特許第6754197号(P6754197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754197
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】害虫防除用エアゾール剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/06 20060101AFI20200831BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20200831BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20200831BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   A01N25/06
   A01P7/04
   A01N53/06 110
   A01M7/00 S
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-41094(P2016-41094)
(22)【出願日】2016年3月3日
(65)【公開番号】特開2017-119662(P2017-119662A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2019年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-256803(P2015-256803)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 弘基
(72)【発明者】
【氏名】原田 悠耶
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋子
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−074022(JP,A)
【文献】 特開2004−002363(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/042166(WO,A1)
【文献】 特開2012−116774(JP,A)
【文献】 特開2002−226301(JP,A)
【文献】 特表平11−501296(JP,A)
【文献】 特表2009−545578(JP,A)
【文献】 特開2004−215662(JP,A)
【文献】 特開平04−009306(JP,A)
【文献】 特開2001−010906(JP,A)
【文献】 特開2000−302612(JP,A)
【文献】 特開2015−093847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)害虫防除成分としてのモンフルオロトリンを含む複数のピレスロイド系化合物と、(b)炭素数が10〜18の飽和炭化水素系溶剤と、更に(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを含有するエアゾール原液に、(d)噴射剤を加えてなる害虫防除用エアゾール剤であって、
前記(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールの前記(b)炭素数が10〜18の飽和炭化水素系溶剤に対する質量比[(c)/(b)]が、1/0.3〜1/2.7である害虫防除用エアゾール剤
【請求項2】
前記(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを、当該害虫防除用エアゾール剤全体量に対して7〜40質量%配合したことを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用エアゾール剤。
【請求項3】
前記(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを、当該害虫防除用エアゾール剤全体量に対して8〜30質量% 配合したことを特徴とする請求項2に記載の害虫防除用エアゾール剤。
【請求項4】
前記エアゾール原液と前記(d)噴射剤との質量比が、30/70〜70/30であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の害虫防除用エアゾール剤。
【請求項5】
ハチ類防除用エアゾール剤であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の害虫防除用エアゾール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除用エアゾール剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、害虫防除成分としてピレスロイド系化合物を含有し、適用場面に応じて製剤化された数多くのエアゾール剤が実用化されている。
近年開発された新規ピレスロイド系化合物・モンフルオロトリンは、各種の害虫に対して顕著な速効性を奏するとともに、害虫の行動を停止させるというユニークな特長を備え、エアゾール剤をはじめ各種分野への適用が進められている。一方、モンフルオロトリンは従来のピレスロイド系化合物に較べると有機溶剤に溶けにくい等の物性上の特性を有するため、これを含有するエアゾール剤を開発するにあたり、例えば最適な溶剤の探索は多大な試験を要し、処方検討上の重要な課題となっている。
