【文献】
CANAGASABEY,Albert et al.,High-average-power second-harmonic generation from periodically poled silica fibers,OPTICS LETTERS,2009年 4月15日,Vol.34,No.16,pp.2483-2485
【文献】
CABRILLO,C. et al.,Thermally poled silica samples are structually heterogeneous;Electron diffraction evidence of partia,APPLIED PHYSICS LETTERS,2001年 4月 2日,Vol.78,No.14,pp.1991-1993
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記長手方向に沿った前記繰り返し構造の繰り返し周期は、チャープ型周期、互いに異なる複数の単一周期が組み合わされた周期、あるいは、フィボナッチ数列やBarker sequence法に基づいた周期であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の光デバイス。
前記第2クラッド領域内において前記第1区間の結晶領域を挟んだ状態で前記長手方向に沿ってそれぞれ延び、前記長手方向に垂直な前記光デバイスの断面において前記第1区間の結晶領域における分極配向に平行または垂直な直線上に配置された一対の空孔または導電性領域を有することを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の光デバイス。
前記一対の空孔または導電性領域は一対の導電性領域であって、前記一対の導電性領域それぞれは、前記長手方向に沿って延びる応力付与領域を取り囲んだ、導電性を有するアモルファス酸化物半導体が添加された領域であることを特徴とする請求項9に記載の光デバイス。
前記電界の形成は、前記長手方向に垂直な方向に沿って前記添加領域を挟む2点間に電圧を印加することにより、前記添加領域内に電位勾配を形成するよう構成されることを特徴とする請求項11に記載の光デバイス製造方法。
前記電界の形成は、前記光ファイバに対して、所定の電流が供給されるカソードで発生し所定の加速電圧により加速された電子ビームを前記光ファイバに照射することにより、前記光ファイバの前記第2クラッド領域内に電荷溜りを形成した後、前記添加領域に対して前記電荷溜りとは反対側に電極を配置することにより、前記電位勾配を形成するよう構成されることを特徴とする請求項12に記載の光デバイス製造方法。
前記結晶領域形成工程において、前記第1電界の形成は、前記第1方向に沿って前記添加領域を挟む2点間に第1電圧Vaを印加することにより、前記添加領域内に電位勾配を形成するよう構成され、
前記区間形成工程において、前記第2電界の形成は、前記添加領域を挟む前記2点間に、前記第1電圧Vaとは逆極性であって、かつ、その絶対値が前記第1電圧Vaの絶対値よりも小さい第2電圧Viを印加することにより、前記第2方向に沿って前記添加領域内に電位勾配を形成するよう構成されることを特徴とする請求項14に記載の光デバイス製造方法。
前記結晶領域形成工程において、前記第1電界の形成は、前記光ファイバに対して前記第1方向から、第1電流値の電流が供給されるカソードで発生し所定の加速電圧で加速された電子ビームを照射することにより、前記光ファイバの前記第2クラッド領域内に第1電荷溜りを形成した後、前記添加領域に対して前記第1電荷溜りとは反対側に第1電極を配置することにより、前記添加領域内に前記電位勾配を形成するよう構成され、
前記区間形成工程において、前記第2電界の形成は、前記光ファイバに対して前記第2方向から、前記第1電流値よりも小さい第2電流値の電流が供給されるカソードで発生し前記加速電圧で加速された電子ビームを照射することにより、前記光ファイバの前記第2クラッド領域内に第2電荷溜りを形成した後、前記添加領域に対して前記第2電荷溜りとは反対側に第2電極を配置することにより、前記添加領域内に前記電位勾配を形成するよう構成されることを特徴とする請求項14に記載の光デバイス製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0014】
(1) 本実施形態に係る光デバイスは、SiO
2を含むガラスからなるファイバ型の光デバイスであって、コア領域と、第1クラッド領域と、第2クラッド領域を備える。コア領域は、当該光デバイスの長手方向に沿って延びている。第1クラッド領域は、コア領域を取り囲み、かつ、該コア領域の屈折率より低い屈折率を有する。第2クラッド領域は、第1クラッド領域を取り囲み、かつ、該コア領域の屈折率より低い屈折率を有する。本実施形態の一態様として、コア領域と第1クラッド領域とで構成されるガラス領域の少なくとも一部には、分極配向された結晶領域(polarization-oriented crystal region (poled crystal region))である第1区間と非結晶領域である第2区間とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が設けられている。また、本実施形態の一態様として、上記ガラス領域の少なくとも一部には、分極配向された結晶領域である第1区間と該第1区間の結晶領域とは異なる向きに分極配向された別の結晶領域である第2区間とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が設けられてもよい。
【0015】
(2)なお、上記ガラス領域において、繰り返し構造が設けられる部分は、コア領域またはその一部のみで構成される部分、第1クラッド領域またはその一部のみで構成される部分、コア領域またはその一部から第1クラッド領域またはその一部に跨った部分の何れであってもよい。また、繰り返し構造は、繰り返し周期により規定され、該繰り返し周期の1周期は、隣接する第1および第2区間で構成される領域の、長手方向に沿った長さにより規定される。
【0016】
(3)本実施形態の一態様として、第1区間の結晶領域は、ガラス結晶化を促進させる添加物として金属元素を含んでもよく、この場合、該金属元素は、Tiであるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、第1区間の結晶領域は、ガラス結晶化を推進させる添加物として半金属元素を含んでもよく、この場合、該半金属元素は、Geであるのが好ましい。更に、本実施形態の一態様として、第1区間の結晶領域は、失透を抑制する添加物として1価または2価の金属元素を含んでもよく、この場合、該1価または2価の金属元素は、SrまたはBaであるのが好ましい。
【0017】
(4)本実施形態の一態様として、繰り返し構造は、長手方向に沿って単一の繰り返し周期を有してもよい。また、本実施形態の一態様として、長手方向に沿った繰り返し構造の繰り返し周期は、チャープ型周期(1周期に相当する区間長が長手方向に沿って増加および減少を繰り返す周期パターン)、互いに異なる複数の単一周期が組み合わされた周期、あるいは、フィボナッチ数列やBarker sequence法に基づいた周期であってもよい。
【0018】
(5)本実施形態の一態様として、繰り返し構造は、コア領域と第1クラッド領域に跨って設けられてもよい。この場合、繰り返し構造は、コア領域全体に設けられる必要はない。同様に、繰り返し構造は、第1クラッド領域の全体に設けられる必要はない。本実施形態の一態様として、第1区間それぞれの、長手方向に沿った長さは、1μm〜1000μmの範囲内に収まるのが好ましい。
【0019】
