特許第6753345号(P6753345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753345伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びその成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753345
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20200831BHJP
   D04H 3/04 20120101ALI20200831BHJP
【FI】
   C08L23/08
   D04H3/04
【請求項の数】2
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-59169(P2017-59169)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-162352(P2018-162352A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】平本 知己
(72)【発明者】
【氏名】福田 真樹
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−138613(JP,A)
【文献】 特開昭63−275769(JP,A)
【文献】 特開2014−189608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特性(a1)〜(a4)を有するエチレン・α−オレフィン共重合体10〜30質量%と、下記特性(b1)〜(b2)を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)70〜90質量%とを含有し、下記特性(I)〜(V)を有する伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物。
特性(a1):温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.5g/10分である。
特性(a2):密度が0.900〜0.930g/cmである。
特性(a3):検出器として示差屈折計、粘度検出器及び光散乱検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置により測定される分岐指数(g’)の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が0.40〜0.85である。
特性(a4):クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50質量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、40〜80質量%である。
特性(b1):MFRが0.1〜1.5g/10分である。
特性(b2):酢酸ビニル含有量が5〜20質量%である。
特性(I):MFRが0.1〜1.5g/10分である。
特性(II):23℃における曲げ弾性率が80〜250MPaである。
特性(III):190℃における溶融張力が75mN以上である。
特性(IV):23℃における引張衝撃強度が300KJ/m以上である。
特性(V):示差走査熱量計(DSC)で測定される融点ピークの1つが106℃以下である。
【請求項2】
請求項1に記載の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物で構成される成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びその成形体に関し、さらに詳しくは、成形加工性、特にネットを構成する材料ストランド同士の接着強度に優れ、ネット成形時の延伸工程において融着部の剥離が少なく、安定生産が可能な伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びそれからなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蜜柑等の果物を入れる所謂「みかんネット」に代表される伸縮棒ネットは、柔軟性、伸縮性、破断強度が求められる。その性能を満足するために、伸縮棒ネットを成形する際に、押し出される材料ストランド同士の強い接着強度が不可欠である。
伸縮棒ネットは、押し出された材料が細い溶融ストランドであり、当該ストランド同士が接触することにより接触部分が生成し、網目構造が形成される。その際、強い網目構造を形成するためには、溶融ストランド同士を強く接触させることが好ましい。また、伸縮棒ネットの伸縮性を発現させるためには、ネットの成形工程においてネットが一度強い延伸を経るが、ストランドの材料強度が低い、又はストランドの接触部分の強度が弱いと、ネットは成形工程の途中で破断し穴が開いてしまうという問題がある。
【0003】
特許文献1(特公平7−30216号公報)には、分岐状低密度ポリエチレン80〜95重量部に線状低密度ポリエチレン20〜5重量部を配合してなる押出ネット用ポリエチレン樹脂組成物が開示され、従来のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)に比べて強度及び弾力性が優れるとされている。
しかしながら、分岐状低密度ポリエチレンを主成分とした場合、組成物の融点がEVAより高くなる傾向にあるため、ネット構造を形成する際の溶融ストランド同士の接着が不十分となり、接触部分の融着強度が低くなる場合がある。また、当該組成物は、EVAを含有する物より硬くなるため、製品の感触が硬くなったり、内容物を傷つけてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−30216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、成形加工性に優れ、かつ柔軟性に優れた伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びその成形体を提供することを課題とする。特に、ネットを構成する材料ストランド同士の接着強度に優れ、ネット成形時の延伸工程において融着部の剥離が少なく、安定生産が可能な伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びそれからなる成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の長鎖分岐構造を有する特定のポリエチレンと、特定のインデックスを有するエチレン−酢酸ビニル共重合体を所定の割合で混合したポリエチレン樹脂組成物が、上述の課題を解決し良好な特性を示すことを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、下記特性(a1)〜(a4)を有するポリエチレン(A)10〜30質量%と、下記特性(b1)〜(b2)を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)70〜90質量%とを含有し、下記特性(I)〜(V)を有することを特徴とする。
特性(a1):温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.5g/10分である。
特性(a2):密度が0.900〜0.930g/cmである。
特性(a3):検出器として示差屈折計、粘度検出器及び光散乱検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置により測定される分岐指数(g’)の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が0.40〜0.85である。
特性(a4):クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50質量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、40〜80質量%である。
特性(b1):MFRが0.1〜1.5g/10分である。
特性(b2):酢酸ビニル含有量が5〜20質量%である。
特性(I):MFRが0.1〜1.5g/10分である。
特性(II):23℃における曲げ弾性率が80〜250MPaである。
特性(III):190℃における溶融張力が75mN以上である。
特性(IV):23℃における引張衝撃強度が300KJ/m以上である。
特性(V):示差走査熱量計(DSC)で測定される融点ピークの1つが106℃以下である。
【0008】
本発明の成形体は、前記伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、成形加工性に優れ、かつ柔軟性に優れており、特に伸縮棒ネットの材料として有用な材料を提供することができる。特に、ネットを構成する材料ストランド同士の接着強度に優れ、ネット成形時の延伸工程において融着部の剥離が少なく、安定生産が可能な伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びそれからなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、下記特性(a1)〜(a4)を有するポリエチレン(A)10〜30質量%と、下記特性(b1)〜(b2)を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)70〜90質量%とを含有し、下記特性(I)〜(V)を有することを特徴とする。
特性(a1):温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.5g/10分である。
特性(a2):密度が0.900〜0.930g/cmである。
