特許第6753316号(P6753316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753316
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】形鋼の製造設備及び形鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/088 20060101AFI20200831BHJP
   B21B 1/095 20060101ALI20200831BHJP
   B21B 15/00 20060101ALI20200831BHJP
   B23D 47/00 20060101ALI20200831BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   B21B1/088 Z
   B21B1/095
   B21B15/00 B
   B23D47/00 D
   H05B6/10 341
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-634(P2017-634)
(22)【出願日】2017年1月5日
(65)【公開番号】特開2017-124445(P2017-124445A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2019年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-2671(P2016-2671)
(32)【優先日】2016年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩史
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−220232(JP,A)
【文献】 特開昭61−050711(JP,A)
【文献】 特開2009−248270(JP,A)
【文献】 実開昭56−121517(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/08
B21B 15/00
B23D 45/00−65/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された鋼を搬送ラインにより搬送しながら成形して、ウェブ及び前記ウェブの幅方向の少なくとも一端側に設けられたフランジを備えた形鋼を製造する形鋼の製造設備であって、
所定の温度まで加熱された前記鋼を前記形鋼の形状に圧延する圧延装置と、
前記圧延装置により圧延された前記形鋼を600℃未満の温度に水冷する冷却装置と、
前記冷却装置により冷却された前記形鋼の一部を、前記形鋼における前記ウェブのウェブ面が上下方向を向いた状態で、600℃以上の温度に誘導加熱する誘導加熱装置と、
前記形鋼における前記誘導加熱装置により加熱された部位を含むように、前記形鋼をウェブの幅方向に沿う方向に鋸断する鋸断機と、
を備え、
前記誘導加熱装置は、前記ウェブにおける上下のウェブ面のうち上方側のウェブ面と対向する位置のみに、前記ウェブの幅方向に沿う方向に延びるバー状に形成された、当該ウェブの所定の部位を誘導加熱により加熱する、ウェブ用の誘導加熱コイルを有している、形鋼の製造設備。
【請求項2】
前記形鋼における前記ウェブ用の誘導加熱コイルにより加熱される部位の搬送方向に沿った長さは、当該加熱する部位の肉厚に対応する長さである、請求項1に記載の形鋼の製造設備。
【請求項3】
前記形鋼における前記ウェブ用の誘導加熱コイルにより加熱される部位の搬送方向に沿った長さは、20mm〜150mmの範囲である、請求項1又は2に記載の形鋼の製造設備。
【請求項4】
前記ウェブ用の誘導加熱コイルと前記形鋼との間の離隔距離は、2mm〜20mmの範囲である、請求項1〜3の何れか1項に記載の形鋼の製造設備。
【請求項5】
前記形鋼の前記フランジにおける前記ウェブとは反対側の面と対向する位置に、当該フランジの所定位置を誘導加熱により加熱するフランジ用の誘導加熱コイルが配設される、請求項1〜4の何れか1項に記載の形鋼の製造設備。
【請求項6】
前記形鋼は、H形鋼又は鋼矢板である、請求項1〜5の何れか1項に記載の形鋼の製造設備。
【請求項7】
加熱された鋼を搬送ラインにより搬送しながら成形して、ウェブ及び前記ウェブの幅方向の少なくとも一端側に設けられたフランジを備えた形鋼を製造する形鋼の製造方法であって、
所定の温度まで加熱された前記鋼を前記形鋼の形状に圧延する圧延工程と、
前記圧延工程において圧延された前記形鋼を600℃未満の温度に水冷する冷却工程と、
前記冷却工程において冷却された前記形鋼の一部を、前記形鋼における前記ウェブのウェブ面が上下方向を向いた状態で600℃以上の温度に誘導加熱する誘導加熱工程と、
前記形鋼における前記誘導加熱工程において加熱された部位を含むように、前記形鋼を前記ウェブの幅方向に沿う方向に鋸断する鋸断工程と、
を含み、
前記誘導加熱工程では、前記ウェブにおける上下のウェブ面のうちの上方側のウェブ面と対向する位置にのみ設けた、前記ウェブの幅方向に沿う方向に延びるバー状に形成したウェブ用の誘導加熱コイルによって、前記ウェブの所定の部位を誘導加熱により加熱する、形鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形鋼の製造設備及び形鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼に代表される形鋼の熱間圧延による製造ラインでは、圧延ラインの末端等に、形鋼を幅方向に切断する熱間鋸断機が設置されており、圧延された形鋼を所定の位置で切断することが行われている。この形鋼の切断に際しては、搬送ライン方向と直交する方向に配置された円形鋸刃を回転させることで、形鋼を幅方向に切断する方法が採られている。
【0003】
