(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整部材は偏芯コロであり、前記ベース部材のコロ受け穴に嵌合するよう前記レンズ保持部材に挿通され、前記偏芯コロを回転させることにより、前記レンズ保持部材の位置が調整されることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
前記偏芯固定カラーは、レンズ鏡筒の外周部側の開口部がレンズ鏡筒の内周部側の開口部に比較して直径が大きく、前記貫通穴が異なる直径を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
前記レンズ保持部材は窓部が設けられ、前記ベース部材はネジ穴部が設けられ、前記第1凸部は前記ネジ穴部に締め込まれ、前記偏芯固定カラーは前記窓部に嵌合することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
前記固定部材は前記調整部材1箇所につき、前記レンズの光軸と直交する面内に少なくとも1箇所は設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【背景技術】
【0002】
従来より、デジタルスチルカメラなどに使用されるレンズ鏡筒においては、光学性能の低下を抑制するため、製造工程において調芯作業が行われている。
【0003】
調芯作業は、調芯治具にレンズ鏡筒を取り付け、解像性能を検査しながらベース部材に保持されるレンズ鏡室の位置を調整することで行われる。この際、必要とされる性能を満たした相対位置において、ベース部材とレンズ鏡室とを固定する必要がある。
【0004】
特にレンズ鏡室の重量が大きいレンズ鏡筒は、衝撃や移動によって、調整後の相対位置から容易にずれてしまうことが考えられる。従ってレンズ鏡室の重量が大きいレンズ鏡筒においては、取り分け固定を強固にする必要がある。
【0005】
レンズ鏡室とベース部材とを固定する技術として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1には、レンズ鏡室の外周面に貫通穴からビスが取り付けられており、レンズ鏡室は鏡筒本体に複数の貫通穴からビスの周囲に充填された接着剤で固定されていることを特徴とするレンズ鏡筒が開示されている。このような構成を取ることで、特定のレンズ鏡室の鏡筒本体での傾きや偏芯による光学調整をした後、長期に渡って調整時の状態を安定して保持することができ、耐衝撃性のあるレンズ鏡筒を得られる、としている。
【0006】
また、特許文献2にはレンズの光軸方向を中心とした垂直方向の平面における調芯機構を有し、ベース部材とレンズ鏡室との間に接着台ピンを使用することを特徴とするレンズ鏡筒が開示されている。このような構成を取ることで、パーツが破損、変形してしまう可能性を低く抑え、一度取り外したパーツを再利用することができ、結果、コストや工程の増加を防ぐことができる、としている
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の発明は、調芯作業後の位置にレンズ鏡室を高精度に保持するため、接着剤によってレンズ鏡室をベース部材に直接固着している。しかし、ベース部材とレンズ鏡室との直接の固着を分離させるには相応の設備、ノウハウが必要なため、このような構成ではレンズ鏡筒の分解が困難であった。
【0009】
また、直接固着されているベース部材とレンズ鏡室とを無理に分離させれば、その負荷によってベース部材とレンズ鏡室とが変形、破損してしまい、再利用することが困難となる。再利用が必要な場合、破損したパーツを新たに作り直すこととなり、コストや作業時間が増大する恐れがあった。また、固形化した接着剤が分離の際に破砕され、その細かい破片がレンズ鏡筒内部に飛散してしまう恐れがあった。
【0010】
従って従来の技術では、レンズ鏡筒の分解が困難であり、また修理やベース部材とレンズ鏡室との相対位置の再調整の際には固着させたベース部材及びレンズ鏡室のユニットごと交換する必要がある為、各ユニットの再利用性に問題があった。