特性(a3):検出器として示差屈折計、粘度検出器及び光散乱検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置により測定される分岐指数(g’)の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が0.40〜0.85である。
特性(a4):クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50質量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、40〜80質量%である。
特性(b1):MFRが0.1〜1.5g/10分である。
特性(b2):酢酸ビニル含有量が5〜20質量%である。
特性(I):MFRが0.1〜1.5g/10分である。
特性(II):23℃における曲げ弾性率が80〜250MPaである。
特性(III):190℃における溶融張力が75mN以上である。
特性(IV):23℃における引張衝撃強度が300KJ/m以上である。
特性(V):示差走査熱量計(DSC)で測定される融点ピークの1つが106℃以下である。
【0011】
以下、本発明のポリエチレン樹脂組成物及びその用途などについて、項目毎に詳細に説明する。また、本明細書において数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
1.ポリエチレン(A)
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、下記特性(a1)〜(a4)を満足することが必要である。
特性(a1):温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.5g/10分である。
特性(a2):密度が0.900〜0.930g/cmである。
特性(a3):検出器として示差屈折計、粘度検出器及び光散乱検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置により測定される分岐指数(g’)の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が0.40〜0.85である。
特性(a4):クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50質量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、40〜80質量%である。
【0013】
1−1.特性(a1)MFR
ポリエチレン(A)のMFRは、0.1〜1.5g/10分、好ましくは0.1〜0.5g/10分である。
MFRが0.1g/10分以上では伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物の成形加工性、特に溶融流動性が安定し、MFRが1.5g/10分以下であると成形体の衝撃強度が良好となる。
なお、本明細書で、エチレン系重合体、ポリエチレン樹脂組成物のMFRは、JIS K7210の「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、190℃、2.16kg荷重の条件で測定したときの値をいう。
ポリエチレン(A)のMFRの調整は、エチレン重合中に共存させる連鎖移動剤(水素等)の量を変化させるか、重合温度を変化させることによって、調整することができ、水素の量を増加させる又は重合温度を高くすることにより、大きくすることができる。
【0014】
1−2.特性(a2)密度
ポリエチレン(A)の密度は、0.900g/cm以上0.930g/cm以下、好ましくは0.915〜0.924g/cmである。
密度がこの範囲にあると、成形体の剛性と耐衝撃性のバランスが優れる。また、密度が0.900g/cm以上では剛性が向上し、製品のコシが低くなることを抑制し、重量物を入れた場合、その重さを支えきれず伸びて破断してしまうことを抑制できる。また、密度が0.930g/cm以下であると製品のコシが強くなり過ぎることを抑制し、内容物の傷つけを抑制できる。
なお、本明細書で、ポリエチレンの密度は、以下の方法で測定したときの値をいう。
密度の調整は、例えば、エチレンと共重合させるα−オレフィンの量を変化させることによって行うことができ、α−オレフィンの量を増加させると小さくすることができる。
【0015】
密度は、以下の方法で測定することができる。即ち、ポリエチレンのペレットを熱プレスして2mm厚のプレスシートを作成し、該シートを1000ml容量のビーカーに入れ蒸留水を満たし、時計皿で蓋をしてマントルヒーターで加熱する。蒸留水が沸騰してから60分間煮沸後、ビーカーを木製台の上に置き放冷する。この時60分煮沸後の沸騰蒸留水は500mlとし室温になるまでの時間は60分以下にならないように調整する。また、試験シートは、ビーカー及び水面に接しないように水中のほぼ中央部に浸漬する。シートを23℃、湿度50%の条件で、16時間以上24時間以内でアニーリングを行った後、縦横2mmになるように打ち抜き、試験温度23℃で、JIS K7112の「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準拠して、測定する。
【0016】
1−3.特性(a3)gc
ポリエチレン(A)は、検出器として示差屈折計、粘度検出器及び光散乱検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置により測定される分岐指数(g’)の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が、0.40〜0.85、好ましくは0.50〜0.80、更に好ましくは0.50〜0.77、特に好ましくは0.51〜0.75である。g値が0.85以下であるとポリオレフィン系樹脂にブレンドした場合の成形加工性の改良効果を良好に発現できる。g値が0.40以上であると、該ポリオレフィン樹脂の成形加工性は低下するが、衝撃強度が良好となり、所望の透明性が得られる傾向がある。
なお、本発明で、ポリエチレン(A)のg値は、下記のGPC−VIS測定から算出する分子量分布曲線や分岐指数(g’)を用いた長鎖分岐量の評価指標である。
分岐指数g’の分子量10万から100万の間での最低値(gc)は、主に、重合触媒及び重合条件を選択することにより、所定の範囲とすることができ、好ましくは、特定のメタロセン触媒を使用することにより、所定の範囲とすることができる。
【0017】
分岐指数g’の分子量10万から100万の間での最低値(gc)は、ポリエチレン成分(b)が、特定の長鎖分岐構造を有していることを反映しているものである。そして、例えば、エチレン系重合体に長鎖分岐を導入できる「遷移金属を含む触媒」は、例えば、フィリップス系触媒などではポリエチレン分子鎖の中にごく少数の長鎖分岐が導入され、メタロセン系触媒でも長鎖分岐を導入することができる。通常この長鎖分岐はごくわずかしか含まれないため、構造の定量的な解析が難しいが、主鎖炭素10000当たり1個以下でもポリエチレンの溶融物性、したがって成形加工性に著しい影響を与える。これらの触媒による長鎖分岐生成機構としては、公知論文による報告例を参照することができる。また、フィリップス系触媒の場合の長鎖分岐生成機構は、エチレンへの連鎖移動によって末端ビニル基を有するポリエチレン(マクロマー)が生成し、次にマクロモノマーが近隣活性点の成長鎖のクロム−炭素結合に再挿入し、さらにエチレンが挿入し、成長反応が続いた後、エチレンへの連鎖移動反応が起きると、長鎖分岐を有するポリエチレンが生成すると考えられている。さらに、これらの触媒によるエチレン系重合体の長鎖分岐の量の制御方法に関しては、マクロモノマーが再挿入することで長鎖分岐が生成するという機構を考えると、活性点同士が近い距離に存在していると、他の活性点で生成したマクロモノマーが挿入しやすくなることになり、長鎖分岐の量が増えることになる。
長鎖分岐の量の制御方法として、例えば、触媒の活性点同士が近い距離に存在することによりエチレン系重合体の長鎖分岐の量が増えることや、また、表面積の小さい担体を用いたり、活性種の原子の担持量を増やしたりして、単位表面積当たりの活性種の原子の量を増加させることにより、エチレン系重合体の長鎖分岐の量が増す傾向が現れること、さらに、クロム触媒の場合、賦活温度を上げるほど長鎖分岐の量を増やすことができる。
【0018】
[GPC−VISによる分岐構造解析]
示差屈折計(RI)及び粘度検出器(Viscometer)を装備したGPC装置として、Waters社のAlliance GPCV2000を用いることができる。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)Wyatt Technology社のDAWN−Eを用いることができる。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続する。移動相溶媒は、1,2,4−トリクロロベンゼン(酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。流量は1mL/分である。カラムは、東ソー社 GMHHR−H(S) HTを2本連結して用いることができる。カラム、試料注入部及び各検出器の温度は、140℃である。試料濃度は1mg/mLとする。注入量(サンプルループ容量)は0.2175mLである。MALLSから得られる絶対分子量(M)、慣性二乗半径(Rg)及びViscometerから得られる極限粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、以下の文献を参考にして計算を行なう。
参考文献:
1.Developments in polymer characterization,vol.4.Essex:Applied Science;1984.Chapter1.
