抜けや、転写シート1作製時の印刷抜けなどが発生しやすく、また、平滑度が1000秒を超える場合には、ポリオレフィン系樹脂層上への印刷時において、各印刷インキの着肉性が低下し、印刷適性面で不具合が発生する場合がある。
【0030】
薄葉紙11の光沢性を有する面側には、ラミネートあるいはコーティングなどの公知手法を用いてポリオレフィン系樹脂層12が設けられる。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリプロピレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂などの各樹脂を1種または2種以上混合したものを、単層あるいは複数組み合わせた積層構造として用いることができる。
【0032】
このようなポリオレフィン系樹脂層の厚みとしては、13μm以上30μm以下程度が好適であると言える。
【0033】
上述のようにして作製された転写紙のポリオレフィン系樹脂層側には、発泡抑制インキ層13がパターン状に印刷形成される。
【0034】
発泡抑制インキとしては、被転写体に設けられる発泡樹脂の発泡抑制効果を得るための発泡抑制剤が添加されている。発泡抑制剤としては、従来公知の発泡抑制剤を任意に用いることができる。
【0035】
発泡抑制剤の具体的な例としては、トリアジン系化合物あるいはベンゾトリアゾール系化合物、無水トリメリット酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸などを挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0036】
中でも、ベンゾトリアゾール系化合物が好適であり、より具体的には、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールあるいはこの誘導体や、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールあるいはこの誘導体等が挙げられる。また、融点が160℃以上300℃未満のカルボキシベンゾトリアゾールが用いられる。
【0037】
発泡抑制剤の添加量は、発泡抑制インキ中5〜50質量%であることが好ましい。
【0038】
また、カルボキシベンゾトリアゾールを用いる場合には、溶解性を向上させるために、アミン中和し、アルコールに溶解させることが好ましく、当該アミンの沸点は、200℃以下であることが更に好ましい。
【0039】
これらの発泡抑制剤を含む発泡抑制インキは、バインダー樹脂として、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂類、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂などの樹脂類を適宜添加することができる。
【0040】
更に、発泡抑制インキは、インキのタック性を切るために体質顔料や各種安定剤などを適宜添加することができるが、体質顔料としては、シリカが好適である。
【0041】
次に、化粧材に絵柄を設けるための絵柄印刷層14が設けられているが、これは従来公知の印刷インキであれば何れも用いることができる。
【0042】
絵柄印刷層は、例えば住宅、店舗等の建築物や、電車、自動車等の車輌、飛行機、船舶等の内装材や外装材、床材等の表面を化粧するための化粧柄や、模様、彩色、木目柄、目地、木目導管柄等の任意の絵柄を設けることができる。
【0043】
発泡抑制インキ層13ならびに絵柄印刷層14は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷など従来公知の印刷技術を用いて設けることができる。
【0044】
転写紙10上に、印刷層を設けた転写シート1は、更に隠蔽層15が適宜設けられてあっても良い。
【0045】
隠蔽層15は、被転写体の被転写面を隠蔽するための層であり、有機あるいは無機の色素や、各種フィラー類、金属粉など任意の添加物をバインダー樹脂中に添加したものなどを用いることができる。
【0046】
図2は、本発明の転写紙を用いて形成される化粧材の発泡前の構成例を示す断面図である。
【0047】
化粧材基材21上に、発泡性ポリ塩化ビニル樹脂などからなる発泡樹脂層22、転写された発泡抑制インキ層13、絵柄印刷層14、隠蔽層15が設けられている。
【0048】
化粧材基材21としては、後述する発泡樹脂層22をその上に塗布、成形するのにてきした紙基材、樹脂シート、合成紙、不織布などであれば特に限定されることなく、適用することが可能である。特には、厚さ50〜200g/m
2程度の裏打紙が好適に用いられる。
【0049】
発泡樹脂層22は、ポリ塩化ビニル樹脂に発泡剤を添加した発泡性ポリ塩化ビニル樹脂などが好適に用いられる。ポリ塩化ビニル樹脂を用いる場合には、樹脂100質量部に対して、発泡剤0.1〜10質量部と発泡助剤0.01〜5質量部程度を添加したものが使用可能である。
【0050】
前記発泡剤としては、従来公知のものが使用可能であり、具体的には、アゾジカルボンアミド(ADCA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]等のアゾ化合物や、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)などのニトロソ化合物、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体、p−トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物、トリヒドラジノトリアジンなどの有機系熱分解型発泡剤、更には、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の重炭酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩、亜硝酸アンモニウム等の亜硝酸塩、水素化合物などの無機系熱分解発泡剤などが挙げられる。
【0051】
中でも、アゾジカルボンアミド(ADCA)や、炭酸水素ナトリウムなどが特に好適に用いられる。
【0052】
