(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅又は銅合金からなる母材の表面に被覆層が形成されるとともに、前記被覆層は、前記母材の表面に形成されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層と、最表面に設けられた錫又はその合金、貴金属又はその合金のいずれかからなる表面層とを備え、前記ニッケル層は、さらに、前記母材の表面に積層された第1ニッケル層と、該第1ニッケル層の上に積層された第2ニッケル層とからなり、前記第1ニッケル層の平均結晶粒径が0.3μmを超えており、前記第2ニッケル層の平均結晶粒径が前記第1ニッケル層より小さく、かつ前記第2ニッケル層は硫黄を0.015質量%以上0.200質量%以下含有することを特徴とする被覆層付銅板。
前記第1ニッケル層と前記第2ニッケル層とを合わせた全ニッケル層の膜厚が0.2μm以上5μm以下であり、前記全ニッケル層の膜厚のうち10%以上50%以下が前記第2ニッケル層の膜厚であることを特徴とする請求項1又は2記載の被覆層付銅板。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカーや、電気自動車等で高出力モータが使用されるようになっている。通電電流が大きい高出力モータ用の端子等では、コネクタ端子に大電流が流れるので、端子部での発熱量が大きくなる。
また、自動車室内の省スペース化の要求からコネクタの設置箇所は室内からエンジンルーム内へ移行が進展している。エンジンルーム内での雰囲気温度は150℃程度若しくはそれ以上になると言われており、車載用のコネクタ端子には耐熱性(高温長時間経過後の電気的特性(低接触抵抗)の確保)に優れためっき部材が求められている。
従来、自動車の電気部品等を接続するコネクタ端子としては、一般に、銅又は銅合金などの母材の表面に錫めっきなどのめっきが施されたものが用いられていた。しかし、錫めっき付端子は、このような高温環境下で使用される場合には、耐熱性が不十分である。
【0003】
それを改善する技術として、母材と錫めっき層の間に、ニッケル(Ni)層及び銅錫合金(Cu−Sn合金)層を設けることによって母材からの銅の拡散を防止する手法(特許文献1,2参照)が開発され、150℃で長時間加熱後も端子接点部で低い接触抵抗値を維持することが可能となった。
【0004】
一方、特許文献3には、銅錫合金(Cu−Sn合金)層をη相(Cu
6Sn
5)とε相(Cu
3Sn)の2層からなるものとし、銅錫合金層の凹部(谷間)の厚さやε相の平均厚さ等を所定範囲内に規制することにより、実施例レベルで175℃×1000時間経過後の接触抵抗の増加を防止できたことが記載されている。
【0005】
また、錫めっき端子の代わりに銀めっき端子が用いられる。銀は電気抵抗値が低く、通電時の温度上昇が低く抑えられるとともに、高い融点を有し、高い耐熱性が得られる。しかし、銀めっき層の中を銅粒子が拡散しやすいため、銅又は銅合金よりなる端子母材表面に銀めっきが施された場合には、銅成分が銀めっき表面に達し、酸化された銅成分が抵抗の増大を引き起こすという問題がある。そのため、従来より、母材表面に銀などの貴金属膜を有する電気接点では、下地としてニッケルめっきが用いられてきた。このニッケル下地めっきは、母材金属の拡散腐食を防ぐことを目的として形成される(特許文献4,5,6,7参照)。
【0006】
さらに、特許文献8のように、耐熱性と低挿入力化を両立した銅系基板の上にニッケル系下地層を形成し、錫銀(Sn−Ag)被覆層を形成した上に銅錫(Cu−Sn)金属間化合物層を形成した導電部材が開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記各特許文献に示されためっき層構造では、高温放置時の抵抗上昇の抑制による耐熱性は十分に高い水準とは言えない。特許文献1,2は150℃を超える温度で長時間加熱すると、銅錫合金層の谷間若しくは極端に薄い部位から錫層中へのニッケルの拡散が進行し、錫めっき表層にニッケル錫の金属間化合物やニッケルの酸化物を形成し、接触抵抗値の増加が起こり、発熱、通電不良が生じ、電気信頼性を維持することが困難となる可能性がある。そのため、150℃を超える温度領域での長時間の使用は避けられている。
【0009】
一方、特許文献3でも、150℃を超える温度で長時間加熱すると、銅錫合金層の薄い凹部を通ってニッケル層のニッケル及び母材の銅が錫層表面へと拡散し、酸化物を形成するため、接触抵抗値の増加を引き起こす。
【0010】