【0003】
上記課題の解決を目指した提案もいくつか見られ、例えば、特許文献1(特許第5633329号公報)は、モンフルオロトリンに好適な有機溶剤として、γ―ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、炭酸プロピレン、及びスルホラン等の環状化合物を開示する。
また、特許文献2(特許第5326319号公報)には、モンフルオロトリンと初留点が150℃以上であり95%留出温度が300℃以下である飽和炭化水素に加え、補助溶剤としてモノアルキレングリコールモノアルキルエーテル及びジアルキレングリコールモノアルキルエーテルからなる群より選ばれる1種又は2種以上のグリコールエーテルを含有する害虫防除用組成物が開示されている。ならびに、特許文献3(特許第5326320号公報)では、特定のカルボン酸エステルが、モンフルオロトリンと飽和炭化水素を含む害虫防除用組成物において、同様に補助溶剤の効果を奏するとしている。しかしながら、これらグリコールエーテルや特定のカルボン酸エステルの効果は必ずしも十分満足のいくものとは言えなかった。
更に、特許文献4(特開2014−31342号公報)は、モンフルオロトリンと噴射剤と主溶剤とともに、補助溶剤を含有させた殺虫エアゾール用組成物を開示し、補助溶剤として各種化合物を羅列する。ただし、ここで唯一具体的なものとして挙げられているエタノールにしても、実施例で明確に補助溶剤としての効果が確認されているわけではない。このように、モンフルオロトリンと飽和炭化水素系溶剤を含有するエアゾール剤の製剤化には、最適な補助溶剤の探索など、なお改良の余地が残されていた。
【0004】
ところで、エアゾール剤におけるイソプロピルアルコールの使用に関する従来技術としては、ピレスロイド系化合物と水とを含む水性エアゾール処方では、特許文献1でも記載されているように、これを溶剤として配合することは一般的であった。一方、飽和炭化水素系溶剤を主体とする油性処方の場合、イソプロピルアルコールを併用すると害虫防除成分の害虫体内浸透力が低下し、殺虫効果の低減に繋がると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5633329号公報
【特許文献2】特許第5326319号公報
【特許文献3】特許第5326320号公報
【特許文献4】特開2014−31342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、モンフルオロトリンと飽和炭化水素系溶剤を含有するエアゾール剤を開発するにあたり、最適な補助溶剤を見出し、エアゾール組成物の相溶性を安定化させるとともに、殺虫効果が増強された害虫防除用エアゾール剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、モンフルオロトリンの物性上の特性を鑑み、モンフルオロトリンと飽和炭化水素系溶剤を含有するエアゾール剤について、イソプロピルアルコールの配合をあらゆる角度から鋭意検討したところ、驚くべきことに、イソプロピルアルコールがモンフルオロトリンの補助溶剤として作用するだけでなく、エアゾール組成物の相溶性の安定化に寄与するとともに、殺虫効果を増強させ得ることを知見した。
即ち、本発明者らは、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出し、本発明の完成に至ったものである。
(1)(a)害虫防除成分としてのモンフルオロトリンを含む複数のピレスロイド系化合物と、(b)炭素数が10〜18の飽和炭化水素系溶剤と、更に(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを含有するエアゾール原液に、(d)噴射剤を加えてなる害虫防除用エアゾール剤であって、
前記(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールの前記(b)炭素数が10〜18の飽和炭化水素系溶剤に対する質量比[(c)/(b)]が、1/0.3〜1/2.7である害虫防除用エアゾール剤
(2)前記(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを、当該害虫防除用エアゾール剤全体量に対して7〜40質量%配合した(1)に記載の害虫防除用エアゾール剤。
(3)前記(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを、当該害虫防除用エアゾール剤全体量に対して8〜30質量%配合した(2)に記載の害虫防除用エアゾール剤。
)前記エアゾール原液と前記(d)噴射剤との質量比が、30/70〜70 /30であることを特徴とする(1)乃至()のいずれか1に記載の害虫防除用エアゾール剤。