前記発泡助剤としては、発泡剤の分解温度の低下、分解促進、気泡の均一化などの作用をするもので、従来公知のものが使用可能であり、具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、ステアリン酸亜鉛、サリチル酸、フタル酸、ステアリン酸、しゅう酸、尿素またはその誘導体などが挙げられる。
【0053】
また、化粧材2の最表面には、耐摩性などの耐久性付与や光沢付与などの目的で、透明樹脂層などが適宜設けられてあっても良い。
【0054】
図3は、
図2で示した発泡前の化粧材をオーブン等に入れて、発泡させた化粧材の構成例を示す断面図である。
【0055】
発泡前の化粧材2を、前記発泡剤が分解してガス成分が発生する温度まで、オーブン等で加熱することにより、発泡抑制インキ層13が存在しない場所では、発泡が生じ、凸部24を形成する。
【0056】
これに対して、発泡抑制インキ層13が存在する部分では、発泡抑制剤の効果により発泡現象が生じず、凹部23が形成される。
【0057】
以上のように、本発明の転写紙を用いることにより、絵柄印刷層や発泡抑制インキ層などの抜けなく、意匠性の高い、表面に凹凸構造を有する化粧材を安定して提供することが可能となる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
<転写紙の作製>
転写紙の薄葉紙として、光沢面側のベック試験機法による平滑度が、80秒、90秒、100秒、200秒、400秒、700秒、1000秒に設定された、坪量45g/m
2
の各薄葉紙を用意し、厚さ20μmのポリプロピレン樹脂シートと各薄葉紙とを貼りあわせて、転写紙10を作製した。
【0059】
<発泡抑制インキの作製>
熱転写性を有する発泡抑制インキとして、カルボキシベンゾトリアゾールをジエタノールアミンで中和して、アルコールに溶解したものを10質量%、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂15質量%、アクリル樹脂15質量%、水分に対して安定性を向上するためにポリビニルアルコール樹脂1質量%、シリカ5質量%を添加してグラビアインキとして作製した。
【0060】
<転写シートの作製1>
上述の転写紙の作製で示した各転写紙のポリプロピレン樹脂シート側に、前記熱転写性を有する発泡抑制インキを、グラビア印刷法にて1μm程度の印刷膜厚の線状柄のパターンを印刷して、発泡抑制インキ層とした。
【0061】
ここで、発泡抑制インキを設けた線状部分の幅は0.50mm、発泡抑制インキを設けない線状部分の間隔の幅は0.50mmとした。
【0062】
<転写シートの作製2>
前記発泡抑制インキ層を設けた転写紙のポリプロピレン樹脂シート側の上に、更に絵柄印刷層として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とアクリル樹脂を主成分とした無機顔料を含むインキによって、木目柄をグラビア印刷法にて印刷した。
【0063】
<転写シートの作製3>
更に、絵柄印刷層の上に、隠蔽層として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とアクリル樹脂を主成分とした無機顔料を含むインキを用いて、全面にグラビア印刷法により印刷した。以上により、転写シートを作製した。
【0064】
<化粧材の作製1>
化粧材基材として、厚さ100g/m
2の裏打紙を用い、この上に塩化ビニル樹脂100質量部に対して、発泡剤としてアゾジカルボンアミド2.5質量部と発泡助剤として酸化亜鉛0.15質量部とを添加した樹脂を乾燥後の膜厚として200g/m
2となるように塗布し、乾燥させ、発泡性塩化ビニル樹脂層とした。
【0065】
<化粧材の作製2>
前記発泡性塩化ビニル樹脂層に対し、前記転写シートの隠蔽層側を対向配置し、200℃の転写ロールを用いて加熱加圧した後、転写紙を剥離した。
【0066】
その後、220℃のオーブンで100秒間放置して加熱発泡処理し、発泡抑制インキ層の設けられた部分の発泡抑制効果を目視と手による触感によって確認した。
【0067】
(比較例1)
転写紙の薄葉紙として、光沢面側のベック試験機法による平滑度が、60秒、70秒、1050秒、1100秒に設定された、坪量45g/m
2の各薄葉紙を用いる以外は、実施例1と同様にして、化粧材を作製した。
【0068】
<評価方法>
上述のようにして作製した各化粧材サンプルを目視で観察し、各印刷部分について、印刷時の欠陥の有無、ならびに転写時の欠陥の有無を、それぞれ印刷適性、転写適性として評価した。評価基準は、以下の通りである。
【0069】
○ : 印刷時の意匠性再現良好、転写時の意匠性再現良好
× : 印刷時のインキ抜けが目立つ、もしくは転写時の転写抜けが目立つ
実施例1ならびに比較例1における各化粧材の評価結果を表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果より、薄葉紙の光沢を有する面側の平滑度が、80秒以上1000秒以下の場合には、印刷適性、転写適性ともに良好な結果を得た。
【0072】
これに対し、平滑度が70秒の場合には、印刷適性は良好であったものの、転写適性で抜けが発生した。
【0073】
また、平滑度が60秒の場合には、印刷適性、転写適性の双方において、抜けが確認された。
【0074】
また、平滑度が1050秒ならびに1100秒の場合には、転写適性においては良好であったが、印刷適性において抜けが確認された。
【0075】
これは、平滑度が80秒より低い場合には、転写紙の表面に微細な凹凸があり、印刷時には、印刷インキの転移が十分に行われない部分が発生し、転写時には、転写ロールの熱圧が十分に得られない部分が発生するためと考えられる。
【0076】
また、平滑度が1000秒よりも高い場合には、もともと印刷インキに対するヌレ性の低いポリプロピレン樹脂シートの面が、より平滑性を増しているため、印刷インキの着肉性が低下し、印刷インキの転移が十分に行われない部分が発生したためと考えられる。
【0077】
以上のように、本発明の転写紙を用いることにより、印刷抜けや転写抜けのない化粧材を安定して提供することが可能となる。