(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の感光性絶縁ペーストは多層配線回路板等の絶縁層として用いられ、主にアルミナ基板上に絶縁層が形成される。特許文献1に記載の感光性絶縁ペーストでは、軟化点の異なる2種類のガラスを含有するガラス粉末を用いることによって、高い電気抵抗を有する高絶縁性の絶縁層を得ることができるとされている。
【0006】
一方で、特許文献1に記載の感光性絶縁ペーストを用いた絶縁層を備える多層配線回路について本発明者が検討したところ、たわみや熱衝撃といった応力が回路にかかると、絶縁層にクラックが生じ、絶縁性を確保することが困難になる可能性があることが判明した。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、高絶縁性及び高強度を有する絶縁層を形成可能な感光性ガラスペーストを提供することを目的とする。本発明はまた、該感光性ガラスペーストを用いて形成された絶縁層を備える電子部品、及び、該感光性ガラスペーストを用いて絶縁層を形成する工程を備える電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の感光性ガラスペーストは、ガラス粉末及びセラミックフィラーを含有する無機成分と、感光性を有する有機成分と、を備える感光性ガラスペーストであって、上記ガラス粉末は、結晶化点を持つガラス粉末を含有し、上記結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点と軟化点との差が85℃以上180℃以下であることを特徴とする。上記結晶化点を持つガラス粉末は、SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末であることが好ましい。
【0009】
上記感光性ガラスペーストでは、結晶化点を持つガラス粉末が無機成分として含有されているため、焼成によって得られる絶縁層の強度を高くすることができる。さらに、上記感光性ガラスペーストでは、結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点と軟化点との差が大きくなるように、結晶化点と軟化点との差が85℃以上180℃以下とされている。これにより、焼成時に、ガラスが充分に軟化してから結晶化が開始するため、緻密な結晶構造が得られる。その結果、得られる絶縁層の絶縁性を確保しつつ、強度を高くすることができる。
【0010】
特に、結晶化点を持つガラス粉末としてSiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末を用いることにより、緻密で高強度の結晶相を析出させることができるため、絶縁層の強度をさらに高くすることができる。
【0011】
本発明の感光性ガラスペーストは、ガラス粉末及びセラミックフィラーを含有する無機成分と、感光性を有する有機成分と、を備える感光性ガラスペーストであって、上記ガラス粉末は、結晶化点を持つガラス粉末を含有し、上記結晶化点を持つガラス粉末は、SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末、SiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3系ガラス粉末及びSiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3−Na
2O−K
2O系ガラス粉末からなる群より選択される1種であることを特徴とする。
【0012】
上記感光性ガラスペーストにおいても、結晶化点を持つガラス粉末が無機成分として含有されているため、焼成によって得られる絶縁層の強度を高くすることができる。さらに、上記感光性ガラスペーストでは、結晶化点と軟化点との差が大きいガラス粉末として、SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末、SiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3系ガラス粉末又はSiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3−Na
2O−K
2O系ガラス粉末が用いられている。これにより、焼成時に、ガラスが充分に軟化してから結晶化が開始するため、緻密な結晶構造が得られる。その結果、得られる絶縁層の絶縁性を確保しつつ、強度を高くすることができる。
【0013】
本発明の感光性ガラスペーストにおいては、上記ガラス粉末全体に占める上記結晶化点を持つガラス粉末の割合が80重量%以上であることが好ましい。
ガラス粉末全体に占める結晶化点を持つガラス粉末の割合を80重量%以上とすることにより、さらに高強度の絶縁層を形成することができる。
【0014】
本発明の感光性ガラスペーストにおいて、上記セラミックフィラーは、アルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、窒化珪素及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
高いヤング率及び曲げ強度を有するアルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、窒化珪素又は炭化珪素をセラミックフィラーとして用いることにより、絶縁層の強度をさらに高くすることができる。
【0015】
本発明の感光性ガラスペーストにおいては、上記無機成分中の上記セラミックフィラーの含有量が25重量%以上48重量%以下であることが好ましい。
無機成分中のセラミックフィラーの含有量を25重量%以上48重量%以下とすることにより、セラミックフィラーによる高強度を発現させることができるため、絶縁層の強度をさらに高くすることができる。
【0016】
