(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754127
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】省電力通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 52/02 20090101AFI20200831BHJP
H04W 84/00 20090101ALI20200831BHJP
H04W 84/20 20090101ALI20200831BHJP
H04W 88/06 20090101ALI20200831BHJP
H04W 88/04 20090101ALI20200831BHJP
【FI】
H04W52/02
H04W84/00 110
H04W84/20
H04W88/06
H04W88/04
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-99688(P2016-99688)
(22)【出願日】2016年5月18日
(65)【公開番号】特開2017-208697(P2017-208697A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第7回DTNとその未来に関するワークショップ(開催日:平成27年11月20から21日、開催場所:別府国際コンベンションセンター(ビーコンプラザ)、題「ゲーム理論を用いた極省電力・協調型無線機の研究開発」)にて公開。 平成28年1月21日 電子情報通信学会技術研究報告 知的環境とセンサネットワーク研究会の予稿集、「端末間協調による極省電力・協調型無線機の検討」、vol.115、no.437、pp.11−13にて公開。 平成28年2月18日開催の電子情報通信学会 ヒューマンプローブ研究会(会場:東京電機大学 東京千住キャンパス、題「スマートフォンのテザリングを用いたどこでも誰でもHotSpotの実現性の検討」)にて公開。
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(72)【発明者】
【氏名】服部 聖彦
(72)【発明者】
【氏名】単 麟
(72)【発明者】
【氏名】大和田 泰伯
(72)【発明者】
【氏名】浜口 清
(72)【発明者】
【氏名】三浦 龍
【審査官】
石原 由晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−115753(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/034434(WO,A1)
【文献】
特表2006−526932(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/132549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 − 7/26
H04W 4/00 − 99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロキシ端末と複数の携帯端末とを備える通信端末群が外部通信ネットワークと接続された通信システムにおいて、
上記プロキシ端末は、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線を介して上記プロキシ端末と無線接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線、プロキシ端末、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
上記通信端末群内では第2通信方式回線か、または上記の第1通信方式回線や第2通信方式回線と異なる第3通信方式回線かを用いてパーソナルエリアネットワークが構成された無線通信システムであって、
上記通信端末群内では、上記パーソナルエリアネットワークを介して所定の事項についての各端末のデータを共有し、
上記通信端末群の各端末は、共有された上記所定の事項について、所定のプロキシ選択アルゴリズムに従って上記各端末を評価して稼働しているプロキシ端末が適切でなくなった場合にプロキシ端末の自動切り替えを行うもので、上記通信端末群からプライマリプロキシ端末候補またはセカンダリプロキシ端末候補を所定の時間毎に決定し、
プロキシ端末の切り替えを行う場合は、その切り替えを上記通信端末群の各自が行うことで、第1通信方式回線の運用における上記通信端末群のエネルギーコストを低減してその各端末の通信速度の低下を抑制しつつ省電力化するものであって、
