特許第6753703号(P6753703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753703化合物半導体基板、ペリクル膜、および化合物半導体基板の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753703
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】化合物半導体基板、ペリクル膜、および化合物半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20200831BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20200831BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20200831BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C23C16/42
   C23C16/56
   H01L21/308 B
【請求項の数】17
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-113656(P2016-113656)
(22)【出願日】2016年6月7日
(65)【公開番号】特開2017-150064(P2017-150064A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-30235(P2016-30235)
(32)【優先日】2016年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】奥 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】秀 一郎
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−310170(JP,A)
【文献】 特開2008−056499(JP,A)
【文献】 特開2014−240340(JP,A)
【文献】 特開2015−202990(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/188710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 16/00−16/56
H01L 21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の平面形状を有するSi基板と、
前記Si基板の一方の主面に形成され、20nm以上10μm以下の厚さを有するSiC膜とを備え、
前記SiC膜は、前記Si基板の他方の主面には形成されていない、化合物半導体基板。
【請求項2】
前記SiC膜の表面に対して垂直な平面で切った断面で見た場合に、前記Si基板の幅は、前記SiC膜から離れるに従って減少する、請求項1に記載の化合物半導体基板。
【請求項3】
前記SiC膜の一方の主面に形成された、SiCとは異なる膜をさらに備えた、請求項1または2に記載の化合物半導体基板。
【請求項4】
前記SiCとは異なる膜は、グラフェン、グラファイト、またはGaNよりなる、請求項3に記載の化合物半導体基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物半導体基板を用いたペリクル膜。
【請求項6】
Si基板の一方の主面にSiC膜を形成する工程と、
前記Si基板の他方の主面の少なくとも一部をウエットエッチングにより除去する工程とを備え、
前記Si基板の前記他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、前記ウエットエッチングに用いる薬液に対して前記Si基板および前記SiC膜を相対的に動かす、化合物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記Si基板の前記他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、前記Si基板および前記SiC膜を、前記SiC膜の一方の主面に対して平行な平面内の方向に動かす、請求項6に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記Si基板の前記他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、前記Si基板および前記SiC膜を回転させた状態で、前記ウエットエッチングに用いる薬液を前記Si基板の前記他方の主面に注入する、請求項7に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記Si基板の前記他方の主面の中央部にSiを底面とする凹部を形成する工程をさらに備え、
前記Si基板の前記他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、前記凹部の底面に前記SiC膜を露出させる、請求項6〜8のいずれかに記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記Si基板の前記他方の主面の中央部に前記凹部を形成する工程の後で、前記Si基板の前記一方の主面に前記SiC膜を形成する工程を行う、請求項9に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記Si基板の前記一方の主面に前記SiC膜を形成する工程の後で、前記Si基板の前記他方の主面の中央部に前記凹部を形成する工程を行う、請求項9に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記Si基板の前記他方の主面の中央部に前記凹部を形成する工程において、前記Si基板の前記他方の主面に形成された酸化膜または窒化膜よりなるマスク層をマスクとして、前記Si基板の前記他方の主面の中央部をウエットエッチングにより除去する、請求項9〜11のいずれかに記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記SiC膜を形成する工程において、前記Si基板の前記一方の主面、側面、および前記Si基板の前記他方の主面の外周部に前記SiC膜を形成し、
前記Si基板の前記他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、前記Si基板の前記他方の主面の前記外周部に形成された前記SiC膜をマスクとして、前記Si基板の前記他方の主面を除去する、請求項6〜8のいずれかに記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記Si基板の前記他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、前記ウエットエッチングに用いる薬液としてフッ酸および硝酸を含む混酸を用いる、請求項6〜13のいずれかに記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記Si基板の前記他方の主面の少なくとも一部を除去する工程の後で、前記SiC膜の一方の主面にGaN膜を形成する工程をさらに備えた、請求項6〜14のいずれかに記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記SiC膜の一部をグラフェン膜またはグラファイト膜に変化させる工程をさらに備えた、請求項6〜14のいずれかに記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項17】
