(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753449
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】走査反射器システム
(51)【国際特許分類】
G02B 26/10 20060101AFI20200831BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20200831BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
B81B3/00
G02B26/08 E
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-210799(P2018-210799)
(22)【出願日】2018年11月8日
(65)【公開番号】特開2019-133133(P2019-133133A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2019年3月15日
(31)【優先権主張番号】20176055
(32)【優先日】2017年11月24日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】タパニ・ラークソネン
(72)【発明者】
【氏名】コンスタ・ユーガ
(72)【発明者】
【氏名】ミッコ・ピュンノネン
【審査官】
廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−004851(JP,A)
【文献】
特開2017−167254(JP,A)
【文献】
特開2014−145941(JP,A)
【文献】
特開2015−118181(JP,A)
【文献】
特開2011−133728(JP,A)
【文献】
特開2012−133242(JP,A)
【文献】
特開2013−235161(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0278783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10
G02B 26/08
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射器システムおよびフィードバック回路を備える装置であって、
前記反射器システムは、支持部と、反射器と、互いに直交する2つの振動モードにおいて前記反射器が走査運動するための、前記支持部から前記反射器を懸架するばね構造体とを含み、
各振動モードは、初期帯域幅を有する自然共振周波数でピークに達する周波数応答を有し、
前記反射器システムは、前記反射器を機械的に作動させるための第1変換器構造体と、前記反射器の機械的運動を表す1以上の感知信号を生成するための第2変換器構造体とを含み、
前記フィードバック回路は、前記第2変換器構造体の変換器から感知信号を受信し、受信した前記感知信号に基づいて、前記第1変換器構造体の変換器に対して駆動信号を生成するように構成され、
前記2つの振動モードの各々に対して、前記フィードバック回路は、
前記駆動信号の振幅および周波数を、ピーク周波数における周波数シフトが前記初期帯域幅の少なくとも10倍である非線形振動範囲に調整し、
変調信号を生成し、
前記駆動信号の振幅を前記変調信号の波形に比例して変化させる、
装置。
【請求項2】
前記フィードバック回路は、前記変調信号の周波数を、前記ピーク周波数における前記周波数シフトより小さく設定するように構成される、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1変換器構造体の前記変換器は、ある位置にある前記反射器を作動させ、前記第2変換器構造体の前記変換器は、同じ反射器位置にある前記反射器の運動を感知する、
請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記支持部から前記反射器を懸架する前記ばね構造体は、1以上の懸架部を含み、各懸架部の一端が前記反射器のエッジ点に結合され、前記懸架部の他端が前記支持部に結合される、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1変換器構造体の前記変換器および前記第2変換器構造体の前記変換器は、同じ懸架部上に位置付けされる、
