(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に開示された熱間鍛造後のサスペンション部材は、確かにボールジョイント取付部の軽量化には貢献する。しかし、熱間鍛造によって製造する場合には、上下金型(鍛造型)に所定の抜き勾配を設ける必要があるので、熱間鍛造後のサスペンション部材の肉厚は、パーティングライン(鍛造型の型合せ面)に向うに従って大きくなる(すなわち、形状制約を受ける)。したがって、どうしても、この形状制約による余肉部分が発生してしまい、熱間鍛造後のサスペンション部材の質量が嵩んでしまい、依然として軽量化が阻害されるという問題点があった。ましてや、熱間鍛造でリブ高さを大きくしたサスペンション部材を製造する場合は、上記余肉部分の体積は益々増加し、軽量化にとって、より深刻な問題であった。
【0007】
また、上記特許文献1に開示された熱間鍛造後のサスペンション部材は、熱間鍛造により製造する際に、アルミニウム合金素材の体積を上下金型のキャビティ体積に比べ、常にやや大きくなるように設計する。したがって、上下金型のキャビティに入りきらない素材は、パーティングラインからバリとして排出されていく。このバリは、一般的に、鍛造終了後にトリム加工によって除去されるが、工具とのクリランスの問題から完全に除去することはできず、2〜5mm程度の厚みのバリが残存してしまう。この残存するバリがあることによって、熱間鍛造後のサスペンション部材としては、他部材の可動域と干渉しないための指定の設計領域を実質的に狭くしなければならない。このように、実質的な設計領域が狭くなったとはいえ、所定の機械強度は確保しなければならない(例えば、曲げ中心軸まわりの断面係数は、所定の値を確保しなければならない)ため、どうしても熱間鍛造後のサスペンション部材の断面積も大きくなり(したがって、質量も嵩み)、熱間鍛造後のサスペンション部材の軽量化が阻害されるという問題点があった。
【0008】
発明の目的は、指定の設計領域と所定の機械強度を確保しながらも、熱間鍛造の鍛造型(上下金型)に設定された抜き勾配に基づく形状制約による質量増加や熱間鍛造によるバリ残存によって実質的な設計領域が狭くなることによる軽量化の阻害等を解消し、軽量化を可能にする鍛造サスペンション部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、第1発明に係る鍛造サスペンション部材は、
金属素材から熱間鍛造によって製造されたサスペンション部材であって、
このサスペンション部材の一部の箇所は機械加工によって除去されており、前記機械加工によって除去された箇所は前記熱間鍛造に際して抜き勾配が設定された箇所を含む、ことを特徴とする鍛造サスペンション部材である。
【0010】
また、第2発明に係る鍛造サスペンション部材は、第1発明に係る鍛造サスペンション部材において、
前記機械加工によって除去された後の前記サスペンション部材の表面の勾配は、前記抜き勾配の角度よりも小さいことを特徴とする。
【0011】
また、第3発明に係る鍛造サスペンション部材は、第1発明に係る鍛造サスペンション部材において、
前記機械加工によって除去された箇所は、前記サスペンション部材のリブ外側のバリを含む外周部であることを特徴とする。
【0012】
また、第4発明に係る鍛造サスペンション部材は、第3発明に係る鍛造サスペンション部材において、
前記機械加工によって除去された箇所には、前記サスペンション部材のウエブを含むことを特徴とする。
【0013】
また、第5発明に係る鍛造サスペンション部材は、第1発明に係る鍛造サスペンション部材において、
前記機械加工で除去された箇所の質量は、前記熱間鍛造後のサスペンション部材の質量の10〜20%であることを特徴とする。
【0014】
また、第6発明に係る鍛造サスペンション部材は、第1〜第5発明の内のいずれか1つに係る鍛造サスペンション部材において、
前記金属素材は、アルミニウム合金であることを特徴とする。
【0015】