前記SiC膜の一方の主面にグラフェン膜またはグラファイト膜を積層して形成する工程をさらに備えた、請求項6〜14のいずれかに記載の化合物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板、ペリクル膜、および化合物半導体基板の製造方法に関し、より特定的には、SiC(炭化ケイ素)膜を備えた化合物半導体基板、ペリクル膜、および化合物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、Si(ケイ素)に比べて耐熱性および耐電圧性に優れ、電子デバイスとして使用した場合の電力損失が小さい。このため、SiCは次世代の半導体材料として、たとえば、高性能・省電力のインバータ機器、家庭電化製品用パワーモジュール、または電気自動車用パワー半導体素子などへの利用が進んでいる。
【0003】
また、SiCは、Siに比べて高いヤング率、高温での高い降伏強度、および高い化学的安定性を有しているので、SiCをMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)として利用することが検討されている。さらに、SiCは、高い光透過率を有しているため、これらの性質を利用した他の用途も検討されている。
【0004】
SiC膜は、通常、Si基板上にSiC膜を形成した後、Si基板の一部または全部をエッチングすることにより形成される。Si基板をエッチングする際には、SiC膜を形成したSi基板が薬液中に浸漬される。SiC膜を形成する技術は、たとえば下記特許文献1〜3などに開示されている。
【0005】
下記特許文献1には、Si基板の表面上に約1μmの厚さのSiC膜を形成し、SiC膜のいずれか一方の面を任意の面積で除去することで基板開口部を形成し、SiC膜をマスクとして基板開口部を通じてSi基板をエッチングする技術が開示されている。Si基板をエッチングする際には、フッ酸と硝酸の混合液が使用されている。
【0006】
下記特許文献2には、SiC膜を含むX線マスクを製造する技術が開示されている。この技術では、Siウエハ上に2μmの厚さのSiC膜を形成し、SiC膜上に保護膜およびX線吸収膜を形成し、Siウエハの下面に耐エッチング物質をリング状に塗布し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてSiウエハの中央部を除去する。
【0007】
下記特許文献3には、補強部を含むSi基板の一方の面に3C−SiC層を形成し、フッ化水素酸や硝酸などを混合したエッチング液でSi基板を溶解する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−310170号公報
【特許文献2】特開平07−118854号公報
【特許文献3】特開2015−202990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
SiC膜には薄膜化が要求されている。たとえば、SiCを利用したMEMSの場合には、高感度化の観点からSiCの薄膜化が要求されている。また、SiCを利用したペリクルの場合には、さらなる光透過性の向上などの観点からSiCの薄膜化が要求されている。
【0010】
しかし、従来の技術ではSiC膜を薄膜化することができなかった。SiC膜を薄膜化しようとすると(たとえば10μm以下の厚さにしようとすると)、SiC膜が厚い場合と比較して機械的強度が低くなるため、Si基板のエッチング中にSiC膜にクラックが入ったり、Si基板からSiC膜が剥がれたりする現象が起きていた。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、SiC膜の薄膜化を図ることのできる化合物半導体基板、ペリクル膜、および化合物半導体基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一の局面に従う化合物半導体基板は、環状の平面形状を有するSi基板と、Si基板の一方の主面に形成され、20nm以上10μm以下の厚さを有するSiC膜とを備え、SiC膜は、Si基板の他方の主面には形成されていない。
【0013】
上記化合物半導体基板において好ましくは、SiC膜の表面に対して垂直な平面で切った断面で見た場合に、Si基板の幅は、SiC膜から離れるに従って減少する。
【0014】
上記化合物半導体基板において好ましくは、SiC膜の一方の主面に形成された、SiCとは異なる膜をさらに備える。
【0015】
上記化合物半導体基板において好ましくは、SiCとは異なる膜は、グラフェン、グラファイト、またはGaN(窒化ガリウム)よりなる。
【0016】
本発明の他の局面に従うペリクル膜は、上述の化合物半導体基板を用いたものである。
【0017】
本発明のさらに他の局面に従う化合物半導体基板の製造方法は、Si基板の一方の主面にSiC膜を形成する工程と、Si基板の他方の主面の少なくとも一部をウエットエッチングにより除去する工程とを備え、Si基板の他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、ウエットエッチングに用いる薬液に対してSi基板およびSiC膜を相対的に動かす。
【0018】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、Si基板およびSiC膜を、SiC膜の一方の主面に対して平行な平面内の方向に動かす。
【0019】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、Si基板およびSiC膜を回転させた状態で、ウエットエッチングに用いる薬液をSi基板の他方の主面に注入する。
【0020】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の他方の主面の中央部にSiを底面とする凹部を形成する工程をさらに備え、Si基板の他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、凹部の底面にSiC膜を露出させる。
【0021】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の他方の主面の中央部に凹部を形成する工程の後で、Si基板の一方の主面にSiC膜を形成する工程を行う。
【0022】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の一方の主面にSiC膜を形成する工程の後で、Si基板の他方の主面の中央部に凹部を形成する工程を行う。
【0023】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の他方の主面の中央部に凹部を形成する工程において、Si基板の他方の主面に形成された酸化膜または窒化膜よりなるマスク層をマスクとして、Si基板の他方の主面の中央部をウエットエッチングにより除去する。