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記支持部から前記反射器を懸架する前記ばね構造体は、3以上の懸架部を含み、
同じ懸架部上に位置付けされた前記第1変換器構造体の変換器および前記第2変換器構造体の変換器は、前記フィードバック回路用の1つのフィードバックチャンネルを形成する、
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1変換器構造体の前記変換器および前記第2変換器構造体の前記変換器は、圧電変換器である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記駆動信号の周波数は、前記変調信号の周波数の少なくとも10倍である、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記駆動信号および前記変調信号は、正弦波信号である、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記フィードバック回路は、自動利得制御装置部および振幅変調信号発生器部を含み、
前記自動利得制御装置部は、前記駆動信号の利得を目標レベルに調整するように構成され、
前記自動利得制御装置の前記目標レベルは、固定部分および変化部分の和を含み、前記変化部分は、前記変調信号の波形に比例して変化する、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
支持部と、反射器と、前記反射器を機械的に作動させるための第1変換器構造体と、前記反射器の機械的運動を表す1以上の感知信号を生成するための第2変換器構造体と、互いに直交する2つの振動モードにおいて前記反射器が走査運動するための、前記支持部から前記反射器を懸架するばね構造体とを備える反射器システムを駆動する方法であって、各振動モードは、初期帯域幅を有する自然共振周波数でピークに達する周波数応答を有し、前記方法は、
前記第2変換器構造体の変換器から感知信号を受信し、受信した前記感知信号に基づいて、前記第1変換器構造体の変換器に対して駆動信号を生成し、
前記駆動信号の振幅および周波数を、ピーク周波数における周波数シフトが前記初期帯域幅の少なくとも10倍である非線形振動範囲に調整し、
変調信号を生成し、
前記駆動信号の振幅を前記変調信号の波形に比例して変化させ、
前記変調信号の周波数を、前記ピーク周波数における前記周波数シフトより小さく設定する、
方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法のステップを請求項1に記載の装置に実行させる指示を含む、
コンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のコンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読取可能媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走査反射器システム、より詳細には、互いに直交する2つの振動モードにおける走査運動を可能にする装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査微小電気機械(MEMS)反射器は、光検出測距センサ(LIDAR)などの撮像装置に使用することができる。走査MEMS反射器は、レーザ発光器からの光ビームを周囲環境に向けて反射することができる、少なくとも1つの移動反射器を含んでもよい。移動反射器と環境との間の光路に、追加の反射器またはレンズを含めてもよい。出射ビームを反射した同じ反射器またはレンズによって、戻り光ビームを光検出器に向けて内側に反射することができる。
【0003】
走査MEMS反射器の画像領域(すなわち、視界)は、移動反射器をどれだけ、および、どのように傾け得るかによって、ある程度決まる。これについて、反射器システムの簡略化された二次元概略図を示す
図1で説明する。レーザ発光器11は、光ビーム111を出射する。移動反射器12は、ねじり梁から懸架され、z軸を中心に回転することができる。反時計回りに極限まで回転した位置の反射器12を実線で示す。この位置から反射された光ビーム121も実線で示す。時計回りに極限まで回転した位置の反射器12を破線で示す。この位置から反射された光ビーム122も破線で示す。この簡略化された概略図では、zy平面内の反射器の画像領域は線になると考えられ、その長さは2つのビーム121と122とのなす角度αによって決まる。