特許文献4,5,6,7についても同様に高温環境に長期間さらされることによって、銀めっき層の中を銅原子が拡散し、それがめっき層の最表面で酸化されることで、表面抵抗値が上昇する。ニッケル下地めっきが形成されていても、母材からの銅原子の拡散を阻止するのには不十分である。
【0011】
さらに、特許文献8については硬質銀層に含まれるアンチモンも最表面に拡散し、酸化して表面抵抗値を上昇させる。いずれの場合にも、十分な耐熱性つまり、高温放置による抵抗上昇の抑制が達成されない。
【0012】
本発明は、銅又は銅合金からなる母材の上に被覆層を有する銅板において、より優れた電気的特性(低接触抵抗)を有する被覆層付銅板を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の被覆層付銅板は、銅又は銅合金からなる母材の表面に被覆層が形成されるとともに、前記被覆層は、前記母材の表面に形成されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層と、最表面に設けられた錫又はその合金、貴金属又はその合金のいずれかからなる表面層とを備え、前記ニッケル層は、さらに、前記母材の表面に積層された第1ニッケル層と、該第1ニッケル層の上に積層された第2ニッケル層とからなり、前記第1ニッケル層の結晶の平均結晶粒径が0.3μmを超えており、前記第2ニッケル層の結晶の平均結晶粒径が前記第1ニッケル層より小さく、かつ前記第2ニッケル層は硫黄を0.015質量%以上0.030質量%以下含有する。
【0014】
この被覆層付銅板において、ニッケル層は、母材成分が被覆層に拡散することを抑制するバリア層として機能する。この場合、第1ニッケル層は、平均結晶粒径で0.3μmを超える粗大な結晶粒により形成されていることから、結晶粒界が少なく、このため、母材成分の拡散を有効に低減することができる。第1ニッケル層の平均結晶粒径が0.3μm以下ではバリア層として拡散防止効果が低くなる。母材成分の拡散低減のためには、第1ニッケル層の平均結晶粒径は大きいほど好ましい。
【0015】
一方、第1ニッケル層の上の第2ニッケル層については、硫黄を0.015質量%以上0.030質量%以下含有している。このため、第2ニッケル層は母材の銅、第1ニッケル層のニッケルおよび第2ニッケル層のニッケルの拡散を抑制するバリア層として機能し、第1ニッケル層単独の場合よりも、耐熱性をより向上させることができる。なお、抑制のメカニズムとしては硫黄原子若しくは硫黄系の有機物が最表層と第2ニッケル層の界面又は粒界で拡散を抑制していることが考えられる。
【0016】
本発明の被覆層付銅板において、前記第2ニッケル層の膜厚は、第1ニッケル層と第2ニッケル層とを合わせた全ニッケル層の膜厚の50%以下にするとよい。
【0017】
第2ニッケル層の膜厚が全体のニッケル層の膜厚の50%を超えると曲げ加工性が悪化するおそれがある。
【0018】
本発明の被覆層付銅板において、第1ニッケル層と第2ニッケル層とを合わせた全ニッケル層の膜厚が0.2μm以上5μm以下であり、前記全ニッケル層の膜厚のうち10%以上50%以下が前記第2ニッケル層の膜厚であるとよい。
【0019】
全ニッケル層の膜厚が0.2μm未満では、銅の拡散を防止する効果が低く、5μmを超えると曲げ加工性が悪くなる。このうち、第2ニッケル層の比率が10%未満ではバリア効果が小さく50%以上になると曲げ性が悪化する。
【0020】
本発明の被覆層付銅板において、前記表面層の膜厚は0.1μm以上5.0μm以下であるとよい。
【0021】
高温環境下での銅の拡散が防止されるので、表面層の特性を長期的に維持することができる。表面層が貴金属を含む場合、耐熱性向上、接触抵抗の低減などの特性が期待でき、錫を含む場合には接触抵抗の低減、はんだ濡れ性の向上などの特性が期待できる。この場合、表面層の膜厚が0.1μm未満では、これら表面層の特性を得ることが難しい。表面層の膜厚が5.0μmを超えると、貴金属を含む表面層の場合にはコストが大きくなってしまい、錫を含む表面層の場合には摩擦抵抗の増大を招くおそれがある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、2層のニッケル層により母材およびニッケル層成分の拡散を効果的に抑制し、かつ曲げ加工性も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
この実施形態の被覆層付銅板1は、
図1に示すように、銅又は銅板からなる母材2の表面に被覆層3が形成されたもので、被覆層3は、母材1の表面に形成された第1ニッケル層31と、第1ニッケル層31の上に形成された第2ニッケル層32と、第2ニッケル層32の上に形成された表面層33とを有している。
