(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、スキルミオン40の一例を示す模式図である。
図1において、各矢印は、スキルミオン40における磁気モーメントの向きを示す。x軸およびy軸は互いに直交する軸であり、z軸はxy平面に直交する軸である。
【0010】
磁性体10は、xy平面に平行な平面を有する。磁性体10中に配置したあらゆる向きを向く磁気モーメントは、スキルミオン40を構成する。本例では、磁性体10に印加する磁場の向きは+z軸方向である。この場合に、本例のスキルミオン40の最外周の磁気モーメントは、+z軸方向に向く。
【0011】
磁気モーメントは、スキルミオン40において、最外周から内側へ向けて渦巻状に回転していくように配置される。磁気モーメントの向きは、当該渦巻き状の回転に伴い渦の中心に向かって徐々に+z軸方向から−z軸方向へ向きを変える。
【0012】
スキルミオン40は、中心から最外周の間において、磁気モーメントの向きが連続的にねじれた構造を有する。このように、スキルミオン40は、磁気モーメントの渦巻き構造を有するナノスケール磁気構造体である。スキルミオン40が存在する磁性体10が薄い板状固体材料の場合、スキルミオン40を構成する磁気モーメントをその厚さ方向は同じ向きの磁気モーメントで構成している。即ち、磁性体10の深さ方向(z方向)には表面から裏面まで同じ向きの磁気モーメントを有する。本例において最外周とは、
図1に示した外部磁場と同一の方向を向く磁気モーメントの円周を指す。本明細書において、スキルミオン40の直径λとは、スキルミオン40の最外周の直径を指す。
【0013】
[実施例1]
図2は、実施例1に係る論理演算デバイス100の構成の一例を示す。論理演算デバイス100は、磁性体10、検出部15、磁場発生部20、測定部34、第1転送電極50、第2転送電極55および転送用電源60を備える。本例の磁性体10には、スキルミオン生成部11およびトラップ部12が形成されている。
【0014】
磁性体10は、薄層形状を有しており、全ての面が非磁性体に囲まれる。磁性体10は、印加磁場に応じて、少なくともスキルミオン結晶相および強磁性相が発現する。スキルミオン結晶相は、スキルミオン40が磁性体10に発生可能な状態を指す。例えば磁性体10は、カイラル磁性体である。スキルミオン40が安定して存在できるように、磁性体10は薄層状である。磁性体10は、例えばスキルミオン40の直径λの10倍以下程度の厚みを有してよい。
【0015】
スキルミオン生成部11は、磁性体10にスキルミオン40を生成する。スキルミオン生成部11は、論理演算デバイス100の入力部として機能する。スキルミオン生成部11は、2つのスキルミオン生成部11a,11bを有する。本例のスキルミオン生成部11は、2つの入力部を有するが任意のN個の入力部を有してよい。一例において、スキルミオン生成部11は、磁性体10の端部にパルス磁場を与えることによりスキルミオン40を生成する。但し、スキルミオン生成部11は、熱、電磁場、電流等によりスキルミオン40を生成してもよい。なお、スキルミオン生成部11aは、第1スキルミオン生成部の一例であり、スキルミオン生成部11bは、第2スキルミオン生成部の一例である。
【0016】
トラップ部12は、スキルミオン40をトラップする。トラップ部12は、2つのトラップ部12a,12bを有する。トラップ部12aは第1トラップ部の一例であり、トラップ部12bは第2トラップ部の一例である。トラップ部12は、磁性体10の他の領域よりも、スキルミオン40が安定して存在可能な領域である。トラップ部12は、例えば電流等によって外部からスキルミオン40に力を与えなければ、スキルミオン40がその場所にとどまる領域である。このような領域を形成するためには、後述するように磁場発生部20から発生する磁場強度を、トラップ部12周辺の磁場強度より弱い磁場強度とすれば実現できる。それぞれのトラップ部12は、xy平面と平行な磁性体10の表面において、予め定められた範囲を占める。
【0017】