上記所定の事項には、少なくとも、上記通信端末群の各端末の継続使用可能時間の予想値と、第1通信方式回線による通信速度と、上記通信端末群の各端末が上記通信端末群に留まれる予想時間が含まれることを特徴とする省電力通信システム。
【請求項2】
上記プロキシ端末が上記通信端末群から退出する場合は、該プロキシ端末が自身の退出を複数の上記携帯端末にアナウンスし、該プロキシ端末のプライマリプロキシ端末候補への切り替えを上記通信端末群の各自が行うことを特徴とする請求項1に記載の省電力通信システム。
【請求項3】
プロキシ端末と複数の携帯端末とを備える通信端末群が外部通信ネットワークと接続された通信システムにおいて、
上記プロキシ端末は、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線を介して上記プロキシ端末と無線接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線、プロキシ端末、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
上記通信端末群内では第2通信方式回線か、または上記の第1通信方式回線や第2通信方式回線と異なる第3通信方式回線かを用いてパーソナルエリアネットワークが構成された無線通信システムであって、
上記通信端末群内では、上記パーソナルエリアネットワークを介して所定の事項についての各端末のデータを共有し、
上記通信端末群の各端末は、共有された上記所定の事項について、所定のプロキシ選択アルゴリズムに従って上記各端末を評価して稼働しているプロキシ端末が適切でなくなった場合にプロキシ端末の自動切り替えを行うもので、上記通信端末群からプライマリプロキシ端末候補またはセカンダリプロキシ端末候補を所定の時間毎に決定し、
プロキシ端末の切り替えを行う場合は、その切り替えを上記通信端末群の各自が行うことで、第1通信方式回線の運用における上記通信端末群のエネルギーコストを低減してその各端末の通信速度の低下を抑制しつつ省電力化するものであって、
上記携帯端末は第1通信方式回線に比べて第3通信方式回線を用いる方が情報量当たりの消費電力が低いことを特徴とすることを特徴とする省電力通信システム。
【請求項4】
上記所定の事項には、少なくとも、上記通信端末群の各端末の継続使用可能時間の予想値と、第1通信方式回線による通信速度と、が含まれることを特徴とする請求項3に記載の省電力通信システム。
【請求項5】
上記携帯端末は第1通信方式回線に比べて第3通信方式回線を用いる方が情報量当たりの消費電力が低いことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の省電力通信システム。
【請求項6】
上記通信端末群の各端末は、上記省電力通信システムへの加入あるいは非加入を制御する選択手段を備えるものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の省電力通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、少数の端末で構成される通信システムにおいて、無線端末協調によって各端末の平均消費電力を低減し連続使用可能時間の増加を図るための省電力通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末、例えばスマートフォンの高性能化および通信の高速化に伴いスマートフオンの消費電力が著しく増加している。しかしながら、既存のバッテリーの性能はすでに限界に近く、電力供給量を上げるには、重さや容積が増加するバッテリー容量の増量以外に有効な方法がない。実際に、咋今のユーザは補充用に何らかの携帯型バッテリーを帯同して稼働時問を延ばすという方法が一般的である。スマートフォンは大まかに、通信部と情報処理部と表示部とに分けられるが、その通信部が使用する電力の割合は大きく、他の部分(ディスプレイ、CPU等)と比較して改善による稼働時間延長の効果が大きい。
【0003】
従来、通信部での消費電力の削減は、個々の装置で独立して行われてきたのに対し、本発朋では、端末間の連携、協調により通信システムとしての電力効率向上を実現する。この分野においては、以下に示す技術が知られている。
【0004】
