特許第6753965号(P6753965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753965バックグラウンドノイズを低減したイムノクロマトグラフィー装置およびその低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753965
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】バックグラウンドノイズを低減したイムノクロマトグラフィー装置およびその低減方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20200831BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N33/543 525C
   G01N33/543 541Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-7287(P2019-7287)
(22)【出願日】2019年1月18日
(62)【分割の表示】特願2015-90798(P2015-90798)の分割
【原出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2019-70670(P2019-70670A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 治
(72)【発明者】
【氏名】小樋山 理沙
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 恭
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−536309(JP,A)
【文献】 特開平08−094618(JP,A)
【文献】 特開2013−228350(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/049348(WO,A2)
【文献】 特開平11−002634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質を捕捉し得る捕捉物質として抗体または抗原が固相化された検出領域を有するメンブレンを含み、着色粒子である標識担体で標識された抗原または抗体を用いて、装置上の捕捉物質を固相化した検出領域に捕捉物質-被検出物質-標識された抗原もしくは抗体の複合体を形成させて、標識担体の色により被検出物質を検出するイムノクロマトグラフィー装置において、検体が装置上を展開するときに、標識担体の色と補色の関係にある色の色素が装置上を共に展開し、メンブレン上に標識担体と色素が共に存在するように、該色素を装置の構成部材中に乾燥状態で含ませることを特徴とするイムノクロマトグラフィー装置(検出領域に前記色素を捕捉する物質が存在する装置を除く)
【請求項2】
標識担体の色と補色の関係にある色素を含ませる構成部材が検出領域から上流側に配される部材であることを特徴とする、請求項1記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項3】
標識担体の色と補色の関係にある色素を含ませる構成部材がサンプルパッドであることを特徴とする、請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項4】
色素が有色粒子であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー装置において被検出物のシグナルを明確に検知するため、バックグラウンドノイズを低減させ視認性を向上させることに関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフィー装置において検体と共に展開される標識担体は本検出手法において必須の成分であるが、被検出物の有無を有色の判定像で検知する原理上、担体自身が視認可能な色を呈している。このため、検出すべきシグナルが同色のバックグラウンドノイズの影響を受け、視認性が損なわれるという問題の解決が課題であった。この課題を解決するために、被検出物を検体から抽出・分散させる溶液(以下、検体抽出液)に、標識担体と補色の関係にある展開液を用いることが提案されている(特許文献1)。しかしながら該手法では、綿棒等で不定量に採取された検体を検体抽出液と混ぜた際に色素成分も不定量的に希釈されることが考慮されておらず、検出系へ与える効果に大きくばらつきを与える結果となる。標識担体と検体抽出液の補色の関係を用いて視認性の向上を図るためには、色相だけでなく、明度と彩度も調整されていることが望ましいが、該手法では検体採取時の不定量性に対応することは極めて困難である。
【0003】
また、一種類の検体抽出液を複数の検出系で共用する検査試薬が今般普及しつつある。(非特許文献1〜4:クイックナビ(商標)−Flu添付文書/イムノエース(登録商標)Flu 添付文書/プライムチェック(登録商標) Flu・RSV添付文書/ナノトラップ(登録商標)IIR取扱説明書)。これら既存製品に限らず、用いられる標識担体には多色・多種類の選択肢があり、それら全てに対応する補色というものは原理上ありえない。よって検体抽出液に特定の色を与えることは、試薬の共通化という利便性とは相反することとなり、選択肢としては合理的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-228350号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】クイックナビ(商標)−Flu添付文書(2014年11月改訂(第13版))
