特許第6754223号(P6754223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許6754223フィルム製造装置及びフィルムの製造方法
<>
  • 特許6754223-フィルム製造装置及びフィルムの製造方法 図000002
  • 特許6754223-フィルム製造装置及びフィルムの製造方法 図000003
  • 特許6754223-フィルム製造装置及びフィルムの製造方法 図000004
  • 特許6754223-フィルム製造装置及びフィルムの製造方法 図000005
  • 特許6754223-フィルム製造装置及びフィルムの製造方法 図000006
  • 特許6754223-フィルム製造装置及びフィルムの製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754223
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】フィルム製造装置及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/08 20190101AFI20200831BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20200831BHJP
【FI】
   B29C48/08
   B29C48/92
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-106708(P2016-106708)
(22)【出願日】2016年5月27日
(65)【公開番号】特開2017-209963(P2017-209963A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊匡
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−30288(JP,A)
【文献】 特開2004−122435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/08
B29C 48/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の樹脂を押し出す押出機と、押出機に装着されたダイを有し、前記ダイから樹脂をシート状に押し出して樹脂フィルムを成形するフィルム製造装置において、
樹脂が通過する経路に樹脂の温度を調整する加熱手段と、
樹脂フィルムの幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段と、
厚み測定手段の測定値に基づいて樹脂フィルムの大まかな輪郭曲線を決定する輪郭曲線決定手段と、
決定された輪郭曲線が所定の条件を満足する場合に所定の報知を行う報知手段を有し、
前記輪郭曲線決定手段は、樹脂フィルムの厚さの大まかな輪郭曲線を、係数を変数とする2次関数に近似させるものであり、
前記2次関数の2次項の係数の経時変動を監視し、前記2次関数の2次項の係数が閾値を越えたことを条件として、前記報知手段が所定の報知を行うことを特徴とするフィルム製造装置。
【請求項2】
溶融状態の樹脂を押し出す押出機と、押出機に装着されたダイを有し、前記ダイから樹脂をシート状に押し出して樹脂フィルムを成形するフィルム製造装置において、
樹脂が通過する経路に樹脂の温度を調整する加熱手段と、
樹脂フィルムの幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段と、
厚み測定手段の測定値に基づいて、樹脂フィルムの幅方向における厚さの変化を、係数を変数とする2次関数に近似させる輪郭曲線決定手段を有し、
前記係数が所定の条件を満足する場合に所定の報知を行う報知手段を有し、
前記2次関数の2次項の係数の経時変動を監視し、前記2次関数の2次項の係数が閾値を越えたことを条件として、前記報知手段が所定の報知を行うことを特徴とするフィルム製造装置。
【請求項3】
一定の時間内に、前記2次関数の2次項の係数が前記閾値を2回以上の一定回数超えたことを条件として前記報知手段が前記所定の報知を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム製造装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、比例制御、微分制御、積分制御の少なくともいずれかに基づいて制御されるものであり、
一定の時間内に、前記2次関数の2次項の係数が閾値を一定回数越えたことを条件として、前記加熱手段の制御パラメータを修正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフィルム製造装置。
【請求項5】
溶融状態の樹脂を押し出す押出機と、押出機に装着されたダイを有し、前記ダイから樹脂をシート状に押し出して樹脂フィルムを成形するフィルム製造装置であって、
樹脂が通過する経路に樹脂の温度を調整する加熱手段があり、加熱手段比例制御、微分制御、積分制御の少なくともいずれかに基づいて制御されるものであり、
樹脂フィルムの幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段と、
厚み測定手段の測定値に基づいて樹脂フィルムの大まかな輪郭曲線を決定する輪郭曲線決定手段を有し、前記輪郭曲線決定手段が樹脂フィルムの厚さの大まかな輪郭曲線を、係数を変数とする2次関数に近似させるフィルム製造装置を使用するフィルムの製造方法であって、
前記2次関数の2次項の係数の経時変動を監視し、一定の時間内に、前記2次関数の2次項の係数が閾値を一定回数越えたことを条件として、前記加熱手段の制御パラメータを修正し、樹脂フィルムを成形することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項6】
溶融状態の樹脂を押し出す押出機と、押出機に装着されたダイを有し、前記ダイから樹脂をシート状に押し出して樹脂フィルムを成形するフィルム製造装置であって
樹脂が通過する経路に樹脂の温度を調整する加熱手段があり、加熱手段比例制御、微分制御、積分制御の少なくともいずれかに基づいて制御されるものであり、
樹脂フィルムの幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段と、
