特許第6753570号(P6753570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753570
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】バッグ製剤
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/10 20060101AFI20200831BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20200831BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20200831BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20200831BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20200831BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20200831BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   A61J1/10 331A
   A61K31/473
   A61K9/08
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61J1/10 330B
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-162254(P2016-162254)
(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公開番号】特開2018-20033(P2018-20033A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2018年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】592066033
【氏名又は名称】光製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000143880
【氏名又は名称】株式会社細川洋行
(74)【代理人】
【識別番号】100099221
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 拓之
(72)【発明者】
【氏名】梅田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 亮輔
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−217975(JP,A)
【文献】 特開2006−016410(JP,A)
【文献】 特開2011−212447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/10
A61K 9/08
A61K 31/473
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/32
A61K 47/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点滴静注製剤成分のバッグ製剤であって、
直接容器と外装袋からなり、
直接容器に外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌を施して用いるものであり、
直接容器が最内層又は中間層が環状ポリオレフィンからなる環状ポリオレフィンを含む組成のバッグであり、
外装袋がポリエチレンテレフタレート、ナイロンおよびポリオレフィンから選ばれる1又は2以上の成分を含むものであり、
外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌により外装袋由来の物質が薬液に溶出しない前記組成のバッグを用いたバッグ製剤であり、
高圧蒸気滅菌によりブロッキングを起こさない構成の外装袋と直接容器を組み合わせたバッグ製剤であって、
直接容器の最外層の樹脂がポリエチレンであって外装袋の最内層の樹脂がポリプロピレンであるか、又は
直接容器の最外層の樹脂がポリプロピレンであって外装袋の最内層の樹脂がポリエチレンである
バッグ製剤。
【請求項2】
前記点滴静注製剤成分が、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含有する点滴静注製剤成分のバッグ製剤である
請求項1のバッグ製剤。
【請求項3】
前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩が、パロノセトロン塩酸塩である、
請求項2のバッグ製剤。