【0024】
上記製造方法において好ましくは、SiC膜を形成する工程において、Si基板の一方の主面、側面、およびSi基板の他方の主面の外周部にSiC膜を形成し、Si基板の他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、Si基板の他方の主面の外周部に形成されたSiC膜をマスクとして、Si基板の他方の主面を除去する。
【0025】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の他方の主面の少なくとも一部を除去する工程において、ウエットエッチングに用いる薬液としてフッ酸および硝酸を含む混酸を用いる。
【0026】
上記製造方法において好ましくは、Si基板の他方の主面の少なくとも一部を除去する工程の後で、SiC膜の一方の主面にGaN膜を形成する工程をさらに備える。
【0027】
上記製造方法において好ましくは、SiC膜の一部をグラフェン膜またはグラファイト膜に変化させる工程をさらに備える。
【0028】
上記製造方法において好ましくは、前記SiC膜の一方の主面にグラフェン膜またはグラファイト膜を形成する工程をさらに備える。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、SiC膜の薄膜化を図ることのできる化合物半導体基板、ペリクル膜、および化合物半導体基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の構成を示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態において、SiC膜12の表面12aに対して垂直な方向から見た場合の化合物半導体基板1の構成を示す平面図である。
図3】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の第2の工程を示す断面図である。
図5図4に示す工程の変形例の第1の工程を示す断面図である。
図6図4に示す工程の変形例の第2の工程を示す断面図である。
図7】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の第3の工程を示す断面図である。
図8】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の第4の工程を示す断面図である。
図9】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の第5の工程を示す断面図である。
図10】本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第1の方法を模式的に示す図である。
図11】本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第2の方法を模式的に示す図である。
図12】本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第3の方法を模式的に示す図である。
図13図1に示す化合物半導体基板1におけるA部拡大図である。
図14】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の変形例の第1の工程を示す断面図である。
図15】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の変形例の第2の工程を示す断面図である。
図16】本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板1の構成を示す断面図である。
図17】本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図18】本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法の第2の工程を示す断面図である。
図19】本発明の第2の実施の形態における、CVD装置内でSi基板11を保持する方法の一例を示す平面図である。
図20】本発明の第3の実施の形態における化合物半導体基板1aの構成を示す断面図である。
図21】本発明の第3の実施の形態における、AlN膜21およびGaN膜22の成膜条件の一例を説明するグラフである。
図22】本発明の第4の実施の形態における化合物半導体基板1bの構成を示す断面図である。
図23】本発明の第4の実施の形態における化合物半導体基板1bの製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図24】本発明の第4の実施の形態における化合物半導体基板1bの製造方法の第2の工程を示す断面図である。
図25】本発明の第5の実施の形態における化合物半導体基板1の使用方法の一例を示す断面図である。
図26】本発明の一実施例において、本発明例のスピンエッチング中のSi基板の裏面を撮影した写真である。
図27】本発明の一実施例において、比較例のウエットエッチング中のSi基板の裏面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0032】
[第1の実施の形態]
【0033】
図1は、本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板1の構成を示す断面図である。なお図1は、SiC膜12の表面12aに対して垂直な平面で切った場合の断面図である。
【0034】
図1を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板1は、Si基板11と、SiC膜12とを備えている。
【0035】
Si基板11は、環状の平面形状を有している。Si基板11は表面11aと、裏面11bと、側面11cとを含んでいる。Si基板11の表面11aには(111)面が露出している。Si基板11の表面11aには(100)面や(110)面が露出していてもよい。
【0036】
SiC膜12は、Si基板11の表面11a(Si基板の一方の主面の一例)に形成されている。SiC膜12は、表面12aと、裏面12bと、側面12cとを含んでいる。SiC膜12の裏面12bは、環状のSi基板11の内側の凹部13に露出している。SiC膜12は、Si基板11の裏面11b(Si基板の他方の主面の一例)には形成されておらず、Si基板11の裏面11bは露出している。
【0037】
SiC膜12は、20nm以上10μm以下の厚さwを有している。厚さwは、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500nm以下である。SiC膜12は、単結晶3C−SiC、多結晶3C−SiC、またはアモルファスSiCなどよりなっている。特に、SiC膜12がSi基板11の表面にエピタキシャル成長されたものである場合、一般的に、SiC膜12は3C−SiCよりなっている。
【0038】
図2は、本発明の第1の実施の形態において、SiC膜12の表面12aに対して垂直な方向から見た場合の化合物半導体基板1の構成を示す平面図である。図2では、Si基板11の形状を示す目的で、Si基板11は点線で示されているが、実際にはSi基板11は直接には見えない。
【0039】