まず、限定された機能であるが、端末間の連携や協調を行う簡素な無線通信システムは、特許文献1(特開2002−141857号公報)に開示されている。これは、基地局と携帯端末との間に中継局を介在させて無線LAN環境を構築するとともに、中継局と携帯端末との間では、基地局との携帯端末との間よりも低出力の高周波にて交信を行うようにし、しかも無線LAN環境内では基地局と携帯端末との間の通信よりも、中継局と携帯端末との間の通信を優先するようにしたものである。この携帯端末には、ヴォイス・スティックと称する棒状の音声入出力装置が、微弱な無線回線で接続される。
【0005】
また、特許文献2(特開2015−122712号公報)には、携帯電話無線通信とその他の無線通信とのハイブリッド無線通信の携帯電話無線通信の回線数を減らして回線使用料を削減する無線通信システムが開示されている。この無線通信システムは、第1の無線通信の通信性能を収集し、前記通信性能に基づいて前記第1の無線通信の可否を判定する、通信機と、前記第1の無線通信の可否に基づいて、前記第1の無線通信を行う前記通信機のグループと、前記グループの前記通信機の中から前記第1の無線通信に加えて第2の無線通信を行う前記通信機と、を指定する、割振り手段と、を備えるものである。
【0006】
また、特許文献2の記載では、上記割振り手段は、子機や親機との無線通信を行う無線通信部、タッチパネル機能を有する液晶ディスプレイによる表示部、無線通信部と表示部の制御を行う制御部を備えるもので、例えば、タブレット端末に無線通信部を付加し、アプリケーションソフトウエアを動作させることで実現される。この無線通信システムの構築においては、(1)まず、無線通信システムを構築しようとする通信機群の各通信機の無線通信部の無線通信性能を、事前にモニタリングし、(2)このモニタリングの結果に基づいて、各通信機の無線通信部同志の無線通信の可否を判定し、(3)この無線通信の可否の判定に基づいて、割振り手段により、親機との無線通信を行う子機のグループの指定と、(4)このグループの中から親機と子機間の無線通信に加えて親機と携帯電話基地局との携帯電話通信を行う親機とすべき子機の指定とを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−141857号公報
【特許文献2】特開2015−122712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、携帯端末の通信部での消費電力削減は、個々の端末において行われてきたが、本発朋では、端末間の連携、協調により端末群無線通信システムとしての電力効率向上を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の省電力通信システムは、
プロキシ端末と複数の携帯端末とを備える通信端末群が外部通信ネットワークと接続された通信システムにおいて、
上記プロキシ端末は、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線を介して上記プロキシ端末と無線接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線、プロキシ端末、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
上記通信端末群内では第2通信方式回線か、または上記の第1通信方式回線や第2通信方式回線と異なる第3通信方式回線かを用いてパーソナルエリアネットワークが構成された無線通信システムであって、
上記通信端末群内では、上記パーソナルエリアネットワークを介して所定の事項についての各端末のデータを共有し、
上記通信端末群の各端末は、共有された上記所定の事項について、所定のプロキシ選択アルゴリズムに従って上記各端末を評価して稼働しているプロキシ端末が適切でなくなった場合にプロキシ端末の自動切り替えを行うもので、上記通信端末群からプライマリプロキシ端末候補またはセカンダリプロキシ端末候補を所定の時間毎に決定し、
プロキシ端末の切り替えを行う場合は、その切り替えを上記通信端末群の各自が行うことで、第1通信方式回線の運用における上記通信端末群のエネルギーコストを低減してその各端末の通信速度の低下を抑制しつつ省電力化するものであって、
上記所定の事項には、少なくとも、上記通信端末群の各端末の継続使用可能時間の予想値と、第1通信方式回線による通信速度と、上記通信端末群の各端末が上記通信端末群に留まれる予想時間が含まれることを特徴とするものである。
【0010】
また、
