特許第6753498号(P6753498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6753498
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】エミッタ支持構造及び電界放射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/06 20060101AFI20200831BHJP
   H01J 1/304 20060101ALI20200831BHJP
   H01J 1/94 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   H01J35/06 E
   H01J1/304
   H01J1/94
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-169936(P2019-169936)
(22)【出願日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年5月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】越智 隼人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 怜那
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6135827(JP,B2)
【文献】 特開2005−074472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/06
H01J 1/30
H01J 1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界放射装置のエミッタ支持構造であって、
電界放射装置の真空室の両端方向に移動自在に配置され、当該電界放射装置のエミッタを支持する支持部と、
前記電界放射装置のターゲットと対向する前記支持部の一端部にて前記エミッタが嵌挿される突起部と
を有し、
前記突起部の周壁部には、切込みが当該周壁部の高さ方向に形成され、
前記突起部の外側には、余剰ろう材逃し溝が前記周壁部に沿って形成されたこと
を特徴とするエミッタ支持構造。
【請求項2】
前記切込みは、前記周壁部の高さと同等の深さで形成されること
を特徴とする請求項1に記載のエミッタ支持構造。
【請求項3】
前記切込みは、前記周壁部の径方向に沿って複数形成されること
を特徴とする請求項1または2に記載のエミッタ支持構造。
【請求項4】
前記支持部のエミッタ配置部には、前記突起部の径方向に沿うガス抜き溝が前記余剰ろう材逃し溝と連通して形成され、
前記ガス抜き溝の深さは、前記余剰ろう材逃し溝の深さよりも小さいこと
を特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のエミッタ支持構造。
【請求項5】
真空室が形成された筒状の絶縁体からなる真空容器と、
前記真空室の一端側にて当該真空室の他端側と対向する電子発生部を備えたエミッタと、
前記エミッタの電子発生部の外周側に配置されるガード電極と、
前記真空室の他端側にて前記エミッタの電子発生部と対向するターゲットと、
前記真空室の両端方向に移動自在に配置され、前記エミッタを支持する支持部と、
前記ターゲットと対向する前記支持部の一端部にて前記エミッタが嵌挿される突起部と
を有し、
前記突起部の周壁部には、切込みが当該周壁部の高さ方向に形成され、
前記突起部の外側には、余剰ろう材逃し溝が前記周壁部に沿って形成されたこと
を特徴とする電界放射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線装置,電子管,照明装置等の種々の機器に適用されるエミッタ支持体構造及び電界放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界放射装置はX線装置、電子管、照明装置等の種々の機器に適用されている。電界放射装置は、真空容器の真空室において互いに対向した方向に位置(所定距離を隔てた位置)するエミッタ(炭素等の電子源)とターゲットとの間の電圧印加によるエミッタの電界放射(電子を発生させて放出)により、電子線を放出する(特許文献1)。そして、この電子線は前記ターゲットに衝突することで、所望の機能(例えばX線装置の場合はX線の外部放出による透視分解能)が発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6135827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電界放射装置においては、エミッタ支持部の操作によりエミッタの電子発生部とガード電極との両者を互いに離反した状態で、ガード電極に電圧が印加される。これにより、真空室内の少なくともガード電極が改質処理され、電界放射装置において所望の耐電圧が得られる。