図2を参照して、Si基板11、SiC膜12、および凹部13の各々は、任意の平面形状を有している。SiC膜12はその外周端部を環状のSi基板11によって支持されている。これにより、SiC膜12の機械的強度がSi基板11によって補強されている。Si基板11、SiC膜12、および凹部13の各々は、たとえば図2(a)に示すように、円の平面形状を有していてもよいし、図2(b)に示すように、矩形の平面形状を有していてもよい。図2(b)では、Si基板11は四角環状の平面形状を有している。さらに図2(c)に示すように、Si基板11およびSiC膜12の各々は円の平面形状を有しており、凹部13は矩形の平面形状を有していてもよい。凹部13の大きさは任意であり、化合物半導体基板1に要求される機械的強度などに応じて決定されてもよい。
【0040】
次に、本実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法について、図3図9を用いて説明する。
【0041】
図3を参照して、たとえば円板状の(凹部13が形成されていない)Si基板11を準備する。
【0042】
図4を参照して、次に、Si基板11の裏面11bの中央部RG1のSiを除去する。中央部RG1のSiの除去は、Si基板11の中央部RG1のSiを機械的に研削することにより行われてもよい。また、中央部RG1のSiの除去は、Si基板11の裏面11bにおける中央部RG1を除く領域にフォトレジストを形成し、形成したフォトレジストをマスクとして中央部RG1のSiをエッチングすることにより行われてもよい。
【0043】
また、Siのウエットエッチングに用いられる薬液に対するマスクの耐性を高める場合には、中央部RG1のSiの除去は次の方法により行われてもよい。
【0044】
図5を参照して、Si基板11の裏面11b全面に、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜よりなるマスク層14を形成する。続いてマスク層14上に、必要な形状にパターニングしたフォトレジスト15を形成する。
【0045】
図6を参照して、次に、フォトレジスト15をマスクとしてマスク層14をウエットエッチングによりパターニングする。これにより、マスク層14の外周部のみが残される。マスク層14がシリコン酸化膜よりなる場合、マスク層14のウエットエッチングの薬液としてはフッ酸溶液などが用いられる。マスク層14がシリコン窒化膜よりなる場合、マスク層14のウエットエッチングの薬液としてはリン酸溶液などが用いられる。続いて、パターニングされたマスク層14をマスクとして、混酸などの薬液を用いて中央部RG1のSiをウエットエッチングにより除去する。その後、フォトレジスト15およびマスク層14を除去する。なお、フォトレジスト15は、Siのウエットエッチングの前に除去されてもよい。
【0046】
なお、図3に示す工程において、Si基板11の裏面11bにマスク層14が予め形成された基板を準備することにより、図5に示すマスク層14を形成する工程が省略されてもよい。また、マスク層14としては、シリコン酸化膜およびシリコン酸化膜以外の酸化膜または窒化膜が用いられてもよい。
【0047】
図7を参照して、中央部RG1のSiが除去された結果、Si基板11の裏面11bには凹部13が形成される。図7において、凹部13はSi基板11を貫通しない程度の深さを有しており、凹部13の底面はSiにより構成されている。凹部13の存在により、Si基板11の中央部の厚さ(図7中縦方向の長さ)は、Si基板11の外周部の厚さよりも薄くなる。
【0048】
図8を参照して、凹部13を形成した後で、Si基板11の表面11aにSiC膜12を形成する。SiC膜12は、たとえば、Si基板11の表面11aを炭化することで得られたSiCよりなる下地層上に、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて成膜される。またSiC膜12は、Si基板11の表面11aを炭化することのみによって形成されてもよい。さらに、SiC膜12は、Si基板11の表面11aにMBE法またはCVD法などを用いて成膜されてもよい。なお、上述のSiC膜12の形成の際には、Si基板11の側面11cにもSiC膜12が形成されてもよい。
【0049】
図9を参照して、続いて、Si基板11の凹部13の底面RG2をウエットエッチングにより除去する。底面RG2は、Si基板の裏面11bの一部を構成している。底面RG2のSiが除去された結果、凹部13の底面にはSiC膜12の裏面12bが露出する。また、このウエットエッチングの際には、底面RG2のSiとともにSi基板11の裏面11bの外周部RG3のSiも除去される。ウエットエッチングを採用することで、Si基板を除去する際にSiC膜12へ与えるダメージを抑止することができる。以上の工程により、図1に示す化合物半導体基板1が完成する。
【0050】
底面RG2のSiのウエットエッチングは、ウエットエッチングに用いる薬液に対してSi基板11およびSiC膜12を相対的に動かすことにより行われる。Si基板11およびSiC膜12を動かすことには、Si基板11およびSiC膜12の位置を変えずにSi基板11およびSiC膜12を回転させることと、Si基板11およびSiC膜12の位置を変える(言い換えれば、Si基板11およびSiC膜12を移動させる)ことと、Si基板11およびSiC膜12の位置を変えながらSi基板11およびSiC膜12を回転させることなどが含まれる。Siのウエットエッチングに用いる薬液としては、たとえばフッ酸および硝酸を含む混酸や、水酸化カリウム(KOH)水溶液などが用いられる。
【0051】
Siのウエットエッチングの薬液として、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液を用いた場合、SiC膜12中に低密度で存在するピンホールを通じてSiC膜12までもがエッチングされることがある。SiC膜12がエッチングされることを抑止し、SiC膜12の品質を良好にするためには、Siのウエットエッチングの薬液として上述の混酸を用いることが好ましい。
【0052】
Siのウエットエッチングの際にSi基板11およびSiC膜12を動かす方向は任意である。しかし、Si基板11およびSiC膜12を動かしている間に薬液から受ける圧力によりSiC膜12が破損する事態を回避するためには、以下の第1〜第3の方法のように、SiC膜12の表面12aに対して平行な平面(図10図12中の平面PL)内の方向にSi基板11およびSiC膜12を動かすことが好ましい。
【0053】
図10図12は、本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第1〜第3の方法を模式的に示す図である。なお、図10図12の説明では、Siのウエットエッチング直前の構造を中間体2と記している。本実施の形態では、図8の工程を経た直後の構造が中間体2に相当し、後述する第2の実施の形態では、図17の工程を経た直後の構造が中間体2に相当する。
【0054】
図10を参照して、第1の方法は、スピンエッチングによりSiを除去する方法である。第1の方法では、Si基板11の裏面11bが上を向くように中間体2を固定台HPに固定する。そして、矢印AR1で示すように、裏面11bと直交する方向に延在する回転軸を中心として固定台HPを回転させる。このようにして、中間体2の位置を変えずに中間体2を回転させた状態で、ウエットエッチングに用いる薬液MA(エッチング液)をSi基板11の裏面11bに注入する。固定台HPの回転数は、たとえば500〜1500rpm程度に設定される。
