(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753857
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】制御装置および車両のブレーキシステムを作動させる方法
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20200831BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20200831BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20200831BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20200831BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20200831BHJP
B60T 8/88 20060101ALI20200831BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/1755 Z
B60T13/138 Z
B60T7/12 C
B60T13/74 D
B60T8/88
B60T7/12 F
F16H63/34
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-540692(P2017-540692)
(86)(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公表番号】特表2018-509329(P2018-509329A)
(43)【公表日】2018年4月5日
(86)【国際出願番号】EP2016050783
(87)【国際公開番号】WO2016128172
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2017年8月1日
(31)【優先権主張番号】102015202337.0
(32)【優先日】2015年2月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ファイナウアー,ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】クンツ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シュトレンゲルト,シュテファン
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−328069(JP,A)
【文献】
特表2001−513041(JP,A)
【文献】
特表2016−508922(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/135290(WO,A1)
【文献】
特開2009−045982(JP,A)
【文献】
特開2013−199165(JP,A)
【文献】
特開2010−120522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/18
B60T 7/12
B60T 8/1755
B60T 8/88
B60T 13/138
B60T 13/74
F16H 63/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の少なくとも1つのブレーキシステムのための制御装置(14)であって、
前記車両のドライバーまたは前記車両の自動制御機構(18)の目標減速(16)を少なくとも考慮して、前記ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧機構(10)を制御し、その結果前記目標減速(16)に対応して前記ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内での少なくとも1つのブレーキ圧上昇を前記少なくとも1つの液圧機構(10)により生じさせることができるようにした電子機構(15)を備えた前記制御装置(14)において、
前記電子機構(15)は、前記目標減速(16)を考慮し且つ前記少なくとも1つの液圧機構(10)の現時点での作動能力に関する少なくとも1つの第1の情報(22)と前記ブレーキシステムのブレーキブースタ(12)の現時点での作動能力に関する少なくとも1つの第2の情報(24)とを考慮して、それぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記少なくとも1つの液圧機構(10)によりどの程度の第1の目標配分で実現し、且つそれぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記ブレーキブースタ(12)によりどの程度の第2の目標配分で実現するかを決定するように構成され、且つ前記電子機構(15)は、前記少なくとも1つの液圧機構(10)および/または前記ブレーキブースタ(12)を、それぞれの前記ブレーキ圧上昇が前記第1の目標配分で前記少なくとも1つの液圧機構(10)により、そして前記第2の目標配分で前記ブレーキブースタ(12)により実現可能であるように制御するように構成され、
且つ前記電子機構(15)は、前記少なくとも1つの液圧機構(10)の減少した作動能力を前記ブレーキブースタ(12)を用いて補償することができるよう構成されていることを特徴とする制御装置(14)。
【請求項2】
前記電子機構(15)は、前記少なくとも1つの第1の情報(22)としての、前記少なくとも1つの液圧機構(10)に対する少なくとも1つの第1の供給流の提供に関する第1の信号、および/または、前記少なくとも1つの第2の情報(24)としての、前記ブレーキブースタ(12)に対する第2の供給流の提供に関する第2の信号を少なくとも考慮して、どの程度の前記第1の目標配分でそれぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記少なくとも1つの液圧機構(10)を用いて実現し、且つどの程度の前記第2の目標配分でそれぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記ブレーキブースタ(12)を用いて実現すべきかを決定するように構成されている、請求項1に記載の制御装置(14)。
【請求項3】
前記電子機構(15)は、前記車両の停止を自動パーキングブレーキ(44)を用いて確保するか、或いは、パーキングラチェット(46)を用いて前記車両の変速装置をロックすることによって確保するかどうかを決定し、前記自動パーキングブレーキ(44)または前記パーキングラチェット(46)を前記決定に基づいて制御するように補助的に構成されている、請求項1または2に記載の制御装置(14)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の制御装置(14)と、