磁場発生部20は、磁性体10に予め定められた磁場Hを印加する。本例では、磁場発生部20を磁性体10に対向して設ける。磁場発生部20は、磁性体10の裏面と対向して設けてよい。本例の磁場発生部20は、磁性体10を強磁性相にする磁場Hを発生する。また、磁場発生部20は、薄膜状の磁性体10の表面に略垂直な磁場Hを、磁性体10に印加する。本例において磁性体10は、xy平面と平行な表面(一面)を有しており、磁場発生部20は、磁場発生部20中の矢印で示すようにプラスz方向の磁場Hを発生する。
【0018】
また、磁場発生部20は、スキルミオン生成部11よりも小さい磁場を、トラップ部12に与える。本例の磁場発生部20は、磁性体10のトラップ部12に印加する磁場が、磁性体10の他の領域に印加する磁場強度Hより小さい磁場Haとなるような構造を有する。磁場発生部20は、トラップ部12に対向する領域の磁気モーメントの大きさが、他の領域と比べて小さくなるような構造を有してよい。磁場発生部20は、トラップ部12に対向する領域と、他の領域とで異なる材料により形成されてよい。また、磁場発生部20は、トラップ部12に対向する領域と、他の領域とで異なる厚みで形成されてよい。これにより、トラップ部12に印加する磁場を他の領域よりも小さくして、スキルミオン40をトラップ部12に安定して存在させることができる。磁場発生部20は、磁性体10と離間していてよく、接触していてもよい。磁場発生部20が金属の場合、磁場発生部20は磁性体10と離間していることが好ましい。
【0019】
第1転送電極50は、磁性体10の一端に接続される。第1転送電極50は、非磁性材料で形成された導電体である。第1転送電極50は、磁性体10の延展方向に接続する。本例において磁性体10の延展方向とは、xy平面に平行な方向を指す。第1転送電極50は薄層形状を有してよい。また、第1転送電極50は、磁性体10と同一の厚みを有してよい。
【0020】
第2転送電極55は、第1転送電極50が設けられた磁性体10の一端と異なる他端に接続される。第2転送電極55は、非磁性材料で形成された導電体である。第2転送電極55は、磁性体10の延展方向に接続する。第1転送電極50および第2転送電極55は、電圧を印加した場合にxy平面とほぼ平行な方向の転送用電流を磁性体10に流すように配置する。本例の論理演算デバイス100は、第1転送電極50から第2転送電極55に対して電流を流す。即ち、第2転送電極55から第1転送電極50に電子流が流れる。
【0021】
第1転送電極50および第2転送電極55は、磁性体10においてスキルミオン40を転送または消去する電流を流すのに用いられる。また、第1転送電極50および第2転送電極55は、磁性体10にスキルミオン40を生成するために用いられてよい。なお、本例における第1転送電極50および第2転送電極55の少なくとも一方は、スキルミオン40の位置を検出する検出部15に電流を流す電極としても機能してよい。本例の論理演算デバイス100は、横電流駆動によりスキルミオン40をx軸方向の正側へ運動させている。即ち、トラップ部12は、第1転送電極50から第2転送電極55に電流を流した場合に、スキルミオン40が移動する方向において、スキルミオン生成部11よりも下流側に設けられている。なお、スキルミオン40は、電流駆動以外にも、温度勾配、磁場勾配、さらには秩序した磁気モーメントがつくる波であるスピン波等により駆動できる。
【0022】
検出部15は、トラップ部12におけるスキルミオン40のトラップ結果に応じた演算結果を検出する。より具体的には、検出部15は、トラップ部におけるスキルミオン40の有無を検出する。本例の検出部15は、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)を備える。検出部15は、トラップ部12に対応して設けられる。本例の検出部15は、非磁性体薄膜151と、磁性体金属152との積層構造を有する。非磁性体薄膜151は、トラップ部12に接して設けられる。磁性体金属152は、非磁性体薄膜151に積層して設けられる。磁性体金属152は、磁場発生部20からの磁場によりz方向の磁気モーメントを有する。
【0023】
測定部34は、測定用電源31および電流計32を備える。測定部34は、検出部15を介してトラップ部12に電流を流す。測定部34は、スキルミオン40の有無に応じた抵抗の変化を測定することにより、トラップ部12におけるスキルミオン40の有無を検知する。測定用電源31は、磁性体金属152と電流計32との間に接続される。本例の電流計32は、第1転送電極50に接続されている。但し、電流計32は、第2転送電極55に接続されてもよい。