本発明の電子部品は、本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層と、導体層とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の感光性ガラスペーストを用いることにより、高絶縁性及び高強度を有する絶縁層を形成することができる。そのため、多層配線回路等の電子部品に応力がかかった場合であっても、絶縁層にクラックが発生しにくい電子部品とすることができる。
【0018】
本発明の電子部品は、結晶化点を持たない非晶質ガラスからなる絶縁層をさらに備えることが好ましい。
結晶化点を持たない非晶質ガラスからなる絶縁層は絶縁性に優れている。そのため、例えば、応力がかかりやすい部分には本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層を設け、他の部分には結晶化点を持たない非晶質ガラスからなる絶縁層を設けるといった構成とすることができる。
【0019】
本発明の電子部品の製造方法は、本発明の感光性ガラスペーストを用いて絶縁層を形成する工程と、上記絶縁層上に、導体ペーストを用いて導体層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の感光性ガラスペーストを用いることにより、高絶縁性及び高強度を有する絶縁層を形成することができる。そのため、多層配線回路等の電子部品に応力がかかった場合であっても、絶縁層にクラックが発生しにくい電子部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高絶縁性及び高強度を有する絶縁層を形成可能な感光性ガラスペーストを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の感光性ガラスペースト、電子部品、及び、電子部品の製造方法について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0024】
[感光性ガラスペースト]
本発明の感光性ガラスペーストは、ガラス粉末及びセラミックフィラーを含有する無機成分と、感光性を有する有機成分と、を備える。
【0025】
<無機成分>
(ガラス粉末)
本発明の感光性ガラスペーストにおいて、ガラス粉末は、結晶化点を持つガラス粉末を含有する。ガラス粉末は、2種類以上のガラス粉末を含有してもよい。この場合、結晶化点を持つガラス粉末を2種類以上含有してもよいし、結晶化点を持つガラス粉末と結晶化点を持たないガラス粉末とを含有してもよい。
【0026】
ガラス粉末全体に占める結晶化点を持つガラス粉末の割合は、80重量%以上であることが好ましく、87重量%以上であることがより好ましく、100重量%であることが特に好ましい。
【0027】
無機成分中のガラス粉末の含有量は、好ましくは52重量%以上、より好ましくは58重量%以上であり、また、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
【0028】
本発明の感光性ガラスペーストでは、第1の態様において、結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点と軟化点との差が85℃以上180℃以下であることを特徴とする。
「結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点と軟化点との差が85℃以上180℃以下である」とは、結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点をTc[℃]とし、軟化点をTs[℃]としたとき、85≦Tc−Ts≦180であることを意味している。
【0029】
第1の態様において、結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点と軟化点との差は、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。また、結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点と軟化点との差は、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。
【0030】
本明細書において、ガラス粉末の結晶化点及び軟化点は、示差熱分析装置(TG−DTA2000、Mac Science社製)を用い、大気中、10℃/分で昇温させた際の吸熱・発熱挙動よりそれぞれ求めた温度である。なお、結晶化点は、結晶析出による発熱ピーク温度であり、軟化点は、第4変曲点の温度である。
【0031】
第1の態様において、ガラス粉末の結晶化点及び軟化点は、例えば、ガラス粉末の組成、平均粒径等を変更することによって調整することができる。
【0032】
第1の態様において、結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点は特に限定されないが、好ましくは860℃以上、より好ましくは870℃以上であり、また、好ましくは900℃以下、より好ましくは890℃以下である。
【0033】
第1の態様において、結晶化点を持つガラス粉末の軟化点は特に限定されないが、好ましくは710℃以上、より好ましくは720℃以上であり、また、好ましくは810℃以下、より好ましくは800℃以下である。
【0034】
第1の態様において、結晶化点を持つガラス粉末は特に限定されないが、例えば、SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末、SiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3系ガラス粉末、SiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3−Na
2O−K
2O系ガラス粉末等が挙げられる。これらの中では、SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末が好ましい。
【0035】
本明細書においては、例えば、ガラス粉末の構成元素がSi、B、Ba、Zn、Al、Mg、La及びOである場合、酸化物換算した組成として「SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末」と表記している。しかし、ガラス粉末を構成する金属の価数が上記の価数に限定されるものではなく、他の価数であってもよい。
