特許第6753492号(P6753492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753492
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】赤熱コークスの湿式消火設備
(51)【国際特許分類】
   C10B 39/08 20060101AFI20200831BHJP
【FI】
   C10B39/08
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-123584(P2019-123584)
(22)【出願日】2019年7月2日
(62)【分割の表示】特願2015-142499(P2015-142499)の分割
【原出願日】2015年7月16日
(65)【公開番号】特開2019-183166(P2019-183166A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2019年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘孝
(72)【発明者】
【氏名】今村 圭太
(72)【発明者】
【氏名】北山 義晃
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−125187(JP,A)
【文献】 実開昭48−107846(JP,U)
【文献】 米国特許第04344822(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化室から押し出された赤熱コークスを、消火貨車に牽引されるコークス搭載ボックスに受骸した後、消火設備内の散水配管から、前記コークス搭載ボックス内の赤熱コークス存在範囲に散水処理する赤熱コークスの湿式消火設備であって、
消火設備は、コークス炉団の中央位置に配置されており、
消火室内の散水配管は、前記コークス搭載ボックスの傾斜した底板の下端の直上、またはその近傍に、2段以上4段以下の異なる高さに配置され
前記コークス搭載ボックス内の赤熱コークス存在範囲を消火貨車進行方向に、端部A、中央部、端部Bに3区分したとき、前記端部A、前記中央部、前記端部Bの前記散水配管が、ルーズフランジを介して接続され、該散水配管の散水角度が、場所ごとに設定されていることを特徴とする赤熱コークスの湿式消火設備。
【請求項2】
記中央部の前記散水配管の散水角度が、前記端部Aおよび前記端部Bの散水角度に対して下向きであることを特徴とする請求項1に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
【請求項3】
散水処理時における前記散水配管の内部の圧力が、10kPa以上40kPa以下であることを特徴とする請求項1または請求項に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
【請求項4】
散水処理時における1m当たりの散水流量が、平均で0.5t/分以上1.5t/分以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
【請求項5】
記端部Aおよび前記端部Bへの散水量を、前記中央部への散水量の0.4以上0.8以下とすることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
【請求項6】
記コークス搭載ボックスの幅方向全長を1としたとき、前記端部Aおよび前記端部Bにおける前記コークス搭載ボックスの幅方向への散水を、該コークス搭載ボックスの傾斜した底板の上端を起点として、0.0以上0.8以下の範囲のみに行うことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
【請求項7】
前記赤熱コークスを前記炭化室から前記コークス搭載ボックスに押し出す際、押し出し装置に装備されたプッシャーラムの先端に温度センサーを常設して、押し出し時の炭化室内温度を計測し、該炭化室内温度を基に、前記赤熱コークスの散水流量を調整することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
【請求項8】
前記散水配管より、斜め下方向に消火水を散水することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤熱コークスの湿式消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉で乾留された赤熱コークスを消火する方法は、湿式消火と乾式消火に大別される。乾式消火は、コークス炉で乾留処理された赤熱コークスを、一旦、消火貨車に牽引されるコークス搭載ボックスに受骸させ、この消火貨車を乾式消火設備まで移送し、赤熱コークスを乾式消火設備に投入することにより行っている。乾式消火においては、赤熱コークスは窒素などの不活性ガスにより消火され、水分をほとんど含まないコークスとすることができる。しかし、乾式消火は設備が複雑であるため、コークス搭載ボックスに搭載された赤熱コークスに散水する湿式消火も依然として行われている。
【0003】
(コークス水分および設備焼損)
湿式消火の最大の問題点は、消火が不均一になり、コークスが赤熱したままの状態で残ることである。コークス炉から窯出しされてコークス搭載ボックス上に受骸される赤熱コークスの荷姿(層高)のバラツキなどにより、十分に消火できない箇所がスポット的に発生する。赤熱したままのコークスをベルトコンベアに載せた場合、ベルトコンベアが焼損する等、大災害に繋がることが懸念される。赤熱コークスを確実に消火する方法として、過剰の水を散水する方法もとられている。
【0004】
(ワーフでの乾燥空冷処理時間)
湿式消火されたコークスは、ワーフと呼ばれる場所に払い出され、乾燥空冷処理されるが、乾燥空冷処理時間は、一般的には、特許文献1に記載されるように30〜40分といわれている。乾燥空冷されている間、コークスに含まれる水分は、コークス自身の顕熱により蒸発する。一方、温度の高いコークスは空冷される。仮に赤熱コークスが残留した場合は、ワーフへの散水により消火している。このような理由で、乾燥空冷処理時間に30〜40分は必要とされてきた。また、ワーフでの温度の高いコークスに散水を行い、冷却時間を短縮することも考えられるが、ワーフへの散水を行うためには、特許文献2のようなワーフ散水装置を設置するか、監視人を、常時、待機させる必要がある。
【0005】
(消火後コークスの温度管理および散水制御)
消火を確実に行う観点からは、コークスの最大温度は低めとし、水分を低減する観点からは最小温度を可能な限り高くすべきである。これら相反する2つの目的を達成するためには、最大温度と最小温度の差を縮小する必要があるということは言うまでもない。
水分低減の観点から、湿式消火した後のコークスの最小温度(下限温度)は重要である。当然、最小温度は水の沸点である100℃、あるいはそれに近い温度以上とすることが望まれる。しかし、最小温度の管理値を高くした場合、コークスの温度が全体的に上昇し、部分的に温度が過剰上昇して、後段の高炉搬送用ベルトを焼損することが懸念される。従って、ワーフに払い出されるコークスの最小温度は、可能な限り低い温度で管理すべきである。その観点から、最小温度を、どの程度まで低くすることが可能かを検証すべきである。
【0006】
特許文献3では、消火後コークスの水分を目標値とするための、散水時間および散水流量を求めるためのモデルを構築している。このモデルにおいては、操業に用いるコークスの平均粒度の粒子を単一粒子とし、粒子表面温度が水分を蒸発し得る100℃以下に降下するまでは、粒子表面で盛んに蒸発が起こり、粒子内に水分は吸収しないが、表面温度が100℃を下回ると水分を吸収し始め、散水終了時点で含水率が最大になると仮定している。また、散水終了後、コークス粒子内の熱により復熱し、吸収した水分を放散しながら徐々に温度近衡状態に向かうとしている。
【0007】
(消火後コークスの温度および層高の計測について)
特許文献4においては、赤熱コークスを散水冷却した後、コークス搭載ボックスに搭載される消火後コークスの温度分布および/または層高分布を、ワーフに払い出す直前に測定する。ワーフに払い出した後、前記コークス搭載ボックスには、新たに赤熱コークスが搭載され、散水冷却されるが、その際の散水条件を既にワーフへの払い出しが終了している前記温度分布および/または層高分布を基に調整することを提案している。また、必要に応じて消火塔内部において、新たに搭載した赤熱コークスの温度分布および/または層高分布を測定することも記載されている。
【0008】
(消火設備について)
