特許第6754251号(P6754251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754251
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法、
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20200831BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/32 C
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-172228(P2016-172228)
(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公開番号】特開2018-34489(P2018-34489A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛
(72)【発明者】
【氏名】貝塚 朋芳
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−118046(JP,A)
【文献】 特開2006−284736(JP,A)
【文献】 特開2015−067822(JP,A)
【文献】 特開平10−298390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
C08J 7/04 − 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン重合体を含む基材層Xと、
その少なくとも一方の面に設けられた、20〜90質量部のアクリル系樹脂Aと、10〜80質量部のアクリル系モノマーBと(但し、前記アクリル系樹脂Aと前記アクリル系モノマーBの合計を100質量部とする)を含むアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yと、
を含み、
前記アクリル系樹脂Aは、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選ばれるメタクリレート由来の構造単位と、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選ばれるアクリレート由来の構造単位とを含む共重合体であり、
前記アクリル系モノマーBは、分子内に2〜6個のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物を含み、
前記アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgが40℃以上90℃以下である、
積層体。
【請求項2】
前記環状オレフィン重合体が、式(1)で表される環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体n1、及び環状オレフィンの開環重合体n2からなる群より選ばれる一以上の環状オレフィン重合体を含む、
請求項1記載の積層体。
【化1】
(式(1)中、
は、炭素原子数2〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる4価の基;
は、炭素原子数2〜20の炭化水素基よりなる群から選ばれる2+n価の基;
Qは、COORd(Rdは、水素原子、又は炭素原子数1〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基);
nは、置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の実数;
は、水素原子、又は炭素原子数1〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基;
x、yは、共重合モル比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数
をそれぞれ示す。
及びRは、それぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。)
【請求項3】
前記アクリル系樹脂Aの重量平均分子量が、15000〜50000である、
請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgは、前記基材層Xに含まれる前記環状オレフィン重合体のTgよりも低い、
請求項1〜のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
環状オレフィン重合体を含む基材層Xの少なくとも一方の面に、20〜90質量部のアクリル系樹脂Aと、10〜80質量部のアクリル系モノマーBと(但し、前記アクリル系樹脂Aと前記アクリル系モノマーBの合計を100質量部とする)、重合開始剤とを含むアクリル系樹脂組成物を塗布して、前記アクリル系樹脂組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を、活性線により硬化又は熱硬化させて、Tgが40℃以上90℃以下である前記アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yを形成する工程と
を含み、
前記アクリル系樹脂Aは、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選ばれるメタクリレート由来の構造単位と、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選ばれるアクリレート由来の構造単位とを含む共重合体であり、
前記アクリル系モノマーBは、分子内に2〜6個のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物を含む、
積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン重合体やポリカーボネート、ポリエステル等は、樹脂基材として好適に用いられている。とりわけ、環状オレフィン重合体は、優れた透明性や耐熱性を有することから、光学用材料として広く用いられている。
【0003】
