特許第6754202号(P6754202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6754202K−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセット、K−ras遺伝子増幅用キット、K−ras遺伝子増幅方法、多型解析方法、及び薬効判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754202
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】K−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセット、K−ras遺伝子増幅用キット、K−ras遺伝子増幅方法、多型解析方法、及び薬効判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20200831BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20200831BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20200831BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20200831BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C12N15/11 ZZNA
   C12Q1/6876 Z
   C12Q1/6844 Z
   C12Q1/6827 Z
   C12M1/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-51511(P2016-51511)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-163889(P2017-163889A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】木寺 一喜
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−135290(JP,A)
【文献】 特開2002−119291(JP,A)
【文献】 特表2014−507149(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/071046(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/200377(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/104695(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00− 3/00
C12M 1/00− 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)、(2)又は(3)のフォワードプライマーセットである、核酸増幅法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するためのK−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセット:
(1)配列番号1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット、
(2)配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット、
(3)配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット。
【請求項2】
請求項1に記載のK−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセットを用いるK−ras遺伝子増幅方法。
【請求項3】
試料中の核酸を鋳型として、前記K−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセットを一反応液中で用いてK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅すること、を含む請求項2に記載のK−ras遺伝子増幅方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のK−ras遺伝子増幅方法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅することと、
前記増幅の増幅産物から得た一本鎖核酸と、前記増幅産物から得た一本鎖核酸にハイブリダイズするプローブとのハイブリッドを形成することと、
前記ハイブリッドを含む反応液の温度を変化させ、前記ハイブリッドの解離状態に基づくシグナルの変動を測定することと、
前記シグナルの変動に基づいてK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することと、を含む多型解析方法。
【請求項5】
前記増幅することと、前記ハイブリッドを形成することとが同時に進行する、請求項4に記載の多型解析方法。
【請求項6】
前記プローブがK−ras遺伝子のコドン13を含む領域にハイブリダイズするプローブである、請求項4又は請求項5に記載の多型解析方法。
【請求項7】
前記プローブが蛍光標識化プローブである、請求項4〜請求項6のいずれか一項に記載の多型解析方法。
【請求項8】
請求項4〜請求項7のいずれか一項に記載の多型解析方法によりK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することと、
前記コドン13が野生型である場合と比較して、コドン13の多型がG13D変異型であった場合に抗上皮成長因子受容体抗体薬の薬効が低いと判定することと、を含む薬効判定方法。
【請求項9】
請求項1に記載のK−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセットを含む、K−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するためのK−ras遺伝子増幅用キット。
【請求項10】
K−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するための1以上のリバースプライマーを含む、請求項に記載のK−ras遺伝子増幅用キット。
【請求項11】
K−ras遺伝子のコドン13を含む領域にハイブリダイズするプローブを含む、請求項又は請求項10に記載のK−ras遺伝子増幅用キット。
【請求項12】
前記プローブが蛍光標識化プローブである、請求項11に記載のK−ras遺伝子増幅用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、K−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセット、K−ras遺伝子増幅用キット、K−ras遺伝子増幅方法、多型解析方法、及び薬効判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
K−ras遺伝子は、多くの悪性腫瘍において変異が認められる癌関連遺伝子である。大腸癌においては、K−ras遺伝子の変異の有無に基づく抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体薬の薬効予測が既に実用化されている。K−ras遺伝子に変異を有する場合には、抗EGFR抗体薬の効果が期待できない可能性が高いと判断され、抗EGFR抗体薬の投与は推奨されない。
【0003】
K−ras遺伝子の変異としては、コドン12及び13における変異が特に多い変異として知られている。うち、コドン13の変異では、配列番号6のK−ras遺伝子の塩基配列において、塩基番号224の塩基のグアニン(g)から、アデニン(a)への置換により、K−Rasタンパク質の13番目のグリシン(G)が、アスパラギン酸(D)に変異するものが多い(G13D変異)。
【0004】
