特許第6753485号(P6753485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753485水性感圧式接着剤組成物および感圧式接着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6753485
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】水性感圧式接着剤組成物および感圧式接着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20200831BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200831BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20200831BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C09J133/14
   C09J11/06
   C09J7/38
   B32B27/00 M
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-83671(P2019-83671)
(22)【出願日】2019年4月25日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】清水 格
(72)【発明者】
【氏名】小出 昌史
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−166365(JP,A)
【文献】 特開平06−258832(JP,A)
【文献】 特開2013−056983(JP,A)
【文献】 特開昭59−117538(JP,A)
【文献】 特開2004−231676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させて得られるアクリル系樹脂(A)と、アミン化合物(B)とを含み、
前記アミン化合物(B)は、20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上である、水性感圧式接着剤組成物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂(A)の酸価が10〜40mgKOH/gである、請求項1記載の水性感圧式接着剤組成物。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂(A)のカルボキシル基に対する、前記アミン化合物(B)による中和率が5〜50当量%である、請求項1または2記載の水性感圧式接着剤組成物。
【請求項4】
基材上に、乾燥後の塗布量が20g/mとなるように水性感圧式接着剤組成物から形成された接着層を有する積層体を、酢酸エチルに23℃72時間浸漬させた際の接着層の不溶分が20〜50質量%である、請求項1〜3いずれか1項記載の水性感圧式接着剤組成物。
【請求項5】
基材上に、請求項1〜4いずれか1項記載の水性感圧式接着剤組成物から形成された接着層を有する、感圧式接着シート。
【請求項6】
酢酸エチルに23℃72時間浸漬させた際の接着層の不溶分が20〜50質量%である、請求項5記載の感圧式接着シート。
【請求項7】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及び(メタ)アクリル酸を含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させてアクリル系樹脂(A)を得る工程、および
20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上であるアミン化合物(B)を前記アクリル系樹脂(A)に添加し、アクリル系樹脂(A)のカルボキシル基を、アミン化合物(B)により中和する工程、
を備えた水性感圧式接着剤組成物の製造方法。
【請求項8】
20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上であるアミン化合物(B)を乳化剤で水中に乳化させて乳化物を得る工程、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及び(メタ)アクリル酸を含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させてアクリル系樹脂(A)を得る工程、および
前記アクリル系樹脂(A)に前記乳化物を添加し、アクリル系樹脂(A)のカルボキシル基を、アミン化合物(B)により中和する工程、
を備えた水性感圧式接着剤組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4いずれか1項記載の水性感圧式接着剤組成物を剥離性シートに塗工後、前記アミン化合物(B)の沸点以下の乾燥温度で乾燥することで接着層を形成し、次いで基材上に接着層を転写する、感圧式接着シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4いずれか1項記載の水性感圧式接着剤組成物を基材に水性感圧式接着剤組成物を塗工後、前記アミン化合物(B)の沸点以下の乾燥温度で乾燥することで接着層を形成する、感圧式接着シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性感圧式接着剤組成物および感圧式接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
感圧式接着剤(粘着剤とも呼ばれる)としては、溶剤型と水性が一般的であり、その中でも安価で大気中への溶剤(VOC)排出が少ない水性の需要が増えている。市販されている水性の感圧式接着剤はそのほとんどが樹脂分散体(エマルション)であるが、このような分散体は塗工時の剪断速度下であっても分散が崩壊しないような抵抗力として機械的安定性が必要とされる。