(6)本実施形態の一態様として、第2クラッド領域内に、第1区間の結晶領域を挟んだ状態で長手方向に沿ってそれぞれ延びる空孔が設けられてもよい。この場合、空孔は、長手方向に垂直な当該光デバイスの断面において、第1区間の結晶領域における分極配向(polarization-orientation)に平行または垂直な直線上に配置される。
【0020】
(7)本実施形態の一態様として、第2クラッド領域内には、第1区間の結晶領域を挟んだ状態で長手方向に沿ってそれぞれ延びる導電性領域が設けられてもよい。この場合、導電性領域は、長手方向に垂直な当該光デバイスの断面において、第1区間の結晶領域の分極配向に平行または垂直な直線上に配置される。また、本実施形態の一態様として、導電性領域それぞれは、長手方向に沿って延びる応力付与領域を取り囲んだ、導電性を有するアモルファス酸化物半導体が添加された領域であってもよい。なお、応力付与領域は、B
2O
3を含むのが好ましい。アモルファス酸化物半導体は、In
2O
3またはZnOであるのが好ましい。また、アモルファス酸化物半導体の透過率60%以上の透明波長域は、400nm〜1100nmであるのが好ましい。
【0021】
(8)本実施形態に係る光デバイス製造方法は、光ファイバの所定領域内に上記繰り返し構造を形成する。当該光デバイス製造方法は、その一態様として、光ファイバを用意する準備工程と、温度調節工程と、区間形成工程を備える。準備工程で用意される光ファイバは、SiO
2を含むガラスからなり、コア領域と、第1クラッド領域と、第2クラッド領域を備える。コア領域は、当該光ファイバの長手方向に沿って延びている。第1クラッド領域は、コア領域を取り囲み、かつ、該コア領域の屈折率より低い屈折率を有する。第2クラッド領域は、第1クラッド領域を取り囲み、かつ、該コア領域の屈折率より低い屈折率を有する。また、コア領域と第1クラッド領域とで構成されるガラス領域の少なくとも一部には、ガラス結晶化を促進させる添加物が添加された添加領域が長手方向に沿って連続的に設けられている。温度調節工程では、光ファイバの表面温度が100℃から800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に収まるよう維持される。区間形成工程では、用意された光ファイバの添加領域に対するレーザ光の間欠照射の最中または後に該添加領域を貫通する電界が形成される。これにより、分極配向された結晶領域である第1区間と非結晶領域である第2区間とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が、添加領域内に形成される。なお、区間形成工程において、レーザ光の間欠照射は、長手方向に沿って間欠的にレーザ光を添加領域に照射することにより、添加領域内に上記繰り返し構造を形成するよう構成される。また、電界の形成は、長手方向に垂直な方向に沿って添加領域内に電位勾配を形成するよう構成される。
【0022】
(9)本実施形態の一態様として、上記区間形成工程における電界の形成は、長手方向に垂直な方向に沿って添加領域を挟む2点間に電圧を印加することにより、添加領域内に電位勾配を形成するよう構成されるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、上記区間形成工程における電界の形成では、光ファイバに対して、所定の電流が供給されるカソードで発生し所定の加速電圧で加速された電子ビームを照射することにより、該光ファイバの第2クラッド領域内に電荷溜りを形成した後、添加領域に対して電荷溜りとは反対側に電極を配置することにより、電位勾配を形成するよう構成されてもよい。
【0023】
(10)本実施形態に係る光デバイス製造方法は、その一態様として、上述の準備工程および温度調節工程の他、結晶領域形成工程と区間形成工程を備えてもよい。結晶領域形成工程では、用意された光ファイバの添加領域に対するレーザ光の連続照射の最中または後に該添加領域を貫通する第1電界が形成される。これにより、結晶領域形成工程では、長手方向に沿って連続し、かつ、分極配向された第一結晶領域が、添加領域内に形成される。なお、結晶領域形成工程において、レーザ光の連続照射は、長手方向に沿って連続的にレーザ光を添加領域に照射することにより、該添加領域内に連続する第一結晶領域を形成するよう構成される。また、第1電界の形成は、長手方向に垂直な第1方向に沿って添加領域内に電位勾配を形成するよう構成される。一方、区間形成工程では、結晶領域形成工程において形成された第一結晶領域に対するレーザ光の間欠照射の最中または後に該第一結晶領域を貫通する第2電界が形成される。これにより、第一結晶領域の一部である第1区間と該第一結晶領域とは異なる方向に分極配向された第二結晶領域である第2区間とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が、添加領域内に形成される。なお、区間形成工程において、レーザ光の間欠照射は、長手方向に沿って間欠的にレーザ光を添加領域に照射するにより、添加領域内に上記繰り返し構造を形成するよう構成される。また、第2電界の形成は、長手方向に垂直な、第1方向とは異なる第2方向に沿って添加領域内に電位勾配を形成するよう構成される。
【0024】
(11)本実施形態の一態様として、結晶領域形成工程における第1電界の形成は、第1方向に沿って添加領域を挟む2点間に第1電圧Vaを印加することにより、該添加領域内に電位勾配を形成するよう構成されてもよい。加えて、区間形成工程における第2電界の形成は、添加領域を挟む2点間に、第1電圧Vaとは逆極性であって、かつ、その絶対値が第1電圧Vaの絶対値よりも小さい第2電圧Viを印加することにより、第2方向に沿って添加領域内に電位勾配を形成するよう構成されてもよい。また、一方、本実施形態の一態様として、結晶領域形成工程における第1電界の形成は、光ファイバに対して第1方向から、第1電流値の電流が供給されるカソードで発生し所定の加速電圧で加速された電子ビームを照射することにより、該光ファイバの第2クラッド領域内に第1電荷溜りを形成した後、該添加領域に対して第1電荷溜りとは反対側に第1電極を配置することにより、添加領域内に電位勾配を形成するよう構成されてもよい。この場合、区間形成工程における第2電界の形成は、光ファイバに対して第2方向から、第1電流値よりも小さい第2電流値の電流が供給されるカソードで発生し所定の加速電圧で加速された電子ビームを照射することにより、該光ファイバの第2クラッド領域内に第2電荷溜りを形成した後、添加領域に対して第2電荷溜りとは反対側に第2電極を配置することにより、添加領域内に電位勾配を形成するよう構成されてもよい。
【0025】
(12)本実施形態の一態様として、上記電子ビームの照射エリアの最大径は、1μm〜1000μmの範囲内に収まるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、上記加速電圧は、1kV〜10MVの範囲内に収まるのが好ましい。更に、本実施形態の一態様として、カソードには、上記第1および第2電流値それぞれを含む1nA〜10mAの範囲内に収まる電流が供給されるのが好ましい。
【0026】
(13)なお、本実施形態に係る光デバイス製造方法において、光ファイバに照射されるレーザ光は、100nm〜1600nmの範囲内に収まる波長を有するのが好ましい。特に、本実施形態の一態様として、レーザ光の間欠照射および連続照射それぞれにおいて、パルス発振するレーザ光源が用いられるのが好ましい。この場合、パルス幅は、10ps〜100msの範囲内に収まるのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、レーザ光の間欠照射および連続照射それぞれにおいて、CW発振するレーザ光源が用いられてもよい。更に、本実施形態の一態様として、添加領域を挟む2点間に印加される電圧は、−20000V〜20000Vの範囲内に収まるのが好ましい。
