(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
流体の流量をバルブを用いて制御する流量制御中に前記流体の流量が予め規定された目標流量に維持されているときの前記バルブの開度を取得するように構成されたバルブ開度取得部と、
前記バルブの開度と前記流体の流量との関係を近似した関数と、予め規定された時間間隔で取得される前記バルブの開度の変化とに基づき、前記流体の流量を前記目標流量に維持できない不可制御状態になるまでの時間を推定するように構成された不可制御時間推定部とを備えることを特徴とするメンテナンス時期予測装置。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置などでは、材料ガスなどを真空チャンバー内に一定流量で導入するために、
図7に示すようなマスフローコントローラなどの流量制御装置が採用されている(特許文献1参照)。
図7において、100は本体ブロック、101はセンサパッケージ、102はセンサパッケージ101のヘッド部、103はヘッド部102に搭載された流体センサ、104はバルブ、105は本体ブロック100の内部に形成された流路、106は流路105の入口側の開口、107は流路105の出口側の開口である。
【0003】
流体は、開口106から流路105に流入してバルブ104を通過し、開口107から排出される。流体センサ103は、流路105を流れる流体の流量を計測する。マスフローコントローラの図示しない制御回路は、流体センサ103が計測した流体の流量が設定値と一致するようにバルブ104を駆動する。
【0004】
このようなマスフローコントローラにより材料ガスの流量制御を継続して行なっていると、材料ガスに含まれる成分の影響などにより、マスフローコントローラ自体あるいは材料ガスの流路に備えられるフィルタなどの関連機器に汚れが付着するなどして不具合が生じることがある。
【0005】
そこで、マスフローコントローラに内蔵される流体センサの測定レンジ全体において許容精度範囲内でしか流量誤差や圧力誤差が発生しないように、バルブ開度を操作して校正する装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示された診断機構では、流体センサの計測値と実際の流量との誤差が精度的に許容できる程度のものであるかどうかを診断することはできるものの、いつごろ校正などのメンテナンスが必要になるかを予測することができないという問題点があった。半導体製造装置などにおいては、メンテナンス時期を予測することで稼働管理が行ない易くなるので、改善が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、流量制御装置およびその関連機器についてメンテナンスが必要になる時期を予測することができるメンテナンス時期予測装置、流量制御装置およびメンテナンス時期予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のメンテナンス時期予測装置は、流体の流量をバルブを用いて制御する流量制御中に前記流体の流量が予め規定された目標流量に維持されているときの前記バルブの開度を取得するように構成されたバルブ開度取得部と、前記バルブの開度と前記流体の流量との関係を近似した関数と、予め規定された時間間隔で取得される前記バルブの開度の変化とに基づき、前記流体の流量を前記目標流量に維持できない不可制御状態になるまでの時間を推定するように構成された不可制御時間推定部とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス時期予測装置の1構成例において、前記不可制御時間推定部は、前記バルブ開度取得部によって取得される前記バルブの開度が上限に到達するまでの時間を、前記不可制御状態になるまでの時間として推定することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のメンテナンス時期予測装置の1構成例において、前記関数は、少なくとも、前記バルブの開度に関する項と、この項に乗算される数値であるゲインとによって定義され、前記不可制御時間推定部は、前記ゲインが時間の経過に伴って減少すると仮定したときに前記関数から得られる数式と、前記バルブ開度取得部によって取得される前記バルブの開度の変化とに基づき、前記不可制御状態になるまでの時間を推定することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス時期予測装置の1構成例において、前記関