特許第6754232号(P6754232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754232
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】ホースおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/04 20060101AFI20200831BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20200831BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20200831BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200831BHJP
   B29C 48/15 20190101ALI20200831BHJP
   B29K 19/00 20060101ALN20200831BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20200831BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20200831BHJP
【FI】
   F16L11/04
   B32B1/08 B
   B32B25/14
   B32B27/00 C
   B29C48/15
   B29K19:00
   B29L9:00
   B29L23:00
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-128370(P2016-128370)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-3894(P2018-3894A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】神戸 忍
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 泰典
(72)【発明者】
【氏名】野田 将司
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−032807(JP,A)
【文献】 特開昭51−119744(JP,A)
【文献】 特表2005−532425(JP,A)
【文献】 特開平02−110182(JP,A)
【文献】 特開昭58−208044(JP,A)
【文献】 特開平07−118621(JP,A)
【文献】 特開平10−195240(JP,A)
【文献】 特開2004−018687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/00−11/26
B32B 25/00−25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる管状の内層と、上記内層の外周に設けられたニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる外層とを備え、かつ上記内層と外層との層間が、下記の一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤による溶着面となっていることを特徴とするホース。
【化1】
【請求項2】
上記内層と外層との層間に、上記一般式(1)に示す溶剤成分とニトリル系ゴムとを含有する接着剤からなる接着層を備えている、請求項1記載のホース。
【請求項3】
上記内層を構成するゴム組成物のポリマーが、ニトリル系ゴムを60重量%以上含有する、請求項1または2記載のホース。
【請求項4】
上記外層を構成するゴム組成物のポリマーが、ハロゲン系ゴムを60重量%以上含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のホース。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のホースの製造方法であって、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方である内層形成用ゴム組成物を管状に押出成形する工程と、上記押出成形により得られた内層形成用ゴム組成物層の外周面に、下記の一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤を塗布する工程と、上記液剤が塗布された内層形成用ゴム組成物層の外周面に、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方である外層形成用ゴム組成物を管状に押出成形する工程と、上記押出成形された内層形成用ゴム組成物層および外層形成用ゴム組成物層を加熱して加硫する工程と、を備えることを特徴とするホースの製造方法。
【化2】
【請求項6】
上記液剤が、上記一般式(1)に示す溶剤成分のみからなる、請求項5記載のホースの製造方法。
【請求項7】
上記液剤が、上記一般式(1)に示す溶剤成分とニトリル系ゴムとを含有する接着剤である、請求項5記載のホースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の燃料ホース,オイルホース,エアーホース等として有用な、ホースおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルブタジエンゴムは、耐油性、シール性が高いことから、自動車用の燃料ホース,オイルホース,エアーホース等の内層ゴムとして広く使用されている。ところが、アクリロニトリルブタジエンゴムは、耐オゾン性、耐候性に乏しいといった欠点がある。そのため、上記ホースの外層ゴムには、例えば、耐オゾン性、耐候性に優れるクロロプレンゴムが使用される。