厚み測定手段の測定値に基づいて、樹脂フィルムの幅方向における厚さの変化を、係数を変数とする予め定められた一定の関数に近似させる輪郭曲線決定手段を有し、前記輪郭曲線決定手段が樹脂フィルムの幅方向における厚さの変化を、係数を変数とする2次関数に近似させるフィルム製造装置を使用するフィルムの製造方法であって、
前記2次関数の2次項の係数の経時変動を監視し、一定の時間内に、前記2次関数の2次項の係数が閾値を一定回数越えたことを条件として、前記加熱手段の制御パラメータを修正し、樹脂フィルムを成形することを特徴とするフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム製造装置及びフィルムの製造方法に関するものである。より詳細には、本発明は溶融押出法を実施して樹脂フィルムを製造するフィルム製造装置に関するものである。また本発明は溶融押出法によって樹脂フィルムを製造するフィルム製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学用途などの高品質な熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法として、溶融押出によるTダイ法が知られている。この方法は、一般に溶融押出法と称されている。
溶融押出法を実施するフィルム製造装置は、大きく分けて押出機側の装置及び機器と、それよりも下流のロール群によって構成されている。溶融押出法は、押出機側に装着されたTダイから樹脂をシート状に押し出し、下流のロール群で冷却し、必要に応じて延伸した後に巻き取る工程を有するものである。
溶融押出法では、得られる製品(樹脂フィルム)の特性を均一にするために、成形後の樹脂フィルムの特性を測定し、特性のバラつきに基づいて各工程の操作量を演算し、対象工程の操作にフィードバックすることが行われる。
特許文献1には、溶融押出法によって成形された樹脂フィルムの特性を測定し、測定されたフィルム特性に応じて押出機のスクリュー回転数や押出機及びギアポンプの温度を制御する方法及び装置が提案されている。
特許文献1には、成形後のフィルム特性のバラつきを均一化するためには、押出機の混練性向上やギアポンプの吐出精度安定化が重要である旨が記載されている。
【0003】
特許文献2には、押出機側の配管終端での溶融樹脂温度の変動が一定範囲に収まるよう、配管に加熱手段を設け、加熱手段の温度制御をPI制御またはPID制御で行う技術が開示されている。
また特許文献2では、PID制御における比例制御(P制御)のパラメータ(比例帯)が2以上に設定され、積分制御(I制御)のパラメータ(積分時間)が200以上に設定されている。
特許文献2では、P値(比例制御のパラメータ)とI値(積分制御のパラメータ)を上記した範囲に設定することで、配管内を流れる溶融樹脂の温度が急激に変化せず、Tダイに供給される溶融樹脂の温度が常に一定に保たれ、Tダイから吐出される吐出圧変動が安定するため、樹脂フィルムの流れ方向の厚みムラが抑制できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−193604号公報
【特許文献2】特開2007−144883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した様に光学用途に使用される樹脂フィルムは要求品質が高い。そのため光学用途に使用される樹脂フィルムを製造する場合には、樹脂が通過する経路は、精密に温度管理されることが望ましい。
そのため樹脂フィルムの溶融押出においては、原料樹脂を溶融してTダイからシート状に押し出す押出機側の装置及び機器の各部の温度が、ON/OFF制御や比例制御、PID制御などによって制御される。
光学用途に使用されるフィルムを製造する際には、押出機側の装置及び機器の温度制御は、温度制御の精度が高いPID制御が多く用いられる。
【0006】
ここでPID制御を行うためには、比例制御のパラメータたるP値と、積分制御のパラメータたるI値と、微分制御のパラメータたるD値を設定する必要がある。しかしながら、PID制御において各パラメータの作用は相関し、制御対象の特性に応じたPIDパラメータの最適値を求めるためには経験や知識が要求される。
そのため市販の温度調節計にはPIDパラメータのオートチューニング機能が搭載されていることが多い。フィルム製造装置の温度制御においても、各部の温度をPID制御する場合、PIDパラメータの設定は、温度調節計に搭載されたオートチューニング機能を利用して行われる場合が多い。
【0007】
しかしながら光学用途に使用されるフィルムを製造するフィルム製造装置の温度制御においては、オートチューニング機能で設定されたPIDパラメータが必ずしも最適値ではない場合も少なくない。
光学用途に使用される樹脂フィルムは要求品質が高いため、フィルム製造装置が設置される室内も空調され、室内が一定範囲の温度に保たれる場合が多い。即ち樹脂フィルムを製造する装置が設置される場所には、空調装置が備えられ、設置場所が一定の環境を保つように温度がコントロールされる。従って、フィルム製造装置は、通常の製造設備に比べて周囲の環境が安定している場合が多い。
【0008】
その一方、フィルム製造装置はそれ自体が大きな熱源であり、室内の温度を一定に保つことが困難な場合もある。
例えば、押出機本体の高い温度によって生じる上昇気流によって室内の空気が流動し、室内の温度ばらつきが変動して溶融状態の樹脂が通過する流路を取り巻く環境の温度が変化してしまう場合がある。また空調装置のオンオフのタイミングや、周辺設備として備えられたのブロワ等の影響により、押出機直近の雰囲気温度が不規則に乱れてしまう場合がある。
【0009】
この様な理由から押出機直近の雰囲気温度が不規則に乱れて、樹脂の温度が変動してしまう場合がある。ここで、PIDパラメータが適切であるならば、樹脂の温度変動は、早期に収斂し、製品たる樹脂フィルムに与える影響は小さい。
しかしながら、オートチューニング機能で設定されたPIDパラメータが最適値ではないならば、樹脂の温度変動が許容範囲を外れ、製品たる樹脂フィルムに悪影響が生じる。 特に雰囲気温度の変動がある中でPID制御による温度制御を行った場合、樹脂フィルムを本格生産する最中にも雰囲気温度が変化することから、押出機側の装置及び機器の各部の温度が安定せず、樹脂流路内の樹脂に予期しない温度分布が生じ、製品たる樹脂フィルムに悪影響が生じる。
【0010】
具体的に説明すると、押出機からTダイまでを構成する押出機側の装置及び機器は、ヒータ等の加熱手段により各部が所望の温度に制御される。しかしながら、押出機側の装置及び機器の中で特に押出機やギアポンプ、Tダイ間を接続する連結管が最も樹脂流動部から外表面までの距離、すなわち管壁の肉厚が薄く、中を通過する溶融樹脂は工程周囲の環境変化、温度変化の影響を受けることがある。