K−ras遺伝子のコドン12及び13における変異の検出方法としては、一般的に、(1)試料の標的DNAについて、検出対象配列に相当する領域をPCRにより増幅させ、検出対象配列における目的の変異の有無により切断作用が異なる制限酵素によってその増幅産物を切断し、電気泳動することでタイピングを行うRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphisms)解析(非特許文献1)、(2)試料の標的DNAについて、検出対象配列に相当する領域をPCR(Polymerase Chain Reaction)により増幅させ、その全遺伝子配列を解析するダイレクトシークエンス法(非特許文献2)、(3)3’末端領域に目的の変異が位置するアリル特異的なプライマーを用いてPCRを行い、増幅の有無によって変異を判断するASP−PCR(Allele Specific Primer PCR)法(非特許文献3、非特許文献4)、(4)3’末端領域に目的の変異が位置するアリル特異的なプライマーを用いてPCRを行い、増幅の速度の差異によって変異を判断するアリル特異的リアルタイムPCR法(特許文献1)、等を挙げることができる。
【0005】
しかし、これらの方法は、例えば、試料から抽出したDNAの精製、電気泳動、制限酵素処理等多くの工程を要し手間やコストがかかってしまう。また、PCRを行った後、反応容器を一旦開封する必要があるため、増幅産物が次の反応系に混入し、解析精度が低下する虞がある。さらに、自動化が困難であるため、大量のサンプルを解析することができない。また、上記(3)及び(4)では、3’末端領域に目的の変異が位置するプライマーが使用されるが、感度及び特異性が充分ではないという問題もある。
【0006】
手間やコストを低減し自動化するためには、近年、点突然変異の検出方法として、標的核酸とプローブとから形成される二本鎖核酸の融解温度(Tm:melting temperature)を解析する方法が実用化されている。このような方法は、例えば、Tm解析又は融解曲線解析と呼ばれている。これは、以下のような方法である。すなわち、まず、検出目的の点突然変異を含む検出対象配列に相補的なプローブを用いて、検出試料の標的一本鎖DNAとプローブとのハイブリッド(二本鎖DNA)を形成させる。続いて、このハイブリッド形成体に加熱処理を施し、温度上昇に伴うハイブリッドの解離(融解)を、吸光度等のシグナルの変動によって検出する。そして、この検出結果に基づいてTm値を決定することにより、点突然変異の有無を判断する方法である。Tm値は、ハイブリッド形成体の相同性が高い程高く、相同性が低い程低くなる。このため、点突然変異を含む検出対象配列とそれに相補的なプローブとのハイブリッド形成体について予めTm値(評価基準値)を求めておき、検出試料の標的一本鎖DNAとプローブとのTm値(測定値)を測定し、得られた測定値が評価基準値と同じであればマッチ、すなわち標的DNAに点突然変異が存在すると判断できる。一方、測定値が評価基準値より低ければミスマッチ、すなわち標的DNAに点突然変異が存在しないと判断できる。そして、この方法によれば、自動化も可能である(特許文献2及び特許文献3)。
【0007】
また、アリル特異的なプライマーの特異性を向上するためには、プライマーの3’末端から数えて3塩基目程度の位置にミスマッチ塩基を導入する、アニーリング温度を上げるなどの方法が取られるが、特異性を高める方法は通常は核酸増幅効率を低くするものである。核酸増幅効率が低くなると、十分な量の増幅産物が得られないため目的遺伝子の検出感度は低下する。
G13D変異型のK−ras遺伝子を検出する場合、被験検体中のG13D変異型のK−ras遺伝子のコピー数が、コドン13が野生型であるK−ras遺伝子のコピー数に対して十分に多ければ、このような特異性が高くないプライマーを用いた場合にも正しい判定が行われるかもしれない。
しかし、腫瘍等に由来するG13D変異型のK−ras遺伝子のコピー数が、正常組織に由来する野生型のK−ras遺伝子のコピー数に対して著しく少ない場合には、コピー数が多い野生型のK−ras遺伝子にG13D変異型アリルに特異的なプライマーが結合して非特異的な核酸増幅が行われやすい。被験検体中のG13D変異型のK−ras遺伝子のコピー数が、コドン13が野生型のK−ras遺伝子のコピー数に対して著しく少ない場合としては、例えば、被験検体である腫瘍組織に正常組織が多く混入している場合や、被験検体として循環血中のDNAを使用する場合、などが挙げられる。
一方で、G13D変異型アリルに非特異的な増幅反応を抑制しようとすると、十分なコピー数が存在しないG13D変異型アリルの核酸増幅は効率的に行われず、偽陰性を生じやすい。
【0008】
以上のように、K−ras遺伝子の変異型の検出においては、手間やコストを低減し自動化が可能であって、高い検出感度と特異性を有する技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2011/104695号
【特許文献2】特許第3963422号公報
【特許文献3】国際公開第2011/071046号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】American Journal of Pathology(1993)Aug;143,pp545−554
【非特許文献2】Yonsei Med J.(2009)Apr;50(2),pp266−72
【非特許文献3】日本消化器外科学会雑誌(1997);30(4),pp897〜900
【非特許文献4】日本大腸肛門病学会雑誌(1997);50,pp33−40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
G13D変異型のK−ras遺伝子の検出感度を上げるためには、核酸増幅を行い、変異型及び野生型のコドン13を含む領域をそれぞれ特異的に増幅する方法が考えられる。このようなアリル特異的な核酸増幅を行う場合、野生型とG13D変異型の各アリルを特異的に増幅できること、及び、増幅が効率的に行われること、が増幅産物を用いて行う検出系の感度及び特異性の向上に大きく寄与する。前述した通り、アリル特異的な核酸増幅を行う場合には、アリル特異性と増幅効率との両立が課題となっている。
特に、高い検出感度を得るために高い効率で核酸増幅を行う必要がある場合には、アリル特異性と増幅効率との両立が高いレベルで要求されるため一層困難である。
【0012】
本発明は、K−ras遺伝子のコドン13を含む領域の核酸を、野生型又はG13D変異型それぞれに特異性高く且つ高効率に増幅するためのフォワードプライマーセット、K−ras遺伝子増幅用キット、K−ras遺伝子増幅方法、多型解析方法、及び薬効判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
<1> 下記(1)、(2)又は(3)のフォワードプライマーセットである、核酸増幅法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するためのK−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセット:
(1)配列番号1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット、
(2)配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット、
(3)配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット。
<2> <1>に記載のK−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセットを用いるK−ras遺伝子増幅方法。
<3> 試料中の核酸を鋳型として、前記K−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセットを一反応液中で用いてK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅すること、を含む<2>に記載のK−ras遺伝子増幅方法。
<4> <2>又は<3>に記載のK−ras遺伝子増幅方法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅することと、
前記増幅の増幅産物から得た一本鎖核酸と、前記増幅産物から得た一本鎖核酸にハイブリダイズするプローブとのハイブリッドを形成することと、
前記ハイブリッドを含む反応液の温度を変化させ、前記ハイブリッドの解離状態に基づくシグナルの変動を測定することと、
前記シグナルの変動に基づいてK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することと、を含む多型解析方法。