少なくとも1つのホイールブレーキシリンダと、
前記少なくとも1つの液圧機構(10)と、
前記ブレーキブースタ(12)と、
を備えている車両用ブレーキシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの液圧機構(10)が前記ブレーキシステムのESPシステム(34)内に組み込まれ、前記制御装置(14)の第1の従属ユニットが前記ESPシステム(34)のESP制御機構内に組み込まれ、前記制御装置(14)の第2の従属ユニットが前記ブレーキブースタ(12)のブレーキブースタ制御機構内に組み込まれている、請求項4に記載のブレーキシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの液圧機構(10)が、前記ブレーキシステム内に形成された第1の流動供給網または流動供給網部分(36)に結合され、前記第1の流動供給網または流動供給網部分を介して前記少なくとも1つの液圧機構(10)が前記車両の第1のエネルギー源(38)に結合可能であり、または結合されており、前記ブレーキブースタ(12)が、前記ブレーキシステム内に形成された第2の流動供給網または流動供給網部分(40)に結合され、前記第2の流動供給網または流動供給網部分を介して前記ブレーキブースタ(12)が前記車両の第2のエネルギー源(42)に結合可能であり、または結合されている、請求項4または5に記載のブレーキシステム。
【請求項7】
前記自動パーキングブレーキ(44)が同様に前記第1の流動供給網または流動供給網部分(36)に結合され、前記パーキングラチェット(46)が同様に前記第2の流動供給網または流動供給網部分(40)に結合されている、請求項6に記載のブレーキシステム。
【請求項8】
自動運転用に構成されている車両において、
請求項4から7までのいずれか一項に記載のブレーキシステムと、
前記車両の少なくとも1つの周囲検知センサの少なくとも1つのセンサ信号を考慮して前記車両の目標軌道を設定し、設定した前記目標軌道と前記車両の現時点での速度とに基づいて前記目標減速(16)を設定して前記制御装置(14)に出力するように構成されている自動制御機構(18)と、
を備えた車両。
【請求項9】
制御装置(14)を有する車両のブレーキシステムを作動させるための方法であって、
前記制御装置(14)が前記車両のドライバーまたは前記車両の自動制御機構(18)の目標減速(16)を少なくとも考慮して、前記ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧機構(10)を制御し、その結果前記目標減速(16)に対応して前記ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内での少なくとも1つのブレーキ圧上昇を前記少なくとも1つの液圧機構(10)により生じさせるステップを備えた前記方法において、
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの液圧機構(10)の現時点での作動能力に関する少なくとも1つの第1の情報(22)を検出するステップ(S1)と、
前記制御装置(14)が前記ブレーキシステムのブレーキブースタ(12)の現時点での作動能力に関する少なくとも1つの第2の情報(24)を検出するステップ(S2)と、
前記制御装置(14)が前記目標減速(16)を考慮し且つ前記少なくとも1つの第1の情報(22)と前記少なくとも1つの第2の情報(24)とを考慮して、それぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記少なくとも1つの液圧機構(10)によりどの程度の第1の目標配分で実現し、且つそれぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記ブレーキブースタ(12)によりどの程度の第2の目標配分で実現するかを決定するステップ(S3)と、
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの液圧機構(10)および/または前記ブレーキブースタ(12)を、それぞれの前記ブレーキ圧上昇が前記第1の目標配分で前記少なくとも1つの液圧機構(10)により、そして前記第2の目標配分で前記ブレーキブースタ(12)により実施されように制御するステップ(S4)と、
を備え、
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの液圧機構(10)の減少した作動能力を前記ブレーキブースタ(12)を用いて補償することができること、
を特徴とする方法。
【請求項10】
制御装置(14)を有する車両のブレーキシステムを作動させるための方法であって、
前記制御装置(14)が前記車両のドライバーまたは前記車両の自動制御機構(18)の目標減速(16)を少なくとも考慮して、前記ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧機構(10)を制御し、その結果前記目標減速(16)に対応して前記ブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内での少なくとも1つのブレーキ圧上昇を前記少なくとも1つの液圧機構(10)により生じさせるステップを備えた前記方法において、
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの液圧機構(10)の現時点での作動能力に関する少なくとも1つの第1の情報(22)を検出するステップ(S1)と、
前記制御装置(14)が前記ブレーキシステムのブレーキブースタ(12)の現時点での作動能力に関する少なくとも1つの第2の情報(24)を検出するステップ(S2)と、
前記制御装置(14)が前記目標減速(16)を考慮し且つ前記少なくとも1つの第1の情報(22)と前記少なくとも1つの第2の情報(24)とを考慮して、それぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記少なくとも1つの液圧機構(10)によりどの程度の第1の目標配分で実現し、且つそれぞれの前記ブレーキ圧上昇を前記ブレーキブースタ(12)によりどの程度の第2の目標配分で実現するかを決定するステップ(S3)と、
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの液圧機構(10)および/または前記ブレーキブースタ(12)を、それぞれの前記ブレーキ圧上昇が前記第1の目標配分で前記少なくとも1つの液圧機構(10)により、そして前記第2の目標配分で前記ブレーキブースタ(12)により実施されるように制御するステップ(S4)と、
を備え、
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの液圧機構(10)の減少した作動能力を前記ブレーキブースタ(12)を用いて補償することができ、