また、第7発明に係る鍛造サスペンション部材は、第6発明に係る鍛造サスペンション部材において、
前記アルミニウム合金の0.2%耐力が380MPa以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の鍛造サスペンション部材は、
金属素材から熱間鍛造によって製造されたサスペンション部材であって、このサスペンション部材の一部の箇所は機械加工によって除去されており、前記機械加工によって除去された箇所は前記熱間鍛造に際して抜き勾配が設定された箇所を含む、ことを特徴とする。
【0017】
これにより、指定の設計領域と所定の機械強度を確保しながらも、熱間鍛造の鍛造型(上下金型)に設定された抜き勾配に基づく形状制約による質量増加や熱間鍛造によるバリ残存によって実質的な設計領域が狭くなることによる軽量化の阻害等を解消し、軽量化を可能にする鍛造サスペンション部材を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、如何にすれば、指定の設計領域と所定の機械強度を確保しながらも、熱間鍛造の鍛造型(上下金型)に設定された抜き勾配に基づく形状制約による質量増加や熱間鍛造によるバリ残存によって実質的な設計領域が狭くなることによる軽量化の阻害等を解消し、軽量化を可能にする鍛造サスペンション部材を実現できるのか鋭意検討した。その結果、予め指定の設計領域よりも大きな形状となるように、金属素材から熱間鍛造によってサスペンション部材を製造しておき、そこから前記設計領域以内に収まるように、「前記サスペンション部材の一部の箇所を機械加工によって除去し、前記機械加工によって除去された箇所が前記熱間鍛造に際して抜き勾配が設定された箇所を含む」ように構成すれば目的とする鍛造サスペンション部材を実現できることを初めて見出した。ここで、上記指定の設計領域とは、「熱間鍛造後の鍛造サスペンション部材が他部材の可動域と干渉しない設計領域」を言う。また、上記抜き勾配とは、「型からの製品の離型を容易にするために、型表面および/または製品外周部に設けられた、型の離型方向に対する傾き」を言う。以下、本発明について、実施形態を例示しつつ、詳細に説明する。
【0020】
(実施形態1)
図1は本発明の鍛造サスペンション部材の実施形態1であり、熱間鍛造後のサスペンション部材(機械加工を行う前の形状)とこの熱間鍛造後のサスペンション部材の他部材と結合する部位以外の箇所(例えば、リブ外側のバリを含む外周部)に機械加工を行う領域とともに示した鍛造サスペンション部材の平面図、
図2は
図1のAA断面図である。また、
図1の紙面に直交する方向が自動車の上下方向を指す。
【0021】
図1において、1は金属素材から熱間鍛造によって製造されたサスペンション部材(機械加工を行う前の形状)、2は自動車の車軸側に取り付けられるボールジョイント支持部、3は車体側に取り付けられる車体側係合部としてのブッシュ支持部、4は車体側に取り付けられる車体側係合部としてのブッシュ支持部、5はアーム部9におけるボールジョイント支持部2(一端側)からブッシュ支持部4(他端側)に繋がる周縁部としてのリブ、6はボールジョイント支持部2(一端側)からブッシュ支持部3(中間側)に繋がる周縁部としてのリブ、7はブッシュ支持部3(中間側)からブッシュ支持部4(他端側)に繋がる周縁部としてのリブ、8はリブ5とリブ6とそれぞれ直交する中央部としてのウエブおよびリブ5とリブ7とそれぞれ直交する中央部としてのウエブである。なお、アーム部9は、リブ5、6、7とウエブ8から構成されている。また、サスペンション部材1は、アーム部9、ボールジョイント支持部2とブッシュ支持部3、4とから構成されている。また、このサスペンション部材1は、ボールジョイント支持部2、ブッシュ支持部3、4を頂点とし、これらをリブ5、6、7やウエブ8を有するアーム部9にてつなぐ、平面視で略三角形の一体形状(全体形状)に構成されている。
【0022】
また、上記熱間鍛造では、上下金型を用いて製造され、鍛造サスペンション部材の断面形状は、後記
