特許第6753448号(P6753448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753448アクリル酸系共重合体及びその製造方法並びに水処理剤
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  • 特許6753448-アクリル酸系共重合体及びその製造方法並びに水処理剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753448
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】アクリル酸系共重合体及びその製造方法並びに水処理剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/06 20060101AFI20200831BHJP
   C08F 220/58 20060101ALI20200831BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20200831BHJP
   C02F 5/00 20060101ALN20200831BHJP
【FI】
   C08F220/06
   C08F220/58
   C02F5/10 620C
   C02F5/10 620D
   !C02F5/00 620B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-200405(P2018-200405)
(22)【出願日】2018年10月24日
(62)【分割の表示】特願2016-550010(P2016-550010)の分割
【原出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2019-31689(P2019-31689A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2018年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-192991(P2014-192991)
(32)【優先日】2014年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正裕
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−001512(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0199783(US,A1)
【文献】 特開平10−110015(JP,A)
【文献】 特開2001−254191(JP,A)
【文献】 特開平04−356580(JP,A)
【文献】 特開2003−002909(JP,A)
【文献】 特開2003−040912(JP,A)
【文献】 特開2006−043600(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132892(WO,A1)
【文献】 特開昭62−129136(JP,A)
【文献】 特開平09−248555(JP,A)
【文献】 特開平02−173108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C02F 5/10
C02F 5/00
C08F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(x)と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(y)とを含み、前記構造単位(x)及び前記構造単位(y)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、35〜90質量%及び10〜65質量%であるアクリル酸系共重合体であって、
重量平均分子量Mwが7000〜20000であり、
分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体の含有割合が、すべての重合体の合計量に対して0.10質量%以下であり、
前記重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である多分散度(Mw/Mn)が2.0〜3.5であるアクリル酸系共重合体。
【請求項2】
前記重量平均分子量Mwが8000〜20000であり、
前記分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体の含有割合が、すべての重合体の合計量に対して0.04質量%以下である請求項1に記載のアクリル酸系共重合体。
【請求項3】
前記構造単位(x)が、アクリル酸のナトリウム塩に由来する構造単位であり、前記構造単位(y)が、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のナトリウム塩に由来する構造単位である請求項1又は2に記載のアクリル酸系共重合体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアクリル酸系共重合体を含む水処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果に優れる水処理剤の主成分として好適なアクリル酸系共重合体(以下、「AA/ATBS系重合体」ともいう)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粒子の分散剤、スケールの形成、沈殿又は沈着を抑制する薬剤等の主成分として、アクリル酸又はその塩に由来する構造単位と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(「アクリルアミド−tert−ブチルスルホン酸」ともいう)又はその塩に由来する構造単位とを含む共重合体(AA/ATBS系重合体)が知られている。
例えば、特許文献1には、水酸化ナトリウムでpH3.5〜6.0に中和したAA/ATBS系重合体が開示されている。特許文献2には、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムで中和したAA/ATBS系重合体が開示されている。特許文献3には、フェノキシエチルアクリレート等の難水溶性単量体に由来する構造単位を更に含むAA/ATBS系重合体が開示されている。また、特許文献4には、エトキシル化したトリスチリルフェノールメタクリレートに由来する構造単位を更に含むAA/ATBS系重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−502394号公報