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの第1の情報(22)として、第1の流動供給網(36)を介して前記少なくとも1つの液圧機構(10)と結合されている前記車両の第1のエネルギー源(38)が故障しているかどうかを少なくとも検出し、および/または、前記少なくとも1つの第2の情報(24)として、第2の流動供給網(40)を介して前記ブレーキブースタ(12)と結合されている前記車両の第2のエネルギー源(42)が故障しているかどうかを少なくとも検出することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記制御装置(14)が前記少なくとも1つの第1の情報(22)として、少なくとも1つの第1の供給流が前記少なくとも1つの液圧機構(10)に提供されるかどうかを少なくとも検出し、および/または、前記少なくとも1つの第2の情報(24)として、第2の供給流が前記ブレーキブースタ(12)に提供されるかどうかを少なくとも検出する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記制御装置(14)が前記車両の停止を、自動パーキングブレーキ(44)を用いて確保するか、或いは、パーキングラチェット(46)を用いて前記車両の変速装置をロックすることによって確保するかどうかを決定する(S5)、請求項9から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
自動制御機構(18)を有する車両を自動運転させるための方法において、
前記自動制御機構(18)が前記車両の少なくとも1つの周囲検知センサの少なくとも1つのセンサ信号を考慮して、走行している前記車両の目標軌道を設定するステップ(S01)と、
前記自動制御機構(18)が前記設定した目標軌道と前記車両の現時点での速度とを考慮して、前記車両のブレーキシステムに目標減速(16)を設定するステップ(S02)と、
請求項9から12までのいずれか一項に記載のブレーキシステムを作動させることによって前記目標減速(16)を実施するステップと、
を備えている方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキシステム用制御装置に関するものである。また本発明は、車両用ブレーキシステムおよび自動運転用に構成されている車両にも関する。さらに本発明は、車両のブレーキシステムを作動させる方法および車両を自動運転させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のブレーキシステム用制御装置および車両のブレーキシステムを作動させる方法が記載されている。制御装置を利用する場合、または、対応する方法を実施する場合、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つの第1の液圧要素と、同じブレーキシステムの第2の液圧要素とは、実施すべき目標作動モードに従って制御され、これによりブレーキシステムのホイールブレーキシリンダ内で制動指定に応じた少なくとも1つのブレーキ圧を調整可能であるようにしている。実施すべき目標作動モードは、前もって少なくとも2つの実施可能な作動モードから選択される。特に、実施すべき目標作動モードを選択する場合、それぞれのブレーキシステムを備えている車両の車種および/またはブレーキシステムの少なくとも1つの要素のタイプが考慮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102013203824A1号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、請求項1の構成要件を備えた車両のブレーキシステム用制御装置、請求項5の構成要件を備えた車両用ブレーキシステム、請求項9の構成要件を備えた自動運転用に構成された車両、請求項10の構成要件を備えた車両のブレーキシステムを作動させる方法、請求項14の構成要件を備えた車両を自動運転させる方法を提供する。
【0005】
本発明により、ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧機構またはブレーキシステムのブレーキブースタの機能障害/故障を迅速且つ確実に補償することができる。たとえば、本発明を適用する場合、ブレーキブースタは、ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧機構が全損したときでさえも制動指定をまだ確実に実施することができる。同様にブレーキブースタの全損は、少なくとも1つの液圧機構を用いて制動指定を迅速且つ確実に実施することで補償することができる。したがって本発明は、このようにして実現されるブレーキシステムの安全規格を向上させるために寄与する。
【0006】
本発明は、特に、自動運転用に構成された車両に対し改善された安全基準を提供する。自律ブレーキ(すなわちドライバーがブレーキ操作要素を操作することなく、自動制御機構が要求するブレーキ)を実施する際、少なくとも1つの液圧機構の機能障害/故障は、有利にはブレーキブースタを用いて補償することができる。同様に、ブレーキブースタの機能障害/故障は少なくとも1つの液圧機構を用いて阻止することができる。したがって、少なくとも1つの液圧機構が比較的高い第1の故障率を有し、および/または、ブレーキブースタが比較的高い第2の故障率を有しているケースに対してすら、要求される自律ブレーキを高い確率でなお実施可能である。これにより、自動/高度自動運転に対する主要な要求が満たされている。
【0007】
たとえば、電子機構は、制動指定と少なくとも1つの第1の情報と少なくとも1つの第2の情報とを考慮して、それぞれのブレーキ圧上昇が少なくとも1つの液圧機構を用いて100%で且つブレーキブースタを用いて0%で実現可能であるか、或いは、少なくとも1つの液圧機構を用いて0%で且つブレーキブースタを用いて100%で実現可能であるかどうかを選択的に決定するように少なくとも構成されていてよい。オプションの更なる構成として、電子機構は、それぞれのブレーキ圧上昇がx%で少なくとも1つの液圧機構10を用いて実現し、(100−x)%でブレーキブースタ12を用いて実現するべく構成されていてもよい。ここでxに対しては少なくとも0と100の間の値であってよい(xは0に等しく、および/または、100に等しくてもよい)。これにより、少なくとも1つの液圧機構またはブレーキブースタが限定的にしか作動しない、または、もはや使用不能であるような状況に対し反応する高度な融通性がある。
【0008】