仮に樹脂流路において中心と壁面近傍で溶融樹脂に温度差が存在すると、Tダイから吐出するフィルムの幅方向の粘度特性が不均一となり、結果として例えば粘度の低い領域が厚く、粘度の高い領域が薄くなるような不均一な厚みプロファイル形状となる。
【0011】
また、雰囲気温度が変動し、少なからず溶融押出設備の各部に温度変動がある中で実施したオートチューニングでは、最適なPIDパラメータを求めることは困難であり、実際の製造時においては、厚みプロファイル形状も変動する現象が生じる。
さらに溶融状態の樹脂の温度や温度分布が安定していない状況下でフィルムの流れ方向または幅方向の厚みムラが存在している場合、厚みムラの解消のため行われるTダイのリップ間隔の調整をはじめとした種々の調整を行うと、厚みプロファイル形状が温度変化が原因で変動している中で、主たる原因以外の調整が行われることとなり、かえってフィルムの厚みを乱すこととなる。
【0012】
従って雰囲気温度が変動し、溶融押出設備の各部に温度変動がある場合には、PIDパラメータが不適切であることを疑うべきであり、直ちにPIDパラメータを修正するべきである。
【0013】
これに対して、特許文献1に記載の方法では、フィルムの特性のバラつきに対して押出機内のスクリュー回転数や押出機及びギアポンプの温度の設定値を変更して調整するが、PIDパラメータは修正しないことから、雰囲気温度変動の影響に伴う連結管内部の樹脂温度の変動に対し、制御量を調整することが困難である。また、雰囲気温度変化の影響を最も受けやすい連結管等は調整対象としておらず、特許文献1に記載された様な押出機やギアポンプの調整だけではフィルム特性の変動を解消できない。
【0014】
また、PID制御における最適なPIDパラメータの設定方法として、特許文献2に記載の方法があるが、特許文献2に記載の方法は、フィルム製造装置周辺の風の流れや雰囲気温度が安定している環境では配管内を流れる溶融樹脂の温度変動の抑制効果を発揮するものの、生産途中に不規則に発生する雰囲気温度変化やそれに伴う厚みプロファイルの変化に対しては、即座に対応することは困難である。
即ち最適なPIDパラメータに比べてP値が強いとハンチングが生じ、一方ハンチングを抑えるためにP値を弱くすると目標温度で安定するまでに時間を要する。
【0015】
しかしながら、従来技術においてはオートチューニング機能で設定されたPIDパラメータが適切であるか否かを知ることは困難である。そのため不適切なPIDパラメータに基づいて各部の温度制御が行われ、フィルム特性が安定しない状態でフィルムの本格生産が行われる。
即ち樹脂フィルムを製造する際には、先に試験的に樹脂フィルムを成形し、その後、本格的に樹脂フィルムを製造する。前記した様に従来技術においてはオートチューニング機能で設定されたPIDパラメータが適切であるか否かを知ることは困難であるから、試験的に樹脂フィルムを成形する段階ではPIDパラメータが不適であることが判りにくく、PIDパラメータが不適切であるままの状態で本格生産に移行してしまう場合がある。そして本格生産の最中に、フィルムの厚さにばらつき等があることが発見され、PIDパラメータの修正が行われることとなるが、生産を中断することとなり、作業性が悪い。またそれまでに製造された樹脂フィルムが無駄になってしまうこともある。
【0016】
特に、制御対象の雰囲気温度が大きく変動している環境では、PIDパラメータをオートチューニングで求めてもそれが最適のパラメータであるかどうかを直ちに判断することができない。
仮にオートチューニングで求めたPIDパラメータが、適切なPIDパラメータでなければ、ヒータ等がハンチングを起こし、樹脂フィルムのプロファイル形状が乱れてしまう。即ちオートチューニングで求めたPIDパラメータが、適切なPIDパラメータでなければ、製造された樹脂フィルムの厚みの品質が悪化する。
【0017】
加えてプロファイル形状の変化は、短期的なものではなく、数十分単位で1周期のように長時間にわたるため、生産管理者が気付かない場合もあり、仮に気づかなければ長期間に渡って低品質の樹脂フィルムを作り続けることとなる。
また生産開始後に制御対象の雰囲気温度が大きく変動する場合もある。例えば生産開始時は制御対象の周囲の環境が安定していたが、生産開始後しばらくしてから周囲の環境が乱れることもある。その結果、当初設定したPIDパラメータが不適合となり、生産途中からヒータ等がハンチングが起こることもある。この場合においても、プロファイル形状の変化が数十分単位で1周期のように長時間にわたるため、生産管理者が気付かない場合もあり、仮に気づかなければ長期間に渡って低品質の樹脂フィルムを作り続けることとなる。
【0018】
本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、加熱手段の制御パラメータが適切であるか否か判定する機能を備えたフィルム製造装置を開発することを課題とするものである。本発明は、PIDパラメータが適切であるか否かを判定する機能を備えたフィルム製造装置を開発することを課題とするものである。また本発明は、厚みのムラが少ないフィルムを製造することができるフィルムの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記した課題を解決するための態様は、溶融状態の樹脂を押し出す押出機と、押出機に装着されたダイを有し、前記ダイから樹脂をシート状に押し出して樹脂フィルムを成形するフィルム製造装置において、樹脂が通過する経路に樹脂の温度を調整する加熱手段があり、加熱手段は、比例制御、微分制御、積分制御の少なくともいずれかに基づいて制御されるものであり、樹脂フィルムの幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段と、厚み測定手段の測定値に基づいて樹脂フィルムの大まかな輪郭曲線を決定する輪郭曲線決定手段と、決定された輪郭曲線が所定の条件を満足する場合に所定の報知を行う報知手段を有することを特徴とするフィルム製造装置である。
【0020】
輪郭曲線決定手段は、樹脂フィルムの大まかな輪郭曲線を、係数を変数とする予め定められた一定の関数に近似させるものであることが望ましい。
【0021】