【特許文献2】特表平6−504939号公報
【特許文献3】特開2000−169508号公報
【特許文献4】特開平11−104479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜4に開示されたAA/ATBS系重合体であっても、これらを水処理剤に用いた場合にはその性能が満足されない場合があった。特にリン酸カルシウムスケールの抑制効果という点では十分ではなく、リン酸カルシウムに対してもスケール形成の抑制効果に優れる水処理剤の主成分として好適なアクリル酸系共重合体(AA/ATBS系重合体)及びその製造方法並びに水処理剤が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記した課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、従来の方法によりアクリル酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムを重合した場合には、少量ながらも高分子量重合体が副生し、この高分子量重合体がスケール形成抑制能を低下させる要因となっている知見を得た。また、本発明者は、係る知見に基づき、高分子量重合体の割合を特定量以下に低減したAA/ATBS系重合体によりリン酸カルシウムスケールに対しても優れたスケール抑制能を示すことを見出し、本発明を完成した。
さらに、上記高分子量重合体の副生に関して、本発明者は、従来の製造方法では、反応液中のナトリウム濃度が反応の進行に伴い変化するため、一定の条件下で重合を継続できないことによるものであるという考えに至った。この考えに基づき、反応液中のナトリウム濃度を一定量に保ちながら重合を行うことにより、上記高分子量重合体の含有量が極めて少ないAA/ATBS系重合体を効率的に製造することが可能であるという知見を見出した。
【0006】
本発明は、以下に示される。
[1]アクリル酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(x)と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(y)とを含み、上記構造単位(x)及び上記構造単位(y)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、35〜90質量%及び10〜65質量%であるアクリル酸系共重合体であって、
重量平均分子量Mwが2000〜30000であり、
分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体の含有割合が、すべての重合体の合計量に対して0.30質量%以下であるアクリル酸系共重合体。
[2]上記重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である多分散度(Mw/Mn)が3.5以下である上記[1]に記載のアクリル酸系共重合体。
[3]上記構造単位(x)が、アクリル酸のナトリウム塩に由来する構造単位であり、上記構造単位(y)が、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のナトリウム塩に由来する構造単位である上記[1]又は[2]に記載のアクリル酸系共重合体。
[4]上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のアクリル酸系重合体の製造方法であって、
反応器に、アクリル酸又はそのナトリウム塩、及び、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩からなる単量体を連続的に供給しつつ、該単量体を重合する工程を備えるアクリル酸系共重合体の製造方法。
[5]上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のアクリル酸系共重合体の製造方法であって、
3基の反応器を連結した製造装置を用い、第1の反応器において、重合開始剤の存在下、アクリル酸又はそのナトリウム塩、及び、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩からなる単量体を連続的に供給しつつ、該単量体を重合し、次いで、反応液を、上記第1反応器から、該第1反応器に連結された第2の反応器へ移送し、該第2反応器において、上記反応液に含まれる上記単量体の重合を継続した後、反応液を、上記第2反応器から、該第2反応器に連結された第3の反応器へ移送し、該第3反応器において、重合体含有液のpHを9以下に調整するアクリル酸系共重合体の製造方法。
[6]上記重合開始剤が過硫酸塩を含む上記[5]に記載のアクリル酸系共重合体の製造方法。
[7]上記第3反応器において、上記重合体含有液のpHを3.0〜8.0に調整する上記[5]又は[6]に記載のアクリル酸系共重合体の製造方法。
[8]上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のアクリル酸系共重合体を含む水処理剤。
[9]上記アクリル酸系共重合体の重量平均分子量Mwが4000〜20000であり、
分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体の含有割合が、すべての重合体の合計量に対して0.05質量%以下であり、上記重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である多分散度(Mw/Mn)が3.5以下である上記[8]に記載の水処理剤。
本明細書において、重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう)及び数平均分子量(以下、「Mn」ともいう)は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう)により測定された標準ポリアクリル酸ナトリウム換算値である。また、「(メタ)アクリル」の記載は、アクリル及びメタクリルを意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアクリル酸系共重合体(AA/ATBS系重合体)は、より均一な組成であるので、スケールの形成、沈殿又は沈着を抑制する薬剤、無機粒子の分散剤等の主成分として好適である。特に、2種の構造単位(x)及び(y)の含有割合が特定の範囲にあり、また、実質的に、特定の範囲のMwを有するアクリル酸系共重合体からなるので、リン酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果に優れる水処理剤の主成分として好適である。また、本発明のアクリル酸系共重合体は、リン酸カルシウム以外のスケール形成抑制剤、無機粒子等の分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、洗剤組成物等の構成成分として用いることもできる。