【請求項4】
前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩が、パロノセトロンとして0.005〜0.020mg/mL の濃度である、
請求項2又は3記載のバッグ製剤。
【請求項5】
前記直接容器の環状ポリオレフィンを含むバッグが、ポリエチレン成分を最内層のシーラント層とし、その外側に隣接する層に環状ポリオレフィン成分を用いた、
請求項1〜4記載のバッグ製剤。
【請求項6】
パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含有する低濃度の点滴静注製剤成分が、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩以外に
安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤及び溶剤から選ばれる成分の1又は2以上の成分を含む
請求項2〜5記載のバッグ製剤。
【請求項7】
等張化剤が塩化ナトリウム
緩衝剤が酢酸及び酒石酸塩
pH調整剤が塩酸及び水酸化ナトリウム
である、
請求項6記載のバッグ製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッグ製剤に関する。詳しくは点滴静注バッグ製剤の高圧蒸気滅菌工程において、外装袋由来の物質が薬液中へ透過することを抑える外装袋入りバッグ製剤に関する。
更に本発明は、パロノセトロン点滴静注バッグ製剤の高圧蒸気滅菌工程において、外装袋由来の物質が薬液中へ透過することを抑える外装袋入りバッグ製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
嘔吐は、細胞障害性治療法、放射線療法等の治療に際し発現し、その後の患者のQOLに影響を及ぼし、さらに治療の継続に影響を与える。近年、5−HT(5−ヒドロキシトリプタミン)受容体アンタゴニストに言及している種類の薬物が、嘔吐の治療(抑制のため)に開発されてきた。当該種類の薬物としては、オンダンセトロン、グラニセトロン、アロセトロン等が挙げられる。
【0003】
上記治療に際しては、数日間の長期間にわたって嘔吐が誘導される場合が多く、嘔吐の実質的な危険性がなくなるまで毎日投与することになる。
近年、パロノセトロン、すなわち米国特許第5,202,333号(特許文献1)に報告されている5−HT受容体アンタゴニストが開発され、その血中半減期が40時間であり、化学療法によって引き起こされる遅延型―吐き気の始まりを減ずることが有効であり(非特許文献1)、有効な治療方法として実用化されており、しかも、バイアル、点滴静注としても実用化されている。
また、パロノセトロンに関する製剤(特に液状医薬製剤)に関し、以下の特許文献がある。
特表2006−508977(特許文献2)
特表2006−516583(特許文献3)
特開2001−236242(特許文献4)
以上の文献には、パロノセトロンの液状組成物の成分についての特性を主に言及して開示している。
一方、内容物を収容する直接容器である輸液用包装材が加熱・加圧により殺菌処理されることで、直接容器の加飾に使用した印刷インキやラミネートに使用した接着剤に由来する有機物が内容物側に溶出し、安全性が確保されないものとなるのを防止するために、輸液包装材(本体)の内層に環状オレフィン系の共重合体のポリマーブレンドを用いることが知られている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 米国特許第5,202,333号
【特許文献2】 特表2006−508977
【特許文献3】 特表2006−516583
【特許文献4】 特表2011−236242
【特許文献5】 特開2001−157704
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本薬学雑誌Vol.136(2010)No.2P113−120
特に、近年パロノセトロン点滴静注バッグ製剤(例えば750μg/50mL)等の低濃度の点滴静注製剤が増えている。薬剤調整の時間が短縮でき、異物混入、細菌汚染の可能性も防御できる。
【0006】
通常、上記バッグ製剤の滅菌工程は高圧蒸気滅菌で行われる。
点滴静注用のバッグ製剤の多くは、直接容器のバッグに薬液を充填し、外装袋を未装着の状態で高圧蒸気滅菌を行い、滅菌後にバッグに外装袋を装着しているため、外装袋内は滅菌されておらず、手術室等のクリーンエリアに製剤を持ち込むには外装袋からバッグを取り出してアルコール綿等でバッグの外側を清浄する必要があり、医療現場では不便を生じている。しかも、外装袋からバッグを取り出してアルコール綿等でバッグの外側を清浄する操作が面倒であり、煩雑である。
【0007】