円形鋸刃を用いて形鋼を切断する際には、円形鋸刃の寿命低下や、円形鋸刃の交換等に伴う製造ラインの停止を防止するために、形鋼の切断部位の温度を所定の温度以上としておくことが好ましい。そのため、通常、熱間圧延後の形鋼は、高温に保った状態で熱間鋸断されるが、温度が低下した場合には、形鋼の切断部位を、誘導加熱コイルやトーチ等の加熱手段を利用して加熱することが提案されている。例えば、以下の特許文献1には、形鋼の形状プロフィールに適合する誘導加熱コイルを用いて形鋼の外周全体を加熱する技術が開示されており、以下の特許文献2には、複数個の誘導加熱コイルを用いて形鋼を加熱する技術が開示されている。
【0004】
ところで、近年では、形鋼に対して求められる仕様、とりわけ機械的性質に関する仕様は、徐々に厳しくなってきており、性能向上を目的として、圧延中に水冷を行うことにより材料の組織を制御したTMCP(Thermo Mechanical Control Process)材の割合が増えつつある。そのため、以下の特許文献3では、温度の低下によって強度が上昇したTMCP材を切断する際に、加熱手段としてトーチを利用して切断部位を加熱しておく技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−139609号公報
【特許文献2】特開昭51−150134号公報
【特許文献3】特開2009−248270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に開示されている技術は、所望の形状に成形された形鋼をオフラインで加熱することが前提となっている技術である。そのため、TMCPによる形鋼の製造ラインに上記特許文献1及び特許文献2に開示されている技術を適用する場合には、搬送ロール等の搬送手段と誘導加熱コイルとの干渉が問題となって、そのまま適用することができない。
【0007】
更に、上記特許文献1及び特許文献2では、切断部位における形鋼の周囲に誘導加熱コイルを配置するが、TMCPによる形鋼の製造ラインでは、圧延された形鋼を水冷することが行われる。この際、圧延された形鋼は、ウェブのウェブ面が上下方向を向いた状態で搬送されて水冷されるため、形鋼の表面、特に、ウェブの上方側のウェブ面に残存している冷却水が、切断工程の際に誘導加熱コイルや通電設備にかかってしまい、漏電等が発生する可能性がある。
【0008】
また、上記特許文献3に開示されている技術では、加熱手段としてトーチが用いられているが、圧延工程で用いられる圧延油等が形鋼の表面に残存している場合には、トーチの炎によって圧延油等が発火する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、熱間圧延後に水冷工程を有する形鋼の製造プロセスにおいて、より安全かつ容易に熱間鋸断を実施することが可能な、形鋼の製造設備及び形鋼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、加熱された鋼を搬送ラインにより搬送しながら成形して、ウェブ及び前記ウェブの幅方向の少なくとも一端側に設けられたフランジを備えた形鋼を製造する形鋼の製造設備であって、所定の温度まで加熱された前記鋼を前記形鋼の形状に圧延する圧延装置と、前記圧延装置により圧延された前記形鋼を600℃未満の温度に水冷する冷却装置と、前記冷却装置により冷却された前記形鋼の一部を、前記形鋼における前記ウェブのウェブ面が上下方向を向いた状態で、600℃以上の温度に誘導加熱する誘導加熱装置と、前記形鋼における前記誘導加熱装置により加熱された部位を含むように、前記形鋼をウェブの幅方向に沿う方向に鋸断する鋸断機と、を備え、前記誘導加熱装置は、前記ウェブにおける上下のウェブ面のうち上方側のウェブ面と対向する位置のみに、前記ウェブの幅方向に沿う方向に延びるバー状に形成された、当該ウェブの所定の部位を誘導加熱により加熱する、ウェブ用の誘導加熱コイルを有している、形鋼の製造設備が提供される。
【0011】
なお、形鋼に関して、形鋼の長さ方向と直交し、且つ、ウェブ面に沿う方向の寸法等を説明する際に「ウェブの高さ」という用語が使用されることがあるが、本発明の説明においては、より分かりやすくするために、「ウェブの幅」という。
【0012】
前記形鋼における前記ウェブ用の誘導加熱コイルにより加熱される部位の搬送方向に沿った長さは、当該加熱する部位の肉厚に対応する長さであることが好ましい。
【0013】
また、前記形鋼における前記ウェブ用の誘導加熱コイルにより加熱される部位の搬送方向に沿った長さは、20mm〜150mmの範囲であることが好ましい。
【0014】
前記ウェブ用の誘導加熱コイルと前記形鋼との間の離隔距離は、2mm〜20mmの範囲であることが好ましい。
【0015】
前記形鋼の前記フランジにおける前記ウェブとは反対側の面と対向する位置に、当該フランジの所定位置を誘導加熱により加熱するフランジ用の誘導加熱コイルが配設されることが好ましい。
【0016】
前記形鋼は、H形鋼又は鋼矢板とすることができる。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、加熱された鋼を搬送ラインにより搬送しながら成形して、ウェブ及び前記ウェブの幅方向の少なくとも一端側に設けられたフランジを備えた形鋼を製造する形鋼の製造方法であって、所定の温度まで加熱された前記鋼を前記形鋼の形状に圧延する圧延工程と、前記圧延工程において圧延された前記形鋼を600℃未満の温度に水冷する冷却工程と、前記冷却工程において冷却された前記形鋼の一部を、前記形鋼における前記ウェブのウェブ面が上下方向を向いた状態で600℃以上の温度に誘導加熱する誘導加熱工程と、前記形鋼における前記誘導加熱工程において加熱された部位を含むように、前記形鋼を前記ウェブの幅方向に沿う方向に鋸断する鋸断工程と、を含み、前記誘導加熱工程では、前記ウェブにおける上下のウェブ面のうちの上方側のウェブ面と対向する位置にのみ設けた、前記ウェブの幅方向に沿う方向に延びるバー状に形成したウェブ用の誘導加熱コイルによって、前記ウェブの所定の部位を誘導加熱により加熱する、形鋼の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、熱間圧延後に水冷工程を有する形鋼の製造プロセスにおいて、より安全かつ容易に熱間鋸断を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る形鋼の製造設備の全体的な構成を模式的に示した説明図である。