【非特許文献2】イムノエース(登録商標)Flu 添付文書(平成23年10月改訂(第10版))
【非特許文献3】プライムチェック(登録商標) Flu・RSV添付文書(平成25年1月改訂(第3版))
【非特許文献4】ナノトラップ(登録商標)IIR取扱説明書(2014年11月 第4版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イムノクロマトグラフィー装置において被検出物のシグナルを明確に検知するため、標識抗体または標識抗原の標識担体に起因するバックグラウンドノイズを低減させ視認性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、標識担体で標識した抗体または抗原を用い、検出領域に抗原抗体複合体を形成させることにより標識担体を集積させるイムノクロマトグラフィー装置において、標識抗体または標識抗原の標識担体がイムノクロマトグラフィー装置の検出領域を有するメンブレン上に残留することに起因するバックグラウンドノイズを低減させる方法について鋭意検討を行った。
【0008】
本発明者は、標識担体の色と補色の関係にある色の色素を検出領域よりも上流に位置する装置の構成部材中に配置し、検体展開させる時に、検体や標識担体と共に色素が展開することにより、メンブレン上に標識担体と色素が共に存在することで、標識担体の色と補色関係にある色の色素により、メンブレン上の標識担体の色の彩度が低下し、バックグラウンドノイズを低減させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 被検出物質を捕捉し得る捕捉物質として抗体または抗原が固相化された検出領域を有するメンブレンを含み、着色粒子である標識担体で標識された抗原または抗体を用いて、装置上の捕捉物質を固相化した検出領域に捕捉物質-被検出物質-標識された抗原もしくは抗体の複合体を形成させて、標識担体の色により被検出物質を検出するイムノクロマトグラフィー装置において、検体が装置上を展開するときに、標識担体の色と補色の関係にある色の色素が装置上を共に展開するように、該色素を装置の構成部材中に乾燥状態で含ませることを特徴とするイムノクロマトグラフィー装置。
[2] 標識担体の色と補色の関係にある色素を含ませる構成部材が検出領域から上流側に配される部材であることを特徴とする、[1]のイムノクロマトグラフィー装置。
[3] 標識担体の色と補色の関係にある色素を含ませる構成部材がサンプルパッドであることを特徴とする、[1]または[2]のイムノクロマトグラフィー装置。
[4] 色素が染料または顔料であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかのイムノクロマトグラフィー装置。
[5] 色素が有色粒子であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかのイムノクロマトグラフィー装置。
[6] 被検出物質を捕捉し得る捕捉物質として抗体または抗原が固相化された検出領域を有するメンブレンを含み、着色粒子である標識担体で標識された抗原または抗体を用いて、装置上の捕捉物質を固相化した検出領域に捕捉物質-被検出物質-標識された抗原もしくは抗体の複合体を形成させて、標識担体の色により被検出物質を検出するイムノクロマトグラフィー装置において、標識担体の色と補色の関係にある色の色素を装置の構成部材中に乾燥状態で含ませておき、検体が装置上を展開するときに、該色素を装置上に共に展開させ、標識担体によるバックグラウンドノイズの色の彩度を低下させることによりバックグラウンドノイズを低減させる方法。
[7] 標識担体の色と補色の関係にある色素を含ませる構成部材が検出領域から上流側に配される部材であることを特徴とする、[6]のバックグラウンドノイズを低減させる方法。
[8] 標識担体の色と補色の関係にある色素を含ませる構成部材がサンプルパッドであることを特徴とする、[6]または[7]のバックグラウンドノイズを低減させる方法。
[9] 色素が染料または顔料であることを特徴とする、[6]〜[8]のいずれかのバックグラウンドノイズを低減させる方法。
[10] 色素が有色粒子であることを特徴とする、[6]〜[8]のいずれかのバックグラウンドノイズを低減させる方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置または本発明の方法により、イムノクロマトグラフィー装置においてバックグラウンドノイズを低減し、検出シグナルの視認性を向上させることができ、検体中の抗原または抗体を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のイムノクロマトグラフィー装置の構成を示す図である。
図2】実施例で用いたインフルエンザウイルス検出用イムノクロマトグラフィー装置の構成を示す図である。
図3】色素の有無によるバックグラウンドノイズ低減の検証の結果を示す図である。