感圧式接着剤は例えばテープ、ラベル、シートなど種々の形態に加工される。用途としては看板、標識、展示用ディスプレイ、マーキングテープ、マスキングテープ等の幅広い用途にて使用されている。
これらの用途の内、マスキングテープにおいてはテープが塗料由来の溶剤に晒されるため、溶剤が基材の浸透を通じて或は接着層の周囲から接着剤に接触するため耐水性や耐溶剤性等の耐性が必要となる。また、バイクや自動車等の車輌に貼り付けて使用されることもあり、液体燃料の近傍で使用されることからも、耐溶剤性が求められる。
また、感圧式接着剤には更に、被着体と貼り合わせた際に直ちに実用に足る粘着力を発現して端部等の剥がれが無いようにするためにタックが必要とされる他、ずれに対する抵抗力として保持力が必要とされる。
更に感圧式接着剤はRoll to Rollで塗工されることが多く、ロールに巻き取った状態で保管された際に巻き芯部付近では大きな圧力のかかるため、積層させた接着層が基材層または剥離層から横にはみ出さないこと(はみ出し耐性)が求められる。
【0003】
特許文献1には冬場の低温時において密着性、再剥離性が良好で耐溶剤性に優れ、糊残りや汚染を残さない粘着剤としてアクリル酸n−オクチルを含むモノマーを重合して得られるアクリル系共重合体にポリブテン系可塑剤を添加して得られる粘着剤が開示されている。
特許文献2には耐水性、耐溶剤性及び基材密着性に優れ、かつ光沢を有する皮膜を与えることができるコーテイング剤、接着剤、繊維加工剤、粘着剤等として分子鎖中にカルボニル基を持つ水性樹脂であって、しかも親水性の比較的に少ない特定の共重合体樹脂と、ヒドラジノ基を2個以上有するヒドラジン誘導体とを添加して得られる液剤が開示されている。
しかし、ポリブテン系などの可塑剤を用いる方法では接着層が柔らかくなり過ぎることではみ出し耐性が確保出来ず、またヒドラジン誘導体等による架橋構造を形成する方法では接着シートが溶剤に晒された際の基材密着性が不足して溶剤が接着層に浸透し易くなり、膨潤してしまう等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−037505号公報
【特許文献2】特開平05−179102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来の感圧式接着剤組成物では達成できなかった、耐性、加工性、および粘着物性の全てを満足し、かつ環境負荷を低減することができる水性タイプの感圧式接着剤組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させて得られるアクリル系樹脂(A)と、20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上であるアミン化合物(B)とを用いることにより、上記課題を解決することが可能であることを見出し、この知見に基づいて本発明をなしたものである。
【0007】
すなわち本発明の水性感圧式接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させて得られるアクリル系樹脂(A)と、アミン化合物(B)とを含み、前記アミン化合物(B)は、20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性感圧式接着剤組成物は、Roll to Rollで塗工後の接着層がロールに巻き取った状態で保管された際にもその巻き取り圧で基材からはみ出すことが無く加工性に優れ、かつ充分なタックおよび保持力を有し、溶剤に浸漬されても外観が変化しないという秀でた効果を有する。
また、本発明の感圧式接着シートはロールに巻き取られたままの状態でもその巻き取り圧で接着層が基材からはみ出すことが無く加工性に優れ、充分なタックおよび保持力を有し、溶剤に浸漬されても外観が変化しないという秀でた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細を説明する。エチレン性不飽和モノマーとは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーを含む、ラジカル重合可能なビニル基含有化合物の総称である。単に「モノマー」と表すことがある。
また感圧式接着シートとは、本発明の水性感圧式接着剤組成物をシート状に塗工したものであり、単に「粘着シート」と表すことがある。
尚、本明細書では、「部」および「%」は、特に断りのない限り、「質量部」および「質量%」を表す。
【0010】
《水性感圧式接着剤組成物》
本発明の水性感圧式接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させて得られるアクリル系樹脂(A)と、アミン化合物(B)とを含み、前記アミン化合物(B)は、オクタノール/水分配係数1.6以上である。
アクリル系樹脂(A)のカルボキシル基をアミン化合物(B)で中和することにより、はみ出し耐性と耐溶剤性を両立することが可能となり、なおかつタックの確保も容易となる。
すなわち、本発明により、耐性(耐溶剤性、耐水性)、加工性(機械的安定性、はみ出し耐性)、および粘着物性(ボールタック、保持力)の全て満足し、かつ環境負荷を低減可能な水性タイプの感圧式接着剤組成物とすることができる。
【0011】
アクリル系樹脂(A)のカルボキシル基がアミン化合物(B)により中和されイオン化されることで感圧式接着剤中および塗工後の感圧式接着層中で主に(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーが重合して形成された疎水的なソフトクラスタから離れようとしてカルボニウムイオンリッチで親水性のハードクラスタを形成し、これがはみ出し耐性と耐溶剤性の両方に寄与すると考えられる。このような親水性のハードクラスタは疎水性であるアミン化合物(B)によりソフトクラスタ中に微分散されて、いわゆる海島構造を採っていると考えられ、タックへの影響が無いものと推定される。