炭化室から押し出された赤熱コークスを積載した消火貨車は、消火設備に移動され、散水冷却されるが、消火設備は、コークス炉の端に限定して設置される。この理由は、炭化室から赤熱コークスの押し出しに用いるコークスガイド車が、消火設備と干渉し、コークス炉の中央に消火設備が位置したのでは、コークスガイド車の移動の障害になるためである。消火設備をコークス炉の端に設置した場合、消火設備から遠く離れた押し出し窯からの消火設備への走行時間が長くなり、押し出し作業、押し出し窯から消火設備への移動、赤熱コークスの消火、消火コークスのワーフへの払い出しといった一連の作業にかかる時間が長くなり、効率的でない。高炉での必要なコークスを生産することが困難となることもある。また、走行時間内に赤熱コークスが表面から焼失してしまい、コークス歩留まり低下の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-320656号公報
【特許文献2】特開昭64-40595公報
【特許文献3】特許4281497公報
【特許文献4】特開2006−241370公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(消火後コークスの水分および設備焼損についての課題)
赤熱コークスを確実に消火するため、過剰散水することは、消火後コークスの水分を上昇させ、高炉における熱源単位や炉況を悪化させてしまう原因となる。高炉に投入されるコークスの水分は5質量%以下とすることが望まれる。即ち、赤熱コークスを確実に消火することと同時に、消火後コークスの水分を高くしないことも求められている。
【0011】
(ワーフでの乾燥空冷処理についての課題)
ワーフでの乾燥空冷のためには広いワーフ面積が必要となる。工場によっては、ワーフに広い面積を設けることが困難な場合もある。そのため、ワーフでの乾燥空冷処理時間は20分以内とすることが望まれる。また、ワーフ内の温度の高いコークスに局所的に散水を行い、冷却時間を短縮することも考えられるが、特許文献2に記載のワーフ散水装置の設置には、費用が掛かる。また、監視人を、常時、待機させるのは、労力がかかる。
【0012】
(消火後コークスの温度管理および散水制御についての課題)
高炉に供給されるコークスの水分を低く抑え、かつ、ワーフでの乾燥空冷処理時間を短くすることが望まれる。本発明では、高炉に供給されるコークスの水分を、ワーフでの乾燥空冷処理時間を20分以内で、5質量%以下を目標とする。
消火を確実に行う観点からは、コークスの最大温度は低めとし、水分を低減する観点からは最小温度を可能な限り高くすべきである。
しかし、コークス搭載ボックスに受骸される赤熱コークスの量は、20トン前後と極めて多く、消火後コークスの温度を均一化することは極めて困難である。温度が不均一となることを前提として、現実的に制御できる管理温度範囲を決めるべきである。
前記特許文献3では、消火後コークスの水分を目標値とするための、散水時間および散水流量を求めるためのモデルを構築している。しかし、高炉に供給されるコークスの水分を、ワーフでの乾燥空冷処理時間20分以内で、5質量%以下とするための具体的な温度については述べられていない。
【0013】
(消火後コークスの温度および層高の計測についての課題)
前記特許文献4においては、赤熱コークスを散水冷却した後、コークス搭載ボックスに搭載される消火後コークスの温度分布および/または層高分布を、ワーフに払い出す直前に測定する。しかし、コークス搭載ボックス全面の層高分布を計測して、さらに散水条件に反映させるための処理を行うための時間が必要となり、コークス受骸、散水消火およびワーフへの払い出しという1つのサイクルが完了するまでの時間が長くなってしまう。結果的にコークス生産性を低下させてしまう。また、計測機器の設置場所を考慮しないとならない。この場合、コークス搭載ボックスの受骸面全体を計測する必要があり、受骸面と計測機器の距離を、ある程度以上、設ける必要がある。既設のコークス炉に設置する場合、コークス搭載ボックスの上方に計測機器設置のためのスペースがあることが前提となる。また、コークス搭載ボックス周辺は粉塵が多く、温度も高いため、計測機器の保護も考慮しないとならない。このような理由で、コークス搭載ボックス内にあるコークスの層高分布および温度分布を測定することは困難で、これらの計測を行わなくとも、赤熱コークスを確実に消火するとともに、ワーフでの乾燥空冷処理時間が20分以内という条件の下で水分5質量%以下のコークスを製造することが求められる。
【0014】
(消火設備についての課題)
従来のコークス炉において、消火設備の設置場所は、コークスガイド車との干渉を避けるためコークス炉の端に限られる。消火設備がコークスガイド車と干渉するのは、コークスガイド車の集塵フードと消火室の側壁(3面)および散水配管が干渉するからである。これらの設備干渉を回避することができれば、消火設備を炉団中央に設置し、コークス窯から押し出された赤熱コークスが、消火貨車により消火設備まで移動させる時間を短縮できる。移動時間の短縮により、押し出し作業、押し出し窯から消火設備への移動、赤熱コークスの消火、消火コークスのワーフへの払い出しといった一連の作業にかかる時間を大幅に短縮でき、高炉での必要なコークスを生産できる。
【0015】
また、消火貨車およびコークス搭載バケットの走行距離は短くなるので、消火貨車の走行のための燃料費を節減できる。
更に、コークス炉は老朽化した設備が多く、消火貨車およびコークス搭載バケットが走行する軌条で異常が発生することもある。このような場合でも、異常が発生した軌条と逆の炭化室側に消火貨車がある場合には、炭化室からの押し出しや消火貨車の走行は継続できる。
【0016】
他にも消火設備から遠く離れた炭化室からの移動は、押し出し窯から消火設備への走行時間が長くなり、走行時間内に赤熱コークスが表面から焼失して、コークス歩留まり低下の原因となるが、移動時間の短縮により、赤熱コークスの表面からの燃焼・焼失を減少させることができる。
【0017】
本発明の課題は、消火設備を炉団中央に設置し、消火貨車の押し出し窯から消火設備への移動時間を短縮することにより、高炉操業に必要なコークスを確実に生産するとともに、押し出し窯から消火設備までの移動中の赤熱コークスの燃焼焼失による歩留り低下を防止することである。
本発明の目的は押し出し窯から消火設備までの移動中の赤熱コークスの燃焼焼失による歩留り低下を防止する赤熱コークスの湿式消火設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)炭化室から押し出された赤熱コークスを、消火貨車に牽引されるコークス搭載ボックスに受骸した後、消火設備内の散水配管から、前記コークス搭載ボックス内の赤熱コークス存在範囲に散水処理する赤熱コークスの湿式消火設備であって、消火設備は、コークス炉団の中央位置に配置されており、消火室内の散水配管は、前記コークス搭載ボックスの傾斜した底板の下端の直上、またはその近傍に、2段以上4段以下の異なる高さに配置されていることを特徴とする赤熱コークスの湿式消火設備。
(2)前記コークス搭載ボックス内の赤熱コークス存在範囲を消火貨車進行方向に、端部A、中央部、端部Bに3区分したとき、前記端部A、前記中央部、前記端部Bの前記散水配管が、ルーズフランジを介して接続され、該散水配管の散水角度が、場所ごとに設定されることを特徴とする(1)記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
(3)前記コークス搭載ボックス内の赤熱コークス存在範囲を消火貨車進行方向に、端部A、中央部、端部Bに3区分したとき、前記中央部の前記散水配管の散水角度が、前記端部Aおよび前記端部Bの散水角度に対して下向きであることを特徴とする(1)又(2)に記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
(4)散水処理時における前記散水配管の内部の圧力が、10kPa以上40kPa以下であることを特徴とする(1)から(3)のいずれか一つに記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
(5)散水処理時における1m当たりの散水流量が、平均で0.5t/分以上1.5t/分以下であることを特徴とする(1)から(4)のいずれか一つに記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
(6)前記コークス搭載ボックス内の赤熱コークス存在範囲を消火貨車進行方向に、端部A、中央部、端部Bに3区分したとき、前記端部Aおよび前記端部Bへの散水量を、前記中央部への散水量の0.4以上0.8以下とすることを特徴とする(1)から(5)のいずれか一つに記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
