(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754219
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】床版接合構造および床版更新方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20200831BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20200831BHJP
E01D 24/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
E01D24/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-95806(P2016-95806)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2017-203298(P2017-203298A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】峯村 智也
(72)【発明者】
【氏名】石原 陽介
(72)【発明者】
【氏名】北村 健
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】相浦 聡
【審査官】
富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−185398(JP,A)
【文献】
特開平08−003933(JP,A)
【文献】
特開2005−256430(JP,A)
【文献】
特開平09−273116(JP,A)
【文献】
特開2004−116139(JP,A)
【文献】
特開2008−280683(JP,A)
【文献】
特開2009−079401(JP,A)
【文献】
特開2003−055916(JP,A)
【文献】
特開2002−332609(JP,A)
【文献】
特開2007−239365(JP,A)
【文献】
米国特許第04972537(US,A)
【文献】
実公昭54−31773(JP,Y2)
【文献】
特開2005−76289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D1/00−24/00
E04B1/38−1/61
5/00−5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼桁と、
前記鋼桁の上面に載置された床版と、
前記鋼桁と前記床版とを接合する固定部材と、を備える床版接合構造であって、
前記固定部材は、前記鋼桁の上フランジの下面とウェブの側面との角部に固定されており、
前記鋼桁のウェブの側面に固定された固定片と、
前記ウェブと交差する方向に延設された上片と、
前記上片の上面に立設された接合用ジベルと、を備えており、
前記上片の先端部は、前記フランジの側端よりも突出しており、
前記接合用ジベルは、前記上片の先端部に固定されているとともに前記床版に挿入されていることを特徴とする、床版接合構造。
【請求項2】
一対の前記固定部材が、前記鋼桁のウェブを挟んで対向しており、
前記一対の固定部材の固定片同士が、前記ウェブを貫通したボルトにより固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の床版接合構造。
【請求項3】
前記固定部材が、前記鋼桁の軸方向に沿って連続する形鋼であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の床版接合構造。
【請求項4】
鋼桁の上面に固定された既設床版を撤去する撤去工程と、
前記鋼桁の上フランジとウェブとの角部に固定部材を固定する固定部材取付工程と、
前記鋼桁の上フランジに新設床版を載置する床版載置工程と、を備える床版更新方法であって、
前記固定部材は、前記上フランジの側方において上向きに突出する接合用ジベルを備えており、
前記床版載置工程では、前記新設床版に形成された箱抜きに前記接合用ジベルを挿入することを特徴とする、床版更新方法。
【請求項5】
前記固定部材取付工程では、前記ウェブを挟んで対向するように一対の前記固定部材を配設し、前記一対の固定部材および前記ウェブを貫通するボルトにナットを締着することを特徴とする、請求項4に記載の床版更新方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床版接合構造および床版更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