)ハチ類防除用エアゾール剤である(1)乃至()のいずれか1に記載の害虫防除用エアゾール剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の害虫防除用エアゾール剤は、モンフルオロトリンと飽和炭化水素系溶剤を含有するエアゾール剤において、最適な補助溶剤を配合することによって、エアゾール組成物の相溶性を安定化させるとともに、殺虫効果を増強させることができるので極めて実用的である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の害虫防除用エアゾール剤は、害虫防除成分としてモンフルオロトリンを含有する。ここで、モンフルオロトリンとは、化学名が 4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 3−(2−シアノ−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシレートで表される新規ピレスロイド系化合物で、各種の害虫に対して顕著な速効性を奏するとともに、害虫の行動を停止させるというユニークな特長を備え、エアゾール剤をはじめ各種分野への適用が進められているものである。
モンフルオロトリンの配合量としては、使用目的や使用方法等を考慮して適宜決定すればよいが、当該害虫防除用エアゾール剤全体量に対して0.001〜3.0質量%、好ましくは0.01〜1.0質量%が適当である。配合量が0.001質量%未満では所望の防除効果が得られないし、一方、3.0質量%を超えるとエアゾール組成物の安定化の点て困難を伴い好ましくない。尚、モンフルオロトリンの酸部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、これらの各々や任意の混合物も本発明に包合されることは勿論である。
【0010】
本発明では、他の害虫防除成分を所望に応じて配合しても構わない。かかる害虫防除成分としては、ピレスロイド系化合物、例えば、ピレトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、レスメトリン、フタルスリン、イミプロトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、トラロメトリン、ビフェントリン、及びエトフェンプロックス等が挙げられる。
また、前記ピレスロイド系化合物以外の害虫防除成分としては、例えば、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、フェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン等のネオニコチノイド系化合物、その他のフィプロニル、インドキサカルブ等が挙げられる。
【0011】
本発明のエアゾール原液は、モンフルオロトリンとともに、炭素数が10〜18の飽和炭化水素系溶剤を含有する。飽和炭化水素系溶剤は、モンフルオロトリンの溶剤としての役割を有するとともに、防除対象である各種害虫に対する皮膚浸透性に優れており、エアゾール原液が害虫に付着した際に、害虫防除成分の害虫体内浸透を促進し、殺虫効果を高め得るのである。
かかる飽和炭化水素系溶剤の配合量は、エアゾール組成物全体量に対し、5〜60質量%の範囲で設定できる。
【0012】
炭素数が10〜18の飽和炭化水素系溶剤としては、パラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素やナフテン系炭化水素が挙げられるが、試験の結果、パラフィン系炭化水素やイソパラフィン系炭化水素が好ましいことが認められた。
ノルマルパラフィンとしては、炭素数が12〜14主体のものが代表的で、例えば、中央化成株式会社製のネオチオゾール、ジャパンエナジー社製のノルマルパラフィンN−12、ジャパンエナジー社製のノルマルパラフィンN−13、ジャパンエナジー社製のノルマルパラフィンN−14等が挙げられる。
一方、イソパラフィンとしては、炭素数が12〜16主体のものが使いやすく、例えば、出光石油株式会社製のIPソルベント1620及びIPソルベント2028、エクソン化学株式会社製のアイソパーM、シェル化学株式会社製のシェルゾールTK等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、ナフテン系炭化水素としては、ジャパンエナジー社製のナフテゾール160及びナフテゾール200等が代表的である。
【0013】
本発明は、更に(c)殺虫効力増強剤としてイソプロピルアルコールを配合し、エアゾール原液を構成したことに特徴を有する。
前述したように、本発明者らは、モンフルオロトリンの物性上の特性を鑑み、モンフルオロトリンと飽和炭化水素系溶剤を含有するエアゾール剤について、イソプロピルアルコールの配合を鋭意検討したところ、驚くべきことに、イソプロピルアルコールがモンフルオロトリンの補助溶剤として作用するだけでなく、エアゾール組成物の相溶性の安定化に寄与するとともに、殺虫効果を増強させ得ることを知見し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0014】
イソプロピルアルコールの配合量としては、当該害虫防除用エアゾール剤全体量に対して7〜40質量%が好ましく、8〜30質量%がより好ましい。
7質量%未満であると、殺虫効力増強剤としての効果が得られず、特にエアゾール組成物の相溶性の安定化効果を期待できない。一方、40質量%を超えると、飽和炭化水素系溶剤の配合量が減り、その結果、飽和炭化水素系溶剤による害虫防除成分の害虫体内浸透を妨げる可能性を有するので好ましくない。
【0015】
また、イソプロピルアルコールの飽和炭化水素系溶剤に対する質量比[(c)/(b)]としては、1/0.3〜1/8が好ましく、1/0.4〜1/6であることがより好ましい。即ち、[(c)/(b)]比がこの範囲であれば、エアゾール組成物の相溶性の安定化効果、及び害虫防除成分の害虫体内浸透力が確保され、イソプロピルアルコールの殺虫効力増強剤としての効果がより明確に発揮されるのである。