図2A】同実施形態において、形鋼がH形鋼である場合における誘導加熱装置のウェブ用の誘導加熱コイルの配置を模式的に示す断面図である。
図2B】同実施形態において、形鋼がH形鋼である場合における誘導加熱装置のウェブ用の誘導加熱コイルの配置を模式的に示す平面図である。
図2C】同実施形態において、形鋼がハット型鋼矢板である場合における誘導加熱装置のウェブ用の誘導加熱コイルの配置を模式的に示す断面図である。
図3A】誘導加熱装置がフランジ用の誘導加熱コイルを備えている場合において、ウェブ用誘導加熱コイル及びフランジ用の誘導加熱コイルのそれぞれの配置を示す模式的な断面図である。なお、形鋼がH形鋼である場合を示す。
図3B】誘導加熱装置がフランジ用の誘導加熱コイルを備えている場合において、ウェブ用誘導加熱コイル及びフランジ用の誘導加熱コイルのそれぞれの配置を示す模式的な平面図である。なお、形鋼がH形鋼である場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
(形鋼の製造設備の全体的な構成について)
まず、図1を参照しながら、本実施形態に係る形鋼の製造設備(以下、単に「製造設備」ともいう。)10の全体的な構成について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る形鋼の製造設備の全体的な構成を模式的に示した説明図である。
【0022】
本実施形態に係る製造設備10は、図1に模式的に示したように、圧延装置15と、冷却装置17と、誘導加熱装置19と、鋸断機21と、を主に備えている。これらの設備は、搬送ライン13によって連結されている。また、本実施形態の製造設備10においては、圧延装置15の入側(搬送方向の上流側)には、加熱炉11が設けられ、鋸断機21の出側(搬送方向の下流側)には、冷却床23が設けられる。
【0023】
図1に示したような、本実施形態に係る製造設備10で製造される形鋼は、ウェブ及びこのウェブの幅方向の少なくとも一端側に設けられたフランジを有する形鋼であり、H形鋼、I形鋼、断面がコの字形を有する形鋼、及び、ハット形鋼矢板に代表されるような、ウェブの幅方向の両端にフランジが設けられた形鋼、Z形鋼矢板に代表されるような、Z形の形状を有する形鋼、更に、T形鋼、断面がL形の形状を有する形鋼等、ウェブの幅方向の一端のみにフランジが設けられた形鋼も含まれるものとする。
【0024】
<使用される鋼について>
図1に示した本実施形態に係る製造設備10の各設備について説明するに先立ち、まず、本実施形態に係る製造設備10で使用される鋼について説明する。
本実施形態に係る製造設備10で使用される鋼については、特に限定されるものではなく、製造する形鋼に求められる諸特性(例えば、機械的特性)を実現可能なものであれば、公知の任意の鋼を使用することが可能である。
【0025】
かかる鋼としては、例えば、質量%で、C:0.02%〜0.18%、Mn:0.3%〜1.8%を含有し、更に、Si:0.60%以下、Al:0.10%以下、Cu:1.5%以下、Ni:3.5%以下、Cr:2.0%以下、Mo:1.0%以下、V:0.20%以下、Nb:0.10%以下、Ti:0.10%以下、B:0.0030%以下の1種又は2種以上を含有し、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.010%以下、O:0.004%以下、H:0.001%以下に制限され、残部は、Fe及び不純物からなる化学組成を有していてもよい。
【0026】
また、かかる鋼として、更に好適には、例えば特許第3960341号に開示されているような化学組成を有する鋼を挙げることができる。この鋼は、質量%で、C:0.041%〜0.06%、Si:0.03%〜0.6%、Mn:0.3%〜1.6%、P:0.03%以下、S:0.015%以下、Cu:0.1%〜0.5%、Ni:0.1%〜1.5%、Cr:0.11%〜1.0%、Mo:0%〜0.29%、V:0.005%〜0.10%、Nb:0.005%〜0.07%、Ti:0.005%〜0.03%、B:0%〜0.0005%、Al:0.003%〜0.049%、N:0.008%以下、O:0.004%以下、H:0.0001%以下を含有し、残部は、Fe及び不純物からなる化学組成を有する鋼である。鋼がかかる化学組成を有することで、590MPa級の強度を有する形鋼を製造することが可能である。
【0027】
ここで、590MPa級の強度とは、形鋼の母材についての機械的性質として、降伏点が440MPa〜540MPaであり、引張強さが590MPa〜740MPaであり、降伏比が80%以下の引張強度を有するとともに、Vノッチ試験片を用いた0℃でのシャルピー吸収エネルギーが47J以上の衝撃特性を有するものをいう。
【0028】
<加熱炉11について>
本実施形態に係る製造設備10の最上流には、本実施形態に係る製造設備10で使用される鋼を所定の温度まで加熱するための加熱炉11が設けられる。このような加熱炉11としては、所望の温度まで鋼を加熱することが可能なものであれば、特に限定されるものではなく、公知の加熱炉を利用することが可能である。
【0029】
本実施形態に係る製造設備10で使用される鋼(例えば、上記のような化学組成を有する鋼)は、加熱炉11により、例えば、1000℃〜1350℃の温度域まで加熱されることが好ましい。加熱温度を1000℃以上とすることで、鋼の変形抵抗が低下するため、製造される形鋼の圧延が容易となる。また、鋼中に含まれるNbやV等といった元素が基地に固溶するため、製造される形鋼の冷却後の強度増大を図ることが可能となる。なお、加熱温度の下限は、更に好ましくは、1100℃である。また、加熱温度を1350℃以下とすることで、結晶粒の粗大化を防止することが可能となるため、製造される形鋼において、良好な衝撃特性を実現することが可能となる。なお、加熱温度の上限は、更に好ましくは、1300℃である。
