(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ビードを積層させる多層盛り溶接では、所定の施工条件(板厚、パス数、電流、電圧、速度、アークタイムなど)に対して、溶接温度を監視して所定のパス間温度までの待ち時間のデータを実験によって取得しておき、この取得したデータに基づいてパス間温度を管理することが行われる。
【0006】
しかし、複雑形状を有する造形物を積層造形により製造する場合では、積層数の増加とともに形状が変化するため、全体の熱容量や熱伝導が変化する。また、造形物の形状によって溶接条件を造形途中で変更する場合もある。このため、前述のパス間温度を管理する方法では、適切な待ち時間を求めるために大量に実験を行ってデータを集める必要がある。例えば、溶接パスが数百パスに及ぶような場合は、非常に手間や時間がかかるため非現実である。また、パス間温度が高すぎると、ビードに垂れ落ちなどが生じてビード形状が崩れる。パス間温度が低すぎると、パス間温度まで冷却するための待ち時間が長くなり、結果として造形物の製造時間が長くなる。しかも、溶接材料、母材、溶接方法によってはパス間温度が変化するため、適切にパス間温度を管理することが難しい。そして、母材の開先を溶接する特許文献1に記載された技術では、積層造形におけるパス間温度を適切に管理することが困難である。
【0007】
また、積層造形の技術では、材料を溶融・凝固させて造形していくため、造形物が熱収縮して変形し、目標形状に対して誤差が発生することがある。さらに、造形物に対して切削、焼鈍などの加工、又はベースプレートの除去を行うと、造形物内部に残留した熱応力の解放によってひずみが生じ、造形物が変形することがある。
【0008】
そこで本発明は、パス間温度を適切に管理しつつ、熱の影響を考慮して造形物を造形することを可能とする積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記構成からなる。
(1) 溶着ビードをベースプレート上に積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
コンピュータが、
前記3次元形状データを取得する工程と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶着ビードで形成するための溶接パス、及び前記溶着ビードを形成する際の溶接条件を定める積層計画を作成する工程と、
複数の前記溶接パスについて、溶接パスの終了から次の溶接パスの開始までのパス間時間を設定し、前記パス間時間における伝熱計算を行ってパス間温度を算出する工程と、
前記パス間温度が予め設定したパス間温度範囲に収まるか否かを判定し、前記パス間温度が前記パス間温度範囲に収まるまで伝熱計算を繰り返して前記パス間時間を調整する工程と、
前記伝熱計算によって算出された前記パス間時間と前記パス間温度とに応じて、熱収縮した際の前記積層造形物の造形物形状データを作成し、前記造形物形状データと前記3次元形状データの造形形状の形状差を算出する工程と、
前記形状差を予め設定した適正値と比較し、前記形状差が前記適正値よりも小さくなるまで、前記形状差に応じて修正した修正3次元形状データを作成し、前記積層計画の作成から前記造形物形状データを算出するまでの工程を繰り返す工程と、
を実行する積層造形物の積層計画方法。
(2) (1)に記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記積層計画に基づいて、前記積層造形物を製造する積層造形物の製造方法。
(3) 積層造形物の3次元形状データを用い、溶着ビードをベースプレート上に積層して前記積層造形物を造形する積層造形物の製造装置であって、
前記3次元形状データを取得する入力部と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶着ビードで形成するための溶接パス、及び前記溶着ビードを形成する際の溶接条件を定める積層計画を作成する積層計画作成部と、
複数の前記溶接パスについて、パス間時間を設定し、前記パス間時間における伝熱計算を行ってパス間温度を算出する温度予測部と、
前記パス間温度が予め設定したパス間温度範囲に収まるか否かを判定し、前記パス間温度が前記パス間温度範囲に収まるまで伝熱計算を繰り返して前記パス間時間を調整するパス間温度調整部と、