【0016】
本発明のエアゾール原液には、上記各組成分に加えて、害虫忌避剤、殺ダニ剤、カビ類、菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤等を適宜配合してももちろん構わない。害虫忌避剤としては、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル[以降、IR3535と称す]、1−メチルプロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラート[以降、イカリジンと称す]、p−メンタン−3,8−ジオール、ジメチルフタレート、ユーカリプトール、α―ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、カランー3,4−ジオール等があげられ、殺ダニ剤としては、5−クロロ−2−トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート等があり、一方、防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、トリホリン、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、オルト−フェニルフェノール等を例示できる。
【0017】
更に、本発明では、本発明の趣旨に支障を来たさない限りにおいて、飽和炭化水素系溶剤やイソプロピルアルコール以外の溶剤、例えば、エタノール、ノルマルプロピルアルコール等のアルコール類、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール類やグリコールエーテル類、ケトン系溶剤、エステル系溶剤等、あるいは、安定剤、紫外線吸収剤、消臭剤、帯電防止剤、消泡剤、香料、賦形剤等の補助剤を必要に応じて適宜配合することも可能である。
【0018】
(d)噴射剤としては、液化ガス、例えば、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)等が用いられ、そのうちの一種であっても混合ガスであってもよい。通常LPGを主体としたものが使いやすいが、DMEはモンフルオロトリンの溶解に寄与しえるため、本発明の害虫防除用エアゾール剤においては、LPGとDMEの混合噴射剤の使用が好ましい。なお、フルオロカーボンガスや、噴射圧の調整のために、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガスを適宜添加しても構わない。
上記エアゾール原液と噴射剤との配合比率については、噴射性状、モンフルオロトリンを含むエアゾール組成物の相溶性等はもちろん、害虫防除効果への影響等をも考慮し、エアゾール原液と噴射剤との質量比を、30/70〜70/30に設定するのが適当である。
【0019】
こうして得られた本発明の害虫防除用エアゾール剤は、その用途、使用目的、対象害虫等に応じて、適宜バルブ、噴口、ノズル等の形状を選択することができ、種々の実施の形態が可能である。例えば、噴射処理範囲に薬液を集中的に処理したい場合は、芯部を形成するような噴霧パターンを有する形態が好ましい。また、テラスやベランダ等の床面に噴霧しやすい倒立仕様を採用したり、誤噴射の際誤って顔にかからないように噴口角を工夫したりすることもできるし、あるいはキャンプ場などのテントの周囲に対して広範囲に噴霧するために広角ノズルを採用してもよい。
【0020】
本発明の害虫防除用エアゾール剤が有効な害虫としては、家屋、屋外において人に被害や不快感を与える害虫、例えば、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、イエバエ、ヒメイエバエ、センチニクバエ、クロバエ、キンバエ、キイロショウジョウバエ、チョウバエ、ノミバエ等のハエ類、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、フタモンアシナガバチ、セグロアシナガバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、オオスズメバチ、キイロスズメバチ等のハチ類、アリ類、ムカデ類、ヤスデ、ダンゴムシ、ワラジムシ等が挙げられる。なかでも、モンフルオロトリンの特長を生かし、ハエ類、ハチ類、ムカデ類に対して効果的であり、当該エアゾール剤を直撃噴射することによって、これらの害虫を速効的にノックダウンさせ、かつその行動を停止させることができる。
【0021】
本発明の害虫防除用エアゾール剤は、なかでも特に、人に対する攻撃性が高いハチ類に対して有用性が高いため、その使い方について以下説明する。
本エアゾール剤は、スズメバチ類を含む各種のハチ類に5〜10秒間直撃噴射して効果的に駆除できる。また、既に造られている巣に対しては直接噴射処理して巣内のハチを駆除せしめるとともに、駆除を逃れたハチについても巣に回帰するのを防止可能である。更にこれだけでなく、ハチが出入りする周辺や営巣しそうな場所、例えば、屋根裏、軒下、屋根瓦の下、木の枝、樹木の空隙などに噴霧塗布(目安として50〜250mL/m2程度)することによって、生活環境周りでのハチの営巣行動を抑えることも期待できるので極めて実用的である。
【0022】
