【実施例】
【0036】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、前記した1基あるいは2基以上の転炉を用いる転炉吹錬方法において、内容積300m
3の転炉へ400トンの溶銑を装入して吹錬を行い、吹錬を一旦中断して転炉を傾動させ、転炉内に溶銑を残した状態で、転炉内のスラグを転炉の下方に設置したスラグパン(内容積:50m
3)に2〜4分間排出した。その際、鎮静材を投入シュートからスラグパン内に連続的に投入した。
使用した鎮静材の組成を含む特徴を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
ここで、記号A1、A2、B1、B2、C1、C2、C3は、本発明の実施例である。
具体的には、記号A1、A2の鎮静材は、水酸化物にAl(OH)
3あるいはCa(OH)
2を使用したものであり、有機物は含有されていない。また、記号B1、B2の鎮静材は、水酸化物にCa(OH)
2を、有機物に木材及びアクリル樹脂あるいはアクリル樹脂のみを、それぞれ使用したものである。そして、記号C1、C2、C3の鎮静材は、水酸化物にAl(OH)
3を、有機物にアクリル樹脂あるいはメタクリル樹脂を、それぞれ使用したものである。
なお、表1中の水酸化物、有機物以外の成分は、酸化鉄、SiO
2、MgO、Al
2O
3等の酸化物である。
【0039】
一方、記号D1、E1、F1は、比較例である。
具体的には、記号D1、E1の鎮静材は、水酸化物を含有しておらず、生ドロマイトあるいはCaCO
3を代替としたものである。また、記号F1の鎮静材は、水酸化物(Ca(OH)
2)の含有量が本発明の適正範囲の下限値未満のものである。
なお、記号D1、E1、F1の鎮静材は全て、有機物を含有しており、それぞれアクリル樹脂あるいはメタクリル樹脂を含有している。
【0040】
各鎮静材の吸熱量は、示差熱分析(DTA)装置を用いて、坩堝:白金、試料重量:20〜30mg、試料粒度:150μmアンダー、昇温速度:10℃/分、最高温度:1450℃、雰囲気:Ar、という実験条件で求めた。
【0041】
スラグの排滓中は、スラグパン内の様子を目視にて観察した。
このとき、スラグがスラグパンから溢れそうになった場合は、転炉の傾動を一旦停止して排滓を中断し、フォーミングの成長が停滞してスラグが溢れなければ、再度転炉を傾動して排滓を再開した。なお、排滓時間には、排滓を中断している時間も含んでおり、この排滓中断時も鎮静材を継続して投入した。
【0042】
スラグパンを設置する移動台車に取り付けられた秤量機で重量変化を測定し、スラグパンに投入した鎮静材の重量を差し引いて、排滓したスラグの重量(w
slag)を算出した。
また、排滓前の転炉内のスラグの重量(W
slag)は、以下の方法で算出した。
【0043】
排滓前の転炉内のスラグの重量W
slag(トン/チャージ)は、リサイクルスラグの重量W
R−slag(トン/チャージ)と、溶銑中のSiの酸化により発生するSiO
2量W
SiO2(トン/チャージ)と、転炉へのCaO投入量W
CaO(トン/チャージ)との合計値、即ち、以下に示す式から算出できる。
W
slag=W
R−slag+W
SiO2+W
CaO【0044】
ここで、リサイクルスラグとは、前チャージで脱C吹錬を行って、転炉の出鋼孔から溶鋼を出鋼した後に、転炉内に残されたP濃度が低いスラグであり、次チャージの脱Si(及び脱P)で溶銑の脱P精錬に使用可能なものである。つまり、リサイクルスラグの重量W
R−slagは、前チャージの脱C吹錬後に転炉内に残されたスラグ量であり、脱C吹錬後に転炉の炉口からスラグを排出する際の転炉の傾動角度より算出できる。この転炉の傾動角度とは、転炉の正立時(吹錬中の状態)を基準(0度)として、転炉の軸心を傾けた最終的な角度(傾斜角度)である。
【0045】
上記したリサイクルスラグの重量W
R−slagと転炉の傾動角度との間には、相関関係がある。
具体的には、転炉の傾動角度が大きくなるに伴って、リサイクルスラグの重量W
R−slagが少なくなる傾向にある。この関係は、例えば、過去の操業実績に基づいて得ることができる。
【0046】
また、溶銑中のSiの酸化により発生するSiO
2量W
SiO2は、予め測定した溶銑予備処理を行う溶銑の分析値を用いて、以下に示す式から算出できる。
W
SiO2=(HM)×(HM−Si)×(SiO
2分子量)/(Si分子量)
ここで、HMは溶銑量(トン/チャージ)、HM−Siは溶銑中のSi量(質量%)、SiO
2分子量は60.1、Si分子量は28.1、である。
【0047】
そして、転炉へのCaO投入量WCaOは、溶銑予備処理を行う際に転炉内のスラグに添加される副原料量(CaO量)から得ることができる。
【0048】
上記した方法で算出した、排滓したスラグの重量(w
slag)と、排滓前の転炉内のスラグの重量(W
