(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754076
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】乗物用の加飾用部品
(51)【国際特許分類】
B44C 3/02 20060101AFI20200831BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20200831BHJP
B60R 13/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
B44C3/02 A
B32B27/00 E
B60R13/00
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-150712(P2016-150712)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-16293(P2018-16293A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】余郷 広
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−11099(JP,A)
【文献】
特開平7−70995(JP,A)
【文献】
特開平8−25897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 3/02
B32B 27/00
B60R 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の上に形成された加飾部とを有し、
前記加飾部は、下地層と、該下地層の上方で像を形成している像形成層と、前記下地層と前記像形成層との間に設けられた中間層と、前記加飾部において最も外側に位置する最外層とを備え、
前記中間層は、漆を含有した塗料によって構成されており、前記中間層の外縁が前記像形成層の外縁に揃うように形成されており、
前記最外層は、漆よりも屈折率が低いクリア塗料によって構成されており、前記基材のうち、前記加飾部が形成された領域を覆っていることを特徴とする乗物用の加飾用部品。
【請求項2】
前記像形成層は、有色の着色材料を含有した塗料によって構成され、前記着色材料の色の像を形成していることを特徴とする請求項1に記載の乗物用の加飾用部品。
【請求項3】
前記下地層は、白色顔料を含有した塗料によって構成されており、
前記下地層の表面色が白色となっていることを特徴とする請求項2に記載の乗物用の加飾用部品。
【請求項4】
前記下地層は、有色の着色材料を含有した塗料によって構成され、
前記下地層の表面色が、前記着色材料の色となっており、
前記像形成層は、白色顔料を含有した塗料によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用の加飾用部品。
【請求項5】
前記最外層は、ウレタン樹脂を含有する前記クリア塗料によって構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乗物用の加飾用部品。
【請求項6】
前記加飾部は、前記基材の直上位置に形成された前記下地層と、前記下地層の直上位置に形成された下方クリア層と、該下方クリア層の直上位置に形成された前記中間層と、前記中間層の直上位置に形成された前記像形成層と、前記最外層とを備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の乗物用の加飾用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用の加飾用部品に係り、特に、基材上に形成された加飾部中に漆を含有する塗料の層が含まれた加飾用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用の加飾用部品として、基材上に複数の塗料層を積層することで加飾部が構成されているものが挙げられる。このような積層型の加飾用部品の中には、漆を含有する塗料の層を有するものが存在する(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の加飾用部品では、仕上げ層(すなわち、最外層)として、漆含有塗料の層が形成されている。このように漆含有塗料の層を仕上げ層として利用することにより、より下層に位置する絵柄層について、深み感を実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−240991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、漆含有塗料の層を備えた加飾用部品に関して言うと、上述した漆がもたらす装飾上の効果をより有効に発揮させて、より良好な美観を実現することが求められている。そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、漆がもたらす装飾上の効果を活かしてより良好な美観を実現した乗物用の加飾用部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、本発明の乗物用の加飾用部品によれば、基材と、該基材の上に形成された加飾部とを有し、車両の室内に設置される加飾用部品であって、前記加飾部は、下地層と、該下地層の上方で像を形成している像形成層と、前記下地層と前記像形成層との間に設けられた中間層と、前記加飾部において最も外側に位置する最外層とを備え、前記中間層は、漆を含有した塗料によって構成されており、前記中間層の外縁が前記像形成層の外縁に揃うように形成されており、前記最外層は、漆よりも屈折率が低いクリア塗料によって構成されており、前記基材のうち、前記加飾部が形成された領域を覆っていることで解決される。
【0006】
上記のように構成された本発明の乗物用の加飾用部品では、漆含有塗料によって構成された中間層が像形成層の下に設けられ、中間層の外縁が像形成層の外縁に揃っている。このような構成であれば、漆の特性によって、像形成層と下地層との境界を浮かび上がらせる視覚的効果が得られるようになる。これにより、像形成層の外縁(すなわち、像の輪郭)がより鮮明に現れるようになる。また、像形成層と下地層との境界を浮かび上がらせる効果については、漆よりも屈折率が低いクリア塗料によって構成された最外層によって加飾部が覆われることによって際立つようになる。以上の結果、本発明の乗物用の加飾用部品は、漆がもたらす装飾上の効果を活かしてより良好な美観を呈するようになる。
【0007】
また、上記の構成において、前記像形成層は、有色の着色材料を含有した塗料によって構成され、前記金属粉の色の像を形成しているとよい。
上記の構成では、加飾部の像として有色の像(厳密には、着色材料の色の像)を形成した場合に、漆がもたらす装飾上の効果を活かしてより良好な美観を実現することが可能となる。
【0008】
また、上記の構成において、前記下地層は、白色顔料を含有した塗料によって構成されており、前記下地層の表面色が白色となっているとよい。
上記の構成では、下地層の表面色(すなわち、白色)を良好に表すことが可能となる。この結果、例えば白を基調とする加飾部について、より良好な美観を達成することが可能となる。
【0009】
また、上記の構成において、前記下地層は、有色の着色材料を含有した塗料によって構成され、前記下地層の表面色が、前記着色材料の色となっており、前記像形成層は、白色顔料を含有した塗料によって構成されてもよい。
上記の構成では、表面色が着色材料の色となった下地層の上に白色の像形成層を配置し、像形成層と下地層との間に漆含有塗料の層を配置する。これにより、漆の特性によって下地層と像形成層との境界、すなわち像の輪郭をより鮮明に表すことが可能となる。
【0010】
また、上記の構成において、前記最外層は、ウレタン樹脂を含有する前記クリア塗料によって構成されているとよい。
上記の構成では、漆がもたらす装飾上の効果をより有効に活かすための最外層を、ウレタン樹脂を含有するクリア塗料によって実現することが可能となる。
【0011】
また、上記の構成において、前記加飾部は、前記基材の直上位置に形成された前記下地層と、前記下地層の直上位置に形成された下方クリア層と、該下方クリア層の直上位置に形成された前記中間層と、前記中間層の直上位置に形成された前記像形成層と、前記最外層とを備えるとよい。
上記の構成では、漆含有塗料によって構成された中間層の上方及び下方にクリア塗料の層(具体的には、最外層と下方クリア層)が配置されている。このため、漆がもたらす視覚的効果を更に際立たせることが可能となり、この結果、より一層良好な美観を呈する加飾用部品が実現される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、漆がもたらす装飾上の効果を活かしてより良好な美観を呈する乗物用の加飾用部品が実現される。
また、本発明によれば、有色の加飾部の像を形成する際に、漆がもたらす装飾上の効果を活かして良好な美観を実現することが可能となる。
また、本発明によれば、下地層の表面色を白色とすることにより、白を基調とする加飾用部品がより良好な美観を呈するようになる。
また、本発明によれば、下地層の色が着色材料の色となる場合において、下地層と像形成層との境界をより鮮明に表すことが可能となる。