本発明のアクリル酸系共重合体(AA/ATBS系重合体)の製造方法によれば、分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体の生成を抑制することができる。
また、本発明の水処理剤は、リン酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明で用いる製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアクリル酸系共重合体(AA/ATBS系重合体)は、アクリル酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(x)と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(y)とを含み、上記構造単位(x)及び上記構造単位(y)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、35〜90質量%及び10〜65質量%であり、Mwが2000〜30000であり、分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体の含有割合が、すべての重合体の合計量に対して0.30質量%以下である。
【0010】
本発明のAA/ATBS系重合体は、これに含まれる構造単位(x)が、アクリル酸に由来する構造単位及びアクリル酸のナトリウム塩に由来する構造単位の少なくとも一方であり、構造単位(y)が、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のナトリウム塩に由来する構造単位の少なくとも一方である。特に好ましい態様は、構造単位(y)の少なくとも1つが−SONaを有する重合体である。
【0011】
本発明のAA/ATBS系重合体を構成する構造単位(x)及び構造単位(y)の含有割合は、高いリン酸カルシウム析出防止能を得る観点から、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、35〜90質量%及び10〜65質量%であり、好ましくは40〜80質量%及び20〜60質量%、より好ましくは45〜75質量%及び25〜55質量%である。
【0012】
本発明のAA/ATBS系重合体が、分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体を含む場合、その含有割合が、すべての重合体の合計量に対して0.30質量%以下であり、好ましくは0.10質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。
【0013】
本発明のAA/ATBS系重合体のMwは、高いリン酸カルシウム析出防止能を得る観点から、2000〜30000であり、好ましくは4000〜20000である。また、Mwと数平均分子量Mnとの比である多分散度(Mw/Mn)は3.8以下であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.1以下である。但し、下限は、通常、2.0である。
【0014】
本発明のAA/ATBS系重合体の構造は、特に限定されないが、好ましくはランダム共重合体である。
本発明のAA/ATBS系重合体は、アクリル酸又はそのナトリウム塩、及び、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩からなる単量体を用いて、好ましくは連続重合法により得られたものとすることができる。
【0015】
本発明におけるAA/ATBS系重合体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)は、反応器に、アクリル酸又はそのナトリウム塩、及び、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩からなる単量体を連続的に供給しつつ、これを重合する工程を備えるものである。
【0016】
本発明において、特に好ましい態様のAA/ATBS系重合体を製造する方法は、3基の反応器を連結した製造装置を用い、第1の反応器において、重合開始剤の存在下、アクリル酸又はそのナトリウム塩、及び、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩からなる単量体を連続的に供給しつつ、単量体を重合し、次いで、反応液(以下、「反応液(S1)」という)を、第1反応器から、第1反応器に連結された第2の反応器へ移送し、第2反応器において、反応液(S1)に含まれる単量体の重合を継続した後、反応液(以下、「反応液(S2)」という)を、第2反応器から、第2反応器に連結された第3の反応器へ移送し、第3反応器において、重合体含有液のpHを9以下に調整するというものである。このように、本発明によると、連続槽型重合装置を用いて、単量体の重合、重合体の移液等を連続的に進めることにより、高分子量重合体であるアクリル酸系共重合体の副生を抑制しつつ、Mwが2000〜30000であるアクリル酸系共重合体の生成率の高い均一なAA/ATBS系重合体を製造することができる。尚、本発明の製造方法では、第2反応器及び第3反応器において継続される単量体の重合により、実質的に、Mwが2000〜30000であるアクリル酸系共重合体又はその前駆体が形成される。
【0017】
本発明の製造方法で用いる装置は、特に限定されないが、例えば、3基の反応器を備える製造装置の概略図を図1に示す。図1の製造装置(100)は、原料(15)を供給する手段、攪拌手段、温度調節手段、還流冷却手段、排出手段等を備える第1反応器(10)と、原料等(25)を供給する手段、攪拌手段、温度調節手段、還流冷却手段、排出手段等を備える第2反応器(20)と、pH調整剤等(35)を供給する手段、攪拌手段、温度調節手段、還流冷却手段、排出手段等を備える第3反応器(30)とを備える。
【0018】
上記第1反応器(10)では、アクリル酸又はそのナトリウム塩と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩とからなる単量体が連続的に供給され、重合開始剤の存在下に重合される。この単量体は、アクリル酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を含むことが好ましい。また、この反応系では、重合用媒体として水が用いられ、必要に応じて、連鎖移動剤を用いることができる。