【0036】
SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末について、酸化物換算表記による各成分の好ましい含有量を以下に示す。
SiO
2:10重量%以上、20重量%以下
B
2O
3:10重量%以上、20重量%以下
BaO:10重量%以上、20重量%以下
ZnO:10重量%以上、20重量%以下
Al
2O
3:1重量%以上、10重量%以下
MgO:10重量%以上、20重量%以下
La
2O
3:10重量%以上、20重量%以下
【0037】
SiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3系ガラス粉末について、酸化物換算表記による各成分の好ましい含有量を以下に示す。
SiO
2:40重量%以上、50重量%以下
B
2O
3:1重量%以上、10重量%以下
CaO:40重量%以上、50重量%以下
Al
2O
3:1重量%以上、10重量%以下
【0038】
SiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3−Na
2O−K
2O系ガラス粉末について、酸化物換算表記による各成分の好ましい含有量を以下に示す。
SiO
2:40重量%以上、50重量%以下
B
2O
3:1重量%以上、10重量%以下
CaO:40重量%以上、50重量%以下
Al
2O
3:1重量%以上、10重量%以下
Na
2O:1重量%以上、10重量%以下
K
2O:1重量%以上、10重量%以下
【0039】
第1の態様において、結晶化点を持たないガラス粉末は特に限定されないが、例えば、SiO
2−B
2O
3−Na
2O−K
2O−CaO−Al
2O
3系ガラス粉末、SiO
2−B
2O
3−Na
2O−K
2O−Al
2O
3系ガラス粉末等が挙げられる。
【0040】
本発明の感光性ガラスペーストでは、第2の態様において、結晶化点を持つガラス粉末は、SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末、SiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3系ガラス粉末及びSiO
2−B
2O
3−CaO−Al
2O
3−Na
2O−K
2O系ガラス粉末からなる群より選択される1種であることを特徴とする。これらの中では、SiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末が好ましい。各ガラス粉末に含まれる各成分の好ましい含有量は、第1の態様と同じである。
【0041】
(セラミックフィラー)
本明細書において、セラミックフィラーとは、形状精度及び寸法精度の高い構造体を形成するための骨材であり、ペーストの焼成時に溶融しないものを指す。
【0042】
本発明の感光性ガラスペーストにおいて、セラミックフィラーとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素、クオーツ等が挙げられる。これらは2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、アルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、窒化珪素及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アルミナがより好ましい。
【0043】
無機成分中のセラミックフィラーの含有量は、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、また、好ましくは48重量%以下、より好ましくは42重量%以下である。
【0044】
本発明の感光性ガラスペースト中の無機成分の含有量は、好ましくは53重量%以上、より好ましくは62重量%以上であり、また、好ましくは75重量%以下、より好ましくは67重量%以下である。
【0045】
<有機成分>
本発明の感光性ガラスペーストは、感光性を有する有機成分として、例えば、アルカリ可溶ポリマー、感光性モノマー、光重合開始剤及び溶剤等を含有することが好ましい。
【0046】
アルカリ可溶ポリマーとしては、例えば、カルボキシル基等の官能基を側鎖に有するポリマーを用いることができ、具体的には、メタクリル酸−メタクリル酸メチルの共重合体等が挙げられる。アルカリ可溶ポリマーの酸価は、0mgKOH/g以上、57mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0047】
感光性モノマー、光重合開始剤及び溶剤については、特に制約はなく、種々のものを用いることができる。
【0048】
本発明の感光性ガラスペースト中の有機成分の含有量は、好ましくは25重量%以上、より好ましくは33重量%以上であり、また、好ましくは47重量%以下、より好ましくは38重量%以下である。
【0049】
[電子部品]
本発明の電子部品は、本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層と、導体層とを備えることを特徴とする。
【0050】
以下、電子部品の一例について説明する。
図1は、電子部品の一例を模式的に示す斜視図であり、
図2は、
図1に示す電子部品を構成する積層体の内部構造を示す分解斜視図である。
【0051】
以下では、電子部品として積層コイル部品を例にとって説明するが、本発明の電子部品は、積層型コイル部品に限定されず、多層セラミック基板、積層LC複合部品等の種々の電子部品に適用することが可能である。
【0052】
図1に示す電子部品(積層コイル部品)10は、積層体4の内部において、
図2に示すように、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成された絶縁層1を介して、導体層2が積層されるとともに、ビアホール3を介して導体層2が互いに接続されることにより、螺旋状のコイル5が配設された構造を有している。