また、本発明によれば、漆がもたらす装飾上の効果をより有効に活かすための最外層を、ウレタン樹脂を含有するクリア塗料によって実現することが可能となる。
また、本発明によれば、漆含有塗料によって構成された中間層の上方及び下方にクリア塗料の層を配置することで、漆がもたらす視覚的効果を更に際立たせて、加飾用部品の美観をより一層良好なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る加飾用部品の表面を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る加飾用部品の模式断面図である。
【
図3】漆含有塗料の層がもたらす効果についての説明図である。
【
図4】変形例に係る加飾用部品の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。また、
図1〜
図4に図示した構成は、あくまでも加飾用部品の一例を示したものであり、具体的な構成(例えば、加飾部3中の像Fの内容、加飾部3中の各層の層厚等)については特に限定されるものではない。
【0015】
先ず、本実施形態に係る乗物用の加飾用部品(以下、加飾用部品1)の用途や概略構成を説明する。加飾用部品1は、車内装飾用インテリア部品として用いられるパネル状の部品である。一例を挙げて説明すると、加飾用部品1は、車両ドアのライニング部品やインパネ等のオーナメント部品の構成要素として利用される。ただし、これらに限定されるものではなく、加飾用部品1は、車内装飾部品として広く利用可能である。また、加飾用部品1は、車両以外の乗物の装飾部品としても利用可能である。
【0016】
加飾用部品1の表面(厳密には、車内において露出する側の面)には加飾部3が形成されている。具体的に説明すると、加飾部3には、
図1に示すように像Fが形成されている。ここで、「像」とは、絵、模様、文字や記号等を意味する。また、本実施形態において、像Fは、金属粉を含有した塗料によって形成されるものであり、いわゆる蒔絵となっている。つまり、本実施形態では、着色材料として金属粉が用いられており、当該金属粉の色の像Fが形成されることになっている。なお、金属粉としては、金箔片や銀箔片が利用可能である。
【0017】
次に、加飾用部品1の構成について詳しく説明すると、
図2に示すように、加飾用部品1は、基材2と、基材2の上に形成された加飾部3とによって構成されている。基材2は、例えばプラスチック成型品や金属加工品によって構成されており、加飾用部品1の外形形状を規定するものである。
【0018】
加飾部3は、基材2に対して加飾性を付与する部分であり、本実施形態では
図3に示すように、塗料によって構成される層が複数積層した構造となっている。加飾部3の積層構造について
図2を参照しながら説明すると、最下層としての下地層4と、下地層4の上方で像Fを形成している像形成層5と、下地層4と像形成層5との間に設けられた中間層6と、加飾部3において最も外側に位置する最外層7とを有する。
【0019】
下地層4は、白色顔料を含有した塗料によって構成された層である。したがって、下地層4の表面色は、白色となっている。また、下地層4は、基材2の表面の直上位置に設けられている。なお、下地層4は、基材2の表面のうち、加飾部3が形成された領域全域に亘って形成されている。
【0020】
像形成層5は、金属粉を含有した塗料によって構成された層である。つまり、像形成層5が形成されることで、下地層4上に蒔絵の像F(すなわち、金属粉の色の像F)が形成されることになる。なお、本実施形態では、金属粉を含有した塗料によって像形成層5が構成されていることとしたが、これに限定されるものではない。像形成層5については、金属粉以外の有色の着色材料(例えば顔料、箔、貝等)を含有する塗料によって構成されてもよい。
【0021】
中間層6は、漆を含有した塗料(具体的には、やや黄色がかった透明塗料)によって構成された層である。ここで、漆は、天然漆及び合成漆のうち、いずれであってもよい。また、漆を含有した塗料とは、漆単体であってもよく、漆と漆以外の成分が混合したものであってよい。また、中間層6は、像形成層5の直下位置で、かつ下地層4の直上位置に設けられている。さらに、中間層6は、
図2に示すように、その外縁が像形成層5の外縁と揃うように形成されている。
【0022】
最外層7は、トップコート層であり、漆よりも屈折率が低いクリア塗料によって構成されている。ここで、クリア塗料とは、無色透明な硬化性樹脂塗料であり、例えばウレタン樹脂を含有する塗料が利用可能である。そして、トップコート層としての最外層7は、基材2のうち、加飾部3が形成された領域全域を覆うように形成されている。なお、本実施形態では、
