(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワイヤ電極を間に張架する上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドと、前記ワイヤ電極の送り方向を変更する回転体を備え、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドの間には被加工物が載置されて前記被加工物と前記ワイヤ電極との間に放電を発生させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工装置であって、
前記回転体の回転軸は、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線と垂直になるように配され、前記回転体は、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線上から前記回転体の回転軸方向にずれた位置に配されることにより前記ワイヤ電極に軸周りの回転を付与することを特徴とするワイヤ放電加工装置。
前記回転体は、前記ワイヤ電極が巻きかけられる巻きかけ部と、前記巻きかけ部の両端に配された大径部を有し、前記巻きかけ部の断面が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤ放電加工装置。
前記ワイヤ電極は、前記回転体の回転軸方向に直交する方向に対して、0.1〜1.0°(度)の範囲内で傾斜して前記回転体の外周面に配されていることを特徴とする請求項1または2記載のワイヤ放電加工装置。
前記ワイヤ放電加工装置は、制御装置と、前記回転体を内蔵した回転体ユニットを備え、前記回転体ユニットは、前記制御装置の指令により前記回転体を前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して左側の位置、右側の位置および前記直線上の中央位置の3つの位置に切り替えて配することにより、前記ワイヤ電極の回転の有無および回転方向を変更することを特徴とする請求項1または2記載のワイヤ放電加工装置。
ワイヤ電極を間に張架する上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドと、前記ワイヤ電極の送り方向を変更する回転体を備え、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドの間には被加工物が載置されて前記被加工物と前記ワイヤ電極との間に放電を発生させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工装置であって、
前記回転体は、前記回転体の回転軸の垂線を前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して傾斜するように配置され、前記ワイヤ電極を前記回転体の外周面に配することにより前記ワイヤ電極に軸周りの回転を付与することを特徴とするワイヤ放電加工装置。
前記回転体は、前記ワイヤ電極が巻きかけられる巻きかけ部と、前記巻きかけ部の両端に配された大径部を有し、前記巻きかけ部が円柱状に形成されていることを特徴とする請求項6記載のワイヤ放電加工装置。
前記回転体の回転軸の垂線が、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して0.1〜1.0°(度)の範囲内で傾斜して配されていることを特徴とする請求項6または7記載のワイヤ放電加工装置。
ワイヤ電極を間に張架する上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドと、前記ワイヤ電極を挟み込むように配された一対の回転体を備え、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドの間には被加工物が載置されて前記被加工物と前記ワイヤ電極との間に放電を発生させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工装置であって、
前記一対の回転体は、前記回転体の回転軸の垂線が前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対してそれぞれ傾斜して配されていることにより、前記ワイヤ電極に軸周りの回転を付与することを特徴とするワイヤ放電加工装置。
前記一対の回転体は、前記回転体の回転軸の垂線が前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して0.1〜1.0°(度)の範囲内でそれぞれ傾斜していることを特徴とする請求項9記載のワイヤ放電加工装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなワイヤ電極の消耗に対処するために、従来、特許文献1や2に示されるように、加工位置に送られるワイヤ電極に軸周りの回転を付えておくことが知られている。しかし、ワイヤ電極に回転を与える従来の手段は、ワイヤ電極を挟む1対のローラを互いに逆向き方向にして軸方向に往復移動させたり、ワイヤ電極の供給装置を全体的に回転させたりする複雑なものであるので、ワイヤ放電加工装置の大型化や多大なコストアップを招くものであった。また従来は、そのようにワイヤ電極に軸周りの回転を付えておく場合に、加工面質の低下、加工寸法精度の悪化をより効果的に防止できる加工方法は提案されていなかった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、加工位置に送られるワイヤ電極に軸周りの回転を与えておくことができる、簡単な構成のワイヤ放電加工装置を提供することを目的とする。本発明はさらに、ワイヤ電極に軸周りの回転を付えておく場合に、加工面質の低下、加工寸法精度の悪化をより効果的に防止できるワイヤ放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のワイヤ放電加工装置は、ワイヤ電極を間に張架する上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドと、前記ワイヤ電極の送り方向を変更する回転体を備え、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドの間には被加工物が載置されて前記被加工物と前記ワイヤ電極との間に放電を発生させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工装置であって、前記回転体の回転軸は、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線と垂直になるように配され、前記回転体は、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線上から前記回転体の回転軸方向にずれた位置に配されることにより前記ワイヤ電極に軸周りの回転を付与することを特徴とする。