図2で説明するように略H字状である。ただし、断面形状は、略H字状以外に、略U字状、または略T字状とすることも多い。ここで、上記熱間鍛造におけるプレス方向と略平行な辺を上述したリブ、プレス方向と略直交する辺を上述したウエブと呼称する。
【0023】
上記金属素材としては、例えば、アルミニウム、鉄、マグネシウム、およびこれらを主成分とする合金を挙げることができる。また、ここで、アルミニウム合金であれば、要求される、高強度、耐応力腐食割れ性などの高い耐食性乃至耐久性を前提として保証する必要がある。このため、アルミニウム合金の中でも、JISあるいはAAに規格される6000系アルミニウム合金からなることが好ましい。この6000系Al合金の具体的な化学成分組成は、質量%で、主要元素を、Si:0.8〜1.3%、Mg:0.70〜1.3%を含有し、これに必要により、Cu、Zn、Fe、Mn、Cr、Zr、Tiなどを加え、残部Alおよび不可避的不純物からなるものとする。また、鍛造サスペンション部材をアルミニウム合金化した場合は、ボールジョイント支持部やブッシュ支持部等の支持部を一体で製造できるようになるため、鉄鋼材料製のサスペンション部材で必要であった支持部とアーム部との接合コストが不要となるため、素材費の増加分を吸収でき、部品を軽くするために必要なコストが低減できる。また、このような支持部との一体製造化が図られることで、他の金属素材に比べて、アルミニウム合金化がより進みやすい。
【0024】
このような組成を有するアルミニウム合金鋳塊素材を均質化熱処理後に、各実施形態(後記図面参照)に示す断面形状を有したサスペンション部材1に、上下金型を用いた熱間鍛造を行って安価に製造でき、量産化も可能である。そして、この熱間鍛造によって製造されたサスペンション部材1に、溶体化および焼入れ処理や、その後の人工時効処理(T6またはT7などの調質)を施し、所定の強度(0.2%耐力が380MPa以上)を満足させることで、より一層の軽量化が図られる。
【0025】
図2は
図1のAA断面図であり、熱間鍛造後のサスペンション部材1の断面形状Mが上述した略H字状である。また、
図2に符号Bで示す一点鎖線は、サスペンション部材1における曲げ中心軸である。また、
図2に示すように、熱間鍛造後のサスペンション部材1の他部材と結合する部位以外の箇所(例えば、リブ5、6の抜き勾配に沿う外側面5a、5b、6a、6bとバリ5c、6cを含む外周部の領域10、11)を機械加工で除去することにより、指定の設計領域(以下、単に設計領域とも言う)N以内に収まる鍛造サスペンション部材を実現できる。なお、
図2に示すように、この機械加工によって除去された後の前記サスペンション部材の表面の勾配は、前記抜き勾配の角度よりも小さいことを特徴とする。
【0026】
このような機械加工が施されたことにより、指定の設計領域と所定の機械強度を確保しながらも、熱間鍛造の鍛造型(上下金型)に設定された抜き勾配に基づく形状制約による質量増加やバリ残存によって実質的な設計領域が狭くなることによる軽量化の阻害を解消し、大幅な軽量化が可能となる。これは、
図2に示す断面形状Mの断面積を可能な限り小さくしながらも、曲げ中心軸Bまわりの所定の断面2次モーメントIや断面係数Zを確保するには、熱間鍛造後のサスペンション部材1の断面形状Mにおけるハッチングを施した領域10、11に対して機械加工を施し、設計領域N以内に収め、かつ、曲げ中心軸Bからできるだけ遠方に(すなわち、Iでは3乗、Zでは2乗で寄与する曲げ中心軸Bからできるだけ離れた距離に)、材料を効率的に配置することが重要であるという本発明のメカニズムに立脚しているからに他ならない。すなわち、バリ5c、6cやリブ5、6の抜き勾配に基づく外周部の領域10、11は、曲げ中心軸Bから最も遠方であり、上記IやZへの寄与が最も大きい位置に材料を効率的に配置することを阻害しており、かつ、断面積増加の要因ともなっている。例えば、