(7)前記コークス搭載ボックス内の赤熱コークス存在範囲を消火貨車進行方向に、端部A、中央部、端部Bに3区分し、前記コークス搭載ボックスの幅方向全長を1としたとき、前記端部Aおよび前記端部Bにおける前記コークス搭載ボックスの幅方向への散水を、該コークス搭載ボックスの傾斜した底板の上端を起点として、0.0以上0.8以下の範囲のみに行うことを特徴とする(1)から(6)のいずれか一つに記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
(8)前記赤熱コークスを前記炭化室から前記コークス搭載ボックスに押し出す際、押し出し装置に装備されたプッシャーラムの先端に温度センサーを常設して、押し出し時の炭化室内温度を計測し、該炭化室内温度を基に、前記赤熱コークスの散水流量を調整することを特徴とする(1)から(7)のいずれか一つに記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
(9)前記散水配管より、斜め下方向に消火水を散水することを特徴とする(1)から(8)のいずれか一つに記載の赤熱コークスの湿式消火設備。
ここで、「消火設備は、コークス炉団の中央位置に配置されており」とは、燃焼室と炭化室が、交互にそれぞれ複数配列され、同一の移動機を共有するコークス炉団の中央位置に消火設備を設置することを意味する。
【発明の効果】
【0019】
消火設備を炉団中央に設置し、押し出し窯から消火設備までの消火貨車の移動距離および移動時間を大幅に短縮することができる。移動時間の短縮にともない、押し出し作業、押し出し窯から消火設備への移動、赤熱コークスの消火、消火コークスのワーフへの払い出しといった一連の作業にかかる時間を大幅に短縮でき、高炉操業に必要なコークスを供給できる。押し出し窯から消火設備までの移動中の赤熱コークスの燃焼焼失による歩留り低下を防止することもできる。また、消火貨車およびコークス搭載バケットの走行距離は短くなるので、消火貨車の燃料費を節減できる。
【0020】
更に、コークス炉は老朽化した設備が多く、消火貨車およびコークス搭載バケットが走行する軌条tで異常が発生することもある。このような場合でも、消火設備を炉団中央に設置していれば、異常が発生した軌条と逆の炭化室側に消火貨車がある場合には、炭化室からの押し出しや消火貨車の走行は継続することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ワーフでの乾燥空冷処理時間とコークス水分の関係を示す図。
図2】コークスの乾燥空冷処理によるコークスの温度変化を示す図。
図3】複数の炭化室の一室から赤熱コークスを押し出し、高炉へ搬送するまでの設備構成を示す図
図4】コークス炉炭化室と関連する移動装置の配備状態の断面を示す図。
図5】消火設備7に消火貨車4が引き込まれた状態を、消火貨車の進行方向(前後方向)から見た図。
図6】消火設備7に消火貨車4が引き込まれた状態を、消火貨車の進行方向に対して垂直位置(横方向)から見た図。
図7】第2の実施の態様において、消火設備7に消火貨車4が引き込まれた状態を、消火貨車の進行方向(前後方向)から見た図。
図8】第2の実施の態様において、散水配管の散水孔を示す図。
図9】コークス搭載ボックス5よりワーフに払い出す際の、払い出し開始直後、払い出し中期および払い出し後期のそれぞれのコークスの温度を示す図(試験例3−1)。
図10】コークス搭載ボックス5よりワーフに払い出す際の、払い出し開始直後、払い出し中期および払い出し後期のそれぞれのコークスの温度を示す図(試験例3−2)。
図11】コークス搭載ボックス5よりワーフに払い出す際の、払い出し開始直後、払い出し中期および払い出し後期のそれぞれのコークスの温度を示す図(発明例3−1)。
図12】ワーフに払い出されるコークスの温度分布を示す図(試験例3−1)。
図13】ワーフに払い出されるコークスの温度分布を示す図(試験例3−2)。
図14】ワーフに払い出されるコークスの温度分布を示す図(発明例3−1)。
図15】消火設備を炉団の端に設置した図。
図16】消火設備を炉団の中央部に設置した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
<第1の実施の態様>
本発明の第1の実施の態様は、赤熱コークスの湿式消火において、散水後のコークスの最小温度と最大温度を管理すること、および、散水方法の改善により、コークス水分を低下させ、かつ、コークス搬送設備の保全を図る実施の態様である。
【0023】
図3に、複数の炭化室の一室から赤熱コークスを押し出し、高炉へ搬送するまでの設備構成を示す。炭化室1から押し出された赤熱コークス3は、消火貨車4に牽引されるコークス搭載ボックス5に受骸される。赤熱コークス3を搭載したコークス搭載ボックス5は、軌条6上を走行して、消火設備7へと移動し、散水により湿式消火される。赤熱コークス3の消火が完了した後、消火設備7から消火貨車4をワーフに移動させ、コークス搭載ボックス5の払い出しゲートを開いて、湿式消火したコークスをワーフ8-1、8-2および8-3のいずれかに払い出しする。ワーフ8に払い出し後、コークスに含まれる水分は、乾燥空冷処理により蒸発する。コークスは空冷され、搬送設備10(ベルトコンベアー)を焼損させない温度となる。ワーフ8での乾燥空冷処理は、一般的に30〜40分程度と言われているが、本発明においては、乾燥空冷処理を20分以内とする。その上で、湿式消火後、高炉に供給されるコークス9の水分は5質量%以下とし、しかも高炉への搬送設備10を焼損させない温度とする。
【0024】
ここでいう乾燥空冷処理時間とは、コークスがコークス搭載ボックス5からワーフ8に払い出され、該コークスが当該ワーフから次工程の高炉への搬送設備10に排出開始するまでの時間と定義する。
【0025】
(消火後コークスの温度管理)
本発明の赤熱コークスの湿式消火では、消火完了後のワーフに払い出されるコークスの最小温度が、60℃以上であり、最大温度が、400℃、またはワーフ後段の搬送設備耐熱温度より165℃を超える温度のいずれか低い方の温度以下に管理する。最小温度を60℃以上とすることにより、ワーフでの乾燥空冷処理時間を20分以内としても水分5質量%以下のコークスを製造できる。
【0026】
後述するように、ワーフでは、20分経過で、コークスは166℃低下しており、搬送設備耐熱温度より超える範囲が165℃以下に管理すれば、搬送設備耐熱温度を超えることはない。ただし、搬送設備耐熱温度より超える範囲が165℃以下であっても、400℃以下でなければならない。ワーフに払い出される際の温度が400℃を超えると、コークスが赤熱したままの状態で払い出される。赤熱したままのコークスは空気との接触により燃焼しやすい。従って、ワーフにてコークス温度が低下したとしても、後段の設備で燃焼し、災害を引き起こす原因となることが懸念される。即ち、ワーフに払い出されるコークスの最大温度は、ベルトの耐熱温度に関わらず、400℃以下、好ましくは350℃以下の範囲とすべきである。従って、消火完了後にワーフに払い出されるコークスの最大温度は、400℃、またはワーフ後段の搬送設備耐熱温度より165℃を超える温度のいずれか低い方の温度以下に管理する。
【0027】
また、最大温度がベルトコンベアのベルト耐熱温度プラス165℃以下 または400℃以下であったとしても、それに近い温度が占める比率が高い場合は、十分に温度が下がらないことも懸念される。従って、全体の90%以上がベルトコンベアのベルト耐熱温度プラス100℃以下であることも前提条件と考慮すべきである。
ここでいう湿式消火後のコークスの温度は、湿式消火した後、ワーフに払い出されるコークスの温度とする。ワーフに払い出されるコークスの温度計測は、コークス搭載ボックス内の温度計測と比べ、計測環境が良好で容易に行うことができる。また、温度の計測を連続測定が可能な赤外線サーモビューワで行えば、ワーフ全面に払い出されるコークスの温度を、連続的に計測でき、コークス搭載ボックス内の温度計測と比べ、湿式消火したコークスの温度を正確に知ることができる。
【0028】
ワーフに払い出される消火後コークスの最小温度は、60℃以上80℃以下の範囲で管理するのが好ましい。最小温度は水の沸点である100℃、あるいはそれに近い温度以上とすることが望まれる。しかし、最小温度の管理値を高くした場合、コークスの温度が全体的に上昇し、部分的に温度が過剰上昇して、後段の高炉搬送用ベルトを焼損することが懸念される。消火後コークスの最小温度を80℃以下とすれば、後段の高炉搬送用ベルトを焼損する事故を回避することができる。
【0029】
高炉への搬送設備の耐熱温度は150℃以上250℃以下とする。