【0008】
一般的には、回転体のワイヤ電極と接する外周面は上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを結ぶ同一直線上に配置されている。本発明は、回転体を上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを結ぶ同一直線上からずらして配置するだけで、簡単にワイヤ電極に軸周りの回転を付与することができるものであり、回転付与のために装置を大型化することや多大なコストアップを招くことを避けることが可能となる。
またワイヤ電極に軸周りの回転を与えながら被加工物の加工を行うため、ワイヤ電極は常に新しい面で被加工物を加工することになり、テーパ補正等の追加の処理が不要となる。
【0009】
本発明のワイヤ放電加工装置において、回転体は、前記ワイヤ電極が巻きかけられる巻きかけ部と、前記巻きかけ部の両端に配された大径部を有し、前記巻きかけ部の断面が円弧状に形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、巻きかけ部の断面が円弧状に形成されているため、回転体を上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを結ぶ直線上から回転体の回転軸方向にずらすだけで、ワイヤ電極に回転体の軸方向中央位置に向かって回転させる力を発生させ、軸周りの回転を付与することが可能となる。
【0011】
本発明のワイヤ放電加工装置において、前記ワイヤ電極は回転体の回転軸方向に直交する方向に対して0.1〜1.0°(度)の範囲内で傾斜して前記回転体の外周面に配されていることを特徴とする。
また本発明のワイヤ放電加工装置において、前記回転体の回転軸の垂線が前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して0.1〜1.0°(度)の範囲内で傾斜して配されていることを特徴とする。
【0012】
ワイヤ放電加工装置において被加工物を加工する際に、ワイヤ電極は常に新しい面で加工されることが望ましい。加工時、被加工物の表面から加工終了位置である被加工物の裏面に至るまでの間にワイヤ電極が軸周りに1回転以上回転してしまうと、ワイヤ電極の消耗面で被加工物を加工することになってしまう。よって、ワイヤ電極のある点の加工開始位置である被加工物の表面から加工終了位置である被加工物の裏面に至るまでの間にワイヤ電極WEが1/4〜1回転するように、回転体の走行方向に対するワイヤ電極の傾斜角度は好ましくは0.1〜1.0°(度)の範囲内とされることが望ましい。
【0013】
本発明のワイヤ放電加工装置は、制御装置と、前記回転体を内蔵した回転体ユニットを備え、前記回転体ユニットは、前記制御装置の指令により前記回転体を前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して左側の位置、右側の位置および前記直線上の中央位置の3つの位置に切り替えて配することにより、前記ワイヤ電極の回転の有無および回転方向を変更することを特徴とする。
また本発明は、被加工物と軸周りに回転するワイヤ電極との間に放電を発生させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工方法であって、前記ワイヤ電極の送り方向上流側から見て、加工進行方向右側に前記被加工物の加工面があるとき、前記ワイヤ電極の軸周りの回転方向は反時計回りに設定され、前記ワイヤ電極の送り方向上流側から見て、加工進行方向左側に前記被加工物の加工面があるとき、前記ワイヤ電極の軸周りの回転方向は時計回りに設定されることを特徴とする。
【0014】
常に未消耗のワイヤ電極で被加工物を加工するためには、ワイヤ電極の加工進行方向と被加工物の加工基準面の位置関係により、ワイヤ電極の回転方向を変更する必要がある。本発明によれば、回転体を上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して左側の位置、右側の位置および上述の直線上の中央位置の3つの位置に切り替えて配することにより、ワイヤ電極の回転の有無および回転方向を変更することが可能であるため、様々な形状の被加工物や加工プログラムにも対応でき、被加工物の寸法精度を均一にすることが可能となる。
【0015】
本発明のワイヤ放電加工装置において前記制御装置は、前記ワイヤ放電加工装置の加工プログラムの情報に基づいて前記回転体の位置を決定することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、加工プログラムの情報に基づいて回転体の位置(ワイヤ電極の軸周りの回転方向)を自動的に判別、設定することが可能であるため、作業者がワイヤ電極の回転方向を考慮することがない。
【0017】
本発明は、ワイヤ電極を間に張架する上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドと、前記ワイヤ電極の送り方向を変更する回転体を備え、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドの間には被加工物が載置されて前記被加工物と前記ワイヤ電極との間に放電を発生させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工装置であって、前記回転体は、前記回転体の回転軸の垂線を前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して傾斜するように配置され、前記ワイヤ電極を前記回転体の外周面に配することにより前記ワイヤ電極に軸周りの回転を付与することを特徴とする。
また本発明のワイヤ放電加工装置において、前記回転体は、前記ワイヤ電極が巻きかけられる巻きかけ部と、前記巻きかけ部の両端に配された大径部を有し、前記巻きかけ部が円柱状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
一般的には、回転体の回転軸は上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを結ぶ直線と垂直に配置されている。本発明は、回転体の回転軸の垂線を上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対して傾斜するように配置することで、簡単にワイヤ電極に軸周りの回転を付与することができるものであり、装置の小型化や設備費用の削減を図ることが可能となる。
【0019】