【0055】
図11を参照して、第2の方法では、複数の中間体2を立てた状態で固定台HPに固定する。そして、反応容器CSの内部に充填された薬液MAに複数の中間体2を浸漬し、SiC膜12の表面12aに対して平行な平面PL内で、矢印AR2で示すように中間体2の位置を変えながら中間体2および固定台HPを回転させる。
【0056】
図12を参照して、第3の方法では、Si基板11の裏面11bが上を向くように中間体2を固定台HPに固定する。そして、反応容器CSの内部に充填された薬液MAに中間体2を浸漬し、SiC膜12の表面12aに対して平行な平面PL内で、矢印AR3で示すように中間体2および固定台HPを直線上で往復移動させる。
【0057】
図13は、図1に示す化合物半導体基板1におけるA部拡大図である。なお、図13では、Si基板11の幅の変化量を実際のものよりも強調して示している。
【0058】
図13を参照して、フッ酸および硝酸を含む混酸は、Siを等方的にエッチングする作用を有している。このため、フッ酸および硝酸を含む混酸を薬液として用いてSiのウエットエッチングした場合には、その痕跡として、Si基板11の幅d(図13中横方向の長さ)は、SiC膜12から離れるに従って(SiC膜12からSi基板11の裏面11bに向かって)減少している。
【0059】
なお、本実施の形態の製造方法の変形例として、図14に示すように、Si基板11の表面11aにSiC膜12を形成した後で、図15に示すように、Si基板11の裏面11bの中央部RG1のSiを除去して凹部13を形成し、その後凹部13の底部RG2をウエットエッチングにより除去してもよい。
【0060】
本実施の形態によれば、Si基板11のウエットエッチングの際に、ウエットエッチングの薬液に対してSi基板11およびSiC膜12を相対的に動かすことにより、Si基板11のウエットエッチング中にSiC膜12にクラックが入ったり、Si基板11からSiC膜12が剥がれたりする事態を抑止することができ、化合物半導体基板1におけるSiC膜12の薄膜化を図ることができる。
【0061】
本願発明者は、Si基板11のウエットエッチング中(Si基板11の薬液への浸漬中)にSiC膜12にクラックが入ったり、Si基板11からSiC膜12が剥がれたりする原因は、Si基板11の反応面(Si基板11の裏面11bにおける薬液と反応する部分の面)に局所的に反応後の薬液が滞留し、それによってSiのエッチング速度が不均一になり、Si基板11の反応面に荒れを生じさせるためであることを見出した。また本願発明者は、ウエットエッチングの薬液として混酸を用いた場合には、薬液とSiとの反応によって発生する大きな泡がSi基板11の反応面に局所的に滞留し、この泡がSi基板11の反応面の薬液との反応を局所的に妨げ、Si基板11の反応面に荒れを生じさせることを見出した。
【0062】
SiC膜12が比較的厚い場合(たとえば厚さが10μmより大きい場合)には、SiC膜12自体の機械的強度が高いため、Si基板11の反応面の荒れはSiC膜12に対してそれほど悪影響を及ぼさない。しかし、SiC膜12が比較的薄い場合(たとえば厚さが10μm以下の場合、具体的には薄膜(厚さが数μm程度)である場合や極薄膜(厚さが100nmオーダー以下)である場合には、Si基板11の反応面の荒れはSiC膜12に対して悪影響を及ぼす。すなわち、Si基板11の反応面の荒れによってSiC膜12に不均一な応力が加わり、Siエッチング中にSiC膜12にクラックが入ったりSiC膜12がSi基板11から剥がれたりする事態を招く。
【0063】
そこで、本実施の形態では、Si基板11のウエットエッチングの際に、ウエットエッチングの薬液に対してSi基板11およびSiC膜12を相対的に動かすことにより、Si基板11の反応面に局所的に反応後の薬液や泡が滞留することを抑止し、Si基板11の反応面の荒れを抑止することができる。その結果、SiC膜12に不均一な応力が加わることを抑止することができ、SiC膜12の薄膜化を図ることができる。
【0064】
特に、Siのウエットエッチングの方法として、スピンエッチングによりSiを除去する方法(図10に示す第1の方法)を採用した場合には、ウエットエッチング中にSiC膜12が薬液に曝されるのは、凹部13の底部にSiC膜12の裏面12bが露出している間だけである。また、ウエットエッチング中にSiC膜12の表面12aは薬液に曝されることはない。このため、薬液によるSiC膜12のダメージを最小限に留めることができる。
【0065】
また、Siのウエットエッチングの薬液として混酸を用いることにより、薬液によるSiC膜12のダメージを抑止することができる。その結果、SiC膜12の歩留まりを向上することができ、SiC膜を大面積で形成することができる。
【0066】
[第2の実施の形態]
【0067】
図16は、本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板1の構成を示す断面図である。なお図16は、SiC膜12の表面12aに対して垂直な平面で切った場合の断面図である。
【0068】
図16を参照して、本実施の形態の化合物半導体基板1において、SiC膜12は、Si基板11の表面11a、側面11c、および裏面11bの外周部に形成されている。Si基板11の表面11a、側面11c、および裏面11bの外周部は連続したSiC膜12によって完全に覆われている。凹部13の底部にはSiC膜12の裏面12bが露出している。SiC膜12の厚さは、裏面11bの外周部の端部において減少している。Si基板の表面11aに形成されたSiC膜12の部分は、20nm以上10μm以下の厚さwを有している。厚さwは、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500nm以下である。
【0069】
次に、本実施の形態における化合物半導体基板1の製造方法について、図17および図18を用いて説明する。
【0070】
図17を参照して、図3に示すSi基板11に対して、CVD法を用いてSiC膜12を形成する。SiC膜12を形成する際には、Si基板11の表面11aに供給される原料ガスの一部がSi基板11の側面11cおよび裏面11bにも回り込むように、Si基板11を保持する。これにより、原料ガスの化学反応がSi基板11の表面11a、側面11c、および裏面11bの外周部でも起こり、Si基板11の表面11a、側面11c、および裏面11bの外周部に連続したSiC膜12が形成される。その結果、本実施の形態における中間体2が得られる。
【0071】
図18を参照して、続いて、Si基板11の裏面11bの外周部に形成されたSiC膜12をマスクとして、Si基板11の裏面11bの露出した中央部RG4をウエットエッチングにより除去する。中央部RG4のSiが除去された結果、Si基板の裏面11bには凹部13が形成される。凹部13の底面にはSiC膜12の裏面12bが露出する。なお、このウエットエッチングの際には、Si基板11の裏面11bにおけるSiC膜12で覆われた外周部のSiは除去されない。以上の工程により、図16に示す化合物半導体基板1が完成する。
【0072】
図17に示す工程(CVD法を用いてSiC膜12を形成する工程)において、CVD装置内でSi基板11は次の方法で保持されることが好ましい。