<5> 前記増幅することと、前記ハイブリッドを形成することとが同時に進行する、<4>に記載の多型解析方法。
<6> 前記プローブがK−ras遺伝子のコドン13を含む領域にハイブリダイズするプローブである、<4>又は<5>に記載の多型解析方法。
<7> 前記プローブが蛍光標識化プローブである、<4>〜<6>のいずれか一つに記載の多型解析方法。
<8> <4>〜<7>のいずれか一つに記載の多型解析方法によりK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することと、
前記解析で得た解析結果に基づいて薬剤の薬効を判定することと、を含む薬効判定方法。
<9> 前記薬剤が抗上皮成長因子受容体抗体薬である、<8>に記載の薬効判定方法。
<10> <1>に記載のK−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセットを含む、K−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するためのK−ras遺伝子増幅用キット。
<11> K−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するための1以上のリバースプライマーを含む、<10>に記載のK−ras遺伝子増幅用キット。
<12> K−ras遺伝子のコドン13を含む領域にハイブリダイズするプローブを含む、<10>又は<11>に記載のK−ras遺伝子増幅用キット。
<13> 前記プローブが蛍光標識化プローブである、<12>に記載のK−ras遺伝子増幅用キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、核酸増幅法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するためのフォワードプライマーセット、K−ras遺伝子増幅用キット、K−ras遺伝子増幅方法、多型解析方法、及び薬効判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は核酸混合物の融解曲線の一例であり、(B)は核酸混合物の微分融解曲線の一例である。
図2】野生型K−ras遺伝子を含むテンプレートを用いて核酸増幅を行ったときのTm値解析によって得た微分融解曲線である。
図3】野生型K−ras遺伝子に対してコピー数が0.3%となるようにG13D変異型K−ras遺伝子を含むテンプレートを用いて核酸増幅を行ったときのTm値解析によって得た微分融解曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本明細書において組成物中のある成分の量について言及する場合、組成物中に当該成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に別途定義しない限り、当該量は、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「Tm値」とは、二本鎖核酸が解離する温度(融解温度:Tm)であって、一般に、260nmにおける吸光度が吸光度全上昇分の50%に達した時点の温度と定義される。二本鎖核酸、例えば二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度が加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって解離が完了したと判断できる。Tm値は、この現象に基づき設定される。
【0018】
<K−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセット>
本発明の一実施形態にかかるK−ras遺伝子増幅用フォワードプライマーセット(以下、単に「本発明のフォワードプライマーセット」という。)は、下記フォワードプライマーセット(1)、(2)又は(3)であり、核酸増幅法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅するために用いられる。
フォワードプライマーセット(1)
配列番号1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット、
フォワードプライマーセット(2)
配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット、
フォワードプライマーセット(3)
配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーと、
を含むフォワードプライマーセット。
【0019】
詳しくは後述するが、前記フォワードプライマーセット(1)〜(3)は、それぞれK−ras遺伝子の野生型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーと、K−ras遺伝子のG13D変異型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーとを含む。
このような本発明のフォワードプライマーセットによれば、K−ras遺伝子のコドン13を含む領域を野生型又は変異型それぞれについて特異性高く、且つ、高効率に増幅することができる。
【0020】
上記フォワードプライマーセット(1)〜(3)において、配列番号1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーは、それぞれK−ras遺伝子の野生型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーである。
配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー、配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー及び配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーは、それぞれK−ras遺伝子のG13D変異型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーである。
【0021】
K−ras遺伝子において、野生型のコドン13の塩基配列はGGCであり、グリシン(G)をコードしている。G13D変異型のコドン13の塩基配列はGACであり、アスパラギン酸(D)をコードしている。
【0022】
配列番号1〜配列番号5として示される塩基配列を以下に記載する。
・配列番号1: CTAGCtagttggagctggtgG
・配列番号2: CTAGCagttggagctggtgG
・配列番号3:TGCTCtggtagttggagctggtgA
・配列番号4: TGCTCggtagttggagctggtgA
・配列番号5: TGCTCgtagttggagctggtgA
配列番号1〜配列番号5において、3’末端の大文字で示されている塩基はK−ras遺伝子のコドン13の多型部位に対応する塩基である。また、5’末端の大文字で示されている塩基は、各プライマーのK−ras遺伝子の結合領域には相補性を有さない、人工的に付加した配列である。
【0023】
配列番号1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーは、それぞれの3’末端の塩基がグアニン(G)であり、コドン13野生型K−ras遺伝子のアンチセンス鎖の多型部位と相補性を有している。
配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー、配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー及び配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーは、それぞれ3’末端の塩基がアデニン(A)であり、G13D変異型K−ras遺伝子のアンチセンス鎖の多型部位と相補性を有している。
【0024】
K−ras遺伝子の塩基配列は、例えば、GenBankアクセッションNo.NG_007524において、5001番目〜50675番目の領域として登録されている。配列番号6は、K−ras遺伝子の部分配列であり、前記アクセッション番号の塩基配列において、10351番目〜10850番目の領域に相当する。前記コドン13の配列は、前記アクセッション番号の塩基配列における10573番目〜10575番目の領域に相当する。
本発明のフォワードプライマーセットは、組織試料、全血試料等の生体試料におけるK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅する際に使用することが好ましい。