本発明は、ワイヤ電極を間に張架する上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドと、前記ワイヤ電極を挟み込むように配された一対の回転体を備え、前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドの間には被加工物が載置されて前記被加工物と前記ワイヤ電極との間に放電を発生させて前記被加工物を加工するワイヤ放電加工装置であって、前記一対の回転体は、前記回転体の回転軸の垂線が前記上側ワイヤガイドと前記下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対してそれぞれ傾斜して配されていることにより、前記ワイヤ電極に軸周りの回転を付与することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、ワイヤ電極を挟み込むように配された一対の回転体を使用し、回転体の回転軸の垂線が上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを結ぶ直線に対してそれぞれ傾斜するように配置することにより、ワイヤ電極に軸周りの回転を簡単に付与することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるワイヤ放電加工装置は、ワイヤ電極の走行系に一般に設けられる回転体を通常とは異なる配置状態とするだけで、ワイヤ電極に軸周りの回転を付与できるものであるから、回転付与のために大型化や多大なコストアップを招くことなく形成可能となる。
【0022】
また、本発明によるワイヤ放電加工方法によれば、ワイヤ電極の軸周り回転の方向を、加工進行方向と加工面との位置関係に応じて前述の通りに規定したことにより、緩やかな回転で効率よくワイヤ電極の無消耗の面を用いて放電加工することができるので、高い加工面質および加工寸法精度を実現可能となり追加の補正が不要となる。この効果は、本発明によるワイヤ放電加工方法を、被加工物を荒加工後に仕上げ加工する際に適用すれば、特に有益なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(本発明の第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明によるワイヤ放電加工装置100の第1の実施形態を示すものである。
図1では、ワイヤ電極の規定の走行径路が分かるように、ワイヤ放電加工装置100を模式的に示している。
図1において、自動結線装置1とワイヤ供給機構、およびワイヤガイド機構は、本機正面から見た状態で示されていて、ワイヤ回収機構は、本機側面から見た状態で示されている。以下、
図1と
図2を参照して、本実施形態によるワイヤ放電加工装置100の構成を説明する。
【0025】
ワイヤ電極WEと被加工物WPとの間に所定の加工間隙が形成されるように、ワイヤ電極WEと被加工物WPとが対向配置される。ワイヤ電極WEと被加工物WPは、図示しない移動装置によって水平面上の任意の方向に相対移動する。ワイヤ電極WEを被加工物WPに対して傾斜させる、いわゆるテーパ装置は、図示省略されている。
【0026】
ワイヤ放電加工装置100は、自動結線装置1と、ワイヤ供給機構2と、ワイヤ回収機構3と、ワイヤガイド機構4と、電流供給装置5と、圧縮空気供給装置6と、加工液供給装置7と、制御装置8とを含んで構成されている。ワイヤ電極WEは、被加工物WPを挟んで設けられる一対のワイヤガイド4U,4Lの間に、規定の走行径路に沿って所定のテンションが付与された状態で張架される。
【0027】
自動結線装置1は、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通して自動的に一対のワイヤガイド4U,4L間に張架する手段である。自動結線装置1は、
図2に詳しく示されるように、少なくとも、ガイドパイプ11と、ワイヤ振動装置12と、アニール電極13と、中間給電電極14と、電極駆動装置15とを有する。
【0028】
ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEの規定の走行径路に沿って、水平面に対して略垂直に設けられている。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEが規定の走行径路から逸脱しないように、ワイヤ電極WEを自動結線装置1の上位から上側ワイヤガイド4Uまで案内する手段である。ガイドパイプ11は、昇降装置によって上下方向に往復移動する。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEを焼き鈍すときと切断するときは、上限位置に移動する。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通するときは、下限位置である上側ワイヤガイド4Uの入口まで移動する。
【0029】
ワイヤ振動装置12は、ガイドパイプ11の入口の直上に設けられている。ワイヤ振動装置12は、ワイヤ電極WEに上下方向の微小な振動を与える手段である。ワイヤ振動装置12は、図示しない電磁弁を切り換えることによって圧縮空気供給装置6から送られてくる所定の圧力の圧縮空気を一対の導入口12A,12Bから交互に入力して、圧縮空気の圧力を規定の走行径路に沿って直接または間接的にワイヤ電極WEに加える。その結果、ワイヤ電極WEが微小に上下動してワイヤ電極WEを下穴に通しやすくすることができる。
【0030】
上側給電電極13Uと下側給電電極13Lとで、一対のアニール電極13が構成されている。上側給電電極13Uと下側給電電極13Lとの一方が電流供給装置5の直流電源の正極に接続され、他方が負極に接続される。中間給電電極14は、上記直流電源の下側給電電極13Lが接続される極とは反対の極に接続され、下側給電電極13Lとの間でワイヤ電極WEに溶断電流を供給して、ワイヤ電極WEを意図的に切断する。
【0031】
電極駆動装置15は、上側電極駆動装置15Uと下側電極駆動装置15Lとから構成されている。上側電極駆動装置15Uは、一対の回転体から成る上側給電電極13Uを開閉する電磁アクチュエータを有する。電磁アクチュエータは電気が供給されている間に、上側給電電極13Uをワイヤ電極WEに向けて付勢する。下側電極駆動装置15Lは、エアシリンダまたは電動シリンダを有する。エアシリンダまたは電動シリンダは、スライダを水平方向に移動させて、スライダに固定されている下側給電電極13Lと中間給電電極14をワイヤ電極WEに向けて付勢する。
【0032】
ワイヤ供給機構2は、加工に供されていない新しいワイヤ電極WEを、規定の走行径路に沿って加工間隙に連続的に供給する手段である。ワイヤ供給機構2は、テンション装置10を含む。ワイヤ供給機構2は、主に、リール21と、ブレーキ装置22と、サーボプーリ23と、送出モータ10Bによって自転する送出ローラ10Aとを有する。また、ワイヤ供給機構2には、リミットスイッチのような断線検出器24と、歪ゲージのような張力検出器10Cとが設けられている。
【0033】