つぎに具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の害虫防除用エアゾール剤を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
エアゾール剤全体量に対し、モンフルオロトリン高濃度液を0.80質量%(モンフルオロトリンを0.12質量%と溶剤としての環状化合物を0.68質量%含む)、d−T80−レスメトリンを0.05質量%、ネオチオゾール(炭素数12〜14が主体のノルマルパラフィン系飽和炭化水素系溶剤)を40.15質量%、及びイソプロピルアルコール(以降、IPAと称す)を15質量%含有するエアゾール原液(エアゾール剤全体量に対して56質量%)を調製した。これをエアゾール容器に入れ、噴射剤としてLPG/DME(3:1)混合ガスを44質量%加圧充填した。噴射用ノズルを一体にて備えた噴射バルブをこのエアゾール容器に装填して、本発明の害虫防除用エアゾール剤を得た。
なお、本エアゾール剤の(c)/(b)比率[(c)イソプロピルアルコールの(b)飽和炭化水素系溶剤に対する質量比]は、1/2.7で、エアゾール原液/噴射剤比率は、56/44であった。
【0024】
家の軒下の巣の近くを飛び回っていたセグロアシナガバチに対し、約8mの位置から本エアゾール剤を約5秒間噴射した。その結果、セグロアシナガバチは直ちに地面に落下してノックダウンし、動き回る動作も停止した。セグロアシナガバチは間もなく死亡に至ったが、その間、暴れだす兆候もなく、本エアゾール剤を噴射した人が危険に曝されることはなかった。
【実施例2】
【0025】
実施例1に準じて表1に示す各種害虫防除用エアゾール剤を調製し、下記に示す試験を行った。結果を表2に示す。
(1)直撃噴射によるイエバエに対する殺虫効力
直径20cmで高さが43cmのアクリル製円筒を重ね、約2m先の先端部分に金網で仕切った区画を設けて全体の長さが約230cmの円筒装置を作製し、これを横置きした。前記区画に供試昆虫のイエバエ雌成虫20匹を入れ、円筒装置末端から供試エアゾール剤を0.5秒間噴射した。供試昆虫の時間の経過に伴うノックダウン状態を観察し、プロビット法によりKT50値を算出した。また、ノックダウン後の行動停止効果についても観察を加え、明瞭に認められるものから認められないものまでを、○、△、×で評価した。更に、10分後に供試昆虫を清潔なプラスチック容器に移し、24時間後の致死率を求めた。
(2)エアゾール剤の相溶性
透明のエアゾール容器に各供試エアゾール剤を入れ、1日後にエアゾール組成物の相溶性及び分離状態の有無を調べた。結果は、液性の良好な状態から不良な状態(例えば、液性の分離)までを、◎、○、△、×で評価した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
試験の結果、(a)害虫防除成分としてのモンフルオロトリンと、(b)炭素数が10〜18の飽和炭化水素系溶剤と、更に(c)殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを含有するエアゾール原液に、(d)噴射剤を加えてなる本発明の害虫防除用エアゾール剤は、害虫に対してノックダウン後の行動停止効果を伴う優れた殺虫効果を示し、且つ当該エアゾール組成物の相溶性において高い安定性を維持しうることが確認された。なお、殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールの配合量は、当該害虫防除用エアゾール剤全体量に対して7〜40質量%、なかんずく8〜30質量%が好ましく、また、イソプロピルアルコールの飽和炭化水素系溶剤に対する質量比[(c)/(b)]は、1/0.3〜1/8、なかんずく1/0.4〜1/6が好適であることが認められた。
【0029】
これに対し、殺虫効力増強剤としてのイソプロピルアルコールを配合しない比較1はエアゾール組成物が分離し評価試験に供し得なかった。また、飽和炭化水素系溶剤を含有せずイソプロピルアルコールのみで製剤化した比較2は、殺虫効果が顕著に低下し、害虫防除成分が害虫の皮膚を透過するうえで飽和炭化水素系溶剤の存在が効果的であることが示唆された。なお、特許文献2で開示されたグリコールエーテル系化合物を補助溶剤として同様に検証したが、本試験ではイソプロピルアルコールに匹敵する効果が得られなかった。更に、害虫防除成分としてモンフルオロトリンを配合しない比較4は、本発明のエアゾール剤に較べてノックダウン効果が劣り、行動停止効果も奏し得なかった。
【実施例3】
【0030】
実施例1で用いた本発明の害虫防除エアゾール剤、及び市販のフタルスリンエアゾール剤ならびにプラレトリンエアゾール剤につき、実施例2の「(1)直撃噴射によるイエバエに対する殺虫効力」に記載の円筒装置を用いて、同様に各種ハチ類に対する直撃噴射試験を行った。ノックダウンに要するまでの時間と、ノックダウン後の行動停止までの時間を求め、結果を表3に示した。
【0031】
【表3】
【0032】
試験の結果、本発明の害虫防除エアゾール剤は、市販のフタルスリンエアゾール剤ならびにプラレトリンエアゾール剤に較べ、各種ハチ類の対して顕著なノックダウン効果と行動停止効果を示し、その有用性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の害虫防除用エアゾール剤は、家屋内、屋外を問わず広範な害虫防除を目的として利用することが可能である。