【0003】
しかしながら、アクリロニトリルブタジエンゴムからなる内層と、クロロプレンゴムからなる外層との、両層間の加硫接着性が乏しいことから、本出願人は、例えば、両層に対し接着性に優れる層として、アクリロニトリルブタジエンゴムとクロロプレンゴムとの混合ゴムからなる接着剤層を介在させることにより、層間接着性を高めるといった手法を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような接着剤層の材料として用いられる接着剤は、通常、トルエン,キシレン,メチルエチルケトン等の、危険物第4類第1石油類に属する溶媒に、接着成分であるゴムが溶解されたものである。そのため、(1)製造工程において揮発性有機化合物(VOC)が発生し作業環境の悪化につながる、(2)ゴムが過度に膨潤・溶解することによって加硫が甘くなる、(3)接着界面に残った溶媒が減圧時に膨れて層間剥離を起こしやすい、といった課題が残る。
【0006】
なお、特許文献1に開示のホースのように内層ゴムと外層ゴムとが異なる場合に限らず、内層ゴムと外層ゴムとが同種のゴムを用いたホースにおいても、層間に接着剤が必要となる場合があるため、そのようなホースに対しても上記課題の解決が望まれる。
【0007】
また、従来からある接着手法として、内層や外層の形成材料であるゴム組成物中に接着成分を添加するといった手法もあるが、この手法では、ゴムの性能が低下してしまうことがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、製造工程において揮発性有機化合物(VOC)の発生が抑えられ、かつ層間接着性に優れる、ホースおよびその製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる管状の内層と、上記内層の外周に設けられたニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる外層とを備え、かつ上記内層と外層との層間が、下記の一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤による溶着面となっているホースを、第一の要旨とする。
【化1】
【0010】
また、本発明は、上記第一の要旨のホースの製造方法であって、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方である内層形成用ゴム組成物を管状に押出成形する工程と、上記押出成形により得られた内層形成用ゴム組成物層の外周面に、下記の一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤を塗布する工程と、上記液剤が塗布された内層形成用ゴム組成物層の外周面に、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方である外層形成用ゴム組成物を管状に押出成形する工程と、上記押出成形された内層形成用ゴム組成物層および外層形成用ゴム組成物層を加熱して加硫する工程と、を備えるホースの製造方法を、第二の要旨とする。
【化2】
【0011】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のニトリル系ゴムやクロロプレンゴム(CR)等のハロゲン系ゴムからなる内層および外層の層間に設ける接着剤層の溶媒として、VOCの発生が少ないものを使用することを検討した。しかしながら、VOCの発生が少ないことで知られている従来の溶媒(イソパラフィン系溶媒等)では、上記内層のゴムや外層のゴムを溶解させることは難しく、両層の強固な溶着を実現することができなかった。そのため、本発明者らは更なる研究を重ね、その結果、上記一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤を使用すると、VOCの発生が抑えられるとともに、両層を強固に溶着させることができ、ホース製造後の層間剥離の問題も悉く解決できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホースは、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる管状の内層と、上記内層の外周に設けられたニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる外層とを備えたホースであって、上記内層と外層との層間が、上記一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤による溶着面となっている。そのため、製造工程におけるVOCの発生を抑えつつ、良好な層間接着性を実現することができる。また、本発明のホースは、その層構成により、耐油性、シール性、耐オゾン性、耐候性に優れ、さらに、上記のように層間接着性が高いことから、耐圧性、繰返し加圧耐久性、負圧性等のホース性能に優れている。このことから、自動車用の燃料ホース,オイルホース,エアーホース等として広く使用することができる。
【0013】
特に、上記内層と外層との層間に、上記一般式(1)に示す溶剤成分とニトリル系ゴムとを含有する接着剤からなる接着層を備えていると、内層と外層との層間接着性により優れるようになる。
【0014】
また、上記内層を構成するゴム組成物のポリマーが、ニトリル系ゴムを60重量%以上含有すると、耐油性、シール性等により優れるようになる。