前記伝熱計算が終了して算出された前記パス間時間と前記パス間温度とに応じて、熱収縮した際の前記積層造形物の造形物形状データを作成し、前記造形物形状データと前記3次元形状データの造形形状の形状差を算出する変形量計算部と、
前記形状差を予め設定した適正値と比較し、前記形状差が前記適正値よりも小さくなるまで、前記形状差に応じて修正した修正3次元形状データを作成し、前記積層計画の作成から前記造形物形状データの算出までの工程を繰り返す形状差調整部と、
を備える積層造形物の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パス間温度を適切に管理しつつ、熱の影響を考慮して造形物を造形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<積層造形物の製造装置>
図1は本発明に係る積層造形物の製造装置の概略構成図である。
本構成の積層造形物の製造装置100は、造形部11と、造形部11を統括制御するコントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0013】
造形部11は、先端軸にトーチ17が設けられた溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。
【0014】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0015】
トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生させる。トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0016】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート23上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0017】
溶加材Mは、溶接ロボット19のロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17は、コントローラ13からの指令によりロボットアームが駆動されることで、所望の溶接ラインに沿って移動する。また、連続送給される溶加材Mは、トーチ17の先端で発生するアークによってシールドガス雰囲気で溶融され、凝固する。これにより、溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビードBが形成される。このように、造形部11は、溶加材Mの溶融金属を積層する積層造形装置であって、ベースプレート23上に多層状に溶着ビードBを積層することで、積層造形物Wを造形する。
【0018】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。アークを用いる場合は、シールド性を確保しつつ、素材、構造によらずに簡単に溶着ビードBを形成できる。電子ビームやレーザにより加熱する場合は、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードBの状態をより適正に維持して、積層造形物Wの更なる品質向上に寄与できる。
【0019】
コントローラ13は、積層計画作成部31と、変形量計算部33と、余肉量設定部34と、プログラム生成部35と、温度予測部36と、造形時間見積り部38と、記憶部37と、入力部39と、表示部40と、これら各部が接続される制御部41と、を有する。制御部41には、作製しようとする積層造形物Wの形状を表す3次元形状データ(CADデータ等)や、各種の指示情報が入力部39から入力される。表示部40は、制御部41から送信される信号に応じた各種の情報を表示する。
【0020】
本構成の積層造形物の製造装置100は、入力された3次元形状データを用いてビード形成用の形状モデルを生成し、トーチ17の移動軌跡や溶接条件等の積層計画を作成する。制御部41は、積層計画に応じた動作プログラムを作成し、この動作プログラムに従って各部を駆動して、所望の形状の積層造形物Wを積層造形する。
【0021】