図2に示すように、設計領域N以内に収まるように機械加工を施し、機械加工後のリブ5、6の左右両端までの余肉のない有効な距離Wを10%増やすことができれば、前記Iが一定であれば断面積は、熱間鍛造後の断面形状Mを有したサスペンション部材1の約0.83倍、前記Zが一定であれば断面積は、熱間鍛造後の断面形状Mを有したサスペンション部材1の約0.91倍にでき、大幅に軽量化を図ることが可能である。また、後述するウエブ8の過剰な肉厚やリブ5、6等のコーナーRや隅Rの肉が曲げ中心軸Bからの距離の短い位置に多く配置されることも、上記IやZへの寄与が最も大きい位置に材料を効率的に配置することを阻害しており、かつ、断面積増加の要因ともなっている。この解消に関しては、後述する。
【0027】
ここで、抜き勾配は3〜5°であり、機械加工は3軸のエンドミルを備えたNC加工機で行った。なお、機械加工は複雑な3次元形状である場合は、5軸のエンドミルを備えたNC加工機が望ましく、機械加工で除去する部位が狭い場合や
図2に示すような比較的単純な場合は、3軸のエンドミルを備えたNC加工機も可能である。また、本発明で言う機械加工とは、ワークと加工工具(例えば、エンドミル)が直接接触する加工、レーザービームや電子ビームのようなワークと非接触なエネルギービーム加工等の総称である。
また、機械加工プロセスのタイミングは、ゴムブッシュやボールジョイントなど他部材との結合部へ機械加工を施すときに同時に行うのが最も合理的であるが、熱間鍛造後のバリのトリム加工直後や熱処理前後とすることも可能である。また、機械加工時間は、工具の送り速度と加工距離によって決まるが、一般にアルミニウム合金は、工具メーカ推奨の送り速度が鋼材に比べて1桁近く早く分速500〜2000mm程度であり、機械加工時間を短縮できる。例えば、代表的な略L字扁平形状の鍛造サスペンション部材の外周長約1200mmの全周を機械加工する場合、36秒〜144秒で加工できると試算できる。
【0028】
また、上記構成を採用した本発明の鍛造サスペンション部材は、設計自由度の向上(任意の肉厚、高さの形状が可能になる)および他部材の可動範囲との干渉クリアランスの限界まで材料を配置できることによって、従来の鍛造サスペンション部材よりも最大約20%の軽量化を実現できる。
【0029】
また、機械加工を組合せることで、これまで応力集中によって金型割れが生じやすかった、例えばリブの形状を応力集中の少ない形状とすることが可能になり、型応力低減による金型の長寿命化も可能となる(すなわち、金型コストの低減になる)。
【0030】
また、従来の鍛造サスペンション部材では、欠肉やしわなどの鍛造欠陥が直接不良率増加の要因となるが、本発明の鍛造サスペンション部材では、機械加工で除去される上記箇所に存在する鍛造欠陥自体は不良率増加の問題とならないという利点もある。また、従来ならば熱間鍛造による変形量の大きい場所は、材料表面で焼付きが生じやすくなり、これにより焼付きが生じた製品は、不良品として処分されるかあるいは表面の仕上げ加工を施す必要があるが、本発明の鍛造サスペンション部材では、機械加工で除去される上記箇所であれば問題にならないという利点もある(すなわち、不良率の低減になる)。
【0031】
また、本発明の鍛造サスペンション部材では、機械加工で除去される上記箇所の表面に仮に割れや焼付き、欠肉などといった欠陥が存在しても、機械加工で除去されてしまうため、割れや焼付き、欠肉などといった欠陥を検査することが不要となる(すなわち、検査コストの削減になる)。また、機械加工で除去される上記箇所ならば、微小な欠陥を仕上げ直すことも不要となる。
【0032】
図3は
図1に示した機械加工を行う領域に加えて、さらに追加して機械加工を行う領域(例えば、ボールジョイント支持部2の周囲やブッシュ支持部3、4の周囲)とともに示した鍛造サスペンション部材の平面図である。このようにすることで、
図1に示す鍛造サスペンション部材に比べてさらに軽量化に貢献する。
【0033】
以下、本実施形態の変形例、本発明の別の実施形態やそれらの変形例について、説明する。これらは、いずれも上述した本発明のメカニズムに立脚したものである。
【0034】
(変形例1)
図4は