【0027】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0028】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本実施形態に係る光デバイスおよび光デバイス製造方法の具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0029】
非特許文献1に、2次非線形光学現象を発現することができるファイバ型の光デバイスが記載されている。以下では、非特許文献1に記載された光デバイスを「第1比較例に係る光デバイス」という。
図1は、第1比較例に係る光デバイス10の断面構造を示す図である。
【0030】
図1に示されたように、光デバイス10は、Geを含むコア領域11およびクラッド領域12を備えるシングルモード光ファイバ(以下、「SMF」と記す)を備え、このSMFのクラッド領域12内には、当該SMFの長手方向(
図1中の光軸AXに沿った方向)に延在する一対の空孔13A、13Bがコア領域11を挟むように設けられている。SMFの直径(クラッド外形)は166μm、コア領域11の直径は6μm、空孔13A、13Bそれぞれの直径は45μm、コア領域11と空孔13Bの間隔は5μm、2つの空孔13A、13Bの間隔は31μmである。非特許文献1では、基本波長(Fundamental Wavelength)と分極反転周期(QPM Period)との間の関係が示されており、例えば、基本波長を1550nmとし第2高調波を775nmとする為には、光デバイス10の分極反転周期を約65μmとすればよい。
【0031】
光デバイス10は、サーマルポーリング(thermal poling)による分極誘発(polarization-induction)と、紫外光(UV光)照射による周期的な分極消去(periodic poling-erasure)とが行われることにより、2次の非線形光学効果を発現させ、結果、入射光波長を1.5415μmとして半波長の第2高調波の発生に成功している。なお、サーマルポーリングとは、光ファイバの温度(例えば表面温度)を210℃〜300℃の範囲内に維持した状態で、
図1に示されたように、一対の空孔13A、13Bに電極14A、14Bをそれぞれ挿入し、これら電極14A、14B間に高電圧の印加した状態を一定間保持する手法である。なお、
図1には、SMFの空孔13A、13Bに電極14A、14Bがそれぞれ挿入される状態が示されているが、サーマルポーリング後、電極14A、14Bは空孔13A、13Bからそれぞれ取り除かれる。このサーマルポーリングにより、コア領域11の一部分に酸素イオン(マイナスイオン)とプラス電極直下の空乏層によるプラスイオンとによるダイポールが形成されることにより局所的に強電場が生じ、2次の非線形光学定数が発現する。サーマルポーリングに続くUV光照射では、光ファイバの長手方向に沿って周期的にUV光を照射することで、その照射領域のダイポールが消去される(周期的な分極消去)。
【0032】
光デバイス10は、一定方向の分極が形成されている領域(UV光非照射領域)と、分極が形成されていない領域(UV光照射領域)とが、長手方向に沿って交互に設けられた周期分極反転構造(periodically-poled structure)を有し、擬似位相整合による波長変換を実現することができる。
【0033】
また、非特許文献2にも、2次非線形光学現象を発現することができるファイバ型の光デバイスが記載されている。以下では、非特許文献2に記載された光デバイスを「第2比較例に係る光デバイス」という。
【0034】
第2比較例に係る光デバイスは、
図1と同様に、コア領域およびクラッド領域を備えるSMFを備え、SMFのクラッド領域内に、該SMFの長手方向に延在する一対の空孔がコア領域を挟むように設けられている。第2比較例に係る光デバイスは、一対の空孔に電極が挿入された状態で行われる前述のサーマルポーリングによる分極誘発と、UV光照射による周期的な分極消去とが行われることにより製造される。
【0035】
第2比較例に係る光デバイスのコア領域は、Geを含む複数の層が同心円状に形成された構造を有する。第1比較例に係る光デバイス10と比較して第2比較例に係る光デバイスは、200倍の変換効率が得られたことが報告されている。
【0036】
これら第1および第2比較例に係る光デバイスは、所望の特性を有するように製造された後においても、UV光照射により分極の強さ(非線形光学定数)が変化するので、UV光を含む照明光や太陽光の照射量や照射時間により波長変換効率の低下を招き、安定性に問題がある。
【0037】
非特許文献3にも、2次非線形光学現象を発現することができるファイバ型の光デバイスが記載されている。以下では、非特許文献3に記載された光デバイスを「第3比較例に係る光デバイス」という。
図2は、第3比較例に係る光デバイス30の断面の概念図である。
【0038】
光デバイス30は、コア領域31およびクラッド領域32を備えるSMFを備え、クラッド領域32に特定の材料を添加することで該クラッド領域32を結晶化させ、2次の非線形性を発現させている。
【0039】
この第3比較例に係る光デバイス30において、クラッド領域32に添加される材料のフレスノイト(Ba
2TiSi
2O
8)は、正方晶系の構造を有するチタノシリケート鉱物であり、反転対称性の欠如により自発分極(spontaneous polarization)を有する。また、フレスノイトの派生結晶(Sr
2TiSi
2O
8、Ba
2TiGe
2O
8)も自発分極を有する。これらのフレスノイト型結晶は、自発分極を有しているので、非線形光学特性を示す。また、BaO-TiO
2-GeO
2系ガラスおよびSrO-TiO
2-SiO
2系ガラスも、フレスノイト相が形成され、非線形光学特性を示すことが報告されている。
【0040】
上述の各種原料を石英系ガラスファイバに添加し、レーザ支援によりファイバ長手方向に沿って連続的に結晶化させることで、
図2においてコア領域31に向かう矢印で示されるように、放射状の分極秩序構造(polarization-ordered structure)が得られている。このような結晶化ガラスでは結晶化による失透が懸念されるが、非特許文献4に記載された光デバイスは、その失透の原因となっている結晶相と残存ガラス相との間の屈折率差を抑制することで透明化に成功している。
【0041】
この第3比較例に係る光デバイス30は、コア領域31に向かう方向に分極配向されており、コア領域31を含み短辺の長さがコア径程度の長方形領域(
図2中のエリアA)において、コア領域31を挟む両側の分極方向が互いに逆になっている。このことから、光デバイス30は、分極配向による非線形性がマクロ的にはキャンセルされるので、波長変換として分極配向を活用することができない。また、光デバイス30は、ファイバ長手方向に沿って均一に結晶化させていることから、波長変換に必要な位相整合条件を満足することができない。その結果、光デバイス30は、波長変換に利用することができない。
【0042】
本発明の各実施形態は、上述の第1〜第3比較例に係る光デバイスが有する問題点を解消し得るものである。本発明の第1実施形態では、光ファイバ内に、該光ファイバの長手方向に沿って結晶領域(第1区間)と非結晶領域(第2区間)とが交互に形成される。これら第1および第2区間の形成の際またはその後に、上述の電界形成法により結晶領域を選択的に結晶断面全面、あるいは一部分を一方向に分極を配向させることにより、擬似位相整合が成立する周期分極反転構造(すなわち、一定方向の分極が形成されている結晶領域と分極が形成されていない非結晶領域とが交互に存在する構造)が形成される。あるいは、本発明の第2実施形態では、光ファイバの結晶化された領域内において、該光ファイバの長手方向に沿って交互に自発分極の極性を反転させた構造が形成されており、上述の電界形成法による反転の配向は、結晶断面全面、あるいは一部分のみを一方向に配向させ、その後に、上述の電界形成法の電圧極性を反転させた電界を形成しながら、レーザ光が間欠的に照射される。レーザ光の照射量は、レーザ照射領域のみにおいて、自発分極の配向に対して相対的に91度から180度配向させられる適切な照射量である。