【0011】
また、特許文献2に記載の発明は接着用のピンを採用しているため、ベース部材に対しては接着剤が直接接触していない。しかし、レンズ鏡室については接着剤が直接接触しているため、やはりレンズ鏡室の再利用性に問題があった。
【0012】
また、特許文献2ではレンズの光軸と直交する平面内を平行に移動させる調芯機構を有したレンズ鏡筒の構造しか開示されていない。特許文献2の発明では、ベース部材とレンズ鏡室とをビス締結することで固定を行っている。ここで、倒れ方向の調芯機構に上記発明を適用すれば、光軸と直交する方向からビス締結を行うこととなる。しかし、光軸と直交する方向からビス締結を行えば、ベース部材とレンズ鏡室が倒れ調整によって傾いているためビス締結によってベース部材とレンズ鏡室が平行となるような方向に力が加わり、調整後の相対位置が変化してしまう。従って、倒れ方向の調芯機構には適用することができなかった。
【0013】
上記課題から本発明は分解が容易で、かつベース部材及びレンズ鏡室を再利用可能であり、レンズ鏡室の倒れ方向の調芯機構にも適用可能な構造を有するレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に示す発明は、レンズを保持するレンズ保持部材と、固定部材によって前記レンズ保持部材と固定されるベース部材と、前記レンズ保持部材と前記ベース部材との相対位置を調整する調整部材と、を有するレンズ鏡筒であって、前記固定部材は第1凸部と第2凸部とフランジ部とを有し、前記ベース部材に前記第1凸部が固定された偏芯固定軸と、前記第2凸部が挿通される貫通穴を有し、前記レンズ保持部材に嵌合した偏芯固定カラーと、を有し、前記偏芯固定軸と前記偏芯固定カラーとで形成される接着部に接着剤が充填されることで前記レンズ保持部材と前記ベース部材とが固定されることを特徴とするレンズ鏡筒である。
【0015】
請求項2に示す発明は、前記調整部材は偏芯コロであり、前記ベース部材のコロ受け穴に嵌合するよう前記レンズ保持部材に挿通され、前記偏芯コロを回転させることにより、前記レンズ保持部材の位置が調整されることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒である。
【0016】
請求項3に示す発明は、前記偏芯コロの偏芯量は、倒れ量を最大にした場合でも前記第2凸部が前記貫通穴に接触しない範囲で設定されていることを特徴とする請求項2に記載のレンズ鏡筒である。
【0017】
請求項4に示す発明は、前記第2凸部の端面部は、前記貫通穴を貫通して前記貫通穴の外部に位置することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のレンズ鏡筒である。
【0018】
請求項5に示す発明は、前記偏芯固定カラーは、レンズ鏡筒の外周部側の開口部がレンズ鏡筒の内周部側の開口部に比較して直径が大きく、前記貫通穴が異なる直径を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のレンズ鏡筒である。
【0019】
請求項6に示す発明は、前記レンズ保持部材は窓部が設けられ、前記ベース部材はネジ穴部が設けられ、前記第1凸部は前記ネジ穴部に締め込まれ、前記偏芯固定カラーは前記窓部に嵌合することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレンズ鏡筒である。
【0020】
請求項7に示す発明は、前記調整部材は前記レンズの光軸と直交する面内に少なくとも2箇所設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のレンズ鏡筒である。
【0021】
請求項8に示す発明は、前記固定部材は前記調整部材1箇所につき、前記レンズの光軸と直交する面内に少なくとも1箇所は設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のレンズ鏡筒である。
【0022】