母材2の銅又は銅合金は、その材質が必ずしも限定されるものではないが、銅合金としては以下の二種類のうちのいずれかであるとよい。
【0025】
その一つの銅合金は、Mgを、3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部がCu及び不可避不純物のみからなるCuとMgの2元系合金とされ、好ましくは導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をA原子%としたときに、σ≦1.7241/(−0.0347×A
2+0.6569×A+1.7)×100の範囲内とされた銅合金であり、更に好ましくは導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をA原子%としたときに、σ≦1.7241/(−0.0347×A
2+0.6569×A+1.7)×100の範囲内とされ、かつ走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上の金属間化合物の平均個数が、1個/μm
2以下とされた銅合金である。この銅合金は、低ヤング率、高耐力、高導電性、優れた曲げ加工性を有し、端子材として好適である。またCopper Development Associationが公開しているC18670でも良い。
【0026】
他の一つの銅合金は、Znを3.4%(mass%、以下同じ)越え32.5%以下、Snを0.1%以上0.9%以下、Niを0.05%以上1.0%未満、Feを0.001%以上0.10%未満、Pを0.005%以上0.10%以下、含有し、好ましくはさらにFeの含有量とNiの含有量との比Fe/Niが、原子比で、0.002≦Fe/Ni<1.5を満たし、かつNiおよびFeの合計含有量(Ni+Fe)とPの含有量との比(Ni+Fe)/Pが、原子比で、3<(Ni+Fe)/P<15を満たし、さらにSnの含有量とNiおよびFeの合計量(Ni+Fe)との比Sn/(Ni+Fe)が、原子比で、0.3<Sn/(Ni+Fe)<5を満たすように定められ、残部がCuおよび不可避的不純物よりなり、しかもCu、ZnおよびSnを含有するα相の結晶粒の平均粒径が0.1μm以上50μm以下の範囲内にあり、さらにFeとNiとPとを含有する析出物が含まれている銅合金である。この銅合金は、耐応力緩和特性が確実かつ十分に優れていて、従来よりも部品素材の薄肉化を図ることができ、しかも強度も高く、さらに曲げ加工性や導電率などの諸特性も優れている。また、Copper Development Associationが公開しているC41125でも良い。
【0027】
第1ニッケル層31は、ニッケル又はニッケル合金からなり、母材2の表面の結晶の上に結晶がエピタキシャル成長したエピタキシャル組織であり、その結晶の配向が母材2の表面の優先配向と一致している。また、平均結晶粒径が0.3μmを超え5.0μm以下であり、平均結晶粒径が0.3μm以下では、母材の銅の拡散を防止する効果が低く、5.0μmを超えると曲げ加工性が悪化する。
【0028】
第2ニッケル層32は、ニッケル又はニッケル合金からなり、硫黄を0.015質量%以上0.200質量%以下含有しており、好ましくは含有量は0.015質量%以上0.030質量%以下である。硫黄の濃度は、グロー放電質量分析法(GD−MS)によって確認することができる。この硫黄が存在することにより、母材中の銅、第1ニッケル層31及び第2ニッケル層32中のニッケルの表面層33への拡散防止効果が高められる。
【0029】
また、これら第1ニッケル層31と第2ニッケル層32とを合わせた全ニッケル層の膜厚が0.2μm以上5μm以下であり、全ニッケル層の膜厚のうち10%以上50%以下が第2ニッケル層32の膜厚である。全ニッケル層の膜厚が0.2μm未満では、銅の拡散を防止する効果が低く、5μmを超えると曲げ加工性が悪くなる。
【0030】
なお、第1ニッケル層31及び第2のニッケル層32は、いずれかの単独のニッケル層としても、母材2からの銅の拡散及びニッケルの拡散を抑制することは可能であるが、第1ニッケル層31単独の場合は自身のニッケルの拡散に対して抑制効果が小さい。一方、第2ニッケル層32単独の場合は、曲げ加工の際の応力が大きく割れやすくなる。本実施形態では2層構造としたことにより、第1ニッケル層31及び第2ニッケル層32の全ニッケル層としての膜厚を増大させることなく、第2ニッケル層32を薄くすることができるので、耐熱性と曲げ加工性を向上させることができる。
【0031】
表面層33は、錫又はその合金、貴金属又はその合金のいずれかからなる層である。貴金属としては、金、銀が好適である。錫と貴金属との合金としてもよい。