【0030】
加熱炉11によって加熱された鋼は、搬送ライン13を構成する搬送装置上に載置されて、圧延装置15へと搬送される。なお、本実施形態に係る製造設備10に設けられる搬送ライン13で用いられる搬送装置については、特に限定されるものではなく、例えば搬送ローラ等を用いることができるが、上記のような温度となっている鋼、さらには所望の形状の形鋼を搬送可能なものであれば、任意のものを利用することが可能である。
【0031】
<圧延装置15について>
加熱炉11の出側には、所定の温度まで加熱された鋼を所望の形状を有する形鋼となるまで圧延する圧延装置15が設けられる。かかる圧延装置15は、ブレークダウン圧延機、ユニバーサル圧延機及びエッジング圧延機等といった、複数の公知の圧延機により構成される。かかる圧延装置15では、所定の温度まで加熱された鋼に対して、例えば、ブレークダウン圧延機を用いたブレークダウン圧延、粗ユニバーサル圧延機及びエッジング圧延機を用いた中間圧延、及び、仕上ユニバーサル圧延機を用いた仕上圧延が順次施されることで、鋼が所望の形状を有する形鋼(例えば、H形鋼又は鋼矢板等)へと変化する。かかる圧延装置15の構成についても、特に限定されるものではなく、上記のような構成以外の圧延装置であってもよい。
【0032】
例えば上記のような圧延装置15を用いた圧延工程において、圧延終了温度は、用いる鋼の化学組成や所望の機械的特性に応じて適宜決定すればよい。例えば上記のような化学組成を有する鋼を圧延する場合、圧延終了温度は、1000℃から700℃までの温度域であることが好ましい。製造される形鋼において、衝撃特性を確保するために、圧延終了温度は、1000℃以下であることが好ましく、950℃以下であることがより好ましい。一方、圧延終了温度が700℃よりも低い場合には、変形抵抗が高くなり、圧延装置への負荷が大きくなる。製造される形鋼において、引張強度特性を確保するためには後述の冷却開始温度が750℃以上であることがより好ましいことから、圧延終了温度は、750℃以上であることがより好ましい。
【0033】
圧延装置15によって、H形鋼や鋼矢板等のような所望の形状へと成形された形鋼は、搬送ライン13により、形鋼1の搬送方向の下流側に配設された冷却装置17へと搬送される。
【0034】
<冷却装置17について>
本実施形態に係る形鋼の製造設備10は、ベイナイトやマルテンサイトなどの硬質組織の生成、組織の微細化、転位密度の増加等によって形鋼の強度を高めるTMCPによる形鋼の製造ラインを対象としている。そのため、圧延装置15における形鋼1の搬送方向の下流側には、搬送された形鋼を600℃未満の温度となるまで水冷する冷却装置17が設けられる。かかる冷却装置17としては、例えば全断面水冷装置等といった、加速冷却を実施することが可能な公知の冷却装置を利用することが可能である。
【0035】
本実施形態に係る製造設備10では、圧延装置15における圧延終了後、そのまま冷却装置17によって形鋼を冷却する。従って、冷却開始温度は、圧延装置15における圧延終了温度と同程度となる。冷却開始温度が、圧延装置15における圧延終了温度よりも著しく低い場合には、生産性が低下したり、製造される形鋼において、所望の引張強度特性を確保することが困難となったりする可能性がある。すなわち、例えば上記のような化学組成を有する鋼板を加速冷却する場合、冷却開始温度は、1000℃から700℃までの温度域であることが好ましく、950℃から750℃までの温度域であることがより好ましい。
【0036】
また、本実施形態に係る冷却装置17において、冷却終了温度は、600℃未満とする。冷却終了温度が600℃以上である場合には、加熱することなくそのまま鋸断することも可能であり、本実施形態の対象外である。また、冷却終了温度が600℃以上である場合、製造される形鋼において、所望の引張強度特性を確保することが困難となる場合があるため、好ましくない。冷却終了温度の下限値は、特に規定するものではないが、300℃以上とすることが好ましい。冷却終了温度が300℃よりも低い場合には、製造される形鋼において、所望の衝撃特性を確保することが困難となる可能性がある。
【0037】
更に、上記のような化学組成を有する鋼から成形された形鋼を冷却する場合、冷却終了温度は、550℃以下300℃以上とすることが更に好ましい。冷却終了温度を550℃以下300℃以上とすることで、加速冷却による機械的特性の向上と、合金コストの削減と、を両立させることが可能となる。例えば、440MPa以上の降伏強度、590MPa以上の引張強さ、及び、80%以下の降伏比という優れた引張強度特性、並びに、Vノッチ試験片を用いた0℃でのシャルピー吸収エネルギーが47J以上という優れた衝撃特性が安定して確保される。また、本実施形態に係る冷却装置17における冷却速度は、特に規定するものではないが、例えば、優れた引張特性と衝撃特性とを得るために、冷却開始温度から冷却終了温度までの平均冷却速度は0.5℃/秒〜50℃/秒とすることが好ましく、0.5℃/秒〜15℃/秒とすることがより好ましい。
【0038】
なお、本実施形態においては、冷却装置17は、形鋼1の搬送方向の上流から下流に向けて直進させながらその形鋼1を冷却する構成としているが、冷却装置内において、冷却対象の形鋼を搬送方向の上流側と下流側との間で複数回行き来させて、最終的に誘導加熱装置19の方に搬送する構成であってもよい。また、冷却装置を圧延装置の上流側に配置して、圧延後の形鋼を搬送方向の上流側に戻すように搬送させて冷却するようにしてもよい。
【0039】
<誘導加熱装置19について>