有利な実施形態では、電子機構は、少なくとも1つの第1の情報としての、少なくとも1つの液圧機構に対する少なくとも1つの第1の供給流の提供に関する第1の信号、および/または、少なくとも1つの第2の情報としての、ブレーキブースタに対する第2の供給流の提供に関する第2の信号を少なくとも考慮して、どの程度の第1の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇を少なくとも1つの液圧機構を用いて実現し、且つどの程度の第2の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇をブレーキブースタを用いて実現すべきかを決定するように構成されていてよい。したがって電子機構は、少なくとも1つの液圧機構またはブレーキブースタの不十分な流動供給/エネルギー供給に対し迅速に反応することができる。
【0009】
さらに、電子機構は、補助的に、車両の停止を自動パーキングブレーキを用いて確保するか、或いは、パーキングラチェットを用いて車両の変速装置をロックすることによって確保するかどうかを決定し、自動パーキングブレーキまたはパーキングラチェットを対応的に制御するように構成されていてよい。従って車両の停止は、自動パーキングブレーキを用いるか、或いは、パーキングラチェットにより車両の変速装置をロックするかによって選択的に確保することができる。
【0010】
上述した利点は、この種の電子機構を備えたブレーキシステムの場合にも保障されている。
【0011】
ブレーキシステムの有利な実施形態では、少なくとも1つの液圧機構はブレーキシステムのESPシステム内に組み込まれている。このケースでは、有利には、制御装置の第1の従属ユニットはESPシステムのESP制御機構内に組み込まれている。これとは択一的に、または、これに加えて、制御装置の第2の従属ユニットはブレーキブースタのブレーキブースタ制御機構内に組み込まれていてよい。さらに、オプションの態様では、制御装置の少なくとも1つの第3の従属ユニットは、たとえば車両のドライブトレインのドライブトレイン制御機構のような他の機構に組み込まれていてよい。これにより、制御装置に対し固有のハウジングを形成する必要はない。
【0012】
好ましくは、少なくとも1つの液圧機構は、ブレーキシステム内に形成された第1の流動供給網または流動供給網部分に結合され、該第1の流動供給網または流動供給網部分を介して少なくとも1つの液圧機構は車両の第1のエネルギー源に結合可能であり、または結合されており、他方ブレーキブースタは、ブレーキシステム内に形成された第2の流動供給網または流動供給網部分に結合され、該第2の流動供給網または流動供給網部分を介してブレーキブースタは車両の第2のエネルギー源に結合可能であり、または結合されている。したがって、第1のエネルギー源の故障と、これに関連した少なくとも1つの液圧機構の機能障害とは、ブレーキブースタの保証された更なる機能性により補償可能である。対応的に、ブレーキブースタの機能障害を発生させる第2のエネルギー源の故障も、少なくとも1つの液圧機構に引き続き提供される少なくとも1つの供給流によりなお補償可能である。
【0013】
ブレーキシステムの更なる有利な実施形態では、自動パーキングブレーキは同様に第1の流動供給網または流動供給網部分に結合され、他方パーキングラチェットは同様に第2の流動供給網または流動供給網部分に結合されている。したがって、第1のエネルギー源の故障によって生じる自動パーキングブレーキの機能障害は、パーキングラチェットにより補償することができる。対応的に、第2のエネルギー源の故障によって生じるパーキングラチェットの機能障害も、自動パーキングブレーキにより補償することができる。
【0014】
上述した利点は、自動運転用に構成されている車両においても、その対応するブレーキシステムによって保障されている。車両は、さらに、車両の少なくとも1つの周囲検知センサの少なくとも1つのセンサ信号を考慮して車両の目標軌道を設定し、設定した目標軌道と車両の現時点での速度とに基づいて制動指定を設定して制御装置に出力するように構成されている自動制御機構を含んでいる。
【0015】
上述した利点は、車両のブレーキシステムを作動させるための対応する方法を実施することによっても実現可能である。この方法は、上述したブレーキシステムの実施形態に対応してさらに構成可能である。
【0016】
この方法の有利な実施形態では、少なくとも1つの第1の情報として、少なくとも1つの第1の供給流が少なくとも1つの液圧機構に提供されるかどうかを少なくとも検出し、および/または、少なくとも1つの第2の情報として、第2の供給流がブレーキブースタに提供されるかどうかを少なくとも検出する。たとえば、少なくとも1つの第1の情報として、第1の流動供給網を介して少なくとも1つの液圧機構と結合されている車両の第1のエネルギー源が故障しているかどうかを少なくとも検出し、および/または、少なくとも1つの第2の情報として、第2の流動供給網を介してブレーキブースタと結合されている車両の第2のエネルギー源が故障しているかどうかを少なくとも検出することができる。次に、(少なくとも1つの液圧機構による)それぞれのブレーキ圧上昇の第1の目標配分に関して最適化された決定と、(ブレーキブースタによる)それぞれのブレーキ圧上昇の第2の目標配分に関して最適化された決定とを用いて、対応する情報に対し反応させる。
【0017】
この方法の有利な更なる構成として、車両の停止を、自動パーキングブレーキを用いて確保するか、或いは、パーキングラチェットを用いて車両の変速装置をロックすることによって確保するかどうかを補助的に決定することができる。これにより、車両の両エネルギー源の一方が故障した場合でも、望ましくない車両のローリングを確実に阻止できる。
【0018】
車両を自動運転させる方法も上述の利点を提供する。なお、車両を自動運転させる方法は、ブレーキシステムを作動させる方法の前述した実施形態に従ってさらに構成可能であることを指摘しておく。
【図面の簡単な説明】
【0019】
次に、本発明の他の構成要件及び利点を、図面を用いて説明する。
【
図2】車両のブレーキシステムを作動させる方法の一実施形態を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、ブレーキシステムの一実施形態の図である。
【0021】
図1に図示したブレーキシステムは、車両/自動車で使用可能である。特に、自動運転のために構成された車両/自動車は
図1のブレーキシステムを備えていることができる。しかしながら、
図1のブレーキシステムの有用性は特定の車両型/自動車型に限定されていないことを指摘しておく。
【0022】
図1のブレーキシステムは少なくとも1つのホイールブレーキシリンダを含んでいるが、図面を見やすくするために図示していない。たとえば、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダは少なくとも1つのブレーキ回路を介してブレーキシステムの(図示していない)ブレーキマスターシリンダに接続されていてよい。なお、以下に説明するブレーキシステムの実現性は、該ブレーキシステムの特定数量のホイールブレーキシリンダ、特定のタイプのホイールブレーキシリンダ、ブレーキマスターシリンダの具備、或いは特定のタイプのブレーキマスターシリンダに限定されるものでないことを指摘しておく。
【0023】