図3に示した機械加工を行う領域に加えて、さらに追加して機械加工を行う領域(例えば、ウエブ8)とともに示した鍛造サスペンション部材の平面図である。このようにすることで、
図3に示す鍛造サスペンション部材に比べて一層の軽量化に貢献する(詳細は、後記
図5を参照)。
【0035】
図5は
図4のAA断面図であり、
図2に示した機械加工を行う領域の変形例1を示した断面図である。本変形例1に関しては、
図2に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図5において、ウエブ8の紙面上端側の領域12を機械加工で除去し、ウエブ8を薄肉化することで、設計領域N以内に収まるばかりでなく、
図2に示す鍛造サスペンション部材に比べて軽量化率がさらに高くなる鍛造サスペンション部材を実現できる。これは、機械加工を行う領域として、曲げ中心軸Bから近い距離にあるウエブ8も加え、断面積の減少効果を高めたものである。
【0036】
(変形例2)
図6は
図5に示した機械加工を行う領域の変形例2を示した断面図である。本変形例2に関しては、
図5に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図6において、ウエブ8の紙面上端側の領域に加えてリブ5、6の各上部内側の領域を合わせた領域13を機械加工で除去し、ウエブ8を薄肉化すると同時にリブ5、6の各上部を薄肉化する(すなわち、リブ5、6の各上部においては、曲げ中心軸Bからより遠方に集中的に材料を配置する)ことで、設計領域N以内に収まるばかりでなく、
図5に示す鍛造サスペンション部材に比べて軽量化率がさらに高い鍛造サスペンション部材を実現できる。
【0037】
(変形例3)
図7は
図6に示した機械加工を行う領域の変形例3を示した断面図である。本変形例3に関しては、
図6に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図7においては、機械加工を行う領域として、ウエブ8を中心に紙面の上下対称となるように、ウエブ8の紙面下端側の領域に加えてリブ5、6の各下部内側の領域を合わせた領域14も対象にしているので、設計領域N以内に収まるばかりでなく、
図6に示す鍛造サスペンション部材に比べて軽量化率がさらに高い鍛造サスペンション部材を実現できる。これは、鍛造サスペンション部材の断面形状として、理想形に近いものである。
【0038】
(変形例4)
図8は
図5に示した機械加工を行う領域の変形例4を示した断面図である。本変形例4に関しては、
図5に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図8においては、機械加工を行う領域として、
図5に示す領域14に加えて、紙面上端側のウエブ8の左右両端から上部リブ5、6の各内側の根元に食い込むような領域も合わせた領域15も対象にしているので、設計領域N以内に収まるばかりでなく、
図5に示す鍛造サスペンション部材に比べて軽量化率が少し高い鍛造サスペンション部材を実現できる。これも、当然上述した本発明のメカニズムに立脚したものである。
【0039】
(変形例5)
図9は
図2に示した機械加工を行う領域の変形例5を示した断面図である。本変形例5に関しては、
図2に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図9においては、
図2に示す機械加工を行う領域10、11に比べて、外側面5a、5b、6a、6bにおけるバリ5c、6cに近い側の領域16、17を集中的に機械加工で除去することにより、設計領域N以内に収まるばかりでなく、軽量化率の高い鍛造サスペンション部材を実現している。
【0040】
(変形例6)
図10は
図5に示した機械加工を行う領域の変形例6を示した断面図である。本変形例6に関しては、
図5に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図10においては、
図5に示す機械加工を行う領域10に比べて大きな面積となる、外側面5a、5b、バリ5cを含む外周部の領域18を集中的に機械加工で除去し、逆に