この表面層33の膜厚は0.1μm以上5.0μm以下である。表面層33が金、銀の貴金属を含む場合、耐熱性向上、接触抵抗の低減などの特性が期待でき、錫を含む場合には接触抵抗の低減、はんだ濡れ性の向上などの特性が期待できる。この場合、表面層33の膜厚が0.1μm未満では、これら表面層の特性を得ることが難しい。表面層33の膜厚が5.0μmを超えると、貴金属を含む表面層の場合にはコストが大きくなり、錫を含む表面層の場合には摩擦抵抗の増大を招くおそれがある。
【0032】
次に、この被覆層付銅板1の製造方法について説明する。
母材2として、前述した銅又は銅合金を用いる。
この母材2の上に形成される第1ニッケル層31の結晶粒を粗大化して母材2の組織との配向性を一致させるために、母材2表面の加工変質層を化学研磨や電解研磨にて十分に取り除き、なおかつ、母材2の優先配向面と同じ結晶面を表面に露出させる必要があるため、前処理を最適化する必要がある。
その好適な処理として、本実施形態では、母材2の表面を研磨して加工変質層を除去した後、エッチング処理する。
(200)面が優先配向面となる銅合金、例えばC10200では、30g/L過酸化水素、100g/L硫酸、10mg/L塩酸水溶液にてエッチングを実施する。
一方、(220)面が優先配向面となる銅合金、例えばC41125では、過硫酸ナトリウム250g/L、硫酸 30g/L水溶液にてエッチングする。
いずれもエッチング液の液温は10℃〜80℃とし、基材を0.1分〜10分浸漬することにより、母材2の表面をエッチングする。
これらのエッチング処理によって母材2の表面の結晶方位を調整して、優先配向面と同じ結晶面を表面に露出させる。
【0033】
このようにしてエッチング処理された母材2の表面にニッケルめっきを施して、第1ニッケル層31を形成する。
この第1ニッケル層31を形成するためのニッケルめっき浴は緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴やスルファミン酸浴、クエン酸浴などを用いて電気めっきにより形成することができる。ニッケル合金めっきとしては、ニッケルタングステン(Ni−W)合金、ニッケルリン(Ni−P)合金、ニッケルコバルト(Ni−Co)合金、ニッケルクロム(Ni−Cr)合金、ニッケル鉄(Ni−Fe)合金、ニッケル亜鉛(Ni−Zn)合金、ニッケルボロン(Ni−B)合金などを利用することができる。ただし、ブチンジオールやアリルスルホン酸塩などの結晶粒径を微細化し、ニッケルめっき表面を光沢にするような光沢剤成分はエピタキシャル成長を妨げるため含まない。
このニッケルめっきにより、母材2の表面における結晶に対してニッケルの結晶がエピタキシャル成長して肥大な結晶粒となるとともに、母材表面の結晶の優先配向面と一致した優先配向面を有する第1ニッケル層が形成される。
【0034】
次に、この第1ニッケル層31の上に以下の第2ニッケル層32を形成する。
この第2ニッケル層32を形成するためのニッケルめっき浴は、第1ニッケル層31を形成するためのニッケルめっき浴と同様のめっき浴を用いることができるが、意図的に硫黄系の有機物、例えばサッカリンナトリウム等を添加している。また表面の平滑性を向上させるために、ブチンジオールやアリルスルホン酸塩などの第二光沢剤成分を含めることが望ましい。
【0035】
最後に、第2ニッケル層32の上に貴金属めっきを施して、厚みが0.1μm以上5.0μm以下の貴金属層からなる表面層33を形成する。
この貴金属めっきも、金、金合金、銀、銀合金は緻密な貴金属主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のシアン化金浴、シアン化銀浴、アンチモン添加シアン化銀浴、金-コバルト浴、金-ニッケル浴などを用いて形成することができる。
また、貴金属層に代えて、錫又は錫合金からなる錫層を表面層33としてもよい。
【0036】
このようにして製造された表面被覆付銅板1は、端子の形状に加工されて使用に供される。母材2の表面に2層のニッケル層31,32が形成されていることにより母材成分およびニッケル層のニッケルの拡散を効果的に抑制し、曲げ加工性も向上する。また、表面層33を錫又は錫合金により形成する場合は、接触抵抗の低減、はんだ濡れ性の向上などの特性を安定的に維持することができ、貴金属により構成する場合は、高い耐熱性、低い接触抵抗などの優れた特性を安定的に維持することができる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0038】
表1に示す母材を用い、前処理として、表面をバフ研磨し脱脂酸洗を実施したもの、そのバフ研磨等の機械的表面処理を施さないものをそれぞれ作製した。