【0015】
また、上記外層を構成するゴム組成物のポリマーが、ハロゲン系ゴムを60重量%以上含有すると、耐オゾン性、耐候性等により優れるようになる。
【0016】
そして、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方である内層形成用ゴム組成物を管状に押出成形する工程と、上記押出成形により得られた内層形成用ゴム組成物層の外周面に、下記の一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤を塗布する工程と、上記液剤が塗布された内層形成用ゴム組成物層の外周面に、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方である外層形成用ゴム組成物を管状に押出成形する工程と、上記押出成形された内層形成用ゴム組成物層および外層形成用ゴム組成物層を加熱して加硫する工程とを備える製造方法により、本発明のホースを製造すると、その製造工程におけるVOCの発生を抑えることができ、作業環境および地域環境の改善に大きく貢献することができる。また、上記製造方法により、先に述べたように優れた性能を有する本発明のホースを、より効率的に製造することができる。
【0017】
また、上記製造方法に使用の上記液剤が、上記一般式(1)に示す溶剤成分のみからなると、作業性等の点でより優れるようになる。
【0018】
また、上記製造方法に使用の上記液剤が、上記一般式(1)に示す溶剤成分とニトリル系ゴムとを含有する接着剤であると、内層と外層との層間接着性により優れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のホースの層構成の一例を模式的に示した説明図である。
図2】本発明のホースの層構成の他の例を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0021】
本発明のホースは、先に述べたように、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる管状の内層と、上記内層の外周に設けられたニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる外層とを備えたホースであって、上記内層と外層との層間が、下記の一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤による溶着面となっている。
【0022】
【化3】
【0023】
図1に示すホースは、本発明のホースの一例であり、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる内層1と、上記内層1の外周面に接して設けられた、ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方からなる外層2とを備えている。そして、図1には明確に示されていないが、上記内層1と外層2との層間が、上記一般式(1)に示す溶剤成分を95〜100重量%とする液剤による溶着面となっている。ここで、上記溶着面とは、上記内層1の外周面と、上記外層2の内周面とが、上記溶剤成分により溶解されて、溶着された面のことである。上記溶着面は、例えば、上記一般式(1)に示す溶剤成分のみを内層1と外層2との層間に塗布するにより形成することができるが、層間接着性をより高めるため、上記一般式(1)に示す溶剤成分にゴムを溶解させて得られた接着剤を、上記層間に塗布して、内層1と外層2との層間に接着層を設けることにより、上記溶着面を形成してもよい。なお、上記のように接着層を形成する場合、その厚みは、接着層自体の強度の観点から、200μm以下とすることが好ましい。また、上記接着剤中に含有されるゴムとしては、層間接着性をより高める観点から、ニトリル系ゴムが好ましい。上記ニトリル系ゴムとしては、好ましくは、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水添アクリロニトリルブタジエンゴム(H−NBR)、アクリロニトリルブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドポリマー(NBR・PVC)等の、NBR系ゴムが用いられる。なお、上記ニトリル系ゴム中の結合ニトリル量は、層間接着性等の観点から、14〜42重量%であることが好ましい。
【0024】
一般式(1)に示す安息香酸エステル化合物(溶剤成分)におけるRは、上記のように、炭素数6〜10のアルキル基であり、好ましくは、炭素数8〜10のアルキル基である。また、上記アルキル基は、直鎖状のものも分岐状のものも含む趣旨である。なお、上記一般式(1)におけるRがアルキル基の場合であっても、その炭素数が、本発明の規定範囲より少ないと、VOCの抑制が不充分となり、逆に、本発明の規定範囲を超えると、内層1と外層2の溶着性(溶解性)が不充分となる。
【0025】
上記内層1および外層2を構成するゴム組成物のポリマーとしては、ニトリル系ゴムやハロゲン系ゴムが用いられ、これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なお、上記ニトリル系ゴムとしては、好ましくは、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水添アクリロニトリルブタジエンゴム(H−NBR)、アクリロニトリルブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドポリマー(NBR・PVC)等の、NBR系ゴムが、単独であるいは二種以上併せて用いられる。また、上記ハロゲン系ゴムとしては、好ましくは、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CO、ECO、GECO)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)等が、単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0026】