請求項9に示す発明は、レンズを保持し、窓部を有するレンズ保持部材と、凹部を有し、固定部材によって前記レンズ保持部材が固定されるベース部材と、回転させることにより、前記レンズ保持部材の位置を調整する偏芯コロと、を有し、前記固定部材は第1凸部と第2凸部とフランジ部とを有する偏芯固定軸と、前記第2凸部が挿通される貫通穴を有する偏芯固定カラーと、を有するレンズ鏡筒の調芯方法であって、前記第1凸部を前記凹部に固定し、前記偏芯固定カラーを前記窓部に嵌合する工程と、前記レンズ保持部材の外周上に設けられた偏芯コロを回転させることで前記レンズ保持部材を光軸に対して倒れ調整する工程と、前記倒れ調整後の所定の位置において前記レンズ保持部材と前記ベース部材とを固定するように前記偏芯固定軸と前記偏芯固定カラーとで形成される接着部に接着剤を充填する工程と、によって前記レンズ保持部材が調芯されることを特徴とするレンズ鏡筒の調芯方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、分解が容易で、かつベース部材及びレンズ鏡室を再利用可能であり、レンズ鏡室の倒れ方向の調芯機構にも適用可能な構造を有するレンズ鏡筒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面にしたがって、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。なお、本出願においては簡単のため、ネジ穴にネジ溝は描写しないものとする。
【0026】
(実施例1)
本実施例のレンズ鏡筒100は調芯機構を有し、ベース部材110、レンズ鏡室120、偏芯コロ130、球状コロ150、偏芯固定部160を有している。
図1は本発明の第1の実施例を示したレンズ鏡筒100の要部斜視図である。また、
図2は本発明の第1の実施例を示したレンズ鏡筒100の要部分解斜視図である。以下、
図1、
図2を使用して各部材について説明を行う。なお、
図1、
図2は本実施例のレンズ鏡筒100において、調芯機構の説明に必要な要部のみを示している。また、レンズ鏡筒100は撮像装置に対して取り付け交換可能であり、その中心に光軸を持つ。また、本発明においてはレンズ鏡筒100の光軸側をレンズ鏡筒の内周部側、その反対側をレンズ鏡筒の外周部側と呼称することとする。
【0027】
ベース部材110は、レンズ鏡筒100における直進筒である。ベース部材110には3か所のコロ溝111が存在し、内側から不図示のコロが嵌合している。ベース部材110は不図示のコロの動きに応じて光軸方向へ前後移動を行う。また、ベース部材110には偏芯固定軸170が締め込まれる第1ネジ穴部112、取り付けビス140が締め込まれる第2ネジ穴部113、偏芯コロ130が嵌合する第1コロ受け穴114、球状コロ150が嵌合する不図示の第2コロ受け穴が設けられている。
【0028】
レンズ鏡室120は、レンズエレメントを保持している部材である。レンズ鏡室120を光軸方向に倒れ調整し、固定することでレンズ鏡筒100の調芯は行われる。レンズ鏡室120には偏芯固定カラー180が嵌合する丸穴部121、偏芯コロ130が挿通する長穴部122が設けられている。長穴部122がレンズ鏡筒100の周方向に長辺がある長穴形状であることで、偏芯コロ130は光軸方向に対する倒れ調整が可能となる。既知の技術であるので詳しくは省略する。また、調芯後にレンズ鏡室120がベース部材110に固定されると、レンズ鏡室120は不図示のコロの動きに応じてベース部材110と連動して光軸方向へ前後移動を行う。ベース部材110とレンズ鏡室120との固定に関して、詳しくは後述する。ここで、丸穴部121は丸穴形状としているが、偏芯固定カラーが嵌合するのであれば、異なった形状としても良い。
【0029】
偏芯コロ130は、レンズ鏡室120の長穴部122に嵌合し、ベース部材110の第1コロ受け穴114に嵌合し、同軸の取り付けビス140によって固定される、偏芯した円筒形状の部材である。取り付けビス140は偏芯コロを貫通し、ベース部材110の第2ネジ穴部113に締め込まれる。ベース部材110とレンズ鏡室120との相対位置は偏芯コロ130を回転させることで、設定された偏芯コロ130の偏芯量に応じて倒れ調整される。また、偏芯コロ130には、回転させる際に器具を係合させるための切り欠き部132が設けられている。