数は、前記バルブの開度と前記流体の流量との非線形な関係を近似した関数であり、前記バルブの開度に関する項が指数関数で表されることを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス時期予測装置の1構成例において、前記関数は、前記バルブの開度と前記流体の流量との非線形な関係を近似した関数であり、前記バルブの開度に関する項が分数関数で表されることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のメンテナンス時期予測装置の1構成例において、前記不可制御時間推定部は、前記不可制御状態になるまでの時間を推定しようとする現時点よりも過去の時点で前記バルブ開度取得部によって取得された前記バルブの開度に基づいて、この過去の時点の前記ゲインを算出する第1のゲイン算出部と、現時点で前記バルブ開度取得部によって取得された前記バルブの開度に基づいて、現時点の前記ゲインを算出する第2のゲイン算出部と、前記目標流量に基づいて、現時点よりも先の時点で前記バルブ開度取得部によって取得される前記バルブの開度が上限に到達するときの前記ゲインを算出する第3のゲイン算出部と、前記第1、第2、第3のゲイン算出部によって算出されたゲインと前記過去の時点から現時点までの時間とに基づいて、前記不可制御状態になるまでの時間を算出する時間算出部とから構成されることを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス時期予測装置の1構成例は、前記不可制御時間推定部によって推定された時間を数値表示する推定結果出力部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス時期予測装置の1構成例は、前記不可制御時間推定部によって推定された時間が予め規定された閾値時間未満になったときに、警報を発する推定結果出力部をさらに備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の流量制御装置は、流路を流れる流体の流量を計測する流量計測部と、前記流路に設けられたバルブと、前記流量計測部によって計測された前記流量と予め規定された目標流量とが一致するように前記バルブを操作する流量制御部と、メンテナンス時期予測装置とを備え、前記メンテナンス時期予測装置の前記バルブ開度取得部は、前記流路に設けられた前記バルブの開度を取得することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のメンテナンス時期予測方法は、流体の流量をバルブを用いて制御する流量制御中に前記流体の流量が予め規定された目標流量に維持されているときの前記バルブの開度を取得する第1のステップと、前記バルブの開度と前記流体の流量との関係を近似した所定の関数と、予め規定された時間間隔で取得される前記バルブの開度の変化とに基づき、前記流体の流量を前記目標流量に維持できない不可制御状態になるまでの時間を推定する第2のステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流量制御装置およびその関連機器についてメンテナンスが必要になる時期(不可制御状態になるまでの時間)を予測することができる。その結果、オペレータにとっては、流量制御装置が設けられた半導体製造装置などの稼働管理が行ない易くなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の原理]
マスフローコントローラの用途は、多くのケースで予め限定的に決められた目標流量に流体の流量を安定して維持することである。したがって、そのような用途を前提にすれば、フィルタの詰まりの影響などを信頼性の高い検出条件で推定できる。具体的には、予め規定された目標流量(複数とおりの目標流量がある場合は最大目標流量が目安)に安定して維持されている状態を概ね一定間隔(例えば24時間置き)で検出し、その条件におけるバルブ開度指示信号を取得する。
【0017】
マスフローコントローラの上流に設置されたフィルタの詰まりが進行した場合を考えると、バルブ開度が上限(例えば100%)に飽和するときが、目標流量に維持できない不可制御状態になることが原理的に確定するときであり、この不可制御状態になる時期を予測してメンテナンスを行なう判断をするのが効率的である。
【0018】
したがって、発明者は、マスフローコントローラに特有の使用条件に基づき、信頼性の高いバルブ開度の情報を取得し、バルブ開度の時間的変化が継続すると仮定した場合にバルブ開度が上限(例えば100%)に到達する時期を、メンテナンスが必要になる時期と予測するのが妥当であることに想到した。