【0073】
図19は、本発明の第2の実施の形態における、CVD装置内でSi基板11を保持する方法の一例を示す平面図である。
【0074】
図19を参照して、CVD装置は、Si基板11を保持するための保持部31を含んでいる。保持部31は、環状の外周部31aと、外周部31aの内周側端部に等間隔で設けられた複数(ここでは3つ)の突出部31bとを含んでいる。複数の突出部31bの各々は直線状であり、外周部31aの中心に向かって突出している。Si基板11は、表面11aが上を向くように複数の突出部31bの各々の先端上に載置される。反応ガスは、Si基板11の表面11a上において矢印AR4で示す方向に流される。反応ガスの一部は、外周部31aと複数の突出部31bとの間の空間SPを通じてSi基板11の側面11cおよび裏面11bに回り込む。その結果、Si基板11の表面11a、側面11c、および裏面11bの外周部に連続したSiC膜12が形成される。
【0075】
なお、上述以外の化合物半導体基板1の構成および製造方法は、第1の実施の形態における化合物半導体基板の構成および製造方法と同様である。従って、それらの説明は繰り返さない。
【0076】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。加えて、Si基板11の裏面11bに回り込んで形成されたSiC膜12をマスクとしてSi基板11をウエットエッチングすることができるので、SiC膜12を形成する工程と別工程でSi基板11に凹部を形成したり、リソグラフィーでパターンを形成したりする必要がなくなる。その結果、簡易な方法で化合物半導体基板1を製造することができ、短期間および低コストで化合物半導体基板1を製造することができる。
【0077】
[第3の実施の形態]
【0078】
図20は、本発明の第3の実施の形態における化合物半導体基板1aの構成を示す断面図である。なお図20は、GaN膜22の表面22aに対して垂直な平面で切った場合の断面図である。
【0079】
図20を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板1aは、AlN膜21およびGaN膜22をさらに備えている。
【0080】
AlN膜21は、SiC膜12の表面12a(SiC膜の一方の主面の一例)に形成されている。AlN膜21は、SiC膜12とGaN膜22との濡れ性改善のためのバッファー層である。AlN膜21は、たとえば5nm以上15nm以下の厚さを有しており、好ましくは5nm以上9nm以下の厚さを有しており、より好ましくは7nm以上9nm以下の厚さを有している。
【0081】
GaN膜22は、AlN膜21の表面21aに形成されている。GaN膜22は、たとえば1500nm以上3000nm以下の厚さを有しており、好ましくは1500nm以上2500nm以下の厚さを有している。GaN膜22は、p型またはn型の導電型を有していてもよいし、GaN膜22の少なくとも一部にCがドープされていてもよい。
【0082】
なお、上述以外の化合物半導体基板1aの構成は、図1および図2に示す第1の実施の形態における化合物半導体基板1の構成と同様であるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0083】
続いて、本実施の形態における化合物半導体基板1aの製造方法について説明する。
【0084】
始めに、第1の実施の形態における製造方法と同様の製造方法を用いて、図1に示す化合物半導体基板1を得る。一例として、化合物半導体基板1は、外径100mm、内径80mmのリング状のSi基板11と、Si基板11上に形成された160nmの厚さのSiC膜12とを含んでいる。
【0085】
次に、SiC膜12の表面12aに、極薄いAlN膜21を介してGaN膜22を形成する。ここでは、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、SiC膜12の表面12aにAlN膜21およびGaN膜22を順にヘテロエピタキシャル成長させる場合について説明する。
【0086】
図21は、本発明の第3の実施の形態における、AlN膜21およびGaN膜22の成膜条件の一例を説明するグラフである。
【0087】
図21を参照して、AlN膜21は、TMA(トリメチルアルミニウム:Al(CH33)を用いたクリーニングの後に、たとえば1000〜1300℃(図21では1200℃)程度の温度で、たとえば1〜60分程度の時間で形成される。Alの原料ガスとしては、たとえばTMAが用いられ、Nの原料ガスとしては、たとえばアンモニア(NH3)が用いられる。
【0088】
GaN膜22は、AlN膜21の形成後に、たとえば900〜1200℃(図21では1080℃)程度の温度で、たとえば5〜200分程度の時間で形成される。Gaの原料ガスとしては、たとえばTMG(トリメチルガリウム:Ga(CH33)が用いられ、Nの原料ガスとしては、たとえばアンモニアが用いられる。以上の工程により、図20に示す化合物半導体基板1aが得られる。
【0089】
化合物半導体基板1aにおいて、GaN膜22の形成後(化合物半導体基板1aの完成後)に、弗硝酸などを用いてSi基板11が完全に除去されてもよい。また、必要に応じて、AlN膜21とGaN膜22との間に傾斜層(たとえば、Alの組成比がAlN膜21からGaN膜22に向かって徐々に減少するAlGaN膜)が設けられてもよい。またGaN膜22中に中間層(たとえば、Al膜やAlGaN膜からなる)が設けられてもよい。
【0090】
一般的に、Si基板上にGaN膜を直接形成した場合には、SiとGaNとの間の物性(格子定数および熱膨張係数)の違いにより、大きな反りやクラックが発生する。このような事態を回避するために、従来ではSi基板とGaN膜との間に複雑で厚いバッファー膜が形成されていた。
【0091】
本実施の形態によれば、SiC膜12の下側の一部のSiが除去されているため、SiとGaNとの間の物性の違いがGaNに及ぼす悪影響は小さくなる。また、SiCとGaNとの間の物性の差は、SiとGaNとの間の物性の差に比べて小さく、SiCの厚さはSiの厚さよりも小さい。このため、下地であるSiC膜12がGaN膜22に及ぼす悪影響は小さい。その結果、簡易なバッファー層(AlN膜21)を設けるだけで、転位が少なくかつ反り・クラックも少ない高品質なGaN膜22を得ることができる。
【0092】
また、GaN膜22を数百μmのオーダーまで厚く成膜することにより、GaNの自立基板を得てもよい。この場合には、GaN膜22に含まれる欠陥は非常に少なくなる。GaN膜22を数百μmのオーダーまで厚く成膜する場合には、成長速度の速いH−VPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法を用いることにより、GaN膜22の成長時間を短縮してもよい。また、MOCVD法とH−VPE法とが組み合わされてもよい。
【0093】
また、化合物半導体基板1aをパワーデバイスや高周波デバイスなどの用途で用いる場合には、化合物半導体基板1aの完成後、GaN膜22の表面22aに、HEMT(High Electron Mobility Transistor)層などのデバイス層(具体的には、デバイス層は、AlGaNバリア層、AlNスペーサ層、およびGaNキャップ層などを含む)が形成されてもよい。
【0094】