図4】赤単色系イムノクロマトグラフィー装置での検証の結果を示す図である。
図5】共通の検体抽出液を用いた場合のバックグラウンドノイズの検証の結果を示す図である(赤・青混色系イムノクロマトグラフィー装置)。
図6】共通の検体抽出液を用いた場合のバックグラウンドノイズの検証の結果を示す図である(赤単色系イムノクロマトグラフィー装置)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明のイムノクロマトグラフィー装置の好ましい1形態の例を示した図である。図1に示すイムノクロマトグラフィー装置は、メンブレン1、標識体領域2、検出領域3、サンプルパッド4、吸収帯5、バッキングシート6の構成部材により構成されている。部材を材料または領域ということもできる。
【0014】
図1Aが上面図、図1Bが切断断面図である。図の例では、バッキングシート6上に2個の検出領域3が形成されたメンブレン1、吸収帯5、標識体領域2、サンプルパッド4がそれぞれ積層されている。そして図示のように、吸収帯5の一方の端部とメンブレン1の一方の端部、メンブレン1の他方の端部と標識体領域2の一方の端部、標識体領域2の他方の端部とサンプルパッド4の一方の端部がそれぞれ重ね合わされており、これにより連続したラテラルフローの流路が形成されている。
【0015】
メンブレン1は、被検出物を捕捉するための捕捉物質を固相化する性能を持つ部材であり、かつ液体が水平方向に通行することを妨げない性能を持つ。好ましくは、毛細管作用を有する多孔性薄膜であり、液体およびそれに分散した成分を吸収して展開させることにより輸送可能な材料である。メンブレンを成す材質は特に限定されるものではなく、例えばセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ガラス繊維、ナイロン、ポリケトンなどが挙げられる。このうちニトロセルロースを用いて薄膜としたものがより好ましい。
【0016】
標識体領域2は、被検出物質に対する抗体であって標識担体で標識された標識抗体を含む多孔性基材から成り、基材の材質は一般的に用いられているガラス繊維や不織布等を用いることができる。該基材は、多量の標識抗体を含浸させるために、厚さ0.3mm〜0.6mm程度のパッド状であることが好ましい。
【0017】
標識担体は被検出物と複合体を形成した後に何らかの手段で検出可能なものを意味する。例えば、アルカリフォスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイドのような金属コロイド、シリカ粒子、セルロース粒子、および着色ラテックス粒子等が用いられることが多い。金属コロイド粒子や着色ラテックス粒子等の着色粒子を用いる場合には、これらの標識試薬が凝集することによって着色が生じるので、この着色を測定する。酵素を用いる場合には、測定ステップの中に基質を添加する操作および酵素と基質の反応を停止させる操作が必要なのに対して、金属コロイド粒子や着色ラテックス粒子を用いる場合にはそのような操作を必要としない。近年、インフルエンザなど流行期に大量の検査数が必要になる項目では臨床現場での迅速測定が行われている。この目的に使用される簡易検査試薬は現場の医師、看護師、臨床検査技師等によって扱われるケースが多いため、測定ステップを一層簡略化することが求められているので、操作の簡便な金属コロイド粒子や着色ラテックス粒子を用いることが多い。この着色ラテックス粒子としてはポリスチレン粒子等を用いたものがよく用いられる。特に着色ラテックス粒子の場合、色や粒子径が異なる様々な種類のものが製造可能であり、実際、多くの種類が市販されており、各々の目的によって好適なものを選択することができるので、最近使用されるケースが増えている。また複数の色調のラテックス粒子を用いて、複数の被検出物を検出する方法も提案されている。本発明で用いるイムノクロマトグラフィー装置は、標識担体として金属コロイド粒子や着色ラテックス粒子等の着色粒子を用いる装置が望ましい。本発明において、標識担体の色という場合、標識担体が着色粒子の場合粒子自体の色をいい、標識担体が酵素である場合、酵素反応によって呈する色をいう。
【0018】
検出領域3は、被検出物を捕捉する捕捉物質が固相化されたメンブレンの一部の領域(部材)を指す。抗原検出用のイムノクロマトグラフィー装置においては、被検出物は抗原であり、捕捉物質は抗体のことを指す。この場合、検出領域3は、抗原を捕捉するための抗体を固相化した領域を少なくとも1つ設ける。
【0019】
なお、検出領域3の数および標識体領域2に含まれる標識抗体の種類は1つに限られるものではなく、複数の被検出物に対応する抗体を用いることで、2つ以上の抗原を同一のイムノクロマトグラフィー装置にて測定することができる。このような形態の場合、標識体領域2には複数の標識抗体が混合した状態で含まれ、それぞれの標識抗体が個別に持つ色や濃度、混合比が、本発明が対象とする課題を複雑化するため重要な要素となる。
【0020】
サンプルパッド4は、検体または検体を用いて調製された試料を滴加するための部材であり、吸水性を持つ多孔性材料である。該材料には一般的に用いられるセルロース、ガラス繊維、不織布等を用いることができる。多量の検体を免疫測定に用いるために、厚さ0.3mm〜1mm程度のパッド状であることが好ましい。なお、サンプルパッドと前述の標識体領域2はあくまで機能的な区別であって、必ずしも個別の材料である必要はない。すなわち、サンプルパッドとして設置した材料の一部領域が標識体領域の機能を有することも可能である。