【0043】
上述の各実施形態に係る光デバイスでは、結晶領域に分極配向させているので、結晶構造が崩れない限り2次の非線形光学定数が保持される。すなわち、本実施形態に係る光デバイスは、UV光照射等の外乱に強く、安定性を有した波長変換が可能となる。また、本実施形態に係る光デバイスは、その内部を結晶化することで、Ge添加コア領域へのサーマルポーリングと比較して、非線形光学定数を1〜2桁程度向上させることができる(変換効率を大幅に向上させることが可能になる)。
【0044】
石英系ガラスファイバの材料構造はアモルファスであり、外部から電圧を印加して当該光ファイバ中に強電界を形成した状態にすると、不純物のイオン等によるダイポールに起因して分極配向が発現する(2次の非線形光学定数(d定数)が現れる)。しかしながら、無電圧(光ファイバ内の電界はゼロ)にすると、分極配向は保持されること無く崩れてしまい、2次のd定数は零になる。なお、2次の非線形光学効果による波長変換の効率は、d定数の2乗に比例する。d定数は材料の物性値に依存しており、d定数の増大に伴い変換効率が向上する。d定数が零の場合は、波長変換することはできない。
【0045】
d定数を発現させる方法は以下のとおりである。すなわち、SiO
2を含むガラスからなる光ファイバであって、コア領域と、該コア領域を取り囲み、かつ、コア領域の屈折率より低い屈折率を有する第1クラッド領域と、該第1クラッド領域を取り囲み、かつ、コア領域の屈折率より低い屈折率を有する第2クラッド領域とを備える光ファイバが用意される。また、コア領域および第1クラッド領域で構成されるガラス領域の少なくとも一部(添加領域)には、ガラス結晶化を促進させる添加物を含ませる。
【0046】
その添加物として、フレストノイト型結晶、BaO-TiO
2-GeO
2-SiO
2系ガラス、SrO-TiO
2-SiO
2系ガラスといった原料が、光ファイバのコア領域および第1クラッド領域で構成されるガラス領域の少なくとも一部に添加される。その添加領域に対してレーザ支援によるガラス結晶化が行われる。すなわち、結晶化させたい領域に希土類元素や遷移金属元素等を添加しておき、レーザ光の吸収によりこの領域を発熱させることで、レーザ光照射エリアを結晶化させる。結晶化による失透を抑制するには、結晶相と残存ガラス相との間の屈折率を合致させる必要があり、35SrO-20TiO
2-45SiO
2系ガラス等を用いることで失透を抑制することができる(非特許文献3,4を参照)。結晶化された添加領域における非線形光学定数は、外乱(UV光)に強く安定性が向上する。
【0047】
ただし、このレーザ支援による結晶化の手法では、上述の通り、放射状に中心に向う分極配向が形成される。
図2に示されたように、コア領域を含み短辺の長さがコア径程度の長方形領域(
図2中のエリアA)において、コア領域を挟む両側の分極方向が互いに逆になる。このことから、分極配向による非線形性がマクロ的にはキャンセルされるので、波長変換として分極配向を活用することができない。
【0048】
高効率な波長変換を実現するため、ファイバ断面に対して断面内全面、あるいは一部分に対して分極配向を同一方向に揃えることが必要である。そこで、本実施形態では、例えば、レーザ支援による結晶化後に電界形成(または、光ファイバを昇温しながら高電圧印加)による分極反転技術を活用することで、例えばエリアAの分極配向を同一方向に揃える。あるいは、レーザ支援による結晶化を行っている最中に電界を形成して、分極方向を揃えながら結晶成長させる。分極配向された領域は結晶構造を有するため、電圧を印加していない状態になっても、その分極配向は保持され、外乱に強く安定性が向上した2次の非線形光学定数が得られる。
【0049】
具体的に、
図3Aは、第1実施形態に係る光デバイス製造方法を説明するためのフローチャートである。なお、
図4は、光ファイバ内に電界を形成する第1の方法を説明するための図であり、
図5は、光ファイバに間欠的または連続的にレーザ光を照射する方法を説明するための図であり、
図6は、光ファイバ内に電界を形成する第2の方法を説明するための図である。
図3Aのフローチャートに従って光デバイスを製造することにより、
図7に示された構造を有する第1実施形態に係る光デバイス100が得られる。
【0050】
まず、
図4に示された断面構造を有する光ファイバ100Aが用意される(ステップST10)。用意された光ファイバ100Aは、SiO
2を含むガラスからなる光ファイバであって、コア領域110と、該コア領域110を取り囲み、かつ、コア領域110の屈折率より低い屈折率を有する第1クラッド領域121と、該第1クラッド領域121を取り囲み、かつ、コア領域の屈折率より低い屈折率を有する第2クラッド領域122とを備える。また、コア領域110および第1クラッド領域121で構成されるガラス領域の少なくとも一部(
図4中の斜線で示された領域)には、ガラス結晶化を促進させる添加物が添加された添加領域Rが長手方向に沿って連続的に設けられている。なお、
図4に示された例では、添加領域Rは、コア領域110の全体および第1クラッド領域121の全体の双方で構成されているが、添加領域Rは、コア領域110全体またはその一部のみ、第1クラッド領域121全体またはその一部のみ、コア領域またはその一部から第1クラッド領域またはその一部に跨った部分の何れで構成されてもよい。また、光ファイバ100Aには、コア領域110を挟むように長手方向(光ファイバ100Aの光軸AXに沿った方向)に沿って延びた一対の空孔130A、130Bが設けられている。
【0051】
続いて、光ファイバ100Aは、その表面温度が100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に収まるよう温度調整される(ステップST20)。ステップST20の温度調整と、以降の製造工程は、
図5に示されたチャンバ300内で行われればよい。なお、チャンバ300内には、光ファイバ100Aの温度を一定時維持するためのヒータ310A、310Bが設けられている。チャンバ300内に収納される際、光ファイバ100Aの一対の空孔130A、130Bには、光ファイバ100Aの添加領域Rに高電界を発生させるため、電極140A、140Bがそれぞれ挿入されている。
【0052】
表面温度が調節された状態で、光ファイバ100Aには、
図3A中のタイミングA1〜タイミングA2の間に、レーザ光の間欠照射(ステップST30A)と電界形成(ステップST30B)が行われる。なお、ステップST30Bは、ステップST30Aの後に実行されても、また、ステップST30Aと同時並行に実行されてもよい。
【0053】
具体的に、ステップST30Aでは、
図5に示されたように、レーザ光源310からのレーザ光が、光ファイバ100A(ヒータ310A、310Bによりその表面温度が100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に維持されている)の長手方向(矢印Sで示された方向)に沿って移動可能な反射ミラー320を介して、添加領域Rへ間欠照射される。これにより、光ファイバ100Aの添加領域R内には、結晶領域(第1区間)と非結晶領域(第2区間)とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が形成される。一方、ステップST30Bでは、