積層計画作成部31は、入力された3次元形状データの形状モデルを溶着ビードBの高さに応じた複数の層に分解する。そして、分解された形状モデルの各層について、溶着ビードBを形成するためのトーチ17の軌道、及び溶着ビードBを形成する加熱条件(ビード幅、ビード積層高さ等を得るための溶接条件等を含む)を定める積層計画を作成する。
【0022】
変形量計算部33は、積層計画に従って造形した積層造形物Wに対して機械開口等を行った際に、積層造形物Wの残留応力の解放によって生じる変形量を解析的に求める。
【0023】
余肉量設定部34は、機械加工後の構造体W1から積層造形物Wの外縁までの削り代となる余肉量を設定する。
【0024】
プログラム生成部35は、造形部11の各部を駆動して積層造形物Wを造形する手順をコンピュータに実行させる動作プログラムを作成する。作成された動作プログラムは、記憶部37に記憶される。
【0025】
温度予測部36は、詳細を後述する伝熱計算などの事前予測手段を有し、造形前に温度予測することによって溶着ビームの温度管理を行う。また、造形時間見積り部38は、詳細を後述する積層造形物Wを造形するために要する造形時間を事前に見積る。
【0026】
記憶部37には、動作プログラムが記憶される他、造形部11が有する各種駆動部の仕様や溶加材Mの材料の情報等も記憶される。記憶された情報は、プログラム生成部35で動作プログラムを作成する際、動作プログラムを実行する際、等に適宜参照される。
【0027】
上記の制御部41を含むコントローラ13は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAM等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等のストレージ、I/Oインターフェース、等を具備するコンピュータで構成される。コントローラ13は、記憶部37に記憶されたデータやプログラムを読み込み、解析処理を含むデータの処理や動作プログラムを実行する機能、及び造形部11の各部を駆動制御する機能を有する。制御部41は、入力部39からの操作や通信等による指示に基づいて、各種の動作プログラムの作成や実行を行う。
【0028】
制御部41が動作プログラムを実行すると、溶接ロボット19や電源装置15等の各部が、プログラムされた所定の手順に従って駆動される。溶接ロボット19は、コントローラ13からの指令により、プログラムされた軌道軌跡に沿ってトーチ17を移動させるとともに、溶加材Mを所定のタイミングでアークにより溶融させて、所望の位置に溶着ビードBを形成する。
【0029】
ここでいう動作プログラムとは、入力された積層造形物Wの3次元形状データから、所定の演算により設計された溶着ビードBの形成手順を、造形部11により実施させるための命令コードである。制御部41は、記憶部37に記憶された動作プログラムを実行することで、造形部11によって積層造形物Wを製造させる。つまり、制御部41は、記憶部37から所望の動作プログラムを読み込み、この動作プログラムに従って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させるとともに、トーチ17先端からアークを発生させる。これにより、ベースプレート23に溶着ビードBが繰り返し形成されて積層造形物Wが造形される。
【0030】
積層計画作成部31、変形量計算部33、余肉量設定部34、プログラム生成部35、温度予測部36、造形時間見積り部38等の各演算部は、コントローラ13に設けられるがこれに限らない。図示はしないが、例えば積層造形物の製造装置100とは別体に、ネットワーク等の通信手段を介して離間して配置されたサーバや端末等の外部コンピュータに、上記した演算部が設けられてもよい。外部コンピュータに上記した演算部が設けられることで、積層造形物の製造装置100を要せずに、所望の動作プログラムを作成でき、プログラム作成作業が繁雑にならない。また、作成した動作プログラムを、コントローラ13の記憶部37に、ネットワークや記憶媒体を介して転送することで、コントローラ13で動作プログラムを作成した場合と同様に、造形部11を動作させることができる。
【0031】
<基本的な積層造形の手順>
次に、単純な積層造形物Wのモデルを用いて、積層造形の手順を簡単に説明する。
図2は積層造形物Wを上下方向に切断した概略断面図である。
図3A〜