そして、上記内層1を構成するゴム組成物のポリマーとしては、耐油性、シール性等の観点から、好ましくは、ニトリル系ゴムが60重量%以上含有されたものが用いられる。より好ましくは、上記ポリマーの80〜100重量%がニトリル系ゴムのものが用いられる。また、上記内層1を構成するゴム組成物のポリマー中の結合ニトリル量は、層間接着性等の観点から、14〜42重量%であることが好ましい。さらに、上記内層1を構成するゴム組成物における加硫剤が硫黄化合物であり、かつ、上記硫黄化合物の含有量が、ポリマー100重量部に対し0.2〜5.0重量部であることが、層間接着性の観点から好ましい。
【0027】
なお、上記内層1を構成するゴム組成物のポリマーとして、ハロゲン系ゴムを用いる場合、上記ポリマー中のハロゲン量は、層間接着性等の観点から、25〜42重量%であることが好ましい。
【0028】
また、上記内層1を構成するゴム組成物のポリマーには、ニトリル系ゴムやハロゲン系ゴムと併用して、必要に応じ、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリルゴム(AEM)等を含有することもできる。
【0029】
上記外層2を構成するゴム組成物のポリマーとしては、耐オゾン性、耐候性等の観点から、好ましくは、ハロゲン系ゴムが60重量%以上含有されたものが用いられる。より好ましくは、上記ポリマーの80〜100重量%がハロゲン系ゴムのものが用いられる。また、上記外層2を構成するゴム組成物のポリマー中のハロゲン量は、層間接着性等の観点から、25〜42重量%であることが好ましい。
【0030】
また、上記外層2を構成するゴム組成物のポリマーには、ニトリル系ゴムやハロゲン系ゴムと併用して、必要に応じ、ポリエチレン(PE)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を含有することもできる。
【0031】
なお、内層1と外層2との溶着面において、その溶着面のゴムをサンプルとして採取し、上記サンプルをアセトン抽出して、ガスクロマトグラフィーによって定量分析することにより、前記一般式(1)に示す安息香酸エステル化合物が使用されたものであるか否かを確認することができる。また、予め、既知濃度の安息香酸エステルをガスクロマトグラフィー分析して検量線を作成することにより、アセトン中の安息香酸エステル化合物を定量することもできる。
【0032】
また、図2に示すホースは、本発明のホースの他の例であり、内層1と、上記内層1の外周に設けられた外層2との間に、補強糸層3を備えている。そして、図2には明確に示されていないが、上記内層1と外層2との層間が、上記一般式(1)に示す溶剤成分による溶着面となっている。すなわち、上記補強糸層3における補強糸の編み目を介し、上記内層1の外周面と、上記外層2の内周面とが、上記溶剤成分により溶解されて溶着されている。したがって、上記補強糸層3における補強糸の編組密度が高すぎると、上記溶着面の形成がなされなくなる。
【0033】
図2に示すホースにおける内層1や外層2の形成材料、およびその層間の接着に用いられる溶剤成分等については、図1に示すホースに準じたものが用いられる。
【0034】
また、上記補強糸層3は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),アラミド,ポリアミド(ナイロン),ポリビニルアルコール(ビニロン),レーヨン,金属ワイヤ等の補強糸を、スパイラル編組,ニット編組,ブレード編組等によって編組することにより形成することができる。そして、上記補強糸層3における補強糸の編組密度は、層間接着性(溶着面)等の観点から、20〜95%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、40〜70%の範囲である。すなわち、上記編組密度が高すぎると、上記溶着面の形成がなされなくなるからであり、逆に、上記編組密度が低すぎると、耐圧性等の、ホースの補強性能が得られなくなるからである。
【0035】
ここで、図1図2に示す本発明のホースは、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、まず、ミキシングロール等により混練された内層形成用ゴム組成物(ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方)を管状に押出成形する。この時、マンドレルを用いても差し支えない。つぎに、必要に応じ、上記押出成形により得られた内層形成用ゴム組成物層の外周面に、所定の編組密度で補強糸を編組し、補強糸層3を形成する。なお、マンドレルを用いない場合において、上記補強糸の編組の際に、内層形成用ゴム組成物層に対しエアにより内圧をかけた状態にすると、上記編組が行いやすくなる。続いて、上記内層形成用ゴム組成物層の外周面(補強糸層3を形成した場合は、その補強糸層3の外周面)に、前記一般式(1)に示す安息香酸エステル化合物(溶剤成分)を95〜100重量%とする液剤を塗布する。その後、上記液剤の塗布面に、ミキシングロール等により混練された外層形成用ゴム組成物(ニトリル系ゴム組成物およびハロゲン系ゴム組成物の少なくとも一方)を、管状に押出成形する。そして、このようにして得られた未加硫の積層ホースを、スチーム加硫缶で、140〜170℃、10〜60分間スチーム加硫を行うことにより、目的とするホースを製造することができる。