本件出願の発明者は、外装袋を装着した状態でバッグ製剤を高圧蒸気滅菌できれば、外装袋を清浄すればそのまま手術室等のクリーンエリアに持ち込むことができると考え、パロノセトロンのバッグ製剤について鋭意検討を行った。ただし、外装袋を装着した状態でバッグ製剤を高圧蒸気滅菌すると、外装袋内面とバッグ外面との間でブロッキングが生じ外装袋からバッグが取り出せない、または取り出しにくくなるおそれがある。特に脱気シールにより外装袋をバッグに密着させて高圧蒸気滅菌する場合にはそのおそれが高くなる。
なお、本願でいうブロッキングとは、熱又は圧力で両方の袋の表面同士が重なり合って、接着し合うことを意味する。
また、ポリエチレンで構成される多層フィルムのバッグに薬液を充填し、外装袋を装着した状態で脱気シール後に、高圧蒸気滅菌を行うと未知の物質が検出され、その物質が外装袋に由来するものであることを詳細な分析と検討により判明させた。更に、これら未知の物質はパロノセトロン製剤が低濃度であるので、高濃度の場合よりも品質評価に支障をきたし易くなるため、これら物質の溶出を防ぐバッグ製剤の製法を検討した。
【0008】
点滴静注製剤のバッグにおいて、一般にポリエチレン又はポリプロピレン等が直接容器の素材として使用されている。一方、環状ポリオレフィンが含まれた直接容器も存在するが、本来、その環状ポリオレフィンを含むバッグは、例えば脂溶性の薬剤成分が直接容器へ吸着することに対する対策のために用いられてきたものである。今回、パロノセトロン製剤をこの環状ポリオレフィンを含むバッグに充填し、外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌を行ったところ、薬剤成分の容器素材への吸着を認めなかっただけでなく、外装袋由来の物質が薬液中に透過する現象を阻止できることを、本発明者は見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとするための課題】
【0009】
本発明は、パロノセトロン等の点滴静注製剤(バッグ製剤)において、外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌をする場合、滅菌工程における外装袋由来の物質が製剤中に溶出することを抑えることができ、また同時に外装袋からバッグの取り出しが容易なバッグ製剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明の発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、パロノセトロン含有点滴静注製剤を、環状ポリオレフィンを含む直接容器に充填すれば、外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌を施しても、外装袋からの溶出物の透過を抑えることが可能であることを見出し、本件発明を完成した。
また、本件発明者はパロノセトロン製剤にかかわらず、他の点滴静注製剤においても、環状ポリオレフィンを含む直接容器に充填すれば、外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌を施しても、外装袋からの溶出物の透過を抑えることが可能であること、さらには外装袋からのバッグの取り出しが容易であることも見出した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)点滴静注製剤成分のバッグ製剤であって、
直接容器と外装袋からなり、
直接容器に外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌を施して用いるものであり、
直接容器が最内層又は中間層が環状ポリオレフィンからなる環状ポリオレフィンを含む組成のバッグであり、
外装袋がポリエチレンテレフタレート、ナイロンおよびポリオレフィンから選ばれる1又は2以上の成分を含むものであり、
外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌により外装袋由来の物質が薬液に溶出しない前記組成のバッグを用いたバッグ製剤であり、
高圧蒸気滅菌によりブロッキングを起こさない構成の外装袋と直接容器を組み合わせたバッグ製剤であって、
直接容器の最外層の樹脂がポリエチレンであって外装袋の最内層の樹脂がポリプロピレンであるか、又は
直接容器の最外層の樹脂がポリプロピレンであって外装袋の最内層の樹脂がポリエチレンである
バッグ製剤。
(2)前記点滴静注製剤成分が、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含有する点滴静注製剤成分のバッグ製剤である、
前記(1)のバッグ製剤。
(3)前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩が、パロノセトロン塩酸塩である、
前記(2)のバッグ製剤。
(4)前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩が、パロノセトロンとして0.005〜0.020mg/mL の濃度である、前記(2)又は(3)記載のバッグ製剤。