図3Cは積層造形物Wの基本的な積層造形の手順を説明する工程説明図であって、積層造形物Wを上下方向に切断した概略断面図である。
【0032】
図2に一例として示す積層造形物Wは、ベースプレート23上に円筒状に形成されている。ベースプレート23は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。なお、このベースプレート23は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0033】
図3Aに示すように、積層造形物Wを造形するには、予め設置したベースプレート23上に、動作プログラムに従って溶接ロボット19が指示された軌道に沿ってトーチ17を移動させる。このトーチ17の移動と共にトーチ17の先端にアークを発生させることで、トーチ17の軌道に沿って溶着ビードBを形成する。溶着ビードBは、溶加材Mを溶融及び凝固して形成される。そして、形成したビード層BLに次層のビード層BLを、上記同様の動作によって繰り返し積層する。
【0034】
図3Bに示すように、ベースプレート23上に積層造形物Wを造形したら、ベースプレート23を、ワイヤーソーやダイヤモンドカッター等による切断機で切断して、ベースプレート23と積層造形物Wとを分離して、ベースプレート23を除去する。その後、
図3Cに示すように、例えば、積層造形物Wに対して余肉量設定部34で設定した余肉部分を切削して製品に加工する。なお、ベースプレート23は、積層造形物Wから余肉部分を切削した後に除去してもよい。
【0035】
<積層造形物の積層計画>
次に、積層造形物を造形する積層計画方法について説明する。
ここでは、上記したような積層造形物Wを溶着ビードBの積層により造形する際に、溶着ビードBのパス間温度を適切に管理することにより、熱の影響を考慮して積層造形物Wを造形する積層計画を作成する。
【0036】
図4は積層造形物の積層計画の手順を示すフローチャートである。
まず、コントローラ13は、造形しようとする積層造形物のCADデータである3次元形状データD
0を入力部39から取得する(S1)。
【0037】
コントローラ13の積層計画作成部31は、取得した3次元形状データD
0に応じて造形形状を決定し、その造形形状を溶着ビードBで形成する積層計画を作成するとともに、溶着ビードBを形成する条件決定を行う(S2)。条件決定には、トーチ17を移動させる溶接パス(トーチの軌道)を決定する軌道計画を作成すること、アークを加熱源として溶着ビードBを形成する際の、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、トーチ角等の溶接条件を設定することが含まれる。
【0038】
具体的には、3次元形状データD
0から積層造形物Wの造形形状を決定し、この造形形状を垂直方向に複数のビード層(本例では10層)BLに分割し、各ビード層BLに対応して、それぞれトーチ17を移動させる溶接パス及び軌道等を求める。溶接パス及び軌道の決定は、所定のアルゴリズムに基づく演算等により決定される。溶接パスの情報としては、例えば、トーチ17を移動させる経路の空間座標、経路の半径、経路長等の経路の情報や、形成する溶着ビードBのビード幅やビード高さ等のビード情報等が含まれる。ビード層BLの高さは、溶接条件により設定される溶着ビードBの高さに応じて決定される。
【0039】
積層計画を作成した後、温度予測部36による以下の温度予測処理(S3〜S7)を実施する。
【0040】
最初に、積層計画における溶接パスについて、1つの溶接パスの終了から次の溶接パスの開始までの待ち時間であるパス間時間tnを設定する。また、このパス間時間tnにおいて、許容されるパス間温度の最小値Tminと最大値Tmaxを予め設定する(S3)。
【0041】
パス間時間tnにおける各溶接パスでのパス間温度Tnを、詳細を後述する伝熱計算を行って算出する(S4)。
【0042】
算出した各溶接パスにおけるパス間温度Tnが許容されるパス間温度範囲Tmin〜Tmaxに収まるか否かを判定する(S5)。パス間温度Tnがパス間温度範囲Tmin〜Tmaxから外れている場合(S5:No)、パス間温度Tnがパス間温度範囲Tmin〜Tmaxに収まるように、再度、パス間時間tnを変更して伝熱計算し、パス間温度Tnを算出する(S4)。
【0043】