消火を確実に行う観点からは、コークスの最大温度は低めとすべきではあるが、水分を低減する観点からは最小温度を可能な限り高くする必要がある。しかし、コークス搭載ボックスに受骸される赤熱コークスの量は、約20トンと極めて多く、消火後コークスの温度を均一化することは極めて困難である。温度が不均一となることを前提として考えるべきである。このため、搬送設備に払い出されるコークスの中には100℃を超えるコークスも多く含まれる。従って、高炉への搬送設備の耐熱温度は、150℃以上は必要である。これにより、100℃を超えるコークスがベルトに排出されたとしても焼損は抑制できる。但し、250℃よりも高くする必要はない。耐熱温度が250℃であれば、コークス搭載ボックスからワーフに払い出されるコークスの温度は、最大、415℃まで対応できる。しかし、前述したように、400℃を超えた場合、コークスは赤熱したままの状態であり、ベルトまたは、その後段の設備で、空気と接触してコークス自身が燃焼することが懸念される。したがって、コークス搭載ボックスから払い出された時点で、400℃を超えているコークスを、そのまま搬送設備に払い出すことは、極めて危険で、実施すべきでない。したがって、搬送設備の耐熱温度は250℃よりも高くする必要はない。
また、ワーフでの乾燥空冷初期の10分は、特に温度低下が大きいことから、ワーフでの乾燥空冷処理は、10分は必要である。
【0030】
消火後コークスの温度を均一化する観点から、コークス搭載ボックスに搭載された赤熱コークスを散水消火する際、赤熱コークスの層高分布および温度分布に応じて消火水の散水量分布を調整すべきである。但し、特許文献4のように層高分布および温度分布を計測することは難しい。本発明では、これらの計測を行わないことを前提とする。
【0031】
(赤熱コークスの散水消火)
図4は、コークス炉炭化室と関連する移動装置の配備状態を示した断面図である。赤熱コークス3をコークス搭載ボックス5に押し出す際、炭化室1の両側にある炉蓋を取り外し、一方に炭化室1の断面形状に合わせた押し板を有するプッシャーラム21を装備した押し出し機を、他方には赤熱コークス3を受骸する消火貨車4に牽引されるコークス搭載ボックス5および赤熱コークスをコークス搭載ボックス5に誘導するためのガイド車2を配備している(コークス搭載ボックスの進行方向からみた図である)。押し出しの開始とともに、コークス搭載ボックス5の広い範囲で赤熱コークス3を受骸するよう、コークス搭載ボックスの走行が開始される。
【0032】
赤熱コークス3の消火が完了した後、消火設備7からコークス搭載ボックス5をワーフに移動させ、コークス搭載ボックス5の払い出しゲート16を開いて、コークス9を図3に示すワーフ8-1、8-2および8-3のいずれかに排出し乾燥空冷する。ワーフ8での乾燥空冷処理時間は、一般的に30〜40分程度と言われているが、本発明においては、乾燥空冷処理時間を20分以内とする。
【0033】
(消火車搭載ボックス長さ方向の温度均一化)
図6は、消火設備7に消火貨車4が引き込まれた状態を、消火貨車の進行方向に対して垂直位置(横方向)から見た図である。初期の押し出しにおいては、押し出される赤熱コークス3の量が少ないこと、末期においては炭化室1に残留する赤熱コークスが少ないといった理由で、コークス搭載ボックス5に受骸されるコークスは、中央部で高く、端部Aおよび端部Bでは低くなる。また後述する図8も同様である。また、端部Aおよび端部Bで受骸される赤熱コークスは、炭化室の両端に存在して乾留処理されたため、中央部の赤熱コークスと比べ、温度は低くなる。従って、端部Aおよび端部Bでの必要な散水量は、中央部と比べ少なくなる。
【0034】
消火水12が貯留されたヘッドタンク11と、ヘッドタンク11から延設された散水配管13と、散水配管13に設置されたバルブ14と、散水配管13から分岐した散水配管に取り付けたバルブ14−4〜14−6と、さらに分岐した散水配管先端に取り付けられた散水ノズル15とを備えている。バルブ14−4〜14−6により、端部A、端部B及び中央部の散水量を調整する。各々の場所への散水量をバルブ14-4、14-5および14-6の「開」の状態で長時間おけば、その場所への散水量は多くなる。例えば、赤熱コークス3が少ない両端への散水は、バルブ14−4および14−6を開いている時間を、バルブ14-5よりも短くすればよい。
【0035】
本発明においては、端部Aおよび端部Bへ散水される消火水の量は、中央部の0.4以上0.8以下とすることにより、ワーフに払い出されるコークスの温度が均一化され、コークス搭載ボックスにある赤熱コークスの温度や層高分布を測定しなくても、20分以内の乾燥空冷処理で、水分が5質量%以下、ワーフ後段のベルト焼損の懸念がないコークスが得られる。
【0036】
端部Aおよび端部Bへ散水される消火水の量が、中央部の0.4未満となると、中央部のみが過剰に冷却されるか、端部Aおよび端部Bの冷却が不十分となる。端部Aおよび端部Bへ散水される消火水の量が、中央部の0.8を超えると、中央部への散水が不足、または端部Aおよび端部Bへの散水が過剰となることが懸念される。このため、高炉に搬送されるコークスの水分を、安定的に5質量%以下とすることが困難となり、高炉操業の不安定化の原因となる。または、搬送設備耐熱温度よりも温度の高いコークスが、後段の搬送設備に払い出される可能性が高くなる。
端部と中央部との長さの比率は、端部A/中央部比は0.6〜1.0、端部B/中央部比は0.6〜1.0程度とする。
【0037】
(コークス搭載ボックス幅方向の温度均一化)
図5は、消火貨車4が消火設備7に引き込まれた状態を、消火貨車の進行方向(前後方向)から見たものである。消火貨車4に備えられたコークス搭載ボックス5の底板19は、消火貨車4の幅方向に所定の角度αで傾斜し、その上に赤熱コークス3が積載されている。赤熱コークス3を消火するための散水配管はコークス搭載ボックス5の上方に設置されている。消火設備7は、消火水12が貯留されたヘッドタンク11と、ヘッドタンク11から延設された散水配管13と、散水配管13に設置されたバルブ14と、散水配管13から分岐した散水配管に取り付けたバルブ14−1〜14−3と、さらに分岐した散水配管先端に取り付けられた散水ノズル15とを備えている。散水配管はコークス搭載ボックス5の幅方向に分岐され、各々の場所への散水量をバルブ14−1、14−2および14−3の開閉により制御する。
【0038】
通常、散水ノズル15は、コークス搭載ボックス5の幅方向に複数個、コークス搭載ボックス5の進行方向に複数列配置されている。赤熱コークス3を搭載したコークス搭載ボックス5が消火設備7に引き込まれると、バルブ14が開き、ヘッドタンク11内の消火水12が、散水配管13を経由して、散水ノズル15から、赤熱コークス3の上面に散水される。
【0039】
例えば、コークス搭載ボックス5の底板19の上部に赤熱コークスが多く存在する場合、バルブ14−3のみを早く閉めて散水を停止し、バルブ14−1および14−2は「開」のままとすることも可能である。これにより、底板の下端または中間位置にあるコークスへの過剰な散水を抑制するとともに、上部にあるコークスを火残りがない状態まで確実に消火できる。コークス搭載ボックス5の底板19の下端付近にある赤熱コークス3の消火は、その場所よりも高い位置に散水された消火水12が、コークス搭載ボックス5の底板に沿って下側に流れ、下端付近にある赤熱コークスを水没させて消火することも考慮すべきである。この場所より高い位置への散水と比べ、散水量を少なくしないと、過剰冷却されることも考慮すべきである。
【0040】
図6に示す端部Aおよび端部Bでは、コークス搭載ボックス5の傾斜された底板19の下端付近への散水は、それよりも高い位置への散水と比べ少なくすべきである。場合によっては行わないことが好ましい。これは、図5に示す傾斜した底板19の上方部分に散水された消火水12が、コークス搭載ボックス5の底板19に沿って下側に流れ、下端付近にある赤熱コークスを水没させる等して消火および冷却するためである。このように、上方部分に散水された消火水12によっても冷却されている。このため、端部Aおよび端部Bに相当するコークス搭載ボックス5の底板19下端部に散水を行うと、この部分の冷却が過剰となり、コークス水分が高くなることが懸念される。
【0041】
したがって、コークス搭載ボックスの幅方向全長を1としたとき、前記端部Aおよび端部Bにおける該コークス搭載ボックス幅方向への散水を、該コークス搭載ボックスの傾斜した底板の上端を起点として、0.0以上0.8以下の範囲のみに行うことが好ましい。
中央部でも同様に、下端付近にある赤熱コークス3は上方から下面に流れ落ちる消火水12により冷却される。しかし、中央部では端部Aおよび端部Bと比べ赤熱コークスの量が多く、コークス温度が高いため、上方から流れ落ちてくる消火水だけでは、冷却は不十分である。そのため、中央部においては下端付近への散水は必要となる。
【0042】
(炭化室内温度を基にした散水量調整)
