特許第6754186号(P6754186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754186
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20200831BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20200831BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   B60C11/12 A
   B60C11/03 300A
   B60C11/03 300E
   B60C11/13 C
   B60C11/12 B
   B60C11/12 C
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-242879(P2015-242879)
(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-109506(P2017-109506A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 健介
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−194987(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114740(WO,A1)
【文献】 特開2015−098325(JP,A)
【文献】 特開2008−207734(JP,A)
【文献】 特開2015−048048(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0207359(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/087572(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0297250(US,A1)
【文献】 特開2007−331412(JP,A)
【文献】 特開2001−199206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド陸部に、周方向に交差する延在方向に延び且つ少なくとも一端が閉塞された閉塞溝が形成されており、
前記閉塞溝の周方向両側壁のうち少なくとも一方の側壁の縁部に、サイプが連続的又は断続的に前記延在方向に延びており、
前記サイプの深さは、前記閉塞溝の深さの60%以上の深さを有し、
前記サイプの各部位は、前記側壁から前記各部位までの距離が、前記各部位におけるサイプ深さよりも短い範囲内に配置されている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記サイプの前記延在方向の合計長さは、前記側壁の前記延在方向の長さの70%以上である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記サイプと前記側壁との間の距離は、1.5mm以上且つ6.0mm以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記サイプは、前記閉塞溝の周方向両側壁の両方に沿って配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイプは、前記閉塞溝の閉塞端に沿って配置され、前記閉塞溝をコの字状に包囲している、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記閉塞溝は、一端が閉塞され、他端が、タイヤ周方向に延びる主溝に連通している、請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記閉塞溝は、両端が前記トレッド陸部内において閉塞されている、請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも一端が閉塞された閉塞溝をトレッド陸部に有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、例えば特許文献1に示すように、タイヤ周方向に延びる主溝及び周方向に交差する横溝で区画されるトレッド陸部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−331412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5に示すように、トレッド陸部50には、周方向PDに交差する延在方向DD1に延び且つ一端が閉塞された閉塞溝6が形成されている場合がある。ゴムは非圧縮性であるため、接地によりトレッド陸部50に荷重が作用すると、図5の下部に示すように、閉塞溝6の壁面の腹が押し出される。このような壁面の変形は、溝断面を閉塞させる動作であるため、溝内の空気が圧縮され、ノイズを引き起こす原因となる。例えば、閉塞溝が、一端が閉塞され他端が主溝に接続されるスリットである場合には、主溝に圧縮空気が押し出され、気柱共鳴音が招来されてしまう。また、例えば、閉塞溝が、両端が閉塞されるディンプルである場合には、トレッド陸部が路面から離れる際に、圧縮空気が一気に開放され、ノイズが招来されてしまう。