【0024】
例えば、検出部15は、トラップ部12にスキルミオン40が存在する場合、非磁性体薄膜151の抵抗値は最大値を示し、スキルミオン40が存在しない場合、非磁性体薄膜151の抵抗値は最小値を示す。検出部15の高抵抗(H)状態と低抵抗(L)状態は、スキルミオン40の有無に対応する。即ち、検出部15は、スキルミオン40の有無に応じた演算結果を検出できる。
【0025】
図3は、論理演算方法の一例を示すフローチャートである。本例ではステップS100〜S104により論理演算を行う。
【0026】
ステップS100において、論理演算デバイス100は、磁性体10にスキルミオン40を生成する。スキルミオン40の生成とは、磁性体10にスキルミオン40がない状態からスキルミオン40を生成することに加えて、スキルミオンメモリデバイスに保存されたスキルミオン40を転送することによりスキルミオン40が入力される場合を含む。
【0027】
ステップS102において、論理演算デバイス100は、生成されたスキルミオン40をトラップする。スキルミオン40をトラップする段階は、複数のスキルミオン40が生成された場合に、全てのスキルミオン40を一度にトラップしてもよいし、複数のスキルミオン40を徐々に転送することにより、トラップしてもよい。
【0028】
ステップS104において、論理演算デバイス100は、スキルミオン40のトラップ結果に応じた演算結果を検出する。検出された演算結果は、スキルミオンメモリデバイスに記憶されてもよいし、他の論理演算デバイス100の入力として用いられてもよい。
【0029】
本明細書に係る論理演算方法は、入力および出力としてスキルミオン40を用いるので、スキルミオンメモリデバイスとの親和性が高い。スキルミオン40を用いた論理演算方法が実現されることにより、データの演算から記録までをスキルミオン40のみで一貫して実行できる。
【0030】
図4は、スキルミオン40の動作の一例を示す。本例では、スキルミオン40が不純物90を超えて+x軸方向に移動する場合の動作を説明する。
【0031】
スキルミオン40の濃淡は、磁気モーメントの向きを示す。スキルミオン40は、
図1で示したように渦状の磁気モーメントを有する。スキルミオン40が存在しない磁性体10の領域は、磁気モーメントが+z軸方向を向いている。スキルミオン40に加えた矢印は、スキルミオン40の中心から所定の距離だけ離れた磁気モーメントを示している。スキルミオン40の中心のように、濃淡が最も濃い領域は、−z軸方向の磁気モーメントを示している。スキルミオン40は、一度生成すると安定して存在し、外部磁場を印加した磁性体10中で情報伝達を担うキャリアとして働く。
【0032】
スキルミオン40は、横電流駆動により+x軸方向に移動している。スキルミオン40が不純物90に近づくとスキルミオン40には、不純物90との間に斥力が生じる。斥力に応じて、スキルミオン40には−y軸方向にマグナス力が生じる。この場合、スキルミオン40は、マグナス力により−y軸方向に移動する。マグナス力は、力に対して垂直な向きに運動しようとする力である。これにより、スキルミオン40は、−y軸方向に不純物90を避けて移動する。
【0033】
また、スキルミオン40が不純物90を超えても、スキルミオン40には、不純物90との間の斥力が生じる。そして、斥力に応じてスキルミオン40には、+y軸方向のマグナス力が生じる。この場合、スキルミオン40は、マグナス力により+y軸方向に移動する。その後、スキルミオン40は、横電流駆動により+x軸方向に移動する。
【0034】
このように、スキルミオン40は、+x軸方向への移動中に何らかの不純物90に当たると、不純物90を超えて移動する。不純物90がスキルミオンである場合も、スキルミオン40は、スキルミオンを追い越して移動する。
【0035】
図5は、スキルミオン40同士に働くマグナス力を示す。本例ではスキルミオン40aおよびスキルミオン40bの2つのスキルミオンの間の相互作用について考える。
【0036】
スキルミオン40aおよびスキルミオン40bの間には斥力が働く。スキルミオン40aは、スキルミオン40bよりも−x軸方向側に位置している。スキルミオン40aおよびスキルミオン40bが接近すると、スキルミオン40aには−y軸方向のマグナス力が働き、スキルミオン40bには+y軸方向のマグナス力が働く。スキルミオン40aおよびスキルミオン40bは、マグナス力のため、ワルツを踊るように回転運動を行う。