このように、分割した全てのビード層BLについてパス間温度Tnがパス間温度範囲Tmin〜Tmaxに収まるまでパス間時間tnを変更して伝熱計算を繰り返す(S6)。この処理は、伝熱計算を繰り返すパス間温度調整部の機能を有する温度予測部36によって実行される。
【0044】
分割した全てのビード層BLについてパス間温度Tnがパス間温度範囲Tmin〜Tmaxに収った場合(S6:Yes)、各溶接パスにおけるパス間時間tn及びパス間温度Tnを制御部41に出力する(S7)。
【0045】
ここで、温度予測部36による伝熱計算は、計算速度が速い手法を用いることが好ましい。この伝熱計算は、3次元熱伝導方程式を用いて計算してもよい。温度予測部36は、例えば、下記の基本式(1)を用いて温度予測する。
【0047】
ただし、基本式(1)において、
H:エンタルピ
C:節点体積の逆数
K:熱伝導マトリックス
F:熱流束
Q:体積発熱
である。
【0048】
なお、3次元熱伝導方程式において、溶接入熱は、溶接速度にあわせて溶接領域に付与してもよい。また、溶着ビードが短い場合は、1ビード全体の入熱を付与してもよい。
【0049】
温度予測部36がパス間時間tn及びパス間温度Tnを制御部41に出力した後、変形量計算部33は、以下の変形予測処理(S8〜S11)を実施する。
【0050】
変形量計算部33は、分割した全てのビード層BLについての各溶接パスにおけるパス間時間tn及びパス間温度Tnを制御部41から入力する。そして、算出されたパス間時間tnとパス間温度Tnに応じて、積層造形物Wの変形量を予測し、熱収縮した際の積層造形物Wの造形物形状データD
1を作成する(S8)。
【0051】
次に、変形量計算部33は、積層造形物Wに対して切削や焼鈍などの加工を行うことによる解放ひずみに伴う積層造形物Wの変形量を予測する。そして、この予測した変形量に基づいて、積層造形物Wの造形物形状データD
1をさらに修正する(S9)。
【0052】
次に、変形量計算部33は、造形した積層造形物Wからベースプレート23を除去することによる解放ひずみに伴う積層造形物Wの変形量を予測する。そして、予測した変形量に応じて、積層造形物Wの造形物形状データD
1を修正する(S10)。
【0053】
ここで、修正した造形物形状データD
1と3次元形状データD
0との造形形状の形状差(D
1−D
0)と、予め設定した必要最小限の余肉量であるニアネット値(適正値)δとを比較する(S11)。形状差(D
1−D
0)がニアネット値δ以上である場合(S11:No)、この形状差を基に修正した修正3次元形状データD
2(D
2=D
0−δ)を作成し、形状差(D
1−D
0)がニアネット値δより小さくなるまで、積層計画の作成(S2)、温度予測処理(S3〜S7)及び変形予測処理(S9〜S11)の工程を繰り返し実施する。上記の形状差に応じて修正した修正3次元形状データを作成する処理は、形状差調整部の機能を有する変形量計算部33によって実行される。
【0054】
上記の積層造形物の製造装置100では、温度予測部36からパス間時間tn及びパス間温度Tnが出力されると、造形時間見積り部38が、算出されたパス間時間tnと溶接パスにかかる時間である溶接パス時間tpnとを基に、積層造形物Wの造形に要する造形時間taの見積りを行う。つまり、溶接パス時間tpnにパス間時間tnの積算値を加算して積層造形物Wの全体の造形時間taを見積る。なお、この造形時間taは、溶接ロボット19の動作時間を含んでいてもよい。
【0055】
以上説明したように、本構成の積層造形物の積層計画方法によれば、複数の溶接パスについて、パス間時間tnを設定してパス間時間tnにおける伝熱計算を行ってパス間温度Tnを算出し、パス間温度Tnが予め設定したパス間温度範囲Tmin〜Tmaxに収まるか否かを判定し、パス間温度Tnがパス間温度範囲Tmin〜Tmaxに収まるまで伝熱計算を繰り返して前記パス間時間を調整する。そして、伝熱計算によって算出されたパス間時間tnとパス間温度Tnとに応じて、熱収縮した際の積層造形物Wの造形物形状データD
1を作成し、造形物形状データD
1と3次元形状データD0の造形形状の形状差(D
1−D
0)を算出する。さらに、形状差(D
1−D
0)を予め設定した適正値であるニアネット値δと比較し、形状差(D
1−D
0)がニアネット値δよりも小さくなるまで、形状差(D
1−D