図4に示されたように、光ファイバ100Aの第2クラッド領域122内に設けられた一対の空孔130A、130Bに電極140A、140Bがそれぞれ挿入される。その一対の電極140A、140Bの間に電圧が印加されることで、添加領域Rを構成しているコア領域110および第1クラッド領域121に電界が形成される。その結果、該添加領域R内に周期的に配置された第1区間が分極配向された結晶領域となる。電界形成による分極配向が完了した後、電極140A、140Bは空孔130A、130Bそれぞれから取り外される。第2区間の非結晶領域に残った分極配向は、添加領域RへのUV光照射(結晶領域における分極の消去が可能なUV光照射量よりも低い光量)による分極消去により解消される。
図4の添加領域Rの電界を増大させる方法としては、130Aおよび130Bの空孔配置はコア領域110を中心に、非対称に配置するのは効果的である。具体的には、プラス電極の配置をコア領域110へ近づける、あるいは、マイナスの電極(
図4の場合は、グラウンド電極)をコア領域110へ近づける方法である。l
+/l
-=0.1〜10の範囲で調整される。
【0054】
なお、上述の電界形成法(ステップST30B)では、光ファイバ100Aに設けられた空孔130A、130Bに電極140A、140Bがそれぞれ挿入されたが、光ファイバ100Aとは異なる構造の光ファイバが適用されてもよい。例えば、光ファイバ母材の製造工程において、該光ファイバ母材の穿孔加工領域(空孔130A、130Bとなるべき部分)に導電性を有するガラスロッドを挿入し、これら光ファイバ母材と挿入されたガラスロッドをコラプスした後、得られた光ファイバ母材を線引することにより得られる光ファイバ、すなわち、
図4の電極140A、140Bが導電性領域で置き換えられた光ファイバに対して、上述の電界形成法が適用されてもよい。また、光ファイバ母材の製造工程において、該光ファイバ母材の穿孔加工領域に導電性を有するガラスロッドを挿入した状態で、ロッドイン線引を行うことにより得られる光ファイバに対して、上述の電界形成法が適用されてもよい。これらの光ファイバ製造方法では、導電性を有するガラスロッドは線引後において光ファイバと一体化した電極となる。分極処理(poling)の後に電極を取り外す必要はない。また、光ファイバと一体化した一対の電極は、コア領域に対して応力を付与することができる。したがって、このような一体化電極の構成は、複屈折性を有する偏波保持光ファイバを本実施形態に係る光デバイスに適用できるので、波長変換に有効である。
【0055】
電極用ガラスロッドの材料としては、ITO(Sn添加In
2O
3)、ZnO、IZO(In添加ZnO)、AZO(Al添加ZnO)、GZO(Ga添加ZnO)、IGZO(In-Ga-ZnO
4)等の導電性を有する透明なアモルファス酸化物半導体が使用できる。アモルファス酸化物半導体の透過率60%以上の透明波長域は400nm〜1100nmであるのが好ましい。例えば、偏波保持光ファイバの応力付与部(B
2O
3添加SiO
2)となるべきガラスロッドの周囲に上記透明導電性を付与することで、電極用ガラスロッドと見なすことができる。なお、このような電極は、分極配向の発現に必要な電圧を印加するためのものである。したがって、数十μmオーダーの電極間であれば、電流がpA程度以下と極めて小さいので、電極間に位置する領域の抵抗が10
6Ωcm程度と高くても問題ない。ただし、大きな断面積を有する電極間領域に分極配向を発現させるためには、電流値が大きくする必要があり、この場合、金属電極が有効である。金属電極は、Ti、Cu、Al、Au、Ag、Pt、Wを含むのが好ましい。
【0056】
更に、ステップST30Bの電界形成として、
図6に示されたような第2の方法が適用されてもよい。なお、
図6は、光ファイバ内に電界を形成する第2の方法を説明するための図である。
図6に示された電界印加方法では、第2クラッド領域122の外周面に対向する2平面が形成され、これら2平面に電極150が取り付けられた光ファイバ100Bが適用される。なお、光ファイバ100Bは、光ファイバ100Aと同様に、コア領域110、第1クラッド領域121、第2クラッド領域122を備えるが、電極を挿入するための空孔は設けられていない。このような光ファイバ100Bを絶縁オイル等に浸けた状態で一対の電極150A、150Bの間に電圧が印加されることで、電極間に位置するコア領域110および第1クラッド領域121に電界が形成され、結果、添加領域R内に分極配向が発現する。電界形成による分極配向が完了した後、電極150A、150Bは取り外される。なお、電極は、光ファイバ100Bのように第2クラッド領域122の外周面の加工された平面上に配置される必要はない。例えば、添加領域Rを含む光ファイバを挟むように配置された一対の電極間に電圧を印加する構成であってもよい。
【0057】
図4に示された第1の方法、
図6に示された第2の方法を組み合わせて、電極の片方を第2クラッド領域内の空孔とし、他方を光ファイバの外周上または光ファイバの外側に配置し、これら電極間に電圧を印加してもよい。また、非特許文献5に記載された方法で分極配向を発現させてもよい。
【0058】
なお、一対の電極間に印加される電圧は、マイナスの極性電圧と接地電圧、あるいは、接地電位をプラスの極性バイアス電圧としてマイナス極性の電圧を電極間に印加するなど、電圧の極性は問わない。結晶化させたい領域に高い電界を印加することが重要である。電圧印加の際に、反転させたい厚さにも依存するが、数百ミクロン程度厚の光ファイバであれば、−20000V〜20000Vの範囲内の電圧を印加するのが好ましい。
【0059】
次に、本実施形態の光デバイスが波長変換作用を奏するために位相整合条件を満足させる方法について説明する。例えば、第2高調波発生(second harmonic generation: SHG)の波長変換について考えることにする。一般に材料には波長によって屈折率が異なる屈折率分散が存在するので、その材料中における基本波および波長変換波(SH波)それぞれの伝搬速度が互いに異なり、非線形性を有した材料であっても波長変換はできない。
【0060】
波長変換を実現するためには、基本波およびSH波それぞれの位相を互いに揃える必要があり、その場合、擬似位相整合(QPM: quasi-phase matching)を用いることができる。擬似位相整合は、基本波とSH波との間の伝搬速度差Δkがπずれたときに、自発分極を反転させるとともにd定数の符合を反転させることで、位相整合を満足させるものである。すなわち、コヒーレンス長lc=π/Δkとして、lc毎にd定数の符合を反転させることで、SH波は建設的に足し合わされ、SH光は増大し、高効率な波長変換が可能となる。本実施形態に係る光デバイスの位相整合にはQPM法が適用される。
【0061】
図7は、上述の
図3Aのフローチャートに従って製造された、第1実施形態に係る光デバイス100の構成を示す図である。光デバイス100は、SiO
2を含むガラスからなるファイバ型の光デバイスであり、コア領域110と、コア領域110を取り囲み、かつ、コア領域110の屈折率より低い屈折率を有する第1クラッド領域121と、第1クラッド領域121を取り囲み、かつ、コア領域110の屈折率より低い屈折率を有する第2クラッド領域122とを備える。光デバイス100は、コア領域110および第1クラッド領域121で構成されるガラス領域の少なくとも一部(
図7の例ではガラス領域全体が添加領域Rに相当)に、断面全体、あるいは一部分が一方向に分極配向された結晶領域161(第1区間)と非結晶領域162(第2区間)とが長手方向(図中の光軸AXに一致した方向)に沿って交互に配置された繰り返し構造を有する。その繰り返し周期は1μm〜1000μmの範囲内である。高効率な波長変換を実現するためには、結晶領域161および非結晶領域162それぞれの長手方向の長さはコヒーレンス長lcに等しいのが好ましい。(この場合、「繰返し周期」=「第1区間の長さ」+「第2区間の長さ」=2×「コヒーレンス長」)なお、位相整合条件の帯域拡大が必要なケースもある。その場合、繰り返し構造の繰り返し周期には、非周期な周期分極反転構造(チャープ(非特許文献6参照)、周期Λ1領域と周期Λ2領域と周期Λ3領域・・・と周期領域を1セグメントとして扱い、そのセグメントをある間隔において配置する構造(非特許文献8参照)、フィボナッチ数列を基準とした周期(非特許文献9参照)、Barker sequenceを基にした周期(非特許文献7参照))が採用可能である。