床版更新工事として、老朽化した床版を鋼桁から撤去した後、新設の床版を鋼桁に設置する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
床版の更新(取り換え)は、コンクリート製の既設の床版を破砕することにより細かく分割して撤去した後、新設の床版を鋼桁上に載置するのが一般的である。ところが、床版を破砕するには手間と時間がかかる。また、破砕の際に生じる騒音や振動によって近隣に影響を及ぼすおそれがある。
そのため、床版の更新方法として、既設の床版と鋼桁との接合部を切断することで、比較的簡易かつ早期に床版を撤去する場合がある。このとき、床版と鋼桁との接合部材として鋼桁の上面に突設された接合用ジベル(スタッドジベル等)は、既設の床版のコンクリートともに切断する。そのため、床版を新設する際には、既設の鋼桁の上面に新たな接合用ジベルを溶接し、この接合用ジベルを巻き込んだ状態で新設の床版を設置する。
また、特許文献2には、鋼桁のウェブの上部分を切断することで、既設の床版とともに鋼桁の上部分を撤去した後、鋼桁の上部分を備える新設の床版を既設の鋼桁の下部分と接合する床版更新方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256430号公報
【特許文献2】特開2007−239365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋼桁の上面に接合用ジベルを新設するためには、鋼桁の上面に残存するコンクリートをケレンして除去する必要があるため、その作業に手間がかかる。また、接合用ジベルの溶接作業にも手間がかかる。
また、鋼桁をウェブにおいて切断する方法は、鋼桁の下部分のウェブと上部分のウェブとの接合面を突き合わせた状態で接合する必要があるため、その作業に手間がかかる。また、ウェブ同士の接合部では、桁軸に沿って多数のボルト孔を形成する必要があるため、その作業にも手間がかかる。さらに、鋼桁の上フランジを撤去することで鋼桁の耐力が低下するため、鋼桁の耐力を増加させるための補強工が必要となる。
このような観点から、本発明は、床版更新工事における施工時の手間を削減し、工期短縮化を図ることを可能とした床版接合構造および床版更新方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の床版接合構造は、鋼桁と、前記鋼桁の上面に載置された床版と、前記鋼桁と前記床版とを接合する固定部材とを備えるものであって、前記固定部材は、
前記鋼桁の上フランジの下面とウェブの側面との角部に固定されており、前記鋼桁のウェブの側面に固定された固定片と、前記ウェブと交差する方向に延設された上片と、前記上片の上面に立設された接合用ジベルとを備えており、前記上片の先端部は前記フランジの側端よりも突出しており、前記接合用ジベルは前記上片の先端部に固定されているとともに前記床版に挿入されていることを特徴としている。
かかる床版接合構造によれば、固定部材を介して鋼桁と床版とを接合するため、鋼桁の上面に新たに接合用ジベルを形成する必要がない。そのため、床版更新工事における鋼桁の上面のケレン作業や接合用ジベルの設置作業に要する手間を省略することができる。
なお、一対の前記固定部材を前記鋼桁のウェブを挟んで対向させて、前記一対の固定部材の固定片同士を前記ウェブを貫通したボルトにより固定すれば、固定部材を固定するための固定手段を別途用いることなく固定部材を固定することができる。
また、前記固定部材が、前記鋼桁の軸方向に沿って連続する形鋼であれば、固定部材により鋼桁を補強することが可能となる。そのため、床版の更新に伴い、鋼桁に作用する力が増加した場合であっても、所望の耐力を発現することができる。
【0006】
また、本発明の床版更新方法は、鋼桁の上面に固定された既設床版を撤去する撤去工程と、 前記鋼桁の
上フランジとウェブ
との角部に固定部材を固定する固定部材取付工程と、前記鋼桁の上フランジに新設床版を載置する床版載置工程とを備える床版更新方法であって、前記固定部材は前記上フランジの側方において上向きに突出する接合用ジベルを備えており、前記床版載置工程では前記新設床版に形成された箱抜きに前記接合用ジベルを挿入することを特徴としている。
かかる床版更新方法によれば、鋼桁の上面に新たに接合用ジベルを形成する必要がないため、撤去工程後の鋼桁の上面のケレン作業や接合用ジベルの設置作業に要する手間を省略することができる。また、新設床版は、接合用ジベルが箱抜きに挿入されるように配置すればよいため、位置決めが容易となり、施工性に優れている。