2.Polymer,45,6495−6505(2004)
3.Macromolecules,33,2424−2436(2000)
4.Macromolecules,33,6945−6952(2000)
【0019】
[分岐指数(g)等の算出]
分岐指数(g’)は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる極限粘度(ηbranch)と、別途、線形ポリマーを測定して得られる極限粘度(ηlin)との比(ηbranch/ηlin)として算出する。
ポリマー分子に長鎖分岐が導入されると、同じ分子量の線形のポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなる。慣性半径が小さくなると極限粘度が小さくなることから、長鎖分岐が導入されるに従い同じ分子量の線形ポリマーの極限粘度(ηlin)に対する分岐ポリマーの極限粘度(ηbranch)の比(ηbranch/ηlin)は小さくなっていく。したがって分岐指数(g’=ηbranch/ηlin)が1より小さい値になる場合には分岐が導入されていることを意味し、その値が小さくなるに従い導入されている長鎖分岐が増大していくことを意味する。特に本発明では、MALLSから得られる絶対分子量として、分子量10万から100万における上記g’の最低値を、gとして算出する。ここで、線形ポリマーとしては、直鎖ポリエチレンStandard Reference Material 1475a(National Institute of Standards & Technology)を用いることができる。
【0020】
1−4.特性(a4)W+W
ポリエチレン(A)は、クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が当該エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量以上の成分の割合(W)、及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50質量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が当該エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、40〜80質量%、好ましくは41〜70質量%、更に好ましくは43質量%を超え、56質量%未満、特に好ましくは45質量%を超え、56質量%未満である。
+W値が40質量%以上であると、ポリエチレン樹脂の衝撃強度向上に効果的に作用する低密度高分子量成分の割合が増加し、該ポリエチレン樹脂の剛性向上に効果的に作用する高密度低分子量成分が増加したりする傾向がある。
一方、W+W値が80質量%以下であると、該高密度低分子量成分と該低密度高分子量成分の含有量のバランスに優れ、ポリエチレン樹脂の物性改質効果が期待通り発現し、該高密度低分子量成分と該低密度高分子量成分の分散性が良好になって、所望の透明性が得られ、ゲルの発生を抑制できる傾向がある。
+Wの値は、主に、重合触媒及び重合条件を選択することにより、所定の範囲とすることができ、好ましくは、特定のメタロセン触媒を使用することにより、所定の範囲とすることができる。
ポリエチレン(A)のW+Wの値を制御する重合触媒及び重合条件は、当該値の範囲に該当する重合体を製造できるものであれば特に限定されるものでないが、ポリエチレン(A)の製造に好適な、工業レベルにおける経済性を満足する技術例として、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒が挙げられ、中でもマクロマーを生成するメタロセン触媒、マクロマーを共重合するメタロセン触媒等の長鎖分岐生成型のメタロセン触媒が好ましい。
【0021】
[CFCの測定条件]
クロス分別クロマトグラフ(CFC)は、結晶性分別を行う昇温溶出分別(TREF)部と分子量分別を行うゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)部とから成る。
このCFCを用いた分析は、次のようにして行われる。
まず、エチレン・α−オレフィン共重合体のポリマーサンプルを0.5mg/mLのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含むオルトジクロロベンゼン(ODCB)に140℃で完全に溶解した後、この溶液を装置のサンプルループを経て140℃に保持されたTREFカラム(不活性ガラスビーズ担体が充填されたカラム)に注入し、所定の第1溶出温度まで徐々に冷却しポリマーサンプルを結晶化させる。所定の温度で30分保持した後、ODCBをTREFカラムに通液することにより、溶出成分がGPC部に注入されて分子量分別が行われ、赤外検出器(FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器、測定波長3.42μm)によりクロマトグラムが得られる。その間、TREF部では次の溶出温度に昇温され、第1溶出温度のクロマトグラムが得られた後、第2溶出温度での溶出成分がGPC部に注入される。以下、同様の操作を繰り返すことにより、各溶出温度での溶出成分のクロマトグラムが得られる。
【0022】
なお、CFCの測定条件は、以下の通りである。
装置:ダイヤインスツルメンツ社製CFC−T102L
GPCカラム:昭和電工社製AD−806MS(3本を直列に接続)
溶媒:ODCB
サンプル濃度:3mg/mL
注入量:0.4mL
結晶化速度:1℃/分
溶媒流速:1mL/分
GPC測定時間:34分
GPC測定後安定時間:5分
溶出温度:0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,49,52,55,58,61,64,67,70,73,76,79,82,85,88,91,94,97,100,102,120,140
【0023】
[データ解析]
測定によって得られた各溶出温度における溶出成分のクロマトグラムから、総和が100%となるように規格化された溶出量(クロマトグラムの面積に比例)が求められる。
更に、溶出温度に対する積分溶出曲線が計算される。この積分溶出曲線を温度で微分して、微分溶出曲線が求められる。
また、各クロマトグラムから、次の手順により分子量分布が求められる。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー社製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。
較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PE:K=3.92×10−4、α=0.733
なお、第1溶出温度でのクロマトグラムでは、溶媒に添加したBHTによるピークと溶出成分の低分子量側とが重なる場合があるが、その際は、ベースラインを引き分子量分布を求める区間を定める。
更に、下記の表1のように、各溶出温度における溶出割合(表中の質量%)と重量平均分子量(表中のMw)からwhole(全体)の重量平均分子量を求める。
【0024】
【表1】
【0025】
また、各溶出温度における分子量分布及び溶出量から、文献(S.Nakano,Y.Goto,”Development of automatic Cross Fractionation:Combination of Crystallizability Fractionation and Molecular Weight Fractionation”,J.Appl.Polym.Sci.,vol.26,pp.4217−4231(1981))の方法に従って、溶出温度と分子量に関する溶出量を等高線として示すグラフ(等高線図)を得る。
上記の等高線図を用いて、以下の成分量を求める。
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が当該エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量未満の成分の割合。
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が当該エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量以上の成分の割合。