【0025】
<K−ras遺伝子増幅方法>
本発明の一実施形態にかかるK−ras遺伝子増幅方法(以下、単に「本発明のK−ras遺伝子増幅方法」という。)は、試料中の核酸を鋳型として、前記フォワードプライマーセット(1)〜(3)のいずれか1つを用いて、K−ras遺伝子のコドン13を含む領域を野生型の及びG13D変異型それぞれに特異的に増幅する方法である。前記K−ras遺伝子増幅方法によれば、野生型のコドン13又はG13D変異型のコドン13それぞれに特異性高く、且つ、高効率にK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅することができる。また、本発明のK−ras遺伝子増幅方法においては、本発明のフォワードプライマーセットを一反応液中で用いて核酸増幅を行うこともできる。
【0026】
鋳型核酸を含む試料としては、例えば生体試料が挙げられる。生体試料としては、全血、口腔粘膜等の口腔内細胞、爪、毛髪等の体細胞、生殖細胞、喀痰、羊水、パラフィン包埋組織、尿、胃液、胃洗浄液、あるいはそれらの懸濁液等が挙げられる。また、生体試料から単離した核酸を鋳型として用いてもよい。例えば、全血からのゲノムDNAの単離には、市販のゲノムDNA単離キットを使用することができる。また、生体試料に含まれるDNAを遺伝子増幅法により増幅させた増幅産物を鋳型として用いてもよい。あるいは、生体試料に含まれるRNAから逆転写PCR反応によりcDNAを生成し、このcDNAを遺伝子増幅法により増幅させた増幅産物を鋳型として用いてもよい。
【0027】
核酸増幅法は、特に制限されない。核酸増幅法としては、PCR法、NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等が挙げられ、中でもPCR法が好ましい。
【0028】
増幅において、増幅反応液における試料の添加割合は特に制限されない。具体例として、上記試料が生体試料(例えば、全血試料)の場合、添加割合の下限は、0.01体積%以上であることが好ましく、0.05体積%以上であることがより好ましく、0.1体積%以上であることがさらに好ましい。また、上記試料が生体試料(例えば、全血試料)の場合、添加割合の上限は、2体積%以下であることが好ましく、1体積%以下であることがより好ましく、0.5体積%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
また、後述する多型解析方法において、例えば標識化プローブを用いた光学的検出を行う場合、上記反応液における生体試料の添加割合は、例えば、0.1体積%〜0.5体積%に設定することが好ましい。この範囲であれば、例えば、変性による沈殿物等の発生による影響を十分に防止でき、光学的手法による測定精度を向上できる。また、生体試料中の夾雑物によるPCRの阻害も十分に抑制されるため、増幅効率をより一層向上できることも期待される。
【0030】
また、増幅反応の開始前に、上記反応液にさらにアルブミンを添加することが好ましい。このようなアルブミンの添加によって、例えば、沈殿物又は濁りの発生による影響をより一層低減でき、且つ、増幅効率もさらに向上する。
上記反応液におけるアルブミンの添加割合は、例えば、0.01質量%〜2質量%であり、好ましくは0.1質量%〜1質量%であり、より好ましくは0.2質量%〜0.8質量%である。アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、ラット血清アルブミン、ウマ血清アルブミン等が挙げられ、特に制限されない。これらのアルブミンはいずれか1種類を使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
以下、増幅についてPCR法を例に挙げて説明するが、本発明は、この例に制限されない。
【0032】
まず、鋳型核酸と本発明のフォワードプライマーセット及びK−ras遺伝子のコドン13の下流の領域にアニーリングするリバースプライマーとを含むPCR反応液を調製する。
PCR反応液における各種プライマーの添加割合は、特に制限されない。例えば、上記プライマーセット(1)、(2)又は(3)を用いたときの2つのフォワードプライマー及びリバースプライマーの合計の添加割合は、0.01μmol/L〜50μmol/Lであることが好ましく、0.5μmol/L〜5μmol/Lであることがより好ましい。
また、2つのフォワードプライマーの合計の添加割合は、0.01μmol/L〜10μmol/Lであることが好ましく、0.1μmol/L〜1μmol/Lであることがより好ましい。リバースプライマーの添加割合は、0.05μmol/L〜50μmol/Lであることが好ましく、0.5μmol/L〜5μmol/Lであることがより好ましい。
【0033】
PCR反応液におけるフォワードプライマーセット及びリバースプライマーの含有比率は特に限定されない。増幅効率及び野生型又は変異型への特異性を高くする観点から、前記フォワードプライマーセット(1)、(2)又は(3)の合計モル量と前記リバースプライマーの合計モル量との比は、1:1〜1:10であることが好ましく、1:2〜1:5であることがより好ましく、1:3〜1:4.5であることがさらに好ましい。
【0034】
また、前記フォワードプライマーセットに含まれる、K−ras遺伝子の野生型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーと、K−ras遺伝子のG13D変異型のコドン13含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーとのPCR反応液における含有比率は特に限定されない。増幅効率及び特異性を高くする観点から、0.5:2〜1:0.5であることが好ましく、0.8〜1.2:1.2〜0.8であることがさらに好ましい。特に好ましくは1:1である。
【0035】
PCR反応液におけるその他の組成成分は、特に制限されず、従来公知の成分が挙げられ、その割合も特に制限されない。他の組成成分としては、DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸(dNTP)等のヌクレオチド、溶媒等が挙げられる。PCR反応液において、各組成成分の添加順序は何ら制限されない。
【0036】
DNAポリメラーゼは特に制限されない。例えば、従来公知の耐熱性細菌由来のポリメラーゼが使用できる。具体例としては、テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来DNAポリメラーゼ(米国特許第4889818号明細書及び米国特許第5079352号明細書を参照)(Taqポリメラーゼ(商品名))、テルムス・テルモフィラス(Thermus thermophilus)由来DNAポリメラーゼ(国際公開第91/09950号を参照)(rTth DNA polymerase)、ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来DNAポリメラーゼ(国際公開第92/9689号を参照)(Pfu DNA polymerase;Strategene社製)、テルモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)由来DNAポリメラーゼ(欧州特許第0455430号明細書を参照)(Vent(商標);New England Biolabs社製)等が商業的に入手可能である。中でも、テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼが好ましい。
PCR反応液中のDNAポリメラーゼの添加割合は、目的核酸を増幅する目的で当業界において通常用いられる割合であればよい。
【0037】
ヌクレオシド三リン酸としては、通常、dNTP(例えば、dATP、dGTP、dCTP、dTTP、dUTP等)が挙げられる。PCR反応液中のdNTPの添加割合は、目的核酸を増幅する目的で当業界において通常用いられる割合であればよい。
溶媒としては、Tris−HCl、Tricine、MES(2-morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-morpholinopropanesulfonic acid)、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、CAPS(N-cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)等の緩衝液が挙げられ、市販のPCR用緩衝液やPCRキットに付属の緩衝液等をそのまま使用すればよい。