一方で、環状オレフィン重合体は、脆性が低く、割れやすい性質を有している。これに対して、環状オレフィン重合体を主成分として含む基材上に、アクリル系樹脂層等をコーティングして積層体とする技術も提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−2176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環状オレフィン重合体を主成分として含む基材上に極性樹脂をコーティングするには、コロナ処理等の表面処理が必要であり、積層化のプロセスやコスト増大を招いていた。
【0006】
また、基材上に樹脂層をコーティングする場合、ブロッキング(表面のべたつき)を生じないことも求められる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ブロッキングを生じることなく、コロナ処理等の表面処理を施さなくても、環状オレフィン重合体、ポリカーボネート又はポリエステル等の基材層上にコーティング層が密着性良く積層されており、良好な屈曲性を有する積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 環状オレフィン重合体、ポリカーボネート及びポリエステルからなる群より選ばれる樹脂を含む基材層Xと、その少なくとも一方の面に設けられた、20〜90質量部のアクリル系樹脂Aと、10〜80質量部のアクリル系モノマーBと(但し、前記アクリル系樹脂Aと前記アクリル系モノマーBの合計を100質量部とする)を含むアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yと、を含み、前記アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgが40℃以上90℃以下である、積層体。
[2] 前記基材層Xが、式(1)で表される環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体n1、及び環状オレフィンの開環重合体n2からなる群より選ばれる一以上の環状オレフィン重合体を含む、[1]に記載の積層体。
【化1】
(式(1)中、
は、炭素原子数2〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる4価の基;
は、炭素原子数2〜20の炭化水素基よりなる群から選ばれる2+n価の基;
Qは、COORd(Rdは、水素原子、又は炭素原子数1〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基);
nは、置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の実数;
は、水素原子、又は炭素原子数1〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基;
x、yは、共重合モル比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数
をそれぞれ示す。
及びRは、それぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。)
[3] 前記アクリル系樹脂Aが、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選ばれるメタクリレート由来の構造単位と、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選ばれるアクリレート由来の構造単位の少なくとも一方を含む、[1]又は[2]記載の積層体。
[4] 前記アクリル系樹脂Aの重量平均分子量が、15000〜50000である、[1]〜[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] 前記アクリル系モノマーBが、メタクリル酸及びアクリル酸からなる群より選ばれる一以上と多官能アルコールとの縮合物である、[1]〜[4]のいずれかに記載の積層体。
[6] 前記アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgは、前記基材層Yに含まれる前記樹脂のTgよりも低い、[1]〜[5]のいずれかに記載の積層体。
[7] 環状オレフィン重合体、ポリカーボネート及びポリエステルからなる群より選ばれる一以上を含む基材層Xの少なくとも一方の面に、20〜90質量部のアクリル系樹脂Aと、10〜80質量部のアクリル系モノマーBと(但し、前記アクリル系樹脂Aと前記アクリル系モノマーBの合計を100質量部とする)、重合開始剤とを含むアクリル系樹脂組成物を塗布して、前記アクリル系樹脂組成物の塗膜を形成する工程と、前記塗膜を、活性線により硬化又は熱硬化させて、Tgが40℃以上90℃以下であるアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yを形成する工程と
を含む、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブロッキングを生じることなく、コロナ処理等の表面処理を施さなくても、環状オレフィン重合体、ポリカーボネート又はポリエステル等の基材層上にコーティング層が密着性良く積層されており、良好な屈曲性を有する積層体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
基材層Xの少なくとも一方の面に、アクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBとを所定の比率で含有するアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yを設ける。
即ち、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yは、アクリル系樹脂Aと活性線に対して反応性を有するアクリル系モノマーBと、重合開始剤とを含むアクリル系樹脂組成物を基材層Xの少なくとも一方の面にコーティングし、紫外線等により硬化させて得ることができる。アクリル系樹脂組成物は、アクリル系樹脂Aと、活性線に対して反応性を有するアクリル系モノマーBとを含むので、アクリル系樹脂A自体が有する高い密着性に加えて、アクリル系モノマーBが有する基材層Xへの拡散効果(又はアンカー効果)を付与することができる。そして、アクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBとの含有比率を所定の範囲に調整することで、アクリル系樹脂A自体が有する柔軟性・密着性と、アクリル系モノマーBが付与する密着性とを良好にバランスさせることができる。それにより、コロナ処理やプライマ層等の表面濡れ性を向上させるような表面処理を施すことなく、基材層Xとの良好な密着性と良好な柔軟性・屈曲性とを得ることができる。