図2に示すように、加飾部3の各部において厚み(加飾部3の厚み)が均一となるように最外層7が形成されている。
【0023】
以上のように本実施形態では、漆含有塗料の層である中間層6が像形成層5の直下位置に配置され、かつ、中間層6の外縁が像形成層5の外縁と揃っていることにより、像形成層5について深み感を醸し出すことが可能となる。つまり、屈折率が比較的高い漆を含有した塗料の層である中間層6が像形成層5の直下に設けられることで、観察者(例えば、加飾用部品1が搭載された車両の乗員)は、像形成層5について、その塗膜厚以上の深み感を感じるようになる。なお、中間層6の層厚については、特に限定されないが、漆使用による美観改善効果と漆使用によるコスト上昇とを考慮して適正な厚みとなっていることが望ましい。
【0024】
また、
図3に示すように、本実施形態では、下地層4が白色となっている。このため、中間層6のうち、外縁近傍の部分は、観察者から見て相対的に明るく見える。一方、中間層6の中央部分は、下地層4から離れているため、観察者から見て相対的に暗く見える。このような中間層6における明暗差によって、下地層4と像形成層5との境界(すなわち、像Fの輪郭)が、観察者にとって浮かび上がっているように見える。さらに、下地層4と像形成層5との境界を浮かび上がらせる効果については、漆よりも屈折率が低いクリア塗料によって構成された最外層7によって加飾部3全域が覆われることで際立つようになる。以上の結果、本実施形態の加飾用部品1は、漆がもたらす装飾上(意匠上)の効果を活かしてより良好な美観を呈するようになる。
【0025】
ところで、上述した実施形態(以下、先の実施形態)は、本発明の加飾用部品の一例であり、他の例(変形例)も考えられる。以下、
図4を参照しながら、変形例に係る加飾用部品(以下、加飾用部品1x)の構成について説明する。加飾用部品1xが有する加飾部3xは、
図4に示すように、基材2の直上位置に形成された下地層4と、下地層4の直上位置に形成された下方クリア層8と、下方クリア層8の直上位置に形成された中間層6と、中間層6の直上位置に形成された像形成層5と、最外層7とを有する。
【0026】
変形例に係る下地層4は、有色の着色材料(具体的には金属粉)を含有した塗料によって構成されている。したがって、変形例において下地層4の表面色は、金属粉の色となっている。一方、変形例に係る像形成層5は、白色顔料を含有した塗料によって構成されている。つまり、変形例に係る像形成層5の色は、白色となっている。そして、変形例において、像形成層5は、加飾部3中、先の実施形態において像形成層5が形成されなかった箇所(換言すると、下地層4が見えていた箇所)に形成されている。このように変形例では、下地層4及び像形成層5についての配色と形成箇所が、先の実施形態における内容を反転させたものになっている。この結果、変形例に係る加飾部3xにおいても、先の実施形態に係る加飾部3(すなわち、
図1に図示の加飾部3)と同様のデザインの像Fが現れることになる。
【0027】
なお、変形例においても、漆含有塗料の層である中間層6が像形成層5の直下位置に配置され、かつ、中間層6の外縁が像形成層5の外縁と揃っている。これにより、変形例においても、先の実施形態と同様、像形成層5について深み感を醸し出すことが可能となる。また、変形例では像形成層5が白色となっているため、中間層6の外縁近傍の部分が観察者から見て相対的に明るく見え、中間層6の中央部分が相対的に暗く見える。このような中間層6における明暗差により、変形例においても、像形成層5のエッジ(すなわち、像Fの輪郭)が観察者にとって浮かび上がっているように見える。さらに、変形例においても、クリア塗料によって構成された最外層7によって加飾部3x全域が覆われるため、像形成層5との境界を浮かび上がらせる効果が際立つようになる。
【0028】
また、変形例では、中間層6と下地層4との間にクリア層としての下方クリア層8が設けられている。この下方クリア層8は、漆よりも屈折率が低いクリア塗料(例えば、ウレタン樹脂を含有するクリア塗料)によって構成されており、下地層4の直上位置において均一な層厚となるように形成されている。以上のように、変形例では、中間層6の上方及び下方にクリア塗料の層(具体的には、最外層7と下方クリア層8)が配置されているため、漆がもたらす視覚的効果を更に際立たせることが可能となる。これにより、加飾用部品1xは、漆がもたらす視覚的効果を活かして良好な美観を呈するものとなる。
【符号の説明】
【0029】
1,1x 加飾用部品
2 基材
3,3x 加飾部
4 下地層
5 像形成層
6 中間層
7 最外層
8 下方クリア層
F 像