特許第6754193号(P6754193)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6754193シリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754193
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】シリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20200831BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20200831BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20200831BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20200831BHJP
   A61K 8/895 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K5/10
   A61K8/04
   A61K8/895
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-29721(P2016-29721)
(22)【出願日】2016年2月19日
(65)【公開番号】特開2017-145364(P2017-145364A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 憲二
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−218604(JP,A)
【文献】 特開2002−167313(JP,A)
【文献】 特開2015−110538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C08G 77/00− 77/62
A61K 8/00− 8/99
C07C 1/00−409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(3)で表されるN−アシルアミノ酸縮合物0.01〜0.09質量部を含有する有機系の界面活性剤0.1質量部未満、
【化1】
[式中、Rは炭素数1〜23の炭化水素基、Rは水素または炭素数1〜3の炭化水素基、Yはカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基またはそれらの塩であり、Zは−NR’−(R’は水素または炭素数1〜10の炭化水素基)、−O−、または−S−であり、XはN−アシルアミノ酸誘導体のカルボキシル基との縮合反応に寄与する官能基であるアミノ基あるいはアミノ基と共にヒドロキシル基またはチオール基を2個有するアミノ酸類であり、j、kは0、1、2のいずれかであり、かつj、kは同時に0ではなく、nは2である。]
と、
(B)下記(I)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと下記(II)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(I)19.95〜79.95質量部に対してオルガノハイドロジェンポリシロキサン(II)を0.05〜59.05質量部含むオルガノポリシロキサン20〜80質量部、
(I)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
SiO(4−a−b)/2 (1)
[式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、Rはアルケニル基、aは0.999〜2.999、bは0.001〜2、a+bは1〜3である。]
(II)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
SiO(4−c−d)/2 (2)
[式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、cは0.999〜2.999、dは0.001〜2、c+dは1〜3]
とを用いて水中油型エマルジョンを作製し、この水中油型エマルジョンに
(C)白金族系金属含有付加触媒を、前記成分(I)および(II)の合計量に対し、1〜5000ppmを添加して100質量部とすることを特徴とするシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造されたことを特徴とするシリコーンゴム粒子分散エマルジョン。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンから水分を除去して得られることを特徴とするシリコーンゴム粒子。
【請求項4】
請求項2に記載のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを配合したことを特徴とする化粧料。
【請求項5】
請求項3に記載のシリコーンゴム粒子を配合したことを特徴とする化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来使用してきた有機系界面活性剤成分のによる環境問題を起さず、エマルジョン中での分散安定性を低下させず、シリコーン本来の特性に悪影響を与えないシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム粒子は、高い粘弾性や、光散乱、透過性、また広い表面積に基づく吸油特性のため、化粧料、合成樹脂材料、合成ゴム材料などの工業分野において広く用いられている。環境対応や、安全性の改善を目的とした材料であるシリコーンゴム粒子をエマルジョン、すなわち水中に分散させて製造することは、一般工業用途における近年の大きな潮流であるが、シリコーンが有する疎水的性質のため、分散性が低いという問題があった。