ブレーキシステムは少なくとも1つの液圧機構10をも有しており、少なくとも1つの液圧機構10(の作動)により、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内の少なくとも1つのブレーキ圧を上昇させることができる。少なくとも1つの液圧機構10は、たとえば少なくとも1つのポンプおよび/または少なくとも1つの電動式ピストンシリンダ装置であってよい。特に、ブレーキシステムの複数のポンプおよび/またはブレーキシステムの複数のピストンシリンダ装置、またブレーキシステムのすべてのポンプおよび/またはブレーキシステムのすべてのピストンシリンダ装置も、以下では少なくとも1つの液圧機構10と理解してよい。したがって、
図1に1つの液圧機構10のみを図示したことは、単なる一例であると解釈すべきである。同様に、少なくとも1つの液圧機構10の構成は、少なくとも1つのポンプおよび/または少なくとも1つの電動式ピストンシリンダ装置に限定されるものではない。
【0024】
ブレーキシステムは、ブレーキブースタ12をも有している。好ましくは、ブレーキブースタ12は電気機械式ブレーキブースタである。しかしながら、ブレーキシステムの構成はブレーキブースタ12の特定のタイプのブレーキブースタに限定されないことを指摘しておく。
【0025】
さらに、ブレーキシステムは、電子機構15を備えた制御装置14を有している。電子機構15は、少なくとも、車両のドライバーの制動指定16を考慮して、または、車両の自動制御機構18
の制動指定16を考慮して、少なくとも1つの液圧機構10および/またはブレーキブースタ12を制御するように構成されている。少なくとも1つの液圧機構10および/またはブレーキブースタ12を電子機構15によって制御することにより、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内で制動指定16に応じた少なくとも1つのブレーキ圧上昇を生じさせることができるならば、有利である。このことは、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内での少なくとも1つのブレーキ圧上昇から、制動指定16に対応する車両の全減速が生じることと理解することができる。場合によっては、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内での少なくとも1つのブレーキ圧上昇は、次のように実現可能であってもよく、すなわち(少なくとも1つのブレーキ圧上昇から)生じる車両の減速が、発電機として使用される少なくとも1つの電気モータ20の発電機ブレーキトルクとともに制動指定16に対応するように実現可能であってよい。少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内でのそれぞれのブレーキ圧上昇は、ホイールブレーキシリンダに特有な態様で発生可能であり、或いはブレーキ回路に特有な態様で発生可能であり、またはすべてのホイールブレーキシリンダに対し同じ態様で発生可能であってよい。
【0026】
とりわけ、電子機構15は、少なくとも1つの液圧機構10(の作動)により、どの程度の第1の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇が実現されるべきかを決定し、且つブレーキブースタ12(の作動)によりどの程度の第2の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇が実現されるべきかを決定するように構成されている。この決定は、制動指定16を考慮して、そして少なくとも1つの液圧機構10の現時点での
作動能力に関する少なくとも1つの第1の情報22と、ブレーキブースタ12の現時点での
作動能力に関する少なくとも1つの第2の情報24とを補助的に考慮して行なう。次に、電子機構15は、(少なくとも1つの第1の制御信号26による)少なくとも1つの液圧機構10および/または(少なくとも1つの第2の制御信号28による)ブレーキブースタ12の制御を次のように行うように構成され、すなわちそれぞれのブレーキ圧上昇が少なくとも1つの液圧機構10の作動により第1の目標配分で、そしてブレーキブースタ12の作動により第2の目標配分で実現可能であるように、構成されている。
【0027】
したがって、
図1のブレーキシステムの場合、どの制動指定16に対しても、該制動指定を実行するために少なくとも1つの液圧機構10をより多く使用してブレーキブースタ12をより少なく使用すべきか、または、少なくとも1つの液圧機構10のみを使用してブレーキブースタ12を使用すべきでないか、或いは、制動指定を実行するためにブレーキブースタ12をより多く使用して少なくとも1つの液圧機構10をより少なく使用すべきか、または、ブレーキブースタ12のみを使用して少なくとも1つの液圧機構10は使用すべきでないかどうかを(自由に)決定することができる。この決定の際に少なくとも1つの第1の情報22と少なくとも1つの第2の情報24とを考慮することにより、(少なくとも1つの第1の制御信号26による)少なくとも1つの液圧機構10の以後の制御および/または(少なくとも1つの第2の制御信号28による)ブレーキブースタ12の以後の制御が、少なくとも1つの液圧機構10の現時点での
作動能力およびブレーキブースタ12の現時点での
作動能力を顧慮して最適化されることが保証できる。特に、それぞれのブレーキ圧上昇を生じさせるために果たすべき作業コストを、目的に応じて少なくとも1つの液圧機構10とブレーキブースタ12との間で配分させて、少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12の減少/省略した
作動能力を補償することができる。(制動指定16を満たす)所望のブレーキ圧上昇は、少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12がほとんど/全く使用可能でないような状況でも、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内で(ホイールブレーキシリンダに特有の態様で、ブレーキ回路に特有の態様で、またはすべてのホイールブレーキシリンダに対し同じ態様で)実現可能である。
【0028】
なお、それぞれのブレーキ圧上昇を少なくとも1つの液圧機構10を用いてどのような第1の目標配分で実現し、それぞれのブレーキ圧上昇をブレーキブースタ12を用いてどのような第2の目標配分で実現するかを決定することは、必ずしも第1の目標配分および/または第2の目標配分を設定することではないことを指摘しておく。その代わり、電子機構15を用いて、少なくとも1つの液圧機構10の少なくとも1つの第1の目標作動量および/またはブレーキブースタ12の少なくとも1つの第2の目標作動量をも設定可能/選定可能であってよい。少なくとも1つの液圧機構10の少なくとも1つの第1の目標作動量は、たとえば少なくとも1つの液圧機構10の少なくとも1つの第1の目標供給流および/または少なくとも1つの液圧機構10の少なくとも1つの目標回転数であってよい。対応的に、ブレーキブースタ12の少なくとも1つの第2の目標作動量は、ブレーキブースタ12の第2の目標供給流および/またはブレーキブースタ12のモータの目標モータ回転数であってよい。しかしながら、少なくとも1つの第1の目標作動量および少なくとも1つの第2の目標作動量は、ここに取り上げた例に限定されるものではない。同様に、前記決定とは、少なくとも1つの液圧機構10およびブレーキブースタ12の少なくとも1つの目標作動モードの選定/設定であると理解してよい。