(5)前記直接容器の環状ポリオレフィンを含むバッグが、ポリエチレン成分を最内層のシーラント層とし、その外側に隣接する層に環状ポリオレフィン成分を用いた、前記(1)〜(4)記載のバッグ製剤。
(6)パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含有する低濃度の点滴静注製剤成分が、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩以外に
安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤及び溶剤から選ばれる成分の1又は2以上の成分を含む
前記(2)〜(5)記載のバッグ製剤。
(7)等張化剤が塩化ナトリウム
緩衝剤が酢酸及び酒石酸塩
pH調整剤が塩酸及び水酸化ナトリウム
である、
前記(6)記載のバッグ製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の点滴静注バッグ製剤は、直接容器内と外装袋内とを同時に滅菌できるため、手術室等のクリーンエリアに薬剤を持ち込む際の清浄に優れ、特に、直接容器の外面の清浄化作業をせずにクリーンエリアへ持ち込めるため、使用時まで外装袋から薬剤(バッグ)を取り出す必要がなく、実用性に優れている。また、外装袋から点滴静注バッグ製剤を取り出す際に、外装袋内面とバッグ外面がブロッキングしておらず、取り出しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明でいうパロノセトロン含有点滴静注製剤とは、パロノセトロン塩酸塩、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤および溶剤等を含む薬剤である。
パロノセトロンとは、(3aS)‐2,3,3a,4,5,6‐ヘキサヒドロ−2−[(s)−1−アザシクロ[2,2,2]オクト−3−イル]2,2,3a,4,5,6−ヘキサヒドロ‐1‐オキソ‐1Hベンズ[de]イソキノリン塩酸塩を意味し、好ましくは一塩酸塩を意味する。
本発明でいう点滴静注製剤とは、低濃度の注射剤成分であることを意味する。すなわち、通常の注射剤より極端に希釈されていることを意味する。
本発明でいう低濃度の点滴静注バッグにおける低濃度とは、調整・希釈を製剤の製造段階で行ったプレミックス製剤における濃度の事を指し、具体的には例えば、パロノセトロン塩酸塩が上記パロノセトロン含有バッグ製剤50mL中にパロノセトロンとして750μg含有する点滴静注バッグをいう。例えば、注射剤として市販されている静注製剤である、製剤一瓶5mL中にパロノセトロンとして750μg含有する注射剤とは約10分の1位濃度の異なる製剤を意味する。当然本件製剤の安定化剤等の各種担体も注意深く調整した薬剤である。
【0013】
本発明でいう環状ポリオレフィンを含むバッグとは、薬液が接する最内層又は中間層が環状ポリオレフィンからなる共押出多層フィルムを用いて製袋されたバッグであり(環状オレフィン製バッグともいう)、環状ポリオレフィン層の厚さは3〜100μmであり、好ましくは10〜75μmである。
環状ポリオレフィン以外の層はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン・酢酸共重合体等およびそれらの変性樹脂から選ばれた1種類の樹脂または2種以上の樹脂のブレンド物からなり、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンおよびそれらの変性樹脂である。ここでいう変性樹脂とは、例えば無水マレイン酸などと反応させる酸変性やエポキシ基を含む化合物と反応させるグラフト変性等の処理を施した樹脂を言う。
外装袋の素材は、遮光性あるいはガスバリア性を有する透明あるいは着色を施すことができ、高圧蒸気滅菌に耐えられる素材である。高度な遮光性とガスバリア性を付与するものとしては、アルミ箔などの金属箔があげられる。また透明性を有しかつガスバリア性を付与するものとしては、シリコンやアルミナ、ダイヤモンドライクカーボンなどの無機物を、ポリエチレンテレフタレートやナイロンなどの基材フィルム表面に、物理的あるいは化学的に蒸着した透明蒸着フィルムや、ポリアクリル酸やリン酸化合物などのバリア性化合物を形成する有機物、あるいはこれらの有機物に無機系の層状化合物などを加えた有機−無機ハイブリッド化合物などを、ポリエチレンテレフタレートやナイロンなどの基材フィルム表面にコーティングしたバリア性フィルム、さらに無機物の透明蒸着フィルムの蒸着層の上に前記のバリア性化合物を形成する有機物や有機−無機ハイブリッド化合物などをコーティングし、非常に高いガスバリア性と屈曲などの機械的変形に強い耐屈曲性を付与したハイバリア性フィルムなどが利用できる。また樹脂としてガスバリア性を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンなどのバリア性樹脂フィルムを用いることもできる。