【0003】
そのため、有機系の非イオン性界面活性剤を用いたシリコーンゴム粒子のエマルジョンが特許文献1のごとく提案されているが、シリコーンゴム粒子の濃度が低く、また安定性も不十分であった。
【0004】
そのため、特許文献2では、有機系の非イオン性界面活性剤0.1質量%以上、および有機系のイオン性界面活性剤0.01質量%以上を併用することで安定化されたシリコーンゴム粒子のエマルジョンが提案されているが、組成中の有機系界面活性剤量が最低でも0.11質量%以上用いることが必須であり、実際には組成物の分散安定性を考慮すると界面活性剤量が1.0%程度を要する場合がほとんどであった。
【0005】
ところが、有機系界面活性剤成分は、最近の水棲生物への影響等の種々調査によれば、極めて低濃度で水棲生物へ悪影響を与えることが報告されていることから、環境への放出を極力抑えることが望まれる。
また、化粧品用途のシリコーンゴム粒子の作製の際によく用いられる、ポリオキシエチレンアルキルエーテルによる皮膚の刺激性は、財団法人化学物質評価研究機構、「CERI有害性評価書、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が12−15までのもの及びその混合物に限る)」中「7.3.2刺激性及び腐食性」において、0.1質量部以上の範囲において、皮膚、及び眼に対する刺激性がある旨述べられている。
【0006】
さらに、通常の有機系界面活性剤成分は、エマルジョン100質量部中0.5質量部程度の添加量であっても乾燥工程において濃縮されることにより、高粘度を有する液晶相を発現するため、シリコーンゴム粒子が本来有する低摩擦性を阻害する。
例えば、化粧料などに配合されたとき、液晶相発現ると、粘度が高まり、好ましくないタック感や、摩擦感をもたらす原因となる。その結果、シリコーン粒子に期待される疎水的性質や、低表面張力に由来する良好な感触を低下させることが問題であった。
【0007】
さらには、有機系界面活性剤による液晶層がシリコーン粒子表面に形成されるということは、粒子に吸着していない遊離の有機系界面活性剤が水相へ溶出することを意味する。よって、エマルジョン100質量部中0.5質量部程度程度またはそれ以上の有機系界面活性剤の使用量は環境にとって好ましくない。
【0008】
また、当該分野にて最も一般的に使用される界面活性剤成分としては、例えば、炭素12 〜 1 5 のアルキル基を有するアルキルポリエーテルがあるが、これらの界面活性剤は環境への影響が懸念される化学物質として、P R T R (Pollutant Release and Transfer Register)の排出量等の義務付けおよび指定化学物質となっており、その選択にあたっては、制限が生じるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−309565号公報
【特許文献2】特開平11−140191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、有機系界面活性剤の使用量をエマルジョン100質量部中、0.1質量%未満に抑えることが環境面、健康面に悪影響を与えず、シリコーンゴム粒子本来の特性を発揮するために有効と考えらるが、従来技術のいかなるものも、エマルジョン中での分散安定性を低下させずに、このような目的を達する具体的な方法を開示していなかった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、即ち、従来使用してきた有機系界面活性剤成分のによる環境問題を起さず、エマルジョン中での分散安定性を低下させず、シリコーンゴム粒子本来の特性を発揮するシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、およびオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、環境問題を起さずかつシリコーンゴム粒子特有の感触が阻害されない量であるエマルジョン100質量部中0.1質量部未満の有機系界面活性剤により水中に分散させ、そののち白金触媒にてヒドロシリル化反応による付加硬化反応せしめる方法で、貯蔵安定性が良好なシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを得た。また、シリコーンゴム粒子はシリコーンゴム本来の特性を有することを見出した。
【0013】
本発明はこれらの知見によりなされたものである。
すなわち、本発明のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法は、
(A)有機系の界面活性剤0.1質量部未満と、
(B) 下記(I)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと下記(II)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(I)19.95〜79.95質量部に対してオルガノハイドロジェンポリシロキサン(II)を0.05〜59.05質量部含むオルガノポリシロキサン20〜80質量部、