【0012】
<アクリル系樹脂(A)>
本発明の水性感圧式接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させて得られる。前記アクリル系樹脂(A)の合成には、さらに水酸基含有モノマー、アミド基含有モノマー、芳香族モノマー等を使用できる。
【0013】
アクリル系樹脂(A)の酸価は10〜40mgKOH/gであることが好ましく、15〜35mgKOH/gであることがより好ましく、20〜30mgKOH/gであることが更に好ましい。酸価を10mgKOH/g以上とすることでアミン化合物(B)による中和の効果が充分となり耐溶剤性を向上できる。また酸価を40mgKOH/gとすることで耐水性の確保が容易となる。
【0014】
アクリル系樹脂(A)はこれらモノマーを含むエチレン性不飽和モノマー混合物の乳化重合により合成され、アミン化合物(B)を加えた水性感圧式接着剤組成物とし、これを基材に塗工することで接着層を形成し、基材を備えた感圧式接着シートとして使用することができる。
【0015】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー]
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーは単独または2種類以上併用できる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーはエチレン性不飽和モノマーの合計100質量%中、60〜99質量%であることが好ましく、80〜99質量%であることが好ましい。重合後の反応性が低いこれらモノマーを60質量%以上とすることで耐性を確保しやすい。また、99質量%以下とすることで重合安定性を確保しやすい。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーはメチル(メタ)アクリレート、およびエチル(メタ)アクリレートの1種または2種以上を含んでいることが好ましく、これらの含有量の合計がアクリル系樹脂(A)の固形分100質量%中、5〜20質量%であることがより好ましく、10〜15質量%であることが最も好ましい。メチル(メタ)アクリレート、およびエチル(メタ)アクリレートの含有量を5質量%以上とすることで粘着層の凝集力を向上させることが出来、保持力を向上出来るために好ましい。メチル(メタ)アクリレート、およびエチル(メタ)アクリレートの含有量が20質量%以下であることにより、タックが十分となり、貼付時に端部が浮く等の不具合が発生することができるために好ましい。
なお、メチル(メタ)アクリレート、およびエチル(メタ)アクリレートにより付与される親水性は、イオンによる親水性には及ばない為、親水性ハードクラスタの形成は阻害しない。
【0017】
[カルボキシル基を有するモノマー]
カルボキシル基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチルアクリレート、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、およびマレイン酸ブチル等が挙げられる。これらのモノマーの中では(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーとの共重合性の観点から(メタ)アクリル酸が好ましい。カルボキシル基を有するモノマーは単独または2種類以上併用できる。
カルボキシル基を有するモノマーを含有するエチレン性不飽和モノマーはエチレン性不飽和モノマーの合計100質量%中、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましく2〜5質量%であることが好ましい。0.5質量%以上とすることで耐溶剤性を確保しやすくなり、10質量%以下とすることで耐水性を確保しやすくなる。
【0018】
[水酸基含有モノマー]
水酸基含有モノマーは、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、および6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ならびにポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。水酸基含有モノマーは、単独または2種類以上併用できる。
【0019】
[アミド基含有モノマー]
アミド基含有モノマーは、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等が挙げられる。アミド基含有モノマーは、単独または2種類以上併用できる。
【0020】
[芳香族モノマー]
芳香族モノマーは、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。芳香族モノマーは、単独または2種類以上併用できる。
【0021】
上記モノマー混合物を乳化剤により水中に分散つまり乳化し、これに重合開始剤を添加して重合することで、アクリル系樹脂(A)を含むエマルジョン(乳化重合物)が得られる。乳化重合物を得る方法は、前記乳化物の全量を予め反応容器中に仕込んでから反応する方法、または前記乳化物の一部を反応容器中に仕込んで、前記乳化物の残分を数回に分けて添加または連続滴下する方法等公知の方法を使用できる。
【0022】
[乳化剤]
乳化重合で使用する乳化剤は、アニオン性乳化剤およびノニオン性乳化剤から適宜選択することが好ましい。また、乳化剤は、ラジカル重合性の官能基を有する反応性乳化剤であってもよいし、ラジカル重合性の官能基を有さない非反応性乳化剤であってもよく、両者を併用することもできる。
【0023】
乳化剤の中で、反応性乳化剤は、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を1個以上有するアニオン性の乳化剤である。例えば、スルホコハク酸エステル系乳化剤、アルキルフェノールエーテル系乳化剤等が挙げられる。
【0024】