また、PCR反応液には、グリセロール、ヘパリン、ベタイン、NaN、KCl、MgCl、MgSO等が含まれていてもよい。
【0038】
PCRは、通常、(i)二本鎖核酸の一本鎖核酸への解離(解離工程)、(ii)プライマーの鋳型核酸へのアニーリング(アニーリング工程)、(iii)DNAポリメラーゼによるプライマーからの核酸配列の伸長(伸長工程)の3工程を含む。各工程の条件は特に制限されない。解離工程の条件は、例えば、90℃〜99℃、1秒間〜120秒間が好ましく、92℃〜95℃、1秒間〜60秒間がより好ましい。アニーリング工程の条件は、例えば、40℃〜70℃、1秒間〜300秒間が好ましく、50℃〜70℃、5秒間〜60秒間がより好ましい。また、伸長工程の条件は、例えば、50℃〜80℃、1秒間〜300秒間が好ましく、50℃〜80℃、5秒間〜60秒間がより好ましい。サイクル数も特に制限されない。3工程を1サイクルとして、例えば、30サイクル以上が好ましい。上限は特に制限されない。
例えば、合計100サイクル以下、好ましくは70サイクル以下、より好ましくは50サイクル以下である。各工程の温度変化は、例えば、サーマルサイクラー等を用いて自動的に制御すればよい。なお、アニーリング工程と伸長工程とを同じ温度条件とし、2工程でPCRを行ってもよい。
【0039】
以上のようにして、K−ras遺伝子の野生型のコドン13及び/又はG13D変異型のコドン13を含む領域がアリル特異的に増幅された増幅産物を得ることができる。
【0040】
−リバースプライマー−
核酸増幅に使用するリバースプライマーは特に制限されず、従来公知の方法によって設定できる。当業者は、本発明の一実施形態にかかるフォワードプライマーセットと組み合わせてK−ras遺伝子のコドン13を含む領域の核酸を増幅することができるリバースプライマーを得ることができる。
リバースプライマーは、本発明のフォワードプライマーセットに含まれるフォワードプライマーと近いTm値に設定することが好ましい。例えば、フォワードプライマーのTm値との差が10℃以内に設定することが好ましく、5℃以内に設定することがより好ましい。Tm値の算出は後述の通りに行うことができる。このようなプライマーの設計手法は当業者に公知である。例えば、OligoAnalyzer(http://sg.idtdna.com/calc/analyzer)などの設計ツールが公開されており、これらを用いることもできる。
増幅産物の塩基長は特に制限されないが、例えば、50mer〜1000mer、又は80mer〜200merに設定することができる。
【0041】
本発明のフォワードプライマーセットと組み合わせてK−ras遺伝子のコドン13を含む領域の核酸を増幅することができるリバースプライマーとして、具体的には以下に示される配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが例示されるが、これに限定されない。
・配列番号7:ggtcctgcaccagtaatatgca
【0042】
リバースプライマーは、本発明のフォワードプライマーセットに含まれる、K−ras遺伝子の野生型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマー及びG13D変異型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーのそれぞれと組み合わせるリバースプライマーを2種類用いてもよい。しかし、効率性の観点から、野生型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマー及びG13D変異型のコドン13を含む領域を特異的に増幅するためのフォワードプライマーの両方と組み合わせることができる共通のプライマーを1種類用いることが好ましい。
【0043】
<多型解析方法>
本発明の一実施形態にかかる多型解析方法(以下、単に「本発明の多型解析方法」という。)は、本発明のK−ras遺伝子増幅方法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む領域を増幅する増幅工程と、上記増幅工程で得られた増幅産物の一本鎖増幅核酸と、K−ras遺伝子のコドン13の多型部位を含む領域にハイブリダイズ可能なプローブとのハイブリッドを形成するハイブリッド形成工程と、上記ハイブリッドを含む反応液の温度を変化させ、上記ハイブリッドの解離状態に基づくシグナルの変動を測定するシグナル測定工程と、上記シグナルの変動に基づいてK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析する解析工程と、を含むものである。本発明の多型解析方法によれば、試料中の核酸を鋳型として、K−ras遺伝子のコドン13の遺伝子多型部位が野生型である核酸及びK−ras遺伝子のコドン13の遺伝子多型部位がG13D変異型である核酸を、同一反応液において同時に高効率且つ野生型又はG13D変異型それぞれに特異性高く増幅し、K−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することができる。
【0044】
上記核酸増幅は、本発明のK−ras遺伝子増幅方法における核酸増幅と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0045】
次に、上記ハイブリッド形成工程では、上記増幅工程で得られた増幅産物の一本鎖増幅核酸と、K−ras遺伝子のコドン13の多型部位を含む領域にハイブリダイズ可能なプローブ(多型解析用プローブ)とのハイブリッドを形成する。上記一本鎖増幅核酸は、例えば、反応液を加熱し、上記増幅工程で得られた増幅産物である二本鎖増幅核酸を解離することで調製することができる。多型解析用プローブの詳細については後述する。
【0046】
多型解析用プローブを反応液に添加するタイミングは特に制限されない。例えば、増幅工程前、増幅工程の開始時、増幅工程の途中、及び増幅工程後のいずれであってもよい。中でも、増幅工程前又は増幅工程の開始時に添加することが、増幅反応とハイブリダイゼーションとを連続的に行うことができるため好ましい。すなわち、上記増幅工程と上記ハイブリッド形成工程とが同時に進行することが、処理効率の観点から好ましい。
上記反応液における多型解析用プローブの添加割合は特に制限されない。例えば、多型解析用プローブを10nmol/L〜400nmol/Lの範囲となるように添加することが好ましく、20nmol/L〜200nmol/Lの範囲となるように添加することがより好ましい。
【0047】
上記一本鎖増幅核酸と多型解析用プローブとのハイブリダイゼーションの手法及び条件には、特に制限はない。二本鎖増幅核酸を解離して一本鎖増幅核酸にすること、一本鎖核酸同士をハイブリダイズすることを目的として当業界で既知の条件をそのまま適用すればよい。
例えば、解離における加熱温度は、上記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されないが、例えば、85℃〜95℃である。加熱時間も特に制限されないが、通常、1秒間〜10分間であり、好ましくは1秒間〜5分間である。また、解離した一本鎖増幅核酸と多型解析用プローブとのハイブリダイズは、例えば、解離後、解離における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件は、例えば40℃〜50℃である。
【0048】
上記増幅工程において、本発明のフォワードプライマーセットと多型解析用プローブとを共存させる場合、多型解析用プローブがDNAポリメラーゼの反応対象となって多型解析用プローブ自体が伸長することを予防するために、多型解析用プローブの3’末端側に後述する蛍光標識が付加されているか、リン酸基が付加されていることが好ましい。
【0049】
また、多型解析用プローブは、標識が付されている標識化プローブであることが検出の効率性の観点から好ましい。例えば、野生型のコドン13の増幅産物とG13D変異型のコドン13の増幅産物にそれぞれ特異的なプローブを2種類使用する場合には、それぞれ異なる条件で検出される異なる標識によって標識化されていることが好ましい。このように異なる標識を使用することによって、同一反応液であっても、検出条件を変えることによって各増幅産物を別個に解析することが可能となる。
【0050】