図1から分かるように、αの程度は、反射器12が得ることのできる傾斜角θの範囲によって決まる。多方向走査運動には、適切に調整し、タイミングを計った順に反射器の様々な側を昇降させることを伴う、より複雑な動きが必要である。
【0004】
多方向走査運動は、
図2に概略的に示すシステムで生成することができる。
図2は、yz平面内の円形反射器21を示す。この反射器21は、反射器21の縁の周りにある対称的に配置された位置に固定された4つのアクチュエータ221、222、223および224によって、フレーム22から懸架される。各アクチュエータは、電圧によって制御され、アクチュエータが反射器の縁に固定されている点において、縁を上昇させたり、下降させたりすることができる。
【0005】
各アクチュエータの昇降させる動きを適切に調整することによって、反射器表面を、yz平面から任意の方向に傾けることができる。例えば、アクチュエータ224が、当該アクチュエータの固定される縁を上昇させ、一方アクチュエータ222が、当該アクチュエータの固定される縁を下降させ、221および223の両方が、当該アクチュエータの固定される縁を中央位置に維持する場合、反射器の動きは、y軸を中心とする傾動に類似している。アクチュエータ221が上昇し、一方223が下降し、222および224の両方が中央位置にとどまる場合、反射器の動きは、z軸を中心とする傾動に類似している。アクチュエータ222および221が上昇し、一方223および224が下降する場合、反射器の動きは、y軸およびz軸の両方を中心とする傾動の組み合わせに類似している。
【0006】
多方向走査モードでは、移動反射器12は、互いに直交する2つの回転軸を中心に振動するように配置することができる。両方の振動は同時に励振させ、駆動することができ、反射器の結果として生じる位置は2つの振動モードの重ね合わせである。それによって、反射器に、互いに直交する2つの振動モードの走査運動をさせる。有利には、これらの振動モードは共振動作する。
【0007】
反射器が共振周波数で振動するように駆動される場合、最大傾斜角は、以下のように記載することができる。
【0008】
θ=2QF/(π
2Mf
res2r)
【0009】
但し、Qは1振動サイクル当たりの反射器に蓄えられたエネルギー/エネルギー損失、Mは反射器の質量、rは反射器の半径、f
resは共振周波数、および、Fは駆動力である。
【0010】
駆動力Fは、以下のように記載することができる。
【0011】
F=ηV
【0012】
但し、ηはアクチュエータのトランスダクタンス因子であり、Vは印加電圧である。したがって、大きい傾斜角θを得るためには、システムは大きなQ値を有するか、非常に大きな電圧を用いて傾動を駆動しなければならない。非常に大きな駆動電圧を用いることは実用的ではないが、反射器を構造システム部内に真空包装する場合、1000〜10000ほど、またはさらに大きいQ値を得ることができる。
【0013】
直交正弦波振動モードが90度の位相差で共振駆動される場合、
図1の反射ビーム121は、yz平面内の表面123上に円形走査軌道を生成する。固定反射器(
図1に示さず)を適切に配列することで、yz平面内の1つの円に相当する一次元360°走査図を生成するように、この反射ビーム121をさらに、反射または屈折させることができる。しかしながら、画像形成には、環状リングに相当するように、円に相当する画像領域をx方向に広げる走査パターンが、多くの用途において必要である。しかしながら、高いQ値の使用要件によって、この点でいくつかの問題が生じる。
【0014】
このような実装にもかかわらず、2つの傾動固有モードの周波数分離が常に存在し、Q値は高いが、共振の各々の帯域幅は非常に狭い。これは、制御可能に駆動される振動モードにおいて、周波数が少しシフトするだけでも、振幅に相当の変化が生じることを意味する。特許文献1で開示されるように、これらの変化は、振動モードの各々の位相および振幅を一定に保持する別個のフィードバックループによって制御することができる。しかしながら、さらに、高品質振動モードの各々における小さな偏差が振幅に悪影響を与えるため、その狭い帯域幅の外側では、連続360°回転走査から得られる二次元画像領域に十分な角度αの範囲内で傾斜角θを変化させ得るであろう変調信号を、適用可能な駆動電圧で導入することができない。
【0015】