【0053】
図1では、積層体4の左右両端側には、コイル5の端部5a及び5b(
図2参照)と導通するように外部電極6a及び6bがそれぞれ配設されており、積層体4の上面には、積層コイル部品10の方向性を示すための方向性マークパターン7が配設されている。なお、方向性マークパターン7は配設されていなくてもよい。
【0054】
本発明の電子部品は、絶縁層として、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成された絶縁層のみを備えてもよいが、結晶化点を持たない非晶質ガラスからなる絶縁層をさらに備えることが好ましい。
【0055】
結晶化点を持たない非晶質ガラスからなる絶縁層は、ガラス粉末として、結晶化点を持たないガラス粉末のみを含有し、結晶化点を持つガラス粉末を含有しない感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層であることが好ましい。
【0056】
結晶化点を持たないガラス粉末は特に限定されないが、例えば、SiO
2−B
2O
3−Na
2O−K
2O−CaO−Al
2O
3系ガラス粉末、SiO
2−B
2O
3−Na
2O−K
2O−Al
2O
3系ガラス粉末等が挙げられる。
【0057】
電子部品においては、絶縁層のうち、外部電極と接触する絶縁層に最もクラックが生じやすいため、少なくとも外部電極と接触する絶縁層は、本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層であることが好ましい。具体的には、電子部品を構成する積層体の上面に位置する絶縁層、及び、積層体の下面に位置する絶縁層の少なくとも一方が、本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層であることが好ましい。ここで、下面とは、電子部品が実装基板に実装される際に実装基板に対向する面である。電子部品を構成する積層体において、下面側が最も実装基板の応力を受けやすく、クラックが発生しやすい。そのため、積層体の少なくとも下面を構成する絶縁層が、本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層であることが好ましい。この場合、積層体の上面及び下面以外に位置する絶縁層は、本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層でもよいが、結晶化点を持たない非晶質ガラスからなる絶縁層であることがより好ましい。
【0058】
本発明の電子部品において、本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層及び結晶化点を持たない非晶質ガラスからなる絶縁層の合計膜厚に対する本発明の感光性ガラスペーストの焼成物からなる絶縁層の膜厚の割合は、10%以上、40%以下であることが好ましい。
【0059】
[電子部品の製造方法]
本発明の電子部品の製造方法は、本発明の感光性ガラスペーストを用いて絶縁層を形成する工程と、上記絶縁層上に、導体ペーストを用いて導体層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0060】
以下、電子部品の製造方法の一例について説明する。
まず、PETフィルム等の基材上に、外層となる絶縁層を形成する。絶縁層の形成では、感光性ガラスペーストを基材上に印刷し、乾燥させた後、全面露光することを、所望の厚みが得られるまで繰り返す。
【0061】
次に、硬化させた絶縁層の上に、感光性導電ペーストを厚み10μm程度に印刷し、乾燥させる。続いて、フォトマスクを介して紫外線を照射し露光した後、現像処理を行って不要箇所を除去することにより、導体層を形成する。
【0062】
さらに、導体層上に、感光性ガラスペーストを厚み15μm程度に印刷し、乾燥させる。続いて、フォトマスクを介して紫外線を照射し露光した後、現像処理を行って不要箇所を除去することにより、ビアホールを有する絶縁層を形成する。
【0063】
上記の導体層と絶縁層の形成を必要回数繰り返すことにより、積層体を得る。
【0064】
その後、大気中、750℃以上900℃以下の温度で焼成する。焼結した積層体の端面にAg粉末とガラスフリットを含有するペーストを塗布し、600℃以上750℃以下の温度で焼付けした後、必要に応じて電解めっきでNiめっき、Snめっきを順に行うことにより、外部電極を形成する。以上により、電子部品を作製する。
【0065】
本発明の電子部品の製造方法においては、積層体を構成する絶縁層を、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成する他に、非晶質の感光性ガラスペーストを用いて形成してもよい。非晶質の感光性ガラスペーストとは、本発明の電子部品で説明した、結晶化点を持たないガラス粉末を含有し、結晶化点を持つガラス粉末を含有しない感光性ガラスペーストを意味する。
【0066】
本発明の電子部品の製造方法においては、本発明の電子部品で説明したように、少なくとも外部電極と接触する絶縁層を、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成することが好ましい。具体的には、電子部品を構成する積層体の上面に位置する絶縁層、及び、積層体の下面に位置する絶縁層の少なくとも一方を、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成することが好ましい。特に、積層体の少なくとも下面を構成する絶縁層を、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成することが好ましい。この場合、積層体の上面及び下面以外に位置する絶縁層は、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成してもよいが、非晶質の感光性ガラスペーストを用いて形成することがより好ましい。
【0067】