(I) 平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニ
ル基を2個以上含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
aRSiO(4−a−b)/2 (1)
[式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、Rはア
ルケニル基、aは0.999〜2.999、bは0.001〜2、a+bは1〜3である。]
(II) 平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子
を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
SiO(4−c−d)/2 (2)
[式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、cは0.999〜2.999、dは0.001〜2、c+dは1〜3]
とを用いて水中油型エマルジョンを作製し、この水中油型エマルジョンに
(C) 白金族系金属含有付加触媒を、前記成分(I)および(II)の合計量に対し、1〜5000ppmを添加することを特徴とすることによりなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化粧料用シリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法は、一般に用いられる有機系の非イオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤の乳化剤の使用量を0.1質量%未満とすることができるため、環境面、健康面に悪影響を与えることがなく、エマルジョンとしての分散性を低下させることがなく、シリコーンゴム粒子本来の有する特性、例えば摩擦力低減やタック感触低減、を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係るシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法の詳細を説明する。
本発明のシリコーンゴム粒子分散体エマルジョンの製造方法は、従来の有機系界面活性剤には有していなかった乳化作用を有する化合物もしくは物質を選択し、使用することによってなされる。その種類は限定されない。例えば、イオン性を有する化合物、あるいは有機系界面活性剤と類似の乳化作用を示す無機物質等である。
成分(A)である上記界面活性剤により、成分(B)の(I)および(II)を水中に分散させて得られる水中油型エマルジョンに、成分(C)の白金族系金属含有付加触媒を添加して成分(I)および(II)を反応硬化させてシリコーンゴム粒子が得られる。
本発明の製造方法により得られるシリコーンゴム粒子のゴム弾性は、Shore Aで5〜95の範囲である。
【0016】
(成分(A))
成分(A)は、成分(B)の(I)および(II)を乳化せしめる有機系の界面活性剤である。従来の有機系界面活性剤には有していなかった0.1質量%未満の使用量領域で乳化作用を有する化合物もしくは物質である。その種類は限定されない。例えば、イオン性を有する化合物等である。またそれらのうちの2種類以上のものの併用でも構わない。成分(A)としての使用量は合計で0.1質量%未満であればよい。
【0017】
成分(A)として好ましいのはN−アシルアミノ酸縮合物である。
N−アシルアミノ酸縮合物は、下記一般式(3)で示される酸性アミノ酸のN−アシル化
物を縮合したものである。
【化1】
【0018】
一般式(3)において、Rは炭素数1〜23の炭化水素基であり、RCOは炭素原
子数2〜20の飽和または不飽和の脂肪酸から誘導される長鎖アシル基を示す。Rは、
好ましくは、炭素数が7から17の炭化水素基である。直鎖、分岐鎖、環状鎖、芳香族炭
化水素鎖のいずれでもよく、置換基を有していてもよい。RCO−は、炭素原子数8〜
20の飽和または不飽和の脂肪酸から誘導されるものを用いることが好ましく、具体的に
は、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸などを挙げることができる。
【0019】
一般式(3)において、Rは水素または、炭素数1〜3の炭化水素基である。カルボ
キシル基かスルホン酸基を有してもよい。炭素数1〜3の炭化水素基の具体例としては、
メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエ
チル基、ヒドロキシ(イソ)プロピル基、ジヒドロキシ(イソ)プロピル基、カルボキシ
メチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基およびスルホエチル基などを挙げる
ことができる。好ましくは、水素である。
【0020】
一般式(3)において、Yはカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基またはそれらの塩である。好ましくは、カルボキシル基またはその塩である。
Yの酸性基と塩を形成する塩基性物質として、アルカリ金属などの金属類、有機塩基性物質が挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムおよびリチウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウムおよびマグネシウムなどが挙げられる。
上記した以外の金属としては、アルミニウム、亜鉛、鉄、コバルト、チタンおよびジルコニウム、銀などが挙げられる。有機の塩基性物質としては、特に限定されないが、有機アミン、塩基性アミノ酸塩が挙げられる。有機アミン塩としては、アンモニア、モノエタ¥ノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンなどの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸塩としては、アルギニンおよびリシンの塩が挙げられる。その他にも、アンモニウム塩や多価金属塩などが挙げられる。また、一般式(3)において、Yは上記した塩から任意に選ばれる1種または2種以上の塩を含んでいてもよい。
【0021】
一般式(3)において、Zは、N−アシルアミノ酸誘導体を縮合する化合物によって異
なる連結基であり、−NR’−(R’は水素または炭素数1〜10の炭化水素基)、−O
−、または−S−である。 一般式(3)において、j、kは0、1、2のいずれかであ
り、かつj、kは同時に0ではない。N−アシルアミノ酸を構成するアミノ酸の具体例を
挙げれば、グルタミン酸、アスパラギン酸であり、グルタミン酸が好ましい。
【0022】
一般式(3)のXは、一般式(3)のカッコ内のN−アシルアミノ酸誘導体を縮合する基であり、N−アシルアミノ酸誘導体のカルボキシル基との縮合反応に寄与する官能基を2個以上有する分子量100万以下の化合物である。縮合に寄与する官能基は、好ましくはヒドロキシル基、アミノ基、チオール基から選ばれる1種または2種以上である。N−アシルアミノ酸誘導体を縮合するのに用いられる化合物の具体例を挙げれば、アルギニン、リシン、チロシン、トリプトファンなどの2個のアミノ基あるいはアミノ基と共にヒドロキシル基またはチオール基を有するアミノ酸類;アミノプロパノール、アミノフェノール、グルコサミンなどの分子内にアミノ基とヒドロキシル基を有する化合物類;メルカプトプロパンジオールなどの分子内にチオール基とヒドロキシル基を有する化合物類;アミノチオフェノールなどのチオール基とアミノ基を有する化合物類;タンパク質やペプチドなど、またはそれらを加水分解したもの;ポリヒドロキシル化合物である。これらの中で好ましいのは、アミノ酸で縮合したものであり、リシンが好ましい。
本発明の成分(A)として好ましく用いられるN−アシルアミノ酸縮合物は、一般式(3)における各部分が上述した構造を有する場合であるが、さらに、n=2であるものが好ましい。その中でも、N−アシルグルタミン酸誘導体のリシン縮合物が好ましい。その具体例を挙げれば、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムであり、ペリセア(登録商標)として旭化成ケミカルズ株式会社から販売されている。
【0023】
成分(A)としては、有機系界面活性剤の総量が0.1質量%以上にならない範囲で従来の有機系界面活性剤を併用しても構わない。
特に皮膚刺激性の懸念が少ない非イオン系界面活性剤が好適であり、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン酸エステルなどが挙げられる。
【0024】
成分(A)としての界面活性剤の量としては、好ましくはエマルジョン中0.07質量部未満である。
0.07質量部以上だと、シリコーン粒子が本来有する滑らかな感触が低下するからである。
【0025】
本発明の成分(A)としては、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化チタン、タルク、酸化亜鉛、沈降性硫酸バリウム、シリカ、カーボンブラックなどの無機フィラーを含有していてもよい。
【0026】
(成分(B))
(成分(I))
成分(I)は、平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンである。成分(I)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを、以下、アルケニルオルガノポリシロキサンともいう。
SiO(4−a−b)/2 (1)
式(1)中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、Rはアルケニル基、aは0.999〜2.999、bは0.001〜2で、a+bは1〜3である。
式(1)中、Rは、炭素原子1〜18個を有することが好ましい。また、Rは、SiC−結合することが好ましい。さらに、Rは、脂肪族炭素−炭素多重結合を有していない置換または非置換の炭化水素基であることが好ましい。
式(1)中、Rは、炭素原子1〜18個を有することが好ましい。また、Rは、脂肪族炭素−炭素多重結合を有する一価の炭化水素基であることが好ましい。
また、一般式(1)で表されるアルケニルオルガノポリシロキサンは、分子1個当たり平均して少なくとも2個以上のRが存在する。
【0027】
成分(I)中のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基等の炭素原子数2〜8のアルケニル基を例示することができ、好ましくはビニル基、アリル基であり、特に好ましくはビニル基である。これらのアルケニル基は、後記成分である成分(II)オルガノハイドロジェンポリシロキサンと反応して網目構造を形成する。アルケニル基は、成分(I)の分子中に、好ましくは2個以上存在する。かかるアルケニル基は、分子鎖の末端のケイ素原子に結合していてもよいし、分子鎖の途中のケイ素原子に結合していてもよい。硬化反応速度の面からは、アルケニル基が分子鎖末端のケイ素原子のみに結合したアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0028】