上記第1反応器(10)に供給される単量体を構成するアクリル酸の割合は、好ましくは35〜90質量%、より好ましくは40〜80質量%、更に好ましくは45〜75質量%である。また、上記第1反応器(10)における単量体の濃度は、重合用媒体を100質量%とすると、好ましくは20〜200質量%、より好ましくは50〜150質量%である。
本発明の製造方法では、分子量分布の狭い重合体を得る観点から、第1反応器(10)において重合反応の90%以上を行うことが好ましく、そのためには、用いる単量体の90質量%以上を第1反応器(10)に供給することが好適に採用される。更に、95質量%以上を第1反応器(10)に供給することがより好ましい。また、第1反応器(10)では、単量体の重合転換率が90%以上となるような条件を選択して重合を行うことが好ましい。
【0019】
上記重合開始剤としては、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、過硫酸塩を用いることが好ましい。
上記重合開始剤の使用量は、上記単量体100質量部に対して、好ましくは0.2〜2.0質量部、より好ましくは0.5〜1.5質量部である。
【0020】
上記連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン際、3−メルカプトプロピオン際、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール系連鎖移動剤;亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)や、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記連鎖移動剤の使用量は、上記単量体100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは3〜10質量部である。
【0021】
上記第1反応器(10)における単量体の重合温度(反応系の温度)は、重合開始剤の種類等により、適宜、選択されるが、円滑に重合が進行することから、好ましくは60℃〜100℃、より好ましくは70℃〜90℃である。
尚、本発明の製造方法では、連続的に供給される単量体の重合は、第1反応器(10)においてではなく、第2反応器(20)又は第3反応器(30)において完結する。従って、第1反応器(10)で得られ、第2反応器(20)に供給される反応液(S1)には、通常、重合体、単量体、重合開始剤等が含まれる。また、第2反応器(20)で得られ、第3反応器(30)に供給される反応液(S2)において、重合体の他に、単量体、重合開始剤等が含まれ得る。
上記第1反応器(10)における単量体の平均滞留時間は、好ましくは30〜300分間、より好ましくは50〜200分間である。
【0022】
次に、第2反応器(20)において、第1反応器(10)から送液された反応液(S1)に残存する単量体の重合が進められる。尚、この第2反応器(20)で行われる重合は、反応液(S1)に含まれる単量体のみに対して行われるものであってよいし、必要に応じて、更に供給された単量体とともに行われるものであってもよい。また、上記第2反応器(20)においては、予め、重合開始剤、重合用媒体等を収容しておいてもよい。
上記第2反応器(20)における反応系の温度は、好ましくは60℃〜100℃、より好ましくは70℃〜90℃である。尚、重合温度は、上記第1反応器(10)における温度と同じであっても、異なってもよい。
上記第2反応器(20)における単量体の平均滞留時間は、均一な重合体を形成しつつ重合が完結することから、好ましくは20〜200分間、より好ましくは30〜100分間である。
【0023】
その後、第3反応器(30)において、第2反応器(20)から送液された反応液(S2)に残存する単量体の重合、及び、この反応液(S2)に含まれるアクリル酸系共重合体の前駆体の中和が行われる。上記反応液(S2)のpHは、通常、1.0〜5.0の範囲にあるので、中和には、通常、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、塩化物又は炭酸塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、塩化物又は炭酸塩;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン等のアルカリ性物質を、水に溶解させたアルカリ性水溶液が用いられる。上記アルカリ性物質は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記第3反応器(30)においては、予め、重合用媒体等を収容しておいてもよい。
【0024】
上記第3反応器(30)における重合体含有液のpHは、上記アルカリ性水溶液により、9以下、好ましくは3.0〜8.0の範囲に調整される。
以上の工程により、実質的に、Mwが2000〜30000であるアクリル酸系共重合体からなり、固形分濃度が好ましくは30〜50質量%である、AA/ATBS系重合体含有液を得ることができる。重合用媒体が水である場合には、重合体水溶液が得られる。
【0025】
本発明の製造方法によれば、ナトリウム濃度一定の条件下で重合反応を進行させることができる。このため、ナトリウム濃度が変化することによる重合速度の変化等の現象が生じ難く、結果として分子量が70000を超えるような高分子量重合体の生成を抑えつつ、Mw2000〜30000の均質なAA/ATBS系重合体を得ることができる。
【0026】
本発明のアクリル酸系共重合体は、リン酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果に優れる水処理剤、リン酸カルシウム以外のスケール形成抑制剤、無機粒子等の分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、洗剤組成物等の構成成分として好適である。
【0027】
本発明の水処理剤は、上記本発明のAA/ATBS系重合体を含有するものであり、通常、更に水を含む組成物である。AA/ATBS系重合体の種類は、特に限定されず、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0028】
本発明の水処理剤におけるAA/ATBS系重合体の含有割合は、水処理剤としての効果が十分に得られることから、好ましくは5〜45質量%、より好ましくは10〜35質量%である。
【0029】
本発明の水処理剤は、必要に応じて、ポリアクリル酸又はその塩、ポリマレイン酸又はその塩、(メタ)アクリル酸系共重合体、スチレン・マレイン酸系共重合体等の他のスケール抑制剤、殺菌剤、防食剤、スライム防止剤、消泡剤等を含有してもよい。