【0037】
このようなスキルミオン40同士の相互作用は、論理演算デバイスの設計を困難にしていた。しかしながら、本明細書に係る論理演算デバイス100は、スキルミオン40間の相互作用を逆手に取り、スキルミオン40を用いて演算する。これにより、演算装置から記録装置に至るまで、スキルミオン40を用いたデバイスのみで構成できる。次に、論理演算デバイス100のより具体的な動作について説明する。
【0038】
図6は、論理演算デバイス100の具体的な動作の一例を示す。本例の論理演算デバイス100の動作は、論理積を与える場合の一例である。同図は、
図6の(a)〜(f)まで時系列で論理演算デバイス100の動作を示す。論理演算デバイス100の動作は、数値シミュレーション法による。本例の論理演算デバイス100は、実施例1に係る論理演算デバイス100と同様に、2つの入力部と2つの出力部を有する。なお、本例では、第1転送電極50および第2転送電極55を省略している。
【0039】
図6の(a)において、スキルミオン生成部11aにスキルミオン40aが生成され、スキルミオン生成部11bにスキルミオン40bが生成される。なお、磁性体10は、磁気モーメントの向きが+z軸向きでない領域を端部に有する。このように、スキルミオン40は、磁性体10の端部における磁気モーメントが傾いた領域で生成される。
【0040】
図6の(b)において、スキルミオン40aおよびスキルミオン40bは、磁性体10に流れる電流により、+x軸方向に移動する。
【0041】
図6の(c)において、スキルミオン40bがトラップ部12aにトラップされる。一方、スキルミオン40aは、スキルミオン40bを追いかけるように+x軸方向に移動している。
【0042】
図6の(d)において、スキルミオン40aがスキルミオン40bに近づくと、スキルミオン40同士に生じる斥力により、スキルミオン40aに−y軸方向のマグナス力が生じる。これにより、スキルミオン40aは、−y軸方向にも移動し始める。一方、スキルミオン40bは、トラップ部12aによりトラップされているので、スキルミオン40bに生じるマグナス力によって移動されない。即ち、トラップ部12は、スキルミオン40同士の斥力によりスキルミオン40が移動しない程度に、スキルミオン40を安定させる必要がある。
【0043】
図6の(e)において、スキルミオン40aは、スキルミオン40bを追い越す。また、スキルミオン40aは、スキルミオン40bとの斥力により生じた+y軸方向のマグナス力により、+y軸方向にも移動する。
【0044】
図6の(f)において、スキルミオン40aは、トラップ部12bにトラップされる。これにより、トラップ部12aおよびトラップ部12bには、スキルミオン40bおよびスキルミオン40aがそれぞれトラップされる。
【0045】
ここで、スキルミオン生成部11aへの入力を"A"とし、スキルミオン生成部11bへの入力を"B"とする。また、トラップ部12aの出力を"A'"とし、トラップ部12bの出力を"B'"とする。また、スキルミオン40が存在する場合を"1"として、スキルミオン40が存在しない場合を"0"とする。
【0046】
例えば、A=1,B=1の場合、B'=1となる。それ以外の場合は、B'=0となる。即ち、トラップ部12bにスキルミオン40がトラップされるのは、スキルミオン生成部11aおよびスキルミオン生成部11bの両方にスキルミオン40が生成された場合である。つまり、出力B'に着目すると、論理演算デバイス100がB'=A・Bの論理演算を与えていることが分かる。したがって、論理演算デバイス100は、論理積を演算するデバイスとして機能する。
【0047】
図7Aおよび
図7Bは、論理演算デバイス100を用いた論理演算の一例を示す。本例の論理演算デバイス100の動作は、論理和を与える場合の一例である。本例の論理演算デバイス100は、実施例1に係る論理演算デバイス100と同様に、2つの入力部と2つの出力部を有する。なお、本例では、第1転送電極50および第2転送電極55を省略している。
【0048】