形鋼1の搬送方向における冷却装置17の下流側には、誘導加熱装置19が設けられる。なお、形鋼の搬送方向における誘導加熱装置19の設けられる詳細な位置については、特に限定するものではないが、冷却終了直後の形鋼に対して、なるべく短い時間で誘導加熱処理を開始することが可能な位置に設けられることが好ましい。ここで、誘導加熱装置19は、搬送ライン13を構成する搬送装置上の形鋼に対して、ウェブ3のウェブ面が上下方向(本実施形態においては、略鉛直方向)を向いた状態で、その形鋼の一部を600℃以上の温度となるまで誘導加熱するようになっている。
なお、本実施形態の誘導加熱装置19の詳細については、以下で改めて説明する。
【0040】
<鋸断機21について>
誘導加熱装置19によって一部が600℃以上まで加熱された形鋼は、鋸断機21によって、加熱された部位を含むように、形鋼1をウェブ3の幅方向に沿う方向に鋸断され、所望の全長を有する形鋼となる。かかる鋸断機21についても、特に限定されるものではなく、公知の鋸断機を利用することが可能である。
【0041】
例えば、円形の鋸刃を回転させながら、この鋸刃全体を初期位置からウェブ3の幅方向に沿う方向(この場合、搬送方向と直交する方向)に略水平移動させることにより、形鋼の所定の部位を、その形鋼を幅方向に切断する熱間鋸断機等といった、公知の鋸断機を利用することが可能である。この鋸断機21によって切断され、所望の全長となった形鋼は、搬送ライン13によって冷却床23まで搬送され、十分に冷却されることとなる。
【0042】
ここで、かかる鋸断機21による形鋼1の鋸断は、形鋼1が誘導加熱装置19により加熱された時の状態、即ち、形鋼1におけるウェブのウェブ面が上下方向(本実施形態においては、略鉛直方向)を向いた状態で行われる。
【0043】
(誘導加熱装置19の詳細について)
続いて、図2A図3Bを参照しながら、本実施形態に係る製造設備10で用いられる誘導加熱装置19について、詳細に説明する。
【0044】
本実施形態に係る誘導加熱装置19は、冷却後の形鋼の一部(具体的には、鋸断機21により鋸断される部分)の温度を600℃以上まで、好ましくは650℃以上まで加熱するために設けられる。この誘導加熱装置19は、鋸断部位を加熱するために配設される誘導加熱コイルと、かかる誘導加熱コイルに所定の電圧を印加するための通電設備(例えば、高周波電源及び電源ケーブル等)と、を少なくとも有している。本実施形態に係る誘導加熱装置19では、トーチ等の炎を用いた加熱手段ではなく、誘導加熱による加熱方法を採用することで、形鋼の表面に残存している可能性のある圧延油等の油分の発火を防止して、より安全に操業を実施することが可能となる。
【0045】
ここで、図2A図2Cに示すように、誘導加熱装置19は、形鋼1のウェブ3の幅方向に沿う方向(本実施形態の場合、形鋼の搬送方向と直交する略水平方向)に延びるバー状に形成された、ウェブ3の所定の部位を誘導加熱により加熱する、ウェブ用の誘導加熱コイル101を有している。そして、このウェブ用の誘導加熱コイル101は、ウェブ3における上下のウェブ面3a,3bのうち、上方側のウェブ面3aと対向する位置にのみ配設されている。
【0046】
前述のように、誘導加熱装置19は、搬送ライン13を構成する搬送装置上の形鋼1の一部を、ウェブ3のウェブ面が上下方向に向いた状態で加熱するため、ウェブ用の誘導加熱コイル101は、ウェブ3を上方側のウェブ面3a側から誘導加熱することになる。
【0047】
このとき、ウェブ用の誘導加熱コイル101は、形鋼1のウェブ3の幅方向に沿う方向に延びるバー状に形成され、ウェブ3をそのウェブ3の幅方向に延びるように誘導加熱するため、鋸断機21は、形鋼1をウェブ3の幅方向に鋸断する際に切断抵抗を小さく抑えることができる。これにより、鋸断機21は、形鋼1において、誘導加熱装置19のウェブ用の誘導加熱コイル101で加熱された部分を、ウェブ3の幅方向に沿う方向に容易に鋸断することができるため、安定的且つ確実な鋸断が可能となる。
【0048】
ウェブ用の誘導加熱コイル101について、例えば、加熱対象となる形鋼1が、図2A及び図2Bに示したような、ウェブ3の幅方向の両端に一対のフランジ5、5が設けられたH形鋼である場合には、ウェブ用の誘導加熱コイル101は、ウェブ3の上方側のウェブ面3aと対向する位置における一対のフランジ5、5間に配設される。そして、ウェブ3は、このウェブ用の誘導加熱コイル101によって上方側のウェブ面3a側から誘導加熱される。
【0049】
また、加熱対象となる形鋼1が図2Cに示したような、ウェブ3の幅方向の両端に傾斜した一対のフランジ5、5が設けられた鋼矢板(より詳細には、いわゆるハット型鋼矢板)である場合も同様である。即ち、この形鋼1の一対のフランジ5、5がウェブ3から上方(実際には斜め上方向)に立ち上がった状態で誘導加熱装置19に加熱される際には、ウェブ用の誘導加熱コイル101は、ウェブ3の上方側のウェブ面3aと対向する位置における一対のフランジ5、5間に配設され、ウェブ3はこのウェブ用の誘導加熱コイル101によって上方側のウェブ面3aから誘導加熱される。なお、形鋼がハット型鋼矢板である場合において、仮に一対のフランジが下方側に延びた状態(即ち、形鋼が図2Cに示す場合とは上下反転した状態)で誘導加熱装置19に加熱される際は、ウェブ用の誘導加熱コイル101は一対のフランジ間には位置しない。しかしながら、この際も、ウェブ用の誘導加熱コイルは、ウェブ3の上方側のウェブ面3aに対向する位置にのみ配置されることに変わりはなく、ウェブ3はウェブ用の誘導加熱コイル101によって上方側のウェブ面3aから誘導加熱される。
【0050】
なお、ウェブの幅方向の一端のみにフランジが設けられた形鋼であっても、誘導加熱装置は、その形鋼の一部を、ウェブのウェブ面が上下方向に向いた状態で加熱するため、ウェブ用の誘導加熱コイルは、ウェブの上方側のウェブ面に対向する位置にのみ配置される。そして、ウェブはウェブ用の誘導加熱コイルによって上方側のウェブ面から誘導加熱されることとなる。
【0051】
一方で、図2A及び図2Bに示すように、誘導加熱装置19は、形鋼1のウェブ3における下方側のウェブ面3b側にはウェブ用の誘導加熱コイルを含めた加熱部材は一切有していない。