非反応性アニオン性乳化剤は、例えば、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0025】
非反応性ノニオン性乳化剤は、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシ多環フェニルエーテル類;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
乳化剤は、単独または2種類以上使用できる。
【0026】
前記乳化剤のなかでも、良好な重合安定性が得られるため反応性または非反応性のアニオン性乳化剤を使用するのが好ましく、特に反応性のアニオン乳化剤を全乳化剤中80質量%以上用いることがより好ましい。乳化剤はモノマー混合物100質量部に対して0.5〜3質量部使用することが好ましい。
【0027】
[重合開始剤]
乳化重合には重合開始剤が使用される。重合開始剤は水溶性、油溶性の何れでも良いが、油溶性開始剤を用いる際はあらかじめ水混和性溶剤に溶解させて用いることが必要であり、このような所作が不要な水溶性重合開始剤を使用することが好ましい。
水溶性重合開始剤は、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッドのアンモニウム(アミン)塩、2,2’−アゾビス(2−メチルアミドオキシム)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジヒドロクロライドテトラヒドレ−ト、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕−プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕等が挙げられる。これらの中でも、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムが好ましい。
【0028】
水溶性重合開始剤は、モノマー混合物100質量部に対して、0.01〜0.5質量部を使用することが好ましく、0.02〜0.3質量部がより好ましい。0.01〜0.5質量部であることで重合反応性をより向上できる。
【0029】
さらに水溶性重合開始剤は、レドックス系重合開始剤(酸化剤と還元剤を併用する)を使用することができる。酸化剤は、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、ベンゾイルパ−オキサイド、キュメンハイドロパ−オキサイド、p−メタンハイドロパ−オキサイド等が挙げられる。また、還元剤は、例えば亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が挙げられる。これらの中でも重合反応性に優れるため、酸化剤:過硫酸カリウムまたは過硫酸ナトリウムと、還元剤:亜硫酸ナトリウムまたは酸性亜硫酸ナトリウムとを組み合わせて使用することが好ましい。
【0030】
レドックス系重合開始剤は、酸化剤と還元剤をそれぞれモノマー混合物100質量部に対して、0.01〜0.5質量部を使用することが好ましく、0.02〜0.3質量部がより好ましい。0.01〜0.5質量部であることで重合反応性より向上できる。
【0031】
[連鎖移動剤]
本発明では接着層の溶剤不溶分を調整するため、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤は、例えばチオール基や水酸基を有する化合物が一般に知られている。チオール基を有する化合物としては、例えばラウリルメルカプタン、2−メルカプトエチルアルコール、ドデシルメルカプタン、およびメルカプトコハク酸等のメルカプタン;メルカプトプロピオン酸n−ブチル、およびメルカプトプロピオン酸オクチル等のメルカプトプロピオン酸アルキル;、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル等のメルカプトプロピオン酸アルコキシアルキル等が挙げられる。また、メチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、t−ブチルアルコール、およびベンジルアルコール等のアルコールも挙げられる。連鎖移動剤は、単独または2種類以上併用できる。
【0032】
連鎖移動剤は、モノマー混合物100質量部に対して0.01〜0.20質量部が好ましく、0.02〜0.10質量部がより好ましい。このような含有量である場合、前記のような溶剤不溶分に調節することが容易となる。
【0033】
<アミン化合物(B)>
アミン化合物(B)は20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上である。オクタノール/水分配係数が1.6以上であることで水性感圧式接着剤組成物の耐溶剤性が確保される。これは前記の親水性ハードクラスタが十分に疎水性であるアミンにより疎水性ソフトクラスタに分散されることで、接着層全体が親水化し、溶剤に浸漬されにくくなるためであると考えられる。
オクタノール/水分配係数は、1−オクタノールと水の2相システムにおいてある化合物が1−オクタノール相に溶解している濃度と水に溶解している濃度の比として定義され、化学物質の疎水性を表す指標とされる物理化学的な無次元数である。
【0034】
20℃におけるオクタノール/水分配係数はOECD Test Guideline(OECD理事会決定「C(81)30最終別添1」)107又は日本工業規格Z7260−107(2000)「分配係数(1−オクタノール/水)の測定−フラスコ振とう法」記載の方法で測定できる。
【0035】
親水性ハードクラスタの疎水性ソフトクラスタへの分散性という観点からアミン化合物(B)の20℃におけるオクタノール/水分配係数は1.8〜5.0であることが好ましく、2.0〜3.5であることがより好ましい。
【0036】