0)を基に修正した修正3次元形状データD
2を作成し、積層計画の作成から造形物形状データD
1の算出までの工程を繰り返し実施する。したがって、溶着ビードBを形成する際の溶接パスのパス間温度Tnを適切に管理しつつ、熱収縮による変形が考慮された積層計画を作成することができる。
【0056】
これにより、溶着ビードBを形成する際の溶接パスのパス間温度Tnを適切に管理しつつ、熱収縮による変形を考慮して積層造形物Wを製造できる。
【0057】
また、積層造形物Wに切削加工や焼鈍処理を施す場合に、これによって生じる解放ひずみによる積層造形物Wの変形を考慮して、積層造形物Wを造形することができ、さらに、積層造形物Wに対してベースプレート23の除去を行う場合に、ベースプレート23の除去によって生じる解放ひずみによる積層造形物Wの変形を考慮して積層造形物Wを造形することができる。
【0058】
ここで、積層造形物の溶接変形及び残留応力は、一般に、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いた熱弾塑性解析法又は弾性解析等を利用したコンピュータシミュレーションによって解析される。
【0059】
熱弾塑性解析法では、多数の微小時間ステップごとに各種の非線形要素まで考慮して現象を計算するので、高精度な解析をすることができる。一方、弾性解析では、線形要素のみを考慮して解析をするため、短時間で解析をすることができる。溶着ビードBを積層する積層造形によって積層造形物Wを造形すると、積層造形物Wの全箇所が金属の溶融・凝固プロセスを経ることになる。金属が溶融・凝固すると、積層造形物Wに固有ひずみ(塑性ひずみ、熱ひずみ)が発生する。この固有ひずみに起因した残留応力が積層造形物Wの内部に発生する。変形量計算部33は、このような積層造形による形状変化を解析的に求める。
【0060】
変形量計算部33は、例えば、部分モデル熱弾塑性解析部と、全体モデル弾性解析部とを備えた構成であってもよい。部分モデル熱弾塑性解析部は、入力された解析条件(積層造形条件,材料物性条件)に基づいて、造形物の部分的なモデルを用いて熱弾塑性解析をして固有ひずみ(塑性ひずみ、熱ひずみ)を算出する。全体モデル弾性解析部は、算出した固有ひずみに基づいて造形物の全体モデルについて弾性解析をして残留応力等を導出する。解析に使用される条件としては、熱源の出力、熱源の種類、ビームプロファイル、走査速度、走査シーケンス、ラインオフセット又は予熱温度等をパラメータとする積層造形条件と、材料のヤング率、耐力、線膨張係数、加工硬化指数等の機械的物性値と、熱伝導率又は比熱等の熱物性値等の材料物性条件とがある。
【0061】
以上説明した本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0062】
例えば、上記の例では、造形した積層造形物Wに対して切削や焼鈍などの加工及びベースプレート23の除去を伴う場合を例示したが、これらの加工やベースプレート23の除去を伴わない場合もある。これらの加工やベースプレート23の除去を伴わない場合、変形予測処理では、熱収縮に伴う変形量の予測に基づく造形物形状データD
1の作成(S8)だけを行うこととなる。
【0063】
また、上記例では積層造形物Wを単純な円筒形状としたが、積層造形物Wの形状は、これに限らない。積層造形物Wがより複雑な形状であるほど、上記した積層計画、及び製造方法による効果が顕著となるため、好適に適用することができる。
【0064】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶着ビードをベースプレート上に積層する積層造形装置により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
コンピュータが、
前記3次元形状データを取得する工程と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶着ビードで形成するための溶接パス、及び前記溶着ビードを形成する際の溶接条件を定める積層計画を作成する工程と、
複数の前記溶接パスについて、溶接パスの終了から次の溶接パスの開始までのパス間時間を設定し、前記パス間時間における伝熱計算を行ってパス間温度を算出する工程と、