【0005】
電界放射装置は真空ろう付けにより作製されるが、ろう材量や支持体の表面状態、真空炉中の状態等、種々の条件のばらつきが重なった場合、ろう材が余分に濡れ広がることがある。この場合、電界放射装置はこの問題を考慮していないため、濡れ広がった余剰ろう材が支持体の外周部まで達してガード電極と接合され、エミッタを非放電位置から放電位置へ押し込めず、電界放射装置としての機能を失うことになる。また、支持体とエミッタの接触面の隙間が小さく、空気等のガスが抜けきれず残留し、接合不良等を生じさせるおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の事情を鑑み、電界放射装置の真空ろう付け過程で余剰ろう材とガード電極との接合を回避することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の一態様は、電界放射装置のエミッタ支持構造であって、電界放射装置の真空室の両端方向に移動自在に配置され、当該電界放射装置のエミッタを支持する支持部と、前記電界放射装置のターゲットと対向する前記支持部の一端部にて前記エミッタが嵌挿される突起部とを有し、前記突起部の周壁部には、切込みが当該周壁部の高さ方向に形成され、前記突起部の外側には、余剰ろう材逃し溝が前記周壁部に沿って形成される。
【0008】
本発明の一態様は、前記エミッタ支持構造において、前記切込みは、前記周壁部の高さと同等の深さで形成される。
【0009】
本発明の一態様は、前記エミッタ支持構造において、前記切込みは、前記周壁部の径方向に沿って複数形成される。
【0010】
本発明の一態様は、前記エミッタ支持構造において、前記支持部のエミッタ配置部には、前記突起部の径方向に沿うガス抜き溝が前記余剰ろう材逃し溝と連通して形成され、前記ガス抜き溝の深さは、前記余剰ろう材逃し溝の深さよりも小さい。
【0011】
本発明の一態様は、電界放射装置であって、真空室が形成された筒状の絶縁体からなる真空容器と、前記真空室の一端側にて当該真空室の他端側と対向する電子発生部を備えたエミッタと、前記エミッタの電子発生部の外周側に配置されるガード電極と、前記真空室の他端側にて前記エミッタの電子発生部と対向するターゲットと、前記真空室の両端方向に移動自在に配置され、前記エミッタを支持する支持部と、前記ターゲットと対向する前記支持部の一端部にて前記エミッタが嵌挿される突起部とを有し、前記突起部の周壁部には、切込みが当該周壁部の高さ方向に形成され、前記突起部の外側には、余剰ろう材逃し溝が前記周壁部に沿って形成される。
【発明の効果】
【0012】
以上の本発明によれば、電界放射装置の真空ろう付け過程で余剰ろう材とガード電極との接合を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1における電界放射装置のエミッタ支持構造の拡大断面図。
図2】実施形態1のエミッタ支持部の概略断面図。
図3図2のエミッタ支持部の概略平面図。
図4】本発明の実施形態2におけるエミッタ支持部の概略断面図。
図5図4のエミッタ支持部の概略平面図。
図6図5のA−A断面図。
図7】電界放射装置の一例を示した概略断面図。
図8】従来のエミッタ支持部の概略断面図。
図9図8のエミッタ支持部の概略平面図。
図10】エミッタが非放電位置にある状態の電界放射装置の概略説明図。
図11】エミッタが放電位置にある状態の電界放射装置の概略説明図。
図12】余剰ろう材の流れ込みが生じた従来のエミッタ支持構造の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0015】
[実施形態1]
図1に示された本発明の一態様のエミッタ支持構造1は、例えば、図7に示された電界放射装置10に適用される。電界放射装置10は、真空容器2、エミッタユニット3及びターゲットユニット4を備える。