【0019】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。特許文献2には、マスフローコントローラに設けられたバルブの開度を時間的に直線的に変化させた場合に、高開度側ほど流路を流れる流体の流量体積が少ないことが示されている。このように、バルブ開度MVと流量PVとは、非線形な関係であり、高開度側ほど開度MVの変化量に対して、流量PVの変化量が減少することが知られている。このようなマスフローコントローラの特性の概略を
図1に示す。なお、
図1の例では、流量PVを0〜100%の値に正規化している。
図1に示したような特性は、非線形な収束現象なので、次式の指数関数で表現できる。
PV=K{1.0−exp(−MV/A)} ・・・(1)
【0020】
このように、バルブ開度MVと流量PVとの関係を近似した関数は、定数項(1.0)と、バルブ開度MVに関する項と、これらの各項に乗算される数値であるゲインKとによって定義される。式(1)のAは非線形な収束状態を与える係数である。
図1の曲線cur1は、マスフローコントローラの初期特性を示すものである。予め把握できている供給圧力を基準として、バルブ開度MV=100%で流量PVが最大値100%になるものとし、また一般的な非線形性のイメージに合わせて、曲線cur1は次式のような係数値の指数関数で表現できる。
PV=104.0{1.0−exp(−MV/30.0)} ・・・(2)
【0021】
式(2)のK=104.0、A=30.0はこれらの数値の1例である。流路に設けられたフィルタなどの詰まり現象においては、このフィルタよりも下流にあるマスフローコントローラのバルブ自体の特性である非線形性は変化しないものと推定できるので、係数Aは一定と見なすことができる。ゆえに、ゲインKのみがフィルタの詰まり現象などにより減少するものと仮定することになる。
【0022】
マスフローコントローラやマスフローコントローラの関連機器のメンテナンス時期を予測する上では、マスフローコントローラの稼働時間に対していくつかの要因が影響すると推測されるものの、ゲインKの変化が加速するか減速するかは確定的ではないので、マスフローコントローラの稼働時間に比例して一定のペースでゲインKが減少するものと仮定するのが妥当である。
【0023】
ここで、予め規定された目標流量PVxをPVx=60.0%と仮定する。すなわち、マスフローコントローラの流量設定値SPとして与えられる最も基準となる数値がSPx=60.0%となる。流体の流量をPVx=60.0%に整定させるためのマスフローコントローラの初期状態のバルブ開度をMV1とすると、曲線cur1によりMV1=25.8%になる。予め非線形特性の係数A=30.0が把握できているので、PVx=60.0%とMV1=25.8%に基づいて、初期状態のゲインK1は次式のように逆算できる。
K1=PVx/{1.0−exp(−MV1/A)}
=60.0/{1.0−exp(−25.8/30.0)}=104.0
・・・(3)
【0024】
次に、マスフローコントローラを連続稼働させている最中に、目標流量PVx=60.0%を維持するためのバルブ開度MVを一定間隔(例えばΔT=24時間置き)で取得するものとする。仮に、3回分(n=3)の72時間が経過した時点で、初期状態との顕著な差異を把握したものと仮定する。具体的には、稼働開始から72時間が経過した時点でバルブ開度MVが、MV2=29.4%に上昇していたものとする。
【0025】
このバルブ開度MVの上昇は、フィルタの詰まり現象によりマスフローコントローラに流入するポイントでの圧力が低下し、目標流量PVx=60.0%を維持するためのバルブ開度MVを初期状態よりも大きくしなければならなくなったような現象である。稼働開始から72時間が経過した時点のゲインK2は、PVx=60.0%とMV2=29.4%に基づいて次式のように逆算できる。
K2=PVx/{1.0−exp(−MV2/A)}
=60.0/{1.0−exp(−29.4/30.0)}=96.0
・・・(4)
【0026】
したがって、ゲインKが、初期状態のK1=104.0からK2=96.0へと、数値にして8.0だけ72時間で減少したという推定になる。この場合、マスフローコントローラの特性は、
図1の曲線cur2のようになる。
【0027】
マスフローコントローラの稼働時間に比例して一定のペースでゲインKが減少するものと仮定しているので、cur2の状態からさらに72時間経過すると、ゲインKはさらに8.0だけ減少して、マスフローコントローラの特性は