【0011】
さらに、該アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層YのTgを40℃以上90℃以下に調整することで、ブロッキングを生じることなく、基材層Xに更なる柔軟性や屈曲性を付与することができる。
【0012】
このように、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yの組成と熱物性を適宜調整することで、コロナ処理等の表面処理を施すことなく、基材層Xに対して密着性良く、柔軟性を付与することができるので、基材層Xの屈曲性を向上させることができる。本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0013】
1.積層体
本発明の積層体は、基材層Xと、その少なくとも一方の面に設けられたアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yとを含む。
【0014】
1−1.基材層X
基材層Xは、環状オレフィン重合体、ポリカーボネート、及びポリエステルからなる群より選ばれる一以上の樹脂を含むことが好ましく、透明性や耐熱性が特に優れることから、環状オレフィン重合体を含むことがより好ましい。
【0015】
環状オレフィン重合体は、環状オレフィンの付加重合体n1、又は環状オレフィンの開環重合体n2でありうる。
【0016】
(環状オレフィンの付加重合体n1)
環状オレフィンの付加重合体n1は、式(1)で表される環状オレフィンとαオレフィンとの共重合体n1であることが好ましい。
【化2】
(式(1)中、
は、炭素原子数2〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる4価の基;
は、炭素原子数2〜20の炭化水素基よりなる群から選ばれる2+n価の基;
Qは、COORd(Rdは、水素原子、又は炭素原子数1〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基);
nは、置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の実数;
は、水素原子、又は炭素原子数1〜10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基;
x、yは、共重合モル比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数
をそれぞれ示す。
及びRは、それぞれ1種であってもよく、2種以上を任意の割合で有していてもよい。)
【0017】
は、さらに環構造を形成してもよい。環構造の好ましい例には、ノルボルネン、テトラシクロドデセンが含まれる。環構造は、アルキル基等の置換基をさらに有してもよい。RとRで構成される環は、後述する環状オレフィンの付加体に相当する。
【0018】
は、水素原子、メチル基又はエチル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0019】
x及びyは、50/50≦y/x≦95/5であることが好ましく、55/45≦y/x≦80/20であることがさらに好ましい。
【0020】
式(1)で表される環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体n1は、環状オレフィンとエチレンからなる共重合体であることが好ましい。
【0021】
環状オレフィンは、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、シクロペンタジエン−ベンザイン付加物及びシクロペンタジエン−アセナフチレン付加物からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン及びテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンから選択される少なくとも一種であるものがより好ましい。
【0022】
式(1)で表される環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体n1は、環状オレフィンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。
【0023】
環状オレフィンとしては、前述と同様のものを使用できるが、例えば、ノルボルネン及び置換ノルボルネンが挙げられ、ノルボルネンが好ましい。環状オレフィンは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0024】
炭素数4〜12のα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル・1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等を挙げることができる。
【0025】
環状オレフィンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体としては、例えば、国際公開第2015/178145号の段落0056〜0070に記載の重合体を挙げることができる。
【0026】
(環状オレフィンの開環重合体n2)
環状オレフィンの開環重合体n2としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能な他の単量体との開環共重合体、又はこれらの水素化物等が挙げられる。
【0027】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体等が挙げられる。
【0028】
これらの誘導体の環に置換される置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。なお、置換基は、1個又は2個以上を有することができる。
このような環に置換基を有する誘導体としては、例えば、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等が挙げられる。
【0029】