またもう一つの態様は、溶融状態の樹脂を押し出す押出機と、押出機に装着されたダイを有し、前記ダイから樹脂をシート状に押し出して樹脂フィルムを成形するフィルム製造装置において、樹脂が通過する経路に樹脂の温度を調整する加熱手段があり、加熱手段は、比例制御、微分制御、積分制御の少なくともいずれかに基づいて制御されるものであり、樹脂フィルムの幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段と、厚み測定手段の測定値に基づいて、樹脂フィルムの幅方向における厚さの変化を、係数を変数とする予め定められた一定の関数に近似させる輪郭曲線決定手段を有し、前記係数が所定の条件を満足する場合に所定の報知を行う報知手段を有することを特徴とするフィルム製造装置である。
【0022】
また輪郭曲線決定手段は、樹脂フィルムの厚さの大まかな輪郭曲線又は樹脂フィルムの幅方向における厚さの変化を、係数を変数とする2次関数に近似させるものであり、2次項の係数の絶対値が一定値を越えたことを条件として前記報知手段が所定の報知を行うものであることが望ましい。
【0023】
推奨されるフィルムの製造方法は、上記したフィルム製造装置を使用し、前記報知手段による報知後に、加熱手段の制御パラメータを修正し、樹脂フィルムを成形することを特徴とするフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のフィルム製造装置によると、設定されたPIDパラメータが適切であるか否かを判定することができる。
また本発明のフィルムの製造方法によると、厚みのムラが少ないフィルムを製造することができる。
また本発明によると、輪郭曲線を2次曲線に近似することで、温度変化のハンチングに伴うプロファイル形状の変動を数値化できる。これにより、プロファイル形状の変動をタイムリーに検知でき、パラメータを再修正する等の対処をとることができ、低品質の樹脂フィルムが成形されてしまうことを最小限で食いとめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係るフィルム製造装置の一例を示す構成図である。
図2図1のフィルム製造装置の制御装置のブロック図である。
図3図1のフィルム製造装置の動作を示すフローチャートである。
図4】輪郭曲線を説明する説明図であり、(a)は中央部の厚さが厚いフィルムを想定した場合を示し、(b)は中央部の厚さが薄いフィルムを想定した場合を示す。
図5図1のフィルム製造装置の押出機から押し出されたフィルムのフィルム幅方向の厚みプロファイルの2次曲線近似方法を説明するグラフであり、(a)は押し出された樹脂フィルムの幅をX軸に厚さをY軸にとったグラフであり、(b)はグラフ(a)の製品有効部分を抜き出し且つY軸のスケールを拡大したグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る厚みプロファイル近似曲線の2次項の経時変化と閾値を示す図であり、(a)は制御パラメータを修正する前の状態を示し、(b)は制御パラメータを修正した後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細説明に先立って、本発明の実施形態の概要を説明する。
本実施形態のフィルム製造装置1は、溶融状態の樹脂を押し出す押出機2と、押出機2に装着されたTダイ13を有している。フィルム製造装置1は公知のそれと同様に、前記したTダイ13から樹脂をシート状に押し出して樹脂フィルム37を成形する装置である。
フィルム製造装置1の樹脂が通過する経路には樹脂の温度を調整する加熱手段たる電気ヒータ22,23、25乃至33があり、加熱手段は、比例制御、微分制御、積分制御の少なくともいずれかに基づいて制御される。なお本実施形態では、比例制御、微分制御、積分制御が併用されている。
またフィルム製造装置1は、樹脂フィルム37の幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段として、厚み計5を有している。この厚み測定手段の測定値に基づいて樹脂フィルム37の大まかな輪郭曲線を決定する輪郭曲線決定手段が、図示しないCPUやメモリーによって構成されている。さらに決定された輪郭曲線が所定の条件を満足する場合に所定の報知を行う表示部とスピーカ等の報知手段を有している。
【0027】
なお加熱手段は、必ずしも電気ヒータ22,23、25乃至33である必要はなく、蒸気等の他の熱源を利用するものであってもよい。輪郭曲線決定手段はCPUやメモリーを有するものでなくともよい。報知手段は、表示画面やスピーカに限定されるものではない。
【0028】
樹脂フィルム37の輪郭曲線は、樹脂フィルム37を無重力状態に置いたと仮定した場合の樹脂フィルム37の輪郭を表す曲線であってもよく、樹脂フィルム37を平坦な場所に置いたと仮定した場合の様な、厚さだけに注目した輪郭曲線であってもよい。本明細書では、後者の厚さだけに注目した輪郭を厚みプロファイルと称している。
【0029】
大まかな輪郭曲線とは、表面の微小な凹凸を無視し、樹脂フィルム37のプロファイルを巨視的に観察して得られる曲線である。
本実施形態のフィルム製造装置1は、樹脂が通過する経路に樹脂の温度を調整する加熱手段があり、加熱手段は、比例制御、微分制御、積分制御の少なくともいずれかに基づいて制御されるものである。そのため比例制御のパラメータたるP値、積分制御のパラメータたるI値、微分制御のパラメータたるD値の少なくともいずれかを設定する必要がある。なお前記した様に以下に説明する具体的実施形態では、P値、I値、D値を全て設定するものである。
【0030】
本実施形態のフィルム製造装置1では、樹脂フィルム37の幅方向における各部の厚さを測定する厚み測定手段と、厚み測定手段の測定値に基づいて樹脂フィルム37の厚さの大まかな輪郭曲線を決定する輪郭曲線決定手段を有している。そして輪郭曲線に基づいて比例制御等のパラメータが適切であるか否かを判定する。
加熱手段の制御パラメータが不適切な状態のまま、樹脂の温度が設定温度に対して、たまたま安定している場合や、外乱等の影響により、樹脂の温度が設定温度に対して安定していない場合は、前記した様に樹脂流路において中心と壁面近傍で溶融樹脂に温度差が生じ、ダイから吐出する樹脂フィルム37の幅方向の粘度特性が不均一となり、結果として例えば粘度の低い領域が厚く、粘度の高い領域が薄くなるような不均一な厚みプロファイル形状となる。
【0031】
本実施形態のフィルム製造装置では、輪郭曲線決定手段で樹脂フィルム37の厚さの大まかな輪郭曲線を決定し、輪郭曲線に基づいて比例制御等のパラメータが適切であるか否かを判定するので、外乱等の影響を考慮した上で、各パラメータが適切であるか否かを判別することができる。
【0032】