【0021】
吸収帯5は、メンブレン1に供給され検出領域3で反応に関与しなかった成分を吸収するための部材である。該材料には、一般的な天然高分子化合物、合成高分子化合物等からなる保水性の高いろ紙、スポンジ等を用いることができるが、検体の展開促進のためには吸水性が高いものが好ましい。
【0022】
バッキングシート6は、前述の全ての部材、すなわちメンブレン1、サンプルパッド4、標識体領域2、吸収帯5等が、部分的な重なりをもって貼付・固定されるための部材である。バッキングシート6は、これらの部材が最適な間隔で配置・固定されるのであれば、必ずしも必要ではないが、製造上あるいは使用上の利便性から、一般的には用いたほうが好ましい。
【0023】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置には、さらに対照表示領域(部材)が存在していてもよい。対照表示領域は試験が正確に実施されたことを示す部位である。例えば、対照表示領域は、検出領域の下流に存在し、検体試料が検出領域を通過し、対照表示領域に到達したときに着色等によりシグナルを発する。対照表示領域には、標識担体を結合させた抗体に結合する物質を固相化しておいてもよいし、検体試料が到達したときに色が変化するpHインジケーター等の試薬を固相化しておいてもよい。標識担体を結合させた抗体がマウスモノクローナル抗体の場合、抗マウスIgG抗体を用いればよい。
【0024】
図1で説明した形態のイムノクロマトグラフィー装置において、液体である検体をサンプルパッドに滴下すると、該検体は、サンプルパッド、標識体領域、メンブレン、検出領域、吸収帯等の一連の接続により形成された多孔性流路を通過する。よって本形態においては、これら全てが検体移動領域となる。各構成部材の材質や形態によって、検体が部材内部を浸透せず界面を通行する形態もありうるが、本明細書で定義する検体移動領域は部材の内部か界面かを問わないため、該形態のイムノクロマトグラフィー装置も本明細書の範囲に含まれる。
【0025】
サンプルパッドに供された検体は毛管作用によって標識体領域、メンブレン、吸収帯へと順次、水平方向に展開される。標識体領域では検体試料の展開と共に標識抗体が液中に放出されメンブレンへと展開される。検体試料中に抗原が存在する場合において、メンブレンの検出領域では捕捉抗体により抗原が特異的に捕捉され、なおかつ抗原は標識抗体とも特異的反応により複合体を形成する。これにより検出領域では抗原を介した抗体のサンドイッチが成立し、捕捉物質-抗原(被検出物質)-標識抗体で表される複合体が形成され、標識抗体-抗原複合物を標識担体の存在を指標に検出領域にて測定することができる。例えば、標識担体が金属コロイド粒子や着色ラテックス粒子等の着色粒子の場合、抗原が存在する場合に、検出領域に着色粒子が集積する結果、検出領域が色を呈するので、この色を目視または光測定装置により検出することにより、抗原を検出することができる。なお、本発明において、検体はサンプルパッドから吸収帯の方向に流れ、流れの方向によりサンプルパッドにより近い領域を上流領域といい、吸収帯により近い領域を下流領域という。例えば、図1に構成を示す装置において、サンプルパッドや標識体領域は検出領域よりも上流側に配されているという。
【0026】
上記の説明は、標識抗体を用いて検体中の抗原を検出する場合の説明であるが、捕捉物質として抗原を用い、標識物質として標識抗原を用いて、検体中の前記抗原に対する抗体を検出することができる。この場合、標識体領域には被検出物質である抗体が結合する抗原であって標識担体で標識された標識抗原を含み、検出領域には被検出物質である抗体を捕捉する抗原が捕捉物質として固相化される。
【0027】
本発明は、イムノクロマトグラフィー装置において、バックグラウンドノイズを低減し、検出シグナルの視認性を向上させる方法である。バックグラウンドノイズとは、標識抗体または標識抗原が装置上を毛管現象により展開したときに、メンブレン上に標識抗体または標識抗原が残留して、この残留した標識抗体または標識抗原の標識担体の色によるノイズをいい、該ノイズによりメンブレン上の検出領域に現れる標識抗体または標識抗原が見えにくい状態になってしまう。クロマトグラフィー装置における被検出物の有無の判定は、標識担体が着色粒子の場合、検出領域に捕捉され蓄積した標識抗体または標識抗原の標識担体の色を目視で確認することにより行うため、バックグラウンドノイズが高くなると検出領域の標識抗体または標識抗原が識別しにくくなり、判定が困難になることがある。特に、被検出物が微量である場合には検出領域の標識抗体が不鮮明になることがあり、正確に読み取ることができず誤判定を招くおそれがある。また、バックグラウンドノイズは標識抗体または標識抗原の多寡に依存するため、標識体領域から放出された直後が最も高く、時間経過とともに徐々に低下していく性質がある。そのため、臨床現場で迅速な判定を行うためにも、展開直後の高いバックグラウンドを速やかに低減させることは有益である。
【0028】
本発明においては、標識担体の色と補色の関係にある色素をイムノクロマトグラフィー装置の構成部材に乾燥状態で含ませることにより、サンプルパッドに供給した検体がメンブレンへ展開し、それに伴い標識体領域から再溶出した標識抗体または標識抗原がメンブレンへ展開される際に標識担体の色と補色の関係にある色素も同時に再溶出し展開され、メンブレン上に標識担体と色素が共に存在する。その結果、標識抗体または標識抗原によるバックグラウンドノイズが軽減される。