アクリル系樹脂(A)のカルボン酸に対する、アミン化合物(B)による中和率は、5〜50%当量であることが好ましく、10〜45%当量であることがより好ましく、15〜40%当量であることが更に好ましい。中和率を5%当量以上とすることで塗工時の剪断速度に耐える機械的安定性を確保しやすくなり、中和率を50%当量以下とすることでアミン化合物(B)由来の接着剤中の臭気を低減できるために好ましい。
【0037】
アミン化合物(B)の沸点は本発明の水性感圧式接着剤組成物を塗工後に残存する条件であれば特に限定されないが、100℃以上が好ましく130℃以上がより好ましく150℃以上が更に好ましい。
【0038】
アミン化合物(B)は、例えば、ジ−n−プロピルアミン(20℃におけるオクタノール/水分配係数=1.67、沸点=108℃、以下、値のみ記す)、ジ−n−ブチルアミン(2.83、159℃)、ジ−2−エチルヘキシルアミン(6.56、281℃)、トリ−n−プロピルアミン(2.79、157℃)、トリ−n−ブチルアミン(4.46、217℃)、2,6−ジメチルアニリン(1.84、216℃)等が挙げられる。
アミン化合物(B)は、単独または2種類以上使用できる。
【0039】
<その他添加剤>
本発明の水性感圧式接着剤組成物は任意成分として、中和剤、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、増粘剤、顔料分散体、および樹脂微粒子などの公知のその他添加剤を配合することができる。
【0040】
本発明の水性感圧式接着剤組成物の製造方法は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及び(メタ)アクリル酸を含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させてアクリル系樹脂(A)を得る工程、および20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上であるアミン化合物(B)を前記アクリル系樹脂(A)に添加し、アクリル系樹脂(A)のカルボキシル基を、アミン化合物(B)により中和する工程、を備えることが好ましい。
【0041】
さらに好ましくは、20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上であるアミン化合物(B)を乳化剤で水中に乳化させて乳化物を得る工程、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及び(メタ)アクリル酸を含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させてアクリル系樹脂(A)を得る工程、前記アクリル系樹脂(A)に前記乳化物を添加し、アクリル系樹脂(A)のカルボキシル基を、アミン化合物(B)により中和する工程、を備えた水性感圧式接着剤組成物の製造方法である。
【0042】
それにより、耐溶剤性、はみ出し耐性、およびタックを全て満足できる、水性タイプの感圧性接着剤とすることができるために好ましい。
【0043】
また、水性感圧式接着剤組成物は、基材上に、乾燥後の塗布量が20g/mとなるように前記水性感圧式接着剤組成物から形成された接着層を有する積層体を、酢酸エチルに23℃72時間浸漬させた際の接着層の不溶分が20〜50質量%であることが好ましい。
なお、乾燥後の塗布量は、20±5g/mであればよい。
【0044】
具体的には、乾燥後の塗布量が20g/mとなるように剥離性シートに塗工後、80℃180秒間乾燥することで接着層を形成し、次いで基材上に接着層を転写し、剥離性シートをはがした後の積層体を、酢酸エチルに23℃72時間浸漬させた際の接着層の不溶分を求めることができる。
すなわち、積層体は、本発明の水性感圧式接着剤組成物から形成されてなる接着層と、基材を有する。
【0045】
接着層の不溶分は、20〜50質量%であることが好ましく、25〜45質量%がより好ましく、30〜40質量%が更に好ましい。20質量%以上とすることで充分なはみ出し耐性を確保できる。また、50質量%以下とすることで接着シートが溶剤に晒された際にも最低限の接着性が確保され膨潤を低減しやすくなる。なお、不溶分の算出は例えば以下の方法により求めることができる。
【0046】
水性感圧式接着剤組成物を剥離性シートまたは基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)上に塗工し、乾燥後の塗布量が20g/m(20±5g/m)となるように、基材上に接着層を形成する(塗工物という)。得られた基材上と接着層とを有する積層体を200メッシュのステンレス網で包み込み、次いで、それを酢酸エチル中、23℃で72時間浸漬した後、乾燥して溶剤を除去する。そして浸漬前の乾燥被膜の質量に対する、浸漬後の乾燥被膜の質量の割合(質量%)を求めたものを溶剤に対する不溶分という。

[式1]不溶分(質量%)=(浸漬後の乾燥皮膜質量−PETフィルムの質量)/(浸漬前の乾燥皮膜質量−PETフィルムの質量)×100
【0047】
《感圧式接着シート》
本発明の感圧式接着シートは、基材と水性感圧式接着剤組成物から形成されてなる接着層とを備える。製造方法を例示すると、(1)剥離性シートに水性感圧式接着剤組成物を塗工、乾燥することで接着層を形成し、次いで基材上に接着層を転写する方法や、(2)基材に水性感圧式接着剤組成物を塗工、乾燥することで接着層を形成し、次いで剥離性シートを貼り合わせる方法が挙げられる。
【0048】
水性感圧式接着剤組成物を、アミン化合物(B)の沸点以下の乾燥温度で剥離性シートに塗工後、乾燥することで接着層を形成し、次いで基材上に接着層を転写するか、または前記アミン化合物の沸点以下の乾燥温度で基材に水性感圧式接着剤組成物を塗工、乾燥することで接着層を形成して得られる感圧式接着シートであることが好ましい。
【0049】
また、感圧式接着シートを、酢酸エチルに23℃72時間浸漬させた際の接着層の不溶分は、20〜50質量%であることが好ましく、25〜45質量%がより好ましく、30〜40質量%が更に好ましい。20質量%以上とすることで充分なはみ出し耐性を確保できる。また、50質量%以下とすることで接着シートが溶剤に晒された際にも最低限の接着性が確保され膨潤を低減しやすくなる。