本発明の電子部品の製造方法において、本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成した絶縁層及び非晶質の感光性ガラスペーストを用いて形成した絶縁層の合計膜厚に対する本発明の感光性ガラスペーストを用いて形成した絶縁層の膜厚の割合は、10%以上、40%以下であることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の感光性ガラスペーストをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
表1に示すガラス粉末、及び、表2に示すセラミックフィラーを用意した。表1に、各ガラス粉末の軟化点(Ts)、結晶化点(Tc)、及び、結晶化点と軟化点との差(Tc−Ts)を示す。表1中、G5及びG6は、各成分の含有量が同じガラス粉末であり、平均粒径を変更することにより、軟化点及び結晶化点を調整したものである。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
[感光性ガラスペーストの作製]
下記の割合で各材料を配合することにより、感光性ガラスペーストを作製した。具体的には、下記の割合になるように各材料を秤量し、秤量物をプラネタリーミキサーで30分間攪拌した後、3本ロールミルに4回通して混錬することにより、感光性ガラスペーストを作製した。
<有機成分>
アルカリ可溶ポリマー:メタクリル酸−メタクリル酸メチルの共重合体 24.7重量部
感光性モノマー:トリメチロールプロパントリアクリレート 8.2重量部
溶剤:ペンタメチレングリコール 2.6重量部
光重合開始剤(1):2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン 0.4重量部
光重合開始剤(2):2,4−ジエチルチオキサントン 0.2重量部
光重合開始剤(3):ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド 0.7重量部
黄色染料:オイルイエロー129(商品名、オリエント化学工業株式会社製) 0.2重量部
<無機成分>
表3に記載の割合の無機粉末 計63重量部
【0073】
[感光性ガラスペーストの評価]
(1)絶縁抵抗の評価
まず、4インチ(10.16cm)四方のアルミナ基板(0.15mm厚)上に導電性銀ペーストをスクリーン印刷により塗布し、90℃で10分間乾燥させることにより、厚み10μmの膜を形成した。その後、空気中、850℃で焼成することにより、下部導体配線を形成した。次に、下部導体配線を形成したアルミナ基板上に、感光性ガラスペーストをスクリーン印刷により塗布し、60℃で10分間乾燥させて膜を形成した。その後、空気中、850℃で焼成することにより、絶縁層を形成した。さらに、下部導体配線と同様の加工方法で、上部導体配線を絶縁層上に形成した。このようにして得られた電極間面積12.6mm
2、厚み20μmの絶縁層の絶縁抵抗を、抵抗測定計(R8340 Ultra High Resistance Meter、ADVANTEST社製)を用いて測定した。結果を表3に示す。評価基準は、7×10
10Ω以上である。
【0074】
(2)抗折強度の評価
まず、4インチ(10.16cm)四方のアルミナ基板(0.15mm厚)上に感光性ガラスペーストをスクリーン印刷により塗布し、60℃で10分間乾燥させることにより、厚み20μmの膜を形成した。形成した膜の上に、続けて感光性ガラスペーストをスクリーン印刷により塗布し、乾燥させた。これらの塗布及び乾燥工程を計10回繰り返すことにより、厚み200μmの感光性ガラスペースト膜をアルミナ基板上に形成した。次に、ダイサーを用いて30mm×3mmのサイズにカットし、アルミナ基板から感光性ガラスペースト膜を剥離させた後、空気中、820℃で焼成することにより、試験片を作製した。このようにして得られた試験片の抗折強度を、オートグラフ(AGS−5kNX、島津製作所社製)を用いて測定した。結果を表3に示す。評価基準は、240MPa以上である。
【0075】
【表3】
【0076】
表3に示すように、本発明の要件を満たす実施例1〜16では、絶縁抵抗が7×10
10Ω以上、抗折強度が240MPa以上の高い値を示すことが確認された。
【0077】
結晶化点を持つガラス粉末としてSiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末が用いられ、且つ、ガラス粉末が49重量%以上の実施例4〜14及び16では、実施例1〜3及び実施例15より高い抗折強度を示すことが確認された。つまり、結晶化点と軟化点との差が140℃以上の結晶化ガラスを49重量%以上含むことによって、抗折強度を向上できることが確認された。また、実施例4〜11、13、14及び16と実施例12との比較から分かるように、結晶化点を持つガラス粉末としてSiO
2−B
2O
3−BaO−ZnO−Al
2O
3−MgO−La
2O
3系ガラス粉末が用いられ、且つ、ガラス粉末が49重量%以上であり、セラミックフィラーとしてアルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、窒化ケイ素及び炭化ケイ素から選ばれる一つが用いられる場合、高い抗折強度が得られることが分かった。
【0078】
これに対し、結晶化点を持つガラス粉末の結晶化点と軟化点との差が85℃未満である比較例1〜3では、絶縁抵抗、抗折強度ともに低い値を示すことが確認された。これは、ガラスの軟化開始とほぼ同時に結晶化が始まるため、緻密な焼結物が得られないためと考えられる。結晶化点を持たない非晶質のガラス粉末が用いられた比較例4及び5では、緻密な焼結物が得られることにより高い絶縁抵抗を示すものの、抗折強度は低い値を示すことが確認された。
【0079】
本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、ガラス粉末の組成、セラミックフィラーの種類、それらの配合割合、感光性有機成分の種類や配合割合等に関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。