本実施形態のフィルム製造装置では、樹脂フィルム37の幅方向における厚さの変化を、係数を変数とする予め定められた一定の関数に近似させ、関数の係数に基づいて比例制御のパラメータが適切であるか否かを判定する。そのため外乱等の影響を考慮した上で、各パラメータが適切であるか否かを判別することができる。
【0033】
本実施形態のフィルム製造装置の輪郭曲線決定手段は、樹脂フィルム37の厚さの大まかな輪郭曲線又は樹脂フィルム37の幅方向における厚さの変化を、係数を変数とする2次関数に近似させるものであり、2次項の係数の絶対値が一定値を越えたことを条件として前記報知手段が所定の報知を行う。
【0034】
2次関数は、周知の通り、「Y=aX2 +bX+c」で表現される関数であり、上に凸又は下に凸となる線図を描く関数である。即ち2次項の係数「a」(単に2次項aと称する場合もある)が正であれば下に凸となり、「a」が負であれば上に凸となる。
樹脂の温度が設定温度に対して安定していない場合は、Tダイから吐出する樹脂フィルム37の幅方向の粘度特性が不均一となり、結果として例えば粘度の低い領域が厚く、粘度の高い領域が薄くなるような不均一なプロファイル形状となる。そのため樹脂フィルム37の厚さの大まかな輪郭曲線は、上に凸又は下に凸となる図形を描くこととなり、2次関数に当てはめることができる。
【0035】
同様に樹脂フィルム37の幅方向における厚さの変化は上に凸又は下に凸となる図形を描くこととなり、2次関数に当てはめることができる。
樹脂フィルム37の凹凸量(厚い部分と薄い部分の厚さの差)が大きい場合は、近似する2次関数の2次項の係数「a」が大きくなり、樹脂フィルム37の凹凸量が小さければ近似する2次関数の2次項の係数「a」は小さい。
そのため2次項の係数の絶対値だけに注目して樹脂フィルム37の凹凸量を知ることができ、パラメータが適切であるか否かを知ることができる。
なお2次項の係数の絶対値は、係数「a」が正である場合と、負である場合が同一であっても良いし、異なっていてもよい。
【0036】
以下、フィルム製造装置1の具体的な実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態のフィルム製造装置1を示す。フィルム製造装置1は、複数の装置によって構成される一連の設備であり、押出機2側の装置及び機器と、押し出された樹脂フィルム37を通過させるロール群3と、厚み計(厚み測定手段)5を有している。なおフィルム製造装置1は、さらに図示しない延伸装置や巻き取り装置等を有している。本実施形態では、押し出された樹脂フィルム37がロール群3で冷却され、原反たる樹脂フィルム35となる。
またフィルム製造装置1は制御装置20を有している。
【0037】
押出機2は公知のものであり、シリンダー6内に図示しないスクリュー軸が内蔵されたものである。押出機2はホッパ7からシリンダー6内に投入された樹脂を溶融し、図示しないスクリューで樹脂を前進させ、先端の排出部16から溶融状の樹脂を押し出すものである。押出機2側の装置及び機器には、押出機2の他に連結管10、ギアポンプ11、連結管群12及びTダイ13がある。
そして押出機2の排出部16に連結管10を介してギアポンプ11が接続されている。またギアポンプ11の排出側には連結管群12があり、連結管群12の先端にTダイ13が設けられている。連結管群12の一部にはフィルター17a,17b,17cがある。なお、ギアポンプ11、連結管群12、フィルター17a,17b,17c等は、本発明に必須の構成要件ではない。
この様にTダイ13は、連結管10、ギアポンプ11及び連結管群12を介して押出機2に接続されている。そして押出機2から吐出された樹脂は、連結管10、ギアポンプ11及び連結管群12を経由してTダイ13に入り、Tダイ13からロール群3に押し出される。
本実施形態では、押出機2のシリンダー6、連結管10、ギアポンプ11、連結管群12及びTダイ13が樹脂が通過する経路である。
【0038】
本実施形態では、樹脂が通過する経路が複数に区画されて個別に温度調節されている。即ち本実施形態では、押出機2側の装置及び機器は、全て温度調節されている。押出機2のシリンダー6は、複数の区画に分割されていて各区画に図示しない電気ヒータが設けられている。またシリンダー6の各区画に冷却用の熱媒体を循環させてもよい。連結管10には電気ヒータ22が取り付けられている。ギアポンプ11についても電気ヒータ23が取り付けられている。
本実施形態では、連結管群12は8本の管路によって構成されている。即ち連結管群12は12a区画から12h区画の8区画に分かれており、それぞれの区画に個別に電気ヒータ25乃至32が取り付けられている。
【0039】
またTダイ13にも電気ヒータ33が取り付けられている。
本実施形態では、前記したシリンダー6の各区画の温調、連結管10の電気ヒータ22、ギアポンプ11の電気ヒータ23、連結管群12の各区画12a乃至12hの電気ヒータ22乃至32、及びTダイ13の電気ヒータ33が、それぞれ個別にPID制御されている。
即ち押出機2側の装置及び機器には、各区画に温度センサー21a乃至21mが取り付けられている。そしてそれぞれの温度センサー21a乃至21mが、制御装置20に接続されている。
【0040】
押出機2側の装置及び機器の下流側にはロール群3がある。図1では、ロール群3は、5本のロール25a乃至25eが図示されているが、ロールの本数は任意である。本実施形態では、ロール25a乃至25dは冷却ロールである。ロール25eは、ガイドロールである。
ロール群3はTダイ13の近傍にあって、Tダイ13から押し出された樹脂を冷却するものである。
またロール25aに対向してタッチロール(図示せず)を追加設置し、タッチロールとロール25aの間でフィルム37を挟んでもよい。
冷却ロール(ロール25a乃至25d)は、それぞれPID制御で温度調節されている。具体的には冷却ロール(ロール25a乃至25d)に冷却液が循環されており、冷却液の温度又は循環量がPID制御されている。
タッチロールを設ける場合には、タッチロールについても冷却液を循環させ、PID制御によって温度調節することが望ましい。
【0041】
厚み計(厚み測定手段)5は、冷却後の樹脂フィルム35の幅方向における各部の厚さを測定する装置である。厚み計5は、放射線を照射して樹脂フィルム35の厚さを測定するものである。厚み計5は、図示しない走査装置を備えていて、放射線の線源または受光部を樹脂フィルム35の幅方向に移動させることができる。厚み計5は、線源等を移動させつつ各部の厚さを測定し、厚さの幅方向の分布を測定することができる。なお厚み計5は、放射線を利用するものに限らず、レーザ光線等の他の光線を利用するものであったり、他の物理現象を利用したものであってもよい。