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が当該エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量未満の成分の割合。
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50質量%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が当該エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量以上の成分の割合。
なお、W+W+W+W=100である。
【0026】
1−5.特性(a5)23℃における曲げ弾性率
ポリエチレン(A)は、上記特性(a1)〜(a4)に加えて更に、特性(a5)を満たすことが好ましい。
ポリエチレン(A)は、23℃における曲げ弾性率が80MPa以上450MPa以下であることが好ましく、更に好ましくは100MPa以上350MPa以下である。曲げ弾性率が80MPa以上では、製品の剛性が良好となり、重量が重い商品を入れた場合の破断を抑制することができる。一方、曲げ弾性率が450MPa以下では製品のコシが強くなり過ぎることを抑制し、内容物の傷つけを抑制することができる。
ここで、23℃における曲げ弾性率は、JIS K6922−2に準拠して圧縮成形で作成した厚さ4mm成形シートより10mm×80×4mmtの試験片を切出し、JIS K7171で測定される値である。
【0027】
2.エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)は、下記の特性(b1)及び(b2)を満足することが必要である。
特性(b1):温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜1.5g/10分である。
特性(b2):酢酸ビニル含有量が、5質量%以上20質量%以下である。
【0028】
2−1.特性(b1)MFR
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)のMFRは、0.1〜1.5g/10分、好ましくは0.1〜1.0g/10分である。
MFRが0.1g/10分以上では伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物の成形加工性、特に溶融流動性が安定し、MFRが1.5g/10分以下であると成形体の衝撃強度が良好となる。
なお、本明細書で、エチレン系重合体、ポリエチレン樹脂組成物のMFRは、JIS K7210の「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、190℃、2.16kg荷重の条件で測定したときの値をいう。
MFRの調整は、ベースとなるポリエチレンのMFRを高くすることにより大きくすることができる。
【0029】
2−2.特性(b2)酢酸ビニル含有量
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の酢酸ビニル含有量は、5質量%以上20質量%以下、好ましくは5質量%以上15質量%以下である。5質量%以上では融点が低くなり、ネット同士の融着が上手くいき、融着強度を強くすることができ、製品の剛性が低くなり、製品のコシが強くなり過ぎることを抑制できる。また、15質量%以下ではEVAの製造が容易である。酢酸ビニル含有量はJIS K7192「プラスチック−エチレン・酢酸ビニル樹脂(EVAC)−酢酸ビニル含有量の測定方法」に準拠し測定した値をいう。
【0030】
2−3.特性(b3)23℃における曲げ弾性率
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)は、上記特性(b1)〜(b2)に加えて更に、特性(b3)を満たすことが好ましい。
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)は、23℃における曲げ弾性率が50MPa以上140MPa以下であることが好ましい。曲げ弾性率が50MPa以上では、製品の剛性が良好となり、重量が重い商品を入れた場合の破断を抑制することができる。一方、曲げ弾性率が140MPa以下では製品のコシが強くなり過ぎることを抑制し、内容物の傷つけを抑制することができる。
ここで、23℃における曲げ弾性率は、上記ポリエチレン(A)と同様の方法で測定される値である。
【0031】
3.伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物の組成
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)を含む。配合割合は、製品剛性(製品のコシ)の面から、ポリエチレン(A)の組成割合が10質量%以上、30質量%以下、エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の組成割合が70質量%以上、90質量%以下である。好ましくはポリエチレン(A)の組成割合が10質量%以上、25質量%以下、エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の組成割合が75質量%以上、90質量%以下、更に好ましくはポリエチレン(A)の組成割合が10質量%以上、20質量%以下、エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の組成割合が80質量%以上、90質量%以下とすることが望ましい。
【0032】
4.伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物の特性
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、下記の特性(I)〜(V)を満足する。
特性(I):MFRが0.1〜1.5g/10分である。
特性(II):23℃における曲げ弾性率が80〜250MPaである。
特性(III):190℃における溶融張力が75mN以上である。
特性(IV):23℃における引張衝撃強度が300KJ/m以上である。
特性(V):示差走査熱量計(DSC)で測定される融点ピークの1つが106℃以下である。
【0033】
4−1.特性(I)MFR
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、MFRが0.1g/10分以上1.5g/10分以下であり、好ましくは0.2g/10分以上0.9g/10分以下である。
MFRがこの範囲にあると、製造時の各工程における成形安定性が優れる。MFRが0.1g/10分以上では押出負荷が小さくなり押出機の吐出が増加し、1.5g/10分以下であると延伸工程で破断をきたすことを抑制できる。
なお、MFRは、上記のMFRの測定方法で測定したときの値をいう。
MFRの調整は、例えば、ポリエチレン(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の配合割合を調製することによって行うことができる。
【0034】
4−2.特性(II)23℃における曲げ弾性率
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、23℃における曲げ弾性率が80MPa以上250MPa以下であり、好ましくは100MPa以上200MPa以下である。曲げ弾性率が80MPa以上では、製品の剛性が良好となり、重量が重い商品を入れた場合の破断を抑制することができる。一方、曲げ弾性率が250MPa以下では製品のコシが強くなり過ぎることを抑制し、内容物の傷つけを抑制することができる。
ここで、23℃における曲げ弾性率は、JIS K6922−2に準拠して圧縮成形で作成した厚さ4mm成形シートより10mm×80×4mmtの試験片を切出し、JIS K7171で測定される値である。
曲げ弾性率は、ポリエチレン(A)の密度を増減させたり、エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の酢酸ビニル量を増減させたりすることにより、調節することができ、更に、例えば、ポリエチレン(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の配合割合を調製することによって行うことができる。