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体等を挙げることができる。
【0031】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。
【0032】
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウム等の金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒;チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒等を用いることができる。
【0033】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物や、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能な他の単量体との開環重合体の水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0034】
環状オレフィン重合体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
(基材層Xの物性)
基材層Xの厚みは、10〜300μmであることが好ましい。基材層Xの厚みが25μm以上であると、積層体が十分な機械的強度を有しやすい。基材層Xの厚みが250μm以下であると、積層体の柔軟性が損なわれにくい。基材層Xの厚みは、25〜250μmであることがより好ましい。
【0036】
基材層XのTgは、例えば100〜200℃でありうる。基材層XのTgが120℃以上であると、良好な耐熱性が得られやすい。基材層XのTgは、DSC法にて測定することができる。測定条件は、後述する実施例と同様である。
【0037】
1−2.アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Y
アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yは、アクリル系樹脂Aと、アクリル系モノマーBと、重合開始剤とを含むアクリル系樹脂組成物を硬化して得られる層である。つまり、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yは、アクリル系樹脂Aと、アクリル系モノマーBの硬化物とを含む。
【0038】
(アクリル系樹脂A)
アクリル系樹脂Aは、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選ばれるメタクリレート由来の構造単位と、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選ばれるアクリレート由来の構造単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0039】
中でも、アクリル系樹脂Aは、メタクリレート由来の構成単位と、アクリレート由来の構成単位とを含む共重合体であることが好ましく、メチルメタクリレート由来の構成単位と、ブチルアクリレート由来の構成単位とを含む共重合体であることがより好ましい。
【0040】
アクリル系樹脂Aの重量平均分子量Mwは、15000〜50000程度であることが好ましい。アクリル系樹脂Aの重量平均分子量Mwが15000以上であると、ポリマー分子の凝集力が高まるため密着性を付与しやすく、50000以下であると、アクリル系樹脂組成物の塗工性が損なわれにくいだけでなく、積層体に十分な柔軟性を付与しやすい。アクリル系樹脂Aの重量平均分子量Mwは、20000〜40000であることがより好ましい。アクリル系樹脂Aの重量平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりPMMA換算にて測定することができる。
【0041】
(アクリル系モノマーB)
アクリル系モノマーBは、分子内に1以上のアクリロイル基又はメタアクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。
【0042】
分子内に1つのアクリロイル基又はメタアクリロイル基を有する化合物としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。基材層Xの種類によっては、分子内に1つのアクリロイル基又はメタアクリロイル基を有する化合物による浸透・拡散効果を期待できる場合があり、その場合は、メチルメタクリレート、メチルアクリレートが特に好ましい。
【0043】
分子内に2〜6個のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物としては、メタクリル酸、アクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種と多官能アルコールとの縮合物を用いることができる。
【0044】
多官能アルコールとしては、2〜6官能のアルコールであることが好ましく、以下を挙げることができる。
2官能:エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール
3官能:グリセリン、トリメチロールプロパン
4官能:ジトリメチロールプロパン
6官能:ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール
【0045】
メタクリル酸、アクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種と多官能アルコールとの縮合物として、以下の化合物を例示することができる。
ヘキサメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
【0046】
また、分子骨格内にウレタン結合又はエーテル結合を有するアクリレート又はメタクリレートも適宜用いることもできる。
【0047】
これらの中でも、アクリル系モノマーBは、塗膜に対し架橋構造を付与する効果を期待されるものである点から、分子内に2〜6個のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物を含むことが好ましい。分子内に2〜6個のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物は、メタクリル酸、アクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種と多官能アルコールとの縮合物であることが好ましく、架橋構造を形成して基材層Xとの密着性をより強固なものとしうる点から、メタクリル酸、アクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種と3〜6官能のアルコールとの縮合物を含むことがより好ましい。