なお、前記固定部材取付工程では、前記ウェブを挟んで対向するように一対の前記固定部材を配設し、前記一対の固定部材および前記ウェブを貫通するボルトにナットを締着するのが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の床版と鋼桁の接合構造および床版更新方法によれば、床版更新工事における施工時の手間を削減し、ひいては、工期の短縮化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る床版接合構造を示す斜視図である。
【
図2】(a)は
図1に示す床版接合構造の詳細を示す断面図、(b)は同斜視図である。
【
図3】(a)〜(c)は本発明の実施形態に係る床版更新方法の各工程を示す断面図である。
【
図4】他の形態に係る床版接合構造を示す斜視図である。
【
図5】その他の形態に係る床版接合構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態では、床版更新工事として、老朽化した既設の床版を鋼桁から撤去した後、新設の床版を鋼桁に設置する場合に採用する床版接合構造およびこれを利用した床版更新方法について説明する。
本実施形態の床版接合構造1は、
図1に示すように、鋼桁2と、床版3と、固定部材4とを備えている。
【0010】
鋼桁2は、道路橋において、床版3を支持する主桁であって、既設の床版を撤去した後もそのまま残置させた既設部材である。
本実施形態の鋼桁2は、
図2(a)に示すように、上下のフランジ21,22と、両フランジ21,22の間に設けられたウェブ23により断面視I字状を呈している。なお、鋼桁2を構成する材料および鋼桁2の断面形状は限定されるものではない。
図2(b)に示すように、上下のフランジ21,22とウェブ23により形成された空間には、所定の間隔をあけてリブ24,24,…が設けられている。なお、リブ24は、必要に応じて設置すればよい。
図1に示すように、本実施形態では、1枚の床版3を3本の鋼桁2により支持している。なお、床版3を支持する鋼桁2の数は限定されるものではない。
【0011】
床版3は、
図1に示すように、鋼桁2の上面に載置された、コンクリート製の板状部材である。本実施形態では、床版3として、工場等で生産されたプレキャスト部材を採用する。
床版3には、鋼桁2の位置に対応して複数の箱抜き31が形成されている。本実施形態では、各鋼桁2の位置に対応して、鋼桁2の桁軸に沿った3つの箱抜き31が2列並設されている。各箱抜き31の列は、鋼桁2の上フランジ21の外側に形成されている(
図2(a)参照)。すなわち、桁軸と交差する方向で隣り合う箱抜き31,31は、
図2(a)に示すように、上フランジ21を挟んで対向するように形成されている。箱抜き31は、平面視矩形状の開口であって、床版3を上下に貫通している。
また、床版3には、隣接する他の床版3との接合部に、継手部32,32,…が形成されている。継手部32は、床版3の縁に形成された凹部であって、床版3同士を付き合わせた際に、平面視矩形状の凹部(箱抜き)が形成されるように構成されている。なお、継手部32の構成(形状や配置等)は限定されるものではない。また、継手部32は必要に応じて形成すればよい。
【0012】
固定部材4は、鋼桁2と床版3との接合部に配置されている。
固定部材4は、
図2(a)に示すように、固定部材本体40と接合用ジベル41とを備えている。
本実施形態の固定部材本体40は、鋼桁2のウェブ23の側面に固定された固定片43および固定片43(ウェブ23)と交差する方向に延設された上片42を備えたいわゆる山形鋼により構成されている。なお、固定部材本体40を構成する材料は、鋼桁2の上フランジ21とウェブ23との角部(角付近)に固定することが可能であれば限定されるものではなく、例えば溝形鋼により構成してもよい。
本実施形態では、ウェブ23を挟んで対向するように一対の固定部材4,4を配置し、両固定部材4,4の固定片43同士を、ウェブ23を貫通したボルト44により固定している。また、固定部材4を固定するために使用するボルト44の本数や配置は限定されるものではない。
【0013】
上片42は、固定片43の上フランジ21側の端部から、上フランジ21の下面に沿って延設されている。上片42の上面は、上フランジ21の下面との間に隙間を有していてもよいし、上フランジ21の下面に当接していてもよい。
上片42の先端部は、上フランジ21の側端よりも外側に突出していて、床版3の箱抜き31の下方に位置している。
接合用ジベル41は、上片42の先端部上面に立設されていて、箱抜き31に挿入されている。本実施形態の接合用ジベル41は、床版3の厚さの1/2程度以上の高さを有していて、上端が床版3の高さ方向中間部よりも上側に位置している。
本実施形態では、接合用ジベル41として、