標識化プローブにおける標識物質の具体例としては、蛍光色素及び蛍光団が挙げられる。標識化プローブとしては、このような蛍光色素又は蛍光団で標識された蛍光標識化プローブを用いることが好ましい。蛍光標識化プローブの具体例としては、蛍光色素で標識され、単独(相補配列にハイブリダイズしていないとき)で蛍光を示し且つハイブリッド形成(相補配列にハイブリダイズしているとき)により蛍光が減少(例えば、消光)するプローブが挙げられる。
【0051】
このような蛍光消光現象(Quenching phenomenon)を利用したプローブは、一般に蛍光消光プローブと称される。上記蛍光消光プローブは、オリゴヌクレオチドの3’領域(例えば、3’末端)又は5’領域(例えば、5’末端)の塩基が蛍光色素で標識化されていることが好ましく、標識化される塩基は、シトシン(C)であることが好ましい。この場合、蛍光消光プローブがハイブリダイズする検出目的配列において、蛍光消光プローブの末端塩基Cと対をなす塩基又は当該対をなす塩基から1〜3塩基離れた塩基がグアニン(G)となるように、蛍光消光プローブの塩基配列を設計することが好ましい。このような蛍光消光プローブは、一般にグアニン消光プローブと称され、いわゆるQ Probe(登録商標)として知られている。
このようなグアニン消光プローブが検出目的配列にハイブリダイズすると、蛍光色素で標識化された末端のシトシン(C)が検出目的配列におけるグアニン(G)に近づくことによって、蛍光色素の発光が弱くなる(蛍光強度が減少する)という現象を示す。このようなグアニン消光プローブを使用すれば、シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。標識物質は、通常、ヌクレオチドのリン酸基に結合することができる。
【0052】
なお、Q Probeを用いた検出方法以外にも、公知の検出様式を適用してもよい。このような検出様式としては、Taq−man Probe法、RFLP法、Hybridization Probe法、Molecular Beacon法、MGB probe法等が挙げられる。
【0053】
上記蛍光色素としては、特に制限されないが、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等が挙げられる。市販の蛍光色素としては、例えば、Pacific Blue(登録商標、モレキュラープローブ社製)、TAMRA(登録商標、モレキュラープローブ社製)、BODIPY FL(登録商標、モレキュラープローブ社製)、FluorePrime(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Cy3及びCy5(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Fluoredite(商品名、ミリポア社製)、FAM(登録商標、ABI社製)等が挙げられる。複数のプローブに使用する蛍光色素の組み合わせは、異なる条件で検出できればよく、特に制限されないが、例えば、Pacific Blue(検出波長:450nm〜480nm)、TAMRA(検出波長:585nm〜700nm)、及びBODIPY FL(検出波長:515nm〜555nm)の組み合わせ等が挙げられる。
【0054】
また、多型解析用プローブが、蛍光色素等の標識物質で標識化された標識化プローブである場合、標識化プローブと同じ配列である未標識プローブを併用してもよい。これにより、例えば、検出する蛍光強度等のシグナル強度を調節することができる等の利点が得られる。この未標識プローブは、その3’末端にリン酸基が付加されていてもよい。
【0055】
次に、上記シグナル測定工程では、上記ハイブリッドを含む反応液の温度を変化させ、上記ハイブリッドの解離状態に基づくシグナルの変動を測定する。上記ハイブリッドの解離状態を示すシグナルの測定は、260nmの吸光度測定でもよいが、標識物質のシグナル測定であることが好ましい。標識物質のシグナル測定とすることによって、検出感度を高めることができる。
【0056】
上記ハイブリッドの解離状態に基づくシグナルの変動は、反応液の温度を変化させて行う。例えば、上記反応液を加熱し、すなわち、一本鎖増幅核酸と多型解析用プローブとのハイブリッドを加熱し、温度上昇に伴うシグナルの変動を測定する。前述のように、例えば、末端のC塩基が標識化された標識化プローブ(グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖増幅核酸とハイブリダイズした状態では蛍光が減少(又は消光)し、解離した状態では蛍光を発する。したがって、例えば、蛍光が減少(又は消光)しているハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。なお、標識化プローブを使用する場合、シグナルは、標識化プローブの標識物質に応じた条件で測定することができる。
【0057】
シグナルの変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温〜85℃、好ましくは25℃〜70℃であり、終了温度が40℃〜105℃である。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば0.1℃/秒〜20℃/秒であり、好ましくは0.3℃/秒〜5℃/秒である。
【0058】
次に、上記解析工程では、上記シグナルの変動に基づいてK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析する。その際、上記シグナル測定工程で得られたシグナルの変動を解析してTm値を決定し、このTm値に基づいてK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することが好ましい。
Tm値の決定は、例えば、以下のようにして行うことができる。前述のように、例えば、末端のC塩基が標識化された標識化プローブ(グアニン消光プローブ)を使用した場合、得られた蛍光強度の変動から、各温度における単位時間当たりの蛍光強度変化量を算出する。変化量を(−d(蛍光強度増加量)/dt)とする場合は、例えば、最も低い値を示す温度をTm値として決定することができる。また、変化量を(d(蛍光強度増加量)/dt)とする場合は、例えば、最も高い値を示す温度をTm値として決定することができる。
なお、標識化プローブとして、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示すプローブを使用した場合には、反対に、蛍光強度の減少量を測定すればよい。
【0059】
上記解析工程では、このようにして決定されたTm値に基づいて、K−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することができる。
例えば、K−ras遺伝子のG13D変異型のコドン13を検出する場合、その変異型塩基を含む検出目的配列に完全に相補的な多型解析用プローブを使用し、形成したハイブリッドのTm値が、基準値として予め決定しておいた完全に相補的なハイブリッドのTm値と同じであれば、目的塩基はG13D変異型と判断できる。また、形成したハイブリッドのTm値が、基準値として予め決定しておいた一塩基異なるハイブリッドのTm値と同じ(完全に相補的なハイブリッドのTm値よりも低い値)であれば、目的塩基は野生型と判断できる。また、両方のTm値が検出された場合には、G13D変異型を示す核酸と野生型を示す核酸とが共存していると決定できる。
【0060】
なお、以上の説明では、上記シグナル測定工程においてハイブリッドを加熱し、温度上昇に伴うシグナル変動を測定するものとしたが、ハイブリッド形成時におけるシグナルの変動を測定するようにしてもよい。つまり、多型解析用プローブを含む反応液の温度を降下させてハイブリッドを形成する際に、温度降下に伴うシグナルの変動を測定してもよい。
【0061】
具体例として、単独でシグナルを示し且つハイブリッド形成によりシグナルを示さない標識化プローブ(例えば、グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖増幅核酸と標識化プローブとが解離している状態では蛍光を発するが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光が減少(又は消光)する。したがって、例えば、反応液の温度を徐々に降下させて、温度降下に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。他方、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示す標識化プローブを使用した場合、一本鎖増幅核酸と標識化プローブとが解離している状態では蛍光を発しないが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光を発するようになる。したがって、例えば、反応液の温度を徐々に降下させて、温度降下に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0062】