【0048】
アクリル系樹脂組成物における、アクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/B(アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yにおける、アクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの硬化物との含有比率)は、20〜90質量部/10〜80質量部であり、20〜90質量部/80〜10質量部であることが好ましく、30〜80質量部/70〜20質量部であることがより好ましく、40〜70質量部/60〜30質量部であることがさらに好ましい。アクリル系樹脂Aの含有比率が増えると、基材層Xに柔軟性・密着性を付与しやすく、アクリル系モノマーBの含有比率が増えると、架橋構造による皮膜強度向上効果が得られ、基材層Xへの拡散効果(又はアンカー効果)による密着性向上効果も期待できる。但し、アクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBとの合計を100質量部とする。
【0049】
アクリル系樹脂組成物が、アクリル系モノマーBとして、メタクリル酸及びアクリル酸からなる群より選ばれる一以上と多官能アルコールとの縮合物を含む場合、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yにおけるアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの硬化物の含有比率は、GC−MSによって多官能アルコール部位の含有割合を測定することによって確認することができる。
【0050】
(アクリル系樹脂組成物の硬化物の物性)
アクリル系樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、積層体に十分な柔軟性を付与する観点では、基材層Xに含まれる樹脂のTgよりも低いことが好ましい。具体的には、アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgは、40℃以上90℃以下であることが好ましく、50℃〜80℃であることがより好ましい。アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgが40℃以上であると、ブロッキング(べたつき)を生じにくく、90℃以下であると、柔軟性・屈曲性が損なわれにくい。
【0051】
アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgは、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yを基材層Xから剥離した後、DSC法にて測定することができる。測定条件は、後述する実施例の通りである。
【0052】
アクリル系樹脂組成物の硬化物のTgは、アクリル系樹脂組成物におけるアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bや、アクリル系樹脂AのTg、アクリル系モノマーBのTg等によって調整することができる。
【0053】
アクリル系樹脂AのTgは、例えばメタクリレート由来の構造単位とアクリレート由来の構造単位の含有比率により調整することができる。メチルメタクリレート由来の構造単位とブチルアクリレート由来の構造単位とを含む共重合体では、メチルメタクリレート由来の構造単位の含有比率を増やすことで、Tgを高くすることができる。
【0054】
アクリル系モノマーBのTgは、例えばアクリル系モノマーBの組成により調整することができる。アクリル系モノマーBの官能基数、即ち分子内に有するアクリロイル基又はメタクリロイル基の数が多いほどTgが高くなる。例えばアクリル系モノマーBとして、ヘキサメチレングリコールジアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含む系では、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの含有比率を増やすことで、Tgを高くすることができる。
【0055】
1−3.共通事項
本発明の積層体の屈曲性を高めるためには、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yの基材層Xに対する相対的な厚みが一定以上であることが好ましい。具体的には、基材層Xと、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yの厚みの比率(X/Y)は、10〜300μm/1〜20μmであることが好ましく、25〜250μm/2〜10μmであることがより好ましい。アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yの厚みとは、層Yが複数ある場合はそれらの合計厚みを意味する。
【0056】
アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yは、前述の通り、基材層Xの一方の面に設けられてもよいし、両方の面に設けられてもよい。積層体に十分な屈曲性を付与しやすい点では、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yは、基材層Xの両方の面に設けられることが好ましい。基材層Xの両方の面に設けられたアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yは、互いに同じ厚みであってもよいし、異なる厚みであってもよく、反り等を抑制する点では、同じ厚みであることが好ましい。
【0057】
2.積層体の製造方法
本発明の積層体は、基材層Xの少なくとも一方の面に、前述のアクリル系樹脂組成物を塗布して、アクリル系樹脂組成物の塗膜を形成する工程と、該塗膜を、活性線により硬化又は熱硬化させて、Tgが40℃以上90℃以下であるアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yを形成する工程とを経て得ることができる。
