(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753772
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】導波管
(51)【国際特許分類】
H01J 23/40 20060101AFI20200831BHJP
H01P 3/12 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
H01J23/40 A
H01P3/12
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-249541(P2016-249541)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2018-106838(P2018-106838A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿武 俊郎
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−234344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/40
H01P 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波管本体と、
この導波管本体の管壁の外側面に設けられた凹部、およびこの凹部によって前記管壁に設けられた薄肉部を有する出力特性調整部と
を具備し、
前記凹部は、前記導波管本体の管軸方向に沿って複数の位置に設けられている
ことを特徴とする導波管。
【請求項2】
前記薄肉部は、前記薄肉部の周辺部よりも前記導波管本体内に突出されている
ことを特徴とする請求項1記載の導波管。
【請求項3】
前記凹部の深さは、前記導波管本体の前記管壁の厚みの半分以上の寸法である
ことを特徴とする請求項1または2記載の導波管。
【請求項4】
前記凹部は、円形である
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の導波管。
【請求項5】
前記凹部は、前記導波管本体の管軸方向に沿って長く設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の導波管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マイクロ波の出力に用いられる導波管に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を増幅するクライストロンなどのマイクロ波電子管は、共振空胴で電子のエネルギを増幅し、出力部の空胴でマイクロ波のエネルギとして取り出して矩形導波管などで出力する。
【0003】
例えば出力電力などのマイクロ波電子管の出力特性は、共振空胴や出力部の空胴の形状を変えることで変化させることができる。出力部の空胴においては、その形状を変化させることで、電気的な共振のQ値が変わり、出力特性を変化させやすい。
【0004】
マイクロ波電子管は、真空管であり、真空封止した後に、外部から出力部の空胴の形状を変える場合、従来は、出力部の空胴の側面に備えたチューナで出力部の空胴の径を変化させていた。
【0005】
しかし、チューナで出力部の空胴の径を変化させると、出力部の空胴のQ値だけではなく、共振周波数が変わるため、同一の部品を用いて同一の動作周波数で出力特性が異なるマイクロ波電子管を実現することができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−149151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、共振周波数を変えずに、出力特性を変更できる導波管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の導波管は、導波管本体、および出力特性調整部を備える。出力特性調整部は、導波管本体の管壁の外側面に設けられた凹部、および凹部によって管壁に設けられた薄肉部を有する。
凹部は、導波管本体の管軸方向に沿って複数の位置に設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態の導波管を示し、(a)は薄肉部を変形させた出力特性調整状態の断面図、(b)は薄肉部を変形させていない初期状態の断面図である。
【
図3】同上導波管を用いたマイクロ波電子管の断面図である。
【
図4】第2の実施形態を示す導波管の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、第1の実施形態を、
図1ないし