【0005】
本開示は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、閉塞溝の変形に起因するノイズを低減する空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0007】
本開示の空気入りタイヤは、
トレッド陸部に、周方向に交差する延在方向に延び且つ少なくとも一端が閉塞された閉塞溝が形成されており、
前記閉塞溝の周方向両側壁のうち少なくとも一方の側壁の縁部に、サイプが連続的又は断続的に前記延在方向に延びており、
前記サイプの深さは、前記閉塞溝の深さの60%以上の深さを有し、
前記サイプは、前記側壁からサイプ深さよりも短い範囲内に配置されている。
【0008】
このように、閉塞溝の側壁の縁部に、閉塞溝の深さの60%以上の深さを有するサイプが連続的又は断続的に閉塞溝の延在方向に延びており、側壁からサイプ深さよりも短い範囲内にサイプが配置されているので、陸部を変形させる力が作用した場合に、まずサイプが潰れ、閉塞溝の側壁に力が伝わりにくく又は伝わらず、閉塞溝の側壁の瞬間的な変形が抑制されるので、閉塞溝又は閉塞溝に連通する溝の空気圧縮が低減する。その結果、空気圧縮に起因するノイズを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す踏面図。
図2A】トレッドパターンの部分拡大図。
図2B図2AのA1−A1部位断面図。
図3A】変形例を示す図。
図3B】変形例を示す図。
図4A】変形例を示す図。
図4B】変形例を示す図。
図4C】変形例を示す図。
図5】従来のトレッドパターン及びその動作説明に関する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、空気入りタイヤのトレッドは、複数の主溝51および複数の横溝52を有し、主溝51と横溝52でトレッド陸部50が区画されている。トレッド陸部50には、周方向PDに交差する延在方向DD1に延びるスリットとも呼ばれる閉塞溝6が形成されている。なお、図1は説明用の図であり、抽象化しているので、寸法は正しくない。図1の例では、タイヤ幅方向WDと閉塞溝6の延在方向DD1が一致している。
【0012】
図2Aに示すように、閉塞溝6は、一端が閉塞され他端が主溝51に連通している。閉塞溝6の周方向両側壁60の縁部に、サイプ7が連続的に延在方向DD1に延びている。本明細書において、サイプとは、幅が0.3mm以上且つ2.0mm以下の溝を意味する。本実施形態では、図2Aに示すようにサイプ7は、平面視で直線状であるが、図3Aに示すように、波状又はジグザグ状に延びていてもよい。また、図2Aに示すようにサイプ7は連続的に延びた状態であるが、図3Bに示すように、サイプ7は、破線のように断続的に延びていてもよい。
【0013】
図2Bに示すように、サイプ7は、踏面Tに対して垂直にタイヤ径方向RDに沿って延びている。サイプ7の深さdは、閉塞溝6の深さDの60%以上の深さを有する。荷重がかかると閉塞溝6の中央から路面寄りの変形が大きいため、60%未満よりもサイプ7が浅くなると、閉塞溝6の側壁60の変形を抑える効果が発揮できないからである。なお、サイプ7の深さdは、閉塞溝6の深さDの100%以下であることが好ましい。
【0014】
サイプ7は、側壁60からサイプ深さdよりも短い範囲内に配置されている。すなわち、サイプ7と側壁60との間の距離Wは、1.5mm以上であり且つサイプ深さdよりも短い。絶対的な数値として表現すれば、サイプ7と側壁60との間の距離Wは、1.5mm以上且つ6.0mm以下が好ましい。サイプ7と側壁60との間の距離Wが大きければ、サイプ7と閉塞溝6の間の陸部自体の変形が無視できないからである。サイプ7と側壁60との間の距離Wが1.5mmよりも小さすぎると、サイプ7と閉塞溝6の間の陸部が摩耗せずに残ってしまうからである。
【0015】
本実施形態では、サイプ7は、側壁60の全体に沿って延びており、陸部の端(主溝51)に開放されている。勿論、サイプ7を陸部内部にて終端するようにしてもよい。また、サイプ7は、閉塞溝6の閉塞端61に沿って配置され、閉塞溝6をコの字状(U字状)に包囲している。勿論、サイプ7は、側壁60の全体に沿って延びていなくてもよい。サイプ7の延在方向DD1の合計長さL2が、側壁60の延在方向DD1の長さL1の70%以上であればよい。サイプ7の延在方向DD1の合計長さL2は、サイプ7が破線のように断続的な場合はサイプ7のみの合計長さであり、サイプ7が波状又はジグザグ状である場合には、延在方向DD1への投影長さである。本実施形態では、閉塞溝6の延在方向DD1の長さが閉塞溝6の幅よりも長いので、側壁60の縁部に配置されるサイプ7がノイズ低減効果に支配的であると考えられる。
【0016】
なお、本実施形態では、閉塞端61に沿ってサイプ7を配置しているが、図3A図3B図4A、及び図4Bに示すように、閉塞端61に沿ってサイプ7を配置しなくてもよい。本実施形態では、双方の側壁60に沿ってサイプ7を配置しているが、図4B及び図4Cに示すように、一方の側壁60のみに沿ってサイプ7を配置するようにしてもよい。これらは、図2Aの例に比べてノイズ低減効果が減少するが、少なくともサイプ7を形成して場合よりもノイズ低減効果を有する。