【0029】
たとえば、電子機構15は、制動指定16、少なくとも1つの第1の情報22、少なくとも1つの第2の情報24を考慮して、それぞれのブレーキ圧上昇を少なくとも1つの液圧機構10(の作動)により100%で実現し、且つブレーキブースタ12(の作動)により0%で実現すべきか、ブレーキブースタ12(の作動)により100%で実現し、且つ少なくとも1つの液圧機構10(の作動)により0%で実現すべきかどうかを選択的に決定するように少なくとも構成されている。場合によっては、それぞれのブレーキ圧上昇を少なくとも1つの液圧機構10の作動だけで、或いは、ブレーキブースタ12の作動だけで実現する。特に少なくとも1つの液圧機構10が故障した場合には、このようにしてブレーキブースタ12を援用することができる。対応的に、ブレーキブースタ12が故障した場合にも、これを少なくとも1つの液圧機構10の作動によって代用することができる。
【0030】
しかしながら、電子機構15は、制動指定16、少なくとも1つの第1の情報22、少なくとも1つの第2の情報24を考慮して、それぞれのブレーキ圧上昇を少なくとも1つの液圧機構10(の作動)によりx%で実現し、ブレーキブースタ12(の作動)により(100−x)%で実現するべく決定するように構成してもよい。ここでxは0と100の間の少なくとも1つの値であってよい。それ故、少なくとも1つの液圧機構10の有用性の減少に対して、ブレーキブースタ12の補助的/増幅的作動でも反応することができる。同様に、ブレーキブースタ12の有用性が減少した場合には、少なくとも1つの液圧機構10を補助的/増幅的に利用することができる。これにより、少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12が限定的にしか使用できない状況に反応するための高い融通性がある。
【0031】
少なくとも1つの電気モータ20は、たとえば少なくとも1つの車両駆動モータ、少なくとも1つのスタータダイナモおよび/またはドライブトレイン(E機械)において縦力を提供する少なくとも1つの要素であってよい。少なくとも1つの電気モータ20とは、車両の縦方向性能に影響するすべての要素であると理解してよい。
【0032】
有利な更なる構成では、少なくとも1つの電気モータ20も少なくとも1つの第3の制御信号30を用いて電子機構15によって制御可能であってよい。特に、このケースでは、電子機構15は、制動指定16と、少なくとも1つの電気モータ20の現時点での
作動能力に関する少なくとも1つの第3の情報32とを考慮して、少なくとも1つの電気モータ20を用いてどの少なくとも1つの発電機ブレーキトルクを生じさせるべきかを決定して、少なくとも1つの電気モータ20を少なくとも1つの第3の制御信号30を用いて対応的に制御するように構成されていてよい。その際、少なくとも1つの第1の情報22および/または少なくとも1つの第2の情報24も一緒に考慮可能であってよい。したがって電子機構15は、制動指定16、少なくとも1つの第3の情報32および/または少なくとも1つの発電機ブレーキトルクを考慮して、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内でどの程度のブレーキ圧力上昇が望ましいかを決定して、それぞれのブレーキ圧上昇の第1の目標配分およびそれぞれのブレーキ圧上昇の第2の目標配分に関する決定を引き続き行うことができる。
【0033】
電子機構15は、特に、少なくとも1つの第1の情報22としての、少なくとも1つの液圧機構10への少なくとも1つの第1の供給流の提供に関する(図示していない)第1の信号および/または少なくとも1つの第2の情報24としての、ブレーキブースタ12に対する第2の供給流の提供に関する(図示していない)第2の信号を少なくとも考慮して、どの程度の第1の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇を少なくとも1つの液圧機構10を用いて実現し、且つどの程度の第2の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇をブレーキブースタ12を用いて実現すべきかを決定するように構成されていてよい。これにより、電子機構15は、少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12の不十分な/無の流動供給に対し即座に反応して、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内での所望の(制動指定16を満たす)ブレーキ圧上昇を発生し続けることができる。この利点を実現するために特に有利な電子機構15/ブレーキシステムの構成について以下でさらに言及する。しかし、少なくとも1つの液圧機構10のステータスを少なくとも1つの第1の情報22として転送することもできる。対応的に、ブレーキブースタ12のステータスを少なくとも1つの第2の情報24として転送することができる。
【0034】
少なくとも1つの液圧機構10は、たとえばブレーキシステムのESPシステム34に組み込まれていてよい。これは、少なくとも1つの液圧機構10が少なくとも1つのポンプである場合に特に有利である。したがって、少なくとも1つの第1の情報22はESPシステム34のステータスも含むことができる。このケースでは、ブレーキブースタ12が故障した場合に、そのすべての機能をESPシステム34によりカバーすることができる。対応的に、ESPシステム34が故障した場合には、その機能を少なくとも部分的にブレーキブースタ12が受け持つことができる。
【0035】
図1の実施形態では、少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34は、ブレーキシステム内に形成されている第1の流動供給網または流動供給網部分36に結合されている。第1の流動供給網または流動供給網部分36とは、少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34を車両の第1のエネルギー源38に結合可能にさせる、または結合させている電子機構と理解される。車両の第1のエネルギー源38により、少なくとも、少なくとも第1の供給流を、(第1の流動供給網または流動供給網部分36を介して)少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34へ提供可能である。これに対し、ブレーキブースタ12は、ブレーキシステム内に形成された第2の流動供給網または流動供給網部分40に結合されている。第2の流動供給網または流動供給網部分40も、ブレーキブースタ40を車両の第2のエネルギー源42に結合可能にさせる、または結合させている電子機構と理解される。それ故、ブレーキブースタ12の第2の供給流は、(第2の流動供給網または流動供給網部分40を介して)車両の第2のエネルギー源42からブレーキブースタ12へ提供可能である。第1のエネルギー源38および/または第2のエネルギー源42は、たとえば(それぞれ)バッテリーおよび/または車載電源網であってよい。したがって、第1の信号および/または第2の信号は、第1のエネルギー源38/第2のエネルギー源42が故障したことを通知する通知信号であってよい。この種の信号は、簡潔に実施される電子機構15を用いて容易に評価することができる。