図1の曲線cur3(K3=88.0)のようになるものと推定できる。この時点のバルブ開度MV3は次式のように逆算できる。
MV3=−Aln{1.0−(PVx/K3)}
=−30.0ln{1.0−(60.0/88.0)}=34.4
・・・(5)
【0028】
以上を一旦整理すると、以下のようになる。初期状態(cur1)では、MV1=25.8%の実績。稼働開始から72時間経過後の状態(cur2)では、MV2=29.4%の実績。さらに72時間経過後の状態(cur3)では、MV3=34.4%と推定できる。すなわち、一定のペースでバルブ開度MVが変化するのではなく、指数関数的な非線形性の影響で、加速的に開度は上昇する。単純にバルブ開度の変化を一定ペースと仮定できない理由でもある。
【0029】
さて問題は、目標流量PVx=60.0%を維持するためのバルブ開度MVがMV=100.0%に到達し、不可制御状態(
図1の曲線cur4)になるのが何時間後かということである。不可制御状態になった場合のゲインKをKhとすると、ゲインKhは、次式で算出できる。
Kh=PVx/{1.0−exp(−MV/A)}
=60.0/{1.0−exp(−100.0/30.0)}=62.2
・・・(6)
【0030】
72時間(nΔT=3×24)毎にゲインKが8.0変化するので、稼働開始から72時間経過後の状態(cur2)のゲインK2=96.0からKh=62.2に到達するまでの時間Thは、次式で算出できる。
Th=nΔT(Kh−K2)/(K2−K1)
=3×24.0(62.2−96.0)/(96.0−104.0)=304.0
・・・(7)
【0031】
すなわち、
図1の曲線cur2の状態から304時間後にKh=62.2に到達することになる。なお、稼働開始から144時間経過後の状態(cur3)のゲインK3が実績として得られているとしたら、時間Thを次式で算出することができる。
Th=nΔT(Kh−K3)/(K3−K2)
=3×24.0(62.2−88.0)/(88.0−96.0)=232.0
・・・(8)
【0032】
このように、現時点および直近のバルブ開度に基づいて、MV=100.0%に到達するまでの時間Thを推定することができる。
式(1)〜式(8)の計算によれば、目標流量PVx=60.0%を維持するためのバルブ開度は、時間の経過に伴って
図2のように変化することになる。
【0033】
以上から、マスフローコントローラおよびその関連機器のメンテナンス時期の予測手順は以下の(I)〜(IV)のように整理できる。なお、下記のステップでは、ゲインK1を算出する時点は、必ずしも初期状態の時点を意味するのではなく、任意の過去の状態の時点を意味する。したがって、フィルタの詰まりなどによるゲインKの変化が加速するか減速するかの影響は、直近のペースとの誤差分だけで済むことになる。
【0034】
(I)nΔT時間前において、目標流量PVxに維持するためのバルブ開度MV1が取得できている。これに基づき、nΔT時間前のゲインK1を算出する(nは1以上の整数)。ただし、非線形性の係数Aは予め規定されている。
K1=PVx/{1.0−exp(−MV1/A)} ・・・(9)
【0035】
(II)現時点において、目標流量PVxに維持するためのバルブ開度MV2が取得できている。これに基づき、現時点のゲインK2を算出する。ただし、非線形性の係数Aは変化しないものとする。
K2=PVx/{1.0−exp(−MV2/A)} ・・・(10)
【0036】
(III)目標流量PVxに維持するためのバルブ開度MVが100%になる場合のゲインKhを算出する。
Kh=PVx/{1.0−exp(−100.0/A)} ・・・(11)
【0037】
(IV)最後に、ゲインKがKhに到達するまでの時間Thを算出する。
Th=nΔT(Kh−K2)/(K2−K1) ・・・(12)
【0038】
なお、
図1の非線形性を近似できる関数であれば、指数関数以外でも同様の方法が適用できる。例えば、下記の分数関数であれば四則演算のみでバルブ開度と流量との非線形性を記述できる。
PV=K[{−A/(MV+B)}+C]
=1.0[{−3130.0/(MV+25.0)}+125.2]
・・・(13)
K1=PVx/[{−A/(MV1+B)}+C] ・・・(14)
K2=PVx/[{−A/(MV2+B)}+C] ・・・(15)
Kh=PVx/[{−A/(100.0+B)}+C] ・・・(16)
【0039】
式(1)と同様に、式(13)の関数は、定数項(C=125.2)と、バルブ開度MVに関する項と、これらの各項に乗算されるゲインKとによって定義される。式(13)〜式(16)によると、マスフローコントローラの特性を