リール21と、サーボプーリ23と、送出ローラ10Aとを含むワイヤ供給機構2の各回転体は、走行するワイヤ電極WEを規定の走行径路に沿って案内するガイドである。以下の説明では、各回転体がワイヤ電極WEを送り出すときに回転する方向を正転方向とし、正転方向とは反対の方向を逆転方向とする。
【0034】
リール21には、ワイヤ電極WEを貯蔵するワイヤボビン25が回転可能に取り付けられる。ワイヤ電極WEは、ワイヤボビン25に巻回して貯蔵されるため、ワイヤ電極WEには巻き癖が付いている。ブレーキ装置22は、リール21の逆転方向に所要のトルクを加えて、ワイヤ電極WEにバックテンションを付与する。ブレーキ装置22は、リール21に装填されているワイヤボビン25の空転を阻止して、ワイヤ供給機構2におけるワイヤ電極WEの弛みを防止する。
【0035】
ブレーキ装置22は、具体的に、例えばヒステリシスモータのようなブレーキモータ、もしくは電磁クラッチのような電磁ブレーキである。ブレーキ装置22がブレーキモータである場合は、送出モータ10Bと同期して動作させることができる。ブレーキ装置22が電磁ブレーキである場合は、電磁クラッチの摩擦力によってブレーキ力を得る構成上、送出モータ10Bとは別に独立して制御される。ただし、電磁ブレーキは、制御装置8によって電磁ブレーキを作動させるタイミングとブレーキ力を制御することができるので、自動結線装置1の各装置の動作タイミングに合わせて動作させることが可能である。
【0036】
サーボプーリ23は、リール21と送出ローラ10Aとの間に設けられている。サーボプーリ23は自重によって、リール21と送出ローラ10Aとの間のワイヤ電極WEに対して、下向きに一定の荷重を加える。サーボプーリ23は、上下に自由に移動できるように設けられている。そのためサーボプーリ23は、テンションの微小な変動に合わせて上下に移動する。その結果、サーボプーリ23は、ワイヤボビン25から繰り出されるワイヤ電極WEに発生する微小な振動を吸収してテンションを安定させる。
【0037】
テンション装置10は、ワイヤ電極WEに所定のテンション(張力)を付与する手段、すなわち張力装置である。テンション装置10は、ワイヤ供給機構2に含まれている。テンション装置10は、主に、送出ローラ10Aと、送出モータ10Bと、張力検出器10Cと、ピンチローラ10Dと、モータ制御装置10Eとで構成されている。
【0038】
送出ローラ10Aは、送出モータ10Bによって自転する。送出ローラ10Aは、ピンチローラ10Dがワイヤ電極を送出ローラ10Aの外周面に押し付けることによって、ワイヤ電極WEを移動させる駆動力を得る。送出ローラ10Aは、ピンチローラ10Dを含む複数のローラによってワイヤ電極WEを弛ませないようにして、ワイヤ電極WEを断線させることなく円滑に走行させる。
【0039】
送出モータ10Bは、サーボモータである。送出モータ10Bは、制御装置8の指令信号に従ってモータ制御装置10Eを通して制御される。送出モータ10Bは、モータ制御装置10Eによって張力検出器10Cの検出信号に基づいてサーボ動作する。そのため、設定張力値が小さいときでもワイヤ電極WEのテンションが安定し、ワイヤ電極WEが弛んだり、断線したりするおそれがより小さい。制御装置8は、ワイヤ回収機構3の巻取装置30におけるトルクに合わせて送出モータ10Bを制御することができる。
【0040】
送出ローラ10Aは、ワイヤ電極WEが一対のワイヤガイド4U,4Lとの間に張架されているときは、送出ローラ10Aと巻取装置30の巻取ローラ30Aとの間の回転速度差によって、ワイヤ電極WEを実質的に停止させた状態で、またはワイヤ電極WEを所定の走行速度で加工間隙に連続して送り出しながら、ワイヤ電極WEに所定のテンションを付与する。
【0041】
送出ローラ10Aは、ワイヤ電極WEを結線するときは、送出モータ10Bによって正転方向に定速回転し、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通、通過させてワイヤ回収機構3に捕捉させる。また、送出ローラ10Aは、自動結線のリトライを行なうときは、送出モータ10Bによって逆転方向に定速回転し、ワイヤ電極WEを所定位置まで巻き上げる。
【0042】
ワイヤ回収機構3は、加工に供されて消耗したワイヤ電極WEを、規定の走行径路に沿って加工間隙から回収する手段である。ワイヤ回収機構3は、巻取装置30と、方向転換用の回転体31と、搬送パイプ32と、アスピレータ33と、バケット34と、ワイヤ裁断機35とを有する。巻取装置30は、主に、巻取ローラ30Aと、巻取モータ30Bと、ピンチローラ30Cとから構成される。巻取ローラ30Aは、巻取装置30の駆動ローラを構成し、ピンチローラ30Cは、巻取装置30の従動ローラを構成する。
【0043】
下穴を抜けて下側ワイヤガイド4Lに通されたワイヤ電極WEは、回転体31によって進行方向を水平方向に変えられて、搬送パイプ32に挿入される。搬送パイプ32の中のワイヤ電極WEは、アスピレータ33によって吸引され推進力を得る。
【0044】
搬送パイプ32を抜け出たワイヤ電極WEは、巻取装置30の巻取ローラ30Aとピンチローラ30Cとの間に捕捉、挟持される。巻取ローラ30Aは、定速回転モータである巻取モータ30Bによって正転方向に所定の回転速度で回転し、使用済のワイヤ電極WEを所定の走行速度で走行させながらバケット34の直上まで引き込む。本実施形態のワイヤ放電加工装置100では、バケット34の上に引き込まれたワイヤ電極WEを、ワイヤ裁断機35で細断してバケット34に収容する。
【0045】
ワイヤガイド機構4は、被加工物WPを挟んで設けられる上下一対のワイヤガイド4U,4Lから構成されている。上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lは、上下ガイド組体40A,40Bの中にそれぞれ組み込まれている。一対のワイヤガイド4U,4Lは、ワイヤ電極WEを規定の走行径路上に位置決めするとともに、走行するワイヤ電極WEを案内する。一対のワイヤガイド4U,4Lは、共にダイス形状を有する“ダイスガイド”であって、各ワイヤガイド4U,4Lとワイヤ電極WEとの間に数μmのクリアランスがあるので、自動結線時にワイヤ電極WEの先端をワイヤガイド4U,4Lの中に通すことができる。
【0046】
上下ガイド組体40A,40Bには、電流供給装置5からワイヤ電極WEに加工電流を供給するための上側通電体5Uと下側通電体5Lがそれぞれ収容されている。また、上下ガイド組体40A,40Bには、加工液供給装置7から供給されている所定圧力の加工液噴流を、加工間隙に噴射供給するための上下ノズル8U,8Lがそれぞれ組み込まれている。
【0047】
電流供給装置5は、少なくとも、直流電源と、スイッチング回路と、リレースイッチとを備えている。本実施形態のワイヤ放電加工装置100では、電流供給装置5は、加工間隙に加工電流を供給する加工電源回路を含んでいる。したがって電流供給装置5は、放電加工に必要な電圧パルスを加工間隙に印加して加工電流を供給する手段であるとともに、自動結線時にワイヤ電極WEに所定のアニール電流と所定の溶断電流を供給する手段である。