【0030】
本発明の水処理剤は、例えば、熱交換器の伝熱面、冷却水の配管等に付着しやすいリン酸カルシウム等に対して好適である。従って、本発明の水処理剤を用いることにより、例えば、冷却水系、ボイラー水系、海水淡水化装置等における、熱交換効率の低下、配管の閉塞等の不具合を抑制することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0032】
1.アクリル酸系共重合体の製造
以下の実施例では、図1に示すように、それぞれ、攪拌機及びコンデンサを備えた3基の反応器(第1反応器10、第2反応器20及び第3反応器30)を、この順に連結した製造装置100を用いた。
【0033】
実施例1(連続重合による製造)
第1反応器(10)、第2反応器(20)及び第3反応器(30)に、水を2100gずつ仕込み、75℃に保持した。その後、第1反応器(10)内を撹拌しながら、アクリル酸の60%水溶液(以下、「60%AA」ともいう)を11.0g/分、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの50%水溶液(以下、「50%ATBSNa」ともいう)を9.0g/分、過硫酸ナトリウムの15%水溶液(以下、「15%NPS」ともいう)を0.5g/分、次亜リン酸ナトリウムの30%水溶液(以下、「30%NHP」ともいう)を2.5g/分で供給し、重合を行った。そして、これらの原料(15)の供給と同時に、第1反応器(10)内の反応液を、23.0g/分で第2反応器(20)へ移液し、第1反応器(10)内の液量が2100gとなるようにした。尚、第1反応器(10)における反応液の平均滞留時間を90分とした。第2反応器(20)では、第1反応器(10)からの反応液の供給が始まったと同時に、第2反応器(20)内の反応液を、23.0g/分で第3反応器(30)へ移液した。このように、第2反応器(20)においても、液量を2100gに保ちながら、撹拌下、重合を継続し、第2反応器(20)における反応液の平均滞留時間を90分とした。そして、第3反応器(30)では、第2反応器(20)からの反応液(pH4.0)の供給が始まったと同時に、水及びNaOHの48%水溶液の供給、並びに、第3反応器(30)内の反応液の排出及び回収を行った。尚、第3反応器(30)においても、液量を2100gに保ちながら、撹拌下、中和を継続し、反応液のpHが7.0となるようにした。この製造を開始して24時間経過してから、1時間分の反応液を回収し、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E1)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
【0034】
次いで、アクリル酸系共重合体(E1)を、下記に示す条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に供したところ、Mwは8000、Mw/Mnは2.8であった。また、分子量分画計算にて求めた分子量70000以上のアクリル酸系共重合体の含有割合は、アクリル酸系共重合体(E1)の全体に対して0.02%であった。
<GPC測定条件>
装置:東ソー社製HLC8020システム
検出:RI
カラム:東ソー社製G4000PWxl、G3000PWxl及びG2500PWxlを連結
溶離液:0.1M−NaCl+リン酸バッファー(pH7)
標準:創和科学社製ポリアクリル酸Na
【0035】
実施例2(連続重合による製造)
30%NHPに代えて、亜硫酸水素ナトリウムの30%水溶液(以下、「30%NaHSO」ともいう)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E2)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E2)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0036】
実施例3(連続重合による製造)
60%AA及び50%ATBSNaの使用量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E3)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E3)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0037】
実施例4(連続重合による製造)
60%AA及び50%ATBSNaの使用量を変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E4)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E4)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0038】
実施例5(連続重合による製造)
60%AA及び50%ATBSNaの使用量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E5)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E5)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0039】
実施例6(連続重合による製造)
60%AA及び50%ATBSNaの使用量を変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E6)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E6)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0040】
実施例7(連続重合による製造)
30%NHPの使用量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E7)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E7)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0041】
実施例8(連続重合による製造)
30%NaHSOの使用量を変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E8)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E8)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0042】