なお、不溶分の算出は上述した方法と同じ方法により求めることができる。
すなわち、感圧式接着シートが剥離性シートを有する場合には、剥離性シートを剥がし
、基材と接着層を有する積層体として、酢酸エチルに23℃72時間浸漬させた際の接着層の不溶分である。
【0050】
感圧式接着シートの製造方法は、本発明の水性感圧式接着剤組成物を剥離性シートに塗工後、前記アミン化合物(B)の沸点以下の乾燥温度で乾燥することで接着層を形成し、次いで基材上に接着層を転写することが好ましい。
また、本発明の水性感圧式接着剤組成物を基材に水性感圧式接着剤組成物を塗工後、前記アミン化合物(B)の沸点以下の乾燥温度で乾燥することで接着層を形成して、感圧式接着シートを製造する方法も好ましい。
【0051】
接着層の厚さは、特に制限はないが、一般的に5〜100μm程度であり、10〜50μmがより好ましい。
【0052】
塗工方法は、例えばマイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコ-ター、スピンコーター等公知の方法が挙げられる。塗工に際し、乾燥を行うことが通常である。乾燥方法については特に制限はなく、熱風乾燥、赤外線ヒーターおよび減圧法等公知の方法を適宜選択して使用できる。乾燥温度は通常60〜180℃程度であるが、アミン化合物(B)を塗膜中に残存させるためにアミン化合物(B)の沸点以下であることが好ましい。
【0053】
基材としては、例えば、紙、セロハン、プラスチックシート、ゴム、発泡体、布帛、ゴム引布、樹脂含浸布、ガラス板、金属板、木材、偏光板などの光学フィルム等の板材またはシートが挙げられる。基材は、単独または複数の積層体であっても良い。また、基材は、裏面(接着層と接しない面)に剥離処理、または帯電防止処理をすることができる。また基材は、公知の易接着処理を行うことで接着層との密着性を向上できる。基材の厚さは、一般的に10〜100μm程度であり、30〜80μmがより好ましい。
【0054】
本発明の感圧式接着シートの被着体は、素材として、例えば、金属、ガラス、プラスチックフィルム、ゴム、木材、ダンボール、紙および塗料コート面など幅広い素材に使用できる。
【0055】
本発明の感圧式接着剤はテープ、ラベル、シートなど種々の形態に加工され、例えば看板、標識、展示用ディスプレイ、マーキングテープ、マスキングテープ等に使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。尚、以下の説明において、部は質量部、%は質量%を意味する。
【0057】
なお、オクタノール/水分配係数は以下の方法で測定した。
<オクタノール/水分配係数>
20℃におけるオクタノール/水分配係数は日本工業規格Z7260−107(2000)「分配係数(1−オクタノール/水)の測定−フラスコ振とう法」記載の方法で測定した。
【0058】
(実施例1)
2−エチルヘキシルアクリレート84.4部、メチルメタクリレート12.0部、メタクリル酸2.6部、アクリル酸1.0部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2−エチルヘキシル 0.05部を添加し混合溶解した。さらにアニオン型反応性乳化剤として「アクアロン KH−10」(第一工業製薬製)0.5部を加え、さらに脱イオン水41.0部を加えて攪拌し乳化物を得た。得られた乳化物を滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、脱イオン水を73.0部、得られた乳化物のうちの1.0部を仕込み、乳化物の残量を滴下ロートに投入した。次いでフラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温した。重合開始剤として10%過硫酸アンモニウム水溶液を0.6部添加した。10分後、内温を80℃に保ったまま、上記滴下ロートから乳化物の残りと10%過硫酸アンモニウム水溶液2.4部を180分かけて滴下を行った。滴下終了後さらに80℃で1時間反応を継続した後、内温を65℃に冷却し、重合開始剤として「パーブチルH−69」(日油社製)の10%水溶液0.1部、還元剤として「エルビットN」(扶桑化学工業社製)の10%水溶液0.3部をそれぞれ15分おきに3回添加し、さらに60分間反応を継続して熟成し、アクリル系樹脂(A)を含むエマルジョンを得た。
【0059】
これを30℃以下に冷却して、アミン化合物(B)としてジブチルアミン1.5部を予めアニオン系非反応性乳化剤「ニューコールRA−9612」(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 不揮発分25% 日本乳化剤社製)0.1部、脱イオン水1.5部と共に攪拌して得た乳化物を加え、消泡剤としてSNデフォーマー364(サンノプコ社製)を0.3部、防腐剤としてユニケムフレックスBN−202(ユニオンケミカル社製)を0.05部、レベリング剤として「ペレックスOT−P」(花王社製)0.2部を加え、さらに増粘剤として「シックナーSN640」(サンノプコ社製)0.2部を用いて増粘し、水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0060】
得られた接着剤を乾燥後の厚さが20μmになるようにコンマコーターを使用して剥離性シート上に塗工し、80℃の乾燥オーブンで180秒間乾燥した後、PETフィルム(東洋紡社製 E5100 25μm)を貼り合わせて感圧式接着シートを得た。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表1〜3の略称は下記の通りである。
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー>
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EA:エチルアクリレート