さらに、外部変調信号へのシステム応答は、〜exp(t/τ)に比例する指数過渡期間を有する。但し、τはシステム時定数である。
【0016】
τ=Q/πfr
【0017】
上式から、過渡期間は〜exp(t/τ)=exp(πfrt/Q)=exp(πΔft)として記載することができる。これは、大きなQ値(狭い帯域幅)では、時定数が大きく、過渡期間がゆっくり終了するために、ミラー傾斜角が急激に変化する必要がある場合、問題を引き起こすことを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0320379号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Hofmann et al.: “Resonant biaxial 7-mm MEMS mirror for omnidirectional scanning”, Journal of Micro/Nanolitography, MEMS, and MOEMS,Jan-Mar 2014/Vol. 13
【非特許文献2】Pendulum Lab by Franz-Josef Elmer, University of Basel, Switzerland, https://www.elmer.unibas.ch/pendulum/nonres.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本開示の目的は、走査ミラーシステムを用いて拡大画像領域を形成する際の上記課題を克服、または少なくとも軽減するための方法、およびその方法を実施するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本開示の目的は、独立クレームに記載することを特徴とする装置および方法によって実現される。本開示の好ましい実施形態は従属クレームに開示する。
【0022】
本開示は、不利な不安定性のために従来回避されている非線形範囲において反射器システムを駆動し、かつ、非線形範囲における周波数応答の特定の現象を用いて、画像領域拡大変調を可能にするようにフィードバック回路を構成する考えに基づく。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下に、本開示について、添付図面を参照しながら好ましい実施形態によって、より詳細に説明する。
【
図1】
図1は、反射器システムの簡略化された二次元概略図を示す。
【
図3】
図3は、例示的な反射器システムの要素を示す。
【
図5】
図5は、例示的なフィードバック回路の基本的な機能要素を示す。
【
図6】
図6は、振幅対周波数プロットを用いてフォールドオーバー効果を示す。
【
図7a】
図7aは、駆動振幅が非線形振動範囲まで取る場合における周波数応答の形状の変化を示す。
【
図7b】
図7bは、駆動振幅が非線形振動範囲まで取る場合における周波数応答の形状の変化を示す。
【
図7c】
図7cは、駆動振幅が非線形振動範囲まで取る場合における周波数応答の形状の変化を示す。
【
図8】
図8は、駆動振幅の増加に伴う1つのチャンネルにおけるピーク周波数の変化を示す。
【
図9】
図9は、振幅変調された駆動信号の形を概念レベルで示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の実施形態は、反射器システムおよびフィードバック回路を備える装置を含む。
図3は、開示する装置に適用可能な反射器システムの要素を示す。反射器システムは、支持部300と、反射器302と、互いに直交する2つの振動モードにおいて反射器が走査運動するための、支持部から反射器を懸架するばね構造体304、306、308とを含む。
【0025】
本明細書において、支持部300という用語は、反射器システムを含む装置の一部、例えばMEMS走査反射器装置の一部であってもよい機械要素を指す。あるいは、支持部は、装置に強固に固定された別個の要素であり得る。したがって、ここで言う支持部とは、反射器システムの他の要素を固定することができ、または、反射器システムの他の要素を懸架することができる、剛性を有し、局部的に動かないことを意味する任意の要素を表す。しかしながら、支持部は、反射器を取り囲むフレームを含むことができるが、必ずしも含まなくてもよい。反射器システムのいくつかの実施形態では、支持部は下部の支持層であり、反射器および懸架部のデバイス層から、ある面外ギャップだけ離れている。支持部およびデバイス層は、1以上の突出固定点312、314、316を介して結合されてもよい。