図3を参照して説明する。
【0011】
図3にマイクロ波電子管10の断面図を示す。マイクロ波電子管10は、例えばクライストロンである。マイクロ波電子管10は、電子銃部11を備えている。電子銃部11は、電子ビーム12を発生する陰極13aおよび電子ビーム12を加速する陽極13bを備えている。
【0012】
電子ビーム12の進行方向に対し、電子銃部11の前方には高周波相互作用部14が設けられている。高周波相互作用部14は、電子ビーム12の進行方向に配列された例えば5個の共振空胴15a〜15eを備えている。
【0013】
高周波相互作用部14のさらに前方には、電子ビーム12を捕捉するコレクタ16が設けられている。
【0014】
高周波相互作用部14を構成する複数の共振空胴15a〜15eのうち、電子銃部11側に位置する共振空胴15aには、高周波信号の入力部17である例えば同軸線路が接続されている。コレクタ16側に位置する共振空胴15eには、増幅した高周波の出力部18、導波管としての矩形導波管19が接続されている。矩形導波管19の先には真空気密を保ちマイクロ波を透過するための出力窓20を備えている。なお、矩形導波管19は、出力窓20の後段にあってもよく、出力窓20の前後のいずれにあってもよい。
【0015】
電子銃部11と高周波相互作用部14との間、複数の共振空胴15a〜15e間、高周波相互作用部14とコレクタ16との間は、それぞれドリフト管21で連結されている。
【0016】
次に、
図1および
図2に矩形導波管19を示す。矩形導波管19は、導波管本体30、およびこの導波管本体30に設けられた出力特性調整部31を備えている。
【0017】
そして、導波管本体30は、筒状の管壁33およびこの管壁33の内部に形成された導波空間34を有している。管壁33は、長辺33aと短辺33bとを有する断面矩形状に形成されている。導波空間34は、管壁33の形状に伴って、断面矩形状に形成されている。導波管本体30は、管軸方向に沿って長尺状に形成されている。なお、管軸方向は、マイクロ波の伝送方向である。
【0018】
また、出力特性調整部31は、管壁33の1つの長辺33aに設けられている。なお、出力特性調整部31は、短辺33bに設けてもよく、長辺33aと短辺33bの両方に設けてもよい。
【0019】
出力特性調整部31は、矩形導波管19の管壁33の外側面に設けられた凹部36、およびこの凹部36によって管壁33に設けられた薄肉部37を有している。
【0020】
凹部36は、管壁33を貫通していない。凹部36は、円形で、例えば切削(ざぐり加工)によって形成されたざぐりである。なお、凹部36の形状は、円形に限らず、例えば長円や四角形などの他の形状でもよいが、製造上は円形が好ましい。さらに、凹部36は、切削に限らず、プレスなどの他の形成方法によって形成してもよい。また、凹部36の深さhは、管壁33の厚みtの半分以上の寸法とされており、h≧t/2の関係にある。
【0021】
図1(b)には薄肉部37を変形させていない初期状態を示す。薄肉部37の内側面は、この薄肉部37の周辺部の内側面と平行な平面状にある。薄肉部37の厚みは、管壁33の厚みtの半分以下の寸法であって、凹部36の深さhの寸法以下とされている。
【0022】
図1(a)には薄肉部37を変形させた出力特性調整状態を示す。薄肉部37は、その薄肉部37を例えば押し込むなどの手段で変形させることにより、薄肉部37の部分がこの薄肉部37の周辺部よりも導波空間34内に突出されている。薄肉部37の内側面は、例えば球面状となっている。そして、導波空間34内に突出する薄肉部37により、導波空間34から見て窪み38を形成することができる。
【0023】
図2に示すように、凹部36(および薄肉部37)は、複数であり、導波管本体30の管軸方向に沿って所定の間隔をあけて1列状に設けられている。なお、凹部36(および薄肉部37)の間隔は、均等でもよいし、徐々に大きくまたは小さくなどの不均等でもよく、任意である。凹部36(および薄肉部37)の列は、1列に限らず、複数列でもよい。また、凹部36(および薄肉部37)の数は、1つでもよく、さらに、凹部36(および薄肉部37)の大きさは、任意である。
【0024】
そして、凹部36の位置と深さhは、マイクロ波電子管10の出力部18にある共振空胴15eと矩形導波管19とを結合させた状態の空間形状で例えば電磁界シミュレーションを実施し、マイクロ波電子管10の共振空胴15eの電気的な共振のQ値が所望の値となり、かつ導波空間34に窪み38がない形状から共振周波数が変化しないように決定する。なお、矩形導波管19が出力窓20の後段にある場合には、矩形導波管19を出力窓20に結合させた状態の空間形状で電磁界シミュレーションを実施すればよい。
【0025】
そして、マイクロ波電子管10を真空封止した後に、出力特性調整部31によって出力特性を調整することができる。