slag)を用い、式(6)の排滓率(%)により、フォーミング鎮静効果の有無を評価した。なお、フォーミングの鎮静効果が優れるほど、フォーミングによる排滓中断が発生しなくなるため、排滓率が高い値となる。
(排滓率)=(w
slag)/(W
slag)×100 ・・・(6)
ここで、w
slagは排滓したスラグの重量(トン/チャージ)、W
slagは排滓前の転炉内のスラグの重量(トン/チャージ)、である。
【0049】
なお、排滓率は、スラグパンでのスラグフォーミングの他、転炉の内容積やスラグパンの内容積、溶銑量等の影響を受ける。
このため、1基の転炉を用いる転炉吹錬方法では、表2に結果を示す処理方式で60%以上の排滓率、2基以上の転炉を用いる転炉吹錬方法では、表3に結果を示す処理方式で50%以上の排滓率を、良好な排滓率としている。
なお、排滓中のスラグパンからのスラグ溢出の有無は目視で判定した。
【0050】
まず、1基の転炉を用いる転炉吹錬方法の結果について、表2を参照しながら説明する。
なお、スラグ組成は塩基度(CaO質量%/SiO
2質量%)が1.0〜1.3、スラグ中の酸化鉄濃度が20〜30質量%、スラグの温度は1250〜1350℃、であった。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示す実施例1〜7は、前記した表1に記載の実施例の鎮静材を使用した実施例である。
実施例1〜7はいずれも、鎮静材中の水酸化物の含有量と鎮静材の吸熱量(更には、鎮静材中の有機物の含有量や鎮静材の密度)が、本発明の適正範囲内であったため、スラグをスラグパンから溢れさせることなく、速やかに排滓できた。そのため、排滓率も61質量%以上と高位であった。
【0053】
表2に示す比較例8は、鎮静材を投入しなかった例であり、表2に示す比較例9〜11は、前記した表1に記載の比較例の鎮静材を使用した例である。
比較例8は、鎮静材を投入しなかったため、スラグパンからスラグが溢れ出し、排滓率は28質量%程度にとどまった。
比較例9、10は、水酸化物を含有せず、吸熱量が過小な(比較例9:994J/g、比較例10:947J/g)鎮静材を使用したため、フォーミングの鎮静効果が小さくなった。これにより、排滓を一時中断したため、排滓率は48〜50質量%にとどまった。
比較例11は、水酸化物の含有量が過小な(40質量%)鎮静材を使用したため、比較例9、10と同様の理由により、排滓率は51質量%程度となった。
【0054】
次に、2基以上の転炉を用いる転炉吹錬方法の結果について、表3を参照しながら説明する。
なお、スラグ組成は塩基度(CaO質量%/SiO
2質量%)が0.6〜0.8、スラグ中の酸化鉄濃度が20〜30質量%、スラグの温度は1250〜1350℃、であった。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示す実施例12〜18は、前記した表1に記載の実施例の鎮静材を使用した実施例である。
実施例12〜18はいずれも、鎮静材中の水酸化物の含有量と鎮静材の吸熱量(更には、鎮静材中の有機物の含有量や鎮静材の密度)が、本発明の適正範囲内であったため、スラグをスラグパンから溢れさせることなく、速やかに排滓できた。そのため、排滓率も50質量%以上と高位であった。
【0057】
表3に示す比較例19は、鎮静材を投入しなかった例であり、表3に示す比較例20〜22は、前記した表1に記載の比較例の鎮静材を使用した例である。
比較例19は、鎮静材を投入しなかったため、スラグパンからスラグが溢れ出し、排滓率は28質量%程度にとどまった。
比較例20、21は、水酸化物を含有せず、吸熱量が過小な(比較例20:994J/g、比較例21:947J/g)鎮静材を使用したため、フォーミングの鎮静効果が小さくなった。これにより、排滓を一時中断したため、排滓率は38〜40質量%にとどまった。
比較例22は、水酸化物の含有量が過小な(40質量%)鎮静材を使用したため、比較例20、21と同様の理由により、排滓率は45質量%程度となった。
【0058】
以上のことから、本発明のスラグフォーミング鎮静材及びスラグフォーミング鎮静方法並びに転炉吹錬方法により、脱Si及び脱P吹錬後、あるいは、脱Si吹錬後の炉外へ排滓されたスラグのフォーミングを効率的に鎮静できることを確認できた。
【0059】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のスラグフォーミング鎮静材及びスラグフォーミング鎮静方法並びに転炉吹錬方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、スラグフォーミング鎮静材を、スラグを排滓するスラグパンに投入する場合について説明したが、スラグのフォーミングを鎮静させるのであれば、スラグパンに限定されるものではなく、他の排滓鍋に投入することもできる。