特許第6754255号(P6754255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754255
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】樹脂成形品の切削加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/00 20060101AFI20200831BHJP
【FI】
   B23C3/00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-182176(P2016-182176)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-43337(P2018-43337A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木邑 達男
(72)【発明者】
【氏名】阿部 弘憲
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−136556(JP,A)
【文献】 特開2009−131913(JP,A)
【文献】 特開2001−088000(JP,A)
【文献】 特開平7−246544(JP,A)
【文献】 特開平07−108435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/00
B23Q 11/00
B23Q 17/00
B23Q 17/09
B29C 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドミルを用いて樹脂成形品のワークの表面を切削加工する樹脂成形品の切削加工方法において、
上記エンドミルを用いて上記ワークの表面を荒加工する荒加工工程と、
上記荒加工工程の後、上記エンドミルを用いて複数ピッチ上記ワークの表面を切削加工する試し加工工程と、
上記試し加工工程において、上記ワークの表面を加工したときに該ワークの表面に付着した溶解物の位置、長さ及び該溶解物の間隔を観察する観察工程と、
上記観察工程で得られたデータを元に、上記エンドミルで所定量切削した後、上記溶解物の真上に戻って溶解物の上から切削を行った後、元の切削ルートに戻る溶解物回収工程と、
上記溶解物回収工程を繰り返して上記ワークの表面から溶解物を回収しながら切削する仕上げ工程とを含む
ことを特徴とする樹脂成形品の切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミルを用いた樹脂成形品の切削加工方法に関し、特に加工中に発生する溶解物の付着防止に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂成形品は金型を用いて成形されることが多い。樹脂成形品の設計段階では、樹脂成形品を試作して形状を確かめる必要がある。この試作段階で金型を使用すると、金型の完成まで長時間待たなければならない。また、形状変更するためには、金型を削ったり、場合によっては作り直したり必要があり、時間もコストもかかる。
【0003】
そこで、樹脂成形品を直接削って試作品を形成したいというニーズがある。
【0004】
一方、特許文献1に示すような小径のエンドミルが知られている。このような小径のエンドミルを用いれば、光学部品のレンズの表面などでも精度よく切削加工できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-185736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のようなエンドミルを用いて樹脂成形品の表面を削ると、樹脂の融点が200度程度で低いため、その際に発生する熱等の影響で、溶解してしまう。この溶解物が工具に付着した後、工具の回転により、図3に示すように、隣接する加工面に再付着し、加工形状、粗さにおいて希望の精度が得られない、という問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶解物の表面への付着をできるだけ抑制しながら樹脂成形品の表面を切削することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、溶解物の付着パターンを調べ、溶解物を回収しながら切削を進めるようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、
エンドミルを用いて樹脂成形品のワークの表面を切削加工する樹脂成形品の切削加工方法を前提とし、
上記樹脂成形品の切削加工方法は、
上記エンドミルを用いて上記ワークの表面を荒加工する荒加工工程と、
上記荒加工工程の後、上記エンドミルを用いて複数ピッチ上記ワークの表面を切削加工する試し加工工程と、
上記試し加工工程において、上記ワークの表面を加工したときに該ワークの表面に付着した溶解物の位置、長さ及び該溶解物の間隔を観察する観察工程と、
上記観察工程で得られたデータを元に、上記エンドミルで所定量切削した後、上記溶解物の真上に戻って溶解物の上から切削を行った後、元の切削ルートに戻る溶解物回収工程と、
上記溶解物回収工程を繰り返して上記ワークの表面から溶解物を回収しながら切削する仕上げ工程とを含む。
【0010】
すなわち、樹脂成形品を切削中に溶解してエンドミルにすくわれた溶解物は、その粘着性によってエンドミルの内部に所定量溜まり、その後、遠心力により外に出る。この動作を繰り返すため、ワークの表面には、規則的に溶解物が付着することがわかった。荒加工工程では、ワーク表面を何度も掘り下げていくので、多少の溶解物はそのままとしておく。そして、仕上げ工程に移る際に、最初に試し加工を行って、溶解物の付着パターンを観察し、その観察結果を基に、溶解物の位置に戻って溶解物を回収しながら切削を進めることで、ワーク表面への溶解物の付着を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、エンドミルで所定量切削した後、溶解物の真上に戻って溶解物の上から切削を行った後、元の切削ルートに戻る溶解物回収工程を繰り返してワークの表面から溶解物を回収しながら切削するようにしたことにより、溶解物の表面への付着をできるだけ抑制しながら樹脂成形品の表面を切削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】樹脂成形品の切削加工方法に係る仕上げ工程において切削ルートに沿ってワークを切削中の様子を示す拡大平面図である。