上記プロキシ端末が通信端末群から退出する場合は、該プロキシ端末が自身の退出を複数の上記携帯端末にアナウンスし、該プロキシ端末の次期プロキシ端末候補への切り替えを上記通信端末群の各自が行うことを特徴とするものである。
【0011】
また、
プロキシ端末と複数の携帯端末とを備える通信端末群が外部通信ネットワークと接続された通信システムにおいて、
上記プロキシ端末は、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線を介して上記プロキシ端末と無線接続され、
複数の上記携帯端末は、第2通信方式回線、プロキシ端末、第1通信方式回線を介して外部通信ネットワークと接続され、
上記通信端末群内では第2通信方式回線か、または上記の第1通信方式回線や第2通信方式回線と異なる第3通信方式回線かを用いてパーソナルエリアネットワークが構成された無線通信システムであって、
上記通信端末群内では、上記パーソナルエリアネットワークを介して所定の事項についての各端末のデータを共有し、
上記通信端末群の各端末は、共有された上記所定の事項について、所定のプロキシ選択アルゴリズムに従って上記各端末を評価して稼働しているプロキシ端末が適切でなくなった場合にプロキシ端末の自動切り替えを行うもので、上記通信端末群からプライマリプロキシ端末候補またはセカンダリプロキシ端末候補を所定の時間毎に決定し、
プロキシ端末の切り替えを行う場合は、その切り替えを上記通信端末群の各自が行うことで、第1通信方式回線の運用における上記通信端末群のエネルギーコストを低減してその各端末の通信速度の低下を抑制しつつ省電力化するものであって、
上記携帯端末は第1通信方式回線に比べて第3通信方式回線を用いる方が情報量当たりの消費電力が低いことを特徴とする。
【0012】
上記所定の事項には、少なくとも、上記通信端末群の各端末の継続使用可能時間の予想値と、第1通信方式回線による通信速度と、が含まれることを特徴とするものである。
【0013】
上記携帯端末は第1通信方式回線を用いる場合よりも第3通信方式回線を用いる方が情報量当たりの消費電力が低い様にすることで、上記携帯端末と上記外部通信ネットワークの間の通信における消費電力を抑制することができる。
【0014】
上記通信端末群の各端末は、上記省電力通信システムへの加入あるいは非加入を制御する選択手段を備えることで、上記端末の操作者の意思を反映することが可能なものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明により、電波条件の悪い環境に位置する端末(例えば、基地局から直接見通せない地点にある端末等)やバッテリー残量の少ない端末は、近隣の高速プロキシサーバを経由することで小電力での高速通信が可能になり、通信効率(つまり、bit/μA;電流μA当たりの伝送ビット数)が良い通信を実現することが出来る。一方、プロキシサーバとして選ばれた端末については、近隣の端末がその基地局とは直接通信せずそのプロキシサーバを経由して通信を行うことから基地局と通信する端末数が抑制され、そのプロキシサーバと基地局間の通信用の帯域割り当てを改善することが可能になる。この点からも、このプロキシサーバを用いる通信システムの通信効率を改善することができる。
【0016】
また、直接に基地局へアクセスする端末数を削減することが可能となり、基地局や各端末における背景ノイズとなる干渉を抑制することができる。また、基地局から直接見通しの効かない端末との通信が容易になり、電波不感地帯が抑制されることから基地局の削減につながる。さらに、各プロキシサーバの各カバー範囲が実質的に小セルとなり、異なる小セル間では信号間の干渉が起きづらいことで同じ周波数帯を用いることが可能となるため、電波資源の有効利用ができる様になる。最後に、バッテリー残量に応じて適切にプロキシ端末を切る変えることにより各端末が個別に公衆無線にアクセスした場合の稼働時間の総和に比べた本システムを用いて通信した場合の全端末の稼働時間の総和の改善を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】都市圏の通勤列車を想定しており、通勤列車の乗客がそれぞれに基地局と通信する場合は、基地局に対する通信の集中(輻輳)が起こることを示す模式図である。
【
図2】都市圏の通勤列車を想定した通勤列車内へ電波が侵入しづらい位置の端末の場合は高出力の状態で通信を行う必要があり、列車乗客の窓からの位置に依存した送信電力の非効率性があることを示す模式図である。
【
図3】本発明のフレームワークに沿って構築したネットワーク例を示す模式図である。
【
図4】プロキシ端末の切り替えのためのフローチャート例である。