【0035】
4−3.特性(III)190℃における溶融張力(MT)
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、190℃における溶融張力が75mN以上であり、好ましくは120mN以上である。溶融張力が75mN以上では、製造時、接触し合いストランドの接着が良好となり、接着点が外れネットに穴が開くことを抑制できる。特に上限は設けないが、通常は250mN以下である。
ここで、溶融張力は、東洋精機製作所社製キャピログラフ1Bを用い、温度190℃、オリフィス径2.095mm、オリフィス長さ8.0mm、押出速度15mm/分の条件で溶融樹脂を押出し、巻取り機にて3.8m/分の速度で巻き取った時の荷重で、単位はmNである。
また、溶融張力は、MFRを下げたり、ポリエチレン(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の配合割合を調整したりすることで調節することができる。
【0036】
4−4.特性(IV)23℃における引張衝撃強度
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、23℃における引張衝撃強度が300KJ/m以上、好ましくは320KJ/m以上、特に上限は設けないが、通常は1,000KJ/m以下である。引張衝撃強度が300KJ/m以上では、延伸工程で破断をきたすのを抑制できる。
ここで、引張衝撃強度は、JIS K6922−2に準拠して圧縮成形で作成した厚さ4mm成形シートより10mm×80×4mmtの試験片を切出し、ISO 8256で測定される値である。
引張衝撃強度は、ポリエチレン(A)のMFR、密度を増減させたり、エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)のMFR、酢酸ビニル量を増減させたりすることができ、更に、例えば、ポリエチレン(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の配合割合を調整することで調節することができる。
【0037】
4−5.特性(V)融点ピーク
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、少なくとも106℃以下の融点ピークを有する。特に下限は設けないが、通常は70℃以上である。融点ピークが106℃以下では、押し出したストランド同士を良好に接着させることができる。
融点ピークは、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計、商品名「DSC8500」を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で30℃から190℃まで昇温し、190℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で30℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し融点ピークとして求めることができる。
【0038】
5.伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物の製造方法
5−1.ポリエチレン(A)の製造
本発明に用いられるポリエチレン(A)のポリエチレン系樹脂の種類としては、エチレン系重合体であることが好ましく、エチレンの単独重合体及び/又はエチレンとα−オレフィンとの共重合体であることが好ましい。
ポリエチレン(A)は、エチレンの単独重合又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等との共重合により得られる。また、目的に応じてジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、ポリエチレン(A)の重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量は、0〜40モル%、好ましくは0〜30モル%である。
本発明に係るポリエチレン(A)は、オレフィン重合用触媒を用いて重合されたエチレン系重合体が好ましい。
本発明に係るポリエチレン(A)のエチレン系重合体の原料モノマー、重合方法等は、上記に記載のポリエチレン(A)のエチレン系重合体の場合と同様である。
【0039】
本発明におけるポリエチレン(A)のエチレン系重合体は、オレフィン重合用触媒を用いてエチレンを単独重合又は上述のα−オレフィンと共重合する方法によって実施される。
オレフィン重合用触媒としては、今日様々な種類のものが知られており、該触媒成分の構成及び重合条件や後処理条件の工夫の範囲内において上記エチレン系重合体が準備可能であれば何ら制限されるものではないが、上記エチレン系重合体の製造に好適な、工業レベルにおける経済性を満足する技術例として、(I)メタロセン触媒、(II)ポストメタロセン触媒が挙げられ、中でも(I)メタロセン触媒が好ましく、更に好ましくは長鎖分岐生成型のメタロセン系触媒が挙げられる。
【0040】
(I)メタロセン触媒
ポリエチレン(A)のエチレン系重合体の製造に好適な重合触媒の例として、メタロセン系遷移金属化合物と助触媒成分からなるオレフィン重合触媒であるメタロセン触媒(例えば、「メタロセン触媒による次世代ポリマー工業化技術(上・下巻);1994年インターリサーチ(株)発行」等を参照されたい)は比較的安価で高活性かつ重合プロセス適性に優れ、更には分子量分布及び共重合組成分布が狭いエチレン系重合体が得られることから使用される。
ポリエチレン(A)のエチレン系重合体の製造に好適に使用されるもの等の詳細は、後述する。
【0041】
(II)ポストメタロセン触媒
ポリエチレン(A)のエチレン系重合体の製造に好適な重合触媒の例として、先述のメタロセン系遷移金属化合物以外の均一系金属錯体(非メタロセン錯体)を使用するオレフィン重合触媒であるポストメタロセン触媒(例えば、「ポリエチレン技術読本;2001年工業調査会(株)発行」、「均一系遷移金属触媒によるリビング重合;1999年アイピーシー(株)発行」、「触媒活用大辞典;2004年工業調査会発行」等を参照されたい)が、比較的安価で活性に優れ、更には分子量分布及び共重合組成分布が狭いエチレン系重合体が得られることから使用される。
【0042】
中でも、特表平10−513489号公報、特表2002−521538号公報、特表2000−516295号公報、特表2000−514132号公報、Macromolecules,1996,p5241、JACS,1997,119,p3830、JACS,1999,121,p5798、Organometallics,1998,p3155等に開示されている少なくとも2個のN原子を有する配位子が該2個のN原子を通じて周期表第3〜11族の遷移金属と結合することにより形成される該遷移金属を含む四〜八員環キレート構造を有する遷移金属のビスイミド化合物、イミノアミド化合物、ビスアミド化合物が好適に使用されるものとして挙げられる。
【0043】
また、特開平6−136048号公報等に開示されている少なくとも2個のO原子又はS原子を有する配位子が該2個のO原子又はS原子を通じて周期表第3〜11族の遷移金属と結合することにより形成される該遷移金属を含む四〜八員環キレート構造を有する遷移金属のビスヒドロカルビルオキシ化合物、ビスヒドロカルビルチオ化合物や、特表2000−514132号公報、特表2003−535107号公報、特開2007−77395号公報等に開示されている少なくとも1個のN原子、S原子あるいはP原子とカルボキシル基(COO)を有する配位子が該N原子、S原子あるいはP原子とカルボキシル基を通じて周期表第3〜11族の遷移金属と結合することにより形成される該遷移金属を含む四〜八員環キレート構造を有する遷移金属のイミノカルボキシレート化合物、チオカルボキシレート化合物、ホスフィンカルボキシレート化合物が好適に使用されるものとして挙げられる。
【0044】