最内層には、ヒートシールにより外装袋を形成するために、ヒートシール性のある、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ヒートシール性のあるポリエステルフィルム、ガスバリア性を合わせ持つエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムなどが使われる。特にヒートシール性に優れたポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルムが好ましい。
最外層には耐スクラッチ性や機械的強度を考慮して、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、それらを含む共押出多層フィルムなどが好適に用いられる。
それらの層の間に、突刺し強度や耐屈曲性などの機械的強度を付与するため、あるいは水蒸気バリア性を付与するため、高度な帯電防止性を付与するなどのために、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、アルミニウムをポリエステルフィルムやポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルムなどに物理的に蒸着した金属蒸着フィルムなどを積層することも可能である。
内容物や成分、注意事項、使用方法、液量を示す目盛りなどを印刷で表示することが一般的に行われる。また紫外線などの透過を防ぐために遮光性インキを用いた印刷も行われる場合がある。これらの印刷は、一般的には最外層の内側に施されることが多いが、最外層の表側や中間の層を形成するフィルムの表面に施されることもある。印刷は、一般的なグラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷など公知の方法で行うことができる。
これらのフィルムは、接着材を介して貼り合わされるドライラミネーション、溶融樹脂を用いて貼り合わされる押出ラミネーション、熱接着性樹脂を介して熱接着される熱ラミネーションなどの公知の方法で一体化され、多層フィルムとすることができる。
ただし、外装袋の最内層の樹脂は、バッグの最外層の樹脂がポリエチレンの場合にポリプロピレンなどポリエチレンとブロッキングしにくい樹脂からなるフィルムとし、バッグの最外層の樹脂がポリプロピレンの場合にはポリエチレンなどポリプロピレンとブロッキングしにくい樹脂から形成する。これはバッグを外装袋に密封して高圧蒸気滅菌処理を行ったときに、バッグ外面と外装袋内面とのブロッキングを回避するためである。
【0014】
すなわち、パロノセトロンを含むバッグ製剤においては、直接容器に環状ポリオレフィンを含むバッグを用いることにより、高圧蒸気滅菌した場合に、外装袋からの溶出物の透過を抑えることが可能となった。
ここで、「直接容器に環状ポリオレフィンを含む」とは、パロノセトロン注射剤成分を収納する直接容器において、多層フィルムまたはシート状に積層している状態で含まれても良いことを意味する。
多層フィルムまたはシート状に積層している状態の場合は、当該直接容器の最内層にポリエチレン等の他のプラスチック成分をシーラント層とし、その外側に隣接する層に環状ポリオレフィンからなる層を設けてもよい。
例えば、基材に環状オレフィンコポリマー又は環状オレフィンコポリマーとポリオレフィン樹脂とのブレンドポリマーまたは、その水素添加体を介してシーラント層を積層した包装体が挙げられる。
【0015】
なお、直接容器とは、当該パロノセトロン注射剤成分を直接収納するための容器である。
パロノセトロン製剤のバッグ化に際し、ポリエチレン製バッグ(直接容器)にパロノセトロン注射剤成分を充填し、外装袋に封入して高圧蒸気滅菌したところ、外装袋由来の溶出物の透過が認められた。
それは、下記の実施例1、比較例1に記載された試験で、ポリエチレン製バッグ(直接容器)にパロノセトロン注射剤成分を充填し、高圧蒸気滅菌した場合は、熱により外装袋に由来する何らかの成分がバッグを透過し、パロノセトロン注射剤の液中に入り込んでいることが判明した。
一方、直接容器に環状ポリオレフィンを含むバッグ(直接容器)にパロノセトロン注射剤成分を充填した場合は、パロノセトロン注射剤の製剤中に入り込んでいないことが判明した。
【0016】
本発明に用いる環状ポリオレフィンとしては、一般にはガラス転移温度が60℃以上であれば特に制限がないが、90℃以上が好ましく、110℃〜170℃がより好ましく、120℃〜150℃であることがさらに好ましい。
容器の熱処理や高圧滅菌処理の高温条件下で、直接容器が変形、破袋しないことも、望ましい環状ポリオレフィンを選択する条件ともなる。
メルトフローレートは、0.01〜70g/10分が望まれるが、本件製剤の各種含有する成分により異なる数値になることもある。メルトフローレートとは、溶液状態にある樹脂の流動性を示す尺度の一つである。