【0029】
標識担体の色と補色の関係にある色素を含ませる構成部材は検出領域から上流側に配される部材が望ましい。検出領域から上流側に配される部材とは、検出領域側の上流側にある全ての部材が含まれ、具体的には検出領域より上流側のメンブレン、標識体領域、サンプルパッドが挙げられるが、これらとは別に色素を含ませた部材を検出領域から上流側の任意の箇所に配しても良い。前記色素を含ませる構成部材として、より望ましいのはサンプルパッドである。
【0030】
色素を構成部材中に含ませる方法は、検体抽出液によって色素が再溶出される状態が保たれているならば、注液、浸漬、噴霧、溶射、蒸着など、いかなる公知の技術を用いても良いが、精度と簡便性の点から、噴霧による塗布の後、乾燥させる方法が望ましい。また、本願における「乾燥状態」とはあくまで性能上、製造上に不都合のない程度に乾燥し、濡れていないことを指す。よって厳密にはアモルファス(ガラス状態)等であってもかまわない。
【0031】
本発明の標識担体の色と補色の関係にある色素は染料、顔料といった公知の物を用いることができる。また、色を呈する物質そのものだけでなく、色素を付着、結合、含有させることで着色した有色粒子等を用いることもできる。着色する粒子としては、ポリスチレン粒子等の樹脂粒子やラテックス粒子等の粒子を用いることができる。用いる色素は、検出系に用いる標識抗体または標識抗原の総体としての色に対する補色の関係にある色であることが望ましい。
【0032】
本発明における「補色の関係にある色」とは、標識抗体または標識抗原と混じりあった際に、標識抗体または標識抗原の標識担体が持つ色の彩度低下を引き起こし無彩色に近づける色相を意味する。よって色相環においては、標識抗体または標識抗原の標識担体が持つ色から120〜180度の角度差にある色がその効果を持つが、180度に近いほどその効果が高いため、165〜180度にある色がより望ましい。一般的には、「補色」は色相環で180度の角度差にある色、すなわち正反対に位置する色をいうが、本発明における「補色の関係にある色」は、色相環においては120〜180度の角度差にある色を含める。例えば、色相環として、24色相のPCCS(日本色研配色体系)の色相環、マンセル表色系によるマンセル色相環、オスワルト表色系によるオスワルト色相環等が知られているが、本発明において、「補色の関係にある色」はいずれの色相環に基づくものでもよい。従って、本発明において、「補色の関係にある色」はPCCSの色相環、マンセル色相環、オスワルト色相環等の色相環上の正反対に位置する補色とその補色に対して色相差が1〜3の「隣接色相」や「類似色相」を包含する。PCCSの色相環上の補色は心理補色であり、心理補色とは有彩色を見つめた時に見える補色残像の色をいう。また、マンセル色相環、オスワルト色相環上の補色は物理補色であり、物理補色とは混合すると無彩色になる色をいう。従って、本発明において、「補色の関係にある色」の「補色」は心理補色も物理補色も含む。
【0033】
例えば、赤色ポリスチレンラテックス粒子等の赤色の標識担体を用いる場合、赤色と補色の関係にある色は青色から緑色であり、補色の関係にある色素として、青緑色の色素を用いることができる。また、青色ポリスチレンラテックス粒子等の青色の標識担体を用いる場合、青色と補色の関係にある色は橙色から赤色であり、補色の関係にある色素として、橙色の色素を用いることができる。また、異なる色の複数の標識担体を用いてもよく、赤色粒子と青色粒子を併用する場合、黄緑色の色素を用いることができる。色素は混合して所望の色に調整して用いてもよい。
【0034】
標識担体の色と補色の関係にある色の色素を用いることにより、メンブレン上に残留している標識担体の色の彩度が低下し、メンブレンが白く見えるようになり、検出領域における標識担体の色とメンブレンの色のコントラストが大きくなり、検出領域における標識担体の色が鮮明になる。
【0035】
本発明において、赤色の標識担体のみを用いるイムノクロマトグラフィー、青色の標識担体のみを用いるイムノクロマトグラフィー装置を、それぞれ、赤単色系イムノクロマトグラフィー装置、青単色系イムノクロマトグラフィー装置と呼ぶ。また、異なる色の複数の標識担体を用いてもよく、赤色粒子と青色粒子を併用する場合、赤・青混色系イムノクロマトグラフィー装置と呼ぶ。
【0036】
例えば、赤単色系イムノクロマトグラフィー装置に用いる色素として、青緑色のファストグリーンFCF、アリザリンシアニングリーンF、青色のブリリアントブルーFCF、インジゴカルミン、キシレンシアノールFF、ブロモフェノールブルー等が挙げられる。また、赤・青混色系イムノクロマトグラフィー装置に用いる色素として、黄緑色のライトグリーンSF黄、アリザリンシアニングリーンFとタートラジンを混合した黄緑色の色素等が挙げられる。さらに、青単色系イムノクロマトグラフィー装置に用いる色素として黄色のタートラジン等が挙げられる。
【0037】