【0030】
図3は本発明の第1の実施例を示したレンズ鏡筒の球状コロを示した斜視図である。球状コロ150は、ベース部材110の第2コロ受け穴に嵌合し、同軸の取り付けビス140をベース部材110の第2ネジ穴部113に締め込むことによって固定される部材である。球状コロ150において、第2コロ受け穴と嵌合する円筒部151は偏芯していない円筒形状であり、レンズ鏡室120に接する球状部152は球状の形状となっている。また球状コロ150は、ビス締めされた抑え部153とレンズ鏡室120に挟持されることによっても、固定がなされている。
【0031】
図4は、レンズ鏡筒100の光軸と直交する平面を示した断面図である。本実施例においては、球状コロ150によって1箇所を固定しながら、調整機構である2箇所の偏芯コロ130において倒れ調整をすることで、レンズ鏡室120の倒れ方を自在に調整している。2箇所の偏芯コロ130、球状コロ150は周方向に等間隔に配置されている。また、レンズ鏡室120の外周には調整機構が少なくとも2箇所必要であり、3箇所に設ける場合には、第1の実施例における球状コロ150が設置されている箇所を偏芯コロ130が設置されている他の2箇所の構成と同様となるよう変更すればよい。
【0032】
偏芯固定部160は、偏芯固定軸170と偏芯固定カラー180によって構成される部材である。レンズ鏡室120とベース部材110の固定は、2箇所の偏芯コロ130及び球状コロ150と各取り付けビス140とで行われている。しかし固定箇所がその3点のみでは耐衝撃に対して不十分であり、例えば強い衝撃がかかった際に偏芯コロ130の位置がずれてしまう可能性がある。従って本発明では、調整機構1箇所に対して、光軸と直交する同一平面内の両側に2箇所の偏芯固定部160を設けることとした。このような部材を設けることで偏芯コロ130以外の箇所で位置を固定することとなり、偏芯コロ130の位置ずれが発生しなくなる。また、固定部を別途複数設けることで各箇所への負荷が分散され、衝撃によるそれぞれのパーツの損傷も発生し辛くなる。
【0033】
図5は本発明の第1の実施例を示したレンズ鏡筒100の偏芯固定軸170を示した斜視図である。
図6は本発明の第1の実施例を示したレンズ鏡筒100の偏芯固定カラー180を示した斜視図である。以下、
図5、
図6を使用して偏芯固定軸170、偏芯固定カラー180について説明を行う。偏芯固定軸170は独楽状の形状をした部材であり、ピン部171、フランジ部172、ネジ部173を有している。ピン部171は端面部174を有し、端面部174は更に回転させる際に器具を係合させるための切り欠き部175を有している。偏芯固定カラー180はドーナツ状の形状をした部材であり、貫通穴181を有している。また、貫通穴181の開口部の径はレンズ鏡筒の外周部側とレンズ鏡筒の内周部側で異なっており、レンズ鏡筒の外周部側の方がレンズ鏡筒の内周部側より広くなっている。これは
図4に示されているように、貫通穴181の内周部が略中間からすり鉢形状となっているためである。また、偏芯固定軸170のピン部171の直径は、貫通穴181のレンズ鏡筒の内周部側の開口部の直径より小さい。偏芯固定軸170は、ネジ部173がベース部材110の第1ネジ穴部112に締め込まれることで、ベース部材110に固定されている。一方、偏芯固定カラー180はレンズ鏡室120の丸穴部121に嵌合している。
【0034】
以上が本実施例に記載のレンズ鏡筒100を構成する部材の説明である。続いて、本実施例に記載のレンズ鏡筒100の調芯機構の組み立て手順、調芯方法及び固定方法について説明を行う。
【0035】