【0062】
結晶領域161の分極配向は、コア領域110を挟んで第2クラッド領域122内に設けられた一対の電極140A、140Bそれぞれの断面中心を結ぶ方向である。あるいは、少なくとも、コア領域110を含み短辺の長さがコア径程度の長方形領域(
図2中のエリアA)においては、分極配向は、一対の電極140A、140Bそれぞれの断面中心を結ぶ方向である。
【0063】
非結晶領域162は、無電圧状態では分極は零となる。あるいは、非結晶領域162は、無電圧状態でも不要な非線形光学定数が残留していた場合、UV光照射により強制的に分極消去することが可能である。なお、UV光照射により分極消去できるのは非結晶領域162のみとなるように、結晶領域161における分極の消去が可能なUV光照射量(UV
th)よりも低い光量が必要である。UV
thよりも低いUV光照射量であれば非結晶領域の分極のみ消去でき、UV光照射後においてもQPM法は成立する。
【0064】
次に、第2実施形態に係る光デバイス製造方法を、
図3Bのフローチャートを用いて説明する。なお、光ファイバ内に電界を印加する第1および第2の方法は、
図4および
図6の例と同様である。また、光ファイバに間欠的または連続的にレーザ光を照射する方法は、
図5の例と同様である。
図3Bのフローチャートに従って光デバイスを製造することにより、
図9に示された構造を有する第2実施形態に係る光デバイス200が得られる。なお、この第2実施形態に係る光デバイス製造方法においても、
図3BのステップST10で用意される光ファイバは、
図4に示された断面構造を有する光ファイバ100Aとする。
【0065】
続いて、光ファイバ100Aは、
図5に示されたチャンバ300内において、その表面温度が100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に収まるよう温度調整される(ステップST20)。なお、チャンバ300内に収納される光ファイバ100Aの一対の空孔130A、130Bには、光ファイバ100Aの添加領域Rに高電界を発生させるため、電極140A、140Bがそれぞれ挿入されている。
【0066】
表面温度が調節された状態で、光ファイバ100Aには、
図3B中のタイミングB1〜タイミングB2の間に、添加領域Rの全域に第1結晶領域を形成するためのレーザ光の連続照射(ステップST40A)と、第1結晶領域内に所定方向の分極配向を形成するための電界形成(ステップST40B)が行われる。なお、ステップST40Bは、ステップST40Aの後に実行されても、また、ステップST40Aと同時並行に実行されてもよい。更に、光ファイバ100Aには、
図3B中のタイミングC1〜タイミングC2の間に、添加領域Rの全域に形成された第1結晶領域に対して、当該光ファイバ100Aの長手方向に沿って周期的に、第1結晶領域の分極配向とは異なる向きに分極配向された第2結晶領域を形成するため、レーザ光の間欠照射(ステップST50A)および電界形成(ステップST50B)が行われる。なお、ステップST50Bも、ステップST50Aの後に実行されても、また、ステップST50Aと同時並行に実行されてもよい。
【0067】
具体的に、タイミングB1〜タイミングB2の間では、ステップST40Aにおいて、
図5に示されたように、レーザ光源310からのレーザ光が、表面温度が100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に維持された光ファイバ100Aの長手方向(矢印Sで示された方向)に沿って移動可能な反射ミラー320を介して、添加領域Rへ連続照射される。これにより、光ファイバ100Aの添加領域R内には、長手方向に沿って連続する結晶領域(第1区間となるべき領域)が形成される。ステップST40Aと並行してまたはその後、ステップST40Bでは、一対の空孔130A、130Bに挿入された電極140A、140Bの間に第1電圧Vaが印加されることで、第1結晶領域を分極配向させる。続いて、タイミングC1〜タイミングC2の間でも、ステップST50Aにおいて、
図5に示されたように、レーザ光源310からのレーザ光が、表面温度が100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に維持された光ファイバ100Aの長手方向に沿って移動可能な反射ミラー320を介して、第1結晶領域へ照射される。ただし、このステップST50Aでは、長手方向に沿って連続的に設けられた第1結晶領域内に周期的に第2結晶領域(第2区間となるべき領域)を形成するため、レーザ光が間欠照射される。ステップST50Aと並行してまたはその後、ステップST50Bでは、一対の空孔130A、130Bに挿入された電極140A、140Bの間に、第1電圧Vaと極性が逆で、その絶対値が第1電圧Vaよりも小さい第2電圧Viが印加されることで、第1結晶領域(第1区間)と異なる向きに分極配向された第2結晶領域(第2区間)が形成される。すなわち、互いに分極配向の向きが異なる結晶領域が長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が、添加領域R内に形成される。なお、繰り返し構造の形成後(第1および第2区間それぞれにおいて、電界形成による互いに異なる向きの分極配向が完了した後)、電極140A、140Bは、空孔130A。130Bからそれぞれ取り出される。
【0068】
第1区間となるべき第1結晶領域と第2区間となるべき第2結晶領域の形成メカニズムについては、
図8を用いて説明する。すなわち、
図8において、横軸はファイバ表面の温度T(℃)、縦軸は自発分極Ps(μC/cm
2)であり、
図8は、自発分極の温度依存性の概略図を示す。温度T
1では自発分極Ps(T
1)を有し、温度T
2では自発分極Ps(T
2)を有しているとする。自発分極の強さの関係性は、Ps(T
1)>Ps(T
2)を有している。これらの自発分極を反転させるには、それぞれの自発分極の抗電界を超えた電界を印加する必要がある。Ps(T
1)およびPs(T
2)の抗電界はそれぞれE
Ps(T1)とE
Ps(T2)とする。
図8に示されたように、温度が上昇するにつれて自発分極の大きさは減少する。温度の上昇に伴い、反転させるのに必要な抗電界が低下し、温度上昇領域のみの分極反転に必要な抗電界E
thは、E
Ps(T2)<E
th<E
Ps(T1)の関係性を有する。すなわち、全体の結晶の温度(実質的にファイバ表面の温度)をT
1とし、抗電界E
thを印加しつつレーザ照射により局所的に加熱領域(T
2)を形成することにより、加熱領域のみ分極を反転させることが可能になる。
【0069】
図9は、
図3Bのフローチャートに従って製造された、第2実施形態に係る光デバイス200の構成を示す図である。光デバイス200は、SiO