成分(I)中のケイ素原子に結合した他の有機基は、好ましくは炭素数1〜12の脂肪族不飽和結合を含まない置換もしくは非置換の1価の炭化水素基である。上記他の有機基は、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基等によって置換されたクロロメチル基、2−ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、クロロフェニル基、ジブロモフェニル基、テトラクロロフェニル基、ジフルオロフェニル基、β−シアノエチル基、γ−シアノプロピル基、β−シアノプロピル基等の置換炭化水素基等が挙げられる。特に好ましい有機基はメチル基、フェニル基である。
【0029】
成分(I)は、直鎖状でも分岐状でもよく、また、これらの混合物であってもよいが、分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを含有する場合、架橋密度が高くなるため、低速での剥離力が重くなり、目的の剥離力を達することが難しいため、直鎖状がより好ましい。このアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは当業者に公知の方法によって製造される。
【0030】
成分(I)の、25℃における粘度は、好ましくは5〜2000000mPa・sであり、より好ましくは50〜100000mPa・s、特に好ましくは100〜50000mPa・sの範囲内である。5mPa・s未満の場合、および2000000mPa・sを超える場合、乳化が難しく、安定な水分散液が得られない。さらに、シリコーンゴム粒子を得る上で用いる成分(I)の好ましい含有量は、19.95〜79.95質量部の範囲内である。19.95質量部未満では十分な乳化精度が得られず、かつ収率も低下し、79.95質量部を超えると、水性エマルジョンの粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる。より好ましくは30〜70質量部の範囲内である。
【0031】
成分(I)のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは当業者に公知の方法によって製造されるものであり、硫酸、塩酸、硝酸、活性白土、亜リン酸トリス(2−クロロエチル)等の酸触媒、または水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルホスホニウム、ナトリウムシラノレート、カリウムシラノレートなどの塩基触媒を用いた鎖状および/または環状低分子量シロキサンの縮合および/または開環重合によって製造できる。
【0032】
(成分(II))
成分(II)オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記平均組成式(2)で示される。
SiO(4−c−d)/2 (2)
式(2)中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、cは0.999〜2.999、dは0.001〜2、c+dは1〜3である。式(2)のRとしては、前記のRに例示した炭化水素基が用いられ、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基が用いられる。成分(II)のケイ素原子に結合した水素原子は、好ましくは1分子中に2個以上である。
成分(II)オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子側鎖にケイ素原子と結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを5質量%以上含むことが好ましい。
【0033】
本発明の組成物中における成分(II)の配合量は、成分(I)中のアルケニル基の量に応じて配合されるものであり、成分(I)中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数(NA)と成分(II)中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数(NH)との比(NH/NA)が0.8≦(NH/NA)≦2.0となる量、好ましくは0.9≦(NH/NA)≦1.7となる量に調節される。NH/NAが0.8未満では、組成物の硬化が十分に進行せず、ゴム粒子としてのさらさらとした感触を発現しにくい。また、NH/NAが2.0以上ではゴム粒子中に反応性の高いオルガノハイドロジェンポリシロキサンが残存するため、化粧品原料としての安全性に問題がある。
【0034】
成分(II)オルガノハイドロジェンポリシロキサンも当業者に公知の方法で製造される。
【0035】
成分(II)の粘度は特に規定されないが、25℃で1〜3000mPa・sの範囲内であることが好ましく、1〜1500mPa・sの範囲内であることがより好ましい。1Pa・s未満だと硬化性が高過ぎゴム弾性が十分でなく、3000mPa・sを超えると、反応性が落ちることから、硬化性が悪くなる。
【0036】
(成分(C))