通常操業においては、散水流量は一定とすることが好ましい。散水流量変更の操作が複雑となるためである。しかし、コークス炉でのトラブル等により乾留時間が、通常よりも長くなることがある。その際、コークス搭載ボックスに受骸される赤熱コークスの温度は変化する。それに応じて散水量を変えるべきである。
赤熱コークスの温度は、特許文献4に記載するように実計測することが望ましいが、前述したようにコークス温度分布の測定は容易でない。本発明では、図4に示すプッシャーラム21の先端に常設され、炭化室内の温度を計測する温度センサー22による計測値が、散水量を適正化するためのデータとして使用することができる。
【0043】
<第2の実施の態様>
本発明の第2の実施の態様は、コークス搭載ボックスに受骸された赤熱コークスに向けて、コークス搭載ボックスの傾斜した底板の下端の直上、またはその近傍に、2段以上4段以下の異なる高さに配置された散水配管より、斜め下方向に消火水を散水する態様である。
【0044】
本実施の態様の散水を図7および図8に示す。
図7は、消火設備7に消火貨車4が引き込まれた状態を、消火貨車の進行方向(前後方向)から見たものである。
図8は、消火貨車の進行方向(前後方向)に対して垂直位置から見たものである。
【0045】
赤熱コークス3への散水は、図7および図8に示すようにコークス搭載ボックス5の斜め上方に、配置された複数のパイプ型の散水配管17−1、17−2および17−3から行う。散水配管17−1〜17−3には、図8に示すように、コークス搭載ボックス5の進行方向(前後方向)に対して、複数の散水孔18が設けられ、斜め下方の赤熱コークス3に向けて消火水12が散水される。
【0046】
従来の消火方法では、図4に示すように、ガイド車2の一部は、コークス搭載ボックス5の上に位置し、その全面を覆っているため、ガイド車2が消火設備7内を通過する場合、消火室および散水配管と干渉する。そのため、消火設備7の設置場所は、複数の炭化室からなるコークス炉の端に限定されていた。即ち、図5のように、直上から散水する場合、散水ノズル15を含む散水配管とバルブ14−1〜14−3が、ガイド車2の走行を阻害する。また、消火室の側壁(3面)が、ガイド車2の集塵フードの走行を妨げる。このため、消火設備をコークス炉団の中央に設置することは不可能であった。
【0047】
そのため、消火設備7から離れた場所に位置する炭化室から赤熱コークス3が受骸された場合、消火設備7までの走行距離および走行時間が長くなり、押し出し作業、押し出し窯から消火設備への移動、赤熱コークスの消火、消火コークスのワーフへの払い出しといった一連の作業にかかる時間が長くなり、高炉操業に必要なコークスの供給ができない。押し出し窯から消火設備までの移動中の赤熱コークスの表面が燃焼・焼失し、コークス歩留りが低下するといった問題もあった。また、消火貨車およびコークス搭載バケットの走行距離が長くなるので、走行のための燃料費が高くなる。更に、コークス炉は老朽化した設備が多く、消火貨車およびコークス搭載バケットが走行する軌条6で異常が発生した場合、消火貨車の走行が完全に不可能となることがある。
【0048】
これに対し、本実施態様の図7のような斜め上方からの散水であれば、図5図6に示す直上からの散水と比べ、散水配管の設置スペースは縮小できる。図7に示す方式において、消火中に消火貨車から蒸気や粉塵の外への飛散が激しい場合、消火時に、消火室の側壁に垂れ幕を垂らし、蒸気や粉塵の外部への飛散を防止できる構造とすればよい。消火室の側壁(3面)が、ガイド車2の集塵フードの走行を妨げることに対しては、ガイド車2の集塵フードが走行できるように消火室の側壁(3面)を開放タイプとし、消火時に、垂れ幕により、蒸気および粉塵の飛散を防止できる構造とすればよい。消火設備7をコークス炉の中間部付近に設置することで、消火設備7までの走行距離および走行時間を短くでき、コークス歩留りの低下を防止することができる。
【0049】
散水配管17は、散水配管の開孔位置が、コークス搭載ボックス5の底板19下端側の端部直上、または、底板19下端側の端部直上よりも、0〜1m、炭化室1のある方向またはその逆方向にずらした位置に配置する。これにより、消火設備7をコークス炉の中間部に設置しても、ガイド車の走行が干渉されなくなる。コークス搭載ボックス5の上端部から散水配管17−1〜17−3までの高さ距離h、hおよびhは、3〜7m程度の範囲内とする。散水配管は2段以上設置することにより、コークス搭載ボックス幅方向の広範囲に散水できる。但し、4段よりも多くなると、広いスペースが必要となる。また、3段設置すれば、十分、広い範囲に散水できることから、4段より多くするメリットはない。
【0050】
しかし、斜め上方からの散水においては、消火後コークスの温度ばらつきが大きくなるという問題がある。このため、水分を低くしようとすると、温度が高いままのコークスが発生し、ワーフ後段の設備焼損を抑制しようとすると、水分の高いコークスとなった。この問題を、以下に記載する手段により解決し、水分が5質量%以下のコークスを、ワーフ後段の設備焼損をさせることなく、ワーフでの乾燥空冷処理時間を20分以内で、安定的に製造できるようにした。
【0051】
斜め上方からの散水においては、散水配管17内の散水圧は10kPa以上40kPa以下とする。散水圧を10kPa以上とすることで、散水配管17から最も離れた場所に位置するコークス搭載ボックス5の底板上部にある赤熱コークスへも消火水12が届き、確実に消火を行うことができる。また、消火水12を勢いよく散水することで、赤熱コークス3の堆積層が崩され、下層部にも消火水が供給されやすくなり、消火が効率的となる。しかし、散水圧を大きくするためにはヘッドタンク11の位置を高くする必要がある。散水圧を極端に高くすることは現実的ではなく、40kPa以下の散水圧で問題なく消火ができるのであれば、ヘッドタンク11の位置を必要以上に高くする必要はない。
【0052】
散水圧力を監視するための圧力センサーは、図8に示すように散水配管の端に常設すればよい。必要であれば両端に設置してもよい。これにより、常時、散水状況を監視することができる。散水圧力が低下した場合、散水配管内の清掃を行い、消火後のコークス温度が、適正範囲となるようにする。散水状況を監視するための手段としては、流量計を設置することも考えられる。しかし、流量計設置のためのスペースが必要となる等、流量計測は容易でない。従って、圧力センサーを設置することが好ましい。
【0053】
また、斜め上方とした上で、赤熱コークスとの高さ距離を設けることにより、消火水の衝突により粒度の細かいコークスが飛散しても散水配管の孔を閉塞することはない。そのため、散水流量密度(1m当りの散水量)を大きくすることができる。散水流量密度を大きくすることによって、コークス搭載ボックスに堆積された赤熱コークスを、深さ方向に対して均一に冷却できる。さらに散水冷却時間を短縮する観点からも散水流量密度を大きくすることは有効である。散水流量密度は0.5t/分/m以上1.5t/分/m以下とする。1.5t/分/mよりも大きくすると、消火水の衝突による粒度の細かいコークスの飛散が激しくなる。これにより、コークス搭載ボックスより落下するコークスが多くなる等、周辺の環境を悪化させる。
【0054】
また、斜め上からの散水においても、直上からの散水と同様に、コークス搭載ボックス5内の赤熱コークス3の層高レベルを考慮して、散水量を調整する必要がある。図8に示すように、コークス搭載ボックス5の進行方向に対して複数の区画(端部A、中央部、端部B)に分け、端部Aおよび端部Bへの散水量を中央部への散水量の0.4以上0.8以下とする。また、端部Aおよび端部Bでは、コークス搭載ボックスの傾斜された底板の下端付近への散水は、それよりも高い位置への散水と比べ少なくすべきである。場合によっては行わないことが好ましいということは、斜め上からの散水であっても同じである。これを行うために、中央部、端部Aおよび端部Bの散水配管を、ルーズフランジを介して接続し、各々の部分で散水角度を調整できるようにした。ルーズフランジを使用することで、散水配管の設置角度の調整や変更を容易に行うことができる。また、設置角度の調整を厳密に行うこともできる。
【0055】
以下、本発明に係り、実施した試験例を述べる。
<ワーフ払い出し直後の消火コークス温度とコークス水分>
赤熱コークスを散水消火した後、ワーフに払い出されるコークスの温度を、赤外線サーモビューワにより測定した。計測間隔1/10秒で連続計測した。払い出し完了後も計測を継続した。払い出し完了直後に、ワーフ内の複数箇所よりコークスを採取して、その水分を測定した。更に、10分、20分および30分後にも同じ場所からコークスを採取して水分を測定した。表1は試験条件および計測結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