図2(b)に示すように孔あき鋼板ジベルを採用する。なお、接合用ジベル41の形状寸法は限定されない。
【0014】
次に、本実施形態の床版接合構造1を利用した床版更新方法について説明する。
床版更新方法は、撤去工程と、固定部材取付工程と、床版載置工程とを備えている。
撤去工程は、
図3(a)に示すように、鋼桁2の上面に固定された既設床版3aを撤去する工程である。
本実施形態では、コンクリートブレーカーMを使用して、既設床版3aを破砕することで、既設床版3aを撤去する。このとき、鋼桁2の上面に突設された接合用ジベル4aも既設床版3aとともに撤去する。なお、既設床版3aの撤去方法は限定されるものではない。例えば、コンクリートカッターを利用して複数に分割して撤去してもよいし、ワイヤーソー等により鋼桁2との接合部を切断することにより撤去してもよい。
【0015】
固定部材取付工程は、鋼桁2に固定部材4を固定する工程である。
固定部材4は、
図3(b)に示すように、鋼桁2の上フランジ21の下面とウェブ22の側面との角部に固定する。すなわち、固定部材4は、上片42を上フランジ21の下面と平行に配置するとともに、固定片43をウェブ22に当接させた状態で固定する。
なお、ウェブ22には、ボルト44を挿通するための貫通孔を予め形成しておく。
本実施形態では、一対の固定部材4,4を、ウェブ22を挟んで対向するように添設し、これらの固定部材4,4およびウェブ22を貫通するボルト44にナット45を締着することで、固定部材4,4を鋼桁2に固定する。
固定部材4,4を鋼桁2に固定すると、
図3(c)に示すように、各固定部材4の接合用ジベル41が、上フランジ21の側方において、上向きに突出した状態となる。
【0016】
床版載置工程は、鋼桁2の上フランジ21に床版3を載置する工程である。
図3(c)に示すように、床版3は、下面において開口する(床版3を貫通する)箱抜き31に接合用ジベル41が挿入されるように、載置する。
床版3を載置したら、箱抜き31および継手部32内に充填材5を充填する(
図2(a)参照)。なお、充填材を構成する材料は、硬化して所定の強度を発現するものであれば限定されるものではないが、例えば、モルタルを使用すればよい。
【0017】
本実施形態の床版接合構造1および床版更新方法によれば、固定部材4,4,…を介して鋼桁2と床版3とを接合するため、鋼桁2の上面に新たに接合用ジベルを形成する必要がない。そのため、既設床版撤去後の鋼桁2の上面のケレン作業や接合用ジベルの設置作業に要する手間を省略することができる。
また、一対の固定部材4,4をウェブ23を挟んで対向させた状態でボルト接合するため、固定部材4,4を固定するための固定手段を別途用いる必要がない。そのため、材料費および施工時の手間の低減化が可能である。
また、床版3は、接合用ジベル41,41,…が箱抜き31,31,…に挿入されるように配置すればよいため、床版3の位置決めが容易となり、施工性に優れている。
鋼桁2のウェブ23には、ボルト44を挿通するための貫通孔を形成するが、ウェブ23は、両面から挟持するように配設された固定部材4,4の固定片43,43により補強されている。
【0018】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、鋼桁2の桁軸に沿って、複数の固定部材4,4,…を設置する場合について説明したが、
図4に示すように、固定部材4は、桁軸に沿って連続した部材であってもよい。すなわち、固定部材4の固定部材本体40として、桁軸に沿って連続した形鋼材を使用してもよい。この固定部材4によれば、鋼桁2(上フランジ21)の補強部材としても機能する。そのため、床版3の更新に伴い、鋼桁2に作用する力が増加した場合であっても、所望の耐力を発現させることができる。
また、前記実施形態では、固定部材4の接合用ジベルとして、孔あき鋼板ジベルを採用したが、接合用ジベルを構成する材料は限定されるものではなく、例えば、
図5に示すように、スタッドジベルにより構成してもよい。
固定部材4は、工場製作したものを搬入して使用してもよいし、現地にて形鋼材に接合用ジベル41を溶接して製作してもよい。なお、接合用ジベル41と固定部材本体40との接合方法は限定されない。
床版3の箱抜き31は、接合用ジベル41の挿入が可能となるように、下側が開口していればよく、必ずしも床版3を貫通している必要はない。
鋼桁2と床版3との間には、必要に応じて間詰材を介設する。
【符号の説明】
【0019】
1 床版接合構造
2 鋼桁
21 上フランジ(上側のフランジ)
22 下フランジ
23 ウェブ
3 床版(新設床版)
31 箱抜き
4 固定部材
41 接合用ジベル
42 上片
43 固定片
44 ボルト
45 ナット