図7Aでは、スキルミオン生成部11aにのみ入力がある場合の一例である。即ち、スキルミオン生成部11aにスキルミオン40aを生成し、スキルミオン生成部11bにはスキルミオン40bを生成しない。スキルミオン生成部11aのみでスキルミオン40aを生成した場合、トラップ部12aがスキルミオン40aをトラップする。トラップ部12aに着目すると、A=1,B=0の場合にA'=1を出力している。
【0049】
図7Bは、スキルミオン生成部11bにのみ入力がある場合の一例である。即ち、スキルミオン生成部11aにはスキルミオン40aを生成せず、スキルミオン生成部11bにスキルミオン40bを生成する。スキルミオン生成部11bのみでスキルミオン40bを生成した場合、トラップ部12aがスキルミオン40bをトラップする。トラップ部12aに着目すると、A=0,B=1の場合にA'=1を出力している。
【0050】
以上の通り、スキルミオン生成部11aおよびスキルミオン生成部11bのいずれかでスキルミオン40を生成した場合、いずれの場合もトラップ部12aにのみスキルミオン40がトラップされるのでトラップ結果に変わりはない。つまり、論理演算デバイス100の出力に変わりはない。
【0051】
また、A=1,B=0の場合、A=0,B=1の場合、およびA=1,B=1の場合、A'=1となり、A=0,B=0の場合、A'=0となる。つまり、入力AおよびBのいずれかに入力があれば出力は"1"となる。したがって、論理演算デバイス100は、論理和を演算するデバイスとして機能する。
【0052】
以上の通り、論理演算デバイス100は、論理積として、B'=A・Bの論理演算を与える。また、論理演算デバイス100は、論理和として、A'=A+Bの論理演算を与える。即ち、論理演算デバイス100は、実施例1に記載の構造を有することにより、論理積および論理和の両方の結果を一度に与えることができる。
【0053】
図8は、論理演算デバイス100の構造の一例を示す。本例の論理演算デバイス100は、2つのスキルミオン生成部11a,11bおよび2つのトラップ部12a,12bを備える。
【0054】
磁性体10のy軸方向の幅W1は、スキルミオン40がトラップされたスキルミオン40を追い越せるのに十分な幅を有する。例えば、幅W1は、スキルミオン40の直径λの2倍以上である。幅W1は、スキルミオン40の移動方向と垂直な方向における磁性体10の幅である。
【0055】
スキルミオン生成部11は、磁性体10の端部を含む領域に対応して設けられる。スキルミオン生成部11aとスキルミオン生成部11bとの間の距離D1は、スキルミオン生成部11aおよびスキルミオン生成部11bで生成されたスキルミオン40aおよびスキルミオン40bが互いに干渉しない距離であることが好ましい。干渉する場合とは、一方で生成されたスキルミオン40により他方で生成されたスキルミオン40の生成を邪魔する場合等である。例えば、本例のスキルミオン生成部11aとスキルミオン生成部11bとの間の距離は、スキルミオン40の直径λの0.5倍以上、1.5倍以下である。本例の距離D1はスキルミオン40の直径λと同一の大きさである。
【0056】
トラップ部12は、スキルミオン40をトラップできるものであればどのような形状であってもよい。一例において、トラップ部12は、多角形、円形等の形状を有する。本例のトラップ部12は、一辺がW2およびD2の四角形である。本例のトラップ部12は、一辺のサイズが、スキルミオン40の直径λの1/3以上、4/3以下の四角形である。つまり、幅W2は、スキルミオン40の直径λの1/3以上、4/3以下であってよい。また、距離D2も、スキルミオン40の直径λの1/3以上、4/3以下であってよい。
【0057】
トラップ部12aとトラップ部12bとの間の距離D3は、トラップ部12aにトラップされたスキルミオンスキルミオン40bがトラップ部12bにトラップされるスキルミオン40aに干渉しない距離を少なくとも有する。距離D3が近すぎると、トラップ部12aにトラップされたスキルミオン40bが、スキルミオン40bを追い抜かそうとするスキルミオン40aに影響することによりスキルミオン40aがトラップ部12bにトラップされない場合がある。即ち、干渉しない距離とは、トラップされたスキルミオン40bを超えてスキルミオン40aがトラップ部12bにトラップ可能な距離であればよい。例えば、距離D3は、スキルミオン40の直径λ以上である。なお、距離D3の上限に制限はないが、演算速度の観点から短い方が好ましい。