【0016】
(真空容器2)
真空容器2は、真空室20が形成された筒状の絶縁体21からなる。絶縁体21は、例えばセラミック等の絶縁材料を用いて成り、エミッタユニット3とターゲットユニット4とを互いに絶縁し、内部に真空室20を形成できるものであれば、種々の形態を適用できる。例えば、直列に配置される円筒状の絶縁部材21a,21b間にグリッド電極22を介在させた状態で、当該両者を蝋付け等により互いに組み付けて構成される。グリッド電極22は、エミッタユニット3とターゲットユニット4との間に介在し、グリッド電極22を通過する電子線L1を適宜制御できるものであれば、種々の形態のものを適用できる。グリッド電極22は、例えば、真空室20の横断方向に延在して電子線L1が通過する通過孔23が形成された電極部24と、絶縁体21を貫通して電極部24に接続される引出端子25とを備える。
【0017】
(エミッタユニット3)
エミッタユニット3は、エミッタ31、エミッタ支持部32及びガード電極33を備える。エミッタ31は、ターゲットユニット4のターゲット41に対向する部位に電子発生部34を備える。電子発生部34は、電圧印加により電子を発生させ、電子線L1を放出する。エミッタ支持部32は、真空室20の両端方向に移動自在に配置され、電子発生部34をターゲット41に対向させてエミッタ31を支持する。エミッタ支持部32には、ベローズ35を介してエミッタ支持部32を操作する操作部36が接続される。ガード電極33は、ステンレス等の材料から成り、エミッタ31の電子発生部34の外周側に配置される。ガード電極33は、第一収容部37とこれと連通する第二収容部38とを有する。第一収容部37はエミッタ31及びエミッタ支持部32を収容する。第二収容部38はベローズ35及び操作部36を収容する。また、この第二収容部38は、フランジ部39を介して真空容器2の絶縁部材21bの開口縁部に固定される。
【0018】
また、ターゲット41と対向するエミッタ支持部32の一端部には、エミッタ31が嵌挿される筒状の突起部51が突設される。
【0019】
さらに、このエミッタ支持部32の一端部には、電界放射装置10の真空ろう付け過程での余剰ろう材50とガード電極33との接合の回避が図れる。すなわち、図2に示したように、突起部51の周壁部52において、切込み53が周壁部52の高さ方向に形成されている。
【0020】
切込み53は、周壁部52の高さと同等の深さで形成される。また、図3に示されたように切込み53は周壁部52の径方向に沿って複数形成されている。さらに、エミッタ支持部32の一端部には、余剰ろう材逃し溝54が突起部51の周壁部52に沿って形成されている。
【0021】
(ターゲットユニット4)
ターゲットユニット4は、図7に示したように、ターゲット41及びフランジ部42を備える。ターゲット41は、真空室20の他端側にてエミッタ31の電子発生部34に対向する。フランジ部42は真空容器2の絶縁部材21aの開口縁部に固定される。ターゲット41は、図示のように、エミッタ31の電子発生部34から放出された電子線L1が衝突し、X線L2等を放出できるものであれば、種々の形態を適用できる。このターゲット41は、エミッタ31の電子発生部34に対向する部位には、電子線L1に対して所定角度で傾斜する交差方向に延在した傾斜面40が形成されている。そして、この傾斜面40に電子線L1が衝突することにより、X線L2は、電子線L1の照射方向から折曲した方向(例えば図示の真空室20の横断面方向)に照射される。
【0022】
(本実施形態の作用効果)
電界放射装置10は、操作部36によるエミッタ支持部32の操作により電子発生部34とガード電極33とを互いに離反した状態で、ガード電極33に電圧が印加される。これにより、真空室20内の少なくともガード電極33を改質処理(例えば、ガード電極33の表面が溶解平滑化)できると共に、電界放射装置10において所望の耐電圧が得られる。
【0023】
一般的に電界放射装置は真空ろう付けにより作製されるが、ろう材量やエミッタの支持体の表面状態、真空炉内の状態等、種々の条件のばらつきが重なった場合、ろう材が余分に濡れ広がることがある。図8,9に例示の従来のエミッタ支持構造は、エミッタ31が嵌挿される突起部51のみが設けられた構造を成しているので、図12に示したように濡れ広がった余剰ろう材50がエミッタ支持部32の外周部まで達する。そして、余剰ろう材50がガード電極33と接合すると、エミッタ31を非放電位置(図10)から放電位置(図11)へ移行させることができなくなり、電界放射装置としての機能を失う(図12)。また、エミッタ支持部32とエミッタ31の接触面の隙間が小さく、空気等のガスが抜けきれず残留し、接合不良やエミッタの不要な傾きを生じさせるおそれがある。