(試験例1−1)
試験例1−1は、ワーフ払い出し直後のコークス温度が54℃の場所からコークスを採取し、その水分変化を計測した。払い出し直後の水分は14.9質量%であった。その後、30分間、乾燥空冷処理を継続し、5分、10分、20分および30分後にも同じ場所からコークスを採取して水分を計測した。しかし、表1および図1に示したように乾燥空冷処理中、水分低下を確認できなかった。
【0058】
(試験例1−2)
試験例1−2は、ワーフ払い出し直後のコークス温度が62℃の場所からコークスを採取し、その水分変化を計測した。払い出し直後の水分は13.8質量%であったが、その
後も乾燥空冷処理を継続したところ、表1および図1に示したように水分は徐々に低下して、20分後には4.7質量%まで低下した。即ち、ワーフ払い出し直後の温度を62℃
以上とすれば、ワーフ乾燥空冷による水分低減を実現できる。
【0059】
(試験例1−3)
試験例1-3は、ワーフ払い出し直後のコークス温度が75℃の場所からコークスを採
取し、その水分変化を計測した。払い出し直後の水分は9.7質量%であったが、表1および図1に示したように10分の乾燥空冷後は4.1質量%、20分後で3.3質量%まで低下した。
【0060】
(試験例1−4)
試験例1−4は、ワーフ払い出し直後のコークス温度が120℃の場所からコークスを採取し、その水分変化を計測した。当然ではあるが、払い出し直後から水分は2.7質量
%と低かった。表1に示すように乾燥空冷処理によって水分はさらに減少した。しかし、ワーフに払い出される全てのコークスを120℃以上とすることは極めて困難である。この温度を高く維持する場合、コークス全体の温度が上昇し、最大温度も高くなる。この場合、ワーフ乾燥空冷中にコークス温度が十分に下がらず、高炉搬送用ベルトを焼損させてしまうことが懸念される。
【0061】
図1に、ワーフでの乾燥空冷処理時間とコークス水分の関係を示す。上記表1の試験例1−1〜試験例1−3で得られた測定値を図示したものである。凡例で示す温度は、赤熱コークスを湿式消火した後、ワーフに払い出し、その直後に赤外線サーモビューワにより測定した値(初期温度)である。ワーフでの乾燥空冷処理中、特許文献3に記載されているような復熱はなかった。
試験例1-2および試験例1-3の結果から、ワーフに払い出されるコークスの温度が100℃未満でも、ワーフでの乾燥空冷により水分が減少することが分かった。そして、ワーフに払い出されるコークスの温度が60℃以上であれば、ワーフへの払い出し20分後には5質量%以下に低下することが分かった。乾燥空冷処理は一般的には30〜40分と言われているが、20分以内に短縮できれば、乾燥空冷処理に必要なワーフ面積を大幅に削減できる。
【0062】
一方、最小温度の管理値を高くした場合、コークスの温度が全体的に上昇してしまう。コークス搭載ボックスに受骸される赤熱コークスの量は、20トン程度以上と極めて多く、温度が均一となるように消火することは極めて困難である。そのため、最小温度の管理値を高くした場合、部分的に温度が過剰上昇して、乾燥空冷中に温度が下がり切らず、後段の高炉搬送用ベルトを焼損してしまうことが懸念される。したがって、最小温度の管理値は、80℃以下が好ましい。
【0063】
<乾燥空冷処理による温度変化の測定試験>
ワーフに払い出されたコークスの乾燥空冷処理によるコークスの温度変化を測定した。表2に測定結果を示す。図2に、表2で測定したコークスの乾燥空冷処理によるコークスの温度変化を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
(試験例2−1)
払い出し時の温度が338℃のコークスは、乾燥空冷処理により冷却され、10分後には227℃、20分後には172℃まで低下した。即ち、10分間で111℃、20分間では166℃の温度低下が確認された。後段の高炉への搬送設備の焼損を抑制する観点から、ワーフでの乾燥空冷期間中、コークスを、高炉への搬送設備の耐熱温度よりも低い温度に冷却することは必須である。本試験結果から、ワーフでの乾燥空冷処理時間を20分以内とするのであれば、ワーフに払い出されるコークスの最大温度は、搬送設備耐熱温度より超える範囲を165℃以下とすればよい。例えば、耐熱温度180℃の搬送設備を使用した場合、ワーフに払い出されるコークスの最大温度は345℃以下とすればよい。また、コークスの最大温度を291℃未満に抑えることができれば、乾燥空冷処理時間10分でも搬送設備の耐熱温度未満に消火コークスを冷却できる。
【0066】
<第2の実施の態様によるコークス消火試験>
図7は、第2の実施の態様において、消火設備7に消火貨車4が引き込まれた状態を、消火貨車の進行方向(前後方向)から見た図である。
コークス搭載ボックス5の幅wは5mで、1回当たりの赤熱コークス受骸量は25トンとした。コークス搭載ボックス5に搭載された赤熱コークス層高は、落下地点を頂点として、底板19の下端側に赤熱コークスが流れ込むような形状であった。コークス搭載ボックス5の底板19の傾斜角αは15°であった。散水配管17は、散水配管の開孔位置が、コークス搭載ボックス5の底板19下端側の端部直上となるようにして、高さ方向に3段配置した。コークス搭載ボックス5の上端部より、下段散水配管までの高さ距離h1は5m、中段散水配管までの高さ距離h2は5.7m、上段散水配管までの高さ距離h3は6.4mであった。散水配管17−1〜17−3には、散水孔18があり、各々の散水配管
から2方向に散水されるように、散水角度α1およびα2を調整した。
【0067】
消火水12は、上段の散水配管17−1の上方に設置されたヘッドタンク11から延設された散水配管13に配置されたバルブ14を開くことにより、赤熱コークス3に向けて散水され、設定された時間が経過したところでバルブ14を閉めることにより散水終了とした。
【0068】
図8は、コークス搭載ボックス5が消火設備7に引き込まれた状態を、消火貨車4の進行方向に対し垂直方向から見た図である。コークス搭載ボックス5の両端(端部Aおよび端部B)に搭載される赤熱コークスの層高は中央部と比べ低くなっていた。散水配管17−1〜17−3の長さは、コークス搭載ボックス5の長さと同じで、赤熱コークス3の存在範囲全体に消火水12が散水されるようにした。散水配管17は、端部A、中央部および端部Bの3つの区画に等分して、各々の区画で散水角度を調整できるようにした。3区画に分割された散水配管17は、ルーズフランジ20を介して接続することにより、各々の区画における散水角度の調整が容易に行えるようにした。散水配管17−1〜17−3の端には散水時の圧力を計測する圧力計を設置した。
【0069】
赤熱コークス3の消火完了後、コークス搭載ボックス5をワーフに移動させ、コークス搭載ボックス5の払い出しゲート16を開いて、消火したコークスをワーフに払い出しした。その際、赤外線サーモビューワにより、ワーフに払い出されるコークスの温度を連続で測定した。ワーフにおいては、10〜20分間の乾燥空冷処理が施され、その後、高炉への搬送設備に払い出しされた。ここでは、湿式消火したコークスのワーフへの払い出しが完了した直後から、コークスが搬送設備に排出開始されるまでの時間を乾燥空冷処理時間とした。搬送設備に払い出しされた直後、またはワーフ内からコークスを採取して、その水分を計測した。また、搬送設備の耐熱温度は180℃であった。
【0070】
試験結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
(試験例3−1)
試験例3-1ではコークス搭載ボックス5の幅方向のほぼ全体に散水を行うように散水
角度α1およびα2を調整した。図7に示すようにコークス搭載ボックス5の傾斜した底板19の上端を起点(ゼロ)として、コークス搭載ボックスの幅方向長さの全長(w)を1とした場合、赤熱コークス3の層高が最も高い位置は0.35付近に存在し、その位置
からコークス搭載ボックス5の底板19下端に向かって、なだらかに層高は低くなっていた。このような層高分布を考慮して、上段に位置する散水配管17-1からの散水は0.0〜0.2の範囲を、中段に位置する散水配管17-2からの散水は0.2〜0.6の範囲を、下段に位置する散水配管17-3からの散水は0.6〜0.9の範囲をねらい、散水配管の角度を調整した。散水中の配管内の圧力は、上段が5.3kPa、中段が11.0kPa、下段が17.5kPaであった。圧力より、上段、中段および下段からの散水量の比率は、0.234:0.337:0.429と推定され、下段の散水配管からの散水量が最も多いことが考えられる。
【0073】