【0058】
アクリル系樹脂組成物は、前述のアクリル系樹脂Aと、前述のアクリル系モノマーBと、重合開始剤とを含む。
【0059】
重合開始剤は、光重合開始剤又は熱重合開始剤でありうる。光重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤であり、その例には、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物等が含まれる。
アルキルフェノン系化合物の例には、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(IRGACURE 651)等のベンジルジメチルケタール;2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン(IRGACURE 907)等のα−アミノアルキルフェノン;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(IRGACURE 184)等のα−ヒドロキシアルキルフェノン等が含まれる。アシルフォスフィンオキサイド系化合物の例には、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等が含まれる。チタノセン系化合物には、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等が含まれる。オキシムエステル化合物の例には、1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)](IRGACURE OXE 01)等が含まれる。
【0060】
熱重合開始剤は、熱ラジカル重合開始剤であり、その例には、有機過酸化物系化合物やアゾ化合物等が含まれる。有機過酸化物系化合物の例には、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド系化合物;1,1−ジ(t−ブチルオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール系化合物;t−ブチルパーオキシビバレート等のアルキルパーオキシエステル系化合物;ジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド系化合物;(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネイト等のパーオキシジカーボネイト系化合物;t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネイト等のパーオキシカーボネイト系化合物;ジ−t−ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド系化合物;t−アミルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド系化合物等が含まれる。アゾ化合物の具体例には、1,1’−アゾビス(2,4−シクロヘキサン)−1−カルボニトリル、2,2’−アゾビス[(2−イミダゾリン−2−エル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレイト等の水溶性アゾ化合物;1−[(シアノ−1−メチル)アゾ]ホルムアミド等の油溶性アゾ化合物;高分子アゾ化合物等が含まれる。
【0061】
重合開始剤の含有量は、アクリル系モノマーBの全質量に対して0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0062】
アクリル系樹脂組成物は、後述する塗布方式に応じて溶媒をさらに含んでいてもよい。アクリル系樹脂組成物を溶媒等でさらに希釈することで、粘度、固形分等を調整することができる。
【0063】
アクリル系樹脂組成物の塗布は、一般的に、公知の印刷方式、或いはコーティング方式にて行うことができる。印刷方式としては、例えばグラビア印刷やスクリーン印刷等があり、コーティング方式としては、グラビア、ダイコート、ロールコート等があり、所望の外観や膜厚に合わせて適宜選択することができる。
【0064】
アクリル系樹脂組成物の塗膜に照射する活性線としては、紫外線又は可視光を用いることができる。
【0065】
従来技術では基材層、特に環状オレフィン重合体からなる基材層は、アクリル系樹脂との密着性を向上するため環状オレフィン重合体の表層をコロナ放電やプラズマ処理で改質する必要があったが、本発明のアクリル樹脂組成物によれば、こうした表面処理を行わずとも積層体を得ることができる。
【0066】
3.用途
本発明の積層体は、例えば各種表示装置等に使用することが可能である。例えば、本発明の積層体は、液晶表示装置用のバックライト部材や偏光板の保護フィルムとして用いることができる。また、積層体上に金属酸化物等を形成することで有機EL表示装置用のバリアフィルムとしても使用することが可能であり、フレキシブル有機EL表示装置においてはそのバリア性と熱寸法安定性から素子基板又は透明基板として使用することが可能となる。本発明によれば、基材層にコロナ等の表面処理を行わなくとも積層体が得られるため、表面状態の経時変化が抑制できるとともに、静電気による異物等を低減することで光学用途により好適となる。
【実施例】
【0067】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0068】
1.積層体の材料
1)基材層X
エチレンとテトラシクロドデセンの共重合体(DSC法によるTg:150℃)からなる環状オレフィンフィルム、厚み50μm
【0069】
2)アクリル系樹脂組成物の材料
(アクリル系樹脂A)
アクリル系樹脂Aとして、下記構成成分1と2の共重合体を用いた。アクリル系樹脂Aの重量平均分子量は、各々20,000〜30,000の間であった。
構成成分1:メチルメタクリレート
構成成分2:ブチルアクリレート
(アクリル系モノマーB)
ヘキサメチレングリコールジアクリレート
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
(光重合開始剤)
BASF社製IRGACURE 184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン)
【0070】
2.積層体の作製・評価