【0026】
本明細書において、反射器302という用語は、光の入射波面を戻す反射面を含む任意の要素を指す。反射の法則によると、各入射光線について、入射角は反射角と等しく、入射方向、法線方向および反射方向は同一平面上にある。微小電気機械反射器システムにおいて、反射器の反射面は、例えば、反射コーティングでコーティングされたシリコンプレートによって実装されてもよい。反射コーティングは、例えば、アルミニウム、銀、金または銅の膜などの1以上の金属薄膜層を含んでもよい。あるいは、コーティングは、屈折率が異なる1以上の誘電体膜のスタックを含んでもよく、この場合、膜は、スタックが光を反射するように配置されている。有利には、反射面は平面状である。
【0027】
ばね構造体は、1以上の懸架部304、306、308を含む。別の剛性要素から懸架された剛性要素の位置または向きは、少なくとも1つの自由度を有する。したがって、本明細書において、懸架部304、306、308という用語は、反射器302を支持部300に懸架し、支持部と反射器との間に少なくとも1つの自由度を与える機械部分を指す。言いかえれば、反射器が懸架部で支持部に取り付けられている場合、懸架部の一部と、懸架部によって保持されている反射器とは、支持部に対して動くことができる。懸架部は反射器の重量を支持するが、さらに、作動中に支持部に対して反射器を動かすか、反射器の動きを可能にする。懸架部は、例えば、反射器プレートと同じシリコン基板層から形成されたシリコン梁であり得る。
【0028】
反射器システムは、駆動信号に応じて反射器を機械的に作動させるための第1変換器構造体を含む。
図3の例示的な実施形態は、支持部から反射器を懸架する懸架部が圧電アクチュエータを含む配列を示す。ここで言うアクチュエータという用語は、構成要素に印加された電圧に応答して物理的変形を受ける圧電部品を指す。アクチュエータは、周期AC電圧信号で制御される場合、振動動作を駆動するために使用され得る。走査MEMS反射器用の曲げ圧電アクチュエータは、圧電層でコーティングされたシリコン層と、圧電層に電圧信号を送信する導電層とを含んでもよい。約50μm厚のシリコン層は、電圧が印加された時に圧電材料と共に曲がるのに十分に薄い。曲げ圧電アクチュエータは、作動動作を容易にするために、窒化アルミニウムなどの圧電活性層を含む。曲げ圧電アクチュエータはまた、電圧信号によって作動動作を制御することができるように、圧電活性層の両側に金属電極層を含んでもよい。電極は、例えば、モリブデン、アルミニウムまたはチタンから準備されてもよい。
【0029】
図3の微小電気機械反射器システムでは、各懸架部304、306、308が、それぞれの固定点312、314、316から支持部に固定される。
図3の懸架部構成は例示的なものであり、懸架部および固定点の数量、形状および位置はその範囲内で変更可能であることに留意する。本明細書において、固定とは、懸架部の端が固定点に確実に配置または固定された機械的に強固な連結を指す。固定点312、314、316はまた、リード線を懸架部へ電気接続する経路を提供してもよい。
【0030】
非作動状態の反射器の反射面が仮想基準面と一致すると考えられる場合、弾性懸架部と、懸架部上の圧電アクチュエータによって、懸架部の第2端を面外方向に変位させることができる。これらの変位は、反射器に、2つの回転軸を中心とする振動として表わすことができる運動をさせるように適用されてもよい。
図3には、Y方向と一致する第1回転軸326と、X方向と一致する第2回転軸328とを示し、両方とも図面の紙面と一致する仮想基準面内にある。
【0031】
反射器302の振動は、細長い懸架部304、306、308上に延在する細長い圧電アクチュエータのうちの1以上に周期AC電圧を印加することによって駆動することができる。このため、微小電気機械反射器システムは、典型的には、懸架部の圧電アクチュエータに電気的に接続され、かつ、設計によって制御された方法でアクチュエータを動作させる作動電圧を印加するように構成される制御装置を含む。制御装置は、
図5でより詳細に開示するフィードバック回路であってもよい。
【0032】