2を含むガラスからなるファイバ型の光デバイスであり、コア領域110と、コア領域110を取り囲み、かつ、コア領域110の屈折率より低い屈折率を有する第1クラッド領域121と、第1クラッド領域121を取り囲み、かつ、コア領域110の屈折率より低い屈折率を有する第2クラッド領域122とを備える。光デバイス200は、コア領域110および第1クラッド領域121で構成されるガラス領域の少なくとも一部に、断面全体あるいは一部分が分極配向された第1結晶領域(第1区間)171と第1結晶領域と異なる向きに分極配向された第2結晶領域(第2区間)172とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が設けられている。ここで、「異なる向き」とは、第1結晶領域171の分極配向と第2結晶領域172の分極配向とのなす角度が91度から180度の間であることを意味する。第1結晶領域171あるいは第2結晶領域172の長さは1μm〜1000μmの範囲内である。第1実施形態に係る光デバイス100と同様に、高効率な波長変換を実現するため、第1結晶領域171および第2結晶領域172それぞれの長手方向の長さは、コヒーレンス長lcに等しいのが好ましい。また、位相整合条件の帯域拡大が必要なケースでは、添加領域の繰り返し構造は非周期的であってもよい。
【0070】
上述の第1および第2実施形態の何れであっても、結晶化させたい領域に希土類元素や遷移金属元素等を添加し、この領域に対してレーザ光の吸収により発熱させ、レーザ光照射エリアを結晶化させる。希土類元素や遷移金属元素等を添加する領域、すなわち添加領域Rは、コア領域110のみであってもよいし、第1クラッド領域121のみであってもよいし、コア領域110および第1クラッド領域121の双方であってもよく、光デバイス100、200の応用分野に応じて結晶化領域を選択することができる。
【0071】
レーザ光波長は100nm〜1600nmの範囲内に収まるのが好ましい。レーザ光源としてパルス光源およびCW光源の何れを用いてもよい。パルス光源を用いる場合、不要な発熱を抑制することが可能であり、結晶化させたい領域を精度良く書き込む事が可能になる。パルス幅は10ps〜100msの範囲内に収まるのが好ましい。CW光源を用いる場合、コヒーレンシーが高いので、例えば、位相マスクによる回折光による書込み精度を高めることができる。なお、高出力レーザ光源を用いる場合、結晶化に必要なビーム照射エリアを拡大させることが可能であり、光位相マスクによる回折光の範囲を拡大することができ、一筆書きに比べ生産性を高めることができる。
【0072】
次に、光デバイス100、200の偏波保持機能について説明する。波長変換には入射光の伝搬中の偏波が重要である。光デバイスの用途によるが、光デバイス100、200に入射される光の偏波方向は、分極配向と一致させるか、あるいは、分極配向に垂直な方向と一致させる。何れの場合でも、光デバイス100、200を光が伝搬している間に偏波方向が回転することを防ぐ必要がある。そのために、光デバイス100、200を直線状に配置して不要な応力の付与を避けるか、あるいは、偏波保持光ファイバ(パンダファイバ、あるいは複数の空孔付与)を用いるのが好ましい。
【0073】
例えば、コア領域を挟んで一対の空孔が付与された光ファイバでは、その一対の空孔の存在によりコア領域に応力が付与され偏波保持として働くので有効である。ただし、空孔の位置をコア領域に近づける必要があり、その結果、コア領域の形状が楕円になりやすい傾向にあるので、応用分野によっては不向きな場合もある。電極一体型の光デバイスは、コア領域を挟んで設けられた一対の電極(導電性を有する領域)が応力付与部として働いて偏波保持機能を有し、コア領域の形状が変形しにくいので有効である。
【0074】
以上のとおり、第1および第2実施形態に係るファイバ形の光デバイス100、200それぞれは、安定性が高く高効率な波長変換を可能にする。光デバイス100の繰り返し構造は、長手方向にlc長毎に周期的に結晶領域と非結晶領域とが交互に形成されるか、あるいは、波長変換の帯域を拡大するため、周期を崩した状態で結晶領域と非結晶領域とが交互に形成される。結晶領域においては、その断面全面または一部において一方向に分極配向させることで、QPM法を導入することが可能である。光デバイス200の繰り返し構造は、長手方向にlc長毎に周期的に分極方向が異なる2種類の結晶領域が交互に形成されるか、あるいは、波長変換の帯域を拡大するため、周期を崩した状態で分極方向が異なる2種類の結晶領域が交互に形成される。異なる種類の結晶領域それぞれにおいては、その断面全面または一部において一方向に分極配向させることで、QPM法を導入することが可能である。また、先行技術のGe添加によるサーマルポーリングと比較して、本実施形態に係る光デバイスでは、選択的な結晶化は、非線形光学定数の増大および圧倒的な安定性を有することになり、性能を大幅に高めることができる。
【0075】
なお、自発分極を反転させる方法は、
図4および
図6に示された電界形成法には限定されず、電子ビーム照射法も有効である。なお、
図10、
図11Aおよび
図11Bは、光ファイバへの電圧印加(光ファイバ内への電界形成)に適用可能な電子ビーム照射の第1〜第3の方法をそれぞれ説明するための図である。すなわち、これら第1〜第3の電子ビーム照射による電界形成法は、
図3A中のステップST30B、
図3B中のステップST40B、更に、
図3B中のステップST50Bにそれぞれ適用可能である。
【0076】
光ファイバへの電子ビーム照射では、真空雰囲気または大気雰囲気の何れの状態でも可能である。大気雰囲気へ電子ビーム照射は、例えば
図10中に示された電子ビーム照射装置(EPS:electron beam processing system)500により行われ、電子源であるカソードからの電子は、EPS500の照射窓箔430(数十ミクロンのチタンやチタン合金箔)から大気雰囲気中に放出される。なお、EPS500は、真空容器400内に照射窓箔430を介して電子ビームを放出するカソード410、カソード410へ所望の電流値の電流を供給するための電流源420、カソード410と照射窓箔430との間に所望の加速電圧を印加するための電圧源440とを備える。真空雰囲気と同様に、カソード410から電子が放出されると、該電子は真空容器400内で加速される。その加速された電子は、真空容器400と大気を隔離する照射窓箔430を介して大気雰囲気中へ放出される。真空雰囲気中および大気雰囲気中の何れに加速電子を放出する場合でも、走査コイルにより必要照射幅に電子放出軌道を絞り込み、所定領域を走査することができる。なお、
図10において、EPS500から放出された電子が打ち込まれる光ファイバ100Cは、コア領域110と、第1クラッド領域121と、第2クラッド領域122とを備え、コア領域110と第1クラッド領域121により構成された添加領域R内に、ガラス結晶化を促進させる添加物が添加されている。
【0077】
第1の電子ビーム照射方法では、
図10に示されたように、EPS500の真空容器400内へ放出された電子(1nA〜10mAの電流が供給されたカソード410から放出された電子)が、電圧源440によりカソード−照射窓箔間に印加された数kVから数十MV、好ましくは1kV〜10MVの加速電圧で加速され、光ファイバ100Cの第2クラッド領域122内へ拡散する。電子拡散距離D(拡散深さ)は、加速電圧と被拡散体の密度で確定し、モンテカルロシミュレーションにより求めることが出来る。例えば、第2クラッド領域122の密度が2.6g/cm
2であり、加速電圧が約90kVに設定された場合、第2クラッド領域122における電子拡散距離Dは約60μm程度となる。第2クラッド領域122の外周面上に被覆が有る場合は、その被覆の密度を加味した加速電圧に設定することで、所定の電子拡散距離Dが得られる。第2クラッド領域122内の、電子が拡散した領域(電荷溜り)は、電子のマイナス電荷による負の電圧が生じたことに相当するため、その領域における電荷蓄積量を増大させることで負の高電圧が形成される。例えば、
図10に示されたように、グランド電極450を設置した場合、電極450からマイナス電荷に向けて電気力線が走り、コア領域110(結晶領域となる領域)には電気力線に沿って電界が形成される。この第1の電子ビーム照射方法は、第2クラッド領域122内に電極を形成する必要がなく、光ファイバ100C内に簡便に電界を形成させられるため、有効である。