【0052】
形鋼1のウェブ3の下方には、搬送ラインを構成する搬送ロール等の搬送装置が設けられているため、この側にウェブ用の誘導加熱コイルを配設してしまうと、ウェブ用の誘導加熱コイル及び通電設備(図示せず。)と搬送装置とが互いに干渉してしまうこととなり、搬送と加熱とを両立させることが困難となる。
【0053】
また、図1に示したようなTMCPによる形鋼1の製造工程では、誘導加熱装置19の前に冷却装置17によって水冷等による加速冷却が実施されるが、冷却装置17による冷却後、冷却材である水が、ウェブ3の鉛直方向上側の面上に残存していると考えられる。このとき、加速冷却後の形鋼1が誘導加熱装置19、あるいはその近傍に搬送された際に、ウェブ3の上方側のウェブ面3aが雨樋のように機能して、上方側のウェブ面3a上に残存している水が、下方に流れ落ちることが予想される。この際に、ウェブ3のうち搬送ラインの搬送面に対向する側に、通電設備が配設されていると、流れ落ちた水が通電設備にかかってしまい、漏電等の発生が懸念されることとなる。また、仮に形鋼のウェブを加熱する加熱部材として、誘導加熱コイル以外のもの、例えばトーチ等を用いた場合であっても、冷却水が加熱部材にかかる可能性があり、加熱効率が低下したり、形鋼に加熱むらが発生したりして、安定的な形鋼の加熱が損なわれ、却って形鋼の鋸断に悪影響を生じさせることも考えられる。
【0054】
そこで、誘導加熱装置には、ウェブにおける上下のウェブ面のうち上方側のウェブ面と対向する位置にのみウェブ用の誘導加熱コイルを設けて、下方側のウェブ面側にはウェブ用の誘導加熱コイルを含めた加熱部材を設けない。これにより、安全を確保しながらも搬送と加熱とを安定的に両立させて、図1に示したようなオンライン・プロセスにおいても、より容易に熱間鋸断を実施することを可能としている。
【0055】
かかる観点においても、本実施形態に係る誘導加熱装置19では、ウェブ3の下方、すなわち搬送ラインの搬送面に対向する側には、誘導加熱コイル101を配設しないようにすることで、より安全に熱間鋸断を実施することを可能としたのである。
【0056】
ここで、ウェブ用の誘導加熱コイルによって形鋼のウェブを誘導加熱により加熱するに際しては、ウェブ用の誘導加熱コイルとウェブの上方側のウェブ面との間の離隔距離(図2A及び図2C、さらに後述する図3Aにおけるウェブ3の上方側のウェブ面3aとウェブ用の誘導加熱コイル101との間の距離d)は、2mm〜20mmの範囲であることが好ましい。
【0057】
ウェブ用の誘導加熱コイルとウェブの上方側のウェブ面との間の離隔距離が2mm未満である場合には、ウェブ用の誘導加熱コイルと形鋼のウェブとが接触してしまう可能性が高くなるため、好ましくなく、一方で、離隔距離が20mm超である場合には、ウェブ用の誘導加熱コイルによる形鋼のウェブの加熱効率が低下するため、好ましくない。ウェブ用の誘導加熱コイルとウェブの上方側のウェブ面との間の離隔距離を2mm〜20mmの範囲とすることで、ウェブ用の誘導加熱コイルと形鋼のウェブとの接触を防止しつつ、効率良く形鋼を加熱することが可能となる。なお、ウェブ用の誘導加熱コイルと形鋼のウェブとが接触してしまう可能性をより低減し、ウェブ用の誘導加熱コイルによる形鋼のウェブの加熱効率をより高めるため、ウェブ用の誘導加熱コイルとウェブの上方側のウェブ面との間の離隔距離は5mm〜10mmの範囲とすることがより好ましい。
【0058】
なお、ウェブ用の誘導加熱コイル101は、製造設備10で製造される形鋼1のウェブ3の幅にあわせて複数種類準備しておき、製造される形鋼1のウェブ3に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0059】
また、ウェブ用の誘導加熱コイル101の長さ方向の大きさについては、形鋼1のウェブ3のほぼ全幅にわたって加熱できることが好ましい。なお、形鋼1のウェブ3への加熱は、形鋼1が搬送ライン上を搬送されている途中の状態で行われるため、ウェブ用の誘導加熱コイル101は、ウェブ3の誘導加熱時に、加熱対象の形鋼1のフランジ5に接触しない程度の長さ方向の大きさとすることが肝要である。
【0060】
更に、ウェブ用の誘導加熱コイル101により形鋼1のウェブ3を加熱するに際して、このウェブ用の誘導加熱コイル101により加熱するウェブ3の部位の搬送方向に沿う方向の長さは、加熱する部位の肉厚に対応する長さとすることが好ましい。
【0061】
この点について詳細に説明する。図2Bは、形鋼1がH形鋼である場合を例に挙げて、形鋼1及びウェブ用の誘導加熱コイル101を上方から見た場合(平面視)の模式図である。本発明者らは、図2Bに示したような、形鋼1のウェブ3において、ウェブ用の誘導加熱コイル101により加熱される部位の搬送方向に沿った長さLについて着目し、公知の有限要素法を用いた熱伝導解析シミュレーションを実施した。具体的には、550℃の状態にある鋼板を片側から誘導加熱により加熱して、もう一方の側の温度が650℃となるまでの様子を、公知の解析アプリケーションを用いて解析した。得られた結果を、詳細に解析したところ、誘導加熱によって生じた熱は、板厚に近い広がりを持って円形に広がり、鋼板の裏側まで伝導していることが明らかとなった。
【0062】
かかるシミュレーション結果から、図2Bに示したような加熱される部位の長さLを、加熱する部位の肉厚に対応する長さ程度とすることで、ウェブ3の裏側(この場合、下方側のウェブ面3b側)に対してウェブ用の誘導加熱コイル101を設置しなくとも、ウェブ3の下方側のウェブ面3b側まで十分に加熱可能であることがわかった。従って、図2Bに示したような加熱される部位の長さLは、加熱する部位の肉厚、即ち、この場合はウェブ3の厚さに対応する長さとすることが好ましい。
【0063】
