【実施例】
【0024】
図1において、10はこの発明の実施例1に係る加工材の排出装置(以下、排出装置)で、この排出装置10は、下金型11に対して上金型12が昇降することにより素材(例えば所定形状の鋼板材)aからワーク(加工材)Wをプレス成形するプレス機(プレス加工装置)Pに配備され、プレス加工により生じたワークWを排出する装置である。
【0025】
まず、プレス機Pの構成を詳細に説明する。
図1に示すように、プレス機Pは、矩形枠状の架台13に固定された下金型11と、下金型11の上方に上下動自在に配設された上金型12とを備えている。
上金型12は、図示しない駆動源により、所定の速度、所定のストロークで上下に駆動される。したがって、下金型11に載置された素材aは、上金型12の往復動によりワークWにプレス加工され、その一部がスクラップとなる。プレス加工されたワークWは、下金型11のX2側に配されたX1−X2方向に延びるシュート14を滑落して排出される。
【0026】
次に、
図1〜
図6を参照して、排出装置10を詳細に説明する。
図1および
図2に示すように、排出装置10は、プレス加工により生じたワークWを、シュート14を介して無端ベルト(無端周転体)15により受け、プレス機Pの外部に排出するベルトコンベア(無端コンベア、ワーク用無端コンベア)16と、上金型12のプレススライド12aに上端部が取り付けられたストライカ17と、上金型12の昇降に応じて、ストライカ17を介して、ベルトコンベア16の駆動ローラ(駆動軸体)18を回転させるラック・ピニオン式駆動手段19を有するコンベア駆動装置Aとを備えている。
【0027】
ベルトコンベア16は、ワークWの排出方向をX2方向として、下金型11のX2方向に配置されている。ベルトコンベア16は、X1−X2方向に離間して配置された駆動ローラ18と従動ローラ(従動軸体)20との間に、ワークWを受けるゴム製の無端ベルト15が、所定のテンションにより架け渡されたものである。これらのローラ18,20の長さ方向は、Y1−Y2方向に向けられている。
ストライカ17は、所定長さの円柱体で、その上端部がプレススライド12aのX2−Y2側のコーナー部分の下面に固定されている。
【0028】
次に、
図3〜
図6を参照して、コンベア駆動装置Aを詳細に説明する。
コンベア駆動装置Aは、主にラック・ピニオン式駆動手段19と、これを収納するケーシング21とからなる。
ラック・ピニオン式駆動手段19は、ストライカ17の押し下げ力が上端面に入力され、垂直に往復動する垂直ラック22と、ベルトコンベア16の駆動ローラ18に連結される出力軸23と、出力軸23に回転力を伝達可能に連結され、垂直ラック22に噛合し、垂直ラック22の垂直往復運動を出力軸23の回転運動に変換するピニオン24と、ピニオン24を一方向のみに回転させるカムクラッチ(ワンウェイクラッチ)25とを有している。
【0029】
ケーシング21は、駆動ローラ18のY2側の端付近に配された幅狭で縦長な矩形ボックスで、Y1側の半分を構成する第1ケース部26と、Y2側の半分を構成する第2ケース部27とを有している。これらは鋳鉄品である。
ケーシング21の内部空間の上部の中央部分には、Y1−Y2方向に延びる短尺な入力軸28が、各ケース部26,27に1つずつ配設された一対の上側ベアリング29によって回転自在に支持されている。入力軸28のY1側の端部には、内部空間に嵌入されたカムクラッチ25を介して大径ギヤ30が取り付けられている。カムクラッチ25は、垂直ラック22の下降時のピニオン24の回転力を大径ギヤ30に伝達するものの、垂直ラック22の上昇時のピニオン24の回転力は、この大径ギヤ30に伝達しない構成となっている。また、入力軸28の長さ方向の中間部にはカラー31が挿通され、入力軸28のY2側の端部にはピニオン24が固定されている。
【0030】
さらに、ケーシング21の内部空間の下部の中央部分には、ケーシング21の幅より長尺でY1−Y2方向に延びた出力軸23が、各ケース部26,27に配置された一対の下側ベアリング32により回転自在に支持されている。すなわち、第1ケース部26のY1側の端板の下部の中央部分と、第2ケース部27のY2側の端板の下部の中央部分とには一対の軸孔33が形成され、出力軸23の両端部は、これらの軸孔33から外方へ突出している。このうち、出力軸23のY1側の突出部分には、ジョイント34(
図10)を介
して、ベルトコンベア16の駆動ローラ18の回転軸35が連結されている。
さらにまた、出力軸23のY1側の端部付近には、大径ギヤ30に噛合する小径な出力ギヤ36が固定されている。垂直ラック22が下降することでピニオン24が回転し、その回転力がカムクラッチ25から大径ギヤ30に伝達される。大径ギヤ30が回転することで出力ギヤ36が回転し、これにより出力軸23、ジョイント34を介して駆動ローラ18の回転軸35が回転する(