従来は予め検体抽出液に色素を添加しておく方法もあった(特開2013-228350号公報)。しかし、生体試料からなる検体はスワブ等で定量せずに採取することから、過剰に検体が採取される場合があり、その結果、検体抽出液が上手く展開せずに色素がメンブレン上に残留しバックグラウンドノイズが高くなるという問題点があった。また、検体が過剰に採取されることにより、検体抽出液が希釈されて、色素が薄くなるという問題点があった。これら変動の要因は、検体採取量が一定でないのに対して、検査試薬(キット/デバイスとも呼ばれる)への検体抽出液の滴加量は一定に規定されていることに起因する。本発明では、予めイムノクロマトグラフィー装置内部の構成部材に色素を配することで、採取される検体量に影響を受けることが無い。すなわち、従来技術とは対照的に、試薬中の色素が一定量であり、一定量の検体抽出液で展開されることに因る。
【0038】
バックグラウンドノイズの高低は標識担体の量と密接に関与しているため、検体抽出液滴加時から反応終了時にかけて経時的に変化する。検体抽出液に色素を添加する従来法では、バックグラウンドノイズの高い展開初期と、バックグラウンドノイズが低くなる終期のどの時点においても一定の色調の色素液が展開されるため、理想的な形態ではない。一方で本発明の方法では色素も標識担体と同様に展開初期に濃く、終期には薄く展開されるため、バックグラウンドノイズの経時的な変化に対応した形態である。
【0039】
本発明の方法において、測定対象となる生体試料は、生体の粘膜由来の物質が混入している検体が好ましく、鼻咽頭粘膜由来検体や口腔粘膜由来検体があり、具体的には、喀痰、唾液、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、角結膜拭い液、糞便検体等が含まれる。
【0040】
本発明の方法において、測定対象となる被検出物質はイムノアッセイ、すなわち抗原抗体反応を利用したアッセイで測定し得る抗原または抗体である。抗原としては抗体を作製し得るものなら如何なる抗原でもよく、例えば、タンパク質、多糖類、脂質等が挙げられる。これらの物質を含む原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等も測定し得る。
【0041】
本発明は、上記の色素を有するイムノクロマトグラフィー装置を含む抗原または抗体検出キットをも包含する。該キットはイムノクロマトグラフィー装置の他に検体採取用の試薬、検体採取用のデバイス、ブロッシャー等を含む。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]赤・青混色系イムノクロマトグラフィー装置の作製
1.標識抗A型インフルエンザウイルス抗体(標識抗A型抗体)の作製
抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、赤色ポリスチレンラテックス粒子と混合し、反応させた。次に、EDAC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩)を最終濃度0.1%になるように添加した後、2時間反応させた。洗浄後、5mM Tris, 0.04(W/V)% BSA(ウシ血清アルブミン)に浮遊し、超音波分散装置でラテックス粒子を分散させた。
【0044】
2.標識抗B型インフルエンザウイルス抗体(標識抗B型抗体)の作成
抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体を緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、青色ポリスチレンラテックス粒子と混合し、反応させた。次に、EDACを最終濃度0.1%になるように添加した後、2時間反応させた。洗浄後、5mM Tris, 0.04(W/V)% BSA(ウシ血清アルブミン)に浮遊し、超音波分散装置でラテックス粒子を分散させた。
【0045】
3.標識抗体パッドの作製
1および2で作製した標識抗A型抗体と標識抗B型抗体を、室温下にて150rpmで5分間撹拌して等量混合した。混合した標識抗体を陽圧噴霧装置を用いてリール状に巻いた幅10mmのセルロース不織布全面に噴霧した。噴霧後、50℃の温風を10分間吹きつけて乾燥させ、標識抗体パッドを作製した。
【0046】
4.メンブレン固相用抗A型インフルエンザウイルス抗体(固相用抗A型抗体)の調製
1とは異なる精製抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体を、固相液(10mM Tris-HCl(pH7.5))に透析し、透析後に0.22μmろ過を行い、固相液で希釈して固相用抗A型抗体を調製した。
【0047】
5.固相用抗B型インフルエンザウイルス抗体(固相用抗B型抗体)の調製
2とは異なる精製抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体を、固相液(10mM Tris-HCl(pH7.5))に透析し、透析後に0.22μmろ過を行い、固相液で希釈して固相用抗B型抗体を調製した。
【0048】
6.抗体固相化メンブレンの作製
メンブレンは、幅3cm x 長さ10cmのニトロセルロースメンブレンシート(白色)を用いた。その長軸側の一端(この端を上流端、反対側を下流端とする)から8mm離れた位置に固相用抗A型抗体、10mm離れた位置に固相用抗B型抗体、12mm離れた位置に抗マウスIgG抗体を陽圧噴霧装置を用いて線状に塗布して検出領域とした。塗布後、45℃の温風を10分間吹き付けて乾燥した。
【0049】
7.赤・青混色系の色素含浸パッドの作製