【
図5】プロキシ適応度を決定するためのフローチャート例である。
【
図6】本発明の通信システムの構築例の一部のフローチャート例(前半)である。
【
図7】本発明の通信システムの構築例の一部のフローチャート例(後半)である。
【
図8】プロキシ端末が加入しているネットワークから離脱する際のフローチャート例である。
【
図9】各端末におけるこのプロキシ端末の切換作業のフローチャート例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、
図1、2を用いて本発明の概要を説明する。
これらの図では都市圏の通勤列車を想定しており、通勤列車の乗客がそれぞれに基地局と通信する場合は、
図1に示す様に基地局に対する通信の集中(輻輳)が起こる。一般に、この輻輳は、周波数利用効率を低下させる。また、
図2に示す様に、通勤列車内へ電波が侵入しづらい位置の端末の場合は高出力の状態で通信を行う必要があり、列車乗客の窓からの位置に依存した送信電力の非効率性といった問題がある。
【0019】
この課題を解決するため、本発明では、各スマートフォンを速携させ、新たな協調アルゴリズムを導入することにより、通信スループット(どのくらいの伝送速度が得られるか)、バッテリー残量(どのくらい通信に使える時間が残されているか)および受信信号レベル(どのくらい基地局に近いか)等を統合的に考慮した全く新しい省電力協調型通信フレームワークを提案する。
【実施例1】
【0020】
図3は、本発明のフレームワークに沿って構築したネットワーク例を示す。各端末は、例えば携帯電話回線部、Wi−Fi回線部、ブルートゥース(登録商標)(Bluetooth(登録商標))回線部と、これらの回線部を制御する演算制御部と、この演算制御部用のデータを保管する記憶部と、上記演算制御部のデータを表示する表示部と、上記演算制御部へデータを入力する入力部と、全体に電流を供給する電源部とを備えており、基地局との通信機能、端末問で協調制御を行うためのブルートゥース(登録商標)通信機能およびWi−Fi通信機能を備えている。それらの端末はブルートゥース(登録商標)を用いて制御用の情報(位置情報、通信スループット、バッテリー残量、受信信号レベル等)を端末集合全体で共有する。それらの情報をもとに、後に説明する協調アルゴリズムに従って上記における端末集合全体から代理(プロキシ)端末候補を選択し、上記の各端末で上記代理端末候補をプロキシに設定する。例えば
図3では、バッテリー残量(あるいは継続使用可能時間の予想値)が多くかつ基地局との通信特性が良い端末をプロキシ端末として選択している。
【0021】
プロキシ端末は、基地局を介してインターネットに接続し、ブルートゥース(登録商標)を用いてその接続情報を端末集合に通知すると同時にWi−Fiアクセスポイント機能とプロキシ機能を起動する。一方、プロキシ端末に選択されなかった他の端末群は、通知された情報をもとにWi−Fiクラインと機能を用いてプロキシ端末に接続し、プロキシ端末経由でインターネットにアクセスする。
【0022】
プロキシ端末のバッテリー残量の低下,携帯端末の移動もしくは通信特性の変化によって稼働しているプロキシ端末が適切ではなくなった場合、プロキシ端末の自動動的切り替えが行われる。
図4に、プロキシ端末の切り替えのためのフローチャート例を示す。
ここでは、ある時点での現プロキシ端末のバッテリー低下を想定し、それを検知した現プロキシ端末は、バッテリー残量低下をブルートゥース(登録商標)によって端末集合全体に通知するとともに,Wi−Fiの電波強度を弱くするもしくは基地局機能を止める (これは制御情報を共有せず、プロキシサーバを単なるアクセスポイントとして利用していた端末に対し,新たなプロキシ端末への接続を促すためである)。古いプロキシからの離脱通知を受信した全端末は、あらかじめ設定されていたセカンダリプロキシに接続を試みるとともに端末自身の情報を含む制御用の各種情報をブルートゥース(登録商標)によって共有し、協調アルゴリズムを用いて次のセカンダリプロキシ端末候補を新たに選択し直す。ここで選択されたプロキシ端末候補は基地局に接続し、ブルートゥース(登録商標)によってその情報を端末集合に通知する。上記現プロキシ端末を含めたその他の端末は通知された情報に基づいて新たなプロキシ端末候補にWi−Fi接続することでプロキシ設定が完了し、上記プロキシ端末候補が現プロキシ端末となる。その際、旧プロキシ端末は、携帯基地局との接統を切断する。この際、一時的には新旧のプロキシ端末が同時にプロキシとして動作することが許容される。このように、ブルートゥース(登録商標)によって端末群で情報を共有し、協調アルゴリズムを用いた述携協調制御を行うことで、常に(1)周波数利用効率や、(2)端末の電力効率が高いネットワークを構築できる。