図2)。
【0031】
第2ケース部27のX1側の端部には、第2ケース部27の上面と下面とを貫通した状態で、垂直ラック22を昇降させる円形のラック昇降孔37が形成されている。
第2ケース部27の上側のラック昇降孔37には、第2ケース部27の高さの約半分の長さを有した円筒状のラック昇降ガイド38の上端部付近が嵌入されている。ラック昇降ガイド38の上端部は大径化し、第2ケース部27の上面から突出している。また、ラック昇降ガイド38の下半分のX2側の部分は切欠され、開口部となっている。この開口部を通して、垂直ラック22とピニオン24とが噛合する。
ラック昇降ガイド38のうち、開口部より上方の部分には、垂直ラック22と略同一長さのコイルばね39の下端部が着脱自在に取り付けられている。
【0032】
また、第1ケース部26のX1側の下端部には、この第1ケース部26のボルト止め用の板片部41を残して、矩形状の切欠部40が形成されている。また、第2ケース部27のX2側の下端部には、この第2ケース部27をボルト止めするための別の板片部41を残し、矩形状の別の切欠部40が形成されている。これらの板片部41には、そのZ1−Z2方向の両端面を貫通してボルト孔42が配設されている。各ボルト孔42に挿入された図示しない2本のボルトにより、ケーシング21、ひいてはラック・ピニオン式駆動手段19がプレス機Pの架台13に据え付けられる。
【0033】
垂直ラック22は、丸棒のX2側の端部に、一定ピッチで多数の歯が形成された縦長な部材である。なお、丸棒に代えて長尺な板材でもよい。この垂直ラック22の上端には、厚肉で大径な円板のヘッド部43が固定されている。また、垂直ラック22の下端には、上側のラック昇降孔37からの垂直ラック22の飛び出しを防止する円板形のストッパ部材44が、ビスBにより着脱自在に固定されている。垂直ラック22は、ヘッド部43の下面にばね上端を当接した状態で、コイルばね39の内部空間に挿入されている。これにより、ストライカ17の押し下げ力で垂直ラック22が下降した場合でも、その力が解除されれば、コイルばね39のばね力により垂直ラック22は元の高さまで戻る。
カムクラッチ25は、図示しないものの、外輪、内輪、ローラおよびスプリングを備え、この外輪の内側にカム面を有するポケットが形成されたカム式のワンウェイクラッチである。
【0034】
図3〜
図6において、符号45は、第1ケース部26の上部一帯のY2側の面に形成された大径ギヤ収納部、符号46は、大径ギヤ30収納部の奥面の中央部に形成された上側ベアリング収納部、符号47は、第1ケース部26の下部のY2側の面に形成された出力ギヤ収納部、符号48は、出力ギヤ収納部47の奥面の中央部に形成され、軸孔33と同軸的に連通した下側ベアリング収納部、符号49は、第2ケース部27の上部のY1側の面に形成され、X1側の端部がラック昇降孔37の長さ方向の中間部分と連通したピニオン収納部、符号50は、ピニオン収納部49の奥面の中央部に形成された別の上側ベアリング収納部、符号51は、第2ケース部27の下部のY1側の面に形成され、別の軸孔33と同軸的に連通した別の下側ベアリング収納部である。
また、
図2において、符号52は、従動ローラ20の回転軸、符号53は、回転軸35,52の厚肉な軸支板、符号54は、無端ベルト15のY1−Y2側の端からワークWが落下することを防止するサイドガイド板である。
【0035】
次に、
図1および
図7を参照して、この発明の実施例1に係る排出装置10の作動を説明する。
まず、プレス機Pによる素材aのプレス加工を説明する。
図示しない駆動源により、上金型12が上死点と下死点との間を所定速度で昇降する。このとき、素材aが位置決めされた下金型11上に上金型12が下降し、両金型11,12が協働して、素材aが所定形状にプレス加工される(
図7)。これにより、ワークWが成形されるとともに、不要なスクラップ(切り屑、切粉など)Sが発生する(
図11参照)。このうち、ワークWは自動または手動で下金型11のX2側の端から排出され、その後、シュート14を滑落して、ベルトコンベア16の無端ベルト15のX1側の端部上に投下される。このとき、無端ベルト15は停止状態にある。そのため、プレス時に投下されたワークWの鋭利なエッジが無端ベルト15に衝突しても、従来の電動式ベルトコンベアの場合より無端ベルト15が傷付き難くなり、無端ベルト15の寿命を長くすることができる。
【0036】
以下、排出装置10の具体的な作動を説明する。
素材aのプレス加工時、