図1と同様の
図3で表すことができる。
図3の曲線cur1の状態におけるゲインK1は1.0、曲線cur2の状態におけるゲインK2は0.923、曲線cur3の状態におけるゲインK3は0.846、バルブ開度MVが100%になった場合(cur4)のゲインKhは0.596である。すなわち、
図1の例と同様に、稼働時間に比例して一定のペースでゲインKが減少する。
【0040】
次に、本実施例の流量制御装置(マスフローコントローラ)の構成について説明する。本実施例の流量制御装置は、
図4に示すように、流路を流れる流体の流量を計測する流量計測部1と、流量計測部1によって計測された流量と目標流量PVxとが一致するようにバルブを操作する流量制御部2と、流量制御中に流体の流量が予め規定された目標流量PVxに維持されているときのバルブ開度MVを取得するバルブ開度取得部3と、流体の流量を目標流量PVxに維持できない不可制御状態になるまでの時間Thを推定する不可制御時間推定部4と、不可制御時間推定部4の推定結果に関する情報を出力する推定結果出力部5とを備えている。
【0041】
次に、本実施例の流量制御装置の動作を
図5、
図6を参照して説明する。
図5は流量制御動作を説明するフローチャート、
図6はメンテナンス時期予測動作を説明するフローチャートである。
流量計測部1は、流路(
図7の流路105)を流れる流体の流量を継続的に計測する(
図5ステップS100)。この流量計測部1は、
図7の流体センサ103に相当するものであり、マスフローコントローラに設けられている周知の構成である。
【0042】
流量制御部2は、流量計測部1が計測した流体の流量と例えばオペレータによって設定された目標流量PVxとが一致するようにバルブ(
図7のバルブ104)を継続的に操作する(
図5ステップS101)。この流量制御部2についても、マスフローコントローラに設けられている周知の構成である。
こうして、例えばオペレータによって装置の動作終了が指示されるまで(
図5ステップS102においてYES)、ステップS100,S101の処理を予め規定された周期(例えば50msec.)毎に繰り返し実行する。
【0043】
一方、バルブ開度取得部3は、流体の流量が目標流量PVxに維持されているときのバルブの開度MV(目標維持バルブ開度)を取得する(
図6ステップS200)。具体的には、バルブ開度取得部3は、一定時間前から現時点までの期間において流量計測部1が計測した流量と目標流量PVxとの偏差の絶対値が継続して規定値以内の場合には、流体の流量が目標流量PVxに維持されていると判定し、現時点のバルブ開度MVを取得する。一定時間t(t<ΔT)の値は、規定の値としてバルブ開度取得部3に設定されている。
【0044】
なお、バルブ開度そのものを検出してもよいが、実装上は厳密なバルブ開度を検出するのではなく、流量制御部2からバルブに出力される信号(例えばバルブ開度指示信号あるいはバルブ駆動電流)を取得して、この信号を基にバルブ開度を判断すればよい。
【0045】
次に、不可制御時間推定部4は、予め規定された時間間隔で取得されるバルブ開度MVの変化に基づき、バルブ開度MVが上限(例えば100%)に到達して、流体の流量を目標流量PVxに維持できない不可制御状態になるまでの時間Thを推定する。
図4に示すように、不可制御時間推定部4は、ゲインK1を算出する第1のゲイン算出部40と、ゲインK2を算出する第2のゲイン算出部41と、ゲインKhを算出する第3のゲイン算出部42と、時間Thを算出する時間算出部43とから構成される。
【0046】
不可制御時間推定部4の第1のゲイン算出部40は、時間Thを推定しようとする現時点よりもnΔT時間前のゲインK1を式(9)により算出する(
図6ステップS201)。上記のとおり、式(9)のMV1は、nΔT時間前にバルブ開度取得部3によって取得されたバルブ開度MVである。式(9)の係数Aは、規定の値として不可制御時間推定部4に設定されている。この係数Aを把握するためには、例えば流量制御装置の流量試験を事前に行なって係数Aの値を調べておけばよい。
【0047】
続いて、不可制御時間推定部4の第2のゲイン算出部41は、時間Thを推定しようとする現時点のゲインK2を式(10)により算出する(
図6ステップS202)。上記のとおり、式(10)のMV2は、現時点でバルブ開度取得部3によって取得された最新のバルブ開度MVである。
【0048】
さらに、不可制御時間推定部4の第3のゲイン算出部42は、目標流量PVxに基づいて、現時点よりも先の時点でバルブ開度MVが上限に到達するときのゲインKhを式(11)により算出する(