本実施形態では、厚み計5は、ロール群3の下流側に設置されており、冷却後の樹脂フィルム35の各部の厚さを測定する。
【0042】
制御装置20は、図2の様に内部にPID制御部と、パラメータ記憶部と、温度履歴記憶部と、輪郭曲線決定手段と、比較部を有している。
ここでPID制御部は、複数のPID制御装置が並べられたものである。PID制御部を構成する複数のPID制御装置は、市販のものである。パラメータ記憶部は、各PID制御装置に付属するものである。
【0043】
温度履歴記憶部と輪郭曲線決定手段及び比較部は、図示しないCPUやメモリーによって構成されている。具体的な動作は、メモリーに記憶されたソフトウエアによって実現されている。
温度履歴記憶部は、各温度センサーが検知した各部の温度を記憶するものである。
温度履歴記憶部に記憶された各部の温度は、必要に応じてグラフ化し、表示部に表示することができる。
輪郭曲線決定手段は、厚み計5で検知されたデータに基づいて、樹脂フィルム35の厚さの大まかな輪郭曲線を演算する輪郭形状演算機能を有している。また算出された輪郭曲線を2次関数に近似させる機能を有している。
【0044】
比較部は、2次関数の2次項の係数を監視し、2次項の係数と閾値を比較する機能を有している。
温度履歴記憶部及び比較部の具体的な機能については、後述する。
【0045】
本実施形態のフィルム製造装置1では、前記した様に、シリンダー6の各区画の温調、連結管10の電気ヒータ22、ギアポンプ11の電気ヒータ23、連結管群12の各区画12a乃至12hの電気ヒータ25乃至32及びTダイ13の電気ヒータ33が、それぞれ個別にPID制御されている。
前記した様に、制御装置20のPID制御部は、市販の多数のPID制御装置が内蔵されたものであり、各区画の温度を検知する温度センサー21a乃至21mの信号が、制御装置20に内蔵されたそれぞれの区画を担当するPID制御装置に入力されている。そして各区画の電気ヒータ22乃至33及び熱媒体を加熱するヒータ(図示せず)は、それぞれの区画を担当するPID制御装置の出力に基づいて制御される。
【0046】
また各区画の温度センサーの検出値は、制御装置20内の温度履歴記憶部に入力されている。厚み計5の測定データは、制御装置20の輪郭曲線決定手段に入力される。
【0047】
本実施形態のフィルム製造装置1では、押出機2内で溶融・混練された樹脂が、ギアポンプ11とフィルター17a,17b,17cを含む一連の樹脂流路を通過してTダイ13に至る。そして樹脂はTダイ13からシート状に押し出され、樹脂はロール群3で冷却されて原反フィルム35(以下単に樹脂フィルム35と称する)となる。
成形された樹脂フィルム35は図1の矢印Xの方向に搬送され、厚み計5により幅方向の各部の厚みが逐次測定される。
測定した幅方向の厚みのデータは、制御装置20の輪郭曲線決定手段に取り込まれる。そして厚みプロファイルの全体的な形状が解析され、厚みプロファイル異常の有無が判定される。
【0048】
ここで樹脂フィルム35の厚みプロファイルについて付言する。冷却後の樹脂フィルム35は、幅方向の各部の厚さが等しいことが理想であるが、図4(a)の様に中央部分が膨らんでいたり、図4(b)の様に中央部分が凹んだ状態となる場合がある。仮に樹脂フィルム35が無重力状態に置かれたと仮定すると、図4(a)(b)の上側に描かれた様な断面形状となる。なお図4(a)(b)は、樹脂フィルム35の有効使用範囲の断面形状を示しており、Tダイ13から押し出された樹脂フィルム35の中央部分のみの断面形状であり、図5(a)のグラフにおいて、「製品幅」と記載されている領域である。
厚みプロファイルとは、厚み計5が、樹脂フィルムの幅方向へトラバースしながら一定間隔で測定した樹脂フィルム35の各点の厚みデータである。即ち一回、トラバースするたびに樹脂フィルム35の各点の厚みをプロットした幅方向の厚みの分布を表す分布曲線である。
【0049】
以下、解析及び厚みプロファイル異常の判定内容について、図5図6を用いて説明する。
【0050】
図5(a)は、厚み計5が幅方向に走査することにより取り込んだ厚みのデータをそのままグラフ化したものである。即ち厚み計5が測定した全データである。縦横の比率は正確ではないが、図5(a)のグラフが描く曲線は、樹脂フィルム35の厚さだけに注目した輪郭曲線であり、樹脂フィルム35の厚みプロファイルである。
図5(a)のグラフでは、厚み計5の全走査領域の中に樹脂フィルム35があると、その厚さがY軸の値としてプロットされている。
樹脂フィルム35の厚みプロファイルには微小な凹凸がある。
【0051】
成形された樹脂フィルム35は、双方の縁の部分が切り取られ、中央部分のみ活用される。図5(a)のグラフにおいて、「製品幅」と記載されている領域は、双方の縁の部分が切り取られて残った中央の部分である。
図5(b)の実線で描かれたグラフは、図5(a)のグラフから製品部分に該当する範囲を抜粋し、厚み方向のスケールを拡大した厚みのデータである。図5(a)の実線は、樹脂フィルム35の厚みプロファイルであり、微小な凹凸がある。
図5(b)のグラフの実線で描かれた部分は、フィルムの厚さの変化を正確に表していると言える。
【0052】
本実施形態では、制御装置20の輪郭曲線決定手段によって、樹脂フィルム35の厚さの大まかな輪郭が演算される。即ち、図5(b)の破線で描かれたグラフの様に、微小な凹凸を無視し、厚さの変化の大まかな傾向を演算する。
より具体的には、樹脂フィルム35の幅をX軸にとり、樹脂フィルム35の厚さをY軸にとって、図5(b)の実線で描かれたグラフを2次関数の曲線に当てはめる。言い換えると、図5(b)の実線で描かれた正確な輪郭を表す曲線を、係数を変数とする2次関数に近似させる。
ここで2次関数は「Y=aX2 +bX+c」で表現される関数であり、上に凸又は下に凸となる関数である。
また経験則上、樹脂フィルム35の厚さは、幅方向の中央が厚くなったり薄くなったりすることがあり、厚さをグラフ化すると、上に凸又は下に凸となる。そのため樹脂フィルム35の微小な凹凸を無視し、厚さの変化の大まかな傾向を概観すると、何らかの2次関数に近似させることができる。
【0053】
この様に本実施形態では、厚みのデータを図5(b)の破線で示すように横軸が幅方向の位置を表す値、縦軸を厚みとした2次関数で曲線近似する。