【0036】
上記製造方法に従い本発明のホースを製造すると、その製造工程におけるVOCの発生を抑えることができ、作業環境および地域環境の改善に大きく貢献することができる。また、上記製造方法により、先に述べたように優れた性能を有する本発明のホースを、より効率的に製造することができる。
【0037】
そして、上記製造方法に使用の上記液剤が、前記一般式(1)に示す溶剤成分のみからなると、作業性等の点でより優れるようになる。
【0038】
また、上記製造方法に使用の上記液剤が、前記一般式(1)に示す溶剤成分とニトリル系ゴムとを含有する接着剤であると、内層1と外層2との層間接着性により優れるようになる。
【0039】
なお、上記補強糸層3は、補強糸に対して接着剤のディップ処理を行ったうえで形成されたものではない。よって、補強糸に対して接着剤のディップ処理を行ったうえで補強糸層3を形成するよりも、製造コストを下げることができ、製造工程上の煩雑さも解消することができる。
【0040】
このようにして得られる本発明のホースにおいて、ホース内径は2.5〜90mmの範囲が好ましい。また、本発明のホースにおいて、そのホース性能の観点から、上記内層1の厚みは、1.0〜5.0mmの範囲が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0mmである。また、本発明のホースにおいて、そのホース性能の観点から、上記外層2の厚みは、0.5〜5.0mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.8〜3.0mmである。
【0041】
また、このようにして得られる本発明のホースにおいて、必要に応じて、例えば、上記内層1の内周面に、さらに、フッ素ゴム,フッ素樹脂,ポリアミド樹脂等からなる最内層を設けたり、上記外層2の外周に、さらに、EPDM,ポリウレタン等からなる最外層を設けたりしても差し支えない。
【0042】
本発明のホースは、自動車用の燃料ホース,オイルホース,エアーホース等として好適に用いられる。また、上記ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)等にも適用することができる。
【実施例】
【0043】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
まず、実施例および比較例に先立ち、ニトリル系ゴムとして、下記に示すポリマー(NBR、NBR・PVC、H−NBR、BR)を準備した。
・NBR−1:ニポールDN401(結合ニトリル量=18重量%)、日本ゼオン社製
・NBR−2:ニポールDN302(結合ニトリル量=27.5重量%)、日本ゼオン社製
・NBR−3:ニポールDN202(結合ニトリル量=31重量%)、日本ゼオン社製
・NBR−4:ニポールDN101(結合ニトリル量=42重量%)、日本ゼオン社製
・NBR・PVC:ニポール1203W(結合ニトリル量=50重量%、PVC量=30重量%、塩素量=17重量%)、日本ゼオン社製
・H−NBR:ゼットポール2020(結合ニトリル量=35重量%)、日本ゼオン社製
・BR:ウベポールBR−150、宇部興産社製
【0045】
また、ハロゲン系ゴムとして、下記に示すポリマー(ポリクロロプレン、CSMポリマー、塩素化ポリエチレン、エピクロロヒドリンポリマー)を準備した。
・ポリクロロプレン:デンカクロロプレンM−40、DENKA社製
・CSMポリマー:TOSO CSM TS−430(塩素量=35重量%)、東ソー社製
・塩素化ポリエチレン−1:エラスレン301(塩素量=31重量%)、昭和電工社製
・塩素化ポリエチレン−2:エラスレン351(塩素量=35重量%)、昭和電工社製
・塩素化ポリエチレン−3:エラスレン402(塩素量=39重量%)、昭和電工社製
・エピクロロヒドリンポリマー−1〜−3:下記の表1に示す組成および塩素量のエピクロロヒドリンポリマー
【0046】
【表1】
【0047】
さらに、ニトリル系ゴムやハロゲン系ゴムといったポリマー100重量部に対し、下記の表2〜6に示す割合で配合される配合処方A〜Eの各材料を準備した。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
また、層間接着剤として、以下に示す化合物(溶媒)、および以下のようにして調製された接着剤を準備した。なお、下記化合物に示されている『(C*)』とは、エステル結合されたアルキル基の炭素数が*であることを示すものである。
【0054】
〔安息香酸エステル(C4)〕
安息香酸ブチル(和光純薬工業社製)
【0055】
〔安息香酸エステル(C6)〕
安息香酸ヘキシル(和光純薬工業社製)
【0056】
〔安息香酸エステル(C8)〕
下記の一般式(1)に示す、Rが炭素数8のアルキル基である安息香酸エステル(アデカサイザーA−6508、ADEKA社製)
【0057】
【化4】
【0058】
〔安息香酸エステル(C10)〕
下記の一般式(1)に示す、Rが炭素数10のアルキル基である安息香酸エステル(アデカサイザーA−6510、ADEKA社製)
【0059】
【化5】
【0060】
〔安息香酸エステル(C12)〕
安息香酸ドデシル
【0061】
〔フタル酸エステル(C4)〕
フタル酸ジブチル(DBP、大八化学社製)
【0062】
〔フタル酸エステル(C8)〕
フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DEHP、大八化学社製)
【0063】
〔イソパラフィン系溶剤〕