更に、特表2004−517933号公報等に開示されている少なくとも1個のP原子あるいはN原子とカルボニル基(CO)を有する配位子が該P原子あるいはN原子とカルボニル基を通じて周期表第3〜11族の遷移金属と結合することにより形成される該遷移金属を含む四〜八員環キレート構造を有する遷移金属のβ−ケト−ホスフィン化合物、β−ケト−イミド化合物、β−ケト−アミド化合物や、特開昭64−14217号公報、特表2004−517933号公報等に開示されている少なくとも1個のP原子あるいはN原子とO原子を有する配位子が該P原子あるいはN原子とO原子を通じて周期表第3〜11族の遷移金属と結合することにより形成される該遷移金属を含む四〜八員環キレート構造を有する遷移金属のγ−オキシ−ホスフィン化合物、γ−オキシ−イミド化合物、γ−オキシ−アミド化合物や、特開平6−184214号公報、特開平10−195090号公報、特表2002−521534号公報、特開2007−46032号公報、特開2007−77395号公報等に開示されている少なくとも1個のP原子とスルホン酸残基(SO)を有する配位子が該P原子とスルホン酸残基を通じて周期表第3〜11族の遷移金属と結合することにより形成される該遷移金属を含む四〜八員環キレート構造を有する遷移金属のγ−スルホナト−ホスフィン化合物や、特開平11−315109号、Chemical Communications(2003),(18),2272−2273等に開示されている少なくともN原子とフェノキシ基を有する配位子が該N原子とフェノキシ基のO原子を通じて周期表第3〜11族の遷移金属と結合することにより形成される該遷移金属を含む四〜八員環キレート構造を有する遷移金属のフェノキシイミン化合物、フェノキシアミン化合物が好適に使用される。
【0045】
これらの非メタロセン錯体触媒としては、中心金属が周期表4B族であるTi、Zr、HfやV、Cr、Fe、Co、Ni、Pdのものが高活性を示すのでより好適に使用され、中心金属がTi、Zr、Hf、Fe、Ni、Pdのものが更に好適に使用される。ただし、これらのポストメタロセン触媒の中には、生成エチレン系重合体中に長鎖分岐構造が含まれたり、メチル分岐を中心とする短鎖分岐構造が含まれたり、分子量分布が広がったりする傾向を有する場合があるので、本発明に用いられるポリエチレン(A)として使用する際は上記特性(a1)〜(a4)を満たすことに特に注意が必要である。
【0046】
本発明に用いられるポリエチレン(A)のエチレン系重合体の製造について、エチレンの重合又は共重合を行うに際しては、スラリー重合、溶液重合、液状モノマー中でのバルク重合、懸濁重合のような液相重合法あるいは気相重合法など、いずれの方法も採用することができる。スラリー重合法の場合、パイプループ型反応器を用いるスラリー重合法、オートクレーブ型反応器を用いるスラリー重合法、いずれも用いることができる。工業的な重合プロセスに関しては、松浦一雄・三上尚孝編著、「ポリエチレン技術読本」、148頁、2001年、工業調査会に詳細に記載されている。重合方法としてはスラリー重合法又は気相重合法が好ましく、気相重合法が更に好ましい。
【0047】
液相重合法は、通常炭化水素溶媒中で行う。炭化水素溶媒としては、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素の単独又は混合物あるいは液状モノマーが用いられる。気相重合法は、不活性ガス共存下にて、流動床、攪拌床等の通常知られる重合法を採用でき、場合により重合熱除去の媒体を共存させる、いわゆるコンデンシングモードを採用することもできる。
【0048】
本発明におけるポリエチレン(A)のエチレン系重合体の製造に好適な、工業レベルにおける経済性を満足する遷移金属を含むオレフィン重合用触媒は、(I)メタロセン触媒が、他の触媒に比べて、分子量分布や共重合組成分布が狭いエチレン系重合体を生成するので、該ポリエチレン樹脂組成物や該成形体の機械的特性、透明性の向上の観点で、特に好適である。
【0049】
ポリエチレン(A)のエチレン系重合体として好適な長鎖分岐構造を生成するオレフィン重合用触媒としては、一例として、最近発見されたような架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須触媒成分として使用する方法(特願2010−268037号の発明等)、また、別の一例として、ベンゾインデニル配位子等を有する錯体を触媒成分として使用する方法(特開2006−2098号公報等)、更に別の一例として、メタロセン錯体として架橋ビス(インデニル)配位子又は架橋ビス(アズレニル)配位子又は架橋ビス(シクロペンタジエニル)配位子を有する錯体と、有機アルミニウムオキシ化合物とカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物であるボラン化合物あるいはボレート化合物との混合物を用いた触媒を用いる方法が挙げられる。
【0050】
ポリエチレン(A)のエチレン系重合体として好適な長鎖分岐構造を生成する架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とするオレフィン重合用触媒の一例は、次の触媒成分(a)、触媒成分(b)及び好ましい触媒成分(c)からなるオレフィン重合用触媒として具体的に例示される。
触媒成分(a):一般式(a−1−1)〜(a−1−3)で示されるメタロセン化合物
触媒成分(b):触媒成分(a)のメタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
触媒成分(c):微粒子担体
【0051】
(I)触媒成分(a)
触媒成分(a)は、下記一般式(a−1−1)で示されるメタロセン化合物である
ものが好ましい。
【0052】
【化1】
【0053】
[式(a−1−1)中、Mは、Ti、Zr又はHfのいずれかの遷移金属を示す。X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素若しくは窒素を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基又は炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。QとQは、炭素原子、ケイ素原子又はゲルマニウム原子を示す。Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、4つのRは、結合しているQ及びQと一緒に環を形成していてもよい。mは、0又は1であり、mが0の場合、Qは、R及びRを含む共役5員環と直接結合している。Rは、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素を含む炭素数1〜20の炭化水素基又は炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示すが、複数のRが炭化水素基等であっても下記Rのように結合している炭素原子と一緒に環を形成することはない。Rは、結合する5員環に対して縮合環を形成する炭素数4又は5の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す。Rは、Rの炭素原子と結合する原子又は基であり、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基又は炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示す。nは、0〜10の整数を示し、nが2以上の場合、Rは、結合している炭素原子と一緒に環を形成していてもよい。Rは、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素を含む炭素数1〜20の炭化水素基又は炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示すが、複数のRが炭化水素基等であってもRのように結合している炭素原子と一緒に環を形成することはない。
【0054】
触媒成分(a)のメタロセン化合物は、下記一般式(a−1−2)で示されるものが好ましい。
【0055】
【化2】
【0056】
触媒成分(a)のメタロセン化合物は、下記一般式(a−1−3)で示されるものがより好ましい。
【0057】
【化3】
【0058】
触媒成分(a)であるメタロセン化合物として、特に好ましいものを以下に示す。
ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(ベンゾ[e]インデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、シクロブチリデン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−メチルインデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレン(4−t−ブチルシクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(4−t−ブチルシクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(4−t−ブチルシクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジメチル等が挙げられる。
【0059】
(II)触媒成分(b)
ポリエチレン(A)のエチレン系重合体として好適な長鎖分岐構造を生成する架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とするオレフィン重合用触媒として例示したオレフィン重合用触媒は、上記触媒成分(a)以外に、触媒成分(a)のメタロセン化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を形成する化合物(触媒成分(b))を含む。
【0060】
(III)触媒成分(c)
ポリエチレン(A)のエチレン系重合体として好適な長鎖分岐構造を生成する架橋(シクロペンタジエニル)(インデニル)配位子等を有する錯体を必須成分とするオレフィン重合用触媒として例示したオレフィン重合用触媒は、上記触媒成分(a)以外に、上記触媒成分(b)を含み、好ましくは触媒成分(c)を含む。
【0061】
触媒成分(c)である微粒子担体としては、無機物担体、粒子状ポリマー担体又はこれらの混合物が挙げられる。無機物担体は、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩、炭素質物、又はこれらの混合物が使用可能である。
無機物担体に用いることができる好適な金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、ニッケルなどが挙げられる。
【0062】
5−2.エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の製造
エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の製造方法としては、本発明のエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)が得られる限りにおいていかなる方法を用いてもよく、例えば分子量及び酢酸ビニル単位含有量の異なるエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)同士をブレンドする方法、高圧、高温条件下、ラジカル開始剤を用いたエチレンと酢酸ビニルを共重合する高圧ラジカル重合による方法、等を挙げることができ、高圧ラジカル重合法においては、重合温度と重合圧力は成長速度、停止速度あるいは連鎖移動速度だけでなく、エチレンと酢酸ビニルとの反応性比にも影響を及ぼす。そのため、組成分布を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)は反応器内に温度分布あるいは圧力分布を付与することによって反応性比を変えることで製造できる。また、反応器内にモノマーガスを多点で注入できる場合には、フィードモノマーガス組成を変えることによっても製造することができる。
【0063】
5−3.ポリエチレン(A)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)の混合
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン(A)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)を混合して得られ、それぞれ別に製造したポリエチレン(A)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)を公知の方法により混合することにより製造することができる。
【0064】
本発明の伸縮棒ネット向けエチレン樹脂組成物は、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形品とすることができる。
また、上記の方法により得られる伸縮棒ネット向けエチレン樹脂組成物には、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。
添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上、適宜併用することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能であり、なかでも炭酸カルシウム、タルク及びマイカ等を用いるのが好ましい。いずれの場合でも、上記ポリエチレン樹脂組成物に、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。
【0065】
6.伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物の成形及び用途
伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、従来知られている成形方法を使用することが可能である。
成形品としては、例えば、「みかんネット」「果物ネット」に代表される伸縮棒ネットがある。
【実施例】
【0066】
以下においては、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明し、本発明の卓越性と本発明の構成における優位性を実証するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
[物性の測定方法]
(1)MFR
JIS K7210の「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、190℃、2.16kg荷重の条件で測定した。
【0068】
(2)密度
ポリエチレンのペレットを熱プレスして2mm厚のプレスシートを作成し、該シートを1000ml容量のビーカーに入れ蒸留水を満たし、時計皿で蓋をしてマントルヒーターで加熱した。蒸留水が沸騰してから60分間煮沸後、ビーカーを木製台の上に置き放冷した。この時60分煮沸後の沸騰蒸留水は500mlとし室温になるまでの時間は60分以下にならないように調整した。また、試験シートは、ビーカー及び水面に接しないように水中のほぼ中央部に浸漬した。シートを23℃、湿度50%の条件で、16時間以上24時間以内でアニーリングを行った後、縦横2mmになるように打ち抜き、試験温度23℃で、JIS K7112の「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準拠して、測定した。
【0069】
(3)分岐指数(g
分岐指数(g’)は、サンプルをViscometerで測定して得られる極限粘度(ηbranch)と、別途、線形ポリマーを測定して得られる極限粘度(ηlin)との比(ηbranch/ηlin)として算出した。
【0070】
(4)W+W
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求めた。
クロス分別クロマトグラフ(CFC)は、結晶性分別を行う昇温溶出分別(TREF)部と分子量分別を行うゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)部とから成るものを用いた。
【0071】
(5)酢酸ビニル含有量
JIS K7192「プラスチック−エチレン・酢酸ビニル樹脂(EVAC)−酢酸ビニル含有量の測定方法」に準拠し測定した。
【0072】
(6)23℃における曲げ弾性率
JIS K6922−2に準拠して圧縮成形で作成した厚さ4mm成形シートより10mm×80×4mmtの試験片を切出し、JIS K7171で測定した。