ここで、2次関数の2次項の係数aは近似した2次曲線、すなわち放物線の向きや開き具合を表している。係数aが正の符号を有する場合は2次曲線は極小値を有する凹形状を取り、係数aが負の符号を有する場合は2次曲線は極大値を有する凸形状を取る。また、係数aの絶対値が0に近いほど2次曲線の開きが大きくなり、2次曲線中央部と端部の厚みの差が小さく、係数aの絶対値が0から遠ざかるほど2次曲線の開きが狭くなり、2次曲線中央部と端部の厚みの差が大きくなる。
従って2次関数の2次項の係数aを変数とすれば、厚みプロファイルに近似した2次関数の係数aを特定することができる。
【0054】
また本実施形態では、前記した2次関数の2次項の係数aを連続的に演算し、この値が一定の閾値を越えるか否かを監視する。即ち制御装置20の比較部は、2次関数の2次項の係数aを監視し、2次項の係数aと閾値を比較し、閾値を越えるか否かを監視している。そして、本実施形態では、一定の時間内に、閾値を一定回数越えた場合に、所定の報知が行われる。具体的には、報知手段の一つたる表示部に警報が表示される。また図示しないスピーカ等から、異常が生じたことを知らせるアラーム音が発せられる。本実施形態では、一定の時間内に、2次関数の2次項の係数aが閾値を2回越えた場合に、表示部に警報が表示され、スピーカ等からアラーム音が発せられる。
【0055】
具体的に説明すると、本実施形態では、上記係数aの経時変動の波形状を監視し、係数aが予め正負それぞれに設定した閾値を超えると、幅方向の厚みプロファイルが全体的に凸形状または凹形状であることを示しているため、少なくともそのような山及びまたは谷形状が2回以上検知された段階で厚みプロファイルの異常と判定する。
図6(a)が厚みプロファイル異常と判定される場合の波形状であり、図6(b)は正常と判定される波形状の一例である。
即ち各部の温度は、前記した様にPID制御されているが、各部の温度は多少は脈動する。その影響で、樹脂フィルム35の厚さが部分的に変化し、厚みプロファイルが時間と共に凹凸変化する。即ち、経験則上、樹脂フィルム35の厚さは幅方向の中央部分が厚くなったり薄くなったりを繰り返す。
【0056】
そのため、閾値を超える凹凸形状となることが繰り返されると、さらにその後に、閾値を超える凹凸変化が起きると予想される。
そこで本実施形態では、係数aの経時変動の波形状を監視し、係数aの絶対値が閾値を超える状態が繰り返されると、表示部に警報を表示し、スピーカ等からアラーム音が発することとした。
【0057】
また厚みプロファイルは、表面に微小な凹凸を厚み計5が検知することによって現れる微小な凹凸と、全体を巨視的に見たときに感じる全体的な凹凸によって構成されている。ここで、各区画の温度制御が適切でない場合に発生する厚みプロファイルの変化は、巨視的に見たときに感じる全体的な凹凸として現れる。逆に言えば、各区画の温度制御の適否と微小な凹凸との因果関係は巨視的な凹凸に比べて小さい。
本実施形態では、厚みプロファイルを2次関数に近似させるので、微小な凹凸は実質的に無視され、各区画の温度制御との因果関係が深い全体的な凹凸が強調される。
そのため温度制御の不適、より具体的にはPIDパラメータが不適切であることを正確に検知することができる。
【0058】
本実施形態のフィルム製造装置1の動作をフローチャートで表現すると、図3の通りである。
フローチャートで示す工程は、本格的な生産に先立って、試験的に樹脂フィルムを押し出す場合に実施される。
フローチャートに従うと、ステップ1で、タイマーの計時を開始する。このタイマーは、厚さの変化が現れる間隔を考慮して決められる。具体的には、経験則上知られる厚さの変化が現れる間隔に対して十分に長い時間であり、当該間隔の5倍以上であることが望ましい。一方、過度に時間が長いと、試験生産の意義が失われるから、経験則上知られる厚さの変化の間隔の20倍以下であることが望ましい。
【0059】
続くステップ2で、係数aの絶対値が閾値を越えているか否かを判定する。仮に閾値を越えているならば、ステップ3に進み、カウンターに1を追加する。そしてステップ4に進み、現在のカウンターの数が2以上であるか否かを判定する。
ステップ2で、係数aの絶対値が閾値を越えていなければ、ステップ3を飛ばしてステップ4に進み、現在のカウンターの数が2以上であるか否かを判定する。
【0060】
カウンターの数が2以上であるならば、閾値を越える現象が繰り返されたこととなる。そのためステップ6に進み、所定の報知を行う。本実施形態では、警報等を発する。カウンターの数が2未満であるならば、ステップ5に進み、ステップ1で計時を開始したタイマーの計時時間を確認する。計時時間を経過していれば、一連の制御を終了する。計時時間を経過していなければ、ステップ2に戻る。
【0061】
本実施形態では、異常が発生した場合には、各加熱手段(電気ヒータ)の制御パラメータを修正する。
【0062】
なおここで言う異常とは、製品幅内の全体的な厚みプロファイル形状が、製品の品質として許容されるフラット形状から著しく乖離した状態であることを指す。厚みプロファイル形状がフラット形状から乖離した状態で、樹脂フィルム35の微小な厚みムラ解消のためのTダイ13のリップ間隔の調整をはじめとした種々の調整を行うと、調整効果が現れる前にベースとなる厚みプロファイル形状も変動して調整の効果が相殺される、または必要以上に調整してしまうことによって逆に厚みを乱すこととなる。
【0063】
上記した2次曲線の2次項の経時変動に対する閾値は、対象とする樹脂フィルム35の厚みや要求される品質によって適宜決定される。好ましい実施形態としては、製品幅内の2次曲線が製品の品質として許容される厚みムラの範囲に収まるような2次項の中で、絶対値が最大となる値を正負それぞれの閾値として用いる。閾値が小さすぎると厚みプロファイル形状のわずかな変化でも直ちに異常と判定し、必要以上にPIDパラメータの調整を繰り返すこととなる。また閾値が大きすぎると、厚みプロファイル形状が変動している中でTダイ13のリップ間隔の調整をはじめとした種々の厚み調整が行われることとなるため、かえって厚みを乱す要因となる。
正負の閾値の絶対値は同じであってもよく異なっていてもよい。
【0064】
ここで本実施形態のフィルムの製造方法は、上記したフィルム製造装置1を使用し、前記報知手段(表示部及びスピーカ)による報知後に加熱手段の制御パラメータを修正し、樹脂フィルムを成形することを特徴とする。
以下、本実施形態のフィルムの製造方法の特徴を説明する。
【0065】