初めにベース部材110とレンズ鏡室120を係合させる手順を説明する。まず、球状コロ150をベース部材110の第2コロ受け穴に嵌合させる。次に、ベース部材110の第1コロ受け穴114とレンズ鏡室120の長穴部122が2箇所で重なり合うように、ベース部材110とレンズ鏡室120の位置関係を調整する。次に、偏芯コロ130をレンズ鏡室120の2箇所の長穴部122に挿通させ、ベース部材110の第1コロ受け穴114と嵌合させる。次に、抑え部151を取り付けビス140でレンズ鏡室に固定する。次に、取り付けビス140を第2ネジ穴部113へ締め込むことで、2箇所の偏芯コロ130と1箇所の球状コロ150を締結する。続いて、偏芯固定軸170のネジ部173をレンズ鏡室120の丸穴部121に挿通し、そのままベース部材110の第1ネジ穴部112にネジ部173を締め込む。最後に、偏芯固定カラー180の貫通穴181に偏芯固定軸170のピン部171を挿通し、そのままレンズ鏡室120の丸穴部121に偏芯固定カラー180を嵌合する。以上の手順でベース部材110とレンズ鏡室120は係合される。
【0036】
次に、係合したベース部材110とレンズ鏡室120について、調芯作業を行う。調芯作業では、MTF測定器等の調芯治具にレンズ鏡筒100を取り付け、解像性能を観察しながらレンズ鏡室120の倒れ量について調整を行う。より具体的には、調芯作業は偏芯コロ130の切り欠き部132にコロ回転用の器具を差し込み、偏芯コロ130を回転させることで行われる。ここで、調芯作業を行いレンズ鏡室120が倒れることで、ベース部材110に締め込まれた偏芯固定軸170のピン部171は偏芯固定カラー180の貫通穴181の内部で移動をする。この際、偏芯固定軸170のピン部171が偏芯固定カラー180の貫通穴181に接触してしまえば、移動範囲の規制となり、正しく調芯を行うことができない。また、接触による破損の恐れがある。従って、偏芯固定カラー180のレンズ鏡筒の内周部側の開口部は、例え調芯作業によって倒れ量が最大になった場合にも、ピン部171が接触しないように直径が設定されている。レンズ鏡室120に対して最大の倒れ調整を行った際のピン部171の可動範囲は偏芯コロ130の偏心量によって決定されるので、つまり偏芯固定カラー180のレンズ鏡筒の内周部側の開口部の直径は、偏芯コロ130の偏心量によって規定される。
【0037】
調芯作業を行った後には、前述したように偏芯固定部160による固定を行う。
図7は本発明の第1の実施例を示した偏芯固定部160の接着部190を示した断面図である。接着部190は偏芯固定軸170と偏芯固定カラー180によって形成され、接着剤が充填される部分である。斜線で示された部分が接着部190であり、固定のため調芯後に接着剤が充填される。接着部190はより具体的には、偏芯固定軸170のピン部171、フランジ部172、偏芯固定カラー180の貫通穴181の内周部から構成されている。また、
図7に示されるように、ピン部171の端面部174は、貫通穴181を貫通して外側に位置している。
【0038】
本発明は、偏芯固定部160が接着部190を有することで、ベース部材110に直接接着剤が付着しない構造となっている。これは、偏芯固定軸170にフランジ部172が存在するため、接着剤が貫通穴181から漏れ出すことがないためである。
【0039】
また、前述したように偏芯固定カラー180は貫通穴181の内周部が略中間からすり鉢形状となっている。このように貫通穴181がすり鉢形状となっていることで、接着剤を注入するための開口が広くなるため、貫通穴181への接着剤注入の作業効率が高くなる。本発明においてはすり鉢形状としたが、例えば内周部段差を設けるなどして、レンズ鏡筒外側とレンズ鏡筒の内周部側で開口部の径を異なる形状とすれば同等の効果が得られる。ただし、偏芯量の調整幅が大きい等といった理由によりレンズ鏡筒の内周部側の開口部にある程度の大きさが必要であれば、貫通穴181の内周部に変化をつけず、径を一定としても良い。
【0040】
接着部190に流し入れる接着剤はどのようなものでも良いが、例えば紫外線硬化型接着剤を用いれば、素早く、周辺部品へ熱などの影響を与えずに調芯後の接着固定を行うことができる。かかる紫外線硬化型接着剤を用いた場合には、貫通穴181のすり鉢形状は、接着剤を硬化させるための紫外線照射効率向上にも資する。
【0041】
以上が本実施例に記載のレンズ鏡筒100の調芯機構の組み立て手順、調芯方法及び固定方法についての説明である。次にレンズ鏡室120をベース部材110から取り外す、解体方法について説明する。