化合物半導体基板1aをパワーデバイスや高周波デバイスなどの用途で用いた場合には、SiC膜12の下側の一部のSiが除去されているため、熱伝導率の高い絶縁性セラミック(AlNなど)よりなるヒートシンクに対してSiC膜12を直接貼り付けることができる。その結果、熱の放散性を向上することができ、ハイパワーを扱うデバイスを実現することが可能となる。
【0095】
さらに、化合物半導体基板1aをLED(Light Emitting Diode)などの発光デバイスの用途で用いる場合には、化合物半導体基板1aの完成後、GaN膜22の表面22aに、InGaN層とGaN層との繰り返し構造などを含むMQW層(量子井戸層)や、p型GaN層(MgドープGaN層)などのデバイス層が設けられてもよい。
【0096】
化合物半導体基板1aを発光デバイスの用途で用いた場合には、SiC膜12の下側の一部のSiが除去されているため、Siによる可視光の吸収を回避することができる。その結果、SiC膜12の裏面からの光取り出しが可能であり、高輝度発光デバイスを実現することが可能となる。
【0097】
[第4の実施の形態]
【0098】
図22は、本発明の第4の実施の形態における化合物半導体基板1bの構成を示す断面図である。なお図22は、グラフェン膜25の表面25aに対して垂直な平面で切った場合の断面図である。
【0099】
図22を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板1bは、グラフェン膜25をさらに備えている。
【0100】
グラフェン膜25は、SiC膜12の表面12a(SiC膜の一方の主面の一例)に形成されている。グラフェン膜25は、単層のグラフェン膜よりなっていてもよいし、積層された多層のグラフェン膜(つまり、グラファイト膜)よりなっていてもよい。グラフェン膜25は、たとえば0.3nm以上1μm以下の厚さを有している。
【0101】
なお、上述以外の化合物半導体基板1bの構成は、図1および図2に示す第1の実施の形態における化合物半導体基板1の構成と同様であるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0102】
続いて、本実施の形態における化合物半導体基板1bの製造方法について説明する。
【0103】
始めに、第1の実施の形態における製造方法と同様の製造方法を用いて、図8に示す構造を得る。一例として、図8に示す構造は、外径100mm、内径80mmの外縁を有するSi基板11と、Si基板11上に形成された50nmの厚さのSiC膜12とを含んでいる。
【0104】
図23を参照して、次に、化合物半導体基板1をファーネスなどの容器内に設置し、たとえばH2雰囲気で、化合物半導体基板1に対して1200℃の温度で1時間の熱処理(アニール)を行う。これにより、SiC膜12における表面12aに近い部分12d(点線で囲まれた部分)を構成していたSi原子とC原子との結合が分解され、Si原子が脱離する。その結果、SiC膜12の上側の部分12dのSiCのみがグラフェン膜25に変化する。
【0105】
なお、SiC膜12の一部をグラフェン膜25に変化させる代わりに、次の方法でSiC膜12の表面12aにグラフェン膜25を積層して形成してもよい。具体的には、グラフェンを分散させた溶媒を、スピンコーティングまたはスプレーコーティングなどの方法でSiC膜12の表面12aに塗布する。スピンコーティングの方法を用いる場合には、図8に示す構造が、SiC膜の表面12aが上を向くように固定台HP(図10)に固定され、固定台HPが回転される。グラフェンを分散させた溶媒としては、たとえばMEK(メチルエチルケトン)(高分子系界面活性剤)[GF9MEK−DS](インキュベーション・アライアンス社製)などのグラフェン・フラワー分散液を用いることができる。グラフェンを分散させた溶媒を塗布した後、たとえば400℃で20分間熱処理を行う。これにより、溶媒が蒸発し、焼き固められたグラフェン膜25がSiC膜12上に積層して形成される。この方法では、SiC膜12はグラフェン化されない。
【0106】
図24を参照して、次に、Si基板11の凹部13の底面RG2、およびSi基板11の裏面11bの外周部RG3のSiをウエットエッチングにより除去する。その結果、凹部13の底面にはSiC膜12の裏面12bが露出する。以上の工程により、図22に示す化合物半導体基板1bが得られる。
【0107】
本実施の形態の代替的な製造方法として、Si基板11の凹部13の底面RG2を除去した後で、SiC膜12の一部をグラフェン膜25に変化させてもよい。この場合には、SiC膜12の表面12aおよび裏面12bの両方からSi原子が脱離するため、グラフェン膜25は、SiC膜12の表面12aおよび裏面12bの両方に形成される。また、Si基板11の凹部13の底面RG2を除去した後で、SiC膜12の表面12aにグラフェン膜25を形成(積層)してもよい。
【0108】
なお、化合物半導体基板1bにおいて、グラフェン膜25の形成後(化合物半導体基板1bの完成後)に、弗硝酸などを用いてSi基板11が完全に除去されてもよい。
【0109】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態における化合物半導体基板1の薄いSiC膜12を原料とすることにより、薄いグラフェン膜25を得ることができる。グラフェンは機械的強度や熱特性に優れているため、化合物半導体基板1bをペリクル膜として使用した場合などに、グラフェン膜25はSiC膜12を保護する役割を果たす。特にグラフェンは、負の熱膨張係数を有している。このため、化合物半導体基板1bをペリクル膜として使用した場合には、EUV照射によりペリクル膜の温度が上昇しても、ペリクル膜にたわみが生じる事態を回避することができる。
【0110】
[第5の実施の形態]
【0111】
図25は、本発明の第5の実施の形態における化合物半導体基板1の使用方法の一例を示す断面図である。
【0112】
図25を参照して、本実施の形態では、第1または第2の実施の形態の化合物半導体基板1が、マスクMKを覆うペリクル膜100として使用されている。マスクMKの表面には、露光光を遮光するためのパターンPNと、ペリクル膜100を支持するためのペリクルフレームPFとが設けられている。ペリクル膜100は、マスクMK側をSi基板11とし、マスクMKとは反対側をSiC膜12とした状態で、ペリクルフレームPFに対して接着などにより固定されている。化合物半導体基板1は、必要に応じて、マスクMKやペリクルフレームPFの形状に合わせて加工されてもよい。
【0113】
なお、第4の実施の形態の化合物半導体基板1bをペリクル膜100として使用することも可能である。この場合、ペリクル膜100は、マスクMK側をSi基板11とし、マスクMKとは反対側をグラフェン膜25とした状態で、ペリクルフレームPFに対して接着などにより固定される。
【0114】
ペリクル膜100は、露光の際にマスクMKに付着した異物が露光対象物(半導体基板など)上で焦点を結ぶことによる露光トラブルを防止するためのものである。露光光は、矢印AR5で示すように、ペリクル膜100を透過してマスクMKの表面に進入する。パターンPNの隙間を通過した一部の露光光は、マスクMKの表面で反射し、ペリクル膜100を透過する。その後、露光光は、露光対象物の表面に塗布されたフォトレジスト(図示無し)に照射される。
【0115】