【0048】
電流供給装置5の直流電源の正極は、上下ガイド組体40A,40Bにそれぞれ収容されている上側通電体5Uと下側通電体5Lに接続され、負極は被加工物WPに接続されている。加工中、電流供給装置5は、上下各通電体5U,5Lと被加工物WPとを通して加工間隙に繰返し電圧パルスを印加して、加工間隙に間欠的に所定の加工電流を供給する。
【0049】
本実施形態の電流供給装置5では、直流電源の正極が自動結線装置1の上側給電電極13Uと中間給電電極14とにそれぞれ図示外のリレースイッチを介して接続され、負極が下側給電電極13Lにリレースイッチを介して接続されている。電流供給装置5は、自動結線時に、一対のアニール電極13を導通してワイヤ電極WEに所定のアニール電流を供給する。また、電流供給装置5は、ワイヤ電極WEを意図的に切断するとき、下側給電電極13Lと中間給電電極14を導通して、ワイヤ電極WEに所定の溶断電流を供給する。
【0050】
圧縮空気供給装置6は、自動結線装置1のワイヤ振動装置12に作動用の圧縮空気を供給する手段である。圧縮空気供給装置6は、図示しないエアコンプレッサのような圧縮空気供給源と、複数の電磁弁と、レギュレータとを含んでいる。圧縮空気供給装置6は、圧縮空気供給源の高圧の圧縮空気をレギュレータで所定の圧力に調整し、電磁弁を定期的に切り換えることによって、ワイヤ振動装置12の一対の導入口12A,12Bに交互に所定圧力の圧縮空気を供給する。
【0051】
加工液供給装置7は、加工間隙に所定の圧力の加工液噴流を供給する手段である。加工液供給装置7は図示外の噴流ポンプによって、サービスタンクに貯留されている清浄な加工液を、上下ガイド組体40A,40Bにそれぞれ設けられている上下加工液噴流ノズル7U,7Lに供給する。それにより各加工液噴流ノズル7U,7Lから所定圧力の加工液噴流が、ワイヤ電極WEの規定の走行径路の軸線方向に対して同軸に加工間隙に向けて噴射される。なお
図1では、加工液供給装置7からワイヤガイド機構4に至る加工液の経路を途中は省略して示しているが、加工液供給装置7から出たこの経路の(A)表示部分が、ワイヤガイド機構4に入る経路の(A)表示部分に繋がっている。
【0052】
制御装置8は、ワイヤ放電加工装置100の動作を制御する手段である。以下、制御装置8の制御動作のうち、主要な制御について説明する。本実施形態のワイヤ放電加工装置100において、制御装置8は、自動結線装置1の動作を制御する。制御装置8は特に、電流供給装置5とテンション装置10を制御する。
【0053】
制御装置8は、電流供給装置5から所定のアニール電流を供給している所定期間中に、設定張力値を80g以下で可能な限り小さくしてワイヤ電極WEにテンションを付与するようにテンション装置10を制御する。制御装置8は特に自動結線装置1を、所定のアニール電流の供給を停止すると同時に、所定期間中にワイヤ電極WEを加熱していない状態で空気中に晒して徐々に冷却するように制御する。
【0054】
制御装置8は電流供給装置5を、ワイヤ電極WEに十分に小さい上記設定張力値のテンションを印加してから、所定期間経過後に所定のアニール電流を供給するように制御している。また制御装置8はテンション装置10を、所定のアニール電流を停止すると同時に上記設定張力値が0gにならない範囲で上記設定張力値を10g以上小さくして所定期間経過後に元の設定張力値に戻すように、ワイヤ電極WEにテンションを付与するように制御している。
【0055】
次に、被加工物WPを、常にワイヤ電極WEの無消耗の部分で加工するための構成について説明する。そのような加工を可能にするために本実施形態では、加工位置に送られるワイヤ電極WEに軸周りの回転を与える。すなわち
図1に示す構成においては、被加工物WPの下方に配置された下ガイド組体40Bを通過したワイヤ電極WEが、方向転換用の回転体31の外周面に巻きかけられている。この回転体31は、外周面にワイヤ電極WEが巻きかけられる巻きかけ部31aと、その左右両端に配された大径部31bとを有し、回転軸31cを中心として回転するものである。
【0056】
上記の回転体31は、
図4に明示されているように、その軸方向中央位置が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して、回転軸方向Zにずれた位置に配されている。ワイヤ電極WEは回転体31の外周面に設けられた巻きかけ部31aの最も小径である軸方向中央部に巻きかかるようになるが、下側ワイヤガイド4Lと回転体31との位置関係が上述のようになっているために、ワイヤ電極WEは下側ワイヤガイド4Lを下方に抜け出たところで曲がって進行する。こうしてワイヤ電極WEは、水平方向から見た状態で、回転軸方向Z(回転軸31cが延びる方向)に直交する方向に対して傾斜して配置されることになる。なおこの傾斜の角度θは、ワイヤ電極WEのある点の加工開始位置である被加工物WPの表面から加工終了位置である被加工物WPの裏面に至るまでの間にワイヤ電極WEが1/4〜1回転するように、好ましくは0.1〜1.0°(度)の範囲内の角度とされる。
【0057】
また巻きかけ部31aは軸方向中央部が最も小径で、左右端側に行くにつれて径が次第に増大して、全体として鼓状に形成されている(
図3、
図4、
図5)。
図5に示すように巻きかけ部31aの断面は円弧形状であり、巻きかけ部31aの断面の曲率半径R1はワイヤ電極WEよりも大きくなるように形成されている。
ワイヤ電極WEが被加工物WPの厚さ内で1/4〜1回転させるためにはワイヤ電極WEの回転速度が重要であり、回転速度はワイヤ電極WEの径、巻きかけ部31aの断面の曲率半径R1、回転体31の回転軸方向Zへのずれ量(傾斜の角度θ)等により決定される。放電加工装置に使用されるワイヤ電極WEの径は主に0.1〜0.3mm程度であるため、曲率半径R1は約0.3mmが好ましい。
【0058】
なお、
図5に示した断面形状以外の形状でも、軸方向中央部が最も小径で、左右端側に行くにつれて径が次第に増大する形状であれば本実施形態の巻きかけ部31aとして採用することができる。
【0059】
このような状態で回転体31に巻きかかっているワイヤ電極WEは、回転体31に沿って進行する際に、自身を軸周りに回転させる向きの力を受ける。
具体的に
図6および
図7を参照して、本発明のワイヤ放電加工装置100におけるワイヤ電極WEの回転原理について説明を行う。ここで
図6および
図7は、
図1中で上から見た状態、つまりワイヤ電極WEの送り方向上流側から見た状態を概略的に示している。
図4に示されるように回転体31の軸方向中央位置が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して回転軸の負の方向Z(‐)である左側にずれた位置に配されている場合、回転体31の上部ではワイヤ電極WEが回転体31の軸方向中央位置に対して正の方向Z(+)である右側にずれた位置で当接している(