【0042】
ベース部材110からレンズ鏡室120を取り外す際には、全ての取り付けビス140を取り外し、偏芯コロ130、球状コロ150を取り外す。続いて、ベース部材110に締め込まれている偏芯固定軸170を取り外すことで、レンズ鏡室120はベース部材110から取り外されることとなる。偏芯固定軸170の具体的な外し方としては、まず切り欠き部175に器具を係合させ回転させる。すると偏芯固定軸170と偏芯固定カラー180とは調芯されたことで同軸に存在しないため、硬化していた接着剤は回転することができずに負荷がかかり、貫通穴181の内周部内で粉砕される。この際、接着剤の種類によっては粉砕されることなく剥がれ、偏芯固定カラー180に張り付くことも考えられる。前者の種類の接着剤の場合であれば、粉砕された接着剤を吸引器等で除去し、そのまま偏芯固定軸170を回転させる。すると、偏芯固定軸170が第1ネジ穴部112のネジ溝に従ってせり上がることで、レンズ鏡室120に嵌合していた偏芯固定カラー180が外れ、偏芯固定軸170と偏芯固定カラー180はレンズ鏡筒100から同時に外れる。後者の場合も同様に、偏芯固定軸170を回転させることで、偏芯固定軸170、偏芯固定軸に付着した接着剤及び偏芯固定カラー180はレンズ鏡筒100から同時に外れる。以上のようにしてレンズ鏡筒100の解体作業が行われる。
【0043】
またレンズ鏡筒100の解体ではなく、レンズ鏡室120とベース部材110の相対位置のズレを修正するための再調整も可能である。その場合には偏芯固定部160のみを外し、新たな偏芯固定部160と交換し、再調芯を行う。そして最後に接着部190を接着剤で充填し、固定すれば良い。
【0044】
上記のように、本発明においてはレンズ鏡室120とベース部材110の固定に接着剤を使用しているものの、レンズ鏡室120、ベース部材110には直接接着剤が塗布されていない。接着剤は接着部190に塗布されているのみであり、更に接着部190が存在する偏芯固定部160は容易に取り外すことが可能である。従って、レンズの分解が容易であり、その際にレンズ鏡室120とベース部材110が変形、破損する可能性が少ない。また、硬化していた接着剤は貫通穴181の内周部内で粉砕されるので、レンズ鏡筒100の内部に飛散することもない。よって、レンズ鏡筒100の修理や再調整を行う際に、レンズ鏡室120やベース部材110等の諸部材を再利用することが容易となる。
【0045】
また、ピン部171の端面部174が貫通穴181を貫通して外部に位置しているため、ピン部171の端面部174が接着部190に埋没して接着剤が付着することがなく、切り欠き部175に器具を係合させることが容易である。従って、偏芯固定部160は取り外しが容易な構造となっている。
【0046】
(実施例2)
第1の実施例で示したのは本発明を適用した、倒れ方向の調芯機構を有するレンズ鏡筒100だった。それに対し第2の実施例で示すのは本発明を適用した、光軸に直交する平面内を平行に移動させる調芯機構を有するレンズ鏡筒200である。
図8は本発明の第2の実施例を示したレンズ鏡筒200の要部斜視図である。また、
図9は本発明の第2の実施例を示したレンズ鏡筒200の要部分解斜視図である。以下、
図8、
図9を使用して各部材について説明を行う。なお、
図8、
図9は本実施例のレンズ鏡筒200において、調芯機構の説明に必要な要部のみを示している。
【0047】
第2の実施例のレンズ鏡筒200は調芯機構を有し、ベース部材210、レンズ鏡室220、取り付けビス230、ワッシャー231、偏芯固定部160を有している。ここで、偏芯固定部160は実施例1と同様のものである。
【0048】
レンズ鏡室220はレンズエレメントを保持し、偏芯固定カラー180が嵌合する丸穴部221が3箇所、取り付けビス230が挿通するビス穴222が3箇所設けられている。ここでビス穴222の直径は、取り付けビス230の直径より大きく設定されている。また、取り付けビス230はワッシャー231が伴って締め込まれている。