ここで言う第1振動モードとは、第1回転軸326を中心とする反射器302の振動(Yモード振動)を指す。ここで言う第2振動モードとは、第2回転軸328を中心とする反射器の振動(Xモード振動)を指す。円形走査軌道の走査運動は、懸架部に周期作動信号を連続的に印加することによって引き起こすことができる。作動時、懸架部の固定された第1端は、それぞれの固定点に固定されたままであるが、懸架部の第2端は、同時に面外方向に変位する。制御された作動によって、反射器の片側が下方に動くと、反射器の反対側が上方に動かされ、逆の場合も同じである。
【0033】
反射器システムの一般的な目的は、振動の実現に必要な消費電力を確実に最適化することである。最大振幅応答は、反射器システムが共振モードで動作するように、すなわち、両方の振動モードにおける振動がそれぞれの機械共振周波数で生じるように設計することによって得られる。したがって、制御装置は、制御信号を出力して、反射器302に同時に、第1共振周波数F1で第1回転軸326を中心とする第1回転振動をさせ、第2共振周波数F2で第2回転軸328を中心とする第2回転振動をさせるように構成されている。第1回転軸326と第2回転軸とは直交しているため、反射器302の結果として生じる位置は、第1回転振動と第2回転振動との重ね合わせである。F1がF2と等しい場合、揺動モード走査運動とも呼ばれる円形走査軌道の走査運動が実現される。
【0034】
反射器302の反射面に入射する光のビームが反射して戻る場合、反射ビームの方向は、入射時の反射器の位置に依存する。有利には、反射器システムの画像領域を形成する制御された走査パターンに沿って反射ビームが移動するよう反射器を位置付けするように、第1回転振動および第2回転振動は配置される。
【0035】
反射器の振動を制御するために、反射器システムは、反射器の機械的運動を表す感知信号を生成するように構成された少なくとも1つの第2変換器を含む。これを実現する1つの可能な方法は、懸架部の実現された変位を感知することである。このために、懸架部のうちの1以上、有利にはすべてに、圧電アクチュエータに加えて圧電検出器素子を備えることができる。ここで言う検出器という用語は、反射器の振動運動によって引き起こされる物理的変形に応答して電圧信号を生成する圧電部品を指す。
図4は、細長い圧電アクチュエータ400および圧電検出器素子402が、電気的に別々であるが、
図3の懸架部306上に並んで機械的に結合されて延在する例示的な配列を示す。圧電素子への作動電圧および検出電圧のための制御素子への電気接続は、固定点314を介して導くことができる。当然、他の変換器構成をその範囲内で適用してもよい。例えば、圧電変換器は、小型であり、駆動電圧要件が低いため、反射器システムを振動させる用途に有利である。しかしながら、容量性作動および感知も同様にその範囲内で適用することができる。容量性感知および検出の実装については、当業者に周知であり、本明細書ではより詳細に記載しない。
【0036】
図5は、開示する装置に適用可能な例示的フィードバック回路の基本的な機能要素を示す。フィードバック回路は、第2変換器構造体の少なくとも1つの変換器から感知信号を受信し、受信した感知信号に基づいて、第1変換器構造体の変換器に対して駆動信号を生成するように構成される。
図5は、範囲をデジタル実装に限定することのない、反射器システム部の1つのチャンネル分の例示的なデジタル閉ループ駆動回路を示す。アナログ信号およびデジタル信号の制御素子構成の様々な組み合わせで、開示した機能を実装し得ることは、当業者に明らかである。この文脈における1つのチャンネルとは、反射器を作動させる第1変換器構造体と、同じ反射器位置での、または同じ反射器位置からの反射器の運動を感知する第2変換器構造体との1対のフィードバック動作において適用されるフィードバック回路の一部を指す。この特定の例において、各対の変換器は、例えば、一端が反射器のエッジ点に、他端が支持部に結合される1つの懸架部上に位置付けすることができる。第1変換器構造体の変換器(アクチュエータ)と、その時同じ懸架部上に位置付けされた第2変換器構造体の変換器(検出器)とは、フィードバック回路用の1つのチャンネルを形成する。
【0037】
動作中、懸架部は、結合された反射器の面外運動で曲がり、当該懸架部の上にある第2変換器構造体の変換器素子は、従来のアナログフロントエンド回路(図示せず)が処理して感知信号aS1になるアナログ信号を生成する。アナログ感知信号aS1は、アナログデジタル変換器(ADC)50でデジタル化され、デジタル化された信号dS1は、デジタルローパスフィルタ(LPF)52に送られ、デジタルローパスフィルタ(LPF)52は、デジタル化されたdS1信号の位相を共振周波数で約90度だけシフトするように調整される。振幅検出器54は、デジタル化された信号dS1の振幅Aを測定し、振幅Aを自動利得制御装置(AGC)56に送る。AGCは、感知した信号振幅Aを設定可能な基準レベルと比較し、LPF出力からの位相シフトされたチャンネル信号S2の増倍率を正しいレベルに自動的に調整する。感知した信号振幅Aが小さすぎる場合、利得が増加され、逆の場合も同じである。