図6)。ワイヤ電極WEにはテンション装置10によって張力が付与されているため、その張力によりワイヤ電極WEを回転体31へ押し付ける力F1が発生する。ワイヤ電極WEを回転体31へ押し付ける力F1は、ワイヤ電極WEと回転体31との接触面に働く分力F3とワイヤ電極WEを回転体31の軸方向中央位置に向かって回転させる分力F2に分解され、分力F2によりワイヤ電極WEは送り方向上流側からみて時計回りに回転する。
一方、回転体31の軸方向中央位置が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して回転軸の正の方向Z(+)である右側にずれた位置に配されている場合、回転体31の上部ではワイヤ電極WEが回転体31の軸方向中央位置に対して負の方向Z(‐)である左側にずれた位置で当接している(
図7)。
図6の場合と同様、ワイヤ電極WEを回転体31へ押し付ける力F1は、ワイヤ電極WEと回転体31との接触面に働く分力F3とワイヤ電極WEを回転体31の軸方向中央位置に向かって回転させる分力F2に分解され、分力F2によりワイヤ電極WEは送り方向上流側からみて反時計回りに回転する。
このワイヤ電極WEの回転は、回転体31よりもワイヤ電極送り方向上流側で、被加工物WPと加工間隙を置いて向い合っている部分のワイヤ電極WEにも伝わることになる。
【0060】
なお、「ワイヤ電極送り方向」とは、
図1に示すワイヤボビン25からワイヤ回収機構3に向けてワイヤ電極WEが送られる方向(その向きは、送り位置毎に変化する)を指すものである。こうして、被加工物WPと向い合っているワイヤ電極WEに軸周りの回転を与えておけば、ワイヤ電極WEの消耗していない部分を用いてワイヤ放電加工することが可能になる。またその場合、被加工物WPの長さに対しワイヤ電極WEの回転は1周以下が望ましいが、回転方向を加工進行方向に対して適切に設定しておくことにより、緩やかな回転でも加工面質の低下、加工寸法精度の悪化を効果的に防止することも可能になる。このワイヤ電極WEの回転方向の適切な設定については、後に詳しく説明する。
【0061】
(ワイヤ放電加工方法の実施形態)
次に
図8および
図9を参照して、本発明のワイヤ放電加工方法の実施形態について説明する。なお以下では、この方法が
図1〜
図4に示した第1実施形態のワイヤ放電加工装置において実施されるものとして説明する。
図8および
図9は、
図1に示した被加工物WP(ハッチングを付した部分)がワイヤ電極WEを用いて加工されているところを、
図1中で上から見た状態、つまりワイヤ電極WEの送り方向上流側から見た状態を概略的に示している。それらの図において、矢印Y1で示す破線の部分が、ワイヤ放電加工により被加工物WPを除去して新たな製品面とすることが望まれている面、つまり加工基準面を示している。
【0062】
この加工基準面を形成するためにワイヤ電極WEは、被加工物WPに対して、矢印Y2で示す加工進行方向に送られる。
図8は、この加工進行方向の右側に加工基準面(加工面)が有る場合を示し、それに対して
図9は、この加工進行方向の左側に加工基準面が有る場合を示している。この補正位置に配置されたワイヤ電極WEが、上述のように加工進行方向に送られる際、ワイヤ電極WEは同時に、
図1における上から下方に向けて(
図8および
図9では手前から奥方側に)連続的に送られている。
【0063】
ワイヤ電極WEが加工進行方向に送られるにつれて、該ワイヤ電極WEと被加工物WPとの間に発生する放電により、加工進行方向に沿った加工基準面が形成される。ここで本方法においては、
図8のように加工進行方向の右側に加工基準面が有る場合、ワイヤ電極WEの軸周りの回転方向(矢印Y4で示す方向)は反時計回りに設定される。一方、
図9のように加工進行方向の左側に加工基準面が有る場合、ワイヤ電極WEの軸周りの回転方向は時計回りに設定される。
【0064】
ここで、
図8に示すように、ワイヤ電極WEの加工進行方向右側に被加工物WPの加工基準面があるとき、例えば、ワイヤ電極WEの回転方向をワイヤ電極WEの走行方向からみて時計回りに設定すると、左側側面および前方の加工を行って消耗した部分で加工基準面の加工を行うことになってしまう。従って、加工基準面の加工精度が低下する。逆に、ワイヤ電極WEの回転方向をワイヤ電極WEの走行方向からみて反時計回りに設定すると、未消耗のワイヤ電極WEで被加工物WPの加工基準面を加工した後、消耗した部分で前方を加工することができる。
【0065】
また、
図9に示すように、ワイヤ電極WEの加工進行方向左側に被加工物WPの加工面があるとき、例えば、ワイヤ電極WEの回転方向をワイヤ電極WEの走行方向からみて反時計回りに設定すると、右側側面および前方の加工を行って消耗した部分で加工基準面の加工を行うことになってしまう。従って、加工基準面の加工精度が低下する。逆に、ワイヤ電極WEの回転方向をワイヤ電極WEの走行方向からみて時計回りに設定すると、未消耗のワイヤ電極WEで被加工物WPの加工基準面を加工した後、消耗した部分で前方を加工することができる。
【0066】
(本発明の第2の実施形態)
図10は、本発明の第2実施形態によるワイヤ放電加工装置300を示す概略側面図である。第2の実施形態のワイヤ放電加工装置300は、回転体331の回転軸方向Zの位置を自動で変更できる回転体ユニット301を設けたものであり、その他の構成は第1の実施形態のワイヤ放電加工装置100と同様であるため同符号を付して詳細な説明は省略する。
【0067】
本発明のワイヤ放電加工装置300は、自動結線装置1と、ワイヤ供給機構2と、ワイヤ回収機構3と、ワイヤガイド機構4と、電流供給装置5と、圧縮空気供給装置6と、加工液供給装置7と、制御装置380とを含んで構成されている。
ワイヤ回収機構3は、巻取装置30と、搬送パイプ32と、アスピレータ33と、バケット34と、ワイヤ裁断機35とを有するとともに、方向転換用の回転体331を内部に備えた回転体ユニット301を備える。回転体331は、制御装置380からの指令により3つのポジションに移動する。
【0068】
図11は、上記実施形態の制御装置380を示すブロック図であり、
図14は、上記実施形態の回転体331が左側に位置する場合の下側ワイヤガイド4L,ワイヤ電極WEおよび回転体の位置関係を示す模式図である。
図16は、上記実施形態の回転体331が軸方向中央位置にある場合の下側ワイヤガイド4L,ワイヤ電極WEおよび回転体の位置関係を示す模式図であり、
図18は、上記実施形態の回転体331が右側に位置する場合の下側ワイヤガイド4L,ワイヤ電極WEおよび回転体の位置関係を示す模式図である。
制御装置380は、表示装置381と入力装置382を含む操作パネルを備えており、加工プログラム取得部383と加工制御部384と記憶部385と回転体位置演算部386を備える。
【0069】
加工プログラム取得部383は、加工形状軌跡データと加工条件データから構成される加工プログラムを取得する機能を有する。ここで、加工形状軌跡データは加工形状にともなう機械の稼働軌跡を規定するデータであり、加工条件データはピーク電流値、平均加工電圧、加工送り速度、回転体331の位置等、装置の加工条件を構成するデータである。