(積層体1−1〜1−6の作製)
1)アクリル系樹脂組成物の調製
アクリル系樹脂組成物中のアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bを10/90で固定した上で、硬化物のTgが表1に示される値となるようにアクリル系樹脂Aの種類(構成成分1と2の共重合体の共重合比)とアクリル系モノマーBの組成(成分比率)の少なくとも一方を調整して、それぞれアクリル系樹脂組成物を得た。
【0071】
2)積層体の作製
上記調製したアクリル液樹脂組成物を、基材層Xである厚み50μmの環状オレフィンフィルム(エチレンとテトラシクロドデセンの共重合体フィルム)の両面に、硬化後の厚みが3μmとなるようにそれぞれ塗布した後、乾燥させた。これに、光量300mJで紫外線をさらに照射して硬化させて、アクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yを形成し、積層体1−1〜1−6を得た。
【0072】
(積層体2−1〜2−6の作製)
アクリル系樹脂組成物中のアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bを20/80で固定した上で、硬化物のTgが表1に示される値となるようにアクリル系樹脂Aの種類(構成成分1と2の共重合体の共重合比)とアクリル系モノマーBの組成(成分比率)の少なくとも一方を調整した以外は積層体1−1と同様にして積層体2−1〜2−6を得た。
【0073】
(積層体3−1〜3−6の作製)
アクリル系樹脂組成物中のアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bを50/50で固定した上で、硬化物のTgが表2に示される値となるようにアクリル系樹脂Aの種類(構成成分1と2の共重合体の共重合比)とアクリル系モノマーBの組成(成分比率)の少なくとも一方を調整した以外は積層体1−1と同様にして積層体3−1〜3−6を得た。
【0074】
(積層体4−1〜4−6の作製)
アクリル系樹脂組成物中のアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bを90/10で固定した上で、硬化物のTgが表2に示される値となるようにアクリル系樹脂Aの種類(構成成分1と2の共重合体の共重合比)とアクリル系モノマーBの組成(成分比率)の少なくとも一方を調整した以外は積層体1−1と同様にして積層体4−1〜4−6を得た。
【0075】
(積層体5−1〜5−6の作製)
アクリル系樹脂組成物中のアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bを95/5で固定した上で、硬化物のTgが表3に示される値となるようにアクリル系樹脂Aの種類(構成成分1と2の共重合体の共重合比)とアクリル系モノマーBの組成(成分比率)の少なくとも一方を調整した以外は積層体1−1と同様にして積層体5−1〜5−6を得た。
【0076】
各積層体の作製に用いたアクリル系樹脂組成物の硬化物のTg、及び得られた積層体の屈曲性、密着性、及びブロッキングを、それぞれ以下の方法で評価した。
【0077】
<硬化物のTg>
各積層体の作製に用いたアクリル系樹脂組成物を、ポリプロピレンシート上に塗工後、前述と同様の条件で光硬化させて、アクリル系樹脂組成物の硬化膜を形成した。得られた硬化膜をポリプロピレンシートから剥離し、そのTgをDSC法により、装置島津製作所製DSC60Aを用いて昇温速度20℃/分にて測定した。
【0078】
<屈曲性>
アクリル系樹脂組成物を塗布する前の基材(未塗工基材)と得られた積層体のそれぞれについて、破断するまでの折り曲げ回数を、MIT試験機を用いてJIS P 8115に準じて測定した。測定は、以下の条件で実施した。
(試験条件)
荷重:0.5kgf
折り曲げ角度:270°
折り曲げ速度:127回/分
そして、目視判断により、以下の基準で評価を行った。
○:未塗工基材以上の折り曲げ回数で耐える
×:未塗工基材以下の折り曲げ回数にてクラック発生
【0079】
<密着性>
得られた積層体の基材層Xとアクリル系樹脂組成物の硬化物からなる層Yとの間の密着性を、JIS K5600−5−6に準じて碁盤目試験により評価した。碁盤目の数は全部で25マスとし、剥離後に残った目の数をカウントし、以下の基準で評価した。
○:剥離なし
×:1か所以上で剥離あり
【0080】
<ブロッキング>
得られた積層体の表面のタック(べたつき)の有無を、手触りで判断した。
○:タック(べたつき)なし
×:タック(べたつき)あり
【0081】
積層体1−1〜1−6及び2−1〜2−6の評価結果を表1に示し、積層体3−1〜3−6及び4−1〜4−6の評価結果を表2に示し、積層体5−1〜5−6の評価結果を表3に示す。表中の「−」は、未測定であることを示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表1〜3に示されるように、アクリル系樹脂組成物におけるアクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bが20/80〜90/10の範囲内であり、且つ硬化物のTgが40〜90℃の範囲内である実施例の積層体(積層体2−2〜2−5、3−2〜3−5、4−2〜4−5)は、いずれも基材層Xとの密着性と屈曲性がいずれも高いことがわかる。
【0086】
一方、硬化物のTgが上記範囲内であっても、アクリル系樹脂Aとアクリル系モノマーBの含有比率A/Bが上記範囲外である積層体1−1〜1−6及び5−1〜5−6は、いずれも基材層Xとの密着性と屈曲性が低いことがわかる。具体的には、積層体1−1〜1−6は、アクリル系モノマーBの含有比率が多すぎることから、硬化物からなる層Yが硬く、十分な密着性や柔軟性が得られなかったと考えられる。積層体5−1〜5−6は、アクリル系モノマーBの含有比率が少なすぎることから、屈曲性、密着性が得られなかったと考えられる。また、含有比率A/Bが上記範囲内であっても、硬化物のTgが90℃を超える積層体2−6、3−6及び4−6は、いずれも柔軟性が低く、屈曲性・密着性が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、ブロッキングを生じることなく、環状オレフィン重合体、ポリカーボネート又はポリエステル等の基材層上にコロナ処理等の表面処理を施さなくても、コーティング層を密着性良く積層でき、良好な屈曲性を有する積層体及びその製造方法を提供することができる。