【0026】
調整前の初期状態では、例えば、全ての薄肉部37が変形していない状態にある。つまり、薄肉部37の内側面は導波空間34に突出しておらず、導波空間34に窪み38がない状態にある。
【0027】
調整を行うには、任意の薄肉部37を例えば押し込むなどの手段で変形させることにより、薄肉部37の部分をこの薄肉部37の周辺部よりも導波空間34内に突出させ、導波空間34に窪み38を形成する。このとき、1つの薄肉部37を変形させてもよいし、複数の薄肉部37を変形させてもよく、所望の出力特性が得られるように任意の位置の薄肉部37を変形させればよい。また、出力特性に応じて、薄肉部37の変形量も任意に調整してもよい。
【0028】
ところで、従来は、出力特性を調整する場合、空胴形状を変化させているため、共振空胴15eに取り付けられたチューナの共振空胴15eへの挿入量により空胴形状を変化させていた。しかし、この場合、共振空胴15eのQ値だけではなく、共振周波数も変化してしまうため、同一の部品を用いて同一の動作周波数で出力特性が異なるマイクロ波電子管10を実現することができなかった。
【0029】
それに対して、第1の実施形態の矩形導波管19によれば、導波空間34の窪み38(導波空間34に突出する薄肉部37)がマイクロ波の反射体として機能することで、共振空胴15eのQ値が変化し、かつ共振周波数が変わらないため、同一の部品を用いて同一の動作周波数で出力特性の異なるマイクロ波電子管10を提供することができる。
【0030】
また、薄肉部37を変形させて導波空間34に窪み38を形成する前の凹部36の深さhが、導波管本体30の管壁33の厚みtの半分以上の寸法である場合、薄肉部37を変形させやすくでき、薄肉部37の変形量を大きくして導波空間34の窪み38の深さをより大きくできるため、出力特性をより大きく変化させることができる。
【0031】
さらに、凹部36の形状が円形である場合、例えばざぐり加工などによる凹部36の形成が容易にできる。
【0032】
また、凹部36は、導波管本体30の管軸方向に沿って複数の位置に設けられている場合、これら複数の位置の薄肉部37を変形させることにより、管軸方向に沿って導波空間34に複数の窪み38を形成することができ、出力特性をより大きく変化させることができる。
【0033】
次に、第2の実施形態を、
図4を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成については同じ符号を用い、その構成および作用効果の説明を省略する。
【0034】
図4に矩形導波管19の側面図を示すように、凹部36は、導波管本体30の管軸方向(マイクロ波の伝送方向)に沿って長い長溝状(長方形)に設けられている。
【0035】
この場合にも、凹部36は、管壁33を貫通していない。凹部36は、例えば切削(ざぐり加工)によって形成されたざぐりである。凹部36の形状は、長溝状(長方形)に限らず、例えば長円や楕円などの他の形状でもよい。凹部36は、切削に限らず、プレスなどの他の形成方法によって形成してもよい。凹部36の深さは、第1の実施形態と同様に、h≧t/2の関係にあり、さらに、凹部36の大きさは、任意である。また、凹部36は、1列に限らず、複数列にでもよい。また、凹部36の数は、1つでもよいし、導波管本体30の管軸方向に沿って複数に分割されていてもよい。
【0036】
そして、出力特性の調整時には、薄肉部37の任意の位置を例えば押し込むなどの手段で変形させることにより、薄肉部37の一部をこの薄肉部37の周辺部よりも導波空間34内に突出させ、導波空間34に窪み38を形成する。このとき、薄肉部37を変形させる位置は、1個所でもよいし、複数の位置でもよく、また、複数の位置の場合、導波管本体30の管軸方向に間隔をあけてもよいし、連続していてもよい。
【0037】
そして、第2の実施形態の矩形導波管19によれば、導波空間34の窪み38(導波空間34に突出する薄肉部37)がマイクロ波の反射体として機能することで、共振空胴15eのQ値が変化し、かつ共振周波数が変わらないため、同一の部品を用いて同一の動作周波数で出力特性の異なるマイクロ波電子管10を提供することができる。
【0038】
それに加えて、凹部36は、導波管本体30の管軸方向に沿って長い長溝状(長方形)に設けられているため、この凹部36によって形成される薄肉部37の任意の位置を任意の数だけ変形させて、導波空間34の任意の位置に任意の数の窪み38を形成することができ、共振空胴15eのQ値の変化を大きくすることができるとともに、広範な出力特性を実現することができる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
19 導波管としての矩形導波管
30 導波管本体
31 出力特性調整部
33 管壁
36 凹部
37 薄肉部