加工プログラム取得部383は、作業者が入力するNCプログラムを解読して加工プログラムを取得する。作業者が加工面粗さと加工形状精度等の情報を入力装置382から入力することで、予め記憶部385に記憶されているデータベースの中から加工条件を検索して取得することも可能である。
【0070】
回転体位置演算部386は、加工プログラムの情報に基づいて回転体331を上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して回転軸の負の方向Z(‐)である左側の位置(
図14)、上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線上である中央位置(
図16)、上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して回転軸の正の方向Z(+)である右側の位置(
図18)のうちどの位置に配置するかを決定し、加工条件データとして加工プログラムに設定するものである。
【0071】
ワイヤ電極WEの加工進行方向右側に被加工物WPの加工基準面Y1があるときは、ワイヤ電極WEの回転方向をワイヤ電極WEの走行方向からみて反時計回りに設定すると、常に未消耗のワイヤ電極WEで被加工物WPの加工基準面Y1を加工することができる(
図8)。逆にワイヤ電極WEの加工進行方向左側に被加工物WPの加工基準面Y1があるときは、ワイヤ電極WEの回転方向をワイヤ電極WEの走行方向からみて時計回りに設定すると、常に未消耗のワイヤ電極WEで被加工物WPの加工基準面Y1を加工することができる(
図9)。
よって回転体位置演算部386は、ワイヤ電極WEの加工進行方向Y2と加工基準面Y1との位置関係を加工プログラムから演算し、回転体331の位置を左側の位置、中央位置、右側の位置から選択して加工条件データとして設定する。
ここで、
図14に示すように回転体331が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して回転軸の負の方向Z(‐)にずれた位置(左側の位置)に配されている場合は、ワイヤ電極WEは走行方向からみて時計回りに回転する。一方、
図18に示すように回転体331が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して回転軸の正の方向Z(+)にずれた位置(右側の位置)に配されている場合、ワイヤ電極WEは走行方向からみて反時計回りに回転する。また
図16に示すように回転体331が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線上にある位置(中央位置)に配されている場合は、ワイヤ電極WEは回転しない。
【0072】
ワイヤ電極WEの加工進行方向Y2と加工基準面Y1との位置関係は、加工条件データであるオフセット方向からも導き出すことができる。具体的にはオフセット方向Y3が紙面上左方向である場合は(
図8)、回転体331を右側の位置に設定する。オフセット方向Y3が紙面上右方向である場合は(
図9)、回転体331を左側の位置に設定する。
【0073】
またワイヤ放電加工装置の加工工程においては、最初は加工速度を重視して仕上げ代を残した荒加工を行い、次に加工エネルギを小さくしながら仕上げ加工を繰り返して形状精度を整えるように、複数回同一の加工プログラムを行う。仕上げ加工は、荒加工の経路と同一方向に加工する場合と、反対方向と同一方向の交互に加工する場合がある。このようにワイヤ電極WEの加工進行方向Y2が荒加工と仕上げ加工で反対方向になる場合には同様に回転体331の位置も変更するように設定を行う。
【0074】
あらかじめ回転体331の位置が加工条件データに設定されている場合は、回転体位置演算部386にて回転体331の位置を演算しないことも可能である。例えばあらかじめ加工条件データに回転停止が設定されている場合は、回転体位置演算部386にて回転体331の位置を中央位置(
図18)と設定することで、ワイヤ電極に回転を付与しないことも可能である。
【0075】
加工制御部384は、ワイヤ放電加工装置300の動作を制御する機能であり、加工プログラムの加工条件データおよび加工形状軌跡データに基づいてワイヤ放電加工装置300の各装置を駆動し、被加工物WPを加工するものである。加工制御部384は放電加工時に、加工プログラムに設定された回転体331の位置に従って、回転体331を移動し、ワイヤ電極WEに時計回りまたは反時計回りの回転を与える。
【0076】
図12は、上記実施形態の回転体ユニット301を示す断面模式図である。
回転体ユニット301は、回転体331を左側の位置、中央位置および右側の位置の3つの位置に移動可能な装置であり、一例として3ポジションシリンダが用いられる。
回転体ユニット301は、シリンダ本体350内にメインピストン310と、中間ピストン320と、回転体331と、ロッド340と、第1ポート361と、第2ポート362と、電磁弁370を備える。ここで大気開放口である呼吸ポートは図示を省略する。
回転体ユニット301は、中央位置にある回転体331が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線上に位置するように配置される。
【0077】
メインピストン310は、第1ポート361および第2ポート362からシリンダ本体350内に空気が供給および排出されることにより左側の位置、中央位置、右側の位置の3つの位置に動くピストンである。
【0078】
中間ピストン320は、メインピストン310と回転体331の間に設けられて、中央位置の位置決めを行うためのピストンである。
【0079】
回転体331は、ワイヤ電極WEを方向転換するためのローラまたはプーリ等の部材であって、ワイヤ電極WEが巻きかけられる巻きかけ部331aと、その左右両側に配された大径部331bとを有し、回転軸331cを中心として回転するものである。巻きかけ部331aの形状は第1の実施形態の回転体31の巻きかけ部31aの形状と同様であるため詳細な説明を割愛する。
【0080】
ロッド340は、メインピストン310と回転体331を連結するための部材であって、一端はメインピストン310の中央部に取り付けられ、他端は回転体331の回転軸の中央位置に取り付けられている。
【0081】
第1ポート361および第2ポート362は、シリンダ本体350内に圧縮空気を供給し、大気に排出するための配管接続口である。第1ポート361および第2ポート362に供給する空気圧を調整することでメインピストン310を3つのポジションに切り替えることができる。
【0082】
電磁弁370は、シリンダ本体350内に供給または排出する空気圧の流れ方向を制御するバルブであり、本実施形態においては5ポートソレノイドバルブを使用している。電磁弁370は、第1ポート361および第2ポート362に接続されている。
【0083】