【0078】
具体的に、この第1の電子ビーム照射方法が
図3AのステップST30Bに適用される場合、タイミングA1〜タイミングA2の間で行われるステップST30Aでは、光ファイバ100Cの表面温度を100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に維持した状態で、UVレーザ光が光ファイバ100Cの長手方向(光軸AXに一致した方向)に沿って間欠照射されることで、結晶領域(第1区間)と非結晶領域(第2区間)が長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が添加領域R内に設けられる。なお、ステップST30AとステップST30Bが個別に実行される場合、ステップST30Aは、
図5のチャンバ300内で行われてもよい。ステップST30Aと同時並行またはその後に実行されるステップST30Bでは、分極を配向させたい領域(第1区間となるべき領域)に所定電流が供給されるカソード410から放出された電子が間欠照射され、第2クラッド領域122内(すなわち、電子の拡散深さは、添加領域Rと光ファイバ100Cの外周面との中間位置)に、電荷溜りが形成される。これにより、電極450と電荷溜り(マイナス電荷分布)との間に形成される電界(電位勾配)により、添加領域Rのうち第1区間に相当する領域内において分極を配向させる。第2区間となる非結晶領域に不要な分極が形成された場合は、UVレーザ光により消去することができる。
【0079】
なお、この第1の電子ビーム照射方法が
図3BのステップST40Bおよび
図3BのステップST50Bそれぞれに適用される場合、まず、タイミングB1〜タイミングB2の間に行われるステップST40Aでは、光ファイバ100Cの表面温度を100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に維持した状態で、UVレーザ光が光ファイバ100Cの長手方向に沿って連続照射されることで、第1結晶領域が長手方向に沿って連続的に形成される。ステップST40Aと同時並行またはその後に実行されるステップST40Bでは、分極を配向させたい領域(第1区間となるべき領域)に所定電流が供給されるカソード410から放出された電子が間欠照射され、第2クラッド領域122内に、電荷溜りが形成される。なお、この電荷溜りは、当該電荷溜りと電極450との間に第1電圧Vaが印加されることに相当する電荷蓄積量を有する。これにより、電極450と電荷溜りとの間に形成される電界により、第1結晶領域内において分極を配向させる。
【0080】
続いて、タイミングC1〜タイミングC2の間で行われるステップST50Aでは、光ファイバ100Cの表面温度を100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲内に維持した状態で、UVレーザ光が光ファイバ100C内に連続的に形成された第1結晶領域に間欠照射されることで、第1区間として残った第1結晶領域と第2区間となる第2結晶領域とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が添加領域内に設けられる。ステップST50Aと同時並行またはその後に実行されるステップST50Bでは、
図10中に示されたように光ファイバ100Cを矢印Sで示された方向に回転させた後、分極を配向させたい領域(第2区間となるべき領域)に所定電流が供給されるカソード410から放出された電子が間欠照射され、第2クラッド領域122内に、電荷溜りが形成される。なお、この電荷溜りは、電極450との間に第1電圧Vaよりも小さい第2電圧Viを発生させる程度の電荷蓄積量を有する。電極450と電荷溜りとの間に形成される電界により、光ファイバ100Cの長手方向に沿って周期的に形成された第2結晶領域内においても、第1結晶領域とは異なる向きに分極を配向させることが可能になる。
【0081】
上述の
図4および
図6に示された電界形成法では、主に正の電圧による電界(電位勾配)を形成するが、電子ビーム照射による分極反転は、負の電圧による電界を形成することで、分極反転構造を形成することが可能になる。2つの電極を有する光ファイバの場合(例えば、
図4の光ファイバ100A)、第2の電子ビーム照射方法として、
図11Aに示されたように、電極140Aと添加領域R(コア領域110と第1クラッド領域121で構成)の間に電子が打ち込まれてもよい。この場合、電子溜りにマイナス電荷の分布を形成させ、電極140Bをグラウンド電極とすることで、添加領域R内には、上述の第1の電子ビーム照射方法(
図10)よりも強い電界が形成されるため、分極反転に有効である。あるいは、第3の電子ビーム照射方法として、
図11Bに示されたように、光ファイバ100Aを
図10に示された矢印Sで示された方向(長手方向を中心とする円周方向)に回転させ、第1の電子ビーム照射方法とは異なる位置に電子が打ち込まれてもよい。更に、上述の第1〜第3の電子ビーム照射方法の他、電極140Aに打ち込まれた電子により電極140A自体を帯電させ、この電極140Aとグランド電極140Bとの間に電界を形成してもよい。このように形成される電界で分極反転させる方法も有効である。特に、第3の電子ビーム照射方法は、電極140Aのサイズが大きく、電子ビーム照射エリアが小さくなってしまう場合に有効である。
【0082】
なお、上述の第2の電子ビーム照射方法(
図11A)および第3の電子ビーム照射方法(
図11B)の何れの場合も、
図3AのステップST30B、
図3BのステップST40Bおよび
図3BのステップST50Bそれぞれに適用可能である。一例として、第2の電子ビーム照射方法が第2実施形態に係る光ファイバ製造方法(
図3B)に適用される場合について、以下、説明する。まず、ステップST10にいて用意された光ファイバ100Aに対し、その表面温度を100℃〜800℃の範囲内、あるいは100℃〜400℃の範囲に維持される(ステップST20)。タイミングB1〜B2では、このような温度調節状態で、光ファイバ100Aの添加領域Rに対して長手方向に沿ってレーザ光が連続照射される(ステップST40A)。ステップST40Bは、ステップST40Aと同時並行またはステップST40Aの後に実行される。すなわち、光ファイバ100Aの長手方向に沿って連続する第1結晶領域を形成しながら、または形成した後、光ファイバ100Aの長手方向に沿って、該長手方向に垂直な方向から第1電圧Vaに相当する電子が第1結晶領域に間欠照射される。これにより、第2クラッド領域122内に電荷溜りが形成され(第2クラッド領域122の帯電)、連続する第1結晶領域のうち第1区間となるべき領域が分極配向される。なお、上述のように、電極140Aのサイズが大きく、電子ビーム照射エリアが小さくなってしまう場合には、第3の電子ビーム照射方法が有効である。更に他の方法として、電極140A自体を帯電させてもよい。
【0083】
タイミングC1〜C2の間でも、ステップST50Bは、ステップST50Aと同時並行またはその後に実行される。ただし、ステップST50Bでは、ステップST40Bとは異なり、電極140Aをグランド電極とする一方、添加領域Rと電極140Bの間に、第1電圧Vaより小さい第2電圧Vi相当の電荷蓄積量の電荷溜りが形成されるよう電子が打ち込まれる。すなわち、光ファイバ100Aの長手方向に沿ってUVレーザ光を第2区間となるべき領域に間欠照射しながら、あるいはその後、添加領域Rと電極140Bとの間の電荷溜りを形成することにより(電子ビーム照射)、電荷溜りとグランド電極140Aとの間の電界により、第2区間となるべき領域が、残った第1結晶領域(第1区間)とはことなる向きに分極配向される。これにより、添加領域R内に、第1区間となる第1結晶領域と第2区間となる第2結晶領域とが長手方向に沿って交互に配置された繰り返し構造が設けられる。