【0058】
[実施例2]
図9は、実施例2に係る論理演算デバイス100の構成の一例を示す。本例の論理演算デバイス100は、N個のスキルミオン生成部11およびN個のトラップ部12をそれぞれ備える。
【0059】
論理演算デバイス100は、N個のトラップ部12は、トラップ群13を構成する。この場合、入力{X
i}
i=1〜Nに対して、出力{Y
i}
i=1〜Nは、次式で示される。
【数1】
ここで、Λ
n,lは、添え字i=1〜Nから選び出したn個の組み合わせの列を指す。
【0060】
本例の論理演算デバイス100は、N個の入力に対してN個の出力を与える。このように、論理演算デバイス100は、スキルミオン生成部11およびトラップ部12の個数を調整するだけで入力および出力の個数を任意に設定できる。そのため、論理演算の自由度が高い。
【0061】
[実施例3]
図10は、実施例3に係る論理演算デバイス100の構成の一例を示す。本例の論理演算デバイス100は、磁性体10においてスキルミオン生成部11および2つのトラップ群13a,13bを備える。
【0062】
トラップ群13bは、トラップ群13aの下流側に設けられる。トラップ群13bは、N個のトラップ部12を有する。N個のトラップ部12は、Y'
1〜Y'
Nを出力する。本例のトラップ群13bは、トラップ群13aと同一の形状およびサイズのトラップ部12を有する。但し、トラップ群13bは、トラップ群13aと異なる形状およびサイズのトラップ部12を有していてもよい。また、トラップ群13bが有するトラップ部12の個数は、トラップ群13aが有するトラップ部12の個数と同一であっても、異なっていてもよい。
【0063】
ここで、トラップ群13aにスキルミオン生成部11に応じたスキルミオン40がトラップされている場合について考える。この場合、トラップ群13aが有するトラップ部12に印加される磁場を磁性体10の他の領域と同じ大きさにすれば、トラップされていたスキルミオン40が下流側に転送される。これにより、トラップ群13aにトラップされていたスキルミオン40がトラップ群13bに転送される。このように、論理演算デバイス100は、転送方向の下流側に他のトラップ群13bを設けることにより、演算結果を引き継ぐことができる。一方、トラップ群13aは、スキルミオン40が転送されるのでリフレッシュされる。
【0064】
本例の論理演算デバイス100は、複数のトラップ群を備えることにより、多段の論理演算を実現できる。本例の論理演算デバイス100は、2段のトラップ群を有する場合について説明したが、3段以上のトラップ群を有する場合も同様に機能する。また、論理演算デバイス100は、後段にスキルミオンメモリ等のスキルミオンデバイスを有してよい。この場合も、論理演算デバイス100は、演算結果を下流側のスキルミオンデバイスに引き継ぐことができる。
【0065】
なお、トラップ群13bは、トラップ群13aで検出したトラップ結果を記憶する記憶部としても動作してよい。この場合、論理演算デバイス100は、トラップ群13aでトラップしたスキルミオン40をトラップ群13bに転送する。論理演算デバイス100は、トラップ群13aでトラップしたスキルミオン40の一部をトラップ群13bにトラップさせてもよい。これにより、データ量を低減できる。また、論理演算デバイス100は、トラップ群13bにスキルミオン40をトラップさせて、トラップ結果を記憶させておく一方で、スキルミオン生成部11においてスキルミオン40を新たに生成して、トラップ群13aで検出させてよい。
【0066】
以上の通り、本明細書に係る論理演算デバイス100は、スキルミオン40を用いた基本論理演算を確立する。論理演算デバイス100は、スキルミオン40の相互作用を制御して論理演算を可能とする。論理演算デバイス100は、スキルミオン40を用いたスキルミオンメモリデバイスと親和性の高い論理デバイスを実現できる。これにより、データの演算から記録までをスキルミオン40のみで一貫して実行できる。
【0067】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0068】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。