【0017】
本発明に用いる環状ポリオレフィンとしては、例えば、種々の環状オレフィンモノマーの重合体や、環状オレフィンモノマーとエチレンなどの他のモノマーとの共重合体およびそれらの水素添加物などが挙げられる。環状オレフィンモノマーとしては、例えばノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、塩素化ノルボルネン、クロロメチルノルボルネン、トリメチルシリルノルボルネン、フェニルノルボルネン、シアノノルボルネン、ジシアノノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、ピリジルノルボルネン、ナヂック酸無水物、ナヂック酸イミドなどの二環シクロオレフィン;ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの三環シクロオレフィン;ジメタノヘキサヒドロナフタレン、ジメタノオクタヒドロナフタレンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの四環シクロオレフィン;トリシクロペンタジエンなどの五環シクロオレフィン;ヘキサシクロヘプタデセンなどの六環シクロオレフィンなどが挙げられる。また、ジノルボルネン、二個のノルボルネン環を炭化水素鎖またはエステル基などで結合した化合物、これらのアルキル、アリール置換体などのノルボルネン環を含む化合物が挙げられる。本発明の環状ポリオレフィン系樹脂としては、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、テトラシクロドデセンといった、分子骨格中にノルボルネン骨格を含むノルボルネン系モノマーの1種または2種以上を重合して得られるポリノルボルネン系樹脂、またはその水素添加物、およびそれらを1種または2種以上を混合したものが、液体収納容器として成形した際の強度および柔軟性の観点から好ましい。
【0018】
なお、本発明における環状ポリオレフィン系樹脂のモノマー分子の重合方法や重合機構としては、開環重合であっても、付加重合であっても良い。また、複数種のモノマーを併用する場合の重合方法や重合機構としては、公知の方法を用いることができ、モノマー時に配合して共重合を行っても良いし、ある程度重合した後に配合してブロック共重合しても良い(このような条件は、本件製剤の条件により、変更することもある)。
【0019】
本発明を、実施例に示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されることはない。
【0020】
本発明のバッグ製剤の具体的な製造工程は下記の通りである。
【0021】
製剤化にあたり使用した処方、資材、製剤の滅菌条件及び分析条件等は以下のとおりである。
パロノセトロン点滴静注製剤成分の処方
パロノセトロン塩酸塩、安定化剤、等張化剤として塩化ナトリウム、緩衝剤として酢酸塩及び酒石酸塩等、pH調整剤として塩酸及び水酸化ナトリウム、溶剤に水を含むもの
資材
直接容器として用いたバッグの材質を以下に示す。
「環状ポリオレフィン製バッグ」
最外層から高密度ポリエチレン/線状低密度ポリエチレン/環状ポリオレフィン/線状低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレンの構成である厚み200μmの共押出多層フィルムから作製されたバッグである。
「ポリエチレン製バッグ」
最外層から中密度ポリエチレン/線状低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレンの構成である厚み250μmの共押出多層フィルムから作製されたバッグである。
外装袋の材質:ポリエチレンテレフタレート、ナイロン及びポリプロピレンまたはポリエチレンを含むもの。
すなわち最外層から透明蒸着ポリエチレンテレフタレート/ナイロン/ポリプロピレンの外装袋、または最外層から透明蒸着ポリエチレンテレフタレート/ナイロン/ポリエチレンの外装袋(以下、それぞれ「PP外装袋」及び「PE外装袋」という。)、このような構成のドライラミネート多層フィルムから作製された外装袋を使用した。
(本願でいう透明蒸着フィルムとは、無機物を真空中で蒸発させ、基材フィルムの上に薄膜を形成した製品であり、透明な蒸着層が形成されることによりガスバリア性、水蒸気バリア性、保香性を発揮するバリアフィルムである。)
なお、紫外線遮光性インキを含む加飾印刷は、透明蒸着ポリエチレンテレフタレートのナイロン側の面に行った。
【0022】
製剤の滅菌条件
滅菌条件は、注射剤の最終滅菌として担保できるFo値>8で、プラスチック容器の変形等を最小限に抑えられる高圧蒸気滅菌条件である。
滅菌の際には製剤の入ったバッグを外装袋に入れて、外装袋内の空気を抜き密閉した状態で封をする脱気シールにより外装袋をバッグに密着させて、滅菌した。これは、バッグへの熱伝導を効率的に行わせるためである。
【0023】