成分(C)は、白金族系触媒である。これはヒドロシリル化触媒として用いることができるものである。白金族系触媒(C)は金属またはこの金属を含む化合物からなる。白金族系触媒(C)を構成する金属としては、例えば、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウム等が挙げられ、好ましくは白金である。またはこれらの金属を含む化合物を用いることができる。これらの中で特に白金系触媒が反応性が高く、好適である。金属は微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定してもよい。白金化合物としては、白金ハロゲン化物(例えば、PtCl4、HPtCl4・6H2O、Na2PtCl4・4H2O、H2PtCl4・6H2Oとシクロヘキサンからなる反応生成物)、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金−アルコラート錯体、白金−エーテル錯体、白金−アルデヒド錯体、白金−ケトン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体(例えば、白金−1,3−ジビニル1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体、ビス−(γ−ピコリン)−白金ジクロライド、トリメチレンジピリジン−白金ジクロライド、ジシクロペンタジエン−白金ジクロライド、シクロオクタジエン−白金ジクロライド、シクロペンタジエン−白金ジクロライド)、ビス(アルキニル)ビス(トリフェニルホスフィン)白金錯体、ビス(アルキニル)(シクロオクタジエン)白金錯体等が挙げられる。また、ヒドロシリル化触媒はマイクロカプセル化した形で用いることもできる。この場合触媒を含有し、かつポリオルガノシロキサン中に不溶の微粒子固体は、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂またはシリコーン樹脂)である。また、白金系触媒は包接化合物の形で、例えば、シクロデキストリン内で用いることも可能である。
【0037】
本発明のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを得るには、成分(C)白金族系触媒を、成分(B)ジオルガノポリシロキサンとしての成分(I)と(II)の合計の重量に対して白金族系金属が1〜5000ppmとなる量、好ましくは5〜1000ppmとなる量、より好ましくは20〜500ppmとなる範囲の量で添加することが好ましい。含有量が1ppm未満では硬化に時間がかかり、生産効率が悪くなるおそれがある。5000ppmを超えると分散体が褐色に着色するなど、外観に問題が生じる。
【0038】
本発明のシリコーンゴム粒子の分散エマルジョンの作製方法は、特に限定されないが公知の方法で作製することができ、エマルジョンの作製に適当な常用の混合機、例えばホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー、高速ステーターローター攪拌装置等を用いて上記成分を混合、乳化することにより作製することができる。
【0039】
シリコーンゴム粒子が含有することができる溶媒としては水が好ましい。水は、特に限定されないが、イオン交換水を用いることが好ましく、好ましくはpH2〜12、より好ましくはpH4〜10の範囲内である。
【0040】
本発明のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンは、本発明の目的を損なわない範囲で、水の他、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール、1,2−プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1、2-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの親水性成分を含有していてもよい。
【0041】
本発明のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンは、本発明の目的を損なわない範囲で、防腐剤として、サリチル酸,安息香酸ナトリウム,デヒドロ酢酸ナトリウム,ソルビン酸カリウム,フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチルを含んでもよい。また、用途に応じて、潤滑成分であるシリコーンオイル等の油剤、その他目的としての流動パラフィン、グリセリン、各種香料等を含んでもよい。
【0042】
本発明のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンからシリコーンゴム粒子を単離させる方法は公知の方法であれば何でもよく制限がない。例えば、加熱および/または減圧による水分の除去、濃縮の工程、さらには含有する有機成分、微量成分等を加熱、乾燥させてシリコーンゴム粒子を得ることができる。あるいは、スプレードライ方式のような方法を用いることもできる。ただし、シリコーンゴム成分の熱分解を避ける意味では、高温、例えば200℃以上での長時間の加熱、乾燥は避けるのが好ましい。
【0043】
前記本発明のシリコーンゴム粒子は、化粧品用途で用いる場合は、粒子径が、100μm以下であることが望ましい。100μm以上の粒子径では、紛体の大きさが触感で感じられる領域となるため、使用感の観点から好ましくない。
【実施例】
【0044】
次に本発明を実施例によって説明する。なお、本発明はこれによって限定されるものではない。また、実施例および比較例におけるシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの作製は以下のようにして行った。また、得られたシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの貯蔵安定性、水分散性、感触の評価方法は以下のようにして行った。各実施例の処方量を表1に、評価結果を表2に示す。