図13は、上記実施形態の回転体331が左側に位置する場合の回転体ユニット301を示す断面模式図であり、
図15は、上記実施形態の回転体331が軸方向中央位置にある場合の回転体ユニット301を示す断面模式図である。
図17は、上記実施形態の回転体331が右側に位置する場合の回転体ユニット301を示す断面模式図である。
回転体ユニット301では、
図13に示されるように第2ポート362のみを加圧し、第1ポート361からは圧縮空気を排出することで、圧縮空気によりメインピストン310が回転体331の回転軸の負の方向Z(‐)に押されて、メインピストン310と連結されたロッド340および回転体331も同様に移動し左側の位置で停止する。逆に
図17に示されるように第1ポート361のみを加圧し、第2ポート362からは圧縮空気を排出することで、メインピストン310は回転体331の回転軸の正の方向Z(+)に押されて、回転体331も同様に移動し右側の位置で停止する。さらに
図15に示されるように第1ポート361および第2ポート362を同時に加圧することで、メインピストン310は中央位置で停止し、回転体331も同様に中央位置で停止する。
【0084】
(本発明の第3の実施形態)
次に
図19および
図20を参照して、本発明の第3実施形態によるワイヤ放電加工装置について説明する。本実施形態のワイヤ放電加工装置400は、第1実施形態のワイヤ放電加工装置100と対比すると、
図3および
図4に示した鼓状の回転体31に代えて円柱状の回転体51が用いられている点、並びに、ワイヤガイド61および62が追加設置されている点で異なるものであり、その他の構成は
図1および
図2示したものと同様とされている。回転体51は、ワイヤ電極WEが巻きかけられる巻きかけ部51aと、その左右両側に配されたフランジ部(ツバ)51bとを有し、回転軸51cを中心として回転するものである。巻きかけ部51aは、フランジ部51bとフランジ部51bとの間の全長に亘って外径が一定の円柱形状とされている。この巻きかけ部51aに巻きかかったワイヤ電極WEは、フランジ部51bによって、巻きかけ部51aから脱落することが防止される。
【0085】
上記回転体51は、
図20に明示されているように、その回転軸51cが水平方向に対して傾斜した状態、具体的には回転体51の回転軸51cの垂線が上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して傾斜した状態に配されている。また、回転体51に巻きかかる前、後のワイヤ電極WEは、それぞれワイヤガイド61および62によって位置規定されている。そのためワイヤ電極WEは、水平方向から見て、回転体51の軸方向(回転軸51cが延びる方向)に直交する方向に対して傾斜した状態で、巻きかけ部51aに巻きかかるようになる。なおこの傾斜の角度θは、好ましくは0.1〜1.0°(度)の範囲内の角度とされる。
【0086】
このような状態で回転体51に巻きかかっているワイヤ電極WEは、回転する回転体51に沿って進行する際に、自身を軸周りに回転させる向きの力を受けるので、この向きに連続的に回転する。この回転は、回転体51よりもワイヤ電極送り方向上流側で、被加工物WPと加工間隙を置いて向い合っている部分のワイヤ電極WEにも伝わることになる。こうして本実施形態のワイヤ放電加工装置400でも、被加工物WPと向い合っているワイヤ電極WEに軸周りの回転が与えられて、ワイヤ電極WEの消耗していない部分を用いてワイヤ放電加工することが可能になる。
【0087】
(本発明の第4の実施形態)
次に
図21および
図22を参照して、本発明の第4実施形態によるワイヤ放電加工装置について説明する。本実施形態のワイヤ放電加工装置500は、第1実施形態のワイヤ放電加工装置100と対比すると、
図3,
図4,
図5に示した回転体31に代えて、1対の傾斜した第1および第2の回転体71,72が用いられている点で基本的に異なるものであり、その他の構成は
図1および
図2示したものと同様とされている。第1および第2の回転体71,72は共に、外周面が円柱状とされたローラであり、それぞれ回転体の中心軸(
図21および
図22では図示を省略)を中心として回転する。また第1および第2の回転体71,72は、第1の回転体71の中心軸方向に直交する方向(
図22に破線の矢印で示す方向)と、第2の回転体72の中心軸方向に直交する方向(
図22に実線の矢印で示す方向)が共にワイヤ電極WEに対して傾斜した状態、すなわち第1および第2の回転体71,72の回転軸の垂線が、上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lを結ぶ直線に対して0.1〜1.0°(度)の範囲内でそれぞれ傾斜した状態で両者の間にワイヤ電極WEを挟むように配置されている。
【0088】
なお第1および第2の回転体71,72は、第1および第2実施形態における回転体31,331や第3実施形態における回転体51とは異なって、ワイヤ電極WEの進行方向を転換するものではなく、例えばワイヤ電極WEが上から下方に向かって進行する経路に設けられて、そのままワイヤ電極WEを下方に進行させる。また第1および第2の回転体71,72は、それぞれ駆動手段によって回転駆動されて、挟持しているワイヤ電極WEを走行させるものであってもよいし、あるいは、他の駆動手段により駆動されて走行するワイヤ電極WEに従動するものであってもよい。
【0089】
第1および第2の回転体71,72が上記の状態に配置されていることにより、回転体71,72のワイヤ電極WEに接する部分は、ワイヤ電極WEの進行に伴って、それぞれ
図22に破線の矢印、実線の矢印で示す方向に移動する。そこでワイヤ電極WEは、第1の回転体71と第2の回転体72の間を進行する際に、自身を軸周りに回転させる向きの力を受けるので、その向きに連続的に回転する。この回転は、第1および第2の回転体71,72よりもワイヤ電極送り方向上流側で、被加工物WPと加工間隙を置いて向い合っている部分のワイヤ電極WEにも伝わることになる。こうして本実施形態のワイヤ放電加工装置でも、被加工物WPと向い合っているワイヤ電極WEに軸周りの回転が与えられて、被加工物WPの上面から下面にかけてワイヤ電極WEの消耗していない部分を用いてワイヤ放電加工することが可能になる。
【0090】
なお、以上説明した第1,第2,第3,第4の実施形態においては、ワイヤ電極WEに軸周りの回転を与える手段が、ワイヤ放電加工部に対して、ワイヤ電極WEの送り方向下流側に配置されているが、それとは反対に、ワイヤ電極WEに軸周りの回転を与える手段を、ワイヤ放電加工部に対して、ワイヤ電極WEの送り方向上流側に配置してもよい。
【解決手段】 ワイヤ電極WEを間に張架する上側ワイヤガイド4Uおよび下側ワイヤガイド4Lと、回転体31,51,71,72,331を備えた被加工物WPを加工するワイヤ放電加工装置であり、回転体31,51,71,72,331の位置を変更することによりワイヤ電極WEに軸周りの回転を付与することを特徴とする。