図5の設定可能な基準レベルは、所定の目標振幅Tで示す。一定の目標振幅Tでは、一定の傾斜角で円形走査軌道を可能にする正弦波駆動信号が実現される。
【0038】
本発明では、より大きな画像領域を得るために、反射器システムは、ピーク周波数における周波数シフトが初期帯域幅の少なくとも10倍である非線形振動範囲で駆動させる。言いかえれば、駆動信号の振幅および周波数は、ピーク周波数における周波数シフトが初期帯域幅の少なくとも10倍である非線形振動範囲に調整される。先に概説したように、反射器の各振動モードは、初期帯域幅を有する自然共振周波数でピークに達する共振応答を有する。適用可能な駆動電圧でより大きな傾斜角を可能にするために、初期帯域幅は、典型的には1000以上の品質係数(Q値)、実用用途では10000以上の品質係数にも対応する。例えば、欧州出資プロジェクトMiniFarosの範囲内で開発されたレーザレンジセンサのMEMSミラーは、既に10,000のQ値を適用しており、Q因子を増加することができるように、真空包装手順のさらなる改良が期待されている(非特許文献1)。
【0039】
調和振動子において、復元力について、大きさはその中立位置x
0からの変位xに比例し、方向は変位に反対である。非線形であることから、振動周波数はシステムの変位に応じて変わり得る。振動周波数がこのように変化すると、パラメトリック結合として知られる工程により、基本振動周波数から他の周波数までエネルギーが結合される。駆動振幅が増加すると、共振周波数は、因子κA
2だけその中立位置の値からシフトする。但し、κは非調和係数により定義された定数であり、Aは振動振幅である。低いバイアス電圧では、機械ばね定数が支配し、高い駆動レベルでは、共振ピークが、より高い周波数またはより低い周波数にシフトする。同時に、共振曲線の形状が歪む。歪み効果は、フォールドオーバー効果と呼ばれ、
図6は、正弦駆動された振り子における振幅対周波数プロットを用いてフォールドオーバー効果を示す(非特許文献2)。駆動振幅Aが小さい限り、共振線は、不足減衰された調和振動子の結果により非常によく近似されることが理解され得る。より強い駆動には、共振線は「折れ」、最終的に双安定性およびヒステリシスをもたらす。すなわち、非線形振動子は、大きな振幅または小さな振幅のどちらかで振動する。その中間には、不安定な周期解(点線として示す)がある。双安定性の区間の両端において、この不安定なリミットサイクルが、サドルノード分岐のその安定リミットサイクルのうちの1つと打ち消し合う。
【0040】
従来、機械振動子を使用する微小電気機械システム(MEMS)用途について、非線形は、大きな変位不安定性および過度の周波数ノイズを引き起こすために機械振動子の性能を低下させることから、不利と考えられてきた。しかしながら、反射器システムをダフィング振動子として動作するように作ることができ、ダフィング振動子において、非線形共振に関係する典型的に望ましくない歪みを利用して、通常適用可能な駆動電圧および時定数を用いて様々なMEMS走査ミラー実装の駆動振幅を変調し得ることが現在分かっている。これを実現するために、フィードバック回路は、ピーク周波数における周波数シフトが初期帯域幅の少なくとも10倍である非線形振動範囲において反射器を駆動するように構成する必要がある。
【0041】
図7a〜
図7cは、駆動振幅が線形振動範囲から非線形振動範囲まで取る場合の、
図3の例示的な反射器システム構造の3つのチャンネルにおける測定された周波数応答の形状の変化を示す。
図7a〜
図7cのすべての周波数範囲は1440Hz〜1500Hzであり、駆動電圧は、
図7aの30mVから
図7bの150mV、そして、そこから
図7cの300mVまで増加する。グラフは一例にすぎないため、異なるチャンネルは明確に識別できず、図示した振幅値は直接比較できないことに留意する。しかしながら、
図7aは、3つのチャンネルの鋭くとがり、部分的に重ならない周波数応答を示す線形動作領域を示す。これらのピークの初期帯域幅Δf(半値全幅=FWHM)は、約1Hzである。