図5に示す機械加工を行う領域11に相当する箇所の機械加工による除去は実施せずに、設計領域N以内に収めると同時に、軽量化率の高い鍛造サスペンション部材を実現している。
【0041】
(変形例7)
図11は
図2に示した機械加工を行う領域の変形例7を示した断面図である。本変形例7に関しては、
図2に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図11に示す設計領域Oは、
図2に示す設計領域Nに比べて、左側の領域が狭くなり、逆に右側の領域が拡張された異形を呈した形状の設計領域となっている。これに対応するように、
図11に示す機械加工を行う領域18は、
図2に示す機械加工を行う領域10に比べて大きな面積となっている。これにより、設計領域O以内に収めると同時に、軽量化率の高い鍛造サスペンション部材を実現している。
【0042】
(実施形態2)
図12は本発明の鍛造サスペンション部材の実施形態2であり、
図2に示した断面形状と異なる断面形状を有した熱間鍛造後のサスペンション部材に機械加工を行う領域とともに示した断面図である。
図12においては、熱間鍛造後のサスペンション部材1の断面形状Pが略U字状である。また、
図12に符号Cで示す一点鎖線は、サスペンション部材1における曲げ中心軸である。また、
図12に示すように、熱間鍛造後のサスペンション部材1の他部材と結合する部位以外(例えば、リブ5、6の抜き勾配に沿う外側面5a、5b、6a、6bとバリ5c、6cを含む外周部の領域20、21)を機械加工で除去することにより、設計領域Q以内に収まる鍛造サスペンション部材を実現できる。
【0043】
このような機械加工が施されたことにより、熱間鍛造の上下金型(鍛造型)に設定された抜き勾配に基づく形状制約による質量増加やバリ残存によって実質的な設計領域が狭くなることによる軽量化の阻害を解消し、大幅な軽量化が可能となる。これは、
図12に示す断面形状Pの断面積を可能な限り小さくしながらも、曲げ中心軸Cまわりの所定の断面2次モーメントIや断面係数Zを確保するには、熱間鍛造後のサスペンション部材1の断面形状Pにおけるハッチングを施した領域20、21に対して機械加工を施し、設計領域Q以内に収め、かつ、曲げ中心軸Cからできるだけ遠方に(すなわち、Iでは3乗、Zでは2乗で寄与する曲げ中心軸Cからできるだけ離れた距離に)、材料を効率的に配置することが重要であるという上述した本発明のメカニズムに立脚しているからに他ならない。
【0044】
(変形例8)
図13は
図12に示した機械加工を行う領域の変形例8を示した断面図である。本変形例8に関しては、
図12に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図13において、ウエブ8の紙面上端側の領域に加えてリブ5、6の各上部内側の領域を合わせた領域22を機械加工で除去し、ウエブ8を薄肉化すると同時にリブ5、6の各上部を薄肉化する(すなわち、リブ5、6の各上部においては、曲げ中心軸C(図示せず)からより遠方に集中的に材料を配置する)ことで、設計領域Q以内に収まるばかりでなく、
図12に示す鍛造サスペンション部材に比べて軽量化率がさらに高い鍛造サスペンション部材を実現できる。
【0045】
(変形例9)
図14は
図12に示した機械加工を行う領域の変形例9を示した断面図である。本変形例9に関しては、
図12に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図14に示す設計領域Rは、
図12に示す設計領域Qに比べて、右側の領域のみが狭くなった異形を呈した形状の設計領域となっている。これに対応するように、
図14に示す機械加工を行う領域24は、
図12に示す機械加工を行う領域21に比べて大きな面積となっている。ただし、
図14に示す機械加工を行う領域23は、
図12に示す機械加工を行う領域20と略同じ面積の機械加工を行う領域である。これにより、設計領域R以内に収めると同時に、軽量化率の高い鍛造サスペンション部材を実現している。