より具体的には、ウェブ用の誘導加熱コイルにより加熱するウェブの部位の搬送方向に沿う方向の長さ(加熱する部位の長さ(L))は、加熱する部位の肉厚(ウェブの厚さ)が10mm〜125mmであると想定すれば、20mm〜150mmの範囲とすることが好ましい。加熱する部位の長さが20mm未満である場合には、加熱する部位の長さが狭くなり過ぎ、鋸断機による鋸断工程において、鋸断機の位置決めの精度が不足して熱間鋸断性が低下する(すなわち、十分に加熱されていない部位を鋸断してしまう)可能性があるため、好ましくない。一方、加熱する部位の長さが150mm超となる場合には、加熱部分の長さが広くなり過ぎ、加熱に多くの時間を要してしまう可能性があり、好ましくない。加熱する部位の長さを20mm〜150mmの範囲とすることで、熱間鋸断性を維持しつつ、多くの加熱時間を要することなく加熱を行うことが可能となる。
【0064】
ところで、図3A及び図3Bに示すように、本実施形態に係る誘導加熱装置19では、形鋼1に形成されたフランジ5における、ウェブ3とは反対側の面(いわゆるフランジ5の外方側の面)と対向する位置に、フランジ用の誘導加熱コイル102を、ウェブ用の誘導加熱コイル101とは別に配設することができる。このフランジ用の誘導加熱コイル102は、ウェブ用の誘導加熱コイル101と対応する位置、即ち、形鋼1のフランジ5における、ウェブ用の誘導加熱コイル101によるウェブ3の加熱対象部位に対応する位置を加熱できる位置に配設されている。そして、対向しているフランジ5の加熱対象部位を600℃以上の温度に加熱することが可能となっている。
【0065】
これにより、形鋼1のフランジ5の所定位置、即ち鋸断機21により鋸断される位置を、フランジ用の誘導加熱コイル102が誘導加熱により加熱可能であるため、鋸断機21による形鋼1の鋸断の際のフランジ5の切断抵抗をできるだけ小さく抑え、形鋼1の鋸断をより安定的に行うことができ、また鋸断機21の鋸刃等の消耗を可及的に抑えることが可能となる。
【0066】
なお、フランジ用の誘導加熱コイル102の構成については、基本的にウェブ用の誘導加熱コイル101とほぼ同等の構成を用いることができる。また、フランジ用の誘導加熱コイル102は、加熱対象のフランジ5の全幅にわたって誘導加熱することができることが好ましい。
【0067】
一方で、フランジ用の誘導加熱コイル102は、フランジ5の下方側を含めた形鋼1の下方側(より具体的には形鋼1の鉛直下方向)には一切配置されない。このような構成とするのは、ウェブ用の誘導加熱コイルと同様の理由、即ち、フランジ用の誘導加熱コイル及び通電設備と搬送装置との干渉防止や、冷却時に用いた冷却水が流れ落ちて通電設備にかかることによる漏電等の発生防止を図り、搬送と加熱との両立を図るためである。
【0068】
フランジ用の誘導加熱コイル102について、例えば、加熱対象である形鋼1が図3A及び3Bに示したような、ウェブ3の両端に一対のフランジ5、5を有するH形鋼である場合、各フランジ5、5の幅方向(この場合、鉛直方向)に延びるバー状のフランジ用の誘導加熱コイル102が、各フランジ5、5におけるウェブ3とは反対側の面に対向する位置にそれぞれ配設される。あるいは、いずれか一方のフランジ5を加熱するため、その一方のフランジ5におけるウェブ3と反対側の面と対向する位置にのみフランジ用の誘導加熱コイル102を設けてもよい。更に、一対のフランジ5を加熱するために、各フランジ5におけるウェブ3と反対側の面に対向する位置に、フランジ用の誘導加熱コイル102をそれぞれ設けた場合であっても、加熱が必要な一方のフランジ5のみを選択的に誘導加熱するようにしてもよい。
【0069】
なお、本実施形態の場合、フランジ用の誘導加熱コイル102、102は、長さ方向の大きさが、いずれも、形鋼1のフランジ5の幅方向の長さ(図3A中においては鉛直方向長さ)よりも大きく形成されていて、フランジの全幅にわたって安定的に誘導加熱を行うことができるようになっている。
【0070】
また、加熱対象である形鋼1が図2Cに示したようなハット型鋼矢板である場合、一対のフランジ5は、ウェブ3から離れるに従って相互に離間するように、ウェブ3に対して一定角度傾斜した状態となっている。この場合のフランジ用の誘導加熱コイルは、各フランジにおけるウェブと反対側の面に沿って、各フランジのウェブ側(基端側)からアーム部側(先端側)の方向(即ち、フランジの幅方向)に延びるバー状に形成された構成となっている。
【0071】
更に、ウェブの幅方向の一端のみにフランジが設けられた形鋼の場合、そのフランジにおけるウェブと反対側の面と対向する位置に、そのフランジを加熱するフランジ用の誘導加熱コイルが設けられていればよい。
【0072】
ここで、フランジ用の誘導加熱コイルによって形鋼のフランジを誘導加熱により加熱するに際しては、フランジ用の誘導加熱コイルと、そのフランジ用の誘導加熱コイルの加熱対象であるフランジとの間の離隔距離(図3Bにおいて、フランジ5と、そのフランジ5と対向するフランジ用の誘導加熱コイル102との間の距離d’)は、2mm〜20mmの範囲であることが好ましい。
【0073】
フランジ用の誘導加熱コイルと加熱対象のフランジとの間の離隔距離が2mm未満である場合には、フランジ用の誘導加熱コイルとそれに対向するフランジとが接触してしまう可能性が高くなるため、好ましくなく、一方で、フランジ用の誘導加熱コイルと加熱対象のフランジとの間の離隔距離が20mm超である場合には、フランジ用の誘導加熱コイルによるフランジの加熱効率が低下するため、好ましくない。フランジ用の誘導加熱コイルと加熱対象のフランジとの間の離隔距離を2mm〜20mmの範囲とすることで、フランジ用の誘導加熱コイルとフランジとの接触を防止しつつ、効率良く形鋼を加熱することが可能となる。なお、フランジ用の誘導加熱コイルとフランジとが接触する可能性をより低減し、フランジ用の誘導加熱コイルによるフランジの加熱効率をより高めるため、フランジ用の誘導加熱コイルと加熱対象のフランジとの間の離隔距離は5mm〜10mmの範囲とすることがより好ましい。
【0074】
なお、ウェブ用の誘導加熱コイルと、ウェブにおける上面側のウェブ面との間の離間距離(図3A中の符号d)については、フランジ用の誘導加熱コイルの有無に関わらず、前述の通りである。
【0075】