IPソルベント 1620(出光興産社製)
【0064】
〔トルエン〕
トルエン
【0065】
〔接着剤(C8)〕
下記の表7に示す各材料を、同表に示す割合で配合し、ミキシングロールにより混練し、ゴム組成物を調製した。このようにして得られたゴム組成物5重量%に対し、上記安息香酸エステル(C8)を95重量%加えて、ゴム組成物を溶解することにより、接着剤を調製した。
【0066】
【表7】
【0067】
[実施例1]
まず、内層材料のポリマーとして準備したNBR−1と、他の内層材料とを、配合処方Aに従い配合した後、ミキシングロールにより混練し、内層形成用ゴム組成物を調製した。また、外層材料のポリマーとして準備したポリクロロプレンと、他の外層材料とを、配合処方Bに従い配合した後、ミキシングロールにより混練し、外層形成用ゴム組成物を調製した。そして、上記内層形成用ゴム組成物を、押出機にて管状に中空押出成形した。このようにして得られたホースの内部(中空部)に、エアにより内圧をかけた状態にし、上記ホース外周面上に、太さ1500デニールの一本撚りのポリエステル製補強糸を、編組密度60%で、ブレード方式で編組した。さらに、このように編組された補強糸上に、層間接着剤として、先に調製した接着剤−1を、厚み50μmで塗布した後、その塗布面上に、上記外層形成用ゴム組成物を、押出機にて押出成形した。このようにして得られた未加硫の積層ホースを、スチーム加硫缶で150℃/30分の条件にて直接スチーム加硫を行った。その結果、内径9.0mm、内層の厚み2.0mm、外層の厚み1.5mmのホースを得た。
【0068】
[実施例2〜20、比較例1〜9]
内層形成用ゴム組成物、外層形成用ゴム組成物として、後記の表8〜表10に示す配合処方のものを、実施例1に準じて調製して用いた。また、層間接着剤として、後記の表8〜表10に示すものを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、目的とするホースを作製した。なお、表の「※」は、使用された層間接着剤を示すものであり、「※」がないものは、層間接着剤が使用されていないことを示す。
【0069】
このようにして得られた、実施例および比較例のホースに関して、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表8〜表10に併せて示した。
【0070】
≪接着性≫
長さ25mmに切断したホースの外周面に対し、ナイフで、ホースの長手方向に、補強糸層に到達する一本の切れ目を入れた。そして、その切れ目から、「内層+補強糸層」と、外層との間を、部分的に剥離し、その部分的に剥離した外層を引張試験機のチャックに挟み、JIS K6330に準じて剥離試験を行った。そして、その際の剥離強度(N/25mm)を測定するとともに、下記の基準に従い、その剥離面の状態を目視観察して評価した。
<R:ゴム切れ
R:ゴム破壊
BR:部分ゴム破壊
K:界面剥離
【0071】
≪低VOC化≫
ホース製造時に揮発性有機化合物(VOC)による異臭がなかったものを○、ホース製造時にVOCによる異臭が強かったものを×と評価した。
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
【表10】
【0075】
上記表の結果から、実施例のホースは、いずれも、層間の剥離強度が高く、ホース製造時における低VOC化も達成されることが確認された。なかでも、実施例15〜20のホースは、層間接着剤として溶媒のみを使用しているにもかかわらず、内層外周面および外層内周面の溶着が良好になされ、高い剥離強度が得られた。
【0076】
これに対し、比較例1のホースは、層間接着剤を使用しておらず、界面剥離がみられた。比較例2のホースは、層間接着剤として使用の安息香酸エステルにより内層外周面および外層内周面の溶着が良好になされ、良好な剥離強度が得られたが、上記安息香酸エステルにおけるアルキル基が小さすぎる(炭素数が少なすぎる)ことから、VOCによる強い異臭がホース製造時に生じた。比較例3のホースは、層間接着剤として使用の安息香酸エステルにおけるアルキル基が大きすぎる(炭素数が多すぎる)ことから、内層外周面および外層内周面の溶着が良好になされず、剥離強度も弱く、界面剥離もみられた。比較例4〜6のホースは、VOCの発生が少ないことで知られている従来の溶媒を層間接着剤として使用しており、内層外周面および外層内周面の溶着が良好になされず、剥離強度も弱く、界面剥離もみられた。比較例7のホースは、トルエンにより内層外周面および外層内周面の溶着が良好になされているが、トルエンから発生するVOCによる強い異臭が、ホース製造時に生じた。比較例8,9のホースは、内層ゴムと外層ゴムとが同種のハロゲン系ゴムであるが、層間接着剤を使用しておらず、界面剥離がみられた。
【0077】
なお、実施例および比較例のホースにおいて、以下の分析方法に従い分析することにより、層間接着剤として使用の安息香酸エステルの種類を確認することができた。
【0078】
≪安息香酸エステルの分析方法≫
ホースの補強糸層付近の内層ゴムおよび外層ゴムから、それぞれ約1gのゴムサンプルを採取し、約1mm角の大きさに裁断した後、上記裁断したゴムを、アセトンによりソックスレー抽出を16時間行う。そして、アセトン中に抽出された成分中の安息香酸エステルを、ガスクロマトグラフィーによって定量分析する。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のホースは、自動車用の燃料ホース,オイルホース,エアーホース等として好適に用いられる。また、上記ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 内層
2 外層
図1
図2