高速液体クロマトグラフィーによる分析条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
カラム温度:40℃
移動相:リン酸緩衝液(pH2.5)/アセトニトリル混液(4:1)
流量:約0.9mL/min
注入量:50μL
【0024】
比較例1
(製剤をポリエチレン製バッグ(直接容器)に充填し、外装袋に封入して滅菌)
パロノセトロン点滴静注製剤成分の処方の製剤であって、ポリエチレン製バッグに充填したものと、PP外装袋とを用いて、本発明のバッグ製剤の具体的な製造工程に示した製造工程により製造し、前述の分析条件で分析した結果、滅菌後の検体に1%以上の新たなピークが検出した(図1及び図2)。(図2の約5.3分(横軸)の個所に新たなピークが現れている)
【0025】
各図は、高速液体クロマトグラフィー(検出器:紫外吸光光度計、測定波長:210nm)での測定結果である。
縦軸に紫外線の吸光度をmAUとして示し、横軸は、保持時間(min.)を示したものである。
【0026】
参考例1
比較例1で検出した新たなピークの原因検証(ポリエチレン製バッグに充填したもの)
検出した不純物由来の新たなピークが製剤中の成分に由来するものか、あるいは製造工程に由来するものかを検証するため、製剤の代わりに水を用いて製剤の製造方法に準じて製造し、工程毎に液をサンプリングして分析した(工程の検証のため、外装袋は使用せず)。この結果、比較例1で示したような新たなピークは検出されず、製造工程自体には問題ないことが確認された。当該新たなピークは製剤中の成分か、または外装袋に由来することが考えられた。
【0027】
比較例2
プラセボ溶液(製剤から主成分(パロノセトロン)を除いた液)における検証(ポリエチレン製バッグに充填したもの)
製造工程に問題ないことが確認されたため、プラセボ溶液を同じ製造工程でポリエチレン製バッグに充填したものを製造し、更にPP外装袋に封入して滅菌した。この結果、同様のピークが検出された。このことから、当該ピークは、パロノセトロン由来ではないことが確認された(図6及び図7)。未滅菌では検出していないため、熱により外装袋あるいは添加剤に由来する何らかの成分がバッグを透過し、液中に入り込んでいると考えられた。(図7の約5.3分(横軸)の個所に新たなピークが現れている)
【0028】
参考例2及び比較例3
外装袋の有無による影響の検証(ポリエチレン製バッグに充填したもの)
水をポリエチレン製バッグに充填したものを外装袋に封入せずに滅菌した検体(参考例2)と、水をポリエチレン製バッグに充填したものをPP外装袋に封入して滅菌した検体(比較例3)について、それぞれ分析した。この結果、PP外装袋に封入して滅菌した検体に同様のピークを確認した(図8及び図9)。
この結果から、直接容器のポリエチレン製バッグを透過して製剤中に溶出している物質はPP外装袋由来であることが判明した。(図9の約5.3分(横軸)の個所に新たなピークが現れている)
【0029】
参考例3
製剤をポリエチレン製バッグに充填し、外装袋に封入せずに滅菌
ピークの検出が外装袋に起因するものであると考えられたため、比較例1においてPP外装袋に封入せず、ポリエチレン製バッグに製剤を充填したバッグのみで滅菌した結果、PP外装袋を使用したときに検出された不純物を示す新たなピークは認められなかった(図10及び図11)。このことから比較例1で検出された新たなピークは外装袋に由来することが判明した。
【0030】
比較例4
ポリエチレン製バッグに充填した製剤をポリエチレンフィルムからなるシーラントを内層とするPE外装袋に封入し脱気シールした後、滅菌した。
滅菌後にポリエチレン製バッグの外面とPE外装袋の内面とが密着したままブロッキングしており、製剤を外装袋から取り出すことは容易ではなかった。
【0031】
比較例5
ポリプロピレン製バッグに充填した製剤をポリプロピレンフィルムからなるシーラントを内層とするPP外装袋に封入し脱気シールした後、滅菌した。使用したポリプロピレン製バッグは、最外層からポリプロピレン/無水マレイン酸変性ポリプロピレン/環状ポリオレフィン/無水マレイン酸変性ポリプロピレン/ポリプロピレンの構成である共押出多層フィルムから作製された直接容器である。
滅菌後にポリプロピレン製バッグの外面とPP外装袋の内面とが密着したままブロッキングし、製剤を外装袋から取り出すことは容易ではなかった。
【0032】
実施例1
環状ポリオレフィン製バッグに水を充填し、PP外装袋に封入して滅菌
環状ポリオレフィンを含むバッグ(本発明に係る直接容器のバッグ)に水を充填し、外装袋に封入して高圧蒸気滅菌すると、上記で検出したピークは滅菌後も検出されなかった(図12図14)。
この結果は、外装袋由来の物質が、直接容器の環状ポリオレフィン製バッグで遮断され製剤中に溶出していないことを示している。
【0033】
実施例2
環状ポリオレフィン製バッグに製剤を充填し、PP外装袋に封入して滅菌