図8に散水配管の散水孔を示す。散水孔18は、コークス搭載ボックス5の進行方向に沿って千鳥状に配置されている。端部A、中央部および端部Bにおける散水孔18の設置間隔は同じとなるようにして、端部A、中央部および端部Bへの散水量が均一となるようにした(1:1:1となるようにした)。この時のコークス搭載ボックス1m当りの散水流量(散水流量密度)は0.6t/分で、散水時間は78秒とした。トータル散水量は78tである。1m当り0.78tの消火水を散水した。
【0074】
図9に、コークス搭載ボックス5よりワーフに払い出す際の、払い出し開始直後、払い出し中期および払い出し後期のそれぞれのコークスの温度を示す(試験例3−1)。
払い出し初期においては、コークスは十分に消火され、50℃未満まで過剰冷却されたコークスも多かった。初期に払い出されるコークスは、コークス搭載ボックス5の底板19下端付近に存在している。この部分におけるコークスの存在量は少ないにも関わらず、測定された散水圧力より消火水12が最も多く散水されたことが考えられる。そのため、コークスが過剰に冷却された。
【0075】
一方、払い出し後期においては、コークス温度は初期と比べ高く、端部Aからは最大476℃のコークスが払い出しされた。赤熱コークス3の層高が最も高い部分への散水が不足していたことが原因と考えられる。このように冷却が不十分な箇所が存在したため、乾燥空冷処理を20分行った後でも、一部のコークスは高炉への搬送設備の耐熱温度よりも高い温度のままであった。そのため、20分の乾燥空冷処理では、高炉への搬送設備に払い出すことができなかった。また、20分後にワーフ内の2箇所よりコークスを採取して水分を測定したが、14.4質量%および13.0質量%と高かった。払い出し後期のコークス温度が高くなってしまった理由としては、上段の散水配管17-1の散水圧力が低かったことも考えられる。散水範囲としては、コークス搭載ボックス5の底板19の上端付近をねらっているが、散水圧力が低く、消火水12が十分に到達していなかったことも考えられる。上段の散水配管17−1からの散水は、中段の散水配管17−2からの散水の流れに乗せることで、底板19の上端付近に散水することが可能となった。しかし、十分でなかったことが考えられる。
【0076】
(試験例3−2)
試験例3−1においては、コークス搭載ボックス5の底板19の上端側への散水は不足、コークス搭載ボックス5の底板の下端側への散水は過剰であった。そこで、試験例3−2では、下段の散水配管17−3および中段の散水配管17−2の散水角度を試験例3−1よりも上向きとし、初期に払い出されるコークス(底板の下端付近のコークス)が過剰に冷却されないようにするとともに、赤熱コークス3の層高が最も高い箇所近傍への散水を強化した。上段に位置する散水配管17-1からは0〜0.2の範囲に、中段に位置する散水配管17−2からは0.2〜0.4の範囲に、下段に位置する散水配管17−3からは0.4〜0.7の範囲となるように散水配管の角度を調整した。散水中の配管内圧力は、上段が5.3kPa、中段が11.0kPa、下段が17.5kPaであった。散水圧より、上段、中段および下段からの散水量の比率は、0.234、0.337、0.429と推定される。コークス搭載ボックス1m当りの散水流量(散水流量密度)は0.6t/分で、散水時間は78秒とした。トータル散水量は78tとした。1m当り0.78tの消火水を散水した。端部A、中央部および端部Bへの散水量の比率は1:1:1とした。
【0077】
図10に、コークス搭載ボックス5よりワーフに払い出す際の、払い出し開始直後、払い出し中期および払い出し後期のそれぞれのコークスの温度を示す(試験例3−2)。
初期の段階で、中央部より払い出されるコークスの温度が高かった。最大温度は379℃と、防災上、問題である。また、コークス搭載ボックス5の両端(端部Aおよび端部B)から払い出されるコークスの温度は、払い出し初期、中期および後期に関係なく60℃未満のものが多く存在していた。コークス水分を高くする原因と考えられる。
【0078】
試験例3−2では、0.7〜1.0の範囲(コークス搭載ボックスの底板下端付近)への散水は行っていない。即ち、初期にワーフに払い出されるコークスには散水していない。それにもかかわらず、払い出し初期の端部Aおよび端部Bからは、過剰に冷却されたコークスが払い出された。これは、底板19の上部および中段付近となる0〜0.7の範囲に散水された消火水12が、コークス搭載ボックス5の底板に沿って下側に流れ、下端付近(0.7〜1.0)にある赤熱コークスを水没させる等して、消火および冷却したためと考えられる。中央部でも同様に、下端付近(0.7〜1.0)にある赤熱コークスが、その上方から流れてきた消火水12により冷却されていることが考えられる。しかし、端部Aおよび端部Bと比べ、赤熱コークスの量が多いため、十分な冷却とならず、温度の高いままのコークスが払い出しされたと考えられる。
【0079】
このように試験例3-2でも、試験例3−1と同様にコークスが過剰に冷却される箇所
と冷却が不十分な箇所が存在した。冷却が不十分な箇所が存在したため、乾燥空冷処理を20分行った後でも、一部のコークスは高炉への搬送設備の耐熱温度よりも高い温度のままであった。そのため、20分の乾燥空冷処理では、高炉への搬送設備に払い出すことができなかった。試験例3-1と同様に、20分後にワーフ内の2箇所よりコークスを採取
して水分を測定したが、8.7質量%および7.8質量%といずれも5質量%よりも高かった。
【0080】
(発明例3−1)
発明例3−1では、端部Aおよび端部Bの散水孔の数を減らしている。それにともない、散水圧は全体的に高くなった。そのため、散水配管の向きは全体的に下向きとした。その上で、以下のような試験を行った。
図11に、コークス搭載ボックス5よりワーフに払い出す際の、払い出し開始直後、払い出し中期および払い出し後期のそれぞれのコークスの温度を示す(発明例3−1)。
発明例3−1では、初期の段階において、中央部より払い出されるコークスの冷却を強化するため、下段の散水配管17−3においては、中央部に位置する散水孔のみを試験例3-2と比べ下向きとした。即ち、中央部のみコークス搭載ボックス5の底板19下端付
近に散水されるようにした。一方、端部Aおよび端部Bに相当する部分の散水角度は、試験例3-2と同じとした。
【0081】
図7に示すようにコークス搭載ボックス5の傾斜した底板19の上端を起点(ゼロ)として、コークス搭載ボックス5の幅方向長さの全長(w)を1とした場合、消火水12の落下位置は、上段の散水配管17−1からの散水は0.0〜0.2の範囲に、中段の散水配管17-2からの散水は端部Aおよび端部Bは0.2〜0.4とし、中央部は0.2〜0.5の範囲をねらった。下段の散水配管17−3においては、端部Aおよび端部Bからの散水は0.4〜0.7の範囲とし、中央部からの散水は0.5〜0.8の範囲をねらった。
【0082】
また、試験例3-2では端部Aおよび端部Bから払い出されるコークスの温度が低かっ
たことから、端部Aおよび端部Bへの散水が、中央部と比べ少なくなるように散水孔18の数を減らした。端部Aおよび端部Bへの散水量は、中央部の3/5倍となるようにした
端部Aおよび端部Bの散水孔数を減らすことにより、散水圧力は試験例3−1および3−2と比べ増加した。散水時の圧力は、上段が11.1kPa、中段が17.9kPa、下段が25kPaであった。散水圧より、上段、中段および下段からの散水量の比率は、上段/中段/下段=26/33/41と推定される。コークス搭載ボックス1m当りの散水流量(散水流量密度)は0.6t/分で、散水時間は78秒とした。トータル散水量は78tとなる。従って、1m当り0.78tの消火水を散水した。
【0083】
ワーフに払い出されるコークス温度は、表3および図11に示すとおりである。図11はコークス搭載ボックス5よりワーフに払い出されるコークスの温度を、払い出し開始直後、払い出し中期および払い出し後期に分けて、消火貨車の進行方向に対して示したグラフである。消火貨車の進行方向に対する温度分布は試験例3-1および3-2と比べて均一化された。払い出されるコークスの温度は、最小温度が63℃と、ワーフでの乾燥空冷中に水分を減少できる温度であった。一方、最大温度は162℃と、後段の高炉搬送コンベアの耐熱温度(180℃)より超える範囲が165℃以下の範囲であった。平均温度は97℃であった。乾燥空冷処理時間10分で、高炉搬送ベルトに払い出し、コークスを採取して、その水分を測定したところ、4.9質量%および2.1質量%と低位であった。コークスの最小温度は63℃ではあるが、平均温度は97℃と高く、しかも温度が均一化されていることもあり、10分の乾燥空冷処理でも水分5質量%以下のコークスを得ることができたと考えられる。
【0084】
(ワーフに払い出されるコークスの温度分布)