【0065】
<カルボキシル基を有するモノマー>
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
【0066】
<連鎖移動剤>
OTG:チオグリコール酸2−エチルヘキシル
【0067】
<アミン化合物(B)>
DNBA:ジ−n−ブチルアミン(20℃におけるオクタノール/水分配係数=2.83、沸点=159℃。式量=129.24。以下、値のみ記す)
NBNPA:トリ−n−プロピルアミン(2.79、157℃、115.22)
2,6−DMAn:2,6−ジメチルアニリン(1.84、216℃、121.18)
TNBA:トリ−n−ブチルアミン(4.46、217℃、185.35)
DNPA:ジ−n−プロピルアミン(1.67、108℃、101.19)
D2EHA:ジ−2−エチルヘキシルアミン(6.56、281℃、241.46)
<その他アミン化合物>
TEA:トリエチルアミン(1.45、89℃、101.19)
【0068】
<可塑剤>
PMA:プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点=146℃)
<架橋剤>
CDI:水溶性カルボジイミド架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト V−04」)
【0069】
(実施例2〜26、比較例1)
実施例1においてアクリル系樹脂を表1〜表3記載の原料および配合量(質量部)に変更した以外は実施例1と同様の配合、方法でアクリル系樹脂を含むエマルジョンおよび水性感圧式接着剤組成物を得、実施例1と同様の方法で塗工・貼り合わせをして感圧式接着シートを得た。
【0070】
(比較例2、3)
2−エチルヘキシルアクリレート84.4部、メチルメタクリレート12.0部、メタクリル酸2.6部、アクリル酸1.0部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2−エチルヘキシル 0.05部を添加し混合溶解した。さらにアニオン型反応性乳化剤として「アクアロン KH−10」(第一工業製薬製)0.5部を加え、さらに脱イオン水41.0部を加えて攪拌し乳化物を得た。得られた乳化物を滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、脱イオン水を73.0部、得られた乳化物のうちの1.0部を仕込み、乳化物の残量を滴下ロートに投入した。次いでフラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温した。重合開始剤として10%過硫酸アンモニウム水溶液を0.6部添加した。10分後、内温を80℃に保ったまま、上記滴下ロートから乳化物の残りと10%過硫酸アンモニウム水溶液2.4部を180分かけて滴下を行った。滴下終了後さらに80℃で1時間反応を継続した後、内温を65℃に冷却し、重合開始剤として「パーブチルH−69」(日油社製)の10%水溶液0.1部、還元剤として「エルビットN」(扶桑化学工業社製)の10%水溶液0.3部をそれぞれ15分おきに3回添加し、さらに60分間反応を継続して熟成し、アクリル系樹脂を含むエマルジョンを得た。
【0071】
これを30℃以下に冷却して、25%アンモニア水でpH=7.5〜8.0となるように調整した後、消泡剤としてSNデフォーマー364(サンノプコ社製)を0.3部、防腐剤としてユニケムフレックスBN−202(ユニオンケミカル社製)を0.05部、レベリング剤として「ペレックスOT−P」(花王社製)0.2部を加え、さらに増粘剤として「シックナーSN640」(サンノプコ社製)0.2部を用いて増粘した。
【0072】
比較例2では可塑剤としてプロピレングリコールメチルエーテルアセテートを4.0部加えて、比較例3では架橋剤としてカルボジライトV−04(日清紡ケミカル株式会社製)を0.4部加えて、それぞれ水性感圧式接着剤組成物を得た。
【0073】
得られた接着剤を乾燥後の塗布量が20±5g/mとなるようにコンマコーターを使用して剥離性シート上に塗工し、80℃の乾燥オーブンで180秒間乾燥した後、PETフィルム(東洋紡社製 E5100 25μm)を貼り合わせて感圧式接着シートを得た。
【0074】
得られたアクリル系樹脂、水性感圧式接着剤組成物および感圧式接着シートについて、以下の測定方法により物性値測定および評価基準にて評価した。結果を表1〜4に記す。
【0075】
<酢酸エチル不溶分(EtAc不溶分)>
得られた感圧式接着シートの剥離性シートを剥がし、PETフィルムと接着層の積層体とし、200メッシュのステンレス網で包み込み、次いで、それを酢酸エチル中、23℃で72時間浸漬した後、乾燥して溶剤を除去した。そして浸漬前の乾燥被膜の質量に対する、浸漬後の乾燥被膜の質量の割合(質量%)を下記式1に従い求めた。

[式1]不溶分(質量%)=(浸漬後の乾燥被膜質量−PETフィルムの質量)/(浸漬前の乾燥被膜質量−PETフィルムの質量)×100
【0076】
<酸価>
アクリル系樹脂(A)の酸価は、樹脂中のメタクリル酸(MAA)の繰り返し単位の式量を86.06、アクリル酸の繰り返し単位の式量を72.06、KOHの式量を56.11として、下記式2に従い求めた。

[式2]酸価(mgKOH/g)=[(MAAの仕込み部数)/(MAAの繰り返し単位の式量)+(AAの仕込み部数)/(AAの繰り返し単位の式量)]/(モノマーの総仕込み部数)×(KOHの式量)×1000
【0077】
<中和率>
中和率は前記のアクリル酸、メタクリル酸の繰り返し単位の式量およびアミン化合物の分子量に基き、下記式3に従い求めた。

[式3]中和率(%)=[(アミン化合物の仕込み部数)/(アミン化合物の分子量)]/[(MAAの仕込み部数)/(MAAの繰り返し単位の式量)+(AAの仕込み部数)/(AAの繰り返し単位の式量)]
【0078】
<耐溶剤性>
得られた感圧式接着シートを長さ60mm×幅30mmの形状に準備し試料とした。それぞれをメラミン塗装板に貼り、その後トルエンにそれぞれ1時間浸漬した後、メラミン塗装板に貼った試料の外観の変化を光学顕微鏡で観察した。評価基準は以下のとおりである。