【0046】
(実施形態3)
図15は本発明の鍛造サスペンション部材の実施形態3であり、
図2や
図12に示した断面形状とさらに異なる断面形状を有した熱間鍛造後のサスペンション部材に機械加工を行う領域とともに示した断面図である。
図15においては、熱間鍛造後のサスペンション部材1の断面形状Sが略逆T字状である。また、
図15に符号Dで示す一点鎖線は、サスペンション部材1における曲げ中心軸である。また、
図15に示すように、熱間鍛造後のサスペンション部材1の他部材と結合する部位以外(例えば、ウエブ30の抜き勾配に沿う外側面30a、30b、30d、30eとバリ30c、30fを含む外周部の領域32、33)を機械加工で除去することにより、設計領域T以内に収まる鍛造サスペンション部材を実現できる。
【0047】
このような機械加工が施されたことにより、熱間鍛造の上下金型(鍛造型)に設定された抜き勾配に基づく形状制約による質量増加やバリ残存によって実質的な設計領域が狭くなることによる軽量化の阻害を解消し、大幅な軽量化が可能となる。これは、
図15に示す断面形状Sの断面積を可能な限り小さくしながらも、曲げ中心軸Dまわりの所定の断面2次モーメントIや断面係数Zを確保するには、熱間鍛造後のサスペンション部材1の断面形状Sにおけるハッチングを施した領域32、33に対して機械加工を施し、設計領域T以内に収め、かつ、曲げ中心軸Dからできるだけ遠方に(すなわち、Iでは3乗、Zでは2乗で寄与する曲げ中心軸Dからできるだけ離れた距離に)、材料を効率的に配置することが重要であるという上述した本発明のメカニズムに立脚しているからに他ならない。
【0048】
(変形例10)
図16は
図15に示した機械加工を行う領域の変形例10を示した断面図である。本変形例10に関しては、
図15に示す機械加工を行う領域との差異についてのみ説明する。
図16においては、機械加工を行う領域として、
図15に示す領域32、33における各バリ30c、30f部分に相当する領域34、35に加えて、ウエブ30の紙面上端側とリブ31が交わる部分のリブ31の根元において左右から食い込むような領域36、37も合わせた領域も対象にしているので、設計領域U以内に収まるばかりでなく、
図5に示す鍛造サスペンション部材に近い軽量化率の鍛造サスペンション部材を実現できる。
【実施例】
【0049】
以下、
図17(a)〜(i)に示すアルミニウム合金製鍛造サスペンション部材の断面形状を用いて、本発明の軽量化効果を検証した。
図17においては、上述した
図2に示すような略H字状の断面形状をした一般的な断面3パターン(A、B、C)を対象とした。この3つの断面形状パターンは、下記表1および
図17に示すように、それぞれ断面形状パターンA{
図17(a)、(b)、(c)参照}が幅W=63.74mm、断面形状パターンB{
図17(d)、(e)、(f)参照}が幅W=85.74mm、断面形状パターンC{
図17(g)、(h)、(i)参照}が幅W=121.74mmに設計されている。また、
図17(a)〜(i)に示す鍛造サスペンション部材は、いずれも抜き勾配=5°、コーナーR=5mm、隅R=8mm、ウエブ8の最小肉厚=6mm、リブ5、6の最小肉厚10mmを形状制約としている。また、
図17(a)〜(i)に示す鍛造サスペンション部材でも、熱間鍛造後のサスペンション部材(機械加工を行う前の形状)1の時点においては、バリ厚3mmを含んでいる。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1および
図17(a)、(b)、(c)に示すように、
図17(a)が断面形状パターンAにおける基準断面(バリ付;比較例)で従来のようにバリを含む外周部へ機械加工を施してない熱間鍛造後のままの断面形状を有した鍛造サスペンション部材であり、
図17(b)、(c)が本発明例であり、バリを含むリブ5、6の外周部へそれぞれ機械加工を行った断面形状を有した鍛造サスペンション部材であり、