露光光としては任意の波長のものを用いることができるが、高い解像度のリソグラフィー技術を実現するためには、露光光として、数10nm〜数nmの波長を有するEUV(Extreme Ultra−Violet)光が用いられることが好ましい。SiCやグラフェンは、Siに比べて化学的に安定であり、EUV光に対して高い透過率および高い耐光性を有しているため、露光光としてEUV光を用いる場合のペリクル膜として好適である。特に、第1または第2の実施の形態の化合物半導体基板1のように、20nm以上10μm以下という非常に薄いSiC膜12を含む化合物半導体基板1をペリクル膜100として用いることにより、一層高い透過率を実現することができる。
【0116】
[実施例]
【0117】
本願発明者は、以下に説明する本発明例1および2、ならびに比較例の各々の方法で化合物半導体基板の製造を試みた。
【0118】
本発明例1:4インチの直径および525μmの厚さを有し、表面が(100)面で構成されたSi基板を準備した。次に図19に示す方法でSi基板を保持した状態で、CVD法を用いてSi基板の表面に160nmの厚さのSiC膜を形成した。SiC膜は3C−SiC単結晶よりなっており、表面が(100)面で構成されていた。また、Si基板の側面と、Si基板の裏面の外周端部から1cm以内の領域とにもSiC膜が形成されていた。
【0119】
続いて、スピンエッチングによりSi基板の一部を除去した。具体的には、1000rpmの速度でSi基板を回転し、薬液を注入した。薬液として、三菱化学株式会社製の「Si−E」という混酸を用いた。なお、このスピンエッチングの条件でダミーのSi基板のエッチングを事前に行ったところ、25μm/minというエッチング速度が得られた。スピンエッチング中にSi基板を観察したところ、図26に示すように、泡の成長および滞留が抑制されており、非常に平滑な反応面が見られた。Siのエッチングは均一に進行していたものと推測される。
【0120】
上述のスピンエッチングを21分間行った後、薬液の代わりに純水をSi基板に注入し、Si基板をリンスした。Si基板のリンスは1分間行った。これにより、化合物半導体基板を得た。
【0121】
得られた化合物半導体基板を観察したところ、Si基板の表面、側面、および裏面の外周部には環状のSiC膜が形成されていた。Si基板の裏面において、環状のSiC膜の内側の約8cmの直径を有する円状の凹部内からはSiが完全に除去されており、凹部の底部には自立したSiC膜が露出していた。X線を用いて観察したところ、SiC膜が単結晶であることが確認された。その結果、自立した(SiC単独で構成された)大面積のSiC膜を備えた化合物半導体基板が得られた。
【0122】
本発明例2:SiC膜の厚さを160nmではなく50nmとした点以外は、本発明例1と同様の製造方法にて化合物半導体基板を作製した。
【0123】
得られた化合物半導体基板を観察したところ、Si基板の表面、側面、および裏面の外周部には環状のSiC膜が形成されていた。Si基板の裏面において、環状のSiC膜の内側の約8cmの直径を有する円状の凹部内からはSiが完全に除去されており、凹部の底部には自立したSiC膜が露出していた。X線を用いて観察したところ、SiC膜が単結晶であることが確認された。その結果、自立した(SiC単独で構成された)大面積のSiC膜を備えた化合物半導体基板が得られた。
【0124】
比較例:本発明例と同様の方法で、Si基板を準備し、Si基板の表面にSiC膜を形成した。続いて、容器内に充填された薬液にSi基板およびSiC膜を浸漬することにより、Si基板の一部をウエットエッチングにより除去した。薬液としては本発明例の場合と同様のものを使用した。ウエットエッチング中にSi基板を観察したところ、図27に示すように、Si基板の反応面での泡の成長および滞留が見られた。Siのエッチングが不均一に進行していたものと推測される。
【0125】
上述の薬液への浸漬を5時間行った後、Si基板およびSiC膜を薬液から取り出し、続いて10分間純水でリンスを行った。これにより、化合物半導体基板を得た。
【0126】
得られた化合物半導体基板を観察したところ、Si基板の表面、側面、および裏面の外周部には環状のSiC膜が形成されていた。Si基板の裏面において、環状のSiC膜の内側の凹部内には、部分的にSiが残存していた。また凹部内にはSiC膜が破れている箇所があった。自立したSiC膜は、最大でも直径2mm程度の領域でのみ得られた。
【0127】
[その他]
【0128】
上述の実施の形態では凹部13の底面のSiがウエットエッチングにより除去される場合について示したが、本発明においてウエットエッチングにより除去される部分は、Si基板の他方の主面の少なくとも一部であればよく、除去される部分の位置、大きさ、および形状は任意である。
【0129】
上述の実施の形態では、SiC膜12の表面にGaN膜22またはグラフェン膜25を形成する場合について示したが、SiC膜の表面に他の膜を形成する場合、その膜はSiCとは異なる膜であればよい。
【0130】
上述の実施の形態は互いに組合わせることが可能である。たとえば、第2の実施の形態と第3の実施の形態とを組合わせることにより、Si基板11の表面11a、側面11c、および裏面11bの外周部が連続したSiC膜12によって完全に覆われている化合物半導体基板1に対して、GaN膜22が形成されてもよい。
【0131】
また、第2の実施の形態と第4の実施の形態とを組合わせることにより、Si基板11の表面11a、側面11c、および裏面11bの外周部が連続したSiC膜12によって完全に覆われている化合物半導体基板1に対して、グラフェン膜25が形成されてもよい。この場合には、図17に示す工程の直後にSiC膜12の一部がグラフェン膜25に変化され(またはSiC膜12の表面12aにグラフェン膜25が積層され)、その後図18に示す工程が実施される。
【0132】
また、図14および図15に示す第1の実施の形態の製造方法の変形例と第4の実施の形態とが組合わされてもよい。この場合には、図14に示す工程の直後にSiC膜12の一部がグラフェン膜25に変化され(またはSiC膜12の表面12aにグラフェン膜25が積層され)、その後図15に示す工程が実施される。
【0133】
上述の実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0134】
1,1a,1b 化合物半導体基板
2 中間体
11 Si基板
11a Si基板の表面
11b Si基板の裏面
11c Si基板の側面
12 SiC膜
12a SiC膜の表面
12b SiC膜の裏面
12c SiC膜の側面
12d SiC膜の一部分
13 凹部
14 マスク層
15 フォトレジスト
21 AlN膜
21a AlN膜の表面
22 GaN膜
22a GaN膜の表面
25 グラフェン膜
25a グラフェン膜の表面
31 保持部
31a 保持部の外周部
31b 保持部の突出部
100 ペリクル膜
CS 反応容器
HP 固定台
MA 薬液
MK マスク
PF ペリクルフレーム
PL SiC膜の表面に対して平行な平面
PN パターン
RG1 Si基板の裏面の中央部
RG2 Si基板の凹部の底面
RG3 Si基板の裏面の外周部
RG4 Si基板の裏面の露出した中央部
SP 保持部における外周部と複数の突出部との間の空間
図1
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