図6ステップS203)。
【0049】
そして、不可制御時間推定部4の時間算出部43は、ゲインK1,K2,Khと時間nΔTとに基づいて、現時点から不可制御状態になるまでの時間Thを式(12)により算出する(
図6ステップS204)。以上で、不可制御時間推定部4の処理が終了する。
【0050】
推定結果出力部5は、不可制御時間推定部4の推定結果を出力する(
図6ステップS205)。推定結果の出力方法としては、例えば時間Thの数値表示、時間Thに基づく警報出力、推定結果の情報の外部への送信などがある。警報出力の場合には、時間Thが予め規定された閾値時間未満(例えば48時間未満)になったときに、警報を知らせるLEDを点灯させるようにすればよい。
【0051】
バルブ開度取得部3と不可制御時間推定部4と推定結果出力部5とは、例えばオペレータによって装置の動作終了が指示されるまで(
図6ステップS206においてYES)、ステップS200〜S205の処理を所定の周期ΔT(例えば24時間)毎に繰り返し実行する。
【0052】
以上により、本実施例では、流量制御装置およびその関連機器(流路に設けられたフィルタなど)についてメンテナンスが必要になる時期(不可制御状態になるまでの時間Th)を予測することができる。オペレータは、流量制御装置の推定結果に基づいて、いつごろ校正などのメンテナンスが必要になるかを予測できるようになるので、半導体製造装置などの稼働管理が行ない易くなる。
【0053】
なお、不可制御時間推定部4はnΔT時間前(nは1以上の整数)のゲインK1を算出するが、バルブ開度取得部3は周期ΔT毎にバルブ開度MVを取得するため、整数nは様々な値をとり得る。また、流体の流量が目標流量PVxに維持されていないとバルブ開度取得部3が判定した時点ではバルブ開度MVを取得することができず、この時点のバルブ開度MVのデータが欠落することになる。さらに、不可制御状態になるまでの時間Thを適切に推定するために、時間nΔTは長過ぎず短過ぎない適当な範囲であることが望ましい。
【0054】
したがって、不可制御時間推定部4は、時間Thを推定しようとする現時点よりもnΔT時間だけ過去の時点のうち、バルブ開度取得部3がバルブ開度MVを取得できた時点であり、かつ規定の範囲内で最も新しい時点のnΔTを採用して、このnΔTについて式(9)、式(12)の計算を実施すればよい。
【0055】
また、不可制御時間推定部4は、式(9)、式(10)、式(11)の代わりに、式(14)、式(15)、式(16)を用いてゲインK1,K2,Khを算出するようにしてもよい。式(14)、式(15)、式(16)の係数A,B,Cは、規定の値として不可制御時間推定部4に設定されている。この係数A,B,Cを把握するためには、例えば流量制御装置の流量試験を事前に行なうようにすればよい。
【0056】
また、本実施例では、目標流量PVxが一定であることを想定しているが、目標流量PVxが途中で変更される場合もあり得る。
図6の処理は目標流量PVxが一定の値のまま維持されることを想定している処理なので、目標流量PVxが途中で変更された場合には、目標流量PVx毎に
図6の処理を実行すればよい。例えば目標流量PVx=60.0%からPVx=50.0%に変更された場合には、PVx=60.0%のときに取得したバルブ開度MVのデータを使用せず、PVx=50.0%に変更された以降のバルブ開度MVのデータを用いて
図6の処理を実行することになる。
【0057】
また、本実施例では、
図4に示した構成を全て流量制御装置(マスフローコントローラ)内に設けているが、これに限るものではない。バルブ開度取得部3と不可制御時間推定部4と推定結果出力部5とをメンテナンス時期予測装置として、上位機器(例えばプログラマブルロジックコントローラPLC)に設け、流量計測部1と流量制御部2とを含む一般的なマイクロフローコントローラと組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0058】
本実施例で説明した流量制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。同様に、バルブ開度取得部3と不可制御時間推定部4と推定結果出力部5とからなるメンテナンス時期予測装置は、コンピュータとプログラムによって実現することができる。各々の装置のCPUは、各々の記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。これにより、本実施例のメンテナンス時期予測方法を実現することができる。