また、フランジ用の誘導加熱コイル102により形鋼1のフランジ5を加熱するに際して、このフランジ用の誘導加熱コイル102により加熱するフランジ5の部位の搬送方向に沿う方向の長さについては、加熱する部位の肉厚、即ち、フランジ5の厚さに対応する長さとすることが好ましい。この点については、前述した、ウェブ用の誘導加熱コイル101により加熱するウェブ3の部位の搬送方向に沿う方向の長さを、加熱する部位の肉厚に対応する長さとすることが好ましいことと同様の理由である。
【0076】
これにより、形鋼1のフランジ5における、鋸断機21による鋸断位置を、フランジ5の厚さ方向に対しても安定的且つ確実に加熱することができるため、鋸断機21によるフランジ5の鋸断、ひいては形鋼1の鋸断をより安定的に行うことが可能となる。
【0077】
なお、フランジ用の誘導加熱コイル102は、製造設備10で製造される形鋼1のフランジ5の幅にあわせて複数種類準備しておき、製造される形鋼1のフランジ5に応じて適宜選択されることが好ましい。また、フランジ用の誘導加熱コイル102は、その製造設備10で製造される形鋼1のフランジ5の最大幅に適合するような大きさを有していることが好ましい。このようにすることで、製造設備10において製造される形鋼のサイズが変化する場合であっても、製造される形鋼にあわせて適切に誘導加熱処理を実施することが可能となる。
【0078】
以下では、上記の構成を有する製造設備10を用いて形鋼1を製造する方法について、説明する。
【0079】
本実施形態における形鋼の製造方法は、加熱された鋼を、ウェブ及びそのウェブの幅方向の少なくとも一端側に設けられたフランジを備えた形鋼に圧延する圧延工程と、圧延された形鋼を水冷する冷却工程と、形鋼の一部を誘導加熱により加熱する誘導加熱工程と、誘導加熱工程において加熱した部位を鋸断機により鋸断する鋸断工程とを含んでいる。
【0080】
具体的に、圧延工程では、加熱炉11によって所定の温度まで加熱された鋼を、圧延装置15により、ウェブ及びウェブの幅方向の少なくとも一端側に設けられたフランジを備えた所望形状の形鋼に圧延する。
【0081】
圧延工程の後、冷却装置17により、圧延された形鋼を600℃未満の温度となるまで水冷する冷却工程を実施し、形鋼に所定の性能を付与するために組織等の作り込みを行う。
【0082】
冷却工程の後、形鋼におけるウェブのウェブ面が上下方向に向いた状態で、誘導加熱装置19により、冷却した形鋼の一部を、600℃以上の温度となるまで加熱する誘導加熱工程を実施する。
【0083】
このとき、かかる誘導加熱工程では、誘導加熱装置19において、形鋼1のウェブ3における上下のウェブ面のうちの上方側のウェブ面3aと対向する位置にのみ設けた、ウェブの幅方向に沿う方向に延びるバー状に形成したウェブ用の誘導加熱コイル101によって、ウェブ3の所定の部位を誘導加熱により加熱する。これにより、ウェブ3の鋸断対象部位が、ウェブの幅方向に沿う方向に、即ち鋸断工程において形鋼1を鋸断する方向に誘導加熱されることとなる。
【0084】
なお、誘導加熱装置19は、形鋼1のウェブ3の下方側には、ウェブ3を加熱する加熱部材を有していないため、誘導加熱工程においては、形鋼1のウェブ3における下方側のウェブ面3b側からは加熱しない。
【0085】
一方で、誘導加熱装置19がフランジ用の誘導加熱コイル102を備えている場合においては、フランジ用の誘導加熱コイル102が、形鋼1のフランジ5におけるそのフランジ用の誘導加熱コイル102との対向面を加熱する。これにより、形鋼1のウェブ3の鋸断対象部位に加えて、フランジ5の鋸断対象部位も誘導加熱されるため、次工程の鋸断工程において形鋼1を鋸断する際に、形鋼1の切断抵抗の増大を可及的に抑えることができ、より安定的な鋸断及び鋸断機21の鋸刃の消耗を可能な限り抑止することができる。
【0086】
誘導加熱工程の後、鋸断機21により鋸断工程を実施する。この鋸断工程は、誘導加熱工程により加熱されたウェブ3の加熱部位に対応する位置から鋸断を開始する。鋸断工程では、形鋼1をウェブ3の幅方向に沿う方向に鋸断する。このとき、形鋼1のウェブ3(フランジ用の誘導加熱コイル102による加熱を行っている場合は、更にフランジ5)の鋸断対象部位を誘導加熱工程において600℃以上に加熱しているため、鋸断機21による鋸断を容易かつ安定的に行うことができる。
【0087】
鋸断機21による形鋼1の鋸断は、例えば、形鋼1におけるウェブ3のウェブ面が上下方向に向いた状態で、鋸断機21の鋸刃を、この鋸刃の初期位置から搬送ライン13を横切る方向に移動することにより行う。より具体的に、仮に形鋼1が、図2A及び図2B、あるいは図3A及び図3Bに示すようなH形鋼や、図2Cに示すようなハット型鋼矢板であった場合には、鋸断機21の鋸刃を初期位置から移動させることにより、形鋼1の一方のフランジ5側から他方のフランジ方向に向けて鋸断する。これにより、形鋼1をウェブ3の幅方向に沿う方向(すなわち形鋼の幅方向)に鋸断することができる。
【0088】
(まとめ)
以上説明したように、本実施形態に係る形鋼の製造設備及び形鋼の製造方法によれば、熱間圧延後に水冷工程を有する形鋼の製造プロセスにおいて、漏電や発火が生じる可能性を抑制して、より安全かつ容易に熱間鋸断を行うことが可能となる。
【0089】
また、本実施形態に係る形鋼の製造設備では、誘導加熱コイルを用いて形鋼の一部分を加熱するため、形鋼のサイズの変更にも対応可能であり、操業性の向上を図ることができる。
【0090】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0091】
1 形鋼
3 ウェブ
3a ウェブにおける上方側のウェブ面
5 フランジ
10 形鋼の製造設備
11 加熱炉
13 搬送ライン
15 圧延装置
17 冷却装置
19 誘導加熱装置
21 鋸断機
23 冷却床
101 ウェブ用の誘導加熱コイル
102 フランジ用の誘導加熱コイル
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B