図1に示すように上金型12と一体的にストライカ17が下降(往動)し、垂直ラック22の上端に当接する。その後、ストライカ17がさらに下降することで、垂直ラック22はラック昇降ガイド38によってガイドされながら、垂直に押し下げられる。これにより、ピニオン24が入力軸28を中心にして所定回数だけ一方向へ回転し、その回転力がカムクラッチ25を経て大径ギヤ30へと伝達される(
図3〜
図6)。その後、この大径ギヤ30が回転することにより出力ギヤ36が回転し、出力軸23、ジョイント34および回転軸35を介して、ベルトコンベア16の駆動ローラ18が一方向へのみ回転する。その結果、駆動ローラ18と従動ローラ20との間で無端ベルト15が所定距離だけ周転(移動)し、これに伴ない無端ベルト15上のワークWは、この所定距離分だけプレス機Pの外部へ排出される(
図7)。
【0037】
次いで、上金型12の上昇に伴ないストライカ17が上昇する。このとき、入力軸28と大径ギヤ30との間にカムクラッチ25が介在しているため、大径ギヤ30、ひいては出力軸23の逆回転が阻止される。
その後は、次の素材aを自動または手動により下金型11に供給し、上述した上金型12の昇降に伴なうワークWの成形と、ラック・ピニオン式駆動手段19によるベルトコンベア16の無端ベルト15の間欠的な周転が行われ、ワークWがプレス機Pから順次排出されて行く。
【0038】
このように、ベルトコンベア16の駆動源として、プレス機Pの上金型12の上下動の力を採用したため、ベルトコンベア専用の駆動源を必要とせず、装置コストが廉価で、ランニングコストが不要となる。
また、排出装置10としてベルトコンベア方式のものを採用したため、従来のシュート水平往復運動方式のものの場合とは異なり、無端ベルト15が受けたワークWのすべてを確実にプレス機Pの外部へと排出することができる。
また、大径ギヤ30の内側空間にカムクラッチ25を嵌入したため、ケーシング21の幅(X1−X2方向の長さ)が短くなり、ケーシング21の小型化を図ることができる。
さらに、第1ケース部26と第2ケース部27とを鋳鉄品とし、各ケース部26,27の内側には、ラック・ピニオン式駆動手段19の主要構成体である大径ギヤ30、一対の上側ベアリング29、出力ギヤ36、一対の下側ベアリング32をそれぞれ収納する収納部45〜51のみを形成し、余剰の空間を設けないようにしたため、ケーシング21が堅牢となり、ラック・ピニオン式駆動手段19の耐久性を高めることができる。
【0039】
次に、
図8および
図9を参照して、この発明の実施例2に係る加工材の排出装置を説明する。
図8に示すように、実施例2の排出装置10Aの特徴は、実施例1のラック・ピニオン式駆動手段19の一部の部品を変更し、上金型12の昇降ストロークが長いプレス機P1に適用可能なラック・ピニオン式駆動手段19Aを有するコンベア駆動装置A1を採用した点である。
このプレス機P1に適用する際には、まず架台13の上面に小型で脚長な門型台60を取り付け、この門型台60の上板61にベルトコンベア16のX1側の端部を固定する。上板61には、ラック昇降孔37と対峙する部分に、ラック孔62が形成されている。
【0040】
次に、ラック・ピニオン式駆動手段19の部品構成を一部変更し、ラック・ピニオン式駆動手段19Aとする。詳しくは、第2ケース部27のラック昇降孔37の下側開口からドライバを差し込み、ビスBを外して垂直ラック22の下端からストッパ部材44を離脱し、垂直ラック22をラック昇降孔37から抜き取るとともに(
図4)、ラック昇降ガイド38からコイルばね39を取り外す。また、ストライカ17の下端部に、垂直ラック22の1.5倍の長さを有する長尺ラック(垂直ラック)22Aの上端部を着脱可能に連結する(
図8)。
【0041】
素材aのプレス加工時には、上金型12と一体的にストライカ17を介して長尺ラック22Aが下降する。このとき、長尺ラック22Aが垂直ラック22より長尺であるため、長尺ラック22Aの下端部が上板61のラック孔62を通って門型台60の内部空間へ侵入するとともに(
図9)、ピニオン24が入力軸28を中心にして回転する。しかも、長尺ラック22Aが垂直ラック22より長尺であるため、上金型12の1回の昇降でのベルトコンベア16によるワークWの排出距離が、実施例1の殴打タイプの場合より長くなる。その結果、駆動ローラ18と従動ローラ20との間で無端ベルト15がそれに応じた距離だけ周転(移動)し、これによって無端ベルト15上のワークWは、プレス機Pの外部へ実施例1のときより長い距離だけX2方向へ排出される。
【0042】