黄緑色となるよう調合した色素液(0.001%アリザリンシアニングリーンF、0.002%タートラジン)を調製し、陽圧噴霧装置を用いてリール状に巻いた幅20mmのポリエステル不織布全面に噴霧した。噴霧後、50℃の温風を10分間吹きつけて乾燥させ、色素含浸パッドを作製した。
【0050】
8.インフルエンザウイルス検出用イムノクロマトグラフィー装置の作製
インフルエンザウイルス検出用イムノクロマトグラフィー装置は、図2に示すものと同様の構成のものを用いた。3で作製した標識抗体パッド2、6で作製した検出領域3を含む抗体固相化メンブレン1、7で作製した色素含浸パッド4と、他部材(バッキングシート6、吸収帯5)とを貼り合せて長軸方向に沿って、5mmずつ切断し、図2に示すイムノクロマトグラフィー装置を作製した。
【0051】
[実施例2]赤単色系イムノクロマトグラフィー装置の作製
1.標識抗肺炎マイコプラズマ抗体(標識抗Mp抗体)の作製
抗肺炎マイコプラズマモノクローナル抗体を緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、赤色ポリスチレンラテックス粒子と混合し、反応させた。次に、EDAC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩)を最終濃度0.1%になるように添加した後、2時間反応させた。洗浄後、5mM Tris, 0.04(W/V)% BSA(ウシ血清アルブミン)に浮遊し、超音波分散装置でラテックス粒子を分散させた。
【0052】
2.標識抗体パッドの作製
1で作製した標識抗Mp抗体を陽圧噴霧装置を用いてリール状に巻いた幅10mmのセルロース不織布全面に噴霧した。噴霧後、50℃の温風を10分間吹きつけて乾燥させ、標識抗体パッドを作製した。
【0053】
3.メンブレン固相用抗肺炎マイコプラズマ抗体(固相用抗Mp抗体)の調製
1とは異なる精製抗肺炎マイコプラズマモノクローナル抗体を、固相液(10mM Tris-HCl(pH7.5))に透析し、透析後に0.22μmろ過を行い、固相液で希釈して固相用抗Mp抗体を調製した。
【0054】
4.抗体固相化メンブレンの作製
メンブレンは、幅3cm x 長さ10cmのニトロセルロースメンブレンシート(白色)を用いた。その長軸側の一端(この端を上流端、反対側を下流端とする)から9mm離れた位置に固相用抗Mp抗体、12mm離れた位置に抗マウスIgG抗体を陽圧噴霧装置を用いて線状に塗布して検出領域とした。塗布後、45℃の温風を10分間吹き付けて乾燥した。
【0055】
5.赤単色系の色素含浸パッドの作製
青緑色を呈する色素液(0.001%ファストグリーンFCF)を調製し、陽圧噴霧装置を用いてリール状に巻いた幅20mmのポリエステル不織布全面に噴霧した。噴霧後、50℃の温風を10分間吹きつけて乾燥させ、色素含浸パッドを作製した。
【0056】
6.肺炎マイコプラズマ検出用イムノクロマトグラフィー装置の作製
肺炎マイコプラズマ検出用イムノクロマトグラフィー装置は、検出領域が1つであることを除き図2に示すものと同様の構成のものを用いた。2で作製した標識抗体パッド、4で作製した抗体固相化メンブレン、5で作製した色素含浸パッドと、他部材(バッキングシート、吸収帯)とを貼り合せて長軸方向に沿って、5mmずつ切断し、図2に示すイムノクロマトグラフィー装置を作製した。
【0057】
[実施例3]色素の有無によるバックグラウンドノイズ低減の検証
1.赤・青混色系イムノクロマトグラフィー装置(赤・青混色検出系)での検証
実施例1のイムノクロマトグラフィー装置で予め黄緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置と、何も塗布していないサンプルパッドを用いた装置を用意した。
【0058】
黄緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置と、何も塗布していないサンプルパッドを用いた装置それぞれに、検体抽出液を滴下して、3分後のメンブレンのバックグラウンドを比較した。(図3参照)
【0059】
図3および表1で示されるとおり、サンプルパッドに色素を含ませた装置(図3下)は色素の無い装置と比較してメンブレンが白く見えることから、バックグランドノイズが低減され、検出領域の色が鮮明になった。
【0060】
2.赤単色系イムノクロマトグラフィー装置(赤単色検出系)での検証
実施例2のイムノクロマトグラフィー装置で予め青緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置と、何も塗布していないサンプルパッドを用いた装置を用意した。
【0061】
青緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置と、何も塗布していないサンプルパッドを用いた装置それぞれに、検体抽出液(不活化した薄い肺炎マイコプラズマ抗原を含む)を滴下して、3分後のメンブレンのバックグラウンドを比較した。(図4参照)
【0062】
図4および表1で示されるとおり、サンプルパッドに色素を含ませた装置(図4下)は色素の無い装置と比較してメンブレンが白く見えることから、バックグランドノイズが低減され、検出領域の色が鮮明になった。
【0063】
【表1】
【0064】
[実施例4]共通の検体抽出液を用いた場合のバックグラウンドノイズの検証