その上に、以下の条件で、ニッケルめっきを施してニッケル層を形成した。
<ニッケルめっき条件>
スルファミン酸ニッケル 300g/L
塩化ニッケル 5g/L
ホウ酸 30g/L
浴温 45℃
電流密度 5A/dm
2
このニッケルめっきにおいては、まず、光沢剤を添加しないめっき浴により第1ニッケル層を形成し、その上に、光沢剤を添加しためっき浴により第2ニッケル層を形成した。また、第2ニッケル層形成の際には、意図的に硫黄(S)を添加したものも作製した。
【0039】
最後に、表面に銀めっき、金めっき、錫めっきのいずれかを施して表面層を形成した。各めっきの条件は以下の通りである。
<銀めっき条件>
シアン化銀 50g/L
シアン化カリウム 90g/L
炭酸カリウム 15g/L
浴温 20℃
電流密度 0.5A/dm
2
<金めっき条件>
シアン化金カリウム1.8g/L
遊離シアン化カリウム7.5g/L
リン酸水素二カリウム15g/L
浴温 65℃
電流密度 2A/dm
2
<錫めっき条件>
メタンスルホン酸錫 200g/L
メタンスルホン酸 100g/L
光沢剤添加
浴温:25℃
電流密度:2A/dm
2
【0040】
これらのめっき後、各層の厚みを測定するとともに、第1ニッケル層、第2ニッケル層の平均結晶粒径を測定した。
平均結晶粒径Rは、集束イオンビーム(FIB)により断面加工し、測定した走査イオン顕微鏡(SIM)像を用いて、表面と平行に結晶粒界を10個以上横切る長さLμmになる線を引き、その表面と平行な線が結晶粒界と交わった数Nから下記の式により求めた。
平均結晶粒径R=L÷N(μm)
また、硫黄の濃度はグロー放電質量分析法(GD−MS)により、第2ニッケル層における主成分元素の強度に対する硫黄の強度を測定し質量%で表した。測定にはフラットセルを使用し、質量数 32にて放電電圧 1kV、放電電流 2mAの条件で行った。なお、主成分についてはFaraday 100msec、硫黄元素についてはマルチプライヤー 160msecの積分時間にて測定した。
【0041】
これらの試料に対して、接触抵抗、曲げ加工性を評価した。
接触抵抗は、JCBA−T323に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS−113−AU)を用い、摺動式(1mm)で荷重0.98N時の接触抵抗を測定した。平板試料の表面に対して測定を実施し、その評価は、初期の接触抵抗を測定し、大気中で175℃1000時間保持した後に再度接触抵抗を測定し、初期の測定からの接触抵抗変化率が10%未満のものを「◎」とし、初期からの接触抵抗変化率が10%以上、15%未満のものを「○」とし、15%以上、25%未満のものを「△」とし、25%以上のものを「×」とした。
【0042】
曲げ加工性については、母材の圧延方向に対して曲げの軸が直交方向になるように、特性評価用条材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、JCBA(日本伸銅協会技術標準)T307の4試験方法に準拠して、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.5mmのW型の治具を用い、9.8×10
3Nの荷重でW曲げ試験を行った。その後、実体顕微鏡にて観察を行った。曲げ加工性の評価は、試験後の曲げ加工部に明確なクラックが認められないレベルを「◎」と評価し、めっき面に部分的に微細なクラックが発生しているが銅合金母材の露出は認められないレベルを「○」と評価し、銅合金母材の露出はないが「○」と評価したレベルより大きいクラックが発生しているレベルを「△」と評価し、発生したクラックにより銅合金母材が露出しているレベルを「×」と評価した。
これらの測定結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
この結果から明らかなように、第1ニッケル層の平均結晶粒径が0.3μmを超え、第2ニッケル層の平均結晶粒径が第1ニッケル層より小さく、かつ第2ニッケル層に硫黄を0.015質量%以上0.200質量%以下含有する発明例の場合は、接触抵抗、曲げ加工性ともに優れている。その中でも、第2ニッケル層の膜厚が第1ニッケル層と第2ニッケル層とを合わせた全ニッケル層の膜厚の50%以下である発明例3〜9は曲げ加工性に優れている。特に、全ニッケル層の膜厚が0.2μm以上5μm以下であり、第2ニッケル層の膜厚が全ニッケル層の膜厚のうち10%以上50%以下である発明例5〜9は、接触抵抗、曲げ加工性のいずれにも優れていることがわかる。また、表面層が0.1μm以上5.0μm以下の発明例7〜9は接触抵抗に特に優れている。