このように、コンベア駆動装置Aとして、ケーシング21の上面と下面とを貫通してラック昇降孔37を形成し、垂直ラック22の下端に、コイルばね39のばね力によって垂直ラック22が上側のラック昇降孔37から飛び出すのを防止するストッパ部材44を着脱自在に取り付け、さらにはコイルばね39を、ラック昇降ガイド38を介してケーシング21に着脱自在に取り付けた構成のものを採用している。そのため、上述したように実施例1のラック・ピニオン式駆動手段19について、簡単な部品交換を行うだけで、実施例2のラック・ピニオン式駆動手段19Aを有したコンベア駆動装置A1に構造変更することができる。これにより、新設や既存のプレス装置に拘わらず、排出装置10を様々な装置構成のプレス機に組み込むことができる。
【0043】
すなわち、例えば、上金型12が上死点に在る時のプレススライド12aと架台13との距離(高さ)が十分にとれない(小型の)プレス機Pの場合には、垂直ラック22をストライカ17により殴打する実施例1のコンベア駆動装置Aを、架台13の上面に直接固定すればよい。
一方、プレススライド12aと架台13との距離が十分にとれる(大型の)プレス機P1の場合には、上金型12に長尺ラック22Aが固定される実施例2のコンベア駆動装置A1に構成変更して使用すればよい。
その他の構成、作用および効果は、実施例1から推測可能な範囲であるため、説明を省略する。
【0044】
次に、
図10および
図11を参照して、この発明の実施例3に係る加工材の排出装置を説明する。
図10に示すように、実施例3の排出装置10Bの特徴は、1台の実施例1のコンベア駆動装置Aを使用し、3台のベルトコンベア16を同期駆動させるようにした点である。
具体的には、実施例1のベルトコンベア16のY1方向に、無端ベルト15の排出方向を揃えた2台のベルトコンベア16A,16Bを平行配置し、各駆動ローラ18の回転軸35をジョイント(回転力伝達部材)34により連結した構成となっている。このうち、ベルトコンベア16AはスクラップSの排出用のもの(スクラップ用無端コンベア)である。
【0045】
なお、コンベア駆動装置Aの設置位置は、1台目のベルトコンベア16と2台目のベルトコンベア16Aとの間に配置してもよい(
図11)。この場合には、出力軸23の両端部に、一対のジョイント34を介して、対応するベルトコンベア16の各駆動ローラ18の回転軸35が連結されることになる。
また、ジョイント34に代えて、ベベルギヤを内蔵したギヤボックスや、フレキシブルシャフトを採用することにより、隣接するベルトコンベア16〜16BのワークW(スクラップS)の排出方向を、直交方向や傾斜方向などに変更することができる。
さらに、ラック・ピニオン式駆動手段19のケーシング21の取り付け向きを変更する(X1側とX2側とを反対にする)ことで、ベルトコンベア16、16AによるワークWの排出方向を逆方向(X1方向)としてもよい。
【0046】
その他、排出装置10(10A,10B)は、ワークWのプレス機間の搬送に使用することができる。
また、ジョイント34に代えて、フレキシブルジョイントを採用すれば、プレス機の極めて狭い空間でも、ベルトコンベア16とラック・ピニオン式駆動手段19とを分離状態で組み込むことができる。
さらにまた、このラック・ピニオン式駆動手段19の出力軸と、プレス機の扇風機とを回転力伝達可能に連結して、無電力によりプレス機を空冷することができる。
【0047】
また、図示しないものの1本の長尺ラックを使用し、上下2段配置されたワーク排出用のベルトコンベア16と、スクラップ排出用のベルトコンベア16Aとを、同時駆動させるように構成してもよい。
詳しくは、ベルトコンベア16の専用となるコンベア駆動装置A1と、ベルトコンベア16Aの専用となる別のコンベア駆動装置A1とを、平面視してラック孔62同士を一致させた状態で上下平行に離間して配置し、上金型12のプレススライド12aに、各コンベア駆動装置A1に組み込まれた各ピニオン24に噛合可能な長さを有する1本の長尺ラックを、上金型12のプレススライド12aに固定されたストライカ17に着脱自在に連結した構成となっている。
【0048】
上金型12の昇降に伴ない、この長尺ラックも昇降するため、上下方向に配置された各コンベア駆動装置A1のピニオン24は同期回転する。これにより、上下2段配置されたベルトコンベア16,16Aの無端ベルト15が所定距離だけ周転し、ワークWおよびスクラップSは、各無端ベルト15の周転距離分だけプレス機P1の外部に排出される。
このように構成したことで、上段配置されたベルトコンベア16を駆動するコンベア駆動装置A1と、下段配置されたベルトコンベア16Aを駆動する別のコンベア駆動装置A1とを、上金型12に連結された1本の長尺ラックにより同期駆動させることができる。
【0049】
その他の構成、作用および効果は、実施例1から推測可能であるため、説明を省略する。