【実施例2】
【0023】
プロキシ端末の選択に当たっては、以下に示す協調アルゴリズムに沿って行う。これは、例えば、表1に示す項目についてプロキシ端末としての適性を評価することで決定するものである。
【0024】
【表1】
【0025】
ここでは、各端末は、BT(ブルートゥース(登録商標))MACアドレスで識別されており、各端末についての推定稼働時間(または推定稼働可能時間)、スループット、平均使用帯域、基地局端末間電波強度、ブルートゥース(登録商標)受信強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)、モバイルルータ適用度(後述)、充電フラグ等の値について各項目毎に重みづけを変えて評価することで、プロキシ端末としての適性を評価することができる。この評価は、例えば、次の様に行う。
A. 全ての端末で充電フラグがOFF(オフ)の時には、上記端末の全てが電池駆動であることを示しており、例えば評価値として、次の様に計算する。
評価値=推定稼働時間×(10)+スループット+平均使用帯域×(−10)+基地局端末間電波強度×(0.1)+モバイルルータ適用度×(5)、とする。
表1の評価値はこの計算式に沿った評価値であり、○印の数字は、その降順である。
B.受電フラグが1台のみON(オン)の時には、1台が充電中での使用であり、その端末の推定稼働時間は無限であるとする。この場合は、上記の評価値での評価に従っても同様であるが、受電フラグがONの端末がプロキシ端末となる。
C.受電フラグが2台以上ONの時には、その端末群のなかで評価値を計算し,最大のものがプロキシとなる。
【0026】
上記のモバイルルータ適用度とは、プロキシ端末としての役割を長時間継続できそうであることを示す指数である。
例えば、長距離移動(高速バス,高速鉄道)を検知することで、東海道新幹線のぞみ,東北新幹線はやぶさは、適応度=9とし、それ以外(例えば東海道新幹線こだま、およびひかり、東北新幹線やまびこ)は、適応度=7とする。これは、東海道新幹線のぞみでは、新横浜⇔名古屋間で101分、東北新幹線はやぶさでは、東京⇔仙台間で92分、高速バスは、東京⇔成田空港間で80分であり、これらの時間はブルートゥース(登録商標)によるパーソナルネットワークの形態が維持されると推定されるためである。
これに対して、中距離移動(通勤列車)を検知した場合は、例えば適応度=6とする。この場合の適応度が低いのは、京浜東北線が大宮⇔川崎間で66分であり、中央線では八王子⇔東京間で52分であって、上記の場合よりも短時間であることによる。
【0027】
このプロキシ適応度を決定するためのフローチャート例を
図5に示す。
図5のB−1:長距離(高速鉄道、高速バス)移動であることを検知できる場合は、上記の様に適応度を9または7にする。
B−2:中距離移動を検知できる場合は、適応度を6とする。
B−3:指定地域に所定の時間T6秒以上とどまる場合は、適応度を7とする。
B−4:ジャイロ、コンパスの変化が閾値以下かつ位置の変位が閾値以下の場合は、適応度を4とする。
各携帯端末は、上記のステップを順次定期的に処理するものである。
【0028】
本発明の省電力通信システムの動作の概略を示すと次の様になる。
1.プロキシ適応度が1以上になった端末からプロキシネットワークを構築開始する。
2.近隣にBluetooth(登録商標)ブロードキャスト(つまり、ブルートゥース(登録商標)告知)を用いて自身の情報を送信する。
3.規定時間T1待った後、listenした情報(つまり、受信待ちで得た情報)からプライマリ候補、およびセカンダリ候補のプロキシサーバを各自が独立に決定する。(誰からもブロードキャストがなければ,所定時間T2秒待って再度実施)
4.プロキシ端末を選択した端末は自身のSSID(Service Set Identifier:アクセスポイントの識別名)とプロキシ終了時間T3をブロードキャストする。
5.上記プロキシ終了時間T3が来るか、または、
プロキシ適応度が0になるか、または、
自分よりもプロキシ適応度が高い端末が現れる、
まで、プロキシ端末としての役割を務める。
【実施例3】
【0029】
より具体的な動作例を示すフローチャート例を
図6と
図7に示す。
C−1:各端末は、自身が公衆無線にアクセス可能であるかどうかを調べ、可能でなければWi−Fiのアクセスポイント接続の端末とする。