実施例9(連続重合による製造)
30%NHPの使用量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E9)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E9)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0043】
実施例10(連続重合による製造)
30%NaHSOの使用量を変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E10)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E10)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0044】
実施例11(連続重合による製造)
50%ATBSNaの単独使用に代えて、50%ATBSNaを5.0g/分、及び、50%ATBSを5.0g/分、の併用とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E11)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E11)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0045】
実施例12(連続重合による製造)
50%ATBSNaの単独使用に代えて、50%ATBSNaを5.0g/分、及び、50%ATBSを5.0g/分、の併用とした以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E12)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E12)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0046】
実施例13(連続重合による製造)
50%ATBSNaに代えて、50%ATBSを用い、その供給量を8.0g/分とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E13)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E13)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0047】
実施例14(連続重合による製造)
50%ATBSNaに代えて、50%ATBSを用い、その供給量を8.0g/分とした以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(E14)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た(表1参照)。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(E14)の分析を行い、その結果を表1に併記した。
【0048】
比較例1(セミバッチ重合による製造)
攪拌機及びコンデンサを備えた反応器に、水250gを仕込み75℃に保持した。次に、70%AA470g及び50%ATBSNa450gの混合液、15%NPS25g、並びに、30%次亜リン酸ナトリウム水溶液100gを、それぞれ、3時間かけて反応器に供給し、撹拌下、重合を行った。原料の供給が終了した後、反応系を75℃に保ったまま、撹拌下、1時間熟成した。そして、pH3.9の反応液に、水及びNaOHの48%水溶液を供給し、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(C1)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(C1)の分析を行ったところ、Mwは11000、Mw/Mnは3.8であった。また、分子量分画計算にて求めた分子量70000以上のアクリル酸系共重合体の含有割合は、アクリル酸系共重合体(C1)の全体に対して1.0%であった。
【0049】
比較例2(バッチ重合による製造)
30%NHPに代えて、30%NaHSOを用いた以外は、比較例1と同様の操作を行い、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体(C2)を含み、pH7.0の重合体水溶液を得た。
その後、実施例1と同様にして、アクリル酸系共重合体(C2)の分析を行ったところ、Mwは12000、Mw/Mnは3.8であった。また、分子量分画計算にて求めた分子量70000以上のアクリル酸系共重合体の含有割合は、アクリル酸系共重合体(C2)の全体に対して1.0%であった。
【0050】
2.水処理剤の評価
上記の実施例1〜14及び比較例1〜2で得られた、固形分濃度が40%であるアクリル酸系共重合体の水溶液を、そのまま、水処理剤とし、リン酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果を、下記に示す方法で確認した。
<リン酸カルシウムスケール抑制試験>
アクリル酸系共重合体の水溶液と、リン酸2ナトリウムと、塩化カルシウムとを用い、アクリル酸系共重合体の濃度が30mg/L、リン酸2ナトリウムの濃度が90mg/L、塩化カルシウムの濃度が375mg/Lである液180mLを調製した。次いで、この液を撹拌しながら、0.21%炭酸水素ナトリウム水溶液を20mL投入し、水酸化ナトリウムでpH8.5に調整した。その後、60℃で3時間放置した後、析出分を濾別し、濾液中のカルシウム濃度をEDTA滴定にて求め、スケール抑制率を算出した。
【0051】
比較例1〜2で得られたアクリル酸系共重合体を含む水処理剤の抑制率は、いずれも81%であった。一方、実施例1〜14で得られたアクリル酸系共重合体を含む水処理剤によれば、90〜99%と高い抑制率であった(表1参照)。
【0052】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアクリル酸系共重合体は、リン酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果に優れる水処理剤、リン酸カルシウム以外のスケール形成抑制剤、無機粒子等の分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、洗剤組成物等の構成成分として好適である。
本発明の水処理剤は、例えば、熱交換器の伝熱面、冷却水の配管等に付着しやすいリン酸カルシウム等に対して好適である。
図1