【0073】
(7)190℃における溶融張力
東洋精機製作所社製キャピログラフ1Bを用い、温度190℃、オリフィス径2.095mm、オリフィス長さ8.0mm、押出速度15mm/分の条件で溶融樹脂を押出し、巻取り機にて3.8m/分の速度で巻き取った時の荷重を測定した(単位はmN)。
【0074】
(8)23℃における引張衝撃強度
JIS K6922−2に準拠して圧縮成形で作成した厚さ4mm成形シートより10mm×80×4mmtの試験片を切出し、ISO 8256で測定した。
【0075】
(9)示差走査熱量計(DSC)で測定される融点ピーク温度
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計、商品名「DSC8500」を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で30℃から190℃まで昇温し、190℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で30℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し融点ピークとして求めた。
【0076】
(10)接点強度:
上記190℃における溶融張力と差走査熱量計(DSC)で測定される融点ピーク温度が特性(III)、特性(V)を同時に満足するものを「○」、それ以外を「×」とした。接点強度が「○」の場合、ネット成形時の延伸工程において、融着部の剥離がほとんど発生しなかったが、接点強度が「×」の場合、ネット成形時の延伸工程において、融着部の剥離等の不都合が生じた。
【0077】
(11)延伸強度:
上記23℃における引張衝撃強度が特性(IV)を満足するものを「○」、それ以外を「×」とした。延伸強度が「○」の場合、ネット成形時の延伸工程において、安定して延伸が可能であったが、延伸強度が「×」の場合、ネット成形時の延伸工程において、延伸部分が切断する等の不都合が生じた。
【0078】
(12)製品剛性:
上記23℃における曲げ弾性率が特性(II)を満足するものを「○」、それ以外を「×」とした。製品剛性が「○」の場合、ネット使用時に内容物を傷つけることなく柔軟に取り扱うことができたが、製品剛性が「×」の場合、ネット使用時に内容物を傷つける等の不都合が生じた。
【0079】
(13)総合評価:
上記接点強度、延伸強度、製品剛性を同時に満足するものを「○」、それ以外を「×」とした。
【0080】
[実施例1]
(1)ポリエチレン(A)の製造
<オレフィン重合用触媒の合成>
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに600℃で5時間焼成したシリカ30グラムを入れ、150℃のオイルバスで加熱しながら真空ポンプで1時間減圧乾燥した。別途用意した200ml二口フラスコに窒素雰囲気下で、ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド412ミリグラムを入れ、脱水トルエン80.7mlで溶解した後、更に室温でアルベマール社製の20%メチルアルミノキサン/トルエン溶液83.1mlを加え30分間撹拌した。真空乾燥済みシリカの入った500ml三口フラスコを40℃のオイルバスで加熱及び撹拌しながら、上記ジルコノセン錯体とメチルアルミノキサンの反応物のトルエン溶液を全量加えた。40℃で1時間撹拌した後、40℃に加熱したままトルエン溶媒を減圧留去することで粉状触媒を得た。
<エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造>
上記<オレフィン重合用触媒の合成>で得た粉状触媒を使用して、ヘキセン/エチレンモル比0.40%、水素/エチレンモル比0.49%、窒素濃度を26mol%、全圧を0.8MPaに準備された気相連続重合装置(内容積100L、流動床直径10cm、流動床種ポリマ−(分散剤)1.8kg)に該粉状触媒を0.21g/時間の速さで間欠的に供給しながらガス組成と温度を一定にして重合を行った。また、系内の清浄性を保つためトリエチルアルミニウム(TEA)のヘキサン稀釈溶液0.03mol/Lを15.7ml/hrでガス循環ラインに供給した。その結果、生成ポリエチレンの平均生成速度は345g/時間となった。累積5kg以上のポリエチレンを生成した後に得られたエチレン・1−ヘキセン共重合体のMFRと密度は各々0.30g/10分、0.921g/cmであった。また、gcは、0.67、W+Wは55質量%であった。
【0081】
(2)エチレン−酢酸ビニル共重合体(B)
日本ポリエチレン社製エチレン−酢酸ビニル共重合体:ノバテックTMEVA LV211A(MFR=0.3g/10分、酢酸ビニル含有量=6質量%)を用いた。
【0082】
(3)伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物の製造
ポリエチレン(A)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)とを表2に示す組成割合で溶融混合し、伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物を製造した。当該樹脂組成物の物性及び評価結果を表2に示した。得られた組成物は、成形加工性に優れ、かつ質感に優れた成形体を製造できた。
【0083】
[実施例2〜9]
実施例1に準じて、表2のポリエチレン(A)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)を使用し、表2に示す組成割合で溶融混合し、伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物を製造した。当該樹脂組成物の物性及び評価結果を表2に示した。得られた組成物は、成形加工性に優れ、かつ質感に優れた成形体を製造できた。
【0084】
[比較例1]
MFR 1g/10分、密度0.921g/cmである日本ポリエチレン社製の直鎖状低密度ポリエチレン:ノバテックTMLL UF230の物性及び評価結果を表2に示した。比較例1の樹脂は、成形性、接点強度、延伸強度、製品剛性のいずれも劣っていた。
【0085】
[比較例2]
実施例1に準じて製造したMFR 0.13g/10分、密度0.919g/cmのエチレン系重合体(LCB−LLDPE)の物性及び評価結果を表2に示した。得られた樹脂は成形性、接点強度、製品剛性が劣っていた。
【0086】
[比較例3]
MFR 0.3g/10分である日本ポリエチレン社製エチレン−酢酸ビニル共重合体:ノバテックTMEVA LV211Aの物性及び評価結果を表2に示した。比較例3の樹脂は、引張衝撃強度が低く延伸強度が劣っていた。
【0087】
[比較例4]
実施例1に準じて製造したMFR 0.13g/10分、密度0.919g/cmのエチレン系重合体(LCB−LLDPE)及び日本ポリエチレン社製エチレン−酢酸ビニル共重合体:ノバテックTMEVALV430を使用し、表2に示す組成割合で溶融混合し、伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物を製造した。当該樹脂組成物の物性及び評価結果を表2に示した。得られた組成物は、曲げ弾性率が低く製品剛性が劣っていた。
【0088】
【表2】
【0089】
[評価]
以上のとおり、表2に示す結果から、実施例1〜9と比較例1〜4とを対比すると、本発明によるポリエチレン樹脂組成物及びその成形体は、実施例1〜9に示すとおり、成形加工性、製品剛性のバランスが良好であることが確認された。また、本発明の特定要件を満たさないポリエチレン樹脂組成物及びその成形体は、成形加工性、製品剛性のバランスが実施例1〜9のポリエチレン樹脂組成物に対して見劣りしていた(比較例1〜4)。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物は、成形加工性に優れ、かつ柔軟性に優れており、特に伸縮棒ネットの材料として有用な材料を提供することができ、特に、ネットを構成する材料ストランド同士の接着強度に優れ、ネット成形時の延伸工程において融着部の剥離が少なく、安定生産が可能な伸縮棒ネット用ポリエチレン樹脂組成物及びそれからなる成形体を提供することができるため、産業上極めて有用である。