【0036】
有利な更なる構成として、自動パーキングブレーキ44も同様に第1の流動供給網または流動供給網部分36に結合されていてよい。さらに、パーキングラチェット46も同様に第2の流動供給網または流動供給網部分40に結合されていてよい。
【0037】
これにより、第1のエネルギー源38の故障によって自動パーキングブレーキ44の有用性が消失しているにもかかわらず、パーキングラチェット46は依然利用可能である。対応的に、第2のエネルギー源42の故障によってパーキングラチェット46の有用性が消失しているにもかかわらず、自動パーキングブレーキ44の機能性は依然確保されている。
【0038】
有利な態様では、特に自動パーキングブレーキ44が第1の流動供給網または流動供給網部分36に結合しているとき、または、パーキングラチェット46が第2の流動供給網または流動供給網部分40に結合しているとき、電子機構15は、(情報22と24を考慮して)車両の停止状態を自動パーキングブレーキ44により、または、車両の(図示していない)変速装置をパーキングラチェット46を用いてロックすることにより、確保すべきかどうかを決定するように構成されている。続いて、電子機構15は、自動パーキングブレーキ44またはパーキングラチェット46を(図示していない少なくとも1つの制御信号により)相応に制御することができる。自動パーキングブレーキ44またはパーキングラチェット46を車両の停止状態の確保のために選択的に利用する場合、決定のために情報22と24も考慮することができる。これにより、特に、第1のエネルギー源38/第2のエネルギー源42が故障していることを通知する少なくとも1つの通知信号を多面的に利用可能である。
【0039】
しかしながら、前段で説明した電子機構15の構成は、第1の流動供給網または流動供給網部分36に対する自動パーキングブレーキ44の結合なしでも、および、第2の流動供給網または流動供給網部分40に対するパーキングラチェット46の結合なしでも有利であることを指摘しておく。同様に、電子機構15により、自動パーキングブレーキ44の
作動能力および/またはパーキングラチェット46の
作動能力に関する他の情報も評価可能であることを指摘しておく。
【0040】
なお、車両が走行しているときの少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34の有用性の消失を補償するためには、自動パーキングブレーキ44よりもブレーキブースタ12のほうがより好適に構成されていることに注意されたい。特に、ピッチング挙動が生じることなく、ブレーキブースタ12による車両の大きな減速も実現可能である。
【0041】
図1の実施形態では、制御装置14/電子機構15はコンパクトなユニットとして図示されている。しかし、これとは択一的な実施形態では、制御装置14/電子機構15の第1の従属ユニットもESPシステム34のESP制御機構に組み込まれていてよい。さらに、制御装置14/電子機構15の第2の従属ユニットはブレーキブースタ12のブレーキブースタ制御機構に組み込まれていてよい。また、緊急時にパーキングラチェット46を用いて変速装置のロックを起動させる緊急停止管理手段がブレーキブースタ12内にファイルされていてもよい。
【0042】
望ましい場合には、さらに、制御装置14/電子機構15の第3の従属ユニットを少なくとも1つの電気モータ20/駆動モータのモータ制御機構の中に組み込んでよい。したがって、制御装置14に固有のハウジングを具備させることを簡単に省略することもできる。少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34とブレーキブースタ12を、互いに通信信号48を交換するように構成してもよい。少なくとも1つの電気モータ20/駆動モータも、少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34および/またはブレーキブースタ12と通信信号48を交換するように構成してよい。さらに、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダに配置されている少なくとも1つの車輪の少なくとも1つの回転数を、少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34にもブレーキブースタ12にも出力させて良い。少なくとも1つの回転数は、たとえば安定性アルゴリズムのために利用可能である。さらに、このケースでは、フォールバックシステムでも、少なくとも1つの回転数に関する少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34および/またはブレーキブースタ12の機能を最適化可能である。
【0043】
図1のブレーキシステムは、少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12の故障にもかかわらず、少なくとも0.64gの減速を依然保証することができる。たとえば、少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34の故障後、ブレーキブースタ12は固定減速値(たとえば5m/s
2)、修正/変更せしめられる減速(車輪のブロックを阻止するための「間欠制動」)、少なくとも1つの変速装置出力回転数/平均車軸回転数に整合せしめられる減速、または、少なくとも1つの回転数センサの信号に整合せしめられる減速を選択的に生じさせることができる。ここで説明している戦略は、高摩擦値を持った車道上での減速/停止に対しても有用である。車両の安定化はこの種の条件のもとで頻繁に必要でない。さらに、ブレーキシステムのフォールバックシステムでも制動/停止、駐車/確保、および安定化の組み合わせが提供されている。
【0044】