一旦原料供給からシート巻取りまでのプロセスが安定した後に、上記厚みプロファイル形状の異常が検知される場合は、環境外乱、即ち雰囲気温度の急激な変化に伴う押出機2の温度制御のハンチングに起因する可能性がある。温度制御のハンチングは温度制御をつかさどるPID制御のPIDパラメータ(P,I,D値)がその環境下での最適値に設定されていない、または雰囲気温度変動などの外乱に対応していないことから生じる場合が多い。
そこで,本実施形態では厚みプロファイル形状の凹凸変化による異常を検知した時点で、押出機2側の装置及び機器の押出機2のシリンダー6からTダイ13までの各プロセスの温度データの変動解析を行い、2次項の変動と相関が大きいプロセス、または品質安定時と比較して明らかに温度変動の範囲が大きいプロセスに対して、温度制御のPIDパラメータの修正を行う。
【0066】
即ち本実施形態で採用する制御装置20は、温度履歴記憶部を有し、各温度センサーが検知した各部の温度が記憶されている。
厚みプロファイル形状の異常が検知された場合は、温度履歴記憶部の記録を読み出し、必要に応じてグラフ化して表示部に表示することができる。
また前記した様に報知手段の一つたる表示部に警報が表示され、図示しないスピーカ等から、異常が生じたことを知らせるアラーム音が発せられる。
本実施形態のフィルムの製造方法では、報知後に加熱手段の制御パラメータを修正し、樹脂フィルムを成形する。
具体的には、厚みプロファイル形状の異常が検知された場合は、報知手段によってその事実が使用者に知らされる。使用者は、各区画の温度変化を検討し、厚みプロファイル形状に異常を来した原因として疑われる区画を選定する。そして当該区画を担当するPID制御装置のPIDパラメータを修正する。
【0067】
本実施形態における温度制御のPIDパラメータの修正内容としては、特定の部位の温度変動を抑える効果を目的とするため、例えば比例ゲインであるP値または積分ゲインであるI値をそれぞれ大きくする方向に調整する。調整量は、樹脂の特性、設備仕様、運転条件などの複数の要素が絡み合うため一義的に定義することはできず、対象部位の温度変動の抑制状況と比較しながら調整を行う。
また温度制御のPIDパラメータの修正は、オートチューニング機能と手動調整のいずれも選択可能であるが、厚みプロファイル異常に対するPIDパラメータ修正の効果を確認しながら微調整できる点で、手動調整のほうがより好ましい。
【0068】
以上に述べたように、溶融押出法によりTダイ13から樹脂をシート状に押し出して成形したフィルムの幅方向厚みプロファイルデータを収集する工程と、前記幅方向厚みプロファイルデータにおける、製品幅域の厚みプロファイルを曲線近似する2次関数を求め、求めた2次関数における2次項の係数の経時変動を監視し、当該変動の波の形状として予め設定した閾値を超える山及びまたは谷が少なくとも2回出現する経時変動を検知する工程、及び前記検知に応じて、押出機2のシリンダー6とTダイ13との間を構成する各部位のPIDパラメータを再調整する工程を含む、フィルム製造方法を用いることによって、厚みプロファイルに影響を与える温度変動をタイムリーに抑制することが可能となり,結果として厚みムラの悪化やゲージバンドの発生が少なく、高品質なフィルムを長期に亘り安定的に得られる。
【0069】
そのため図6(a)の様に厚みプロファイルの近似曲線の2次項が時間と共に大きく変動する様な厚みプロファイルの変動が大きい状態から、PIDパラメータを修正することにより、図6(b)の様に2次項が安定し、厚みプロファイルの変動が小さい状態となり、高品質なフィルムを長期に亘り安定的に得ることができる。
【0070】
以上説明した実施形態では、厚みプロファイルを2次関数に近似させてその2次項を監視したが、厚みプロファイルを他の関数に近似させてもよい。例えば、円の関数、三角関数、サイクロイド関数、楕円関数に厚みプロファイルを近似させてもよい。
さらに厚みプロファイルの曲線によって描かれる領域の面積に基づいて、PIDパラメータが適切であるか否かを判定してもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
アクリル系の熱可塑性樹脂を溶融してTダイ13からシート状に押出すフィルム製造装置1を用いて、長さ1000mをロール1本とする樹脂フィルム35の成形を行った。フィルム製造装置1の各プロセス温度(各区画の温度)は、樹脂の特性に応じて適宜設定されており、各プロセスの温度を一定に保つ温調計のPIDパラメータは樹脂供給量安定後にそれぞれオートチューニングによって自動設定した。成形された樹脂フィルム35の幅方向厚みプロファイルはインラインで逐次測定することとし、一走査ごとの厚みプロファイルデータを縦軸(Y)は厚み、横軸(X)は厚み計5の各測定位置を最大測定幅で除した無次元数の値としてプロットし、2次曲線に近似した。製品として許容される厚みムラは基準厚み±0.6%とした場合、製品幅内の厚みプロファイルを表す2次曲線が基準厚み±0.6%に収まるための2次項の係数aの値は±5であった。そこで、2次曲線における2次項aの波形状データに対して閾値を±5と設定した。
【0072】
巻き取り開始から約300m巻き取った時点で、2次項の係数aの値が2回目の閾値を超えたため、フィルム製造装置1の各プロセスの温度データを解析し、周囲の空気の流れの影響で温度変動範囲が大きかった区画を対象にPIDパラメータの手動調整を行った。その後、対象区画の温度変動範囲は他のプロセスと同等まで縮小し、巻取り終了までに再度2次項aが閾値を超えることは無く、巻き上がったフィルムの巻姿は巻きズレ、ゲージバンドなどが無い良好な状態であった。
〔比較例1〕
【0073】
実施例1と同様の装置構成及び初期条件によるフィルム成形を行い、厚みプロファイル形状の監視及び押出設備のPIDパラメータの再調整を行うことなく、フィルムを1000m巻き取ったところ、フィルムロールの外観に3本のゲージバンドが観察され、巻姿が悪化した。
〔参考例〕
【0074】
比較例1と同様の装置構成及び条件で、2次曲線の2次項の係数aの閾値を±2と設定し、フィルムの成形を行った。結果、数十mおきに2次項aが閾値を超えてその都度PIDパラメータの調整を行ったため、温度が設定温度に安定せず、ゲージバンドが残り良好な巻姿が得られなかった。この結果から、閾値が過度に小さいことは好ましいことではないことが判る。
【符号の説明】
【0075】
1 フィルム製造装置
2 押出機
3 ロール群
5 厚み計(厚み測定手段)
10 連結管
11 ギアポンプ
12 連結管群
13 Tダイ
20 制御装置
21a乃至21m 温度センサー
22,23 電気ヒータ
25乃至33 電気ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6