【0045】
<貯蔵安定性試験>
作製したシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを50mlスクリュー管に30g入れ、室温貯蔵1か月後に、クリーミング、沈降分離の有無を確認した。
評価基準;
○:クリーミング、沈降分離なし、△:クリーミング、沈降分離の傾向あり、×:クリーミング、沈降分離あり。
【0046】
<水への分散性試験>
作製したシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを50mlスクリュー管に5g入れ、さらに脱イオン水20mlを加え、蓋を締めた後、20回手で振り混ぜる。
振り混ぜた後の分散状態を観察し、水分散性を評価した。
評価基準;
○:均一に分散、△:一部分散、フロック残りが見られる、×:分散せず。
【0047】
<感触試験>
パネル3名で、作製したシリコーンゴム粒子分散エマルジョン0.05gを手の甲に載せ、人差し指で円を描きながら塗布する。
塗布する際の滑らかさ、塗布乾燥後のサラサラ感を評価する。
評価基準;
◎:非常に滑らか、〇:滑らか、△:きしみ感あり、×:きしむ、カスが発生する。
【0048】
<実施例1>
以下のようにして、実施例1の水中油型シリコーンエマルジョン1を調製した。初めに、0.05質量部のN−アシルアミノ酸縮合物(A)を、10質量部の水、4質量部のグリセリンと混合し、次いで、別容器にて、両末端がそれぞれジメチルビニルシリル基で封鎖された粘度200mPa・s(25℃)であるビニル基含有ポリジメチルシロキサン(I)58.9質量部、ならびに側鎖にSiH基を有し、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された粘度65mPa・s(25℃)であるメチルハイドロジェンポリシロキサン(II)1.1質量部を混合し、アルケニル基の数(NA)と、ケイ素原子に結合した水素原子の数(NH)が、NH/NA=1.2/1となる混合油を調製した。次いで、前記N−アシルアミノ酸縮合物と水、グリセリン混合液に、(I)および(II)の混合オイル60質量部を加え、IKA製ウルトラタラックスT50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い4000rpmにて撹拌することにより分散させ、さらに残部の水を加え、水中油型シリコーンエマルジョン(エマルジョン1)をスリーワンモーター/プロペラ型攪拌羽根で200rpmにて攪拌しながら、白金原子含有量1質量%の白金−ビニルシロキサン錯体溶液(C)0.4質量部を加え、10分間攪拌し、シリコーンゴム粒子分散エマルジョンを得た。
【0049】
<実施例2>
実施例1におけるエマルジョン1において、N−アシルアミノ酸縮合物を0.025質量部、グリセリンを2.0質量部とし、更に2.5質量部のシリカ粒子を加え、粘度が1000mPa・s(25℃)であるビニル基含有ポリジメチルシロキサン(I)を54.0質量部、ならびにメチルハイドロジェンポリシロキサン(II)1.1質量部を混合し、アルケニル基の数(NA)と、ケイ素原子に結合した水素原子の数(NH)が、NH/NA=1.5/1となる混合油を調製した以外は、実施例1と同様にしてシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを得た。
【0050】
<比較例1>
実施例1におけるエマルジョン1において、N−アシルアミノ酸縮合物並びに、グリセリンをポリオキシエチレンセチルエーテル(エチレンオキサイド付加モル数13)、1.0質量部に置き換え、さらに、ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(I)を67.1質量部、メチルハイドロジェンポリシロキサン(II)を2.9質量部とし、残部を水とした他は、全て実施例1に記載の通りとし、水中油型シリコーンエマルジョン(エマルジョン2)を調製した。さらにエマルジョン2から実施例1と同様にしてシリコーンゴム粒子の水分散体を得た。
【0051】
<比較例2>
比較例1におけるエマルジョン2において、ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(I)を49.0質量部、メチルハイドロジェンポリシロキサン(II)を1.0質量部とし、残部を水とした以外は、比較例1と同様にして水中油型シリコーンエマルジョン(エマルジョン3)を調製した。さらにエマルジョン3から実施例1と同様にしてシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを得た。
【0052】
<比較例3>
比較例2におけるエマルジョン3において、ポリオキシエチレンセチルエーテル(エチレ
ンオキサイド付加モル数13)を0.1質量部とし、残部を水とした以外は、比較例2と
同様にしてシリコーンゴム粒子分散エマルジョンを得た。
【表1】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のシリコーンゴム粒子分散エマルジョンの製造方法は、界面活性剤成分の使用量が極めて少量であるため、環境面、健康面で悪影響を与えず、エマルジョン中での粒子の安定性に優れ、これにより得られるゴム粒子はシリコーンゴム粒子としてとしての本来の特性を発現できる。よって、化粧料、合成樹脂材料、合成ゴム材料の用途において効果的に使用できるシリコーンゴム粒子の製造方法として利用できる可能性がある。