パロノセトロン点滴静注製剤成分の処方で薬液を調製し、環状ポリオレフィン製バッグに充填し、外装袋に封入して脱気シールした後、滅菌した製剤においては、図15及び図16のとおりPP外装袋に起因すると考えられるピークは検出されなかった。
この結果は、直接容器に環状ポリオレフィン製バッグを用いた製剤では、比較例1で認めた外装袋由来の物質の薬液中への溶出を防いだことを示している。
また、減菌後に環状ポリオレフィン製バッグの外面とPP外装袋の内面とは密着が容易に解消し、環状ポリオレフィン製バッグを外装袋から容易に取り出すことができた。ここで環状ポリオレフィン製バッグの外面はポリエチレン(高密度ポリエチレン)であり、PP外装袋の内面はポリプロピレンである。このようにポリエチレンとポリプロピレンとの組み合わせであると、表面を密着させて高圧蒸気滅菌しても、バッグを外装袋から取り出すことが容易である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、パロノセトロン等の低濃度点滴静注製剤(バッグ製剤)において、外装袋を装着した状態で高圧蒸気滅菌をする場合、滅菌工程における外装袋由来の物質が製剤中に溶出することを抑えるバッグ製剤に係るものであり、調剤時間を短縮でき、しかも異物混入、細菌汚染等のリスクが回避でき、またバッグ製剤が外装袋から簡単に取り出せ、医療現場で大いに貢献できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)にパロノセトロン製剤を充填し、滅菌処理する前の分析結果を示した図である。
図2】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)にパロノセトロン製剤を充填し、外装袋に封入し、滅菌処理した後の分析結果を示した図である。不純物の新たなピークを検出したことを示す図である。
図3】 本件点滴静注製剤に使用する水の分析結果を示した図である。
図4】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)に水を充填し、滅菌処理する前の分析結果を示した図である。
図5】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)に水を充填し、外装袋に封入せず、滅菌処理した後の分析結果を示した図である。図3図5は、同一の分析結果を示している。
図6】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)に、プラセボ溶液(製剤から主成分(パロノセトロン)を除いた液)を充填し、滅菌処理する前の分析結果を示した図である。
図7】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)に、プラセボ溶液(製剤から主成分(パロノセトロン)を除いた液)を充填し、外装袋に封入し、滅菌処理した後の分析結果を示した図である。不純物の新たなピークを検出したことを示す図である。
図8】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)に、水を充填し、外装袋に封入せずに、滅菌処理した後の分析結果を示した図である。
図9】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)に、水を充填し、外装袋に封入し、滅菌処理した後の分析結果を示した図である。不純物の新たなピークを検出したことを示す図である。
図10】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)にパロノセトロン製剤を充填し、滅菌処理する前の分析結果を示した図である。
図11】 ポリエチレン製バッグ(直接容器)に、パロノセトロン製剤を充填し、外装袋に封入せずに、滅菌処理した後の分析結果を示した図である。図10と同様に、不純物の新たなピークを検出しなかったことを示す図である。
図12】 バッグに充填する前の水の分析結果である。
図13】 環状ポリオレフィン製バッグ(直接容器)に、水を充填し、外装袋に封入し、滅菌処理する前の分析結果を示した図である。
図14】 環状ポリオレフィン製バッグ(直接容器)に、水を充填し、外装袋に封入し、滅菌処理をした後の分析結果を示した図である。図12図13と同様に不純物の新たなピークを検出しなかったことを示す図である。
図15】 環状ポリオレフィン製バッグ(直接容器)に、製剤を充填し、外装袋に封入し、滅菌処理する前の分析結果を示した図である。
図16】 環状ポリオレフィン製バッグ(直接容器)に、製剤を充填し、外装袋に封入し、滅菌処理した後の分析結果を示した図である。図15と同様に不純物の新たなピークを検出しなかったことを示す図である。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
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