K−ras遺伝子の野生型コドン13及びG13D変異型コドン13の核酸配列が混在している場合に、コドン13の遺伝子型の判定を行うためには、温度とシグナル強度の微分値との関係で表される融解曲線(微分融解曲線ともいう)において、野生型コドン13及びG13D変異型コドン13それぞれのTm値のピーク面積を算出することによって行うこともできる。
【0063】
まず、例えば、野生型の核酸WtとG13D変異型の核酸Mtとの核酸混合物を含む試料について、融解曲線解析装置を用いて融解曲線を得る。
図1(A)に、ある1つの核酸混合物の温度と吸光度または蛍光強度等の検出信号との関係で表された融解曲線、及び同図(B)微分融解曲線を示す。この微分融解曲線からピークを検出することにより、核酸Wtの融解温度TmW及び核酸Mtの融解温度TmMを検出して、TmW及びTmMを含む温度範囲の各々を設定する。
【0064】
TmWを含む温度範囲ΔTWとしては、例えば、TmWとTmMとの間で検出信号の微分値が最小となる温度を下限、検出信号のピークの裾野に対応する温度を上限とする温度範囲を設定することができる。また、TmMを含む温度範囲ΔTMとしては、例えば、TmWとTmMとの間で検出信号の微分値が最小となる温度を上限、検出信号のピークの裾野に対応する温度を下限とする温度範囲を設定することができる。
なお、温度範囲ΔTW及び温度範囲ΔTMは、同一の幅(例えば、10℃)または異なる幅(例えば、温度範囲ΔTWが10℃、温度範囲ΔTMが7℃)となるように設定してもよい。また、温度範囲ΔTW及び温度範囲ΔTMは、それぞれの融解温度TmからプラスX℃、マイナスX℃の幅(X℃は例えば15℃以内、望ましくは10℃以内)というように設定してもよい。
【0065】
次に、温度範囲ΔTW及び温度範囲ΔTMの各々について、微分融解曲線の温度範囲の下限に対応する点と上限に対応する点とを通る直線と微分融解曲線とで囲まれた面積(図1(B)の斜線部分)を求める。面積の求め方の一例として、具体的に以下のように求めることができる。温度Tにおける検出信号の微分値をf(T)とし、温度Tにおけるベース値をB(T)として、下記(1)式により求める。
【0066】
面積S={f(Ts+1)−B(Ts+1)}+{f(Ts+2)−B(Ts+2)}+{f(Te−1)−B(Te−1)} ・・・(1)
ただし、Tsは各温度範囲における下限値、Teは上限値である。また、各温度Tにおけるベース値B(T)は、下記(2)式により求まる値であり、検出信号に含まれるバックグラウンドレベルを表すものである。このベース値を検出信号の微分値から減算することにより、検出信号に含まれるバックグラウンドの影響を除去する。
【0067】
B(T)=a×(T−Ts)+f(Ts) ・・・(2)
ただし、a={f(Te)−f(Ts)}/(Te−Ts)である。
【0068】
上記(1)式及び(2)式に従って、前記核酸混合物について、温度範囲ΔTWにおける面積SW及び温度範囲ΔTMにおける面積SMを求め、面積比によって野生型のコドン13と、G13D変異型のコドン13の存在の有無を判定することができる。
面積比は、下記(3)式により求めることができる。
【0069】
面積比(%)=(SM/SW)×100 ・・・(3)
例えば、K−ras遺伝子のG13D変異型の存在の有無の判定は、上記(3)式の面積比のカットオフ値を10%と設定し、10%以上であればG13D変異型のコドン13が存在する(陽性)であると判定してもよい。カットオフ値は、希望する検出感度及び特性に応じて適宜設定すればよい。
【0070】
試料中のK−ras遺伝子の野生型のコドン13及びG13D変異型のコドン13の核酸配列の存在比を定量的に測定する場合には、実際の試料を用いて得られた融解曲線と微分融解曲線から面積比を算出し、予め作成した検量線に基づいて、実際の試料中に含まれる多型を有する塩基配列の存在比を決定してもよい。
【0071】
検量線の作成は、例えば、野生型の核酸Wtと変異型の核酸Mtとの2種類の核酸の存在比を各々異ならせた複数の核酸混合物を作製し、複数の核酸混合物の各々について、融解曲線を得る。続いて、上記(1)式及び(2)式に従って、各核酸混合物について、温度範囲ΔTWにおける面積SW及び温度範囲ΔTMにおける面積SMを求め、面積比と各核酸混合物の存在比との関係を表す検量線を作成する。例えば、横軸に存在比(核酸混合物の総量に対する核酸Mtの割合)をとり、縦軸に面積比(SM/SW)をとった検量線とすることができる。検量線は、横軸に存在比(核酸混合物の総量に対する核酸Mtの割合)をとり、縦軸に面積比(SM/SW)をとって作成してもよい。なお、面積比はSW/SMで定めてもよい。
【0072】
以下、本発明の多型解析方法で用いられるプローブ(多型解析用プローブ)について詳細に説明する。
多型解析用プローブは、特に制限されず、従来公知の方法によって設定できる。例えば、遺伝子多型部位を含む検出対象配列として、K−ras遺伝子のセンス鎖の配列に基づいて設計してもよいし、アンチセンス鎖の配列に基づいて設計してもよい。また、遺伝子多型部位を含む領域に結合するよう設計し、野生型及び変異型それぞれとの親和性が異なるように設計してもよい。あるいは、遺伝子多型部位を含まない領域に結合するよう設計してもよい。当業者は、適用する多型解析の方法に応じて、好適なプローブを従来公知の方法によって設計することができる。
【0073】
例えば、配列番号6における224番目の塩基がGであるのが野生型K−ras遺伝子のコドン13であり、AであるのがG13D変異型であるので、配列番号6の224番目に対応する塩基がGである検出対象配列、及び配列番号6の224番目に対応する塩基がAである検出対象配列のいずれかに相補的なプローブ(センス鎖の検出用プローブ)、並びにそのアンチセンス鎖の配列に相補的なプローブ(アンチセンス鎖の検出用プローブ)を使用することができる。
【0074】
プローブの具体例を表1に示すが、これに限定されるものではない。表1のプローブは、G13D変異型K−ras遺伝子のアンチセンス鎖を検出するためのプローブである。配列番号8〜13として示される塩基配列中、大文字で示されるAはG13D変異型K−ras遺伝子のコドン13の多型部位に相補的な塩基である。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示すK−ras遺伝子のコドン13の多型解析用プローブは、前述のように、蛍光色素等の標識物質で標識化することが好ましい。また、3’末端にリン酸基を付加することが好ましい。多型解析用プローブの具体例としては、表1に示すオリゴヌクレオチドの相補鎖であってもよい。
【0077】
<薬効判定方法>
本発明の一実施形態にかかる薬効判定方法(以下、単に「本発明の薬効判定方法」という。)は、本発明の多型解析方法によりK−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することと、上記解析における解析結果に基づいて薬剤の薬効を判定することと、を含むものである。
【0078】
前述のように、本発明の多型解析方法によれば、試料中の核酸を鋳型として、K−ras遺伝子のコドン13の遺伝子多型部位を含む領域を同一反応液において同時に高効率且つ野生型又はG13D変異型それぞれに特異的に増幅し、K−ras遺伝子のコドン13の多型を解析することができる。K−ras遺伝子のコドン13がG13D変異型である場合、野生型である場合と比べて抗EGFR抗体薬の薬効が低いことが知られている。したがって、本発明の薬効判定方法によれば、K−ras遺伝子のコドン13の多型解析結果に基づき、薬効を判定することができる。
得られた判定結果は、薬剤の効果の予測に用いることができるほか、投与量の変更、他の薬剤への切り替え等を含めた治療方針の決定に用いることができる。
例えば、K−ras遺伝子のコドン13がG13D変異型であった場合、抗EGFR抗体薬の薬効が低いと予測されるため、他の薬剤への切り替えを行うことができる。薬剤の効果の予測、投与量の変更、他の薬剤への切り替え等を含めた治療方針の決定は、K−ras遺伝子の他の変異の有無や、他の関連遺伝子の遺伝子型の判定と組み合わせて行ってもよい。
また、薬剤は抗EGFR抗体薬に限られず、K−ras遺伝子のコドン13が野生型かG13D変異型かにより薬効に差異がある薬剤であればよい。
【0079】
<K−ras遺伝子増幅用キット>