【0049】
ベース部材210は、レンズ鏡室220が固定される部材であり、偏芯固定軸170のネジ部173が締め込まれる第1ネジ穴部211が3箇所、取り付けビス230が締め込まれる第2ネジ穴部212が3箇所設けられている。
【0050】
図10は本発明の第2の実施例を示したレンズ鏡筒200の断面図である。続いて
図10を使用して、本実施例に記載のレンズ鏡筒200の調芯機構の組み立て手順、調芯方法及び固定方法について説明を行う。
【0051】
初めにベース部材210とレンズ鏡室220を係合させる手順を説明する。まず、ベース部材210の第1ネジ穴部211とレンズ鏡室220の丸穴部221が3箇所で重なり合うように、また、第2ネジ穴部212とビス穴222が3箇所で重なり合うように、ベース部材210とレンズ鏡室220の位置関係を調節する。続いて、取り付けビス230をレンズ鏡室220の3箇所のビス穴222に挿通させ、ベース部材210の第2ネジ穴部212に軽く締め込むことで仮留めを行う。続いて、ベース部材210の第1ネジ穴部211に偏芯固定軸170を締め込み、レンズ鏡室220に偏芯固定カラー180を嵌合させる。以上の手順でベース部材210とレンズ鏡室220は係合される。
【0052】
次に、ベース部材210とレンズ鏡室220を仮留めした状態で、調芯作業を行う。調芯作業では、MTF測定器等の調芯治具にレンズ鏡筒200を取り付け、解像性能を観察しながらレンズ鏡室220を光軸と直交する面内で移動させることで調整を行う。ここでベース部材210に取り付けビス230が完全には締め込まれておらず、また
図10に示されるようにビス穴222の直径が取り付けビス230の直径より大きい。従って、レンズ鏡室220は光軸と直交する面内を移動可能である。
【0053】
偏芯作業を行っている際、偏芯固定部160では、偏芯固定カラー180の貫通穴181の内部を偏芯固定軸170が移動する。従って調芯作業では、レンズ鏡室220の可動範囲はピン部171及び貫通穴181の直径によって規制される。
【0054】
ここで、ビス穴222の直径が取り付けビス230の頭部分の直径を超えていれば、偏芯作業中に取り付けビス230の頭部分がビス穴222を挿通してしまう場合が考えられる。しかしワッシャー231が存在することで、取り付けビス230の頭部分の直径が実質的に延長されているため、安定してレンズ鏡室220を固定することが可能となっている。
【0055】
調芯作業を行った後には、偏芯固定部160の接着部190に接着剤を充填する。偏芯固定部160に関しては実施例1と同様であるので、省略する。最後に、仮留めしていた取り付けビス230を完全に締め込むことで、ベース部材210とレンズ鏡筒220の固定は行われる。
【0056】
またレンズ鏡筒200を解体する際も、実施例1と同様に、取り付けビス230と偏芯固定部160を外せばよい。
【0057】
以上のように、本発明は倒れ方向の調芯機構のみならず、光軸と直交する方向の調芯機構にも適用可能である。
【0058】
すなわち本発明は、分解が容易で、かつベース部材及びレンズ鏡室を再利用可能であり、レンズ鏡室の倒れ方向の調芯機構にも適用可能な構造を有するレンズ鏡筒を提供するという目的を、レンズを保持するレンズ保持部材と、固定部材によって前記レンズ保持部材と固定されるベース部材と、前記レンズ保持部材と前記ベース部材との相対位置を調整する調整部材と、を有するレンズ鏡筒であって、前記固定部材は第1凸部と第2凸部とフランジ部とを有し、前記ベース部材に前記第1凸部が固定された偏芯固定軸と、前記第2凸部が挿通される貫通穴を有し、前記レンズ保持部材に嵌合した偏芯固定カラーと、を有し、前記偏芯固定軸と前記偏芯固定カラーとで形成される接着部に接着剤が充填されることで前記レンズ保持部材と前記ベース部材とが固定されることを特徴とする構成によって実現した。
【0059】
なお、本発明にかかるレンズ鏡筒は、本発明が適用される撮像装置に応じて適宜変形される。また、必要に応じて、装置の外寸法の変更による外観の変化、部材間の結合位置など、種々の変形や変更が可能であるが、いずれも本発明の均等の範囲内である。