図1B】仕上げ工程においてエンドミルを切削ルートに沿って戻す様子を示す拡大平面図である。
図1C】仕上げ工程においてエンドミルを溶解物の真上に移動させる様子を示す拡大平面図である。
図1D】仕上げ工程においてエンドミルを溶解物の上から押さえ付けて溶解物を溶かす様子を示す拡大平面図である。
図1E】仕上げ工程においてエンドミルによって溶解物を回収する様子を示す拡大平面図である。
図1F】仕上げ工程においてエンドミルを元の切削ルート上に戻す様子を示す拡大平面図である。
図1G】仕上げ工程においてエンドミルを切削ルートに沿って移動させて元の位置に戻す様子を示す拡大平面図である。
図2】エンドミルでワークを切削する様子を示す概略図である。
図3】溶解物を回収せずに仕上げ工程を行った場合のワーク表面を拡大して示す平面図である。
図4】観察工程で観察された溶解物の様子を拡大して示す平面図である。
図5】本発明の実施形態に係る樹脂成形品の切削加工方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図5は本発明の実施形態に係る樹脂成形品の切削加工方法の概略を示すフローチャートである。
【0015】
本実施形態の樹脂成形品の切削加工方法は、エンドミル1を用いて樹脂成形品のワークWの表面を切削加工する方法であり、まず、ステップS01の荒加工工程において、例えば、外径2mmのエンドミル1を用いてワークWの表面を荒加工する。具体的には、図2に示すように、小径のエンドミル1を用いて例えば、1分あたり2万回転で94mmずつ切削加工を進めていき、切削ピッチP=0.04mmで幅方向に移動し、ワークW全体を切削する。このときの切削深さは特に限定されない。この荒加工工程は、ワークW全体を何回か同じルートで徐々に深く掘り下げるように進めていってもよい。この荒加工においては、エンドミル1の隙間に溜まった溶解物が付着するが、この工程においては、溶解物の対応は行わず、そのままとしてよい。
【0016】
次いで、ステップS02の試し加工工程において、エンドミル1を用いて例えば2ピッチ分、ピッチワークWの表面を切削加工する。このときの切削深さは荒加工工程におけるものよりも浅いものとし、例えば2μmとする。この工程において、図3に示すように、ワークWの表面に溶解物が付着する。このとき、溶解物の部分の粗さRaは、0.4μm以上である。
【0017】
次いで、ステップS03の観察工程において、試し加工工程でワークWの表面を加工したときにワークWの表面に付着した溶解物の長さA、間隔B及び位置Cを観察する。すなわち、樹脂成形品を切削中に溶解してエンドミル1にすくわれた溶解物は、その粘着性によってエンドミル1の内部に所定量溜まり、その後、遠心力により外に出る。この動作を繰り返すため、ワークの表面には、図4に示すように、規則的に溶解物が付着する。このことから、溶解物の位置C、長さA及び溶解物の間隔Bのデータが得られる。
【0018】
次いで、ステップS04において、仕上げ工程が開始される。
【0019】
そして、ステップS05の溶解物回収工程において、観察工程で得られたデータを元に、エンドミル1で例えば、溶解物の長さAが0.03、間隔Bが0.04で、位置が0.04だった場合、図1Aに示すように、最初に0.07mm仕上げ加工と同様に切削する。
【0020】
次いで、図1Bに示すように、溶解物の長さAに余裕値α=0.05mmを足した0.035戻る。
【0021】
次いで、図1Cに示すように、例えば0.04mm戻って溶解物の真上に移動する。
【0022】
次いで、図1Dに示すように、溶解物の長さAに余裕値α=0.005mmを足した0.035mm進んで溶解物を溶かす。
【0023】
次いで、図1Eに示すように、溶解物の上を通りながら、溶解物をエンドミル1に回収する。
【0024】
次いで、図1Fに示すように、位置Cだけ戻る。回収した溶解物は、大部分がエアに吹き飛ばされるが図1Fの左側へ付着することもある。しかし、それは次の切削のときに回収され得る。
【0025】
次いで、ステップS06に示すように、全ての切削ルートについて終了するまで溶解物回収工程を繰り返す。繰り返す場合には、図1Gに示すように、A+B=0.07mm切削する。
【0026】
ステップS06で全ての切削ルートについて切削を行った場合には終了する。
【0027】
このように、仕上げ工程に移る際に、最初に試し加工を行って、溶解物の付着パターンを観察し、その観察結果を基に、溶解物の位置に戻って溶解物を回収しながら切削を進めることで、ワークW表面への溶解物の付着を抑制することができる。すなわち、Raが0.4μm以上あったものが、Ra=0.08μm程度に大幅に改善された。
【0028】
したがって、本実施形態に係る樹脂成形品の切削加工方法によると、エンドミル1で所定量切削した後、溶解物の真上に戻って溶解物の上から切削を行った後、元の切削ルートに戻る溶解物回収工程を繰り返してワークWの表面から溶解物を回収しながら切削するようにしたことにより、溶解物の表面への付着をできるだけ抑制しながら樹脂成形品の表面を切削することができる。
【0029】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0030】
すなわち、上記実施形態では、図2に示すように、ワークWに対して平行な直線状の切削ルートを所定ピッチPあけて切削するようにしたが、この切削ルートは、例えば斜めに進むものでもよい。斜めの場合でも、斜めに溶解物が配列されるので、それに合わせて戻るルートを設定すればよい。
【0031】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0032】
1 エンドミル
W ワーク
P 切削ピッチ
A 溶解物の長さ
B 溶解物の間隔
C 溶解物の位置
α 余裕値
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3
図4
図5