本発明の一実施形態にかかるK−ras遺伝子遺伝子増幅用キット(以下、単に「本発明のキット」という。)は、本発明のフォワードプライマーセットを含むものであり、核酸増幅法によりK−ras遺伝子のコドン13を含む目的領域を増幅するために用いられる。本発明のキットが本発明のフォワードプライマーセットを含むことにより、K−ras遺伝子のコドン13の遺伝子多型部位を含む領域を、野生型及びG13D変異型それぞれに特異的性高く且つ効率的に増幅することができる。
【0080】
本発明のキットは、本発明のフォワードプライマーセットを用いた遺伝子増幅法に用いるリバースプライマーを含むことが好ましい。
本発明のキットは、本発明のフォワードプライマーセットを用いた遺伝子増幅法により得られる増幅産物を検出するために、増幅産物にハイブリダイズ可能な各プローブをさらに含むことが好ましい。このプローブは、前述のように、蛍光標識化プローブであることが好ましい。リバースプライマー及びプローブについては、前述したリバースプライマー及びプローブに関する事項をそのまま適用することができる。
【0081】
本発明のキットに含まれるフォワードプライマーセット(1)、(2)又は(3)は、各フォワードプライマーセットに含まれる2つのフォワードプライマーが別個に収容されていてもよく、混合物とされていてもよい。また、本発明の一実施形態にかかるフォワードプライマーセットと、リバースプライマー又は上記プローブとは、別個に収容されていてもよく、混合物とされていてもよい。
なお、「別個に収容」とは、各試薬が非接触状態を維持できるように区分けされていればよく、必ずしも独立して取扱い可能な個別の容器に収容される必要はない。
【0082】
試薬類は、例えば、緩衝液中に溶解された状態で含まれていてもよいし、凍結乾燥品として含まれていてもよい。試薬類を収容する容器としては、例えば、ガラス製やプラスチック製のバイアル等を用いることができる。
【0083】
本発明のキットは、上記のほかに、本発明のK−ras遺伝子増幅方法又は本発明の多型解析方法に必要な各種の試薬類をさらに含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の遺伝子増幅方法又は本発明の多型解析方法について記載された使用説明書、本発明のキットに含まれる若しくは追加的に含むことが可能な各種の試薬について記載された使用説明書等をさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
K−ras遺伝子のコドン13が野生型又は変異型である核酸をそれぞれ特異的に増幅するためのフォワードプライマーとして、表2に示す各プライマーを評価した。これらのプライマーは、いずれも常法に従って作製した。
【0086】
【表2】
【0087】
表2において、「野生型特異的増幅用プライマー」は、コドン13が野生型であるK−ras遺伝子を特異的に増幅するためのフォワードプライマーであり、「G13D変異型特異的増幅用プライマー」は、コドン13がG13D変異型であるK−ras遺伝子を特異的に増幅するためのフォワードプライマーである。
野生型特異的増幅用プライマー4種と、G13D変異型特異的増幅用プライマー3種との全ての組み合わせについて評価を行った。
【0088】
以下の実施例では、表3に示す反応液を用い、遺伝子解析装置(商品名i−densy IS−5320、アークレイ社製)によりPCR及びTm解析を行った。
【0089】
【表3】
【0090】
プローブは、5FL−KrasG13Dmt−F6(配列番号12)を使用した。プローブ5FL−KrasG13Dmt−F6の詳細を表4に示す。表4に示す配列において、(FL)は5’末端のシトシン(C)が蛍光色素であるBODIPY FL(登録商標、モレキュラープローブ社製、検出波長:515nm〜555nm)が標識化されていることを示し、Pは、3’末端にリン酸基が付加されていることを示す。5’末端の蛍光標識及び3’末端へのリン酸基の付加は定法に従って行った。
また、表4に示す塩基配列中、大文字の塩基は、K−ras遺伝子のコドン13のG13D遺伝子多型部位に対応する塩基であることを示す。
【0091】
【表4】
【0092】
核酸増幅の鋳型として、(1)野生型のコドン13を有するK−ras遺伝子に対応するテンプレート(野生型テンプレート)(商品名 Human Genomic DNA、ロシュ・ダイアグノスティックスGmbH)、(2)野生型プラスミドDNAに、コピー数が0.3%となるようにG13D変異型プラスミドDNAを添加したテンプレート(0.3%変異型テンプレート)の2種類のテンプレートを用いてプライマーの評価を行った。0.3%変異型テンプレートに使用したプラスミドDNAは Genbank Accession No. NG_007524, 10380−10699の配列を含むpUC57ベクター(GenScript)である。使用したテンプレートのコピー数は、野生型テンプレートも0.3%変異型テンプレートも1回測定当たり10000コピーとした。
【0093】
リバースプライマーは表5に記載のものを使用した。
【0094】
【表5】
【0095】
調製した反応液を用いて、全自動SNPs検査装置(商品名i−densy IS−5320、アークレイ社製)によりPCR及びTm解析を行った。
PCRは、95℃で60秒間処理した後、95℃で1秒間及び58℃で15秒間を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
Tm解析は、95℃で1秒間、40℃で60秒間処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で40℃から95℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。なお、Tm解析における蛍光色素BODIPY FLの励起波長は420nm〜485nmであり、検出波長は520nm〜555nmである。
【0096】
面積比(%)=(変異型特異的ピークの面積/野生型特異的ピークの面積)×100
式中、「野生型特異的ピーク」はTm値解析の微分融解曲線における、コドン13が野生型であるK−ras遺伝子に特異的なピークであり、「変異型特異的ピーク」は、コドン13がG13D変異型であるK−ras遺伝子に特異的なピークである。ピークの面積は前述の通り算出した。前述の方法において、温度範囲ΔTW及び温度範囲ΔTMはいずれもは6°Cとした。
上記式によって求められた面積比(%)が10%以上であった場合にG13D変異型K−ras遺伝子が存在する(陽性)、10%未満であった場合にG13D変異型K−ras遺伝子が存在しない(陰性)と判定した。
【0097】
野生型テンプレート及び0.3%変異型テンプレートについての各フォワードプライマーセットによる判定結果を表6に示す。総合判定における「偽陽性」は、G13D変異型を有するK−ras遺伝子が含まれない野生型テンプレートを用いたときにG13D変異型K−ras遺伝子が陽性と判定されたことを意味する。「偽陰性」は、野生型テンプレートを用いたときにG13D変異型K−ras遺伝子は陰性であると正しく判定されたが、0.3%変異型テンプレートを用いたときにG13D変異型K−ras遺伝子の存在を検出できずに陰性と判定されたことを意味する。「正答」は、野生型テンプレートを用いたときにG13D変異型K−ras遺伝子が陰性であると正しく判定され、且つ、0.3%変異型テンプレートを用いたときに、G13D変異型K−ras遺伝子が陽性と正しく判定されたことを意味する。
野生型テンプレートを用いたときのTm値解析によって得た微分融解曲線を図2に、0.3%変異型テンプレートを用いたときのTm値解析によって得た微分融解曲線を図3に、それぞれ示す。
【表6】
【0098】
(1)野生型特異的プライマーWT−F6及び変異型特異的プライマーMt−F3、(2)野生型特異的プライマーWT−F10及び変異型特異的プライマーMt−F5又は(3)野生型特異的プライマーWT−F10及び変異型特異的プライマーMt−F8、のフォワードプライマーセットによって、偽陽性を示さず、且つ、野生型テンプレートにわずか0.3%含まれる変異型テンプレートでも検出することができ、正しい判定結果を得られた。
また、K−ras遺伝子の全コピー数に対して0.3%のコピー数が含まれるコドン13がG13D変異型であるK−ras遺伝子を偽陽性無く検出することができるということは、循環血中に存在する腫瘍由来のコドン13がG13D変異型であるK−ras遺伝子を、臨床上使用できる程度に検出可能であることを示している。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]