【0024】
これに対し、図2,3に示したように、本実施形態のエミッタ支持部32は、突起部51の周壁部52において切込み53が形成され、さらに、突起部51に隣接して余剰ろう材逃し溝54が形成されている。したがって、図1に示したように真空ろう付けの過程で余剰ろう材50が切込み53を経由して余剰ろう材逃し溝54に移行する。
【0025】
よって、以上の切込み53及び余剰ろう材逃し溝54を有するエミッタ支持構造1によれば、余剰ろう材50が突起部51の外に漏れ出してもエミッタ支持部32の外部への拡散やガード電極33との接合が回避される(同図)。したがって、エミッタ31の電子発生部34とターゲット41との間の距離を任意に設定する電界放射装置10の機能を確保できる。また、切込み53が形成されることにより、エミッタ支持部32とエミッタ31の接触面の隙間にある空気等のガスが排出されるので、接触不良等を防ぐことができる。
【0026】
さらに、切込み53は、周壁部52の高さと同等の深さで形成されることで、切込み53から余剰ろう材逃し溝54への余剰ろう材50の移行がさらに一層効率的なものとなる。そして、切込み53が複数形成されることにより、前記ガスの排出や余剰ろう材50の移行の効果が高まる。
【0027】
[実施形態2]
真空ろう付け過程でエミッタ31とエミッタ支持部32の間のガス抜きが不十分であるとエミッタ31がエミッタ支持部32に対して傾斜配置されてしまった場合、所望の電流値が得られないことや放射した電子が収束しないおそれがある。
【0028】
そこで、図4〜6に示した実施形態2のエミッタ支持構造1は、余剰ろう材50のエミッタ支持部32の外周への広がりを防ぐことにより、エミッタ31の傾きの防止を図る。すなわち、本態様のエミッタ支持構造1は、エミッタ支持部32のエミッタ配置部30において、ガス抜き溝55がさらに形成されている。
【0029】
ガス抜き溝55は、突起部51の径方向に沿う一方で、余剰ろう材逃し溝54と連通して形成される。ガス抜き溝55の深さd1は、余剰ろう材逃し溝54の深さd2よりも小さく設定される。
【0030】
以上のようにエミッタ配置部30にガス抜き溝55が形成されることで、真空ろう付け過程でエミッタ支持部32とエミッタ配置部30との間に滞留したガスがガス抜き溝55を介して余剰ろう材逃し溝54に移行する。したがって、実施形態1の効果に加えて、エミッタ配置部30とエミッタ31との密着性が高まり、エミッタ31の傾斜配置による上記の弊害がさらに効果的に防止される。
【0031】
また、エミッタ配置部30とエミッタ31との間に使用するろう材は、円盤にエミッタ吸着用の穴を開けたリング状のものを適用すると、エミッタ配置部30とエミッタ31との密着性はさらに高まる。
【0032】
さらに、図6に示すように、ガス抜き溝55の深さd1は、余剰ろう材逃し溝54の深さd2よりも小さく設定されることにより、エミッタ配置部30にガス抜き溝55が形成されたことに因るろう材の不足を防止できる。
【符号の説明】
【0033】
1…エミッタ支持構造
2…真空容器、20…真空室
3…エミッタユニット、30…エミッタ配置部、31…エミッタ、32…エミッタ支持部、33…ガード電極
4…ターゲットユニット、41…ターゲット、42…フランジ部
10…電界放射装置
50…余剰ろう材、51…突起部、52…周壁部、53…切込み、54…余剰ろう材逃し溝、55…ガス抜き溝
【要約】
【課題】電界放射装置の真空ろう付け過程で余剰ろう材とガード電極との接合を回避する。
【解決手段】エミッタ支持構造1において、エミッタ支持部32は、電界放射装置の真空室20の両端方向に移動自在に配置され、電界放射装置のエミッタ31を支持する。エミッタ31が嵌挿される突起部51は、電界放射装置のターゲット41と対向するエミッタ支持部32の一端部に設けられる。突起部51の周壁部52には、切込み53が周壁部52の高さ方向に形成される、突起部51の外側には、余剰ろう材逃し溝54が周壁部52に沿って形成される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12