前記パス間温度が予め設定したパス間温度範囲に収まるか否かを判定し、前記パス間温度が前記パス間温度範囲に収まるまで伝熱計算を繰り返して前記パス間時間を調整する工程と、
前記伝熱計算によって算出された前記パス間時間と前記パス間温度とに応じて、熱収縮した際の前記積層造形物の造形物形状データを作成し、前記造形物形状データと前記3次元形状データの造形形状の形状差を算出する工程と、
前記形状差を予め設定した適正値と比較し、前記形状差が前記適正値よりも小さくなるまで、前記形状差に応じて修正した修正3次元形状データを作成し、前記積層計画の作成から前記造形物形状データを算出するまでの工程を繰り返す工程と、
を実行する積層造形物の積層計画方法。
この構成の積層造形物の積層計画方法によれば、溶着ビードを形成する際の溶接パスのパス間温度を適切に管理しつつ、熱収縮による変形が考慮された積層計画を作成することができる。
【0065】
(2) 前記コンピュータが、
前記積層造形物に対する加工によって生じる解放ひずみによる前記積層造形物の変形量を予測し、当該変形量に基づいて、前記造形物形状データを修正する工程を実行する(1)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この構成の積層造形物の積層計画方法によれば、積層造形物に対して切削や焼鈍などの加工を行う場合、この加工によって生じる解放ひずみによる積層造形物の変形を考慮して積層造形物を造形することができる。
【0066】
(3) 前記コンピュータが、
前記積層造形物から前記ベースプレートを除去することによって生じる解放ひずみによる前記積層造形物の変形量を予測し、当該変形量に基づいて、前記造形物形状データを修正する工程を実行する(1)又は(2)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この構成の積層造形物の積層計画方法によれば、積層造形物に対してベースプレートの除去を行う場合、このベースプレートの除去によって生じる解放ひずみによる積層造形物の変形を考慮して積層造形物を造形することができる。
【0067】
(4) (1)〜(3)のいずれか1つに記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記積層計画に基づいて、前記積層造形物を製造する積層造形物の製造方法。
この構成の積層造形物の製造方法によれば、溶着ビードを形成する際の溶接パスのパス間温度を適切に管理しつつ、熱収縮等による変形を考慮して積層造形物を造形することができる。
【0068】
(5) 積層造形物の3次元形状データを用い、溶着ビードをベースプレート上に積層して前記積層造形物を造形する積層造形物の製造装置であって、
前記3次元形状データを取得する入力部と、
前記3次元形状データの形状を層分解した各層を前記溶着ビードで形成するための溶接パス、及び前記溶着ビードを形成する際の溶接条件を定める積層計画を作成する積層計画作成部と、
複数の前記溶接パスについて、パス間時間を設定し、前記パス間時間における伝熱計算を行ってパス間温度を算出する温度予測部と、
前記パス間温度が予め設定したパス間温度範囲に収まるか否かを判定し、前記パス間温度が前記パス間温度範囲に収まるまで伝熱計算を繰り返して前記パス間時間を調整するパス間温度調整部と、
前記伝熱計算が終了して算出された前記パス間時間と前記パス間温度とに応じて、熱収縮した際の前記積層造形物の造形物形状データを作成し、前記造形物形状データと前記3次元形状データの造形形状の形状差を算出する変形量計算部と、
前記形状差を予め設定した適正値と比較し、前記形状差が前記適正値よりも小さくなるまで、前記形状差に応じて修正した修正3次元形状データを作成し、前記積層計画の作成から前記造形物形状データの算出までの工程を繰り返す形状差調整部と、
を備える積層造形物の製造装置。
この構成の積層造形物の製造装置によれば、溶着ビードを形成する際の溶接パスのパス間温度を適切に管理しつつ、熱収縮による変形を考慮して積層造形物を造形することができる。
【解決手段】複数の溶接パスについて設定したパス間時間tnにおける伝熱計算を行ってパス間温度Tnを算出する工程と、パス間温度Tnがパス間温度範囲Tmin〜Tmaxに収まるまで伝熱計算を繰り返してパス間時間tnを調整する工程と、パス間時間tnとパス間温度Tnとを基に、熱収縮した際の積層造形物Wの造形物形状データD