図1のブレーキシステムは、(少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12の故障を補償する)その有利な補償能力により、これを備えている車両の自動運転/高度自動運転のための主要な要求を満たしている。少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12の故障にもかかわらずブレーキシステムの減速能力が確保されているので、ブレーキシステムは「無人運転」のためにも利用できる。「無人運転」の場合、ドライバーが少しだけ注意力を喚起する頻度が高いが、これは、少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12が故障してもブレーキシステムの減速能力はそのまま保証されているので、欠点ではない。
【0045】
それ故、ブレーキシステムは、これを備えている車両の自動運転を制御する自動制御機構18と有利に協働することもできる。このケースでは、自動制御機構18は、たとえば、車両の少なくとも1つの(図示していない)周囲検知センサの少なくとも1つのセンサ信号を考慮して、車両の目標軌道を設定するように構成されていてよい。次に、設定した目標軌道と車両の現時点の速度とに基づいて、自動制御機構18は制動指定16を設定して、制御装置14へ出力することができる(制動指定16はたとえば車両の目標減速であってよい)。
【0046】
自動制御機構18の有利な更なる構成では、自動制御機構は、さらに、たとえば少なくとも1つの第1の情報22、少なくとも1つの第2の情報24および/または少なくとも1つの第3の情報32(または、少なくとも1つの前記情報22,24,32から導出される少なくとも1つの情報)を含んでいる情報50を制御装置14から受信して、車両の目標軌道を設定する際に一緒に考慮するように構成されていてよい。このケースでは、たとえば目標軌道を少なくとも1つの液圧機構10またはブレーキブースタ12の現時点での機能障害に整合させることができる。たとえば、自動制御機構18によって軌道プランニングを実施する際、ブレーキブースタ12を補償する少なくとも1つの液圧機構10の比較的低い圧力生成力学を一緒に考慮することができる。同様に、目標軌道を設定するために、ブレーキブースタの多くのタイプが少なくとも1つの液圧機構10/ESPシステム34のすべての機能をカバーしないことを自動制御機構18によって考慮することができる。したがって、ブレーキブースタ12のブレーキシステム機能が万が一低下したときも、自動制御機構18によって軌道プランニングを実施する際にこれを一緒に考慮してよい。
【0047】
他の有利な更なる構成として、制御装置14/電子機構15は、少なくとも1つの電気モータ20/駆動モータを用いて車両の加速度を制御するようにも構成されていてよい。この場合、電子機構15は少なくとも1つの第3の情報32をも一緒に考慮することができる。
【0048】
図2は、車両のブレーキシステムを作動させるための方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【0049】
以下で説明する車両のブレーキシステムを作動させるための方法は、たとえば前述したブレーキシステムを用いて実施可能である。しかしながら、この方法の実現性はある特定のタイプのブレーキシステムに限定されるものでないことを指摘しておく。
【0050】
もう一度述べておくと、この方法は、少なくとも車両のドライバ
ーまたは車両の自動制御機構
の制動指定を考慮してブレーキシステムの少なくとも1つの液圧機構を制御する点のみを含んでいるわけではない。したがってこの方法は、制動指定に対応してブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ内での少なくとも1つのブレーキ圧上昇を少なくとも1つの液圧機構を用いて生じさせるためだけに用いられるわけではない。
【0051】
この方法の方法ステップS1で、少なくとも1つの液圧機構の現時点での
作動能力に関する少なくとも1つの第1の情報を検出する。対応的に、これ以前またはこれ以後またはこれと同時に実施される方法ステップS2で、ブレーキシステムのブレーキブースタの現時点での
作動能力に関する少なくとも1つの第2の情報を検出する。たとえば、方法ステップS1で、少なくとも1つの第1の情報として、少なくとも1つの第1の供給流が少なくとも1つの液圧機構に提供されるか、或いは、第1の流動供給網を介して少なくとも1つの液圧機構と結合されている車両の第1のエネルギー源が故障しているかどうかを少なくとも検出する。同様に、方法ステップS2で、少なくとも1つの第2の情報として、少なくとも1つの第2の供給流がブレーキブースタに提供されるか、或いは、第2の流動供給網を介してブレーキブースタと結合されている車両の第2のエネルギー源が故障しているかどうかを少なくとも検出する。しかし、少なくとも1つの第1の情報22として、少なくとも1つの液圧機構10のステータスも方法ステップS1で検出してよい。これとは択一的なものとして、または、これを補完するものとして、ブレーキブースタ12のステータスを少なくとも1つの第2の情報24として方法ステップS2で検出してよい。
【0052】
方法ステップS3では、制動指定を考慮して、且つ少なくとも1つの第1の情報および少なくとも1つの第2の情報を補助的に考慮して、少なくとも1つの液圧機構を用いてどの程度の第1の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇を実施すべきか、且つブレーキブースタを用いてどの程度の第2の目標配分でそれぞれのブレーキ圧上昇を実施すべきかを決定する。その後、少なくとも1つの液圧機構および/またはブレーキブースタを方法ステップS4で次のように制御し、すなわちそれぞれのブレーキ圧上昇が第1の目標配分で少なくとも1つの液圧機構を用いて実施されるように、且つ第2の目標配分でブレーキブースタを用いて実施されるように制御する。
【0053】
オプションの方法ステップS5で、(少なくとも1つの第1の情報および少なくとも1つの第2の情報を考慮して)車両の停止を自動パーキングブレーキを用いて確保するか、或いは、パーキングラチェットを用いて車両の変速装置のロックによって確保するかどうかを補助的に決定してよい。更なる方法ステップS6で、自動パーキングブレーキまたはパーキングラチェットを対応的に制御することができる。
【0054】
さらに、ここで述べた方法は、車両を自動運転するための方法に拡大して構成可能である。このため、方法ステップS01で、車両の少なくとも1つの周囲検知センサの少なくとも1つのセンサ信号を考慮して、走行している車両の目標軌道を設定する。更なる方法ステップS02で、設定した目標軌道と車両の現時点での速度とを考慮して、車両のブレーキシステムに対する制動指定の設定を行う。その後、制動指定を実施するために少なくとも方法ステップS1ないしS4を実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 液圧機構
12 ブレーキブースタ
14 制御装置
15 電子機構
16 制動指定
18 自動制御機構
22 第1の情報
24 第2の情報
34 ESPシステム
36 第1の流動供給網
38 第1のエネルギー源
40 第2の流動供給網
42 第2のエネルギー源
44 パーキングブレーキ
46 パーキングラチェット