評価基準
5:塗膜膨潤による感圧式接着層のPETフィルム外への露出およびシート端部の感圧式接着層が浮いているゾーンの幅がともに0.1mm未満であり実用上問題無し。極めて優良。
4:塗膜膨潤による感圧式接着層のPETフィルム外への露出およびシート端部の感圧式接着層が浮いているゾーンの幅の何れかが0.1mm以上であるがともに0.2mm未満であり実用上問題無し。優良。
3:塗膜膨潤による感圧式接着層のPETフィルム外への露出およびシート端部の感圧式接着層が浮いているゾーンの幅の何れかが0.2mm以上であるがともに0.5mm未満であり実用上問題無し。良好。
2:塗膜膨潤による感圧式接着層のPETフィルム外への露出およびシート端部の感圧式接着層が浮いているゾーンの幅の何れかが0.5mm以上であるがともに1.0mm未満であり実用上問題無し。使用可。
1:塗膜膨潤による感圧式接着層のPETフィルム外への露出およびシート端部の感圧式接着層が浮いているゾーンの幅の何れかが1.0mm以上であり、使用できない。使用不可。
【0079】
<はみ出し耐性>
得られた感圧式接着シートを幅100mm・縦100mmの大きさに準備した。次いで前記感圧式接着シートを40℃−20kgf/cmの条件で24時間圧着を行い感圧式接着シートの側面から接着層がはみ出した状態を評価した。評価基準は以下のとおりである。

評価基準
5:接着層のはみ出しが無い。極めて優良。
4:0.1mm未満の接着層のはみ出しがあったが実用上問題ない。優良。
3:0.1mm以上0.3mm未満の接着層のはみ出しがあったが実用上問題ない。良好。
2:0.3mm以上0.5mm未満の接着層のはみ出しがあったが実用上問題ない。使用可。
1:0.5mm以上の接着層のはみ出しがあり使用できない。使用不可。
【0080】
<ボールタック>
得られた感圧式接着シートを幅22.5mm×長さ15mmの大きさに3枚準備した。各試験片について、JIS Z0237(2009年)に規定された傾斜式ボールタック試験に準じてボールタックを3回測定し、それらの中央値を測定値とした。
ボールタックは値が大きい方がシート端部の剥がれが無いため好適であり、実用レベルは3以上である。
【0081】
<機械的安定性>
マロン式機械的安定性測定装置を用いて、得られた水性感圧式接着剤組成物45gに蒸留水5gを加えた希釈物を荷重10kg、15分間の条件下で機械的負荷を与えた後、80メッシュの金網でろ過し、金網上に残留した凝固物の固形分質量を測定し、次式により
凝固率(質量%)を求めた。

凝固率(質量%)=[凝固物の固形分質量/(50×希釈物の固形分濃度)]×100

凝固率が低いほど機械的安定性は良好であり、実用範囲は1.0%以下である。
【0082】
<保持力>
得られた感圧式接着シートを幅25mm・長さ100mmの大きさに切り取り試料とした。次いで23℃−50%RH雰囲気下、JIS Z 0237に準拠して、試料から剥離性シートを剥がし、露出した接着層の先端部幅25mm・長さ25mm部分を研磨したステンレス(SUS)板に貼着し、2kgロールで1往復圧着した後、80℃雰囲気で1kgの荷重をかけ、7万秒保持した。評価は、SUS板から試料が落下した場合はその秒数を示す。試料が落下しなかった場合は、粘着剤層とSUS板の接着先端部が、荷重により下にずれたmm数を示す。全くずれなかった場合は「N.C.」と記す。
実用範囲は落下しないか、落下までの秒数が2000秒以上である。
【0083】
<耐水性>
得られた感圧式接着シートを幅25mm・縦25mmの大きさに準備した。23℃、相対湿度50%雰囲気で前記粘着シートから剥離性シートを剥がしてPP板に貼着し試料とした。貼着5分間後、試料を蒸留水中に40℃で48時間浸漬を行い、浸漬後の粘着シートの浮きおよび剥がれを目視で観察した。評価基準は以下のとおりである。

評価基準
5:浮き、剥がれが全く認められず、良好である。
4:0.2mm未満の浮き、剥がれが認められる。
3:0.2mm以上0.5mm未満の浮き、剥がれがある。
2:0.5mm以上1.0mm未満の浮き、剥がれがある。
1:1.0mm以上の浮き、剥がれがある。
【0084】
<臭気>
得られた感圧式接着シートを幅10.0mm×長さ100.0mmの大きさに10枚準備した。これを500ml容の三角フラスコに入れてゴム栓をし、80℃1時間加熱した。加熱終了後10〜20分の間に25℃50%RHの室内にてモニター5名にフラスコ内の臭気を官能評価させた。臭気を感じなかった者の人数を臭気の評点とした。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
表4〜6の結果から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させて得られるアクリル系樹脂(A)と、アミン化合物(B)とを含み、前記アミン化合物(B)は、20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上である本発明の水性感圧式接着剤組成物は、耐性、はみ出し耐性等の加工性、および粘着物性を全て満足でき、かつ環境負荷を低減することができる水性タイプの感圧性接着剤であった。一方、比較例の水性感圧式接着剤組成物は、耐性、加工性、および粘着物性のいずれかが不良であり、すべての特性を満足できなかった。
【要約】
【課題】耐性、加工性、および粘着物性の全てを満足し、かつ環境負荷を低減することができる水性タイプの感圧式接着剤組成物の提供。
【解決手段】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー及びカルボキシル基を有するモノマーを含有するエチレン性不飽和モノマーを共重合させて得られるアクリル系樹脂(A)と、アミン化合物(B)とを含み、前記アミン化合物(B)は、20℃におけるオクタノール/水分配係数が1.6以上である、水性感圧式接着剤組成物により解決される。
【選択図】なし