C−2:自身が公衆無線にアクセス可能で自身の使用帯域が所定の閾値A以上である場合は、ヘビーネットワークユーザーであり、省電力協調システムとは独立に自身の公衆無線を持ち得る。
C−3:自身のプロキシ適応度が1以上でない場合は、プロキシ端末を使用する一般ユーザであり、それが1以上である場合は、
C−4:自身の情報をBLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)回線を用いて告知後、所定の時間T1秒待機する。
C−5:他端末からの告知があるかどうかを判断し、無い場合は、所定の時間T2秒待機した後、C−4に戻る。他端末からの告知がある場合には、次の処理を行う。
C−6:他端末のBLEブロードキャストからDB(データベース)を作成し、そのDBを基にプロキシ端末候補の第1(プライマリ)と第2(セカンダリ)を決定する。
C−7:次いで、自身がプライマリプロキシである場合は、
C−8:自身のSSIDとプロキシ終了時間T3を告知する。
C−10:C−7で自身がプライマリプロキシでない場合は、プライマリからの告知を所定の時間T4秒待機する。
C−11:プライマリからの告知が来た場合には、
C−16:指定されたSSIDの端末に接続する。
C−12:C−11でその告知が来ない場合で、自身がセカンダリプロキシである場合は、
C−13:自身のSSIDとプロキシ終了時間T3を告知する。
C−14:C−12で自身がセカンダリプロキシでない場合は、セカンダリからの告知を所定の時間T4秒待機する。
C−15:セカンダリからの告知が来た場合には、
C−16:指定されたSSIDの端末に接続する。
C−9:C−8、C−13、C−16からの情報がプロキシ終了条件を満たす場合には、C−3にその旨を伝送する。
【実施例4】
【0030】
プロキシ端末が加入しているネットワークから離脱する際のフローチャート例を
図8に示す。この例では、以下の項目のどれかに合致するYESの場合に上記離脱をブルートゥース(登録商標)のブロードキャスト機能を用いて宣言する。
D−1:プロキシ端末として動作する所定の予定時間T3が経過した。
D−2:プロキシ端末とそれにブルートゥース(登録商標)機能で接続された端末間の通信における電波強度が所定の閾値B以下になった。
D−3:プロキシ端末とそれにWi-Fi機能で接続された端末間の通信における電波強度が閾値C以下になった。
D−4:加速度センサの変位の値が所定の閾値D以上の状態が所定の時間T5継続されている。
D−5:プロキシ端末位置が上記端末群位置重心から所定の距離Fメートル以上離れた。
これらの項目のいずれかに合致することによってプロキシ端末が上記ネットワークからの離脱を宣言する至った場合、各端末はプロキシ端末の切換作業を行う。
【0031】
各端末におけるこのプロキシ端末の切換作業のフローチャートを
図9に示す。
E−1:プロキシ端末が、加入しているネットワークから離脱する旨受信するまで待つ。それを受信した場合は、次のステップに進む。
E−2:一時的に自身のLTE(Long Term Evolution)端末機能に切換えてネットアクセスを継続する。
E−3:セカンダリ候補の起動準備を所定の時間T4秒待つ。
E−4:上記セカンダリ候補がプロキシ機能を起動した旨の告知を待つ。
E−5:上記告知を受信した段階で、自身のLTE端末機能を切り、セカンダリ候補に接続する。また、これに平行して、次のセカンダリプロキシ候補を決定する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の効果を発揮するには,上述の機能を実装したスマートフォンがある程度普及する必要ある。しかしながら、本発明の機能は既存のスマートフォン機能(LTE、Wi−Fi、Bluetooth(登録商標))とソフトウエアで実装可能なため、技術的には現状においても普及させることは可能である。
【0033】
効果を発揮する利用例としては、災害時の避難所における利用や、通常時における都市圈の通勤列車での利用が考えられる。通勤列車では、多数の携帯端末は高密度に密集し、且つ伝搬伝搬のよい窓に面したユーザと、周りを人に囲まれているユーザで電波伝搬特性が大きく興なる。加えて、近隣のユーザがほぼ同一の基地局に集中するため、電波利用効率の面でも課題ある。このような状況において、電波伝搬特性のよい一部のユーザが公衆無線に接続、プロキシ機能を提供することにより、他のユーザはWi−Fiを用いて通信をすればよく、通信距離の飛躍的短縮化(数キロ→数メートル)とそれに伴う省電力化が可能となる。