【0017】
上記構成は、トレッド陸部50内において両端が閉塞されている閉塞溝にも適用可能である。
【実施例】
【0018】
本開示の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記評価を行った。
【0019】
(1)ノイズ評価
テストタイヤ(タイヤサイズLT265/65R17)を、空気圧193kPa、荷重8238N、使用リム17*8−JJ、速度70km/h,80km/h,90km/hとして、単体台上試験(JASO C606−81)を行った。タイヤ中心より左側の距離1mの地点に高さ0.25mに設置したマイクロフォンを用いて音圧レベルを測定し、3速度の平均音圧レベルを求めた。
【0020】
実施例1
図1図2Aに示すように、幅6mm、深さDが11mmの閉塞溝6を有する陸部50に、幅0.8mmで深さdが8mmのコの字状のサイプ7を形成した。サイプ7と側壁60の間の距離Wは2mmである。閉塞溝6の側壁60の長さ×2+閉塞溝6の幅に対するサイプ7のコの字状長さは118%である。
【0021】
実施例2
図4Cに示すように、サイプ7を、一方の側壁60及び閉塞端61の半分程度を囲むL字状に配置した。閉塞溝6の側壁60の長さ×2+閉塞溝6の幅に対するサイプ7のコの字状長さは58%である。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0022】
比較例1
図5に示すように、サイプ7を形成していない。それ以外は実施例1と同じとした。
【0023】
【表1】
【0025】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、
トレッド陸部50に、周方向PDに交差する延在方向DD1に延び且つ少なくとも一端が閉塞された閉塞溝6が形成されており、
閉塞溝6の周方向両側壁60のうち少なくとも一方の側壁60の縁部に、サイプ7が連続的又は断続的に延在方向DD1に延びており、
サイプ7の深さdは、閉塞溝6の深さDの60%以上の深さを有し、
サイプ7は、側壁60からサイプ深さdよりも短い範囲内に配置されている。
【0026】
このように、閉塞溝6の側壁60の縁部に、閉塞溝6の深さDの60%以上の深さdを有するサイプ7が連続的又は断続的に閉塞溝6の延在方向DD1に延びており、側壁60からサイプ深さdよりも短い範囲内にサイプ7が配置されているので、陸部50を変形させる力が作用した場合に、まずサイプ7が潰れ、閉塞溝6の側壁60に力が伝わりにくく又は伝わらず、閉塞溝6の側壁60の瞬間的な変形が抑制されるので、閉塞溝6又は閉塞溝6に連通する主溝51の空気圧縮が低減する。その結果、空気圧縮に起因するノイズを低減することが可能となる。
【0027】
本実施形態では、サイプ7の延在方向DD1の合計長さL2は、側壁60の延在方向DD1の長さL1の70%以上である。この構成によれば、サイプ7にカバーされる側壁60が70%以上になるので、閉塞溝6の側壁60の瞬間的な変形を抑制又は防止でき、ノイズ低減効果を有効に発揮させることが可能となる。
【0028】
本実施形態では、サイプ7と側壁60との間の距離は、1.5mm以上且つ6.0mm以下である。サイプ7と側壁60との間の陸部による不具合を抑制できる。不具合としては、サイプ7と側壁60との間の陸部の変形による閉塞溝6の壁面変形と、サイプ7と側壁60との間の陸部が摩耗しないことが挙げられる。
【0029】
本実施形態では、サイプ7は、閉塞溝6の周方向両側壁60の両方に沿って配置されている。この構成によれば、サイプ7によってカバーされる側壁60が増大するので、片側だけがカバーされる場合に比べてノイズ低減効果を向上させることが可能となる。
【0030】
本実施形態では、サイプ7は、閉塞溝6の閉塞端61に沿って配置され、閉塞溝6をコの字状に包囲している。この構成によれば、閉塞端61の変形も抑制又は防止できるので、ノイズ低減効果を向上させることが可能となる。
【0031】
本実施形態では、閉塞溝6は、一端が閉塞され、他端が、タイヤ周方向PDに延びる主溝51に連通している。この構成によれば、主溝51に圧縮空気が押し出されることにより招来される気柱共鳴音を効果的に低減させることが可能となる。
【0032】
本実施形態では、閉塞溝6は、両端がトレッド陸部50内において閉塞されている。この構成によれば、トレッド陸部が路面から離れる際に圧縮空気が一気に開放されることにより招来されるノイズを効果的に低減させることが可能となる。
【0033】
本実施形態では、閉塞溝6の延在方向DD1の長さが閉塞溝6の幅よりも長いが、両者が同じ長さでもよい。
【0034】
なお、上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。
【符号の説明】
【0035】
50…トレッド陸部
6…閉塞溝
60…側壁
61…閉塞端
7…サイプ
PD…周方向
DD1…延在方向
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5