図17(b)と(c)ではリブ5、6の高さを変えてある。また、
図17(a)〜(c)においては、
図2に示す位置と同じ位置に設けられる曲げ中心軸(図示せず)まわりの面内曲げの断面係数Zが一致するよう断面設計され、本発明の軽量化率を検証できるように設定してある(上記表1参照)。
【0052】
同様に、上記表1および
図17(d)、(e)、(f)に示すように、
図17(d)が断面形状パターンBにおける基準断面(バリ付;比較例)で従来のようにバリを含む外周部へ機械加工を施してない熱間鍛造後のままの断面形状を有した鍛造サスペンション部材であり、
図17(e)、(f)が本発明例であり、バリを含むリブ5、6の外周部へそれぞれ機械加工を行った断面形状を有した鍛造サスペンション部材であり、
図17(e)と(f)ではリブ5、6の高さを変えてある。また、
図17(d)〜(f)においては、
図2に示す位置と同じ位置に設けられる曲げ中心軸(図示せず)まわりの面内曲げの断面係数Zが一致するよう断面設計され、本発明の軽量化率を検証できるように設定してある(上記表1参照)。
【0053】
同様に、上記表1および
図17(g)、(h)、(i)に示すように、
図17(g)が断面形状パターンCにおける基準断面(バリ付;比較例)で従来のようにバリを含む外周部へ機械加工を施してない熱間鍛造後のままの断面形状を有した鍛造サスペンション部材であり、
図17(h)、(i)が本発明例であり、バリを含むリブ5、6の外周部へそれぞれ機械加工を行った断面形状を有した鍛造サスペンション部材であり、
図17(h)と(i)ではリブ5、6の高さを変えてある。また、
図17(g)〜(i)においては、
図2に示す位置と同じ位置に設けられる曲げ中心軸(図示せず)まわりの面内曲げの断面係数Zが一致するよう断面設計され、本発明の軽量化率を検証できるように設定してある(上記表1参照)。
【0054】
また、3つの断面形状パターン(A、B、C)に関して、それぞれ上記表1内に示す(1){リブ高さ一定;それぞれ、
図17(b)、(e)、(h)に対応}は、高い軽量化率を重視するために、リブ5、6の高さをそれぞれ比較例である
図17(a)、(d)、(g)と同一にした例である。また、同(2){リブ高さ可変;それぞれ、
図17(c)、(f)、(i)に対応}は、熱間鍛造しやすい形状に近づけることで不良率低減や金型の長寿命化、機械加工の速度を重視するために、リブ5、6の高さをそれぞれ
図17(b)、(e)、(h)に比べて低くした例である。
【0055】
上記表1の(1)(すなわち、それぞれ
図17(b)、(e)、(h)に示すように、機械加工が行なわれた断面形状をなす)の場合は、それぞれ約26%、約16%、約9%の軽量化率(断面積Sは、それぞれ約20%、約10%、約10%の減少率)が可能であった。また、上記表1の(2)(すなわち、それぞれ
図17(c)、(f)、(i)に示すように、機械加工が行なわれた断面形状をなす)の場合は、それぞれ約17%、約11%、約7%の軽量化率(断面積Sは、それぞれ約10%、約10%、約10%の減少率)が可能であった。なお、上記表1の(1)、(2)ともに、鍛造サスペンション部材の断面の幅Wが狭いほど、それぞれ軽量化率は高くなった。このように、本発明を適用することによって、従来のアルミニウム合金製鍛造サスペンション部材から約10〜20%前後の軽量化を実現できることが判明した。
【0056】
なお、本実施例においては、バリを含むリブ5、6の外周部へそれぞれ機械加工を行った場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。上述したように、ウエブ8に対しても機械加工を施し薄肉化することで、軽量化率はさらに高くできる。例えば、3つの断面形状パターン(A、B、C)の(1)において、ウエブ8の肉厚を6mmから4mmに薄くすることで、強度上への影響は小さいにも拘らず、約6%、約10%、約14%のさらなる軽量化がそれぞれ可能となる。この場合は、鍛造サスペンション部材の断面の幅Wが広いほど、それぞれ軽量化率は高くなった。