図7bは、線形領域で印加される初期駆動電圧を5倍にすることの影響を示す。共振応答曲線の帯域幅Δfが、ピーク周波数における周波数シフトに相当し、約11Hzまで増加していることが分かる。
図7cは、さらに、初期駆動電圧を10倍にした場合における共振応答曲線の帯域幅Δfの増加、約34Hzを示す。
図7bおよび
図7cを考慮すると、図示した駆動機構の両方は、検出された動作範囲にあるため、駆動振幅を変調可能にするよう適用可能であろう。特許請求の範囲に記載した範囲において、Q値は、反射器の所望の傾斜角を可能にするのに十分高いが、反射器システムの過渡期間によって、明確に制御される変調を可能にするのに十分低く維持し得ることが分かっている。
【0042】
この特定のセットアップにおいて、単に、駆動信号の振幅を変調信号の波形に比例して変化させることによって、所望の変調を実施してもよい。
図5の例示的な実装では、チャンネル信号S2は、従来、所定の目標振幅レベルTに制御されるであろう。所望の変調のために、フィードバック回路は、チャンネル信号S2の周波数よりはるかに低い周波数を有する正弦波変調信号Mを生成する振幅変調信号発生器58を含む。この例において、変調信号Mは、所定の目標振幅Tに合計され、その結果、AGCは、感知した信号振幅Aを、合計した目標T+Mと比較し、LPF出力からのチャンネル信号S2の増倍率を、対応する変調されたレベルに連続的に調整する。次いで、逓倍信号dD1は、デジタルアナログ変換器(DAC)59でアナログ信号aD1に変換される。アナログ出力回路(図示せず)は、当該チャンネルの第1変換器(アクチュエータ)に変調アナログ信号を送る。
【0043】
しかしながら、定義されたバランスは、制御パラメータの静的要素と可変要素との間で維持する必要のあることが分かっている。
図8は、駆動振幅が増加するに伴い、1つのチャンネルのピーク周波数が、どのようにより高い周波数の方へ引き寄せられるかを説明する測定結果を示す。非線形領域において駆動周波数を高い方へスイープさせた時、各共振曲線は、ピーク周波数まで応答曲線の上部分岐部に追従し、ピーク周波数で落ちる。したがって、有効な動作モードには、第2信号の周波数を、ピーク周波数における周波数シフトより小さく設定する必要がある。言いかえれば、変調信号による周波数変化は、非線形動作領域により広がった帯域幅の順序である必要がある。これによって、狭い動作フレームワークが設定されるが、微小電気機械(MEMS)反射器システムの寸法および機能要件に適用可能であり、そのため、様々な走査MEMSミラー用途の重要な可能性が開かれる。
【0044】
図9は、提案する反射器システムおよびフィードバック回路の構成の結果として生成された振幅変調された駆動信号の形を概念レベルで示す。駆動信号および変調信号は、有利には正弦波信号である。駆動信号の周波数は、有利には、変調信号の周波数の少なくとも10倍である。実際の実装から測定された信号により、これらの結果が確認されている。
【0045】
本明細書において開示する信号処理段階は、所定の基本的にプログラムされた工程に応じて受信および/または記憶されたデータに対して動作のシステム的な実行を行うように構成されたデータ処理装置で実施することができる。
【0046】
本発明の様々な態様を図示し、ブロック図、メッセージフロー図、フローチャートおよび論理フロー図として、または、いくつかの他の図形表示を使用して説明するが、図示したユニット、ブロック、装置、システム要素、手順および方法は、例えば、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、特殊目的の回路もしくは論理回路、計算装置、または、それらのいくつかの組み合わせにおいて実施されてもよいことがよく理解される。ソフトウェアルーチン、またはプログラム製品とも呼ばれるソフトウェアモジュールは、製造物品であり、任意の装置読取可能データ記憶媒体に記憶することができ、所定のタスクを行うプログラム指示を含んでもよい。したがって、本開示の実施形態はまた、コンピュータで読取可能であり、かつ、本明細書に記載するように、開示した装置に開示したステップを実行させる指示を符号化するコンピュータプログラム製品を含む。本開示の実施形態はまた、そのようなコンピュータプログラム製品が記憶されたコンピュータ読取可能媒体を含む。
【0047】
技術進歩に伴い、本発明の基本的な考えが様々な方法で実施され得ることは、当業者に明らかである。したがって、本発明およびその実施形態は、上記例に限定されず、特許請求の範囲内で変更されてもよい。