図12図14は試験例3-1、3-2および発明例3-1において、ワーフに払い出されるコークスの温度とその累積比率を示す。60℃以下のコークスが占める割合は、試験例3−1では36%、試験例3−2では9%、発明例3−1では0%であった。また、発明例3−1では、最大温度は162℃であるのに対し、試験例3−1や試験例3−2では、300℃以上のコークスも多かった。このため、表3に示すように試験例3−2ではワーフに払い出されるコークスの平均温度は107℃と、発明例3-1と比べ高かった。それにも関わらず、発明例3−1で最もコークス水分が低くなった理由として、最小温度が他と比べ高かったことが挙げられる。最小温度は63℃であったため、図1に示す結果より、ワーフに払い出された全てのコークスが、乾燥空冷処理中に水分を蒸発したと考えられる。また、ワーフに払い出されるコークスの温度が100℃を超えると、払い出された時点で、極めて低い水分となっていることが考えられる。従って、100℃を超えた範囲では、更に温度を高くしても、水分に大きな違いはないと思われる。例えば、120℃と比べ150℃のコークスは、水分は低くなると考えられるが、120℃でも十分に低くなっていると考えられることから、150℃と大きな違いはないと考えられる。それよりも100℃よりも低い温度を少なくすべきである。特に、乾燥空冷処理による水分低減が期待できない60℃未満のコークスの比率を減らすことが重要である。従って、発明例3−1のように、最小温度を60℃以上とすることが有効である。
【0085】
発明例3−1は、図7および図8に示す斜め上方からの散水結果であるが、図5 〜図
6に示す直上からの散水においても同様に、端部Aおよび端部Bでは、コークス搭載ボックス5の底板19の下端付近への散水は、それよりも高い位置への散水と比べ少なくすべきである。場合によっては不要である。これは、上述したように上端に散水された消火水12が、コークス搭載ボックス5の底板に沿って下側に流れ、下端付近(0.8〜1.0)にある赤熱コークスを水没させて消火および冷却するためと考えている。この付近への散水を行わないことにより、コークスが過剰冷却されることが抑制される。中央部でも同様に、下端付近にある赤熱コークスは上端から下面に流れ落ちてくる消火水12により冷却されている。しかし、端部Aおよび端部Bと比べ赤熱コークスの量が多く、コークス温度が高いため、十分には冷却されない。そのため、中央部においては下端付近への散水は必要となる。端部Aおよび端部Bに相当する散水配管から、コークス搭載ボックス底板の下端付近に向けて散水を行わない場合、散水中にコークス搭載ボックスを1〜2m程度、前進または後進させてもよい。これにより、コークス搭載ボックスの端部を、散水配管の中央部付近に移動させ、一時的に、コークス搭載ボックスの端部Aおよび端部Bの下端付近に一時的に散水するだけとしてもよい。
【0086】
また、端部Aおよび端部Bにおける赤熱コークスの層高は、中央部と比べ低くなっている。また、赤熱コークスの温度も低い。従って、端部Aおよび端部Bへの散水量は中央部の0.4以上0.8 以下とすることにより、消火後のコークス温度は均一化され、水分の
低いコークスが得られる。
【0087】
消火設備の設置場所を炉団の中央とすることのメリットを確認するため、赤熱コークスを消火するために消火貨車4が、消火設備7を往復する時間をシミュレーションにより求めた。1日の出銑量が10,000tの高炉にコークスを供給することとし、高炉での1日当りに必要なコークス量は3,200tとした。炭化室1窯で生産されるコークスを20tとすると、1日当りの押し出し回数は160回となる。
ケース1は、図15に示すように炉団の端に消火設備を設置することを想定した。最も近いNo.1炭化室から消火設備までの移動距離は片道20mとした。隣接するNo.2炭化室との距離は1.5m、即ち、No.2炭化室から消火設備までの移動距離は21.5m、最も離れたNo.160炭化室と消火設備の距離は258.5mとなる。160基の炭化室から押し出しを完了するまでに消火貨車が走行する距離はトータルで44.6km(往復)となる。消火貨車およびコークス搭載ボックスの走行速度を100m/分(6km/h)とすると、走行時間はトータル7.4時間となる。
ケース2は、図16に示すように炉団の中央、即ち、No.80炭化室とNo.81炭化室の間に消火設備を設置することを想定した。最も消火設備に近いNo.80炭化室およびNo.81炭化室から消火設備までの移動距離は20mとした。隣接する炭化室との距離は1.5mで、消火設備から最も遠い位置にあるNo.1炭化室または160炭化室までの距離は、各々、138.5mとなる。消火貨車およびコークス搭載ボックスの移動距離はトータル25.4km(往復)となり、ケース1よりも19.2km短くできる。消火貨車およびコークス搭載ボックスの走行速度を100m/分(6km/h)とすると、1日のトータル走行時間は4.2時間で、ケース1と比べ3.2時間の短縮が可能となる。
消火貨車4が、赤熱コークスを搭載して走行するのは、炭化室1から消火設備7に移動する走行時間の1/2であるから、1.6時間の短縮となる。空気に触れ燃焼する赤熱コークスの量を、43%減少させることが可能となる。
表4にケース1(図15)とケース2(図16)の比較をまとめた。
【0088】
【表4】
【0089】
その他にも、消火設備を炉団の中央に設置するメリットとして、以下のことが挙げられる。ケース2では、ケース1と比べ消火貨車およびコークス搭載ボックスの走行距離を、1日当り19.2km短縮できる。そのため、消火貨車の燃料費を節減できる。
また、コークス炉は老朽化した設備が多く、消火貨車およびコークス搭載バケットが走行する軌条6で異常が発生することもある。例えば、図15のAで異常があった場合、ケース1では、消火貨車およびコークス搭載ボックスの走行が全く不可能となる。一方、ケース2の場合、図16のBの場所で異常があったとしても、ワーフ8−1〜8−3を消火設備の両側に配置しておけば、No.1〜80窯から押し出しを行い、赤熱コークスを消火して、ワーフに払い出すことは可能である。その間に、Bの場所で発生した異常に対処することも可能である。このような場合、ケース1では、両端に消火設備を設置することで対処することも可能だが、消火設備を2基設置しないとならないので経済的でない。また、設置のための面積も考慮しないとならない。
【0090】
また、高炉での1日当りに必要なコークス量を3、200t、炭化室1窯で生産されるコークスを20tとすると、1日当りの押し出し回数は160回となる。そのためには、1サイクル(炉蓋取り外し及び装着、格子装着、赤熱コークス受骸、消火設備への移動、散水消火作業、ワーフへの払い出し、炭化室への移動)の平均は9分以内とする必要があり、消火貨車が炭化室と消火設備を往復するための移動時間は、極力、短くすることが望まれる。それを実現するために、消火貨車の走行速度を上げることも有効であるが、単純に、走行距離を短くできれば更に有効である。また、何らかのトラブルが発生した場合、その間、赤熱コークスの押し出し作業ができなくなることもある。トラブル復旧後に押し出しを再開した場合でも、サイクル時間の短縮が望まれる。トラブルにより、押し出しが停止した場合でも、炭化室内では乾留は進行する。そのため、押し出しを再開した時点では、多くの炭化室で乾留が完了した状態となることもある。その場合、押し出し作業におけるサイクル時間が、コークス生産性に影響を与えることとなる。コークス生産性を上げるためには、サイクル時間を短縮できるケース2が、ケース1と比べ有利である。また、乾留時間が必要以上に長くなると、それが原因となりトラブルが発生しやすくなる。従って、乾留時間が長くなってしまった後の押し出しは早急に行うべきであり、消火貨車の移動時間を短縮できるケース2は有効である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
消火設備を炉団中央に設置し、コークス窯から押し出された赤熱コークスが、消火貨車により消火設備まで移動させる時間を短縮でき、高炉での必要なコークスを確実に供給できる。また、押し出し窯から消火設備までの移動中の赤熱コークスの燃焼焼失による歩留り低下の防止に利用できる。
【符号の説明】
【0092】
1:炭化室
2:ガイド車
3:赤熱コークス
4:消火貨車
5:コークス搭載ボックス
6:軌条
7:消火設備
8;ワーフ
9:コークス
10:搬送設備
11:ヘッドタンク
12:消火水
13:散水配管
14:バルブ
14-1:バルブ
14-2:バルブ
14-3:バルブ
15:散水ノズル
16:払い出しゲート
17-1:散水配管(上段)
17-2:散水配管(中段)
17-3:散水配管(下段)
18:散水孔
19:底板
20:ルーズフランジ
21:プッシャーラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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