実施例1のイムノクロマトグラフィー装置(赤・青混色系イムノクロマトグラフィー装置、装置No.1〜4)で予め黄緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置(装置No.2)と、何も塗布していないサンプルパッドを用いた装置(装置No.1、3および4)を用意した。実施例2のイムノクロマトグラフィー装置(赤単色系イムノクロマトグラフィー装置、装置No.5〜8)で予め青緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置(装置No.6)と、何も塗布していないサンプルパッドを用いた装置(装置No.5、7および8)を用意した。
【0065】
黄緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置(装置No.2)、および青緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッドを用いた装置(装置No.6)には無色の検体抽出液を滴下した。何も塗布していないサンプルパッドを用いた実施例1の装置(装置No.1、3および4)には、無色の検体抽出液(装置No.1(対照1))、黄緑色の色素を含む検体抽出液(装置No.3)または青緑色の色素を含む検体抽出液(装置No.4)を滴下した。何も塗布していないサンプルパッドを用いた実施例2の装置(装置No.5、7および8)には、無色の検体抽出液(装置No.5(対照2))、黄緑色の色素を含む検体抽出液(装置No.7)または青緑色の色素を含む検体抽出液(装置No.8)を滴下した。それぞれの装置の滴下3分後のメンブレンのバックグラウンドノイズを比較した。
【0066】
表2で示されるとおり、検体抽出液に青緑色の色素を含ませた検体抽出液を用いた装置では、赤単色系(赤単色検出系)イムノクロマトグラフィー装置(装置No.8)において対照2と比較して、バックグランドノイズが低減されたが、同じ検体抽出液を用いた赤・青混色系(赤・青混色検出系)イムノクロマトグラフィー装置(装置No.4)では対照1と比較してバックグラウンドの青みが増し、ノイズはより高くなった。図5に装置No.4のバックグラウンドの様子を示す。図5上が装置No.1(対照1)の結果を示し、図5下が装置No.4の結果を示す。図5は装置No.4のバックグラウンドの青みが増していることを示している。
【0067】
同様に、検体抽出液に黄緑色の色素を含ませた検体抽出液を用いた装置では、赤・青混色系(赤・青混色検出系)イムノクロマトグラフィー装置(装置No.3)において対照1と比較してバックグラウンドノイズは低減されたが、同じ検体抽出液を用いた赤単色系(赤単色検出系)イムノクロマトグラフィー装置(装置No.7)ではバックグラウンドノイズを改善する効果は得られなかった。図6に装置No.7のバックグラウンドの様子を示す。図6上が装置No.5(対照2)の結果を示し、図6下が装置No.7の結果を示す。図6は装置No.7のバックグラウンドの濃さが装置No.5(対照2)のバックグラウンドの濃さと変わらないことを示している。
【0068】
すなわち、いずれかの検出系に合わせて調製した色素入り検体抽出液では、他の検出系では期待通りの効果が得られないばかりか、本来の性能よりも悪化することがあり、共通の検体抽出液を用いることができないことが示された。
【0069】
本願方法では無色の検体抽出液を共通に用いて、どちらの検出系においても期待通りのバックグラウンドノイズ低減効果が得られた。
【0070】
【表2】
【0071】
[実施例5]検体採取量のばらつきがバックグラウンドノイズに与える影響の検証
1.従来法における検体採取量の影響
実施例2のイムノクロマトグラフィー装置で色素を塗布していないサンプルパッドを用いた装置を用意し、最適な色素量を添加した検体抽出液(色素設定量・相対量1)を対照として滴下した。また、検体採取量が多い場合を想定し、無色の疑似検体を所定量混ぜた前記の色素添加検体抽出液を滴下して試験した。それぞれの装置で3分後のメンブレンのバックグラウンドノイズを比較した。
【0072】
2.本発明方法における検体採取量の影響
実施例2のイムノクロマトグラフィー装置で予め青緑色の色素を塗布して乾燥させたサンプルパッド(色素設定量・相対量1)を用意し、無色の検体抽出液を滴下し対照とした。また、検体採取量が多い場合を想定し、無色の疑似検体を所定量混ぜた検体抽出液を滴下して試験した。それぞれの装置で3分後のメンブレンのバックグラウンドノイズを比較した。
【0073】
表3に示すとおり、従来法では採取検体量が多いほど滴下時に供給される色素量が減少し、標識抗体による赤いバックグラウンドノイズを改善する効果が減じられることを示している。一方本発明方法では検出系に展開される色素量がかわらず常に一定の効果を発揮することを示している。
【0074】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置を用いることにより、正確に検体中の抗原および抗体を検出することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 メンブレン
2 標識体領域
3 検